説明

地下防火水槽及びその補強方法

【課題】既存の防火水槽を内側から支持して天井壁や側壁が崩落するのを防止することのできる地下防火水槽とその補強方法を提供する。
【解決手段】基板と管状脚体20bとからなる枠体ユニット20を水槽部11の底壁に敷き並べるとともに、水槽部11の天井壁の近傍まで前記枠体ユニット20を積み上げ、天井壁と最上段の枠体ユニット20との隙間に充填材21を介在させる。さらに、水槽部11の側面と、積み上げた最外側の枠体ユニット20との隙間に充填材21を介在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下に埋設された防火水槽とその補強方法に係り、詳しくは、既存のコンクリート製防火水槽の天井壁や側壁の崩落を防止した地下防火水槽とその補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市部では、高層ビルの火災等に備えてコンクリートやアスファルトで舗装された道路の地下に防火水槽が設置されている。近年、地震の発生が危惧されており、災害時に防火水槽の天井壁や側壁が崩落する危険性が指摘されている。この地震対策として、地中に埋設されるコンクリート製の防火水槽では、地震時の振動等によって、水槽部の壁面にクラックや破損が生じた際に、防火水槽内の水を極力外部に漏出させないように、当該防火水槽の内側を合成樹脂製の袋で覆うとともに、該袋の開口縁を防火水槽の開口部に固着させたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−152182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述の防火水槽では、地震等によって水槽部の壁面にクラックや破損が生じた際に、防火水槽内の水を漏出させないようにすることはできても、クラックの発生や壁面の破損を抑制することができず、水槽部の天井壁や側壁の崩落を防止することはできない。
【0004】
そこで本発明は、老朽化した防火水槽を内側から支持して強度を上げ、既存の防火水槽の耐震強度を上げることができる地下防火水槽とその補強方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の地下防火水槽は、地中に埋設された水槽部と、該水槽部に連通し、地上に開口するマンホール部とを備えた地下防火水槽において、基板と脚体とからなる枠体ユニットを水槽部の底壁に敷き並べるとともに、水槽部の天井壁近傍まで枠体ユニットを積み上げ、天井壁と最上段の枠体ユニットとの隙間に充填材を介在させるとともに、水槽部の側壁と積み上げた最外側の枠体ユニットとの隙間に充填材を介在させたことを特徴とする。
【0006】
また、本発明の補強方法は、地中に埋設された水槽部と、該水槽部に連通し、地上に開口するマンホール部とを備えた地下防火水槽の補強方法において、基板と脚体とからなる枠体ユニットを多数準備し、該枠体ユニットを水槽部の底壁に敷き並べるとともに水槽部の天井壁近傍まで積み上げ、天井壁と最上段の枠体ユニットとの隙間に充填材を介在させ、天井壁を枠体ユニットと充填材とで支持すること特徴とし、前記枠体ユニットは基板と脚体とが分解可能に連結したものを用い、これを分解してから水槽部内に導入して組み立てるのがよく、天井壁と最上段の枠体ユニットとの隙間には前記充填材に代えて、脚体を適宜長さに切断して高さ調整した枠体ユニットを介在させることもできる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の地下防火水槽は、枠体ユニットを水槽部の底壁に敷き並べるとともに天井壁の近傍まで積み上げ、該天井壁と最上段の枠体ユニットとの隙間に充填材を介在させたので、水槽部の天井壁に作用する土圧や輪荷重を枠体ユニットと充填材とで支持して天井壁の崩落を確実に防止することができる。また、水槽部の側壁と、底壁から積み上げた最外側の枠体ユニットとの隙間に充填材を介在させることによって、防火水槽を内側から補強して堅牢性を向上させることができ、側壁が内側に傾いたり、崩落するのを確実に防止できる。また、本発明で使用する枠体ユニットは基板と脚体とで構成されるため空隙率が高く、防火水槽の貯水量を十分に確保することができる。
【0008】
