説明

地下空間施設及びその構築方法

【課題】収容物の荷重とは関係なく、大規模な地中空間に無柱の空間を創り出し、それによって収容率を向上させせるとともに、無柱空間ゆえ、さまざまな用途に用いることが可能な地下空間施設を提供する。
【解決手段】本発明に係る地下空間施設1を構成する環状トラス架構4は、外周リング材7と、該外周リング材と同心状になるように配置された内周リング材8と、一端を外周リング材7に他端を内周リング材8にそれぞれピン接合した連結材9とから構成してある。ここで、環状トラス架構4は、外周リング材7を掘削孔3の内面に連結するとともに、かかる状態で内周リング材8の水平構面が外周リング材7の水平構面よりもΔHだけ高くなるように構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や自転車といった収容物を格納することをはじめとした様々な用途に用いられる地下空間施設及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下空間の有効利用が取り沙汰されるようになって以来、駐車場や駐輪場を地下に設置する技術開発が数多く行われてきたが、都心部においては、そのニーズはますます高まっている。
【0003】
具体的には、エレベータやリフトといった昇降設備を中央に設置し、それを取り囲むようにして放射状の駐車場や駐輪場の設置区画を多層状に設けた円筒型施設の提案が数多く見られる。
【0004】
【特許文献1】特開平7−82927
【特許文献2】特開平9−328923
【特許文献3】特開平10−115121
【特許文献4】特開2000−230340
【特許文献5】特開平11−131849
【特許文献6】特開2001−248322
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、かかる従来技術においては、荷重支持構造と空間利用性という観点で改善の余地があった。
【0006】
すなわち、従来技術では、各階(各層)の自動車の荷重を下階の柱で順次受けるというごく普通の荷重支持構造になっているため、地中空間は、柱だらけになって空間を有効利用するにも限度があり、結果として収容効率が低下するという問題を生じていた。
【0007】
また、地中空間に柱が林立しているため、用途としてはせいぜい駐輪場や駐車場あるいは倉庫程度に限られてしまうという問題も生じていた。
【0008】
一方、駐輪場のように収容物の載荷荷重が小さい場合には、従来技術が開示しているように収容物を格納するための部材を円筒状の壁の内壁から片持ち状に突設すれば足りるであろうが、これでは自動車のような相対的に重い収容物を収容することは困難であるだけではなく、エレベータやリフトからの距離の関係上、地中空間の内径を小さくせざるを得ず、結果として、施設の規模を大規模にして収容効率を向上させることも難しいという別の問題を生じる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、収容物の荷重とは関係なく、大規模な地中空間に無柱の空間を創り出し、それによって収容率を向上させせるとともに、無柱空間ゆえ、さまざまな用途に用いることが可能な地下空間施設及びその構築方法を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る地下空間施設は請求項1に記載したように、外周リング材と、該外周リング材と同心状になるように配置された内周リング材と、一端を前記外周リング材に他端を前記内周リング材にそれぞれピン接合した連結材とから環状トラス架構を構成し、該環状トラス架構を地盤の掘削孔内に水平に複数段設置するとともに、該環状トラス架構の中央に形成されている中空空間に昇降設備を貫通設置してなり、前記外周リング材を前記掘削孔の内面に連結するとともに、かかる状態で前記内周リング材の水平構面が前記外周リング材の水平構面よりも所定高さだけ高くなるように前記環状トラス架構を構成したものである。
【0011】
また、本発明に係る地下空間施設は、前記環状トラス架構の中央に形成されている中空空間に円筒状壁体を配置して該円筒状壁体の内部に前記昇降設備を設置するとともに、該昇降設備の出入り開口を前記円筒状壁体に形成し、前記環状トラス架構の上に床材を水平に敷設したものである。
