地中壁の構築方法
【課題】地中壁に作用する土圧に対して十分に抵抗でき長期安定性を確保できるうえ、容易な施工方法により地中壁を構築することができる。
【解決手段】地中防振壁3を設置する充填部Kを地盤中に掘削し、その充填部Kに対して所定のベントナイト有効乾燥密度となるように調整したベントナイト粒状態の材料、又はベントナイトと骨材の混合物の材料を袋体5に詰めたものを、充填部5に充填することで地中防振壁3を構築する。袋体5に詰める材料は、充填部5の深さ位置の土圧に見合ったベントナイト有効乾燥密度となるように調整するようにした。
【解決手段】地中防振壁3を設置する充填部Kを地盤中に掘削し、その充填部Kに対して所定のベントナイト有効乾燥密度となるように調整したベントナイト粒状態の材料、又はベントナイトと骨材の混合物の材料を袋体5に詰めたものを、充填部5に充填することで地中防振壁3を構築する。袋体5に詰める材料は、充填部5の深さ位置の土圧に見合ったベントナイト有効乾燥密度となるように調整するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時の開削トンネルなどの地中構造物への応力低減を図る目的や、地盤中を伝播してくる振動や騒音を低減する目的で設けられる地中壁の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、開削トンネルなどの地中構造物への地震時の応力低減を目的とした地中免震壁や、鉄道沿線や大型プレス装置を稼動させている工場などの騒音、振動発生源から地盤中を伝播してくる振動や騒音を低減する目的とした地中防振壁は、地中構造物に接する形で延長方向に連続的に設置しているのが一般的であり、この設置位置であれば、地中構造物の建設時に同時に構築することができる。このような地中免震壁や地中防振壁などの地中壁として、ポリマー改良土を打設した地盤変位吸収工法が例えば特許文献1に提案されている。
【0003】
一方、開削トンネルなどの地中構造物に対する地中免震壁として、地中構造物の延長方向に連続的に設置しない構造のものが例えば非特許文献1に開示されている。この非特許文献1では、地中に鉛直円柱状のポリマー改良土を地中構造物に沿って飛び飛びに断続的に配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−112182号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】室野剛隆、館山勝、桐生郷史、小林正介著、「ポリマー免震壁による既設開削トンネルの補強」、基礎工、2007.3、P69−71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の地中壁では、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1で開示されるようなポリマー改良土を打設する工法では、常時の土圧などの影響によりポリマー免震材が大きく圧縮変形する。そのため、施工時に設定した所定の地中免震壁の壁厚は、初期の壁厚を長期的に保持できず、場合によっては免震壁が潰れてしまう懸念があった、このような免震壁厚の変化は、ポリマー材免震壁の変位吸収性能が低下して地中免震壁による地盤変位吸収効果が十分に発揮されず、地震時の地中構造物の応力低減効果が低下するという問題があった。
【0007】
この対応として、地中免震壁を開削トンネルなどの地中構造物に沿って連続的に配置することを避け断続的な配置とした非特許文献1が検討される。しかし、連続して配置されない地中免震壁では、周辺地盤と構造物とが土で繋がっているため、本来の目的である変位を十分に吸収するという免震効果が著しく低下するという欠点があった。
また、ポリマー材は、地下水位が存在する地盤においては、ポリマー材が水に溶けてしまうため、施工が容易ではないという問題もあった。
【0008】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、地中壁に作用する土圧に対して十分に抵抗でき長期安定性を確保できるうえ、容易な施工方法により地中壁を構築することができる地中壁の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る地中壁の構築方法では、地中壁を設置する地中空間を地盤中に掘削する工程と、地中空間に対して所定のベントナイト有効乾燥密度となるように調整したベントナイトの材料、又はベントナイトと骨材の混合物の材料を袋体に詰めたものを、地中空間に充填する工程とを有することを特徴としている。
【0010】
本発明では、自然乾燥状態の粘土系材料を所定の容積を有する袋体に入れてから、その袋体を地中空間に充填すると、材料中のベントナイトが地下水を吸水して吸水膨張を始める。そして、予め所定のベントナイト有効乾燥密度となるようにベントナイトの材料、又はベントナイトと骨材の混合物の材料の配合を袋体内で調整しておくことで、ベントナイトが吸水して目的とするベントナイト有効乾燥密度の状態で前記地中空間に充填され、これにより地中免震壁や地中防振壁などの地中壁を容易に構築することができる。
そして、地中壁が吸水膨潤性を有するベントナイトの材料、又はベントナイトと骨材の混合物からなる粘土系材料から構成され、その材料の吸水膨潤性より土圧に対して反発して膨張するので、材料の周囲の地盤から受ける常時の土圧に抵抗できる反力をもたせることができ、地中壁の壁幅が一定に保たれ、長期安定性を確保できるとともに、材料密度変化の安定性に優れる利点がある。
【0011】
また、本発明に係る地中壁の構築方法では、袋体に詰める材料は、地中空間の充填部の深さ位置の土圧に見合ったベントナイト有効乾燥密度となるように調整されていることが好ましい。
本発明では、袋体ごとに異なるベントナイト有効乾燥密度の材料を入れておくことができ、予め袋体の容積と袋体に装填する材料を適宜設定しておくことで、地中壁の深さに応じたベントナイト有効乾燥密度となる配合で地中空間に充填して地中壁を容易に構築することができる。そのため、材料を地下空間に充填した後の材料調整作業が不要となり、土圧に見合った効果的な地中壁を設けることができる。
【0012】
また、本発明に係る地中壁の構築方法では、材料は、ベントナイト材料として粒子密度が1500〜2000kg/cm3程度の粒状ベントナイトを用いることが好ましい。
このようなベントナイト材料を袋体内に装填する材料に用いることで、所定のベントナイト有効乾燥密度の材料にすることが可能である。
【0013】
また、本発明に係る地中壁の構築方法では、袋体は、網状の部材からなることが好ましい。
本発明では、袋体内の粘土系材料が地下水を吸収して膨張すると、袋体の網目からベントナイトゲルが外部へ染み出て、他の袋体から漏出したベントナイトゲルと接着するので、地中空間に充填された複数の単体の袋体どうしが一体化された地中壁を構築することができる。
