説明

地盤の凍結方法および凍結装置

【課題】 地盤を凍結するにあたり、凍土の成長や維持をコントロールしやすく、また凍土を均一に形成できる地盤の凍結方法を提供する。
【解決手段】 シールド掘進機1,2で掘進される第一シールドトンネルおよび第二シールドトンネルの接合部の周囲における地山を凍結させるために、シールド掘進機1,2にブラインを供給する。ブラインは、シールド掘進機1,2内に配置された凍結装置5によって冷却される。凍結装置5には、地上から液化窒素ガスが供給され、凍結装置5に設けられた熱交換器50によって液化窒素ガスとブラインとの間で熱交換が行われて、ブラインが冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤を凍結させて地盤の強度を向上させて地盤の崩落を防止し、または遮水性を高めるための地盤の凍結方法に係り、特に、トンネル工事を行う際の地盤の崩落を防止するために好適な地盤の凍結方法および凍結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、シールドトンネルを形成する際、近年においては、シールドトンネルの長距離化に伴い、トンネルの両方向からシールド掘進機を発進させ、それらの2台のシールド掘進機で形成された2つのシールドトンネルを地中で接合させて、トンネルを完成させる工法が行われている。このような2つのシールドトンネルを接合する際、接合部分における地山の崩落を防止する必要がある。このように、接合部分における地山の崩落を防止する技術として、たとえば特公平3−69439号公報(特許文献1)に開示された地中接合方法がある。
【0003】
この地中接合方法では、2方向から掘進してきたシールドトンネルを接合するにあたり、その接合部に所定の傾斜角でまた周方向に所定のピッチで地山内に穿孔式凍結管を配置する。この凍結管内にブラインを循環させることにより、地山を囲むようにスキンプレートの外周の地山を凍結させた後、シールド掘進機間の地山を掘削して、2つのシールドトンネル接合するというものである。
【0004】
このように、2つのシールドトンネルの接合における地山を凍結させる際、凍結管に循環供給されるブラインは地山の凍結温度未満まで冷却される。このブラインの冷却は、一般的に、たとえば一方または両方のシールドトンネル内に設けられている冷凍機によって行われているが、凍土造成期間として2週間程度の長時間を要している。
【0005】
また、他の地盤の凍結方法としては、地盤に埋設された凍結管に液化窒素ガス(LN2、液体窒素)を循環供給する方法である。液化窒素ガスはブラインよりも低温とすることができることから、凍結管に液化窒素ガスを直接循環供給することにより、地盤を短時間で凍結させることができる。
【特許文献1】特公平3−69439号公報(1頁右欄〜2頁左欄、第7図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来技術のうち、凍結管にブラインを循環供給する方法では、地盤を凍結させる温度までブラインを冷却するための冷凍機をシールドトンネルに搬入する必要がある。地盤を凍結させるためのブラインは、たとえば−30℃〜−25℃程度の低温にする必要があることから、ブラインを冷却するための冷凍機として大型のものを用いる必要がある。このような大型の冷凍機をシールドトンネル内に搬入するのは小口径シールドの場合には困難であるという問題がある。また、このような冷凍機では、ブラインを冷却するための電力が必要となり、この電力を供給するために、発電機等をシールドトンネル内に設ける必要がある。そのため、シールドトンネル内が手狭となるという問題もある。
【0007】