【0012】
また、本発明に係る地下空間施設は、複数段設置された前記環状トラス架構のうち、上下に対向する一対の環状トラス架構を相互に連結したものである。
【0013】
また、本発明に係る地下空間施設の構築方法は請求項4に記載したように、地盤内に杭を構築し、該杭と干渉しないように環状の土留め壁を前記地盤内に構築し、該土留め壁で囲まれた内側の地盤を掘り下げることで該土留め壁の内部空間として掘削孔を形成するとともに該掘削孔内に環状トラス架構を水平に複数段設置し、該環状トラス架構の中央に形成される中空空間に昇降設備を貫通設置し、前記杭の頭部に連結する形で上部構造物を構築する地下空間施設の構築方法であって、前記環状トラス架構を、外周リング材と、該外周リング材と同心状になるように配置された内周リング材と、一端を前記外周リング材に他端を前記内周リング材にそれぞれピン接合した連結材とから構成するとともに前記外周リング材を前記掘削孔の内面に連結し、かかる状態で前記内周リング材の水平構面が前記外周リング材の水平構面よりも所定高さだけ高くなるように構成したものである。
【0014】
また、本発明に係る地下空間施設の構築方法は、前記杭と前記環状トラス架構とを鉛直方向の相対移動が許容されるように相互に連結するものである。
【0015】
本発明に係る地下空間施設においては、外周リング材を掘削孔の内面に連結するとともに、かかる状態で内周リング材の水平構面が外周リング材の水平構面よりも所定高さだけ高くなるように環状トラス架構を構成してある。
【0016】
すなわち、連結材は、概ね放射状に配置されるとともに内周リング材から外周リング材へ向けて概ね放射状となるように下り勾配でピン接合されることになる。
【0017】
このようにすると、内周リング材に鉛直荷重が作用したとき、内周リング材は、鉛直下方に下がろうとする変形が生じ、それに伴って、連結材は下り勾配の傾斜状態からより水平に近い傾斜になるように回転しようとする変形が生じる。
【0018】
この結果、内周リング材は径が縮む方向の変形となるために圧縮力が生じ、連結材も軸方向の長さが縮む方向の変形となるために圧縮力が生じる。
【0019】
そのため、内周リング材に作用する鉛直荷重は、放射状に押し出す方向の水平成分と鉛直成分とをもって外周リング材に伝達する。
【0020】
外周リング材に伝達された鉛直成分については、該外周リング材が掘削孔の内面に連結されているため、該掘削孔の内側に沿って形成されている土留め壁に伝達支持される。
【0021】
一方、外周リング材に伝達された水平成分については、土留め壁及び地盤の剛性と外周リング材の剛性との相対的な大きさの相違によって伝達性状が異なり、土留め壁及び地盤の剛性が小さい場合には、外周リング材に引張力が生じ、場合によっては土留め壁に水平成分が作用せず、外周リング材の引張力で水平成分が釣り合う。この場合、土留め壁と環状トラス架構とは、鉛直方向に関してのみ荷重伝達が行われ、水平方向に関しては互いに独立した構造となる。
【0022】
逆に、土留め壁及び地盤の剛性が大きい場合には、外周リング材に圧縮力が生じ、土留め壁及びその背面に拡がる地盤にさらに伝達される。この場合、地盤、土留め壁及び環状トラス架構は、一体化されることとなる。
【0023】
そして、かかる一体化により、環状トラス架構から見れば、その載荷荷重を土留め壁の背面土圧及び土留め壁の剛性で支持させることで、環状トラス架構の部材断面を小さくすることができるとともに、土留め壁から見れば、背面土圧を環状トラス架構の剛性とその上の載荷荷重で支持させることで、土留め壁の断面厚を小さくすることができるため、環状トラス架構及び土留め壁の規模を軽減し、ひいては工期や構築コストを低減することが可能となる。
【0024】
なお、環状に形成されている土留め壁は、掘削孔の規模によって後述するように鋼矢板からRC地中壁とさざまなであるが、どのような土留め壁であっても背面土圧を曲げ剛性で抵抗するか、圧縮剛性で抵抗するかのいずれかであるため、放射状の水平成分の力は、土留め壁に生じている曲げモーメントや圧縮力と相殺されつつ、背面土圧を反力として安定支持されることとなる。
