説明

地中熱利用システム

【課題】 地下水を利用する地中熱利用システムにおいて、地下水中に含まれる鉄分、マンガン分を効率よく除去する。
【解決手段】 揚水井3から揚水した地下水を外気処理系統10,室内処理系統の空調システムのヒートポンプ13,25に通水し、循環水としての地下水を介して供給される地中熱でヒートポンプ13,25の運転を行う地中熱利用システムにおいて、地下水を供給する経路上にイオン交換樹脂が充填された軟水化装置26を設ける。この軟水化装置26により地下水中の鉄、マンガンを除去する。ヒートポンプ13,25の運転を行った後の循環水は、脱気装置28を介して、注入井4に再注入されるようにした。イオン交換樹脂内の通水速度はSV20〜SV40とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地中熱利用システムに係り、地中熱源としての地下水を利用した、各種の熱交換装置等に適用できる地中熱利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地中熱利用による熱交換システムや地下水汚染浄化システムなど、井戸を利用して地下水を揚水し、熱交換システム等で利用した後に、井戸に再注入(還流)させる、地下水を利用した地中熱の循環利用方法が種々提案されている(特許文献1,特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1には、逆浸透膜(RO)浄化装置を経て飲料水として地下水を利用する流路系統に加え、逆浸透膜(RO)浄化装置を経た地下水を熱交換器に供給する流路系統を備えた地下水の利用システムが開示されている。
【0004】
特許文献2には、揚水井戸から汲み上げた地下水熱交換器に給水して熱交換を行い、還元井戸に還流させるようにした地下水熱利用システムが開示されている。このシステムでは主として利用する地下水が枯渇した場合にも対応できるように水道水、貯留した雨水による給水系統が用意されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−46677公報
【特許文献2】特開2007−85644公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に開示された発明では、地上に設置された熱交換システム等を循環した熱源としての地下水を還元井戸等により地中に再注入(還元)させる際、井戸周辺で目詰まりが発生し、システムの供用後、比較的短期間で再注入が不可能になってしまう場合がある。その対策として、井戸の洗浄や揚水井戸と注入井戸(還元井戸)とを入れ替えて使用するなどが行われているが、長期間にわたる運転において、これらの方法は不完全であり、特に地層中での閉塞には対処できない方法である。
【0007】
目詰まりが発生する原因としては、砂や濁質成分の混入により閉塞する他に、水中に溶存する鉄イオン(Fe2+)やマンガンイオン(Mn2+)などの物質が空気中の酸素と反応して水酸化鉄や酸化マンガンを形成・析出してスケール化して、井戸スクリーンや井戸周辺の地層に付着して生じることが知られている。
【0008】
これら鉄やマンガンなどの溶解性物質の除去手段として、鉄やマンガンが酸化すると析出して懸濁物質となることを利用し、地下水に酸化剤を添加するとともに、ろ過材や除鉄・除マンガンろ材などでろ過する方策もある。しかし、既存の除鉄・除マンガン装置では、装置が大型化したり、次亜塩素酸ソーダ等の酸化剤などの反応性の激しい化学物質を使用しなければならないなどの問題がある。
【0009】
一方、地下水をボイラー用水等として利用する前に、イオン交換樹脂によって地下水(原水)中のCa,Mg,Fe,Mnイオン等を捕捉する方法も知られている。しかし、この場合には、上述した鉄、マンガン以外の各種の物質も捕捉されるため、特定物質の除去効率が悪いと考えられていた。また、イオン交換樹脂によってFeイオンを捕捉する場合でも、装置を継続して使用しているうちに空気中の酸素によって原水中のFeイオンが酸化されて析出し、イオン交換樹脂の中に沈着したり、表面を被覆したりしてイオン交換樹脂の能力を低下させたり、水酸化第二鉄の微粒子となって処理水中に漏洩したり、長期の使用では、イオン交換樹脂内や表面に鉄酸化物の沈着が起こるおそれもある。
【0010】
