説明

地盤の凍結方法

【課題】 凍結管としてのステンレス管や非常に低温での使用に耐えうるブラインなどを用いる必要がなく、冷凍機の設備の大型化を招かないようにしながら、地盤を早期に凍結させることができる地盤の凍結方法を提供する。
【解決手段】 シールド掘進機1,2で掘進される第一シールドトンネルおよび第二シールドトンネルの接合部の周囲における地山を凍結させるために、シールド掘進機にブラインを供給する。ブラインは、シールド掘進機1,2内に配置された凍結装置5によって冷却される。凍結装置5は、ブラインを−60℃〜−50℃の温度に冷却して、シールド掘進機1における貼付凍結管31に供給して地盤を凍結させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤を凍結させて地盤の強度を向上させて地盤の崩落を防止し、または遮水性を高めるための地盤の凍結方法に係り、特に、トンネル工事を行う際の地盤の崩落を防止するために好適な地盤の凍結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進機の発進や到達、トンネルからの非開削拡幅、トンネルや立坑の地中接続などを行う際には、地盤を凍結させる地盤凍結工法が用いられることがある。この地盤凍結工法は、たとえば−30℃程度の温度のブラインを地盤に配置された凍結管に循環供給し、地盤を凍結させて凍土を形成するものである。凍土の形成に長時間を要すると、工期の長期化を招くなどの弊害が生じることから、凍土の形成に要する時間(日数)短縮することが求められる。
【0003】
地盤を早期に凍結させる方法として、たとえば特開平11−2087号工法に開示された止水方法がある。この止水方法は、パイプルーフ工法などで開削孔から地盤へ管を導入する際に、地下水が開削孔へ漏水するのを防止するものであるが、凍結管内に液体窒素を挿入して、凍結治具の周辺に凍結領域を形成するものである。この止水方法によれば、液体窒素を用いることから、急速に凍結させることができる。
【0004】
また、このように液体窒素を地盤に埋設された凍結管に直接導入するのではなく、液化窒素の冷熱をブラインに吸熱させ、または能力の大きな冷凍機で−80℃程度まで冷却し、ブラインを地盤に埋設された凍結管に導入して、地盤を凍結させる方法も考えられる。
【特許文献1】特開平11−2087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に開示された止水方法では、凍結管内に液体窒素を導入しているが、液体窒素はたとえば−196℃程度と非常に低い温度まで冷却される。このため、凍結管として、液体窒素の導入に耐えることができる、たとえばステンレス管を用いなければならないという問題があった。
【0006】
さらに、液体窒素の冷熱をブラインに吸熱させて低温化されたブラインを凍結管内に循環させる方法では、ブラインをたとえば−80℃程度の低温まで冷却することが可能であるが、液体窒素の冷熱を吸熱しうるブラインの種類が限定されてしまう。このため、ブラインとして、非常に低温での使用に耐える特殊なものしか使用することができないという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、凍結管としてのステンレス管や非常に低温での使用に耐えうる特殊なブラインなどを用いる必要がなく、冷凍機の設備の大型化を招かないようにしながら、地盤を早期に凍結させることができる地盤の凍結方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明に係る地盤の凍結方法は地盤における凍結対象領域を凍結させる地盤の凍結方法であって、凍結対象領域に配置された凍結管内に対して、圧縮器で圧縮された冷媒を熱交換器に供給し、熱交換器によってブラインと冷媒との間で熱交換してブラインを冷却する冷凍機によって、−60℃〜−35℃の範囲に冷却されたブラインを循環供給して、凍結対象領域を凍結させることを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係る地盤の凍結方法においては、−60℃〜−35℃の範囲に冷却されたブラインを凍結対象領域に配置された凍結管内に対して循環供給して地盤を凍結させる。ブラインを−60℃〜−35℃程度の温度に冷却するためであれば、液体窒素などの非常に低温の冷媒を必要としない。また、凍結管としてのステンレス管や非常に低温での使用に耐えうるブラインなどを用いる必要がない。また、−60℃〜−35℃の範囲、特に−60℃〜−50℃の範囲では、従来の地盤凍結方法よりも迅速に地盤を早期に凍結させることができる。