【0025】
いずれにしても、環状トラス架構の載荷荷重を支持する柱が不要になり、掘削孔内の地中空間を有効利用することが可能となる。なお、環状トラス架構のうち、外周リング材にも鉛直荷重が作用するが、かかる鉛直荷重は土留め壁で支持すればよいため、柱が不要であることに違いはない。
【0026】
外周リング材及び内周リング材は、掘削孔が例えば真円であれば、掘削孔の曲率に合わせて例えば120゜づつ分割して湾曲加工し、これらを現地に搬入した後、リング状に接合形成することが考えられるが、真直なトラス部材を多角形状に組み合わせて構成してもかまわない。
【0027】
外周リング材及び内周リング材をどのような部材で構成するかは任意であり、例えばH型鋼等の鋼材で構成することができるが、内周リング材については、特に圧縮抵抗力が強い部材、例えば閉断面の円形又は角形鋼管・パイプ、鋼管内部にコンクリートが充填されたCFTなどで構成するのが望ましい。
【0028】
連結材についても内周リング材と同様に構成すればよい。
【0029】
外周リング材及び内周リング材はできるだけ真円が望ましいが、環状トラス架構に作用する鉛直荷重を上述した力の流れで実質的に支持できる限り、必ずしも真円である必要はなく、真円に近い楕円でもかまわない。
【0030】
外周リング材がなす水平構面から内周リング材がなす水平構面までの高さについても、環状トラス架構に作用する鉛直荷重を上述した力の流れで実質的に支持できる限り、どのような高さに設定するかは任意であり、掘削孔の径、想定される設計上の載荷荷重、連結材などを考慮して適宜定めればよい。
【0031】
環状トラス架構の設置段数が任意であることは言うまでもないが、設置段数が多くなればなるほど、地盤の掘削深度が深くなるため、その掘削深度に見合う土留め壁を採用する。例えば、鋼矢板、鋼管矢板、ソイルセメントからなる柱状連続壁、RC地中壁、セグメントなどから適宜選択すればよい。
【0032】
昇降設備は、エレベータやリフトなど、用途に応じて選択する。なお、昇降設備を設置する方法や設置構成については、既に多くの方法が公知になっているので、ここではその具体的な説明を省略する。
【0033】
外周リング材を掘削孔の内面に固定する方法としては公知の手段から適宜採用することが可能であり、例えばRC地中壁に予め金物を埋め込んでおき、該金物に溶接固定する方法や、鋼矢板あるいは鋼管矢板に溶接固定する方法などが考えられる。
【0034】
なお、外周リング材の側面と掘削孔の内面とが全周にわたって当接している必要はなく、例えば掘削孔が矩形状であっても、外周リング材を矩形状をなす掘削孔の4点で内接するようにしてもかまわない。また、背面土圧を土留め壁が支持しなければならないため、大規模(大深度)になれば、RC地中壁による円筒状の土留め壁で掘削孔の内面を形成する必要性が高くなり、その場合にはおのずと、外周リング材の外径と掘削孔の内径とはほぼ等しくなるが、かかる場合においても、荷重を伝達する当接点(連結点)を全周にわたって連続的に設けるか、例えば10゜ごとに離散的に設けるかは任意である。
【0035】
このような地下空間施設は、駐車場や駐輪場あるいは倉庫はもとより、無柱空間となって空間が拡がるため、植物工場やレンタルルームなど、さまざまな用途に利用することができる。
【0036】
ここで、前記環状トラス架構の中央に形成されている中空空間に円筒状壁体を配置して該円筒状壁体の内部に前記昇降設備を設置するとともに、該昇降設備の出入り開口を前記円筒状壁体に形成し、前記環状トラス架構の上に床材を水平に敷設したならば、本発明に係る地下空間施設に人が出入り可能でかつ該地下空間施設で所定の作業を行うことが可能となり、例えば研究施設、特に温度や湿度の変動に影響されないのが望ましい研究施設として利用することができる。
【0037】
また、環状トラス架構と円筒状壁体とを一体化させるようにすれば、構造安定性を高めることも可能となる。
【0038】
なお、上述した床材は、傾斜している連結材の上に水平に敷き込む必要があるが、かかる床材は、環状トラス架構の水平剛性を向上させるのにも寄与する。
【0039】
