説明

地中の水位検知杭および斜面崩壊予知システム

【課題】地中の水位を正確に検知できる水位検知杭を提供する。
【解決手段】地盤に一部または全部が埋め込まれる棒状の杭1であって、長手方向Lに延びた柱状空間15、およびこの柱状空間15に外部から液体を侵入させる侵入口17を有する杭本体10であって、侵入口17よりも頭部12側に近接検知装置50が設置された杭本体10と、この杭本体10の頭部12に被せられて柱状空間15を閉塞するキャップ20とを備え、柱状空間15には、侵入口17から侵入した液体の水面に浮く浮部材25が配置され、近接検知装置50は、浮部材25の近接を検知するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に埋め込まれて、地中の水位を検知できる杭、および土砂崩れのような斜面崩壊の発生の可能性を検知できる斜面崩壊予知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
土砂崩れを早期に発見することは、災害対策として極めて重要である。ここで、土砂崩れは、雨が降って地面にしみ込んだ後に発生しやすい。つまり、地中にしみ込んだ雨の量を測定すれば土砂崩れの発生の可能性を検知でき、事前に災害対策を講じることができる。このような器具として、杭状のパイプの中に高分子ポリマーを挿入して、この高分子ポリマーが吸水して体積を膨らませることによって地中の水分含有量の増加を検知するものがある(特許文献1参照)。ここで、吸水して膨張した高分子ポリマーは、所定の接点に接触するので、警報が鳴って危険が知らされる。
【特許文献1】特開2007−026395
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1の器具の場合、高分子ポリマーは保水性があるので、一旦水分を吸収してしまった高分子ポリマーでは、その後に正確に地中の水位を求めることができない。具体的には、雨が降って地中の水分量が増えるが、警報を発生する程ではなくてその数日後に再度雨が降った場合、高分子ポリマーの膨張量は、その時点での地中の水分量に依存したものではなくなり、地中の水位に追随していない。
【0004】
そこで、本発明は、地中の水位を正確に検知できる水位検知杭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明にかかる地中の水位検知杭は、地盤に一部または全部が埋め込まれる棒状の杭であって、長手方向に延びた柱状空間、およびこの柱状空間に外部から液体を侵入させる侵入口を有する杭本体であって、前記侵入口よりも頭部側に近接検知装置が設置された杭本体と、この杭本体の頭部に被せられて前記柱状空間を閉塞するキャップとを備え、前記柱状空間には、前記侵入口から侵入した液体の水面に浮く浮部材が配置され、前記近接検知装置は、前記浮部材の近接を検知するものである。
【0006】
本発明によれば、杭本体はその柱状空間に外部から液体を侵入させる侵入口を有するので、地盤に埋め込まれている状態において、その地中の水分が増加すれば柱状空間に侵入した液体の水位が上昇する。ここで、柱状空間には液体の水面に浮く浮部材が配置されているため、浮部材の位置が水面に追随して水位を示すことになる。一方、近接検知装置が浮部材の近接を検知するため、水位を検知でき、このようにして、正確に地中の水位を検知することができる。
【0007】
ここで、「柱状空間」には円柱状および四角柱状などが含まれ、好ましくは横断面寸法が長手方向において一定である。
「侵入口」は、好ましくは、杭本体の先端部付近に設けられた孔であり、この孔は、杭が地盤に埋め込まれた状態において、側方または斜め下方に開口している。
「浮部材」は、水の比重またはそれ以上の比重の液体の液面に浮く部材であり、水中で姿勢を維持できるものである。
【0008】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記近接検知装置は、前記杭本体の長手方向に沿って配置された複数の近接検知器からなり、前記浮部材が所定範囲内に位置することを各近接検知器がそれぞれ検知する。この構成によれば、近接検知装置が、杭本体の長手方向に沿って配置された複数の近接検知器からなるので、杭が地盤に埋め込まれた状態においては近接検知器が上下方向に配置されることになる。したがって、浮部材が所定範囲に位置することを各近接検知器がそれぞれ検知して、近接検知器全体の検知結果からいずれの近接検知器が浮部材の近接を検知しているかを判断すれば、浮部材の高さ、つまり水位を検知できる。