【0010】
ここで、圧縮器として、冷媒を二段圧縮する二段式圧縮器が用いられている態様とすることができる。
【0011】
このように、圧縮機として二段式圧縮器が用いられていることにより、ブラインを−60℃〜−35℃に冷却するための冷媒を容易に冷却することができる。
【0012】
また、冷凍機は、圧縮器から供給される冷媒を熱交換器に膨張させながら供給する膨張弁を備えており、膨張弁として、冷媒の圧縮機への吸入温度と蒸発圧力とを検出し、吸入温度および蒸発圧力に基づいて、開度をリニアに変化させて温度調節を行うリニアバルブを用いる態様とすることができる。
【0013】
このように、熱交換器に冷媒を供給する膨張弁としてリニアバルブを用いることにより、ブラインを−60℃〜−35℃に冷却するための冷媒を適切に熱交換器に供給することができる。
【0014】
さらに、ブラインの粘度が150(mPa・s)以下とされている態様とすることができる。
【0015】
このように、粘度が150(mPa・s)以下のブラインを用いることにより、凍結管内にブラインを円滑に供給することができる。
【0016】
また、地盤の凍結方法によって凍結対象領域を凍結させた後、−35℃を超える温度のブラインを凍結対象領域に配置された凍結管内に供給して、凍結地盤の解凍および凍結地盤の過生成を防止する態様とすることができる。
【0017】
このように、凍結対象領域を凍結させた後は、凍結対象領域における凍土の過生成を防止することが望まれる。また、凍結対象領域に凍土を形成することによる止水などの役割が済んだ後は、凍土を早期に解凍することが望まれる。このような過生成の防止や凍土の解凍を行うために、本発明では、−35℃を超える温度のブラインを凍結対象領域に配置された凍結管内に供給している。このため、凍結対象領域を高い温度に昇温させることができるので、凍土の過生成を好適に防止することができるとともに、凍土を早期に解凍することができる。なお、凍土を解凍するためには、さらに高い温度、たとえば0℃〜90℃程度の温度のブラインを循環させることが好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る地盤の凍結方法によれば、凍結管としてのステンレス管や非常に低温での使用に耐えうる特殊なブラインなどを用いる必要がなく、冷凍機の設備の大型化を招かないようにしながら、地盤を早期に凍結させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各実施形態において、同一の機能を有する部分については同一の符号を付し、重複する説明は省略することがある。本実施形態では、2つのシールドトンネルを接合する際の接合部位における周囲の地盤を凍結させる例について説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る凍結方法が適用される第一シールドトンネルと第二シールドトンネルとの接合部位の断面図である。本実施形態では、トンネルの両方向から、第一シールド掘進機1および第二シールド掘進機2によってそれぞれ第一シールドトンネルおよび第二シールドトンネルを掘削し、所定の接合位置において両トンネルを接合する。この両トンネルの接合を行う前段階として、接合部位の周囲における地盤を凍結するものである。地盤を凍結することにより、地盤の強度を高めて地盤の崩落を防止するとともに、止水性を高めるものである。ここで、地盤の凍結装置を説明する前に、第一シールドトンネルおよび第二シールドトンネルを掘削するシールド掘進機について説明する。
【0021】