また、上記従来技術のうち、凍結管に液化窒素ガスを循環供給する方法では、凍結速度は速いものの、温度の制御が困難であるため、地盤における凍土の成長や維持のコントロールが非常に困難になるという問題があった。また、地盤を凍結させることによって、液化窒素ガスが一部気化する。このように、液化窒素ガスの一部が凍結管内で気化することにより、気化した窒素ガスが液化窒素ガスから凍結管への冷熱伝達を妨げ、地盤に形成される凍土を均一なものとするのが困難であるという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、地盤を凍結するにあたり、凍土の成長や維持をコントロールしやすく、また凍土を均一に形成できるようにするとともに、シールドトンネルの接合部などに用いられる場合には、シールドトンネル内に大型の冷凍機や発電機を搬入する必要がなく、もってシールドトンネル内のスペースを広く保つことができ、さらには、通常の冷凍機によるよりも迅速な凍土造成が可能となる地盤の凍結方法および凍結装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決した本発明は、地盤における凍結対象領域を凍結させる地盤の凍結方法であって、凍結対象領域に配置されブラインを循環させる凍結管と、低温液化ガス供給手段に接続され低温液化ガスを循環供給する液化ガス供給管と、が接続された熱交換器に対して、液化ガス供給管を介して低温液化ガスを供給し、熱交換器で低温液化ガスとの間で熱交換されたブラインを凍結対象領域に循環させて、凍結対象領域を凍結させるものである。
【0010】
本発明に係る地盤の凍結方法では、凍結対象地盤を凍結させるにあたり、凍結対象地盤にブラインを循環させるが、ブラインを冷却するために熱交換器を用いている。熱交換器には、低温液化ガスが供給され、熱交換器において、低温液化ガスとブラインとの間で熱交換が行われることによってブラインが冷却される。このように、低温液化ガスによって直接地盤を凍結させるのではなく、ブラインによって凍結対象地盤を凍結させるため、非常に低温の状態で凍結を行わないようにすることができる。したがって、凍土の成長や維持をコントロールしやすくすることができるとともに、凍土を均一に形成することができる。
【0011】
ここで、凍結対象領域がトンネルの掘削位置の周囲であり、交換器は、トンネル内に配置されている態様とすることができる。
【0012】
本実施形態に係る地盤の凍結方法では、ブラインを冷却するために熱交換器を用いて、熱交換器に低温液化ガスを供給し、熱交換器において低温液化ガスとブラインとの間で熱交換を行わせている。このため、ブラインを冷却するための冷凍機や冷凍機を作動させるための発電機などが不要となるので、トンネル内に冷凍機や発電機を搬入しないで済ませるようにすることができる。
【0013】
また、ブラインの温度を−100℃〜−35℃の範囲に調整して、凍結対象領域を凍結させる態様とすることができる。
【0014】
このように、ブラインの温度を−100℃〜−35℃の範囲に調整して凍結対象領域を凍結させることにより、凍土を好適に形成することができる。ブラインの温度が−100℃未満であると、凍土の過成長が懸念され、−35℃を超えると凍土造成に掛かる時間が長くなるおそれがあるからである。
【0015】
さらに、低温液化ガスが液化窒素ガスである態様とすることもできる。
【0016】
このように、低温液化ガスが液化窒素ガスであることにより、ブラインを好適に冷却することができる。
【0017】
また、上記課題を解決した本発明は、地盤における凍結対象領域における凍土の成長を制御する地盤の凍土成長制御方法であって、凍結対象領域に配置されブラインを循環させる凍結管と、低温液化ガス供給手段に接続され低温液化ガスを循環供給する液化ガス供給管と、が接続された熱交換器に対して、液化ガス供給管を介して低温液化ガスを供給し、熱交換器で低温液化ガスとの間で熱交換されたブラインを凍結対象領域に循環させて、凍結対象領域を凍結させて凍土を成長させ、ブラインの温度を、凍結対象領域を凍結させた際の温度よりも高い温度に調整して、凍土の成長を抑制または停止させることを特徴とする。
【0018】
さらに、ブラインの温度を、凍土の成長を抑制または停止させた際の温度よりも高い温度に調整して、凍土を解凍させる態様とすることもできる。
【0019】
本発明に係る地盤の凍土成長制御方法では、凍結対象領域にブラインを循環させて凍土を成長させた後、このときのブラインの温度よりも高い温度に調整されたブラインを凍土に循環供給することにより、凍土の過度の成長を抑制するとともに、凍土の解凍を防止することができる。また、凍土の利用が済んだら、さらに高い温度のブラインを凍結対象領域に循環させることにより、凍土を解凍することができる。このとき、熱交換器を用いてブラインの温度調整を行っているので、熱交換器に供給する低温液化ガスの供給量などを調整することにより、ブラインの温度の調整を容易に行うことができる。
