説明

地下農業工場システム

【課題】農地建設費用や管理費用が安く、面積当たりの収穫高が高く、年間を通じて天候に左右されない安定した作物栽培が可能な地下農業工場システムを提供
する。
【解決手段】 本発明は、地下に多段に設けた植物栽培用空間と、前記植物栽培用空間に設けた不透水層および不透水層上に設けた植物栽培床と、前記植物栽培床の植物に光を照射する人工照明装置と、多段の植物栽培用空間から発生する植物屑を出発物資として発電する発電装置と、を含み、前記植物栽培用空間は、前記植物栽培用空間と連通する連通路に設けた井戸を有して、井戸から植物栽培床に水を供給する給水装置と、多段の植物栽培用空間をつなぐように縦掘りされた運搬通路および運搬通路内を昇降するエレベーターとからなる搬送装置と、前記植物栽培床への肥料、および植物栽培床への殺虫剤又は殺菌剤散布装置と、多段の前記植物栽培用空間の内部を個々に換気する換気装置を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物を年間を通じて安定的かつ効率的に生産できる地下多段農業工場システムに関し、詳しくは、農業を工業化することにより晴耕雨読型の農業から脱皮し、過疎地域を含む農村の活性化を図ろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
現在かなりの部分を輸入に頼っている農作物の国産比率を高めることは、食料の安定確保上も重要な課題である。また、農業を近代的な工業に変身させることは、農業は重労働というイメージを払拭して、過疎地域を含む農村に若者を呼び戻し、農村を活性化させる上で、さらに、今後の少子高齢化社会へ対応して農業の後継者を育成する点からも大きな効果があると考えられる。
国内生産に当たっての問題は、農作物の生産に、広い肥沃な土地を必要とすることや、天候に左右され易いこと、農作業が重労働であることから後継者が減少して農村が過疎化する傾向にあること等である。
【0003】
最近は、バイオテクノロジーの進歩や、栽培技術の発達により、大規模な野菜工場などが実現しており、また、敷地面積当たりの収穫高を激増させることができ、集中管理も容易で、天候に左右されない安定した作物栽培を計画的に行なうことができる高層植物工場等も提案されている。
【0004】
しかし、従来の野菜工場等は、広大な農場を必要とするため集中管理等が困難であり、高層植物工場は、高層建築物の建設や、付帯設備に多大の費用を要するなどの問題があった。
【特許文献1】特開平5−308860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、農地建設費用や管理費用が安く、面積当たりの収穫高が高く、年間を通じて天候に左右されない安定した作物栽培が可能な地下農業工場システムを提供し、農業を工業化することで若者に魅力あるものにし、農村への復帰を促して地方の活性化および少子高齢化対応を計ろうとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、地下に多段に設けた植物栽培用空間と、前記植物栽培用空間に設けた不透水層および不透水層上に設けた植物栽培床と、前記植物栽培床の植物に光を照明する人工照明装置と、多段の植物栽培用空間から発生する植物屑を出発物資として発電する発電装置と、を含むことを特徴とする。
【0007】
さらに、前記植物栽培用空間と連通する連通路に設けた井戸を有し、井戸から植物栽培床に水を供給する給水装置と、多段の植物栽培用空間をつなぐように縦掘りされた運搬通路と、運搬通路内を昇降するエレベーターとからなる搬送装置と、前記植物栽培床への肥料散布装置、植物栽培床への殺虫剤又は殺菌剤散布装置と、多段の前記植物栽培用空間の内部を個々に換気する換気装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば地下農業工場システムは、土地の有効利用が可能であり、都市部でも農作物の安定供給が可能である。
地下の農業工場システムは気温が年間を通じて大きく変動しないため、季節や天候、台風などの天災に左右されない農耕作業が可能である。