第一シールド掘進機1は、第一外筒部10を備えており、第一外筒部10の前方には第一カッタ装置11が設けられている。第一カッタ装置11は、円盤状をなす第一カッタ部11Aを備えている。第一カッタ部11Aの表面には、複数のビット11Bが取り付けられており、第一カッタ部11Aが回転することにより、ビット11Bによって地山が掘削される。また、第一カッタ部11Aの側縁部には、伸縮スポーク11Cが設けられており、この伸縮スポーク11Cは、第一カッタ部11Aに対してその半径方向に伸縮する。こうして、第一カッタ装置11は、その半径方向に縮径可能とされている。
【0022】
第一カッタ部11Aは、掘削を行っている間は、伸縮スポーク11Cが伸長した状態で、第一外筒部10と同一径とされている。また、伸縮スポーク11Cが収縮したときには、第一カッタ部11Aの径は、第一外筒部10の内径よりも小さくなり、第一カッタ部11Aが第一外筒部10に対して引き込み可能となる。
【0023】
第一カッタ装置11の後方には、第一内筒部12が設けられている。第一内筒部12は、第一外筒部10の内面に沿った外周部を有しており、第一外筒部10の内面に沿って移動可能とされている。第一内筒部12には、隔壁13が設けられており、隔壁13には駆動モータ11Dが設けられており、駆動モータ11Dにより第一カッタ部11Aを回転させている。また、第一内筒部12は、掘削作業中は第一外筒部10に固定されており、第一カッタ装置11は第一外筒部10とともに前後進する。
【0024】
第一内筒部12には、中折れジャッキ14が取り付けられており、中折れジャッキ14によって、第一外筒部10が中折れ可能とされている。さらに、第一外筒部10には、シールドジャッキ15が取り付けられており、組み立てられたセグメントを押圧する。シールドジャッキ15でセグメントを押圧することにより、このセグメントに反力をとって第一シールド掘進機1が前進する。さらに、第一外筒部10には図示しないエレクタが設けられている。エレクタは、第一カッタ装置11によって形成された孔にセグメントを順次組み立てていく。
【0025】
また、第一シールド掘進機1には、送泥管16および図示しない排泥管が設けられている。送泥管16および排泥管は、いずれも第一カッタ装置11における第一カッタ部11Aと隔壁13との間に配置されている。送泥管16からは、第一カッタ部11Aと隔壁13との間に高濃度泥水を供給し、第一カッタ部11Aの圧力を高めている。また、排泥管は、第一カッタ部11Aと隔壁13との間における送泥管16から供給された高濃度泥水および掘削された土からなる泥水を排出している。このように、送泥管16からの水の供給量および排泥管からの泥水の排出量により、第一カッタ装置11の圧力を調整している。さらに、第一外筒部10の後端部には、テールシールが設けられている。テールシールは、第一シールド掘進機1の後端部において、セグメントと第一シールド掘進機1との間を止水している。
【0026】
また、第一シールド掘進機1には、図2に示すように、第一止水装置3が設けられている。第一止水装置3は、第一外筒部10に設けられた互いに連通する複数の貼付凍結管31を備えている。この貼付凍結管31に、凍結装置5からブラインが循環供給されて、シールド掘進機1,2の接合部位の地山を凍結する。この凍結装置5の構成については、後に説明する。
【0027】
凍結装置5から循環供給されるブラインが貼付凍結管31を流れることにより、第一外筒部10の外側の地山における凍結対象領域Xに含まれる土中水を冷凍させることにより、凍結対象領域Xに凍土(凍結地盤)を形成することができる。また、凍結対象領域Xに凍土が形成された後、貼付凍結管31内を低温のブラインが流れると、凍土が解凍することなく維持される。本実施形態においては、ブラインとしてギ酸カリウム系ブライン(ショーワ社製:コールドブライン)を用いている。
【0028】
さらに第一止水装置3は、図1に示すように、第一内筒部12に設けられた注入管32を有しており、注入管32からは充填剤F1が噴出される。充填剤F1としては、土質系の無機質材料と水とを混合したものなどを用いることができる。また、第一止水装置3は、第一内筒部12の先端に位置するスライドフード12Aに設けられた環状シール部材33を有している。環状シール部材33は、ワイヤブラシからなり、基端部がスライドフード12Aに取り付けられ、先端部が第一外筒部10の内面に接触して、スライドフード12Aと第一外筒部10との間に空間を形成している。