【0020】
また、上記課題を解決した本発明は、地盤における凍結対象領域を凍結させる地盤の凍結装置であって、ブラインと低温液化ガスとの間で熱交換を行う熱交換器を備え、熱交換器には、ブラインを循環させる凍結管と、低温液化ガスを循環供給する液化ガス供給管とが接続されており、凍結管は、凍結対象領域に配置され、液化ガス供給管は、液化ガス供給手段に接続されているものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る地盤の凍結方法および凍結装置によれば、地盤を凍結するにあたり、凍土の成長や維持をコントロールしやすく、また凍土を均一に形成することができる。また、シールドトンネルの接合部などに用いられる場合には、シールドトンネル内に大型の冷凍機や発電機を搬入する必要がなく、もってシールドトンネル内のスペースを広く保つことができ、さらには、通常の冷凍機によるよりも迅速な凍土造成が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各実施形態において、同一の機能を有する部分については同一の符号を付し、重複する説明は省略することがある。
【0023】
図1は、本発明の地盤の凍結装置の概要を示す概要図、図2は、本実施形態に係る凍結方法が適用される第一シールドトンネルと第二シールドトンネルとの接合部位の断面図である。本実施形態では、トンネルの両方向から、第一シールド掘進機1および第二シールド掘進機2によってそれぞれ第一シールドトンネルおよび第二シールドトンネルを掘削し、所定の接合位置において両トンネルを接合する。この両トンネルの接合を行う前段階として、接合部位の周囲における地盤を凍結するものである。地盤を凍結することにより、地盤の強度を高めて地盤の崩落を防止するとともに、止水性を高めるものである。ここで、地盤の凍結装置を説明する前に、第一シールドトンネルおよび第二シールドトンネルを掘削するシールド掘進機について説明する。
【0024】
第一シールド掘進機1は、第一外筒部10を備えており、第一外筒部10の前方には第一カッタ装置11が設けられている。第一カッタ装置11は、円盤状をなす第一カッタ部11Aを備えている。第一カッタ部11Aの表面には、複数のビット11Bが取り付けられており、第一カッタ部11Aが回転することにより、ビット11Bによって地山が掘削される。また、第一カッタ部11Aの側縁部には、伸縮スポーク11Cが設けられており、この伸縮スポーク11Cは、第一カッタ部11Aに対してその半径方向に伸縮する。こうして、第一カッタ装置11は、その半径方向に縮径可能とされている。
【0025】
第一カッタ部11Aは、掘削を行っている間は、伸縮スポーク11Cが伸長した状態で、第一外筒部10と同一径とされている。また、伸縮スポーク11Cが収縮したときには、第一カッタ部11Aの径は、第一外筒部10の内径よりも小さくなり、第一カッタ部11Aが第一外筒部10に対して引き込み可能となる。
【0026】
第一カッタ装置11の後方には、第一内筒部12が設けられている。第一内筒部12は、第一外筒部10の内面に沿った外周部を有しており、第一外筒部10の内面に沿って移動可能とされている。第一内筒部12には、隔壁13が設けられており、隔壁13には駆動モータ11Dが設けられており、駆動モータ11Dにより第一カッタ部11Aを回転させている。また、第一内筒部12は、掘削作業中は第一外筒部10に固定されており、第一カッタ装置11は第一外筒部10とともに前後進する。
【0027】
第一内筒部12には、中折れジャッキ14が取り付けられており、中折れジャッキ14によって、第一外筒部10が中折れ可能とされている。さらに、第一外筒部10には、シールドジャッキ15が取り付けられており、組み立てられたセグメントを押圧する。シールドジャッキ15でセグメントを押圧することにより、このセグメントに反力をとって第一シールド掘進機1が前進する。さらに、第一外筒部10には図示しないエレクタが設けられている。エレクタは、第一カッタ装置11によって形成された孔にセグメントを順次組み立てていく。