さらに、本発明の補強方法は、基板と脚体とからなる枠体ユニットを多数準備し、該枠体ユニットを水槽部の底壁に敷き並べるとともに水槽部の天井壁近傍まで積み上げ、該天井壁と最上段の枠体ユニットとの隙間に充填材を介在させるだけでよいので、現場での施工作業が極めて簡単に行える。特に、枠体ユニットとして、基板と脚体とが分解・組立可能となった枠体ユニットを用いると、地上で枠体ユニットを分解してから開口するマンホール部を介して水槽部内に容易に搬入することができ、この分解された枠体ユニットを水槽部内で組み立てるだけでよいので、施工時間を大幅に短縮することができる。また、充填材として、耐圧性、衝撃性及び加工性に優れた軽量発泡スチロール材を用いると、水槽部の天井壁と最上段の枠体ユニットとの隙間に充填材を介在させるだけで、簡単かつ確実に天井壁を補強することができ、耐震強度を大幅に向上させることができる。さらに、天井壁と最上段の枠体ユニットとの隙間に前記充填材に代えて、脚体を適宜長さに切断して高さ調整した枠体ユニットを介在させても、前記同様の効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の地下防火水槽の一例を図面に基づいて詳しく説明する。図1は既存の地下防火水槽を示す説明図、図2は枠体ユニットの組み立て状態を示す説明図、図3は基板と脚体との組み立て状態を示す要部断面図、図4は補強後の地下防火水槽を示す説明図である。
【0010】
図1は既存の地下防火水槽を示すもので、防火水槽10は、地中に埋設されたコンクリート製の角形の水槽部11と、該水槽部11に連通し、地上に開口する円筒状のマンホール部12とを備え、水槽部11の内壁面には防水性樹脂が塗布され、水密に形成されている。
【0011】
この防火水槽10を補強するために、枠体ユニット20と、充填材21とが用いられる。枠体ユニット20は、例えばリサイクルされたポリプロピレン等の合成樹脂から形成されるもので、図2に示されるように、基板20aと、該基板20aに対して着脱可能な複数の管状脚体20bと、最下部のベース基板20dから形成されている。基板20a及びベース基板20dは、マンホール部12に導入可能な大きさの矩形に形成されるとともに、各基板20a、20dの適所に上下面を貫通して複数の通孔20cが穿設されている。また、基板20aの上下面の各通孔20cの周縁と、ベース基板20dの上面の各通孔20cの周縁とには、管状脚体20bの端部が着脱自在に装着される取付孔20eがそれぞれ形成されており、該取付孔20eに管状脚体20bの端部が嵌合して枠体ユニット20が分解・組立可能に形成されている。
【0012】
防火水槽10を補強するにあたり、まず水槽部11内の水を抜いて空の状態にしてから該水槽部11内に、枠体ユニット20を順次導入する。このとき、枠体ユニット20を基板20a(及びベース基板20d)と管状脚体20bとに分解して嵩を小さくすると、前記マンホール部12から水槽部11内に簡単に導入することができる。そこで、水槽部11内で管状脚体20bを基板20aの所定位置にそれぞれ取り付け、複数の枠体ユニット20を組み立てる。
【0013】
次に、水槽部11の底壁11cにベース基板20dを敷き並べるとともに、該ベース基板20d上に組み立てられた複数の枠体ユニット20を載置し、敷き並べつつ天井壁11bの近傍まで積み上げる。この枠体ユニット20の敷き並べ及び積み上げ作業は、水槽部11の隅部や側縁からマンホール部12の真下に向かって行うのが好ましく、水槽部11の側壁11aと積み上げた最外側の枠体ユニット20との隙間に充填材21を充填する。このとき使用する充填材21としては、耐圧性、衝撃性及び加工性に優れた軽量発泡スチロール材が好適に使用できる。この充填材21をカッター等で所定の形状・大きさ及び厚さに切断加工し、水槽部11の側壁11aと枠体ユニット20との隙間に充填する。また、枠体ユニット20を水槽部11の底壁11cから天井壁11b近傍まで順次積み上げ、天井壁11bと最上段の枠体ユニット20の基板20aの上面との隙間に、前記同様にして所定の形状・大きさ及び厚さに切断加工した充填材21を充填する。
【0014】
このように、複数の枠体ユニット20をマンホール部12の真下を除く水槽部11内に敷き並べるとともに天井11b近傍まで積み上げることにより、防火水槽10の天井壁11bを下方から支持し、堅牢性を向上させることができる。また、枠体ユニット20は空隙率が高いことから、防火水槽10の貯水量を十分確保することができ、軽量な合成樹脂で形成することによって、施工作業が簡単に行える。
【0015】
さらに、枠体ユニット20は、基板20aに複数の管状脚体20bを着脱可能に設けていることから、地上からマンホール部12の開口を介して水槽部11に導入する際に、基板20aと管状脚体20bとを分解して別々にマンホール部12に導入できる。これにより、基板20aをマンホール部12に導入可能な最大の大きさに設定することができ、枠体ユニット20の大きさを確保できるので、コストの削減や枠体ユニット20の組み立て時間の短縮を図ることができる。そして、水槽部11の側壁11a及び天井壁11bと枠体ユニット20との隙間に、耐圧性、衝撃性及び加工性に優れた軽量発泡スチロール材等の充填材21を充填することにより、水槽部11を内側から支持して確実に補強することができる。
【0016】