【0009】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、前記浮部材にはICタグが取り付けられ、近接検知器のそれぞれにICリーダが取り付けられている。この構成によれば、浮部材が所定範囲にICタグが入った場合に、ICリーダはそのことを検知できるので、浮子が所定範囲内に位置することを検知しているICリーダを割り出せば、浮部材の位置つまり水位を特定できる。
【0010】
本発明にかかる斜面崩壊予知システムは、前記地中の水位検知杭を用いて、斜面崩壊の可能性を検知する。この構成によれば、地中の水位検知杭によって、地中の水位を正確に検知できるので、例えばこの水位が所定値以上となったような場合に、土砂崩れなどの発生の可能性が高いと判断できるので、斜面崩壊を予知することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の地中の水位検知杭によれば、近接検知装置と浮部材を収納できる杭を利用することで、簡易な構成でありながら、正確に地中の水位を検知することができる。これより、斜面崩壊などの発生が高い場所にこの地中の水位検知杭を埋設しておくことで、検知した水位に基づいて斜面崩壊を予知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図2(a),(b)に、本発明の一実施形態にかかる地中の水位検知杭を示す。この杭は、斜面崩壊の発生しそうな場所に設置されるものであるが、設置位置に関する情報である設置位置情報(例えば土地や道路などの位置(経度、緯度および標高による位置)、または敷地についての各種情報など)を表示する設置位置情報標示器を兼ねることもできる。
【0013】
図1に示すように、杭1は、地盤にほぼ垂直に打ち込まれる杭であって、杭本体10を有し、その頭部12は防護用キャップ20によって覆われて、高い耐環境性能が確保されている。杭本体10およびキャップ20は、例えばプラスティック製であるが、金属製などであってもよい。また、杭本体10およびキャップ20には、いずれも外側と内側の両方、つまり杭本体10全体およびキャップ20全体に防水加工がなされている。
【0014】
図(2)および(b)に示すように、杭1の棒状の杭本体10は、側壁11、先端部16、およびこれら側壁11,先端部16の間に位置してこれらを接続する傾斜壁13から構成されている。杭本体10は、また、これら側壁11、先端部16および傾斜壁13によって画定されている、杭本体10の長手方向Lに延びた円柱状空間15を有する。
【0015】
これに対して、防護用キャップ20は、正方形平板状の頂壁21と、図2(a)に示すように、この頂壁21の一主面から突出する円柱状の突起部22とを有する。この突起部22は杭本体10の頭部12の内側において円柱状空間15に係合するものであり、杭本体10の円柱状空間15の上部開口に嵌め込まれる。なお、この突起部22を、外面にねじ部を持つように形成して、杭本体10の頭部12の内周に設けたねじ部にねじ込むようにしてもよい。
【0016】
前記杭本体10には、また、前記傾斜壁13において、横断面において対向する2カ所に、この円柱状空間15と杭1の外部とを連通させる連通孔からなる侵入口17,17がそれぞれ形成されている。なお、本実施形態では侵入口17は2つとしているが、いくつ形成されてもよい。また、侵入口17は傾斜壁13の代わりに側壁11に形成されてもよい。さらに、侵入口17を複数備える場合に、一部の侵入口17を傾斜壁13に設けて、他部の侵入口17を側壁11に設けてもよい。
【0017】
杭1が地盤に埋め込まれた状態においては、これら侵入口17,17から、杭1が埋め込まれた地盤に含まれる液体が円柱状空間15に侵入するため、地盤の水分量が増加すると、円柱状空間15内に水が浸入して円柱状空間15内の水位が上昇する。
【0018】