【0029】
第一シールド掘進機1における第一トンネルの掘進時には、この空間に注入管32から噴出された充填剤F1が充填されている。また、第一内筒部12の内面側には、冷却部材34が設けられている。冷却部材34は、スライドフード12Aを介して冷熱を伝達させ、充填剤F1を冷凍可能としている。
【0030】
また、第二シールド掘進機2は、第一シールド掘進機1と同一の構成を有しており、第二外筒部20および第二カッタ装置21を備えている。第二カッタ部21Aの後方には、可動内筒部である第二内筒部22が設けられており、第二内筒部22には、隔壁23が設けられている。また、第二内筒部22の後部には、中折れジャッキが取り付けられている。
【0031】
さらに、第二外筒部20の後部にはシールドジャッキ取り付けられており、セグメントを押圧することにより、このセグメントに反力をとって第二シールド掘進機2を前進させる。第二外筒部20における後部上方位置にはエレクタが設けられており、セグメントを順次組み立てる。また、第二シールド掘進機2には、送泥管および排泥管が設けられ、第二カッタ部21Aと隔壁23との間に泥水を供給し、または排出している。第二外筒部20の後部には、テールシールが設けられている。
【0032】
また、第二シールド掘進機2には、第二止水装置4が設けられている。第二止水装置4は、第一シールド掘進機1に設けられた第一止水装置3と同様、第二内筒部22の先端に位置するスライドフード22Aに設けられた互いに連通する複数の貼付凍結管41を備えている。この第一シールド掘進機1と同様、凍結装置5によって、貼付凍結管41にブラインが循環供給される。その他、第二止水装置4は、第一止水装置3と同様の注入管、環状シール部材、および冷却部材を有している。
【0033】
凍結装置5は、第一シールド掘進機1および第二シールド掘進機2にそれぞれ設けられており、互いに同一の構造をなしている。以下に凍結装置5の構成を第一シールド掘進機1に接続された凍結装置5を参照して説明する。
【0034】
図1に示す凍結装置5は、図3に示すように、熱交換器であるブライン冷却器50、コンデンサ55、および冷却塔58を備えている。ブライン冷却器50は、ブライン循環室51および冷媒流通管52を有しており、ブライン循環室51にはブラインが滞留し、冷媒流通管52内には、冷媒が流通している。また、ブライン冷却器50には、膨張弁としてリニアバルブ53が設けられている。さらに、ブライン冷却器50には、冷媒が液体である際の温度を計測する図示しない温度センサおよび冷媒が蒸発して気体となった際の蒸発圧力を計測する図示しない圧力センサが設けられている。温度センサで計測された冷媒温度および圧力センサによって計測された蒸発圧力は、リニアバルブ53に出力される。コンデンサ55は、冷媒循環室56および冷却水流通管57を有しており、冷媒循環室56には気化した冷媒が充満し、冷却水流通管57内には、冷却水が流通している。さらに、冷却塔58には冷却水が滞留している。
【0035】
ブライン冷却器50におけるブライン循環室51には、ブライン用配管61が接続されており、このブライン用配管61は、ブラインヘッダ62を介して貼付凍結管31に接続されている。また、ブライン用配管61には、ブライン循環ポンプ63が設けられている。地盤を凍結するブラインは、ブライン循環ポンプ63を作動させることにより、ブライン用配管61を介してブライン循環室51から貼付凍結管31に循環供給される。
【0036】
冷媒流通管52は、ブライン循環室51内に配設されており、冷媒が冷媒流通管52を流通することにより、冷媒流通管52を流通する冷媒とブライン循環室51内におけるブラインとの間で熱交換が行われ、冷媒の冷熱がブラインに伝熱されて、ブラインが冷却される。
【0037】
冷媒流通管52の一端側は、気体冷媒用配管64と接続されており、他端側はリニアバルブ53を介して液体冷媒用配管65と接続されている。気体冷媒用配管64は、コンデンサ55における冷媒循環室56に接続されており、気体冷媒用配管64には、冷凍機圧縮機66が設けられている。また液体冷媒用配管65は、気体冷媒用配管64とは個別にコンデンサ55における冷媒循環室56に接続されている。冷凍機圧縮機66を作動させることにより、冷媒流通管52で気化した冷媒が気体冷媒用配管64を介してコンデンサ55における冷媒循環室56に流通する。冷凍機圧縮機66としては、内部に高段部と低段部が設けられた二段式圧縮構造をなす二段式圧縮機を用いており、冷媒を二段圧縮する。このため、気体となった冷媒をより好適に圧縮することができる。