また、複数段設置された前記環状トラス架構のうち、上下に対向する一対の環状トラス架構を相互に連結したならば、環状トラス架構の剛性をより立体的な形で高めることが可能となる。
【0040】
上下に対向する一対の環状トラス架構をどの位置の環状トラス架構とするかは任意であるが、例えば掘削孔の底部に形成される底版近傍位置とすれば、底版周囲の剛性が高くなるため、底版をそれほど厚くせずとも地下水圧に抵抗することができる。また、土質性状の関係上、土圧が高い土層や液状化しやすい土層(飽和砂質地盤)の深さ位置とすれば、十分な剛性でこれらに対抗することができる。その他上載圧が大きい位置とすれば、十分な剛性で大きな載荷荷重を支持することができる。
【0041】
本発明に係る地下空間施設の構築方法においては、まず、地盤内に杭を構築し、次いで、該杭と干渉しないように環状の土留め壁を地盤内に構築する。
【0042】
土留め壁は、掘削深度や土質性状に応じて例えば、鋼矢板、鋼管矢板、ソイルセメントからなる柱状連続壁、RC地中壁などから適宜選択すればよい。
【0043】
次に、土留め壁で囲まれた内側の地盤を掘り下げることで該土留め壁の内部空間として掘削孔を形成するとともに該掘削孔内に環状トラス架構を水平に複数段設置する。
【0044】
この場合、土留め壁の内部空間を掘り下げながら、環状トラス架構を順次下方に向けて構築していってもかまわないし、掘削が完了してから環状トラス架構を上方に向けて構築するようにしてもかまわない。前者の施工方法は、環状トラス架構に切梁と同様の機能を持たせたい場合に適する施工方法であり、後者の施工方法は、土圧を土留め壁だけで支持することで構造的に独立したものとする場合に適する施工方法である。
【0045】
次に、環状トラス架構の中央に形成される中空空間に昇降設備を貫通設置し、最後に、杭の頭部に連結する形で上部構造物を構築する。
【0046】
環状トラス架構の構成については既に述べたので、ここではその説明を省略する。
【0047】
このような本発明に係る地下空間施設の構築方法によれば、上部構造物の地下部分に本発明に係る地下空間施設を構築することが可能となり、上部構造物がオフィスビルやマンションであれば、地下空間施設を例えば駐車場に使用することができるし、上部構造物が研究所ビルであれば、地下空間施設を保管庫や研究施設あるいは植物工場に使用することができる。
【0048】
なお、光ファイバーを用いて自然光を地下空間施設に送り込むことができることは言うまでもない。
【0049】
ここで、前記杭と前記環状トラス架構とを鉛直方向の相対移動が許容されるように相互に連結するようにすれば、杭の座屈を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明に係る地下空間施設及びその構築方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0051】
(第1実施形態)
【0052】
図1は、本実施形態に係る地下空間施設を示した図である。同図でわかるように本実施形態に係る地下空間施設1は、地盤2の掘削孔3内に環状トラス架構4を水平に複数段設置するとともに、該環状トラス架構の中央に形成されている中空空間5に昇降設備6を貫通設置してなる。
【0053】
環状トラス架構4は図2に詳細に示すように、外周リング材7と、該外周リング材と同心状になるように配置された内周リング材8と、一端を外周リング材7に他端を内周リング材8にそれぞれピン接合した連結材9とから構成してある。
【0054】
ここで、環状トラス架構4は同図(b)でよくわかるように、外周リング材7を掘削孔3の内面に連結するとともに、かかる状態で内周リング材8の水平構面が外周リング材7の水平構面よりもΔHだけ高くなるように構成してある。
【0055】
外周リング材7及び内周リング材8は、掘削孔3が真円であれば、例えばH型鋼を掘削孔3の曲率に合わせて120゜づつ湾曲加工し、これらを現地に搬入した後、リング状に溶接接合すればよい。
【0056】
連結材9についてもH型鋼を用いて構成すればよいが、上述したように連結材9は、その両端を外周リング材7及び内周リング材8にそれぞれボルト等でピン接合する。
【0057】