地下空間を利用するため、高層建築に比較して建設費、付帯設備費が安く、農作物が安く提供できる。
作物栽培に必要な養液や土壌がリサイクルでき、またバイオマス発電によるクリーンなエネルギーを使用することにより、環境改善に寄与できる。
さらに、農業の工業化によって、作業環境が大幅に改善され、若年者のリターン効果を促進することで、農村の過疎化や少子高齢化対策につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について説明する。図1は本発明の地下農業工場システムの側面断面図を示すものである。
【0010】
本発明の地下農業工場システム1は、農地の広さに特に制約はないが、例えば、100〜300m×100〜300mの広さの農地を、地下4層(階)〜20層構築したものが考えられ、季節や天候に関係なく野菜、果実などを栽培、収穫することが可能である。
図1に示す通り、植物栽培用空間としての第2農地3〜第5農地6が多段に設けられている。この植物栽培用空間において、地上に近い階から第2農地3ではきゅうり、第3農地4ではトマト等の野菜類、第4農地5,第5農地6はいちご等の果物が栽培できる。
【0011】
本発明による地下農業工場システムは、地下空間に鉄骨製の複数階構造物を構築し、各階に不透水層と不透水層上の植物栽培床を設ける方法で建設する。
空間の施工は全自動の掘削マシンと壁面覆工マシンで行う。掘削マシンからはアームが伸びており,その先には掘削ドリルがついている。このドリルが回転することで地下を掘削する。掘削した岩石や土砂は、マシンの後方から地上に排出される。壁面覆工マシンは掘削後,直ちに地下壁の仕上げ工事を始め,完成後鉄骨工事を開始し、地下4階で、各階が100m×100mの広さを有する植物栽培床を建設する。
【0012】
地下農業工場システムは、本出願人が以前に出願した特開2005−30106号公報による工法で建設することも出来る。
当該工法は、異なった場所に所定深度で掘削した第1パイロット孔及び第1スライム排出孔を第1横孔により連通後、第1パイロット孔の孔底部に掘削した第1拡大スペースから第1パイロット孔に沿ってリーミングビットを引き上げ第1パイロット孔を拡孔すると共にスライムを第1スライム排出孔を通じて地上に排出して第1立坑を掘削する第1工程と、第1立坑の孔底部から第2パイロット孔を掘削する一方、第1スライム排出孔と連通する第2スライム排出孔を掘削し、第2横孔により連通後、掘削した第2拡大スペースからリーミングビットを引き上げ第2パイロット孔を拡孔すると共にスライムを第2及び第1スライム排出孔を通じて地上に排出する第2工程からなる。
【0013】
本立坑掘削工法によれば、立坑等のスライム排出において、従来のような立坑を経由して人手や長大なワイヤ吊りによる排出手段を不用とし、立坑に隣接して設けたスライム排出孔から機械的に立坑掘削作業を中断することなくスライムを連続的に排出することができることから、掘削作業が安全で、立坑の掘削効率が高く、工期が短いという利点がある。さらには、通常のレイズドリリングマシンや各種搬送手段などの既存の簡易な技術を適用して立坑が容易に掘削できることから、工事費用が全体的に安価となるばかりでなく、安定した掘削工事が可能である。
【0014】
本実施例の地下農業工場システムは、深さ25mの立坑を掘った後に、深さ2m毎に植物栽培床を水平方向に掘り進む。水平方向に掘り進むに従って周辺の、壁部、天井部を鋼材または木材で補強するとともに、10m四方に1本の支柱を設ける。立坑には、昇降機7を設置し、各階への資材搬送、搬出を行う。
【0015】
各階が完成した後、各階の床を不透水化した後、床上に自然または人工の土壌を搬入して植物栽培床をつくり、潅漑用の給水設備、肥料、殺虫剤、殺菌剤散布用の配管設備である水、肥料等散布装置10、排水溝、排水ピット、排水用ポンプを装備する。
不透水加工法としては、遮水材として合成ゴムや高分子化合物のシートを用いるもの、アスファルト系の吹き付けやシートを用いるもの、粘土や透水性を低くした改良土質材を用いるもの、鋼矢板や鋼管矢板を用いるもの、コンクリート等を用いるものがある。