【0038】
またコンデンサ55における冷媒流通管52で液化した冷媒が液体冷媒用配管65を流通し、リニアバルブ53を介して冷媒流通管52に供給される。リニアバルブ53は、図示しない温度センサおよび圧力センサで計測された液体の冷媒の温度および気化した冷媒の圧力に基づいて、その開度を調整する。また、コンデンサ55では、冷却水流通管57内に冷却水が流通することにより、気体の状態にある冷媒が冷熱を吸収して液化する。
【0039】
また、コンデンサ55における冷却水流通管57には、冷却水用配管67が接続されており、冷却水用配管67は、冷却塔58に接続されている。また、冷却水用配管67には、冷却水循環ポンプ68が設けられている。この冷却水循環ポンプ68を作動させることにより、冷却塔58内の冷却水がコンデンサ55における冷却水流通管57に循環供給される。冷却塔58では、コンデンサ55において冷媒を液化させることによって昇温した冷却水の熱を大気中に放出し、冷却水を冷却する。
【0040】
この凍結装置5では、ブラインとしてギ酸カリウム系ブラインを用いているが、そのほか、表1に示す塩化カルシウム系、グリコール系、アルコール系、塩素系、シリコーン系、フッ素系の各ブラインを用いることもできる。これらのブラインのうち、凝固点が−50℃以下であるものが好適に用いられることから、この観点では塩化カルシウム系以外のブラインが好適となる。
【0041】
【表1】

【0042】
また、ブラインを循環させるためにブラインの粘度が150(mPa・s)以下であることが好適な条件となる。この観点ではグリコール系以外のブラインが好適となる。さらに、土木工事などで使用するブラインでは、溶接熱などにより、分解等がないことが要求される。そのため引火性や毒性が生じるなどのブラインは不向きである。この観点からはアルコール系および塩素系のブラインは不向きとなり、また、フッ素系のブラインについては、熱すると有毒ガスを生じる可能性があることから、毒性の観点で好適とはいい難い。したがって、塩化カルシウム系、グリコール系、ギ酸カリウム系が好適となる。
【0043】
これらの各条件を踏まえて検討した結果、もっとも好適に用いることができるブラインはギ酸カリウム系ブラインとなる。これらの理由から、本実施形態では、ギ酸カリウム系ブラインを用いているが、表1に示す他のブラインを用いることもできる。特に、フッ素系ブラインについては、−80℃レベルでの使用にも耐えうることから高価となる傾向があることと、毒性を生じえる可能性があるといった観点から不向きとなるが、経済的観点を除いて毒性を生じ得ない状況下での使用を考慮すれば好適に用いることができる。
【0044】
また、従来のブライン冷却器における膨張弁としては、自動バルブを用いるものが多く、このようなブライン冷却器を用いた冷凍装置では、通常、−30℃程度までしかブラインを冷却することができない。これに対して、本実施形態に係るブライン冷却器50では、リニアバルブ53を用いている。リニアバルブ53では、温度センサから出力される冷媒の吸入温度および圧力センサから出力される冷媒の蒸発圧力に基づいてその開度を変化させ、別途温度調節器で設定した過熱度でブライン冷却器50を稼動させることにより、高効率で熱交換を行うようにしている。
【0045】
ここで、過熱度とは、冷媒の蒸発温度と圧縮機の吸入温度との温度差のことをいう。過熱度が0となった場合、蒸発器内で冷媒が蒸発しきれていないことを意味し、冷凍機圧縮機66は液圧縮を行うこととなる。冷凍機圧縮機が液圧縮を行うと、冷凍機圧縮機の故障の原因となることから、液圧縮となるのを防止するためには、過熱度が大きく異なるように設定することが要求される。ところが、過熱度を大きく、たとえば15℃程度異なるように設定した場合、コンデンサの能力を十分に発揮することができなくなり、非効率的な運転となってしまう。
【0046】