以上の問題を解決するに当たり、種々検討した結果、出願人は、熱交換システムに供給される井戸水に対して硬水軟化装置(軟水化装置)を水質前処理手段として利用すると、2価鉄の除去が効率的に行える一方、イオン交換による熱交換システムへの影響は小さいとの知見を得た。そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、地上部に設置された地中熱を利用した熱交換システムにおいて、利用する地下水に含有する鉄、マンガン等の除去を簡易かつ効率的に行えるようにした地中熱利用システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は揚水井から揚水した地下水を熱交換器に通水し、該地下水を介して供給される地中熱で熱交換機器の運転を行う地中熱利用システムにおいて、前記揚水した地下水を水質前処理手段を介して鉄、マンガンを除去して前記熱交換機器へ供給する循環水として用い、前記熱交換機器の運転を行い、熱交換後の前記循環水を水質後処理手段を介して、注入井に再注入することを特徴とする。
【0012】
前記水質前処理手段として、軟水化装置を用いることが好ましい。
【0013】
前記軟水化装置は、イオン交換樹脂が充填され、該イオン交換樹脂内の通水速度をSV20〜SV40とすることが好ましい。
【0014】
前記熱交換機器は、外気処理空調系統と室内顕熱処理空調系統とからなり、前記循環水が、前記各系統が有するヒートポンプに供給循環されるようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地下水を利用する地中熱利用システムにおいて、地下水中に含まれる鉄分を効率よく除去するとともに、供給冷水の熱交換器における原水に含まれる物質のスケール化を防止できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の地中熱利用システムの一実施例を示した機器構成ブロック図。
【図2】水質前処理装置における樹脂通過量とカルシウムイオン(Ca2+)濃度との関係を示した推移グラフ。
【図3】水質前処理装置における樹脂通過量と2価鉄イオン(Fe2+)濃度との関係を示した推移グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の地中熱利用システムの実施するための形態として、以下の実施例について添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0018】
本発明の地中熱利用システムを適用した一実施例としての空気調和システムについて、図1を参照して説明する。
図1に示した空気調和システム1は、空気調和を行う対象室2のために設備された、外気負荷を処理する外気処理系統10と、室内顕熱負荷を処理をする室内処理系統20とから構成されている。
【0019】
外気処理系統10は、外気をある程度の状態になるまで冷暖運転や加湿処理を行う外調機11と、この外調機11と対象室2との間に配管された給気ダクト12と還気ダクト13と、外調機11の運転のための外気処理用ヒートポンプ15とで構成されている。
【0020】
一方、対象室2の天井にはファンコイルユニット21(以下、FCU21)が設置されている。このFCU21は、ケーシング22内に収容されたファンモータユニット23、エアフィルタ24等から構成される公知の空調設備で、その機能として主に室内側の温度調整に用いられる。このFCU21の冷暖運転(室内顕熱処理)のために、本発明ではFCU21に地下水利用水冷式ヒートポンプ25が接続されている。
【0021】
本発明では、外気処理用ヒートポンプ13と地下水利用水冷式ヒートポンプ25の運転のために所定温度の地下水が熱源として供給される。以下、揚水井からの揚水された地下水の水質前処理手段26と、各ヒートポンプ13,25への供給系統、井戸への再注入系統について説明する。
【0022】
図1には、揚水井3と、注入井4とが、同一の地下水位面が得られるような位置関係で、所定の間隔をあけて設けられている。揚水井3は、その底部に揚水ポンプ5が設置されている。注入井4は、地中熱利用システム内を循環した用水としての地下水を地中に再注入(還流)させるために用いられる。また、これらの井戸に隣接して小径の観測井6を設け、地下水位、地中熱状態を把握することも好ましい。
【0023】
上述した外気処理用ヒートポンプ13と、地下水利用水冷式ヒートポンプ25とに供給される地下水は、図1に示したように、揚水井3から水質前処理手段26としての軟水化装置(以下、符号26を付す。)に送られる。この軟水化装置26は、塔内に強カチオン系(陽イオン)交換樹脂としてのNa型イオン交換樹脂を充填したもので、塔内を所定通水速度で地下水が流下する際に、地下水中の鉄分、マンガン分が除去される。なお、この軟水化装置26は、公知のイオン交換基としてのNaイオン(Na+)を担持しており、地下水中のCa,Mg,Fe,MnイオンもNaイオン交換され、地下水中のこれらの物質も吸着される。そして、イオン交換樹脂中のNaが全て置換された後は、Naclを用いて再生することで、再度イオン交換を行うことができる。
