説明

地山の穿孔方法、及びそれに用いる排泥促進剤

【課題】トンネル工事等において地山(特に粘性地山)に穿孔する際に、くり粉の排出性を向上して、穿孔効率を向上する。
【解決手段】穿孔ドリルを用いて地山に穿孔する際に、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、リグニンスルホン酸塩、及び、重量平均分子量500〜50,000のアクリル系重合物塩から選択される少なくとも1種を含む排泥促進剤を穿孔水に配合し、配合した穿孔水を噴射しながら穿孔ドリルにより穿孔する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル工事などにおいて穿孔ドリルを用いて地山に穿孔する穿孔方法、及び、かかる穿孔時に穿孔水に配合することで孔からの排泥を促進するための排泥促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にトンネル工事においては、地山に穿孔ドリルを使用してロックボルトやアンカーボルトの装着孔、火薬装填孔などを穿孔することが行われている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
その際、穿孔水として大量の水を使用し、その水圧でくり粉を排出しながら穿孔する方法が取られている。しかしながら、かかる従来の穿孔方法では、穿孔水の水量が多いため、孔壁の剥落や、地山が緩みやすいなどの問題がある。また、特に、粘土鉱物を多く含む粘性地山では、穿孔ドリルの先端に取り付けられる穿孔ビットへのくり粉の付着が多くなり、またその粘性により除去しにくいため、穿孔効率に劣り、穿孔水量が更に増大する傾向にある。
【0004】
特許文献1には、トンネル工事における長尺鋼管フォアパイリング工法において、穿孔水として天然高分子物質、半合成高分子物質又は合成高分子物質を配合した水溶液を用いて穿孔することが提案されている。この穿孔技術において、穿孔水に配合される高分子物質は、孔壁にぶつかると同時にくり粉と衝突して混合され、孔壁表面に付着することで、地山への水の侵入を抑制して、地山の緩みを抑えるものである。そのため、同文献で用いられている高分子物質は、一般に粘着剤ないし増粘剤として用いられるものであり、その粘着性により、くり粉を孔壁表面に付着させるものである。
【0005】
特許文献2には、トンネル工事における穿孔に際し、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムとヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物からなる起泡剤を用いて、穿孔水を泡状にし、これを掘削箇所に噴出しながら穿孔を行うことが提案されている。この穿孔技術では、気泡を用いて穿孔することにより、孔壁の脱落を抑えて安定した穿孔を可能にすることで、水の使用量を削減できるとされている。
【0006】
これらの文献に開示の穿孔技術では、通常の地山に対しては穿孔水の減少ができるなどの効果が得られたとしても、くり粉の排出促進には繋がりにくいものである。特に、粘性地山においては、上記のような粘着剤ないし増粘剤として用いられる高分子物質を配合した穿孔水では、くり粉と混合されてできる泥水の粘度が上昇してしまい、よって、くり粉はかえって排出しにくくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−34881号公報
【特許文献2】特開2009−102838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、くり粉の排出性を向上することでき、それにより穿孔効率を向上することができる排泥促進剤、及びそれを用いた地山の穿孔方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る排泥促進剤は、地山に穿孔する際に穿孔水に配合することで孔からの排泥を促進するための排泥促進剤であって、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、リグニンスルホン酸塩、及び、重量平均分子量500〜50,000のアクリル系重合物塩から選択される少なくとも1種を含有するものである。
【0010】
また、本発明に係る地山の穿孔方法は、穿孔ドリルを用いて地山に穿孔する穿孔方法であって、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、リグニンスルホン酸塩、及び、重量平均分子量500〜50,000のアクリル系重合物塩から選択される少なくとも1種を含む排泥促進剤を穿孔水に配合し、配合した穿孔水を噴射しながら穿孔ドリルにより穿孔することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記排泥促進剤を含む穿孔液を用いて穿孔することにより、くり粉の流動性が向上し、くり粉の排出効率を向上することができる。そのため、穿孔スピードの向上や穿孔水の減量化が図られ、穿孔効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】穿孔方法の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0014】