【0014】
また、本発明に係る地中壁の構築方法では、袋体は、水は浸透可能で、且つベントナイトおよび骨材は漏出させない部材であることが好ましい。
本発明では、袋体内に地下水が浸透して内部の吸水膨潤性を有する粘土系材料が膨張することになる。このとき、袋体がベントナイトおよび骨材は漏出させない部材であり、膨張した材料自体が袋体外へ漏出しないので、袋体を内部に装填した材料に応じた膨張率で膨張させることができ、設計が容易になり、設計の確実性を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の地中壁の構築方法によれば、地中壁を構成する粘土系材料が吸水膨潤性を有し、周囲の地盤から受ける常時の土圧に抵抗でき、地中壁の壁幅を一定に保つことができることから、長期安定性を確保できる。
また、効率よく掘削した地中空間に所定のベントナイト有効乾燥密度に相当する材料を満たすといった容易な施工方法により地中壁を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態による地中防振壁の構築方法の一例を示した側面図である。
【図2】ベントナイト乾燥密度と膨潤圧の関係を示す図である。
【図3】ベントナイト配合による混合物の三軸試験結果を示す図である。
【図4】動的三軸圧縮試験装置で求めたベントナイト繰返し非線形特性(応力−ひずみ関係)を示す図である。
【図5】(a)、(b)は地中防振壁の構築方法を示す図である。
【図6】図5(b)に続く地中防振壁の構築方法を示す図である。
【図7】粘土系材料を袋詰めする袋体を示す斜視図である。
【図8】袋体内の材料の状態を示す図であって、(a)は膨張前の図、(b)は膨張後の図である。
【図9】(a)〜(c)は第2の実施の形態による地中防振壁の構築方法を示す図である。
【図10】第1変形例による地中防振壁の設置状態を示す側面図である。
【図11】第2変形例による地中防振壁の設置状態を示す側面図である。
【図12】第3変形例による地中防振壁の設置状態を示す側面図である。
【図13】第4変形例による地中防振壁の設置状態を示す側面図である。
【図14】動的シミュレーションによる解析結果を示す図であって、地盤のせん断波速度比とせん断力低減率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本第1の発明の実施の形態による地中壁の構築方法について、図面に基づいて説明する。
【0018】
図1に示すように、本第1の実施の形態による地中壁の構築方法は、地下鉄道の躯体をなす地中構造物1(振動発生源)に対して、その近隣に建っている既存建物2側に近接して所定の幅にわたって地盤振動伝播抑制構造としての地中防振壁3(地中壁)を構築するためのものである。
ここで、地中構造物1は、開削トンネルなどにより構築されたボックスカルバートなどの鉄筋コンクリート製の構造物であり、地盤Gに埋設された状態で所定方向(図1に示す紙面に向かう方向)に延びて構築されている。そして、地盤G内では、地中構造物1内を走行する電車から発生する振動が地中構造物1から周囲へ向けて伝播している。
【0019】
地中防振壁3は、吸水膨潤性を有する粘土系材料からなるとともに、所定の壁幅D(図1参照)を有し、地中構造物1の既存建物2側の側面1aに近接して周辺地盤G内に配置され、地中構造物1の延長方向に連続する壁状構造となっている。
なお、地中防振壁3は、延設される地中構造物1の全長にわたって設けられることに限定されず、延長方向で部分的に設けられていてもよい。
【0020】
地中防振壁3を構成する粘土系材料として、ベントナイトと水の混合物(以下、「第1混合物」という)、或いはベントナイトと骨材と水との混合物(以下、「第2混合物」という)が用いられる。ここで、第2混合物における骨材とは、砂や砂礫などの土質材料、或いはガラスビーズなどの長期変質しにくい人工材料を採用することができる。
【0021】
第1混合物の場合、このベントナイトの密度を調整することにより、所定の膨潤圧を発揮することができるため、常時に作用する土圧に対する反力を確保することができる。
一方、第2混合物の場合、ベントナイト有効乾燥密度(ベントナイトと骨材を混合した材料の場合で、骨材間隙を満たしているベントナイト部分の密度を乾燥密度で示した値)を調整することにより、所定の膨潤圧を発揮することができるため、常時に作用する土圧に対する反力を確保することができる。
【0022】
そして、地中防振壁3を構成する材料において、ベントナイトと水で満たされている領域は、ベントナイト有効乾燥密度の値で300〜1200kg/m3の範囲としている。
この密度範囲とすれば、図2に示すように、吸水膨潤圧が0.03〜0.3MPaとなる。そのため、地盤Gの水中質量を約1g/cm3と仮定して、側方土圧が土被り圧の1倍とすると、深さ30mまでの土圧に耐えることができる。つまり、地中防振壁3の設置する深さに応じて材料の密度を適宜調整して構築することが可能であり、なるべく剛性が小さい材料を使うことにより防振効果を高めることができる。
図2は、非特許文献2(「締固めたベントナイト試料の膨潤圧測定方法に関する検討」、第40回地盤工学研究発表会、2005年7月、2574頁)に記載されている。なお、非特許文献2の「有効ベントナイト乾燥密度」は、「ベントナイト有効乾燥密度」と同じである。
なお、骨材が入っていない材料の場合は、ベントナイト密度のみなのでベントナイト乾燥密度であるが、ここでは「ベントナイト有効乾燥密度」として以下統一して用いる。
【0023】
さらに、地中防振壁3に用いる粘土系材料としては、上述したようにせん断剛性の小さい柔らかい材料が好ましく、これにより地震による地盤Gの動的変形を抑えることができ、また地盤中を伝播する振動波を低減することができる。
ここで、ベントナイトのせん断剛性は、ベントナイト有効乾燥密度によって異なる特性を有している。これは、骨材体積が材料中に占める割合が5割以下である場合には骨材粒子相互が接触して相互に応力を伝達する粒子構造とはならずに、骨材と骨材との間にベントナイトゲル(ベントナイトと水の混合物)が介在しているので、材料のせん断特性はベントナイトゲルの特性で主として決まるためである。したがって、ベントナイト有効乾燥密度を調整することにより、地中防振壁3の材料のせん断剛性を周囲の地盤Gより小さくすることができ、地中防振壁3の前方(図1で地中構造物1側)から伝わってきた地盤振動を吸収し、地中防振壁3の後方(図1で既存建物2側)への振動の伝達を低減して、地盤Gの動的変形を吸収する効果が期待できることになる。
【0024】
図3は、地中防振壁3の粘土系材料の三軸圧縮試験結果の例を示しており、ベントナイト配合のものは、拘束圧下で実施された豊浦砂の結果と比較して、剛性が小さくなっている。
