説明

地中埋設管の塗覆装損傷監視装置および塗覆装損傷監視方法

【課題】周波数による塗覆装損傷監視は管が長くても塗覆装損傷の有無、場所の確認がよりしやすく、かつ、損傷区間を求めるための測定器数をより少数とする。
【解決手段】地中埋設管10の塗覆装損傷監視装置100は、埋設管10の発信地点121から符号パターン1をもつ擬似ランダム信号を発信する信号発信器201と、発信地点121から地中埋設管10の離れた発信地点122から符号パターン2をもつ擬似ランダム信号を発信する信号発信器202と、発信地点121側にて前記擬似ランダム信号を受信する複数の受信器30と、発信地点122側で前記擬似ランダム信号を受信する複数の受信器40と、管対地電位と通電電流を、基本周波数をもつ擬似ランダム信号の相関ピーク値の変化による前記地中埋設管の接地抵抗と管対地電位の変化により、前記埋設管の塗覆装損傷発生区間と塗覆装損傷発生とを監視するコンピュータ50とから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中埋設管の塗覆装損傷監視装置および塗覆装損傷監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設された被覆鋼管は鋼自体の腐食を防ぐため、外面を塗覆装して土壌と絶縁している。この被覆鋼管の塗覆装が例えば土木工事等で掘削機械等に接触して傷が付くと、鋼自体が土壌と接触して腐食する可能性がある。この鋼自体に腐食が生じることを防止するため地中に埋設された塗覆装(被膜)鋼管の塗覆装に対する損傷の状態を常時監視することが必要である。
【0003】
地中埋設管の塗覆装損傷監視装置および塗覆装損傷監視方法としては例えば、下記特許文献1、2の報告がある。
【0004】
特許文献1に記載の地中埋設管の塗覆装損傷監視方法は、被覆(塗覆装)鋼管の管路に沿ってある間隔で電流値及び電位値を測定するための電流・電位値測定装置を設置し、基準点から管に通電された信号電流の電流値と電位値を点間で夫々測定し、この値から点間での損傷抵抗を求めると共にこの損傷抵抗の大きさから被覆の損傷度と損傷箇所をコンピュータにより判定する方法である。
【0005】
特許文献2に記載の地中埋設管の塗覆装損傷監視方法は、監視対象被覆鋼管を適当な範囲で分割し、各分割範囲ごとに設置される監視対象被覆鋼管に対して他の分割範囲からの信号電流と区別可能な信号電流を夫々通電するための通電用電源装置、前記被覆鋼管を流れる信号電流の電流値及び電位値を測定するための電位・電流値測定装置、前記電流・電位値測定装置で測定された電流値と電位値を伝送するための送信装置、前記送信装置から伝送された電流値と電位値から各区間内での損傷抵抗を演算し、この損傷抵抗の値がある定めた値よりも大きい場合には当該区間では損傷なしと判定し、小さい場合には当該区間で損傷ありとコンピュータから判定する方法である。
【0006】
これら特許文献1、2に記載の塗覆装損傷塗覆装損傷監視装置および塗覆装損傷監視方方法は、地中に埋設された金属導管について、土木機械等の重機類の接触事故を原因とする塗覆装の損傷の位置並びに損傷の程度を容易に検知できると報告されている。
【特許文献1】特開平7−128272号公報
【特許文献2】特開平8−145934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1のように埋設管路の一端から通電する構成では、損傷位置によって管路接地抵抗の増減が異なるため検知が容易でなく、この変化を補正するために複雑な計算とデータが必要となる場合がある。
【0008】
また、信号送信器と信号受信器とが離れていると長期間詳細な同期をとることが困難である。特に上記特許文献2のように複数の電源を用いて周波数の異なる信号を送信し、周波数成分を弁別して測定する場合には、位相調整機器を用いて長期間詳細な同期をとり精度を上げる必要がある。
【0009】
本発明は、上記課題等を解決することに鑑みてなされたものであり、損傷位置検知が容易であり、複雑な構成や複雑な計算とデータおよび単一周波数の非同期信号を用いることで位相調整が必要とならない、地中埋設管の塗覆装損傷監視装置および塗覆装損傷監視方法の提供をその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、地中埋設管の塗覆装損傷監視装置であって、埋設管の少なくとも一点以上の発信地点から基本周波数をもち、異なる符号パターンの非同期擬似ランダム信号を発信する信号発信器と、前記発信地点で前記非同期擬似ランダム信号を受信する第1の受信器と、