本発明に係る排泥促進剤は、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、リグニンスルホン酸塩、及び、重量平均分子量500〜50,000のアクリル系重合物塩から選択される少なくとも1種を含有するものである(以下、これらをまとめて「A成分」ということがある)。これら化合物は、水中でのくり粉の分散性を向上させるアニオン系分散剤である。すなわち、くり粉粒子(粘性地山を対象とする場合は粘土粒子)のまわりに吸着し、そのイオン反発によって粒子の分散性を向上するものと考えられる。そのため、これらを穿孔水に配合して用いることにより、くり粉の流動性を向上することができ、よって、掘削された孔からのくり粉の排出性、即ち、排泥を促進することができる。
【0015】
上記ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩としては、公知の製法に従って調製されたものを用いることができ、例えば、ナフタレンを濃硫酸、発煙硫酸等のスルホン化剤を用いてスルホン化した後、ホルムアルデヒドを用いた縮合反応工程を経て、アルカリ剤を用いて中和することにより得られる。
【0016】
ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、モノ,ジ,トリエタノールアミン塩等のアルコールアミン塩など、各種の水溶性塩が挙げられる。この中でもアルカリ金属塩が好ましく、特に好ましくは、ナトリウム塩である。
【0017】
ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩は、くり粉の水中での分散性を向上できる限り、その分子量は特に限定されないが、好ましくは、重量平均分子量が1,000〜50,000のものを用いることであり、より好ましくは2,000〜20,000である。ここで、該重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるものである(標準物質:ポリスチレンスルホン酸ソーダ)。
【0018】
このようなナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩としては、例えば、第一工業製薬株式会社製「ラベリンFHL」、「ラベリンAN−40」、「セルフロー120」などが市販されており、それらを使用することもできる。
【0019】
上記リグニンスルホン酸塩としては、例えば、木材パルプ製造時に副生し得るものを用いることができる。リグニンスルホン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、モノ,ジ,トリエタノールアミン塩等のアルコールアミン塩などが挙げられる。この中でも、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩が好ましく、これらの混合塩を用いてもよい。
【0020】
このようなリグニンスルホン酸塩としては、例えば、日本製紙ケミカル株式会社製「バニオールODP」、「バニオールODL」、「バニオールNDP」、Borregagrd Industries Ltd.製「Ultrazine NA」などが市販されており、それらを使用することもできる。
【0021】
上記アクリル系重合物塩としては、重量平均分子量が500〜50,000であるものが用いられる。このような重量平均分子量を持つアクリル系重合物塩を用いることにより、くり粉の分散性を向上することができる。重量平均分子量が50,000を超えるものでは、水溶性高分子としての粘性を付与する効果が大きくなって、くり粉の分散性向上による排泥促進効果が得られなくなる。重量平均分子量はより好ましくは3,000〜20,000である。ここで、該重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるものである(標準物質:ポリエチレンオキサイド)。
【0022】
本発明においてアクリル系重合物は、カルボキシル基を有する共重合性ビニル系単量体であるアクリル系単量体を用いて重合された重合体であり、かかるアクリル系単量体と他のビニル系単量体との共重合体であってもよい。アクリル系単量体としては、例えば、アクリル酸、α−クロロアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、メサコン酸などが挙げられ、これらはそれぞれ単独、または組み合わせて用いることができる。
【0023】