膨張弁として自動バルブを用いた場合には、常に一定の過熱度で装置を運転させることができないことから、冷凍機圧縮機の損傷を防止するために、過熱度を大きく設定することが要求される。この点、本実施形態では、膨張弁としてリニアバルブ53を用いていることから、過熱度を大きく異ならせることなく、温度設定をすることができる。具体的には、5℃程度の過熱度とすることができる。このため、冷凍機圧縮機の損傷を防止しながら、効率よくコンデンサの能力を発揮させることができるので、−35℃〜−60℃といった温度域まで、ブラインを冷却することができる。したがって、冷凍機の設備の大型化を招かないようにしながら、地盤を早期に凍結させることができる。
【0047】
また、LN(液体窒素)を直接凍結管に流入させる方法では、凍結管としてステンレス管を用いることが要求されるが、本実施形態では、凍結管には−60℃〜−35℃程度のブラインを流入させる。このため、凍結管としてステンレス管など低温脆性が生じない高い金属製のものを要求されることがなく、通常の鋼管を利用することができる。また、−80℃といった非常に低い温度まで低下させるものではないので、冷却設備の簡素なもので済ませることができる。したがって、その分装置の簡素化を図ることができる。
【0048】
この点についてさらに説明する。ブラインの温度を低く設定すると、その分地盤を早期に凍結させることができるが、凍結管の耐性が問題となる。鋼管として広く用いられる炭素鋼には、一般に、低温になるほど脆くなるとう性質がある。この性質を裏付けるべく、試験片としてSM490Aを用いて行ったシャルピー試験の一例の結果を図4に示す。図4(a)には、試験片温度と衝撃吸収エネルギーとの関係、図4(b)には試験片温度と脆性破面率との関係を示す。
【0049】
図4(a)から分かるように、常温では200J以上の衝撃吸収エネルギーを有する試験片であっても、−80℃を下回る温度となると、衝撃吸収エネルギーは10J以下にまで低下してしまう。また、図4(b)から分かるように、−80℃以下の温度となると、脆性破面率についてもほぼ100%となってしまう。これに対して、−60℃程度であれば、衝撃吸収エネルギーは50J程度を維持するとともに、脆性破面率についても85%程度に抑えることができる。このことから、ブラインの温度が−60℃以上であれば、ステンレス鋼ではなく、通常の炭素鋼などを用いた鋼管を凍結管として利用しても、鋼管の破損を防止することができることが分かる。したがって、ブラインの温度は、−60℃以上で、かつできるだけ低い温度とすることにより、凍結管として通常の鋼管を用いながらも、早期に地盤を凍結させることができる。
【0050】
次に、本実施形態に係る凍結装置を用いた地盤の凍結方法について説明する。
【0051】
本実施形態に係る凍結装置5では、シールドトンネルを接合するに際して地盤の凍結を行うにあたり、ブライン循環ポンプ63を作動させて、ブラインを貼付凍結管31に対して循環供給する。ブライン循環ポンプ63によって循環させられるブラインは、ブライン冷却器50を通過する。これと同時に、冷凍機圧縮機66を作動させて、冷媒をブライン冷却器50に供給する。
【0052】
ブライン冷却器50では、冷凍機圧縮機66によって供給される冷媒とブライン循環ポンプ63によって供給されるブラインとの間で熱交換が行われる。この熱交換によって、冷媒がブラインから吸熱し、冷媒が吸熱した熱で気化するとともに、ブラインが冷却される。この熱交換により、ブラインは−60℃〜−50℃程度に冷却される。
【0053】
こうして、冷却された低温となったブラインは、ブライン用配管61を介して貼付凍結管31に循環供給される。貼付凍結管31に低温のブラインが循環供給されることにより、シールド掘進機1,2の接合部における周囲の地山の熱がブラインに吸熱され、ブラインの温度が上昇するとともに、地山が凍結させられる。温度が上昇したブラインは、ブライン用配管61を介してブライン冷却器50へと流入する。また、ブライン冷却器50において気化した冷媒は、気体冷媒用配管64を介してコンデンサ55に送られる。
【0054】
コンデンサ55には、冷却水循環ポンプ68に作動によって、冷却水が循環供給されている。コンデンサ55では、冷却水と気化した冷媒との間で熱交換が行われ、冷媒が冷却されて、液化する。この液化した冷媒がブライン冷却器50に循環供給されて、ブラインを冷却する。