【0016】
シートによる工法では、不透水シートを遮水材料として用い、遮水槽を造成し、その中に土壌を積層して植物栽培床とする。栽培床には、20m×20mに1カ所の割合で集水渠、集水桝等を設置し、潅水の処理を行う。
不透水シートのうち、合成ゴム系シート、合成樹脂系シートでは通常厚さ1ミリメートル以上のもの、または、アスファルト系シートでは通常厚さ3ミリメートル程度のものを用いる。合成ゴム系や合成樹脂系シートは、その継ぎ目が漏水の原因となりやすいので、接着を慎重に行うとともに検査を十分行う必要がある。
潅漑用水は、地下空間に連通する井戸から供給する。
水耕栽培植物用としては、土壌の代わりに水耕栽培用装置を配置する。
栽培する植物の種類によって、多段の植物栽培棚を使用する方が効率的である場合には、床上に植物栽培棚を設置する。
【0017】
本発明の地下農業工場システムでは、植物栽培床を設けて植物を栽培するが、植物によって植物栽培床の厚さが異なるので、栽培する作物によってその作物に最適な栽培床にする。いちごや、なす、きゅうりなどでは植物栽培床の厚さは500mm程度で十分であり、大根、アスパラガス、ジャガイモなどでは700mm程度、ゴボウ、山芋などでは1000mm程度が必要となる。
各植物栽培床は、不透水層を有しているため、必要以上に給水や施肥を行うことがなくなり、効率的な使用が可能となる。
【0018】
地下の植物栽培用空間は、水耕栽培が適している。
水耕栽培は、環境制御や自動化などハイテクを利用した植物の生産システムで、コンピューター制御によるものや、太陽光や人工光を利用するものなどがある。
農家の高齢化、後継者不足が問題になっている現状では、農作物の生産に軽作業・省力化が必要とされており、水耕栽培技術のハイテク化が期待されているところである。日本の水耕栽培面積は1000haに達していると言われており、カイワレ、葉ネギ、トマト、キュウリ、リーフレタス、ミツバ、イチゴ、バラなどとともに、直接土壌に植えるための成型苗種苗生産が行われている。
特に最近では、カイワレやブロッコリーなどのスプラウト(新芽野菜)は、全て樹脂製スポンジで水耕栽培されており、そのまま市場に出荷されている。
【0019】
植物の光合成に必要な太陽の光は、照明で人工的に作り出すことが出来る。一般の蛍光灯でもある程度栽培できるが、植物の育成にはそれに適した照明が好ましく、メタルハライドランプやナトリウムランプなどが植物育成に適している。
最近は、発光ダイオード(LED)も採用されることが多い。人工照明を使うと、日照時間や温度などを自在にコントロールでき、植物の本来持っているポテンシャルを最大に引き出すことが可能となる。
本発明の地下農業工場システムでは、各階に照明装置9を設置している。
一般の植物(草花類、野菜類、果菜類)に必要な照度は、夏の曇天時や冬の晴天時の約50,000ルクスより高い約60,000ルクスである。
【0020】
バイオマスは生物の量的資源を意味し、バイオマス発電・熱利用は、バイオマスから作ったメタン、エタノールなどの燃料を利用して発電等することを言う。
本発明の地下農業工場システムでは、バイオマス発電装置8で果実を収穫した後の茎や葉などの植物屑を活用してこれをメタンガスに変換し、発電する。
メタンガスは、植物屑を発酵させてつくる。植物屑は、各階から搬送装置で地上の倉庫に集積し、発酵させる。メタンガスは、燃焼速度が遅く爆発の危険性も低く、一酸化炭素の量も都市ガスの1/10〜1/100であるが、可燃性で、かつ、腐敗臭が発生するので、植物屑集積庫および発酵装置は、地上に設置する。
【0021】
メタンガスの発酵温度は30〜35度が最適で、植物屑の他、鶏糞、牛糞等を混入する。投入された有機物は、無酸素状態で3〜4ヶ月かけて醗酵分解し、その過程でバイオガスを生産した後、醗酵液肥に姿を変える。この間に寄生虫卵や病原菌は死滅してしまう。この液肥は通常の堆肥と異なり、元々の投入有機物の栄養素をほとんど失わず、さらにビタミンB・C類や作物の成長と健康に役立つ微量要素を豊富に含んでいる。
【0022】
メタンガスは、原料を投入しさえすれば、365日24時間ガスを発生させることができる。