アクリル系重合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属、アンモニウム塩、モノ,ジ,トリエタノールアミン塩等のアルコールアミン塩などが挙げられる。
【0024】
好ましいアクリル系重合物塩の具体例としては、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリアクリル酸塩、アクリル酸−メタクリル酸共重合体のナトリウム塩などのアクリル酸−メタクリル酸共重合体塩、スチレン−無水マレイン酸共重合体のアンモニウム塩、ナトリウム塩などのスチレン−無水マレイン酸共重合体塩などが挙げられる。
【0025】
本発明に係る排泥促進剤には、上記A成分とともに、B成分として無機塩を更に含有してもよい。無機塩を併用することで、くり粉の分散性を更に高めることができる。その理由は次のように考えられる。すなわち、くり粉に含まれる粘土鉱物は、層状をなしており、この層間に水を取り込むことで膨潤し粘性がでるが、無機塩を添加した場合、無機塩の金属イオンが粘土鉱物の金属イオンとイオン交換等することによって、水を取り込みにくくなり、そのため粘土鉱物の膨潤性が低下することで、結果として粘性が低下して、分散性が向上するものと推測される。
【0026】
無機塩としては、例えば、縮合リン酸塩、アルミン酸塩、ケイ酸塩、アルカリ金属やアルカリ土類の塩化物などが好ましいものとして挙げられる。これらはいずれか単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0027】
縮合リン酸塩としては、二リン酸塩、三リン酸塩(トリポリリン酸塩)などのポリリン酸塩、トリメタリン酸塩、テトラメタリン酸塩などのメタリン酸塩、ウルトラリン酸塩が挙げられる。それらの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が好ましい。
【0028】
アルミン酸塩としては、例えば、アルミン酸リチウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなどのアルミン酸のアルカリ金属塩が挙げられ、その中でもアルミン酸ナトリウムが好ましい。
【0029】
ケイ酸塩としては、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウムなどのメタケイ酸塩、オルトケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸カリウムなどのオルトケイ酸塩が挙げられる。
【0030】
アルカリ金属やアルカリ土類金属の塩化物としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどが挙げられる。
【0031】
本発明に係る排泥促進剤において、上記A成分の分散剤とB成分の無機塩との配合比A/Bは、特に限定されないが、重量比で、1/0〜1/4であることが好ましく、より好ましくは3/1〜1/3であり、更に好ましくは2/1〜1/2である。
【0032】
本発明に係る排泥促進剤は、上記A成分及びB成分の他、本発明の効果を損なわない範囲で、消泡剤などの添加剤を適宜含有することができる。
【0033】
以上よりなる排泥促進剤は、トンネル工事などにおいて地山に穿孔する際に孔からの排泥を促進するためのものであり、穿孔水に配合して用いられる限り、穿孔方法自体については特に限定されず、公知の穿孔方法に適用することができる。
【0034】
すなわち、トンネル工事において地山に穿孔ドリルを使用してロックボルトやアンカーボルトの装着孔、火薬装填孔などを形成する際に、穿孔水に上記排泥促進剤を配合し、配合した穿孔水を掘削箇所に噴射しながら、穿孔ドリルにより穿孔すればよい。この種の穿孔に用いられる穿孔ドリルには、一般に、先端の穿孔ビット又はその近傍に穿孔水を噴射する噴射口が組み込まれているので、穿孔水を掘削箇所に噴射しながら穿孔ビッドにより地山に穿孔することができる。
【0035】
図1は穿孔方法の一例を示すものであり、長尺鋼管フォアパイリング工法にかかるものである。この例では、穿孔装置は、穿孔ドリル(1)と、その先端にスイーベルジョイント(2)、パイプフォルダ(7)及びロッド(5)を介して取り付けられた穿孔ビット(6)と、穿孔ドリル(1)を支持するとともにロッド(5)、パイプフォルダ(7)及び長尺鋼管(8)を案内するガイドセル(9)とを備えてなる。スイーベルジョイント(2)には、穿孔水を供給する穿孔水供給装置が接続されており、穿孔水供給装置は、穿孔水タンク(10)と、圧送ポンプ(11)と、流量調整装置(12)とを備えてなる。
【0036】