また、図4に示す非線形特性は、図3で示したベントナイト配合3(ρd=0.7Mg/m3)の材料における動的三軸圧縮試験装置で求めた応力−ひずみ関係を示しており、地震時(繰り返しせん断時)にはヒステリシスを描くので、エネルギー吸収による減衰材料(ダンパー材料)として適している。この減衰効果は、ベントナイトに砂を混入することで、大きくすることができる。
【0025】
次に、上述した地中防振壁3の構築方法と、構築された地中防振壁3の作用について、図面に基づいて説明する。
すなわち、図5(a)、(b)に示すように、地中防振壁3の構築では、設置する予定の地中空間(充填部K)を地盤G中に掘削し、図6(a)、(b)に示すように、その掘削された充填部Kに対して所定のベントナイト有効乾燥密度となるように調整したベントナイトの材料、又はベントナイトと骨材の混合物の材料を袋体5に詰めたものを充填部Kに定置して充填する。このとき、充填部Kの深さ位置の土圧に見合うようにベントナイト有効乾燥密度の調整を行う。
【0026】
図7に示す袋体5としては、水は浸透可能で、且つベントナイトおよび骨材は漏出させない部材、すなわち膨張したベントナイトが容易に通過しない程度の材料が好ましく、例えばポリプロピレン繊維フラットヤーン平織り製の市販の土のう袋などを採用することができる。この市販の土のう袋であれば、袋内部からベントナイトの粒子はほとんど漏出することがない。
【0027】
具体的には、自然乾燥状態の粘土系材料を所定の容積を有する袋体5に入れてから、その袋体5を充填部Kに定置(あるいは投入)すると、材料中のベントナイトが地下水を吸水して吸水膨張を始める。そして、予め所定のベントナイト有効乾燥密度となるように袋体5内の材料の配合を調整しておくことで、ベントナイトが吸水して目的とするベントナイト有効乾燥密度の状態で充填部Kに充填され、これにより地中防振壁3を容易に構築することができる。
【0028】
ここで、例えばベントナイト有効乾燥密度が500kg/m3の材料を作る場合について説明する。
容積100Lの容積の袋体5において、この中に骨材4aを50L相当入れると、図8(a)に示すように骨材4a以外の領域の体積は50Lとなる。ここで、自然乾燥状態の一般的な市販のベントナイトの粉体4bのかさ密度は、略1000kg/m3(1000g/L)である。したがって、250kgの乾燥重量に相当するベントナイトの粉体4bを袋体5に入れることは可能である。この状態では、袋体5の体積において約25L相当のスペースが残されている。そして、図8(b)に示すように、この袋詰めした材料を地下に掘削した溝状の充填部K(図5参照)に定置すると、地下水を吸水してベントナイトが吸水膨張する。このとき、完全に吸水膨張してベントナイトゲル4c(ベントナイトと水の複合材料)が50Lになると、袋体5はこれ以上膨らむことがない。つまり、骨材領域を除いた領域は、ベントナイトゲル4cが満たしており、ベントナイト有効乾燥密度は500kg/m3相当となっている。
このように、材料の配合と袋体5の充填条件を変更することによって、ベントナイト有効乾燥密度が300〜1200kg/m3の範囲になるような材料で地下に掘削した溝状の地中空間(充填部K)を満たすことができる。
【0029】
なお、粘土系材料は、上述したようにベントナイトの粉体のかさ密度はおよそ1000kg/m3(1000g/L)であるが、予め締め固めた状態にすれば1200kg/m3(1200g/L)にすることが可能であり、これを用いることができる。
【0030】
また、粘土系材料は、ベントナイト材料として粒子密度が1500〜2000kg/cm3程度の粒状ベントナイトを用いるようにしてもよい。
すなわち、粒子密度が1500〜2000kg/m3程度の粒状ベントナイト(原鉱石を破砕したもの、或いはペレット状の材料)を一部利用することで、所定のベントナイト有効乾燥密度の材料にすることが可能である。
【0031】
また、袋体5に詰める材料が充填部Kの充填部の深さ位置の土圧に見合ったベントナイト有効乾燥密度となるように調整されているので、袋体5ごとに異なるベントナイト有効乾燥密度の材料を入れておくことができ、予め袋体5の容積と袋体5に装填する材料を適宜設定しておくことで、地中防振壁3の深さに応じたベントナイト有効乾燥密度となる配合で充填部Kに充填して地中防振壁3を容易に構築することができる。そのため、材料を充填部Kに充填した後の材料調整作業が不要となり、土圧に見合った効果的な地中防振壁3を設けることができる。
【0032】
さらにまた、袋体5が水のみが浸透する部材であることから、袋体5内に地下水が浸透して内部の吸水膨潤性を有する粘土系材料が膨張することになるが、このとき、膨張した材料が袋体5外へ漏出しないので、袋体5を内部に装填した材料に応じた膨張率で膨張させることができ、設計が容易になり、設計の確実性を高めることができる。
【0033】
上述した構築方法では、地中防振壁3が吸水膨潤性を有するベントナイトの材料、又はベントナイトと骨材の混合物からなる粘土系材料から構成され、その材料の吸水膨潤性より土圧に対して反発して膨張するので、材料の周囲の地盤Gから受ける常時の土圧に抵抗できる反力をもたせることができ、地中防振壁3の壁幅が一定に保たれ、長期安定性を確保できるとともに、材料密度変化の安定性に優れる利点がある。
【0034】
そして、地中防振壁3が地中構造物1と既存建物2との間に設けられるので、地中構造物1より生じる発生振動が地盤G内に伝播し、既存建物2との間に位置する地中防振壁3によりその振動がほとんど吸収され、地中防振壁3の外側(図1で紙面右側)に位置する既存建物2への振動の影響を最小限にすることができる。
【0035】
しかも、ベントナイトの吸水膨張特性により、地下水位が高い環境下においても施工が容易である。なお、地下水位が低くても地盤Gが乾燥していなければ、ベントナイトは自らの吸水膨潤性を発揮して構築時に保水した水を保持し続けるので、乾燥によって剛性が変化することはなく、地下水位が低くても機能が失われることはない。
さらに、地中防振壁3にひび割れや何らかの損傷が生じたとしても、地下水が浸透してくる条件下ではその損傷を自己修復することができ、地中防振壁3を構成する粘土系材料が天然の無機質鉱物材料であることから、変質が無く、且つ保水状態も変化し難く、メンテンスが不要になるという効果を奏する。
【0036】
そして、新規に地中構造物1を構築する際に、それに近接するようにして地中防振壁3を構築しているが、このような場合に地中構造物1の周囲に必要な構築空間を小さくすることができる。また、既設の地中構造物1の近傍の地中に対して、後から地中防振壁3を構築する場合であっても、隣接した地中構造物が存在する狭隘な場所や狭い敷地の中で地中構造物の外側に、既設構造物の免震対策として設置することも可能である。
さらに、耐震基準を満足しない地中構造物1に対する耐震補強工事においても、既存構造物では耐震補強し難いとされている地中構造物1の補強に有効に活用できる。
【0037】