昇降設備6は、例えばエレベータで構成することができるが、該昇降設備を設置する方法や設置構成については、用途に応じて公知技術から適宜選択すればよい。
【0058】
掘削孔3は、円筒状をなす土留め壁としてのRC地中壁10とその下端に設けられた底版11とからなる土圧支持躯体の内部空間であり、外周リング材7は、掘削孔3を取り囲む土留め壁10の内面に固定してある。
【0059】
外周リング材7の側面を掘削孔3の内面としてのRC地中壁10の内面に固定するにあたっては、RC地中壁10の埋込み金物(図示せず)を利用し、該埋込み金物に溶接するようにすればよい。
【0060】
本実施形態に係る地下空間施設1においては、外周リング材7を掘削孔3の内面(RC地中壁10の内面)に連結するとともに、かかる状態で内周リング材8の水平構面が外周リング材7の水平構面よりもΔHだけ高くなるように環状トラス架構4を構成してある。
【0061】
すなわち、連結材9は、概ね放射状に配置されるとともに内周リング材8から外周リング材7へ向けて概ね放射状となるように下り勾配でそれぞれピン接合されることになる。
【0062】
このようにすると、内周リング材8に鉛直荷重が作用したとき、図3でよくわかるように、内周リング材8は、鉛直下方に下がろうとする変形が生じ、それに伴って、連結材9は、下り勾配の傾斜状態から、より水平に近い傾斜になるように回転しようとする変形が生じる。
【0063】
この結果、内周リング材8は、径DがΔDだけ縮む方向の変形となるために圧縮力が生じ、連結材9も軸方向の長さが縮む方向の変形となるために圧縮力が生じる。
【0064】
そのため、内周リング材8に作用する鉛直荷重は、放射状に押し出す方向の水平成分と鉛直成分とをもって外周リング材7に伝達される。
【0065】
外周リング材7に伝達された鉛直成分については、該外周リング材がRC地中壁10の内面に連結されているため、該RC地中壁に伝達支持される。
【0066】
一方、外周リング材7に伝達された水平成分については、RC地中壁10及び地盤2の剛性と外周リング材7の剛性との相対的な大きさの相違によって伝達性状が異なる。
【0067】
ここでは、RC地中壁10及び地盤2の剛性が大きいとする。この場合、外周リング材7に圧縮力が生じ、RC地中壁10及びその背面に拡がる地盤2にさらに伝達される。
【0068】
そして、放射状の水平成分の力は、RC地中壁10に生じている圧縮力と相殺されつつ、背面土圧を反力として安定支持されることとなる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態に係る地下空間施設1によれば、外周リング材7をRC地中壁10の内面に連結するとともに、かかる状態で内周リング材8の水平構面が外周リング材7の水平構面よりもΔHだけ高くなるように環状トラス架構4を構成したので、環状トラス架構4の載荷荷重を支持する柱が不要になり、掘削孔3内の地中空間を有効利用することが可能となる。
【0070】
そして、このような地下空間施設1は、駐車場や駐輪場あるいは倉庫はもとより、無柱空間となって空間が拡がるため、植物工場やレンタルルームなど、さまざまな用途に利用することができる。
【0071】
本実施形態では特に言及しなかったが、連結材9の下り勾配、言い換えれば外周リング材7や内周リング材8の径に対するΔHは、発明理解の便宜上、各図面で誇張して描かれているが、現実の下り勾配は、もっと小さいことを念のため付言しておく。
【0072】
また、本実施形態では、地下空間施設1の用途の具体例を述べなかったが、例えば図4に示すように駐車場として利用することができる。
【0073】
かかる変形例においては、昇降設備6は、パレット41の上に載った自動車42を昇降させるものであり、この自動車42をパレット41に載せたまま、環状トラス架構4に送り込めばよい。
【0074】
なお、パレット41を回転させる回転機構や、その搬出入機構については公知の手段から適宜選択すればよい。
【0075】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、図5に示すように、環状トラス架構4の中央に形成されている中空空間5に円筒状壁体52を配置して該円筒状壁体の内部に昇降設備であるエレベータ6を設置するとともに、該エレベータの出入り開口53を円筒状壁体52に形成し、環状トラス架構4の上に床材51を水平に敷設してもよい。