【0055】
本実施形態においては、地山を凍結して凍土を造成する際に、ブラインの温度を−60℃〜−35℃、さらに好ましくは−60℃〜−50℃に範囲としている。従来、ブラインを用いた凍土の造成では、ブラインを−30℃〜−25℃程度としていたのに対して、本実施形態では、この温度よりも低温である、たとえば−60℃〜−50℃で凍土を造成している。このように、低温のブラインで凍土を造成することにより、凍土を迅速に造成することができるとともに、凍結膨張の発生を抑制することができる。また、低温で凍土を造成することができ、さらには地下流水による凍土成長阻害の影響を小さくすることができる。
【0056】
また、本実施形態では、シールドトンネルを接合する間は凍土を維持し、接合作業終了後は凍土を解凍させる。また、凍土を維持している間でも、必要以上の凍土厚は要求されず、凍土厚が大きくなりすぎると、逆に環境に対して悪影響を与えることが懸念される。そこで、地盤にブラインを循環させて所定の厚さまで凍土を成長させた後、凍土の過生成を防止すべく、このときのブラインの温度よりも高い温度、具体的に−35℃を超える温度に調整されたブラインを凍土に循環供給する。このように、所定の厚さの凍土が形成された後は、温度の高いブラインを循環供給することにより、凍土の過度の成長を抑制するとともに、凍土の解凍を防止することができる。
【0057】
さらに、シールドトンネルの結合が終了し、凍土の利用が済んだら、さらに高い温度、たとえば0℃〜30℃程度のブラインを凍結対象領域に循環させることにより、凍土を解凍することができる。また、さらに高い温度、たとえば90℃程度のブラインを地盤に循環供給することにより、凍土を早期に解凍することができる。このとき、ブライン冷却器50を用いてブラインの温度調整を行っているので、ブライン冷却器50に供給する冷媒の供給量などを調整することにより、ブラインの温度の調整を容易に行うことができる。あるいは、電気式のヒータによりブラインを加熱することもできる。
【0058】
次に、ブラインの温度と造成される凍土の厚さとの関係について本発明者らが行った数値解析(数値シミュレーション)の結果について説明する。その結果を図5および表2に示す。数値解析は、地盤の容積含水率を60%、地盤温度を20℃にそれぞれ設定し、ブラインを−30℃、−50℃、−60℃、−90℃にそれぞれ調整し、凍結対象地盤に供給してその凍結半径を予測した。このシミュレーションでは、図5に破線で示す片側凍土厚0.4m未満については単管理論に基づき、0.4m以上では管列理論に基づきそれぞれシミュレーションを行った。
【0059】
【表2】

【0060】
図5および表2から分かるように、−30℃のブラインを用いた場合には、1.5mの凍土を形成するための凍土造成期間に68日の期間を要したのに対して、−50℃のブラインでは39日、−60℃のブラインでは、33日、−80℃のブラインでは25日の期間を要した。この結果から、ブラインの温度が低いほど凍土造成期間が短くて済むことが分かる。それとともに、−30℃のブラインを用いた場合には、−50℃のブラインを用いる場合よりも29日も長期間がかかる一方、−50℃のブラインを用いた場合には、−80℃のブラインを用いた場合よりも14日ほどしか長くかかる期間がない結果となった。さらに−60℃のブラインを用いた場合には、−80℃のブラインを用いた場合よりもわずか8日ほどしか長くかかる期間がない結果となった。
【0061】
その一方で、−80℃まで低温化されたブラインを地盤に供給するためには、凍結管としてステンレス管などの非常な低温に耐えることができる管を用いなければならないなどの制約が生じていた。この点、−60℃〜−35℃程度であれば、上記のシャルピー試験で鋼管を用いたSM490AやSGP(スチールガスパイプ、配管用炭素鋼管)などの通常の鋼管を用いることができる。
【0062】
また、ブラインを−80℃程度にまで冷却するためには、大型設備となる二元式冷凍機や冷媒として液化窒素を用いるなど、設備負担が強いられることとなるが、−60℃〜−35℃程度にまで冷却するのであれば、簡素な二段式圧縮器冷凍機で十分に対