【0028】
また、第一シールド掘進機1には、送泥管16および図示しない排泥管が設けられている。送泥管16および排泥管は、いずれも第一カッタ装置11における第一カッタ部11Aと隔壁13との間に配置されている。送泥管16からは、第一カッタ部11Aと隔壁13との間に高濃度泥水を供給し、第一カッタ部11Aの圧力を高めている。また、排泥管は、第一カッタ部11Aと隔壁13との間における送泥管16から供給された高濃度泥水および掘削された土からなる泥水を排出している。このように、送泥管16からの水の供給量および排泥管からの泥水の排出量により、第一カッタ装置11の圧力を調整している。さらに、第一外筒部10の後端部には、テールシールが設けられている。テールシールは、第一シールド掘進機1の後端部において、セグメントと第一シールド掘進機1との間を止水している。
【0029】
また、第一シールド掘進機1には、図3に示すように、第一止水装置3が設けられている。第一止水装置3は、第一外筒部10に設けられた互いに連通する複数の貼付凍結管31を備えている。この貼付凍結管31に、凍結装置5からブラインが循環供給されて、シールド掘進機1,2の接合部位の地山を凍結する。この凍結装置5の構成については、後に説明する。
【0030】
凍結装置5から循環供給されるブラインが貼付凍結管31を流れることにより、第一外筒部10の外側の地山における凍結対象領域Xに含まれる土中水を冷凍させることにより、凍結対象領域Xに凍土(凍結地盤)を形成することができる。また、凍結対象領域Xに凍土が形成された後、貼付凍結管31内を低温のブラインが流れると、凍土が解凍することなく維持される。
【0031】
さらに第一止水装置3は、図2に示すように、第一内筒部12に設けられた注入管32を有しており、注入管32からは充填剤F1が噴出される。充填剤F1としては、土質系の無機質材料と水とを混合したものなどを用いることができる。また、第一止水装置3は、第一内筒部12の先端に位置するスライドフード12Aに設けられた環状シール部材33を有している。環状シール部材33は、ワイヤブラシからなり、基端部がスライドフード12Aに取り付けられ、先端部が第一外筒部10の内面に接触して、スライドフード12Aと第一外筒部10との間に空間を形成している。
【0032】
第一シールド掘進機1における第一トンネルの掘進時には、この空間に注入管32から噴出された充填剤F1が充填されている。また、第一内筒部12の内面側には、冷却部材34が設けられている。冷却部材34は、スライドフード12Aを介して冷熱を伝達させ、充填剤F1を冷凍可能としている。
【0033】
また、第二シールド掘進機2は、第一シールド掘進機1と同一の構成を有しており、第二外筒部20および第二カッタ装置21を備えている。第二カッタ部21Aの後方には、本発明の可動内筒部となる第二内筒部22が設けられており、第二内筒部22には、隔壁23が設けられている。また、第二内筒部22の後部には、中折れジャッキが取り付けられている。
【0034】
さらに、第二外筒部20の後部にはシールドジャッキ取り付けられており、セグメントを押圧することにより、このセグメントに反力をとって第二シールド掘進機2を前進させる。第二外筒部20における後部上方位置にはエレクタが設けられており、セグメントを順次組み立てる。また、第二シールド掘進機2には、送泥管および排泥管が設けられ、第二カッタ部21Aと隔壁23との間に泥水を供給し、または排出している。第二外筒部20の後部には、テールシールが設けられている。
【0035】
また、第二シールド掘進機2には、第二止水装置4が設けられている。第二止水装置4は、第一シールド掘進機1に設けられた第一止水装置3と同様、第二内筒部22の先端に位置するスライドフード22Aに設けられた互いに連通する複数の貼付凍結管41を備えている。この貼付凍結管41に凍結装置5からブラインが循環供給される。その他、第二止水装置4は、第一止水装置3と同様の注入管、環状シール部材、および冷却部材を有している。
【0036】