長尺鋼管フォアパイリング工法では、トンネル掘削に先立って、トンネル外周にほぼ一定間隔で地山に複数(通常20〜30本程度)の穿孔を施し、先受材である直径100mm程度の長尺鋼管(8)を打設する。その際、排泥促進剤を配合した穿孔水は、穿孔水タンク(10)から圧送ポンプ(11)によって高圧で圧送され、スイーベルジョイント(2)を経てロッド(5)内に供給され、ロッド(5)先端の穿孔ビット(6)より噴射される。穿孔ビット(6)は、このように排泥促進剤が配合された穿孔水を噴射しながら、地山(20)に穿孔する。穿孔水に上記排泥促進剤が配合されていることにより、孔(21)からの排泥が促進され、穿孔スピードの向上や穿孔水の減量化等の穿孔効率を向上することができる。なお、図1に示した穿孔方法はあくまで一例にすぎず、本発明を限定するものではない。
【0037】
穿孔対象となる地山としては、粘土鉱物の少ない通常の地山でもよいが、粘土鉱物を多く含む粘性地山も対象とすることができ、上記排泥促進剤はかかる粘性地山の穿孔に特に好適に用いられる。上記のように、粘性地山においては水のみでは穿孔ビットへのくり粉の付着が大きく、またこれを除去しにくいのに対し、該排泥促進剤を配合しておくことで、くり粉の流動性が向上して、穿孔ビッドへの付着を抑え、孔からの排出を促進することができるからである。
【0038】
粘性地山としては、特に限定するものではないが、蛇紋岩、粘板岩、泥岩、頁岩、千枚岩、安山岩、火山灰質粘性土などからなる地山が挙げられる。特に、蛇紋岩からなる粘性地山に好適である。
【0039】
穿孔水への排泥促進剤の配合濃度は、特に限定するものではないが、上記A成分の濃度で、0.5〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは、1〜3重量%である。穿孔水としては、通常、水に上記排泥促進剤を添加し溶解させた水溶液が用いられるが、本発明の効果を損なわない範囲内で、排泥促進剤以外の他の添加剤を配合してもよい。
【0040】
また、穿孔時における穿孔水の供給量も、特に限定されず、穿孔対象となる地山の組成や、穿孔する孔の径などによって適宜設定することができ、例えば、毎分20〜200リットル程度とすることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
[実験室評価]
下記a〜qの薬剤について、地山の穿孔を想定した排泥促進効果を評価するために、実験室にて下記の泥土流動性評価試験を実施した。
【0043】
・薬剤a:ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩(重量平均分子量=5,000)、第一工業製薬(株)製「ラベリンFHL」
・薬剤b:リグニンスルホン酸ナトリウム、日本製紙ケミカル(株)製「バニオールODP」
・薬剤c:スチレン−無水マレイン酸共重合体アンモニウム塩(重量平均分子量=5,500)、第一工業製薬(株)製「DKSディスコートN−10」
・薬剤d:ポリアクリル酸ナトリウム(重量平均分子量=10,000)、第一工業製薬(株)製「シャロールAN−103P」
・薬剤e:上記cのスチレン−無水マレイン酸共重合体アンモニウム塩/トリポリリン酸ソーダ=5/5(重量比)
・薬剤f:上記cのスチレン−無水マレイン酸共重合体アンモニウム塩/塩化ナトリウム=5/5(重量比)
・薬剤g:上記cのスチレン−無水マレイン酸共重合体アンモニウム塩/メタケイ酸ナトリウム=5/5(重量比)
・薬剤h:上記aのナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩/トリポリリン酸ソーダ=5/5(重量比)
・薬剤i:上記aのナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩/塩化ナトリウム=5/5(重量比)
・薬剤j:上記aのナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩/メタケイ酸ナトリウム=5/5(重量比)
・薬剤k:上記aのナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩/アルミン酸ナトリウム=5/5(重量比)
・薬剤l:上記aのナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩/塩化マグネシウム=5/5(重量比)
・薬剤m:上記bのリグニンスルホン酸ナトリウム/トリポリリン酸ソーダ=5/5(重量比)
・薬剤n:上記bのリグニンスルホン酸ナトリウム/メタケイ酸ナトリウム=5/5(重量比)
・薬剤o:アクリル酸−メタクリル酸共重合体ナトリウム塩(重量平均分子量=10,000)、中部サイデン(株)製「バンスターS5」
・薬剤p:ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩(重量平均分子量=17,000)、第一工業製薬(株)製「セルフロー120」
・薬剤q:ポリアクリル酸ナトリウム(重量平均分子量=1000,000)、日本触媒(株)製「アクアリックIH」