上述のように本第1の実施の形態による地中壁の構築方法では、地中防振壁3を構成する粘土系材料が吸水膨潤性を有し、周囲の地盤Gから受ける常時の土圧に抵抗でき、地中防振壁3の壁幅を一定に保つことができることから、長期安定性を確保できる。
また、効率よく掘削した地中空間(充填部K)に所定のベントナイト有効乾燥密度に相当する材料を満たすといった容易な施工方法により地中防振壁3を構築することができる。
【0038】
次に、本発明の地中壁の構築方法による他の実施の形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1の実施の形態と異なる構成について説明する。
【0039】
図9に示すように、第2の実施の形態による地中壁の構築方法は、地下に掘削した溝状の地中空間(充填部K)を泥水6で置換した状態で掘削する方法によるものである。
すなわち、図9(a)に示すように、地中防振壁3を設置するための所定の充填部Kを泥水6で満たしながら掘削した後、図9(b)に示すように泥水6で満たされた充填部Kに所定の配合に設定された粘土系材料を詰めた袋体5を底から順に定置させて、充填部K全体に袋体5を充填する(図9(c)参照)。
この場合、袋体5が泥水6中をゆっくり沈降して充填部Kの底に着底し、やがて吸水膨張を始める。そのため、所定のベントナイト有効乾燥密度となるように袋体5を設定しておくので、ベントナイトが吸水して狙った状態の材料となる。
【0040】
このように、本第2の実施の形態では、泥水6の密度が周囲の地盤Gの地下水の密度よりも若干重いことから、掘削した地盤側面に浸透する動きが存在し、その結果、地盤側面にマッドケーキが生じて透水性の小さい薄い粘土層が形成され、この薄い粘土層に泥水6の圧力が作用することによって地盤側面の崩壊を防止することができ、地盤側面の地盤の安定性を確保することができる。その結果、より長い掘削区間にわたって掘削が可能になるので、より効率的な構築方法とすることができる。
【0041】
以上、本発明による地中壁の構築方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では袋体5として水のみを浸透させる土のう袋を採用しているが、このような部材に限定されることはなく、例えば網状の材料からなる袋体を用いることも可能である。このような網状の袋体の場合、袋体内の粘土系材料が地下水を吸収して膨張すると、袋体の網目からベントナイトゲルが外部へ染み出て、他の袋体から漏出したベントナイトゲルと接着するので、地中空間に充填された複数の単体の袋体どうしが一体化された地中壁を構築することができる。
【0042】
さらに、本実施の形態では粘土系材料を装填した袋体5を充填部Kの地中空間全体に充填しているが、例えば地中空間の略下半部の領域に部分的に配置し、その上半部の領域にはベントナイトと水の混合物やベントナイトと骨材と水の混合物などを適宜配合したスラリーを充填するようにしてもかまわない。
【0043】
また、本実施の形態では地下鉄道のトンネルをなす地中構造物1の側面1aに地中防振壁3を近接する位置に設けた構成としているが、これに限定されることはない。例えば、図10に示す変形例1のように、地中防振壁3を地中構造物1と既存建物2との間で、地中構造物1から所定の間隔だけ離れた位置に設けるようにしても良い。また、図11に示す第2変形例のようにホテルや病院などの高層建物などの既存建物2Aの地中構造物1側に近接する位置に地中防振壁3を設けることも可能である。
さらに、図12、図13に示すように、高架鉄道の基礎を地中構造物1A(振動発生源)としてもよいし、その他、とくに図示しないが振動発生機械据付け基礎、高架道路の基礎などを対象とすることができる。
【0044】
なお、図10に示すように、地中防振壁3の上部(地表側)には、図6(a)に示す充填部Kに充填された粘土系材料(袋体5)がその充填部Kから上方に膨出しないように、蓋の機能を有する閉塞部材7を設けるようにしても良い。この閉塞部材7は、例えば充填部Kに対して地表から所定の深さまで袋体5を充填した後、残りの地表側の地中空間にコンクリートを打設することにより施工することができる。
【0045】
また、本実施の形態では地中壁として地盤振動伝播抑制構造の地中防振壁3を対象としているが、これに限定されることはなく、地中構造物1への応力低減を図る目的で設ける地中免震壁(地中壁)をであってもかまわない。この場合、例えば粘土系材料は周囲の地盤に比べて0.6倍以下の剛性とすることで、地中構造物1のせん断力低減効果が得られ、地震時の地盤の変形を緩和することができ、免震効果を発揮することができる。
これは、周辺地盤と地中免震壁の粘土系材料のせん断波速度Vsの比が異なる場合について、せん断力低減率を動的シミュレーションによって試算した解析結果(図14参照)に基づいて確認することができる。ここで、せん断力低減率は、地中免震壁を設けた場合の地中構造物に生じるせん断力を地中免震壁が無い場合の地中構造物に生じるせん断力で除した値である。
図14に示す動的シミュレーションでは、地中免震壁の壁幅を0.5mと1.0mの2ケースとし、0.6以下のせん断波速度比において、地中構造物の応力低減効果が得られている。すなわち、周囲の地盤よりも著しく柔らかい(小さいせん断剛性の)材料を使う必要はないことが確認でき、これにより材料の設計がし難いことがないことがいえる。
【0046】
なお、上述した実施の形態では既存建物2、2Aを対象としているが、新設する建物であってもかまわない。この新設建物の場合には、建物の設置と同時に上述した実施の形態のように適宜な位置に地中防振壁3を構築することができる。
【符号の説明】
【0047】
1、1A 地中構造物
2、2A 既存建物
3 地中防振壁(地中壁)
5 袋体
6 泥水
7 閉塞部材
G 地盤
K 充填部(地中空間)
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時の開削トンネルなどの地中構造物への応力低減を図る目的や、地盤中を伝播してくる振動や騒音を低減する目的で設けられる地中壁の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、開削トンネルなどの地中構造物への地震時の応力低減を目的とした地中免震壁や、鉄道沿線や大型プレス装置を稼動させている工場などの騒音、振動発生源から地盤中を伝播してくる振動や騒音を低減する目的とした地中防振壁は、地中構造物に接する形で延長方向に連続的に設置しているのが一般的であり、この設置位置であれば、地中構造物の建設時に同時に構築することができる。このような地中免震壁や地中防振壁などの地中壁として、ポリマー改良土を打設した地盤変位吸収工法が例えば特許文献1に提案されている。
【0003】