凍結装置5は、第一シールド掘進機1および第二シールド掘進機2にそれぞれ設けられており、互いに同一の構造をなしている。以下に凍結装置5の構成を第一シールド掘進機1に接続された凍結装置5を参照して説明する。
【0037】
図1に示す凍結装置5は、図4に示すように、熱交換器50を備えている。また、熱交換器50には、第一接続管51が接続されており、第一接続管51は貼付凍結管31に接続されている。また、第一接続管51には、ブラインポンプ52が設けられている。このブラインポンプ52を作動することにより、熱交換器50から貼付凍結管31に対してブラインが循環供給される。さらに、第一接続管51には、ブラインリザーブタンク53が接続されており、ブラインリザーブタンク53には、ブラインが溜められている。このブラインとしては、たとえば主成分をCOCHとするフッ素系ブライン(商品名「HFE−7100」、住友3M社製)、主成分をCOCH5するフッ素系ブライン(商品名「HFE−7200」、住友3M社製)、主成分をCFCFClおよびCClFCFCHClFとするフッ素系ブライン(商品名「AK−225」、旭硝子社製)を好適に用いることができる。
【0038】
その一方、熱交換器50には、第二接続管54が接続されている。第二接続管54は、シールドトンネルが形成される部位の地上に停車しているタンクローリー55に搭載された液化窒素ガスタンク56に接続可能とされている。液化窒素ガスタンク56には液化窒素ガスが収容されており、第二接続管54には、図示しない液化窒素ガスポンプが設けられている。この液化窒素ガスポンプを作動することにより、液化窒素ガスが熱交換器50に供給される。さらに、第二接続管54には排気管57が接続され、排気管57は排気部58に接続されている。この排気部58から、気化した窒素ガスが排出される。なお、第一接続管51には、ブラインヒータ59が設けられている。
【0039】
次に、本実施形態に係る凍結装置を用いた地盤の凍結方法について説明する。
【0040】
本実施形態に係る凍結装置5では、シールドトンネルを接合するに際して地盤の凍結を行うにあたり、ブラインポンプ52を作動させて、ブラインリザーブタンク53に溜められたブラインを貼付凍結管31,41に対して循環供給する。ブラインリザーブタンク53に溜められたブラインは、熱交換器50を通過する。これと同時に、第二接続管54に設けられた液化窒素ガスポンプを作動させて、液化窒素ガスタンク56に収容された液化窒素ガスを熱交換器50に供給する。
【0041】
熱交換器50では、液化窒素ガスタンク56から供給される液化窒素ガスとブラインリザーブタンク53から供給されるブラインとの間で熱交換が行われる。この熱交換によって、液化窒素ガスがブラインから吸熱し、液化窒素ガスが吸熱した熱で気化するとともに、ブラインが冷却される。具体的に、たとえば液化窒素ガスが−180℃程度であった場合に、液化窒素ガスとブラインとの間で熱交換が行われることにより、ブラインが−100℃〜−40℃度程度に温度低下させられる。
【0042】
こうして、温度低下させられた低温のブラインは、第一接続管51を介して貼付凍結管31,41に循環供給される。貼付凍結管31,41に低温のブラインが循環供給されることにより、シールド掘進機1,2の接合部における周囲の地山の熱がブラインに吸熱され、ブラインの温度が上昇するとともに、地山が凍結させられる。温度が上昇したブラインは、第一接続管51を介してブラインリザーブタンク53へと流入する。また、熱交換器50において液化窒素ガスが気化した窒素ガスは、排気管57を介して排気部58に遅れられる。そして、窒素ガスは、排気部58から外部に排出される。
【0043】
ここで、本実施形態に係る凍結装置5では、地山を凍結させるにあたり、ブラインを冷却するがブラインを冷却するために熱交換器50を用いており、熱交換器50には、ブラインを冷却するための非常に低温の液化窒素ガスを供給している。熱交換器50においては、液化窒素ガスとブラインとの間で熱交換を行うことによってブラインを冷却している。このため、大型の冷凍機や冷凍機を運転するための発電機などをシールド掘進機1,2内に搬入する必要はない。したがって、シールド掘進機1,2内のスペースを広く保つことができる。
【0044】