また、枠体ユニット20として、基板20aと管状脚体20bとが分解・組立可能に形成されたものを使用する場合には、組み立てる前に管状脚体20bを適宜の長さに切断して枠体ユニット20の高さを調整することができるので、天井壁11bと最上段の枠体ユニット20との隙間に前記充填材21に代えて、高さ調整した枠体ユニット20を介在させるようにしてもよい。
【0017】
なお、充填材21は、施工性や強度を考慮すると板状の発泡スチロール材を用いるのが好ましいが、側壁11aと枠体ユニット20との隙間や天井壁11bと枠体ユニット20との隙間に充填して水槽部11を内側から確実に支持できればよいので、例えば、柔軟な合成樹脂等からなる袋やチューブの中にポリスチレンビーズ等を充填したものであっても良く、適宜な大きさの板材を楔やジャッキ等で押し広げるようにしたものであっても良い。また、水槽部11の側壁11a、天井壁11b、底壁11cと枠体ユニット20との間には必要に応じて適宜な部材を介在させても良い。
【0018】
次に、枠体ユニットとしてアクアスペース(明治ゴム化成(株)製)を、充填材として土木用高強度EPS(三菱化学産資(株)製)をそれぞれ用いて、短辺3m,長辺7m、高さ2m,マンホールの直径600mmの既存の防火水槽を補強した実施例について説明する。なお、アクアスペースは基板の縦・横寸法が502mm、脚体と基板を含む高さ寸法が273mmのものを使用した。
【0019】
アクアスペースの脚体を基板から取り外し、基板及び連結用H駒とともに開口したマンホール部を介して防火水槽内に導入した。土木用高強度EPSは、マンホール部に導入可能なサイズに切断して防火水槽内に導入した。アクアスペースの組み立ては、通常の施工方法に従い、まず、防火水槽のマンホール部の真下を除く底壁にベース基板を敷設し、このベース基板の上に、脚体を取り付けたアクアスペースを敷き並べ、隣り合うアクアスペース同士をH駒によって連結した。壁際に設置した最外側のアクアスペースと防火水槽の側壁との隙間に、土木用高強度EPSを充填して接着剤で接着しながら、アクアスペースを防火水槽の天井壁の近傍まで順次積み上げ、最上段のアクアスペースの基板と防火水槽の天井壁との隙間に土木用高強度EPSを充填して、防火水槽を内側から補強した。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】既存の地下防火水槽を示す説明図である。
【図2】枠体ユニットの組み立て状態を示す説明図である。
【図3】基板と脚体との組み立て状態を示す枠体ユニットの要部断面図である。
【図4】補強後の地下防火水槽を示す説明図である。
【符号の説明】
【0021】
10…防火水槽、11…水槽部、11a…側壁、11b…天井壁、11c…底壁、12…マンホール部、20…枠体ユニット、20a…基板、20b…管状脚体、20c…通孔、20d…ベース基板、20e…取付孔、21…充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された水槽部と、該水槽部に連通し、地上に開口するマンホール部とを備えた地下防火水槽において、基板と脚体とからなる枠体ユニットを水槽部の底壁に敷き並べるとともに、水槽部の天井壁近傍まで枠体ユニットを積み上げ、天井壁と最上段の枠体ユニットとの隙間に充填材を介在させるとともに、水槽部の側壁と積み上げた最外側の枠体ユニットとの隙間に充填材を介在させたことを特徴とする地下防火水槽。
【請求項2】
地中に埋設された水槽部と、該水槽部に連通し、地上に開口するマンホール部とを備えた地下防火水槽の補強方法において、基板と脚体とからなる枠体ユニットを多数準備し、該枠体ユニットを水槽部の底壁に敷き並べるとともに水槽部の天井壁近傍まで積み上げ、天井壁と最上段の枠体ユニットとの隙間に充填材を介在さて、天井壁を枠体ユニットと充填材とで支持することを特徴とする地下防火水槽の補強方法。
【請求項3】
前記枠体ユニットは基板と脚体とが分解可能に連結されており、該枠体ユニットを分解して前記マンホール部から水槽部内に導入したのち、該水槽部内で基板と脚体とを組み立てることを特徴とする請求項2記載の地下防火水槽の補強方法。
【請求項4】
地中に埋設された水槽部と、該水槽部に連通し、地上に開口するマンホール部とを備えた地下防火水槽の補強方法において、基板と脚体とが分解可能に連結された枠体ユニットを多数準備し、該枠体ユニットを分解して前記マンホール部から水槽部内に導入したのち、該水槽部内で基板と脚体とを組み立てて形成した枠体ユニットを水槽部の底壁に敷き並べるとともに、水槽部の天井壁近傍まで積み上げ、天井壁と最上段の枠体ユニットとの隙間には脚体を適宜長さに切断して高さ調整した枠体ユニットを介在させて、天井壁を枠体ユニットで支持することを特徴とする地下防火水槽の補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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