原料は、地下農業工場で発生する植物屑の他、畜産廃棄物(牛、豚、鶏糞)から食品産業廃棄物(飲食店の残飯、コンビニの弁当やパン等)まで無料で入手できるものが利用可能である。
ガスが出た後は一部汚泥になるがほとんどは液化し、この液は液体肥料としては有害なガス成分が抜けているの極めて利用価値の高いものである。
【0023】
発生したガスは、小規模(100kw〜1000kw程度)でも高効率(25〜30%)のマイクロガスタービン、ガスエンジンで発電することにより、廃熱回収しない場合の大型ボイラー・スチームタービン発電の効率を上回る熱効率を得ることが出来、得られたコストの安い電気を地下農業工場の照明、水、肥料等の散布に活用することで、地下農園の収益性を高くすることが可能となる。
【0024】
地下農業工場システム内の潅水、施肥、および殺虫剤、殺菌剤の散布は操作が簡便で、安価で、精密な制御が可能な潅水施肥装置を使用する。
各階に、潅水、施肥、および殺虫剤、殺菌剤散布用配管を配設し、1回当たりの施肥量および潅水量等を設定して配管を通じて散布するもので、施肥と潅水が正確にできてコスト低減にも有効である。
【0025】
地下農業工場システム内では、換気作業で温度管理を行うことが必要となる。
植物の生育に最適な温度は、植物によって異なるため、各階毎に栽培する植物に最適な温度になるよう自動温度制御を行う。
地下温度は、人間が快適に暮らすための気温に比較的近く、年間を通じて15〜20℃で安定しているが、比較的高温を好む植物に対しては、地中熱を利用したヒートポンプで温度制御を行う。地中熱を利用したヒートポンプは、地中熱の抽出を行うための井戸を掘りその中に熱交換用のパイプを通し、大地そのものを、エアコンの室外機として使用するもので、このヒートポンプで得られる熱は暖冷房等に利用が可能で、しかもランニングコストが低いメリットがある。
本発明の地下農業工場内には、給水用の井戸があるため、これを活用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の地下農業工場の側面断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 地下農業工場システム
2 第1農地
3 第2農地
4 第3農地
5 第4農地
6 第5農地
7 昇降機
8 バイオマス発電装置
9 照明装置
10 水、肥料等散布装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下に多段に設けた植物栽培用空間と、
前記植物栽培用空間に設けた不透水層および不透水層上に設けた植物栽培床と、
前記植物栽培床の植物に光を照射する人工照明装置と、
多段の植物栽培用空間から発生する植物屑を出発物資として発電する発電装置と、
を含むことを特徴とする地下農業工場システム。
【請求項2】
前記植物栽培用空間と連通する連通路に設けた井戸を有し、井戸から植物栽培床に水を供給する給水装置を装備することを特徴とする請求項1に記載の地下農業工場システム。
【請求項3】
多段の植物栽培用空間をつなぐように縦掘りされた運搬通路と、運搬通路内を昇降するエレベーターとからなる搬送装置を更に有することを特徴とする請求項1に記載の地下農業工場システム。
【請求項4】
前記植物栽培床への肥料散布装置と、植物栽培床への殺虫剤又は殺菌剤散布装置とを有することを特徴とする請求項1に記載の地下農業工場システム。
【請求項5】
多段の前記植物栽培用空間の内部を個々に換気する換気装置を有することを特徴とする請求項1に記載の地下農業工場システム。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−280252(P2006−280252A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103089(P2005−103089)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000168506)鉱研工業株式会社 (43)
【Fターム(参考)】