一方、開削トンネルなどの地中構造物に対する地中免震壁として、地中構造物の延長方向に連続的に設置しない構造のものが例えば非特許文献1に開示されている。この非特許文献1では、地中に鉛直円柱状のポリマー改良土を地中構造物に沿って飛び飛びに断続的に配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−112182号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】室野剛隆、館山勝、桐生郷史、小林正介著、「ポリマー免震壁による既設開削トンネルの補強」、基礎工、2007.3、P69−71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の地中壁では、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1で開示されるようなポリマー改良土を打設する工法では、常時の土圧などの影響によりポリマー免震材が大きく圧縮変形する。そのため、施工時に設定した所定の地中免震壁の壁厚は、初期の壁厚を長期的に保持できず、場合によっては免震壁が潰れてしまう懸念があった、このような免震壁厚の変化は、ポリマー材免震壁の変位吸収性能が低下して地中免震壁による地盤変位吸収効果が十分に発揮されず、地震時の地中構造物の応力低減効果が低下するという問題があった。
【0007】
この対応として、地中免震壁を開削トンネルなどの地中構造物に沿って連続的に配置することを避け断続的な配置とした非特許文献1が検討される。しかし、連続して配置されない地中免震壁では、周辺地盤と構造物とが土で繋がっているため、本来の目的である変位を十分に吸収するという免震効果が著しく低下するという欠点があった。
また、ポリマー材は、地下水位が存在する地盤においては、ポリマー材が水に溶けてしまうため、施工が容易ではないという問題もあった。
【0008】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、地中壁に作用する土圧に対して十分に抵抗でき長期安定性を確保できるうえ、容易な施工方法により地中壁を構築することができる地中壁の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る地中壁の構築方法では、地中壁を設置する地中空間を地盤中に掘削する工程と、地中空間に対して所定のベントナイト有効乾燥密度となるように調整したベントナイトの材料、又はベントナイトと骨材の混合物の材料を袋体に詰めたものを、地中空間に充填する工程とを有することを特徴としている。
【0010】
本発明では、自然乾燥状態の粘土系材料を所定の容積を有する袋体に入れてから、その袋体を地中空間に充填すると、材料中のベントナイトが地下水を吸水して吸水膨張を始める。そして、予め所定のベントナイト有効乾燥密度となるようにベントナイトの材料、又はベントナイトと骨材の混合物の材料の配合を袋体内で調整しておくことで、ベントナイトが吸水して目的とするベントナイト有効乾燥密度の状態で前記地中空間に充填され、これにより地中免震壁や地中防振壁などの地中壁を容易に構築することができる。
そして、地中壁が吸水膨潤性を有するベントナイトの材料、又はベントナイトと骨材の混合物からなる粘土系材料から構成され、その材料の吸水膨潤性より土圧に対して反発して膨張するので、材料の周囲の地盤から受ける常時の土圧に抵抗できる反力をもたせることができ、地中壁の壁幅が一定に保たれ、長期安定性を確保できるとともに、材料密度変化の安定性に優れる利点がある。
【0011】
また、本発明に係る地中壁の構築方法では、袋体に詰める材料は、地中空間の充填部の深さ位置の土圧に見合ったベントナイト有効乾燥密度となるように調整されていることが好ましい。
本発明では、袋体ごとに異なるベントナイト有効乾燥密度の材料を入れておくことができ、予め袋体の容積と袋体に装填する材料を適宜設定しておくことで、地中壁の深さに応じたベントナイト有効乾燥密度となる配合で地中空間に充填して地中壁を容易に構築することができる。そのため、材料を地下空間に充填した後の材料調整作業が不要となり、土圧に見合った効果的な地中壁を設けることができる。
【0012】
また、本発明に係る地中壁の構築方法では、材料は、ベントナイト材料として粒子密度が1500〜2000kg/cm3程度の粒状ベントナイトを用いることが好ましい。
このようなベントナイト材料を袋体内に装填する材料に用いることで、所定のベントナイト有効乾燥密度の材料にすることが可能である。
【0013】
また、本発明に係る地中壁の構築方法では、袋体は、網状の部材からなることが好ましい。
本発明では、袋体内の粘土系材料が地下水を吸収して膨張すると、袋体の網目からベントナイトゲルが外部へ染み出て、他の袋体から漏出したベントナイトゲルと接着するので、地中空間に充填された複数の単体の袋体どうしが一体化された地中壁を構築することができる。
【0014】
また、本発明に係る地中壁の構築方法では、袋体は、水は浸透可能で、且つベントナイトおよび骨材は漏出させない部材であることが好ましい。
本発明では、袋体内に地下水が浸透して内部の吸水膨潤性を有する粘土系材料が膨張することになる。このとき、袋体がベントナイトおよび骨材は漏出させない部材であり、膨張した材料自体が袋体外へ漏出しないので、袋体を内部に装填した材料に応じた膨張率で膨張させることができ、設計が容易になり、設計の確実性を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の地中壁の構築方法によれば、地中壁を構成する粘土系材料が吸水膨潤性を有し、周囲の地盤から受ける常時の土圧に抵抗でき、地中壁の壁幅を一定に保つことができることから、長期安定性を確保できる。
また、効率よく掘削した地中空間に所定のベントナイト有効乾燥密度に相当する材料を満たすといった容易な施工方法により地中壁を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態による地中防振壁の構築方法の一例を示した側面図である。
【図2】ベントナイト乾燥密度と膨潤圧の関係を示す図である。
【図3】ベントナイト配合による混合物の三軸試験結果を示す図である。
【図4】動的三軸圧縮試験装置で求めたベントナイト繰返し非線形特性(応力−ひずみ関係)を示す図である。
【図5】(a)、(b)は地中防振壁の構築方法を示す図である。
【図6】図5(b)に続く地中防振壁の構築方法を示す図である。
【図7】粘土系材料を袋詰めする袋体を示す斜視図である。
【図8】袋体内の材料の状態を示す図であって、(a)は膨張前の図、(b)は膨張後の図である。
【図9】(a)〜(c)は第2の実施の形態による地中防振壁の構築方法を示す図である。
【図10】第1変形例による地中防振壁の設置状態を示す側面図である。
【図11】第2変形例による地中防振壁の設置状態を示す側面図である。
【図12】第3変形例による地中防振壁の設置状態を示す側面図である。