・薬剤r:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、第一工業製薬(株)製「ハイテノール325L」
【0044】
・泥土流動性評価試験
蛇紋岩からなる地山を想定して北海道産蛇紋岩を粉砕した泥を対象泥土とし、該対象泥土30gを300mL容のポリ容器に量りとり、薬剤0.4g(純分)を添加した。これに水20gを添加して、ガラス棒で十分に混合し、ポリ容器を90°傾けたときに滑らかな流動性が得られる水量(最初に添加した20gを含む水量)を測定した。水は1gずつ追加しながら、その都度、上記流動性が得られるかどうかを評価した。なお、コントロールとして、薬剤を添加せずに井戸水をそのまま用いたものを比較試験例1とした。
【0045】
結果は表1に示す通りであり、薬剤a〜pを用いた試験例1〜16であると、コントロールである比較試験例1に比べて、滑らかな流動性が得られるまでの水量が少なく、排泥促進効果が期待できるものであった。
【0046】
これに対し、比較試験例2では、35gの水量で一応の流動性は得られたものの、粘性が高いため、試験例1〜16のような滑らかな流動性は得られなかった。また、比較試験例3では、32gの水量で一応の流動性は得られたものの、泡立ちの大きいものであった。よって、比較試験例2及び3ともに、粘性地山に対する泥土流動性に劣るものであった。
【表1】

【0047】
[穿孔試験評価]
北海道地区の蛇紋岩からなる地山に対し、穿孔機として古河ロックドリル(株)製の油圧ドリフタ「HD190」を用いて、1本当たり直径125mm×深さ12.5mの穿孔を行った。穿孔では、穿孔水として、井戸水に下記表2に示す薬剤(詳細は上記実験室評価と同じ。)を同表に記載の濃度にて配合したものを用いた。穿孔水の供給量は毎分65リットルとして、1本の穿孔に要した時間(穿孔時間)と水量(穿孔水量)を測定し、表2に結果を示した。穿孔時間と穿孔水量は2本穿孔したときの平均値である。なお、比較例1では、井戸水に薬剤を添加せずにそのまま穿孔水として用いた。
【0048】
表2に示されたように、実施例1〜7であると、穿孔水として井戸水をそのまま使用した比較例1に対し、穿孔時間が大幅に短縮され、穿孔水量を減量することができた。一般にトンネル工事では、一回のトンネル掘削に先立つ穿孔を上記のように通常20〜30本行うことからすると、このように1本当たり6〜10分間程度短縮できることは、全体の作業時間の大幅な短縮に繋がる。また、これら実施例1〜7及び比較例1の関係は、実験室評価の上記試験例1〜7及び比較試験例1と略相関していることから、実験室評価において試験例1〜7と同等の結果が得られた試験例8〜16についても、実際の穿孔で実施例1〜7と同等の排泥促進効果が期待でき、逆に、実験室評価において泥土流動性に劣っていた比較試験例2,3では、実際の穿孔での排泥促進効果が期待できないことは明らかである。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、例えばトンネル工事において地山(特に粘性地山)に穿孔ドリルを使用してロックボルトやアンカーボルトの装着孔、火薬装填孔を装填する際に、くり粉の排出効率を向上するために好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…穿孔ドリル、2…スイーベルジョイント、5…ロッド、6…穿孔ビット、7…パイプフォルダ、8…長尺鋼管、9…ガイドセル、10…穿孔水タンク、11…圧送ポンプ、12…流量調整装置、20…地山、21…孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山に穿孔する際に穿孔水に配合することで孔からの排泥を促進するための排泥促進剤であって、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、リグニンスルホン酸塩、及び、重量平均分子量500〜50,000のアクリル系重合物塩から選択される少なくとも1種を含有する排泥促進剤。
【請求項2】
無機塩を更に含有する請求項1記載の排泥促進剤。
【請求項3】
穿孔ドリルを用いて地山に穿孔する穿孔方法であって、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、リグニンスルホン酸塩、及び、重量平均分子量500〜50,000のアクリル系重合物塩から選択される少なくとも1種を含む排泥促進剤を穿孔水に配合し、配合した穿孔水を噴射しながら穿孔ドリルにより穿孔することを特徴とする地山の穿孔方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−79925(P2011−79925A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232239(P2009−232239)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】