円柱状空間15には、また、水の比重またはそれ以上の比重の液面に浮くことができる球形状の浮子(浮部材)25が配置されている。浮子25の寸法は、好ましくは、その直径が円柱状空間15の横断面の直径よりも僅かに小さい。これにより、浮子25は円柱状空間15内において、水平方向への移動が規制される。浮子25は、例えば、それぞれプラスティック製で半球形状の第1半体25aおよび第2半体25bから構成されている。半体25a,25bは、それぞれ、円形状平面の中心において円柱状の凹所25aa,25baを有する。第1半体25aと第2半体25bとを接着剤などで接合すると、対向する凹所25aa,25baによって密閉空間25cが構成される。なお、浮子25は、水の比重またはそれ以上の比重の液体の液面に浮く部材であり、水中で姿勢を維持できるものであれば、素材および形状はいかなるものであってもよい。
【0019】
浮子25の密閉空間25cには、近接検知用ICタグ40が収納されている。すなわち、近接検知用ICタグ40を第2半体25bの凹所25baに配置した状態で、第1半体25aと第2半体25bとが接着されている。本実施形態においては、近接検知用ICタグ40はパッシブ型であり、ICチップ42および通信用アンテナ44からなる無線ICタグを内蔵する。なお、「パッシブ型」のICタグとは、リーダなどから電波を受信して、これにより供給された電力を用いて動作する、受動型のICタグのことである。また、「ICタグ」は、タグ情報を記録し、無線でこのタグ情報を外部に送信できるものである。
【0020】
このように近接検知用ICタグ40を収納した浮子25は、杭本体10にキャップ20が被せられる前に、杭本体10の円柱状空間15に収納される。このように収納された浮子25は、円柱状空間15に水が侵入していない状態では、円柱状空間15の底に位置している。
【0021】
杭本体10の側壁11には近接検知装置50が配置されている。この近接検知装置50は、その長手方向Lに沿って、それぞれICタグリーダからなる複数の近接検知器51が配置され、これら近接検知器51全体によって構成されている。これらICタグリーダ51は、浮子25に収納されているICタグ40が近接した場合にICタグ40のタグ情報を読み取ることができるものであり、杭本体10の長手方向Lに沿って所定の等間隔で配置されている。すなわち、ICタグリーダ51は、それぞれ、所定範囲内にICタグが近づいたことを検知することができる。なお、これら近接検知器51も防水加工がなされている。
【0022】
杭本体10の側壁11には、また、アクティブ型ICタグ60が取り付けられている。このアクティブ型ICタグ60は、能動型、すなわち電池を備えることでICタグ自体が電波を発信するICタグであり、複数のICタグリーダ51に有線で接続されている(図示せず)。この構成により、アクティブ型ICタグ60が、複数のICタグリーダ51からなる近接検知装置50の検知情報を、タグ情報と共に発信することができ、多数の水位検知杭からの検知情報を一括管理する管理センタにおいて処理される。
【0023】
次に、この第1実施形態に係る情報発信杭1の適用例について説明する。
図2(a)に示したように、杭本体10の円柱状空間15に杭1の外部から液体が侵入していない状態では、浮子25は柱状空間15の底に位置している。このような状態では、例えば最も下方に位置するICタグリーダ51のみが近接検知用ICタグ40の情報を読み取ることができ、これよりも上方の他のICタグリーダ51は、近接検知用ICタグ40から離れているために、ICタグ40の情報を読み取ることができない。
【0024】
これに対して、図3に示すように、降雨などによって杭1が埋設されている地盤中の水分量が増えると、侵入口17,17から円柱状空間15に地盤中の水が浸入して水位が上昇するため、水面Sに浮く浮子25も上方に移動する。このような浮子25の移動に伴って、最下位のICタグリーダ51は近接検知用ICタグ40の情報を読取ることができなくなるのに対して、他の上方のICタグリーダ51が近接検知用ICタグ40の情報を読み取ることができるようになる。このように複数のICタグリーダ51で検知された情報は、杭本体10の側壁11に設けられたアクティブ型ICタグ60を介して発信される。
【0025】
したがって、全てのICタグリーダ51の検知情報の時間変化を追跡すれば、水面Sに浮くことができる浮子25の上下方向の概略的な位置変化、すなわち円柱状空間15内の水位の変化を取得することができる。これより、円柱状空間15内の水位が急激に上昇した場合や所定のしきい値を超えた場合には、この水位が地盤中の水分量に連動していることより、土砂崩れなどの災害が発生しやすい状況であることが予測され、何らかの対策を講じることができる。