地山を凍結して凍土を造成する際には、ブラインの温度を−100℃〜−35℃の範囲とするのが望ましく、さらには−90℃〜−50℃の範囲とするのが望ましい。ここではブラインの温度を、たとえば−80℃程度として凍土を造成する。従来、ブラインを用いた凍土の造成では、ブラインを−30℃〜−25℃程度としていたのに対して、本実施形態では、この温度よりも低温である、たとえば−80℃で凍土を造成している。このように、低温のブラインで凍土を造成することにより、凍土を迅速に造成することができるとともに、凍結膨張の発生を抑制することができる。また、低温で凍土を造成することができ、さらには地下流水による凍土成長阻害の影響を小さくすることができる。
【0045】
ただし、ブラインの温度を低くしすぎると、液化窒素ガスとの間での熱交換の効率が低くなりすぎる。また、ブラインの低温時性能を考慮すると、温度を低くしすぎると、熱交換器50内で凝固するおそれが生じる。これらの理由により、ブラインの温度を−80℃程度とするのが好適となる。
【0046】
また、シールド掘進機1,2の接合部において、地山が凍結した後は、地山を凍結する際のブラインの温度よりも高い温度のブラインを貼付凍結管31,41に供給することにより、凍土の解凍を防止しながら過剰な成長を抑制することができる。したがって、貼付凍結管31,41に供給するブラインの温度を調整することが望まれる。この点、熱交換器50に対する液化窒素ガスの供給量を調整することによってブラインの温度を容易に調整することができる。
【0047】
さらに、本実施形態に係る凍結装置5では、地山を凍結するにあたり、液化窒素ガスを直接地山に供給するのではなく、液化窒素ガスとの間で熱交換されたブラインを用いている。このため、非常に低温で地山を冷却することがないので、凍土の成長や維持のコントロールを容易に行うことができるとともに、凍土を均一に形成することができる。
【0048】
こうして地山を凍結させてシールド掘進機1,2によるシールドトンネルの接合を行い、トンネルが接合された後は、凍土が不要なものとなる。この凍土を解凍するため、シールドトンネルの接合作業終了後、貼付凍結管31,41に高温のブライン、具体的には0℃以上で90℃以下程度の温度のブラインを循環供給する。このように、高温のブラインを貼付凍結管31,41に循環供給することにより、凍土を短時間で解凍することができる。ブラインの温度を高温にするためには、たとえば熱交換器50に高温の液体を供給して、ブラインとの間で熱交換させることができる。また、電気式のヒータによりブラインを加熱することもできる。
【0049】
次に、ブラインの温度と造成される凍土の厚さとの関係について本発明者らが行った数値解析(数値シミュレーション)の結果について説明する。数値解析は、含水率を20%としたブラインを−30℃、−60℃、−90℃にそれぞれ調整し、単管でブラインを凍結対象地盤に供給してその凍結半径を予測した。また、ブラインの代わりに、単管に液化窒素(LN2)を供給して凍結対象領域を造成した際の凍結半径をも予測した。その結果を図5に示す。
【0050】
図5から判るように、−30℃のブラインを用いた場合には、凍土半径は、経過時間が30時間となったときに0.25m程度に到達し、その後微増を続けて60時間を経過した時点で0.3mを若干超える程度にとどまると予測された。これに対して、−60℃や−90℃のブラインを用いた場合には、経過時間が30時間となったときに凍土半径が0.4m程度となり、その後の増加を続け、60時間を経過した時点では、0.5m前後まで増加させることができると予測された。
【0051】
また、液化窒素ガスを用いた場合には、30時間が経過した時点で凍土半径はすでに0.6mまで成長させることができると予測された。ところが、その後の成長を抑制することができず、60時間を経過した時点で0.8m程度まで凍土半径が増加し、更に増加傾向を示すと予測された。このように、ブラインの温度を−50℃〜−90℃程度、さらには−35℃〜−100℃程度とすることにより、効果的に凍土を形成することができる。
【0052】