【0076】
エレベータ6の出入り開口53には、室内側の開閉扉54を設けてあるとともに、床材51の水平を確保するため、外周リング材7の上にスペーサを介在させてある。
【0077】
かかる構成によれば、地下空間施設に人が出入り可能でかつ該地下空間施設で所定の作業を行うことが可能となり、例えば研究施設、特に温度や湿度の変動に影響されないのが望ましい研究施設として利用することができる。
【0078】
また、床材51は、傾斜している連結材9の上に水平に敷き込む必要があるが、かかる床材51は、環状トラス架構4の水平剛性を向上させるのにも寄与する。
【0079】
また、本実施形態では、複数段設置された環状トラス架構4を上下で連結せず、それゆえ無柱空間となり得る構成としたが、部分的に上下に対向する一対の環状トラス架構を相互に連結するようにしてもよい。
【0080】
図6は、かかる変形例を示した図である。
【0081】
同図でわかるように、かかる変形例では、複数段設置された環状トラス架構のうち、上下に対向する一対の環状トラス架構4,4を鉛直ブレース架構9で相互に連結してある。鉛直ブレース架構9は、連結材9を利用する形で該連結材の間に挟み込むように設けてある。
【0082】
かかる構成によれば、環状トラス架構4の剛性をより立体的な形で高めることが可能となり、例えば掘削孔3の底部に形成される底版11の近傍位置とすれば、底版11周囲の剛性が高くなるため、底版11をそれほど厚くせずとも地下水圧に抵抗することができる。また、土質性状の関係上、土圧が高い土層や液状化しやすい土層(飽和砂質地盤)の深さ位置とすれば、十分な剛性でこれらに対抗することができる。その他上載圧が大きい位置とすれば、十分な剛性で大きな載荷荷重を支持することができる。
【0083】
(第2実施形態)
【0084】
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0085】
図7は、本実施形態に係る地下空間施設の構築方法を用いて構築された地下空間施設1を示した図である。同図に示す地下空間施設1を構築するには、図7に示すように、まず、地盤2内に杭71を構築し、次いで、該杭と干渉しないように環状の土留め壁としてのRC地中壁10を地盤2内に構築する。
【0086】
次に、RC地中壁10で囲まれた内側の地盤を掘り下げることで該RC地中壁の内部空間として掘削孔3を形成するとともに、該掘削孔内に環状トラス架構4を水平に複数段設置する。
【0087】
この場合、RC地中壁10の内部空間を掘り下げながら、環状トラス架構4を順次下方に向けて構築していってもかまわないし、掘削が完了してから環状トラス架構を上方に向けて構築するようにしてもかまわない。前者の施工方法は、環状トラス架構4に切梁と同様の機能を持たせたい場合に適する施工方法であり、後者の施工方法は、土圧をRC地中壁10だけで支持することで構造的に独立したものとする場合に適する施工方法である。
【0088】
次に、環状トラス架構4の中央に形成される中空空間に昇降設備6を貫通設置し、最後に、杭71の頭部に連結する形で上部構造物72を構築する。
【0089】
環状トラス架構4の構成については既に述べたので、ここではその説明を省略する。
【0090】
本実施形態に係る地下空間施設の構築方法によれば、上部構造物72の地下部分に地下空間施設1を構築することが可能となり、上部構造物がオフィスビルやマンションであれば、地下空間施設1を例えば駐車場に使用することができるし、上部構造物が研究所ビルであれば、地下空間施設1を保管庫や研究施設あるいは植物工場に使用することができる。また、必要であれば、光ファイバーを用いて自然光を地下空間施設1内に送り込むことができる。
【0091】
本実施形態では特に言及しなかったが、杭71と環状トラス架構4とを鉛直方向の相対移動が許容されるように相互に連結するようにすれば、杭71の座屈を防止することが可能となる。具体的には、外周リング材7、内周リング材8あるいは連結材9から杭71を取り囲むようにして複数の座屈防止用鋼材を架け渡せばよい。