前記発信地点から前記地中埋設管の離れた地点で前記非同期擬似ランダム信号を受信する第2の受信器と、前記基本周波数をもつ非同期擬似ランダム信号の相関ピーク値の変化による前記地中埋設管の接地抵抗と管対地電位の変化により、前記埋設管の塗覆装損傷発生区間と塗覆装損傷発生とを監視する監視器と、を含むことを特徴とする。
【0011】
前記地中埋設管の塗覆装損傷監視装置であって、前記監視器は、前記第1の受信器で受信された非同期擬似ランダム信号の相関ピーク値の変化による前記地中埋設管の接地抵抗を監視し、かつ、前記第2の受信器で受信された非同期擬似ランダム信号の相関ピーク値の変化による前記地中埋設管の管対地電位を監視すると好適である。
【0012】
本発明は、地中埋設管の塗覆装損傷監視方法であって、埋設管の少なくとも二点以上の発信地点から基本周波数をもち、異なる符号パターンの非同期擬似ランダム信号をそれぞれ発信し、前記発信地点と、発信地点から前記地中埋設管の離れた地点で前記非同期擬似ランダム信号を複数点で受信し、前記基本周波数をもつ、異なる符号パターンにおける非同期擬似ランダム信号の相関ピーク値の変化による前記地中埋設管の接地抵抗と管対地電位の変化により、前記埋設管の塗覆装損傷発生区間と塗覆装損傷発生とを監視することを特徴とする。
【0013】
前記地中埋設管の塗覆装損傷監視方法であって、前記監視は、前記第1の受信地点で受信された非同期擬似ランダム信号の相関ピーク値の変化による前記地中埋設管の接地抵抗を監視し、かつ、前記第2の受信地点で受信された非同期擬似ランダム信号の相関ピーク値の変化による前記地中埋設管の管対地電位を監視すると好適である。
【発明の効果】
【0014】
複数の受信地点を採用することにより損傷位置検知が容易であり、複雑な構成や複雑な計算とデータおよび位相調整が必要とならず、地中埋設管の塗覆装損傷監視装置および塗覆装損傷監視方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1はこの発明の被覆(塗覆装)鋼管10の塗覆装損傷監視装置100の構成を示す説明図である。塗覆装損傷監視装置100は、地中に埋設された被覆鋼管10に、被覆鋼管10へ第1の発信地点121から符号パターン1の非同期擬似ランダム信号を発信する第1の信号発信器201と、第1の発信地点から最遠方に位置する第2の発信地点122から符号パターン2の非同期擬似ランダム信号を発信する第2の信号発信器202と、鋼管10の第1の発信地点121、第2の発信地点122から地中埋設管の離れた地点で信号発信器201、202からの非同期擬似ランダム信号を受信する信号受信器30および40と、信号受信器30、40からの受信された情報に対して管対地電位と通電電流を単一の基本周波数をもつ非同期擬似ランダム信号の相関ピーク値の変化による前記地中埋設管の接地抵抗と管対地電位の変化により、前記埋設管の塗覆装損傷発生区間と塗覆装損傷発生とを監視する監視器としてコンピュータ50とで構成されている。コンピュータ50は、信号発信器201、202、信号受信器30および40に対して制御・演算できるように接続されている。
【0016】
第1の信号発信器201は通電電極211と符号パターン1の非同期擬似ランダム信号を鋼管10の発信地点121から発信するための発信電極221とを備えている。通電電極211、発信電極221は電流増幅器231に接続されている。電流増幅器231には基本周波数で符号パターン1の非同期擬似ランダム信号を発信する発信器251が接続されている。このような構成により符号パターン1の非同期擬似ランダム信号を鋼管10の発信地点121から発信電極221を通じて発信できるようになっている。
【0017】