また、トンネル工事などでは、掘削を行う間は凍土を維持し、掘削終了後は凍土を解凍させる。また、凍土を維持している間でも、必要以上の凍土厚は要求されず、凍土厚が大きくなりすぎると、逆に環境に対して悪影響を与えることが懸念される。そこで、凍土厚を一定に保つためにブラインの温度を調整する点について、本発明者らは解析モデルを用いた二次元有限要素熱伝導解析によって1次元的な凍土成長予測を行った。凍土成長予測を行うにあたり、境界条件は、冷却面において温度強制、冷却面から30mの地点において+18℃の温度固定条件、冷却面に直交する境界面は断熱境界とした。凍結潜熱は等価潜熱法によって表現した。
【0053】
ブラインの温度としては、凍土造成期間と維持運転期間とに分け、凍土造成期間と維持運転期間との間で温度を一定とした例と温度を変更した例とを設定して行った。また、凍土造成期間と維持運転期間とでブラインの温度を変更する場合には、目標凍土厚達成直前から6時間かけてブライン温度を直線的に上昇させた。その結果を図6に示す。なお、必要凍土厚は1.5mに設定した。
【0054】
図6から判るように、凍土造成期間および維持運転期間の間、ブラインの温度を一定とし、−10℃、−20℃、−30℃とした場合には、それぞれ凍土厚が1.5mに到達するまでに180日、76日、50日と長期間を要することになった。ただし、維持運転期間に入ると、120日が経過した時点で、凍土厚はそれぞれ2m、2.4m、2.7m程度と、過度の凍土の成長は発生しないものとなった。
【0055】
また、凍土造成期間および維持運転期間の間、ブラインの温度を−80℃で一定とした場合には、凍土造成期間を18日程度と短期間とすることができた。しかし、維持運転期間に入っても凍土の成長が止まらず、120日が経過した時点で凍土厚が4m程度に到達し、必要以上に成長する結果となった。
【0056】
一方、凍土造成期間と維持運転期間とでブラインの温度を変更する場合、凍土造成期間は18日程度となり、維持運転期間に入ると、維持運転期間の温度を−10℃、−20℃として場合、それぞれ120日が経過した時点での凍土厚を2m程度に抑制することができた。また、維持運転期間の温度を−30℃とした場合でも、120日が経過した時点での凍土厚を2.7m程度に抑制することができた。また、この凍土成長予測における凍土造成期間と維持運転期間とでブラインの温度を変更する場合における地中温度分布の経時変化の例として、−80℃から−20℃へ変更した場合を図7に示す。図6および図7から判るように、凍土の融解は見られなかった。
【0057】
さらに、凍土成長予測における経過時間と累積凍上変位との関係を試算した。この試算には下記(1)式を用いた。
【0058】
ζ=A+B/U1/2 ・・・(1)
ただし、ζ:凍上率
U:凍結速度
A,B:定数(A=0.005、B=0.01)
試算の結果を図8に示す。
【0059】
図8から判るように、凍土造成完了時までに生じる凍上変位量は、凍結速度が速い方が小さくなっている。この場合、維持運転期間に入った後は凍結速度が低下するが、凍上速度は増大しない。その結果、累積凍上変位が小さい状態を持続することができる。
【0060】
以上、本発明好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態では、好適な低温液化ガスとして液化窒素ガスを用いているが、たとえば液体酸素などを用いることができる。また、上記実施形態では、シールドトンネルの接合部に凍土を造成しているが、シールドトンネルやそれ以外のトンネルの周囲に凍土を形成する場合にも用いることができ、さらには、トンネル以外の地下構造物を構築するときに凍土を造成する場合などにも用いることができる。
【0061】
さらに、上記実施形態では、凍結管として貼付凍結管を用いているが、他の凍結管とすることもできる。たとえば、地中に削孔して埋設する形式の単管、二重管、もしくは三重管や、シールドセグメントや鋼管などの内部に埋め込む形式の凍結管、その他のあらゆる形式の凍結管を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の地盤の凍結装置の概要を示す概要図である。
【図2】凍結方法が適用される第一シールドトンネルと第二シールドトンネルとの接合部位の断面図である。
【図3】シールド掘進機に設けられた止水装置の断面図である。