【図13】第4変形例による地中防振壁の設置状態を示す側面図である。
【図14】動的シミュレーションによる解析結果を示す図であって、地盤のせん断波速度比とせん断力低減率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本第1の発明の実施の形態による地中壁の構築方法について、図面に基づいて説明する。
【0018】
図1に示すように、本第1の実施の形態による地中壁の構築方法は、地下鉄道の躯体をなす地中構造物1(振動発生源)に対して、その近隣に建っている既存建物2側に近接して所定の幅にわたって地盤振動伝播抑制構造としての地中防振壁3(地中壁)を構築するためのものである。
ここで、地中構造物1は、開削トンネルなどにより構築されたボックスカルバートなどの鉄筋コンクリート製の構造物であり、地盤Gに埋設された状態で所定方向(図1に示す紙面に向かう方向)に延びて構築されている。そして、地盤G内では、地中構造物1内を走行する電車から発生する振動が地中構造物1から周囲へ向けて伝播している。
【0019】
地中防振壁3は、吸水膨潤性を有する粘土系材料からなるとともに、所定の壁幅D(図1参照)を有し、地中構造物1の既存建物2側の側面1aに近接して周辺地盤G内に配置され、地中構造物1の延長方向に連続する壁状構造となっている。
なお、地中防振壁3は、延設される地中構造物1の全長にわたって設けられることに限定されず、延長方向で部分的に設けられていてもよい。
【0020】
地中防振壁3を構成する粘土系材料として、ベントナイトと水の混合物(以下、「第1混合物」という)、或いはベントナイトと骨材と水との混合物(以下、「第2混合物」という)が用いられる。ここで、第2混合物における骨材とは、砂や砂礫などの土質材料、或いはガラスビーズなどの長期変質しにくい人工材料を採用することができる。
【0021】
第1混合物の場合、このベントナイトの密度を調整することにより、所定の膨潤圧を発揮することができるため、常時に作用する土圧に対する反力を確保することができる。
一方、第2混合物の場合、ベントナイト有効乾燥密度(ベントナイトと骨材を混合した材料の場合で、骨材間隙を満たしているベントナイト部分の密度を乾燥密度で示した値)を調整することにより、所定の膨潤圧を発揮することができるため、常時に作用する土圧に対する反力を確保することができる。
【0022】
そして、地中防振壁3を構成する材料において、ベントナイトと水で満たされている領域は、ベントナイト有効乾燥密度の値で300〜1200kg/m3の範囲としている。
この密度範囲とすれば、図2に示すように、吸水膨潤圧が0.03〜0.3MPaとなる。そのため、地盤Gの水中質量を約1g/cm3と仮定して、側方土圧が土被り圧の1倍とすると、深さ30mまでの土圧に耐えることができる。つまり、地中防振壁3の設置する深さに応じて材料の密度を適宜調整して構築することが可能であり、なるべく剛性が小さい材料を使うことにより防振効果を高めることができる。
図2は、非特許文献2(「締固めたベントナイト試料の膨潤圧測定方法に関する検討」、第40回地盤工学研究発表会、2005年7月、2574頁)に記載されている。なお、非特許文献2の「有効ベントナイト乾燥密度」は、「ベントナイト有効乾燥密度」と同じである。
なお、骨材が入っていない材料の場合は、ベントナイト密度のみなのでベントナイト乾燥密度であるが、ここでは「ベントナイト有効乾燥密度」として以下統一して用いる。
【0023】
さらに、地中防振壁3に用いる粘土系材料としては、上述したようにせん断剛性の小さい柔らかい材料が好ましく、これにより地震による地盤Gの動的変形を抑えることができ、また地盤中を伝播する振動波を低減することができる。
ここで、ベントナイトのせん断剛性は、ベントナイト有効乾燥密度によって異なる特性を有している。これは、骨材体積が材料中に占める割合が5割以下である場合には骨材粒子相互が接触して相互に応力を伝達する粒子構造とはならずに、骨材と骨材との間にベントナイトゲル(ベントナイトと水の混合物)が介在しているので、材料のせん断特性はベントナイトゲルの特性で主として決まるためである。したがって、ベントナイト有効乾燥密度を調整することにより、地中防振壁3の材料のせん断剛性を周囲の地盤Gより小さくすることができ、地中防振壁3の前方(図1で地中構造物1側)から伝わってきた地盤振動を吸収し、地中防振壁3の後方(図1で既存建物2側)への振動の伝達を低減して、地盤Gの動的変形を吸収する効果が期待できることになる。
【0024】
図3は、地中防振壁3の粘土系材料の三軸圧縮試験結果の例を示しており、ベントナイト配合のものは、拘束圧下で実施された豊浦砂の結果と比較して、剛性が小さくなっている。
また、図4に示す非線形特性は、図3で示したベントナイト配合3(ρd=0.7Mg/m3)の材料における動的三軸圧縮試験装置で求めた応力−ひずみ関係を示しており、地震時(繰り返しせん断時)にはヒステリシスを描くので、エネルギー吸収による減衰材料(ダンパー材料)として適している。この減衰効果は、ベントナイトに砂を混入することで、大きくすることができる。
【0025】
次に、上述した地中防振壁3の構築方法と、構築された地中防振壁3の作用について、図面に基づいて説明する。
すなわち、図5(a)、(b)に示すように、地中防振壁3の構築では、設置する予定の地中空間(充填部K)を地盤G中に掘削し、図6(a)、(b)に示すように、その掘削された充填部Kに対して所定のベントナイト有効乾燥密度となるように調整したベントナイトの材料、又はベントナイトと骨材の混合物の材料を袋体5に詰めたものを充填部Kに定置して充填する。このとき、充填部Kの深さ位置の土圧に見合うようにベントナイト有効乾燥密度の調整を行う。
【0026】
図7に示す袋体5としては、水は浸透可能で、且つベントナイトおよび骨材は漏出させない部材、すなわち膨張したベントナイトが容易に通過しない程度の材料が好ましく、例えばポリプロピレン繊維フラットヤーン平織り製の市販の土のう袋などを採用することができる。この市販の土のう袋であれば、袋内部からベントナイトの粒子はほとんど漏出することがない。
【0027】
具体的には、自然乾燥状態の粘土系材料を所定の容積を有する袋体5に入れてから、その袋体5を充填部Kに定置(あるいは投入)すると、材料中のベントナイトが地下水を吸水して吸水膨張を始める。そして、予め所定のベントナイト有効乾燥密度となるように袋体5内の材料の配合を調整しておくことで、ベントナイトが吸水して目的とするベントナイト有効乾燥密度の状態で充填部Kに充填され、これにより地中防振壁3を容易に構築することができる。
【0028】
ここで、例えばベントナイト有効乾燥密度が500kg/m3の材料を作る場合について説明する。