【0026】
これとは反対に、杭1の外部の地盤の水分量が減少すると、侵入口17,17から柱状空間15中の水が外部に流出して、浮子25は下方に移動する。したがって、上方に位置するICタグリーダ51は浮子25内の近接検知用ICタグ40を検知しなくなり、下方のICタグリーダ51が浮子25内の近接検知用ICタグ40を検出する。
【0027】
なお、浮子25が水平方向に移動してしまう場合は、ICタグリーダ51が検知する浮子の近接は浮子25の高さ方向への移動のみでなく水平方向への移動に依存してしまう可能性がある。しかし、本実施形態では、浮子25は水平方向への移動が規制されているため、ICタグリーダ51が検知する浮子の近接は、浮子25の高さ方向への移動のみに依存し、水位検知は正確に行われる。
【0028】
本実施形態においては、近接検知用のセンサとして、浮子にICタグを設けて、それを上下方向に配置されたICタグリーダによって検知することで実現するものとしたが、このようなICタグとタグリーダとによって構成されるものに限定されない。例えば、浮子には単なる発信器を設けて、杭本体には上下方向に単なる受信器を複数配置することで、受信器はタグ情報を検知するのではなく、単に発信器が発信する所定の周波数の電磁波を検知するものとしてもよい。また、この他に、浮子には特に何も設けず杭本体には上下方向に衝撃センサを複数配置して、これら衝撃センサを浮子の進路に突出させて、浮子が衝撃センサと同一の高さに位置した際には浮子と衝突するように配置してもよい。この構成の場合、衝突を検知した衝撃センサの高さまで、柱状空間内の水位が上昇していることが推定される。
【0029】
さらに、検知情報発信用のアクティブ型ICタグ60を設けずに、杭本体10にセンサアラーム(図示せず)を設けてもよい。この場合、杭1から近接検知用センサ51の検知情報は発信されず、その代わりに警報が発生する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る地中の水位検知杭の斜視図である。
【図2】(a)は図1の地中の水位検知杭の縦断面図であって、外部から液体が新入していない状態を示す図であり、(b)は(a)の地中の水位検知杭をII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1の地中の水位検知杭の縦断面図であって、外部から液体が侵入している状態を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 地中の水位検知杭
10 杭本体
15 柱状空間
17 侵入口
20 キャップ
25 浮部材
50 近接検知装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に一部または全部が埋め込まれる棒状の杭であって、
長手方向に延びた柱状空間、およびこの柱状空間に外部から液体を侵入させる侵入口を有する杭本体であって、前記侵入口よりも頭部側に近接検知装置が設置された杭本体と、
この杭本体の頭部に被せられて前記柱状空間を閉塞するキャップとを備え、
前記柱状空間には、前記侵入口から侵入した液体の水面に浮く浮部材が配置され、前記近接検知装置は、前記浮部材の近接を検知するものである、地中の水位検知杭。
【請求項2】
請求項1において、前記近接検知装置は、前記杭本体の長手方向に沿って配置された複数の近接検知器からなり、前記浮部材が所定範囲内に位置することを各近接検知器がそれぞれ検知する、地中の水位検知杭。
【請求項3】
請求項2において、前記浮部材にはICタグが取り付けられ、前記近接検知器のそれぞれにICリーダが取り付けられている、地中の水位検知杭。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の地中の水位検知杭を用いて、斜面崩壊の可能性を検知する斜面崩壊予知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−287927(P2009−287927A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137534(P2008−137534)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(591034017)株式会社リプロ (15)
【Fターム(参考)】