【図4】熱交換器を含む液体窒素ガスおよびブラインの流れを説明する図である。
【図5】ブラインを供給してから経過した経過時間と凍土の凍結半径との関係を示すグラフである。
【図6】凍土が造成される前後の経過日数と凍土厚との関係を示すグラフである。
【図7】図6に示す凍土造成において、凍土造成期間と維持運転期間とでブライン温度を変更する場合における冷却部からの距離と凍土の温度との関係の経時変化を示すグラフである。
【図8】凍土が造成される前後の経過日数と凍上変位の累積量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1…第一シールド掘進機
2…第二シールド掘進機
3…第一止水装置
4…第二止水装置
5…凍結装置
10…第一外筒部
11…第一カッタ装置
12…第一内筒部
13…隔壁
14…ジャッキ
15…シールドジャッキ
16…送泥管
20…第二外筒部
21…第二カッタ装置
22…第二内筒部
23…隔壁
31,41…貼付凍結管
32…注入管
33…環状シール部材
34…冷却部材
50…熱交換器
51…第一接続管
52…ブラインポンプ
53…ブラインリザーブタンク
54…第二接続管
55…タンクローリー
56…液化窒素ガスタンク
57…排気管
58…排気部
F1…充填剤
X…凍結対象領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤における凍結対象領域を凍結させる地盤の凍結方法であって、
前記凍結対象領域に配置されブラインを循環させる凍結管と、低温液化ガス供給手段に接続され低温液化ガスを循環供給する液化ガス供給管と、が接続された熱交換器に対して、前記液化ガス供給管を介して低温液化ガスを供給し、
前記熱交換器で低温液化ガスとの間で熱交換されたブラインを前記凍結対象領域に循環させて、前記凍結対象領域を凍結させることを特徴とする地盤の凍結方法。
【請求項2】
前記凍結対象領域がトンネルの掘削位置の周囲であり、
前記熱交換器は、前記トンネル内に配置されている請求項1に記載の地盤の凍結方法。
【請求項3】
前記ブラインの温度を−100℃〜−35℃の範囲に調整して、前記凍結対象領域を凍結させる請求項1または請求項2に記載の地盤の凍結方法。
【請求項4】
前記低温液化ガスが液化窒素ガスである請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項に記載の地盤の凍結方法。
【請求項5】
地盤における凍結対象領域における凍土の成長を制御する地盤の凍土成長制御方法であって、
前記凍結対象領域に配置されブラインを循環させる凍結管と、低温液化ガス供給手段に接続され低温液化ガスを循環供給する液化ガス供給管と、が接続された熱交換器に対して、前記液化ガス供給管を介して低温液化ガスを供給し、
前記熱交換器で低温液化ガスとの間で熱交換されたブラインを前記凍結対象領域に循環させて、前記凍結対象領域を凍結させて凍土を成長させ、
前記ブラインの温度を、前記凍結対象領域を凍結させた際の温度よりも高い温度に調整して、前記凍土の成長を抑制または停止させることを特徴とする凍土成長制御方法。
【請求項6】
前記ブラインの温度を、前記凍土の成長を抑制または停止させた際の温度よりも高い温度に調整して、前記凍土を解凍させること請求項5に記載の地盤の凍土成長制御方法。
【請求項7】
地盤における凍結対象領域を凍結させる地盤の凍結装置であって、
ブラインと低温液化ガスとの間で熱交換を行う熱交換器を備え、
前記熱交換器には、ブラインを循環させる凍結管と、低温液化ガスを循環供給する液化ガス供給管とが接続されており、
前記凍結管は、前記凍結対象領域に配置され、前記液化ガス供給管は、液化ガス供給手段に接続されていることを特徴とする地盤の凍結装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−169967(P2007−169967A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366634(P2005−366634)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】