容積100Lの容積の袋体5において、この中に骨材4aを50L相当入れると、図8(a)に示すように骨材4a以外の領域の体積は50Lとなる。ここで、自然乾燥状態の一般的な市販のベントナイトの粉体4bのかさ密度は、略1000kg/m3(1000g/L)である。したがって、250kgの乾燥重量に相当するベントナイトの粉体4bを袋体5に入れることは可能である。この状態では、袋体5の体積において約25L相当のスペースが残されている。そして、図8(b)に示すように、この袋詰めした材料を地下に掘削した溝状の充填部K(図5参照)に定置すると、地下水を吸水してベントナイトが吸水膨張する。このとき、完全に吸水膨張してベントナイトゲル4c(ベントナイトと水の複合材料)が50Lになると、袋体5はこれ以上膨らむことがない。つまり、骨材領域を除いた領域は、ベントナイトゲル4cが満たしており、ベントナイト有効乾燥密度は500kg/m3相当となっている。
このように、材料の配合と袋体5の充填条件を変更することによって、ベントナイト有効乾燥密度が300〜1200kg/m3の範囲になるような材料で地下に掘削した溝状の地中空間(充填部K)を満たすことができる。
【0029】
なお、粘土系材料は、上述したようにベントナイトの粉体のかさ密度はおよそ1000kg/m3(1000g/L)であるが、予め締め固めた状態にすれば1200kg/m3(1200g/L)にすることが可能であり、これを用いることができる。
【0030】
また、粘土系材料は、ベントナイト材料として粒子密度が1500〜2000kg/cm3程度の粒状ベントナイトを用いるようにしてもよい。
すなわち、粒子密度が1500〜2000kg/m3程度の粒状ベントナイト(原鉱石を破砕したもの、或いはペレット状の材料)を一部利用することで、所定のベントナイト有効乾燥密度の材料にすることが可能である。
【0031】
また、袋体5に詰める材料が充填部Kの充填部の深さ位置の土圧に見合ったベントナイト有効乾燥密度となるように調整されているので、袋体5ごとに異なるベントナイト有効乾燥密度の材料を入れておくことができ、予め袋体5の容積と袋体5に装填する材料を適宜設定しておくことで、地中防振壁3の深さに応じたベントナイト有効乾燥密度となる配合で充填部Kに充填して地中防振壁3を容易に構築することができる。そのため、材料を充填部Kに充填した後の材料調整作業が不要となり、土圧に見合った効果的な地中防振壁3を設けることができる。
【0032】
さらにまた、袋体5が水のみが浸透する部材であることから、袋体5内に地下水が浸透して内部の吸水膨潤性を有する粘土系材料が膨張することになるが、このとき、膨張した材料が袋体5外へ漏出しないので、袋体5を内部に装填した材料に応じた膨張率で膨張させることができ、設計が容易になり、設計の確実性を高めることができる。
【0033】
上述した構築方法では、地中防振壁3が吸水膨潤性を有するベントナイトの材料、又はベントナイトと骨材の混合物からなる粘土系材料から構成され、その材料の吸水膨潤性より土圧に対して反発して膨張するので、材料の周囲の地盤Gから受ける常時の土圧に抵抗できる反力をもたせることができ、地中防振壁3の壁幅が一定に保たれ、長期安定性を確保できるとともに、材料密度変化の安定性に優れる利点がある。
【0034】
そして、地中防振壁3が地中構造物1と既存建物2との間に設けられるので、地中構造物1より生じる発生振動が地盤G内に伝播し、既存建物2との間に位置する地中防振壁3によりその振動がほとんど吸収され、地中防振壁3の外側(図1で紙面右側)に位置する既存建物2への振動の影響を最小限にすることができる。
【0035】
しかも、ベントナイトの吸水膨張特性により、地下水位が高い環境下においても施工が容易である。なお、地下水位が低くても地盤Gが乾燥していなければ、ベントナイトは自らの吸水膨潤性を発揮して構築時に保水した水を保持し続けるので、乾燥によって剛性が変化することはなく、地下水位が低くても機能が失われることはない。
さらに、地中防振壁3にひび割れや何らかの損傷が生じたとしても、地下水が浸透してくる条件下ではその損傷を自己修復することができ、地中防振壁3を構成する粘土系材料が天然の無機質鉱物材料であることから、変質が無く、且つ保水状態も変化し難く、メンテンスが不要になるという効果を奏する。
【0036】
そして、新規に地中構造物1を構築する際に、それに近接するようにして地中防振壁3を構築しているが、このような場合に地中構造物1の周囲に必要な構築空間を小さくすることができる。また、既設の地中構造物1の近傍の地中に対して、後から地中防振壁3を構築する場合であっても、隣接した地中構造物が存在する狭隘な場所や狭い敷地の中で地中構造物の外側に、既設構造物の免震対策として設置することも可能である。
さらに、耐震基準を満足しない地中構造物1に対する耐震補強工事においても、既存構造物では耐震補強し難いとされている地中構造物1の補強に有効に活用できる。
【0037】
上述のように本第1の実施の形態による地中壁の構築方法では、地中防振壁3を構成する粘土系材料が吸水膨潤性を有し、周囲の地盤Gから受ける常時の土圧に抵抗でき、地中防振壁3の壁幅を一定に保つことができることから、長期安定性を確保できる。
また、効率よく掘削した地中空間(充填部K)に所定のベントナイト有効乾燥密度に相当する材料を満たすといった容易な施工方法により地中防振壁3を構築することができる。
【0038】
次に、本発明の地中壁の構築方法による他の実施の形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1の実施の形態と異なる構成について説明する。
【0039】
図9に示すように、第2の実施の形態による地中壁の構築方法は、地下に掘削した溝状の地中空間(充填部K)を泥水6で置換した状態で掘削する方法によるものである。
すなわち、図9(a)に示すように、地中防振壁3を設置するための所定の充填部Kを泥水6で満たしながら掘削した後、図9(b)に示すように泥水6で満たされた充填部Kに所定の配合に設定された粘土系材料を詰めた袋体5を底から順に定置させて、充填部K全体に袋体5を充填する(図9(c)参照)。
この場合、袋体5が泥水6中をゆっくり沈降して充填部Kの底に着底し、やがて吸水膨張を始める。そのため、所定のベントナイト有効乾燥密度となるように袋体5を設定しておくので、ベントナイトが吸水して狙った状態の材料となる。
【0040】
このように、本第2の実施の形態では、泥水6の密度が周囲の地盤Gの地下水の密度よりも若干重いことから、掘削した地盤側面に浸透する動きが存在し、その結果、地盤側面にマッドケーキが生じて透水性の小さい薄い粘土層が形成され、この薄い粘土層に泥水6の圧力が作用することによって地盤側面の崩壊を防止することができ、地盤側面の地盤の安定性を確保することができる。その結果、より長い掘削区間にわたって掘削が可能になるので、より効率的な構築方法とすることができる。
【0041】