第2の信号発信器202は通電電極212と符号パターン2の非同期擬似ランダム信号を鋼管10の発信地点122から発信するための発信電極222とを備えている。通電電極212、発信電極222は電流増幅器232に接続されている。電流増幅器232には符号パターン1の非同期擬似ランダム信号と同じ周波数を持つ符号パターン2の非同期擬似ランダム信号を発信する発信器252が接続されている。このような構成により符号パターン2の非同期擬似ランダム信号を鋼管10の発信地点122から発信電極222を通じて発信できるようになっている。
【0018】
擬似ランダム信号たる基本周波数の符号パターンは符号パターン1、符号パターン2を分離できるM系列信号を採用することができる。
【0019】
信号受信器30は、鋼管10の発信地点121、122から発信電極221、222を通じて発信器201、202から発信された非同期擬似ランダム信号を受信するように受信電極31が鋼管10に接続された状態とされ、さらに受信電極31からの符号パターン1を受信する受信器35と受信電極31からの符号パターン2を受信する受信器36と、受信器35、36に接続される照合電極34とを含んで構成されている。受信器35、36からの情報は伝送器33を通じてコンピュータ50へと送信される。受信器35、36は別個でなく一個体としてであってもよい。
【0020】
信号受信器40は、鋼管10の発信地点121、122から発信電極221、222を通じて発信器201、202から発信された非同期擬似ランダム信号を受信するように受信電極41が鋼管10に接続された状態とされ、さらに受信電極41からの符号パターン2を受信する受信器45と受信電極41からの符号パターン1を受信する受信器46と、受信器45、46に接続される照合電極44とを含んで構成されている。受信器45、46からの情報は伝送器43を通じてコンピュータ50へと送信される。受信器45、46は別個でなく一個体としてであってもよい。
【0021】
発信電極221、222は、第1の発信地点121と第2の発信地点122が鋼管10のそれぞれ相対的な両端側となるように接続されている。また、受信電極31が、第1の発信地点121側の被覆鋼管10端部に、受信電極41が、第2の発信地点122側の被覆鋼管10端部に接続されている。信号受信器30の受信電極31は発信地点121から信号受信器40の受信電極41よりも近い位置に設けられる。以下図1に示されるように、被覆鋼管10の受信電極31が設けられる方を通電1側、受信電極41が設けられる方を通電2側とし間を中央側と区間を定義して呼ぶ。
【0022】
信号受信器として通電1側の信号受信器30、通電2側の信号受信器40に加えて中央側に信号受信器を設けて信号を受信してもよい。複数あるが発信地点と対とならずに同じ位置側に配されていてもよい。
【0023】
発信器による発信地点は本実施形態のように管10の両端部から二点で発信すると、区間検知が容易となり、検知もより明瞭となる。
【0024】
塗覆装損傷監視装置100により被覆鋼管10の塗覆装損傷監視を行うと、多数の装置は勿論のこと、多数の装置を設置するための用地が必要となることを防止できる。すなわち、管路が長くなると被覆の静電容量の影響で分布定数回路の振る舞いを示すが、この現象を利用して損傷区間と損傷を検知する。特に通電点遠方で管対地電位は損傷があると大きく減衰するのでこれにより損傷有りとすることができる。
【0025】
以上の複数の発信点および受信点により同一基本周波数でありながら異なる符号パターンの非同期擬似ランダム信号による塗覆装損傷監視は管が長くても塗覆装損傷の有無、場所の確認がよりしやすく、かつ、損傷区間を求めるための測定器数をより少数とし、あわせて装置を設置するための用地もより少なくて済む地中埋設管の塗覆装損傷監視方法を提供できる。
【実施例】
【0026】
上記塗覆装損傷監視装置100により被覆鋼管10の塗覆装損傷監視を行った結果を図2に示す。なお実施例ではさらに中央側にも鋼管10に接続された受信器を設け、受信した基本周波数200Hz(符号パターン1、符号パターン2)をコンピュータ50で検出し、接地抵抗、管対地電位を得ている。
【0027】
通電1側が損傷した場合には、受信器35で測定される符号パターン1の接地抵抗が低下し、受信器36で測定される符号パターン2の管対地電位が低下した。さらに、受信器45で測定される符号パターン2の接地抵抗はやや上昇した。
【0028】
中央側が損傷した場合には、接地抵抗はやや低下した程度だが、受信器46および受信器36の管対地電位が低下した。
【0029】