【0024】
この水質前処理手段としての軟水化装置26によって、鉄分、マンガン分が除去された地下水は、一旦、供給水槽27に貯水され、必要に応じて外気処理用ヒートポンプ13と、地下水利用水冷式ヒートポンプ25とに供給される。
【0025】
地下水還流系統中には、水質後処理手段28としての脱気装置が設けられている。この脱気装置により、各ヒートポンプからの還流水中の溶存酸素を脱気し、地下水を注水井に還流させる。この脱気装置28は各ヒートポンプ13,25や配管の腐食対策のために、供給水槽27の後に設置してもよい。
【0026】
上述したように、本発明の地中熱利用システムでは、揚水した井戸水を、水質前処理手段26を通じて外気処理用ヒートポンプ13と地下水利用水冷式ヒートポンプ25とに供給するため、熱交換運転後に注入井4に還流させる際に、井戸スクリーン(図示せず)の目詰まり等を防止することができる。
【0027】
以下、水質前処理手段である軟水化装置における適正な通水速度を確認するために行った検証試験について説明する。
【0028】
[試験方法]
使用イオン交換樹脂:Na型イオン交換樹脂100ml
原水:水道水(Ca2+20mg/ml溶存水道水に(Fe2+)1mg/L添加)
通水速度:SV20,SV40,SV60
イオン濃度測定:イオン交換樹脂充填塔の処理水出口におけるCa2+、Fe2+ を測定
【0029】
[試験結果]
イオン交換樹脂の通水時の樹脂通過量とイオン濃度の推移の関係についての試験結果を図2,図3に示す。図2は、イオン交換樹脂通水時の樹脂通過量とCaイオン濃度の推移、図3は、イオン交換樹脂通水時の樹脂通過量と2価Feイオン濃度の推移を通水速度別に示したグラフである。図2,図3から分かるように、通常の軟水化装置におけるCaイオンのイオン交換能力が発揮できる通水速度のうち、SV20〜40であれば、2価Feイオン交換も確実に行えることが確認できた。なお、イオン交換の所定の時間経過とともに処理水中のCaイオン、2価Feイオン濃度がともに上昇する。この時点でイオン交換能力が破過したことが確認された。Caイオン交換能力の破過に加え、2価Feイオン交換能力の破過が確認された場合には、イオン交換樹脂のNa再生が必要になる。この試験結果から、1リットルのイオン交換樹脂でおよそ1m3の原水を処理できることが確認できた。
【0030】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
1 空気調和システム
2 対象室
3 揚水井
4 注入井
10 外気処理系統
11 外調機
13 外気処理用ヒートポンプ
20 室内処理系統
21 ファンコイルユニット(FCU)
25 地下水利用水冷式ヒートポンプ
26 水質前処理手段(軟水化装置)
28 水質後処理手段(脱気装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚水井から揚水した地下水を熱交換器に通水し、該地下水を介して供給される地中熱で熱交換機器の運転を行う地中熱利用システムにおいて、前記揚水した地下水を水質前処理手段を介して鉄、マンガンを除去して前記熱交換機器へ供給する循環水として用い、前記熱交換機器の運転を行い、熱交換後の前記循環水を水質後処理手段を介して、注入井に再注入することを特徴とする地中熱利用システム。
【請求項2】
前記水質前処理手段は、軟水化装置であることを特徴とする請求項1に記載の地中熱利用システム。
【請求項3】
前記軟水化装置は、イオン交換樹脂が充填され、該イオン交換樹脂内の通水速度をSV20〜SV40とすることを特徴とする請求項2に記載の地中熱利用システム。
【請求項4】
前記熱交換機器は、外気処理空調系統と室内顕熱処理空調系統とからなり、前記循環水が、前記各系統が有するヒートポンプに供給循環されることを特徴とする請求項1に記載の地中熱利用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−233636(P2012−233636A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102551(P2011−102551)
【出願日】平成23年4月29日(2011.4.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出順(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代型ヒートポンプシステム研究開発/地下水制御型高効率ヒートポンプ空調システムの研究開発」委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】