以上、本発明による地中壁の構築方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では袋体5として水のみを浸透させる土のう袋を採用しているが、このような部材に限定されることはなく、例えば網状の材料からなる袋体を用いることも可能である。このような網状の袋体の場合、袋体内の粘土系材料が地下水を吸収して膨張すると、袋体の網目からベントナイトゲルが外部へ染み出て、他の袋体から漏出したベントナイトゲルと接着するので、地中空間に充填された複数の単体の袋体どうしが一体化された地中壁を構築することができる。
【0042】
さらに、本実施の形態では粘土系材料を装填した袋体5を充填部Kの地中空間全体に充填しているが、例えば地中空間の略下半部の領域に部分的に配置し、その上半部の領域にはベントナイトと水の混合物やベントナイトと骨材と水の混合物などを適宜配合したスラリーを充填するようにしてもかまわない。
【0043】
また、本実施の形態では地下鉄道のトンネルをなす地中構造物1の側面1aに地中防振壁3を近接する位置に設けた構成としているが、これに限定されることはない。例えば、図10に示す変形例1のように、地中防振壁3を地中構造物1と既存建物2との間で、地中構造物1から所定の間隔だけ離れた位置に設けるようにしても良い。また、図11に示す第2変形例のようにホテルや病院などの高層建物などの既存建物2Aの地中構造物1側に近接する位置に地中防振壁3を設けることも可能である。
さらに、図12、図13に示すように、高架鉄道の基礎を地中構造物1A(振動発生源)としてもよいし、その他、とくに図示しないが振動発生機械据付け基礎、高架道路の基礎などを対象とすることができる。
【0044】
なお、図10に示すように、地中防振壁3の上部(地表側)には、図6(a)に示す充填部Kに充填された粘土系材料(袋体5)がその充填部Kから上方に膨出しないように、蓋の機能を有する閉塞部材7を設けるようにしても良い。この閉塞部材7は、例えば充填部Kに対して地表から所定の深さまで袋体5を充填した後、残りの地表側の地中空間にコンクリートを打設することにより施工することができる。
【0045】
また、本実施の形態では地中壁として地盤振動伝播抑制構造の地中防振壁3を対象としているが、これに限定されることはなく、地中構造物1への応力低減を図る目的で設ける地中免震壁(地中壁)をであってもかまわない。この場合、例えば粘土系材料は周囲の地盤に比べて0.6倍以下の剛性とすることで、地中構造物1のせん断力低減効果が得られ、地震時の地盤の変形を緩和することができ、免震効果を発揮することができる。
これは、周辺地盤と地中免震壁の粘土系材料のせん断波速度Vsの比が異なる場合について、せん断力低減率を動的シミュレーションによって試算した解析結果(図14参照)に基づいて確認することができる。ここで、せん断力低減率は、地中免震壁を設けた場合の地中構造物に生じるせん断力を地中免震壁が無い場合の地中構造物に生じるせん断力で除した値である。
図14に示す動的シミュレーションでは、地中免震壁の壁幅を0.5mと1.0mの2ケースとし、0.6以下のせん断波速度比において、地中構造物の応力低減効果が得られている。すなわち、周囲の地盤よりも著しく柔らかい(小さいせん断剛性の)材料を使う必要はないことが確認でき、これにより材料の設計がし難いことがないことがいえる。
【0046】
なお、上述した実施の形態では既存建物2、2Aを対象としているが、新設する建物であってもかまわない。この新設建物の場合には、建物の設置と同時に上述した実施の形態のように適宜な位置に地中防振壁3を構築することができる。
【符号の説明】
【0047】
1、1A 地中構造物
2、2A 既存建物
3 地中防振壁(地中壁)
5 袋体
6 泥水
7 閉塞部材
G 地盤
K 充填部(地中空間)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中壁を設置する地中空間を地盤中に掘削する工程と、
前記地中空間に対して所定のベントナイト有効乾燥密度となるように調整したベントナイトの材料、又はベントナイトと骨材の混合物の材料を袋体に詰めたものを、前記地中空間に充填する工程と、
を有することを特徴とする地中壁の構築方法。
【請求項2】
前記袋体に詰める材料は、前記地中空間の充填部の深さ位置の土圧に見合ったベントナイト有効乾燥密度となるように調整されていることを特徴とする請求項1に記載の地中壁の構築方法。
【請求項3】
前記材料は、ベントナイト材料として粒子密度が1500〜2000kg/cm3程度の粒状ベントナイトを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の地中壁の構築方法。
【請求項4】
前記袋体は、網状の部材からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地中壁の構築方法。
【請求項5】
前記袋体は、水は浸透可能で、且つベントナイトおよび骨材は漏出させない部材であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地中壁の構築方法。
【請求項1】
地中壁を設置する地中空間を地盤中に掘削する工程と、
前記地中空間に対して所定のベントナイト有効乾燥密度となるように調整したベントナイトの材料、又はベントナイトと骨材の混合物の材料を袋体に詰めたものを、前記地中空間に充填する工程と、
を有することを特徴とする地中壁の構築方法。
【請求項2】
前記袋体に詰める材料は、前記地中空間の充填部の深さ位置の土圧に見合ったベントナイト有効乾燥密度となるように調整されていることを特徴とする請求項1に記載の地中壁の構築方法。
【請求項3】
前記材料は、ベントナイト材料として粒子密度が1500〜2000kg/cm3程度の粒状ベントナイトを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の地中壁の構築方法。
【請求項4】
前記袋体は、網状の部材からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地中壁の構築方法。
【請求項5】
前記袋体は、水は浸透可能で、且つベントナイトおよび骨材は漏出させない部材であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地中壁の構築方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−31663(P2012−31663A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173016(P2010−173016)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
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