通電2側が損傷した場合には、受信器46で測定される符号パターン1の管対地電位が低下し、受信器45で測定される接地抵抗が低下した。さらに、受信器35で測定される符号パターン1の接地抵抗はやや上昇した。
【0030】
このように塗覆装損傷が区間の通電1側、中央側、通電2側で発生したとき、通電1側の信号受信器30、および通電2側の信号受信器40で測定される符号パターン1、2の接地抵抗と管対地電位のそれぞれが特徴有る挙動として現れていることがわかった。したがって、このような接地抵抗、管対地電位の挙動の相違を用いて損傷の発生に加えて損傷箇所の特定を有効に行えることがわかった。したがって、この挙動を予めデータとして入手しておくことでこのデータが出たときに通電1側、中央側、通電2側どの場所で損傷が発生しているかを知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態に係る塗覆装損傷監視装置を示す模式図である。
【図2】本実施例に係る損傷発生と損傷場所の特定に係るデータ図である。
【符号の説明】
【0032】
10 … 鋼管
30、40 … 信号受信器
31、41 … 受信電極
33、43 … 伝送器
34、44 … 照合電極
35、36、45、46 … 受信器
50 … コンピュータ
100 … 塗覆装損傷監視装置
121 … 第1の発信地点
122 … 第2の発信地点
201 … 第1の信号発信器
202 … 第2の信号発信器
211、212 … 通電電極
221、222 … 発信電極
231、232 … 電流増幅器
251、252 … 発信器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中埋設管の塗覆装損傷監視装置であって、
埋設管の少なくとも一点以上の発信地点から基本周波数をもち、異なる符号パターンの非同期擬似ランダム信号を発信する信号発信器と、
前記発信地点で前記非同期擬似ランダム信号を受信する第1の受信器と、
前記発信地点から前記地中埋設管の離れた地点で前記非同期擬似ランダム信号を受信する第2の受信器と、
前記基本周波数をもつ非同期擬似ランダム信号の相関ピーク値の変化による前記地中埋設管の接地抵抗と管対地電位の変化により、前記埋設管の塗覆装損傷発生区間と塗覆装損傷発生とを監視する監視器と、を含む地中埋設管の塗覆装損傷監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の地中埋設管の塗覆装損傷監視装置であって、
前記監視器は、前記第1の受信器で受信された非同期擬似ランダム信号の相関ピーク値の変化による前記地中埋設管の接地抵抗を監視し、かつ、前記第2の受信器で受信された非同期擬似ランダム信号の相関ピーク値の変化による前記地中埋設管の管対地電位を監視する地中埋設管の塗覆装損傷監視装置。
【請求項3】
地中埋設管の塗覆装損傷監視方法であって、
埋設管の少なくとも二点以上の発信地点から基本周波数をもち、異なる符号パターンの非同期擬似ランダム信号をそれぞれ発信し、
前記発信地点と、発信地点から前記地中埋設管の離れた地点で前記非同期擬似ランダム信号を複数点で受信し、
前記基本周波数をもつ、異なる符号パターンにおける非同期擬似ランダム信号の相関ピーク値の変化による前記地中埋設管の接地抵抗と管対地電位の変化により、前記埋設管の塗覆装損傷発生区間と塗覆装損傷発生とを監視する地中埋設管の塗覆装損傷監視方法。
【請求項4】
請求項3に記載の地中埋設管の塗覆装損傷監視方法であって、
前記監視は、前記第1の受信地点で受信された非同期擬似ランダム信号の相関ピーク値の変化による前記地中埋設管の接地抵抗を監視し、かつ、前記第2の受信地点で受信された非同期擬似ランダム信号の相関ピーク値の変化による前記地中埋設管の管対地電位を監視する地中埋設管の塗覆装損傷監視方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−204523(P2009−204523A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48362(P2008−48362)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】