【0092】
このようにすれば、複数の座屈防止用鋼材で囲まれた開口に杭71が挿通されることとなり、該座屈防止用鋼材によって側方移動が拘束され、ひいては杭71の座屈を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】第1実施形態に係る地下空間施設の鉛直断面図。
【図2】第1実施形態に係る地下空間施設を構成する環状トラス架構4の図であり、(a)は平面図、(b)はA−A線に沿う断面図。
【図3】第1実施形態に係る地下空間施設を構成する環状トラス架構4の作用を示した図であり、(a)は断面図、(b)はB−B線に沿う矢視図。
【図4】第1実施形態に係る地下空間施設の用途を示した図。
【図5】第1実施形態に係る地下空間施設の変形例を示した図であり、(a)は平面図、(b)はC−C線に沿う断面図。
【図6】第1実施形態に係る地下空間施設の変形例を示した図であり、(a)は断面図、(b)はD−D線に沿う断面図、(c)は、E−E線方向から見た矢視図。
【図7】第2実施形態に係る構築方法を用いて構築された地下空間施設の図であり、(a)は平面図、(b)はF−F線に沿う断面図。
【符号の説明】
【0094】
1 地下空間施設
2 地盤
4 環状トラス機構
6 昇降設備
7 外周リング材
8 内周リング材
9 連結材
10 RC地中壁(土留め壁)
51 床材
52 円筒状壁体
53 昇降設備の出入り開口
71 杭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周リング材と、該外周リング材と同心状になるように配置された内周リング材と、一端を前記外周リング材に他端を前記内周リング材にそれぞれピン接合した連結材とから環状トラス架構を構成し、該環状トラス架構を地盤の掘削孔内に水平に複数段設置するとともに、該環状トラス架構の中央に形成されている中空空間に昇降設備を貫通設置してなり、前記外周リング材を前記掘削孔の内面に連結するとともに、かかる状態で前記内周リング材の水平構面が前記外周リング材の水平構面よりも所定高さだけ高くなるように前記環状トラス架構を構成したことを特徴とする地下空間施設。
【請求項2】
前記環状トラス架構の中央に形成されている中空空間に円筒状壁体を配置して該円筒状壁体の内部に前記昇降設備を設置するとともに、該昇降設備の出入り開口を前記円筒状壁体に形成し、前記環状トラス架構の上に床材を水平に敷設した請求項1記載の地下空間施設。
【請求項3】
複数段設置された前記環状トラス架構のうち、上下に対向する一対の環状トラス架構を相互に連結した請求項1又は請求項2記載の地下空間施設。
【請求項4】
地盤内に杭を構築し、該杭と干渉しないように環状の土留め壁を前記地盤内に構築し、該土留め壁で囲まれた内側の地盤を掘り下げることで該土留め壁の内部空間として掘削孔を形成するとともに該掘削孔内に環状トラス架構を水平に複数段設置し、該環状トラス架構の中央に形成される中空空間に昇降設備を貫通設置し、前記杭の頭部に連結する形で上部構造物を構築する地下空間施設の構築方法であって、前記環状トラス架構を、外周リング材と、該外周リング材と同心状になるように配置された内周リング材と、一端を前記外周リング材に他端を前記内周リング材にそれぞれピン接合した連結材とから構成するとともに前記外周リング材を前記掘削孔の内面に連結し、かかる状態で前記内周リング材の水平構面が前記外周リング材の水平構面よりも所定高さだけ高くなるように構成したことを特徴とする地下空間施設の構築方法。
【請求項5】
前記杭と前記環状トラス架構とを鉛直方向の相対移動が許容されるように相互に連結する請求項4記載の地下空間施設の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−328839(P2006−328839A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154856(P2005−154856)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(505197160)
【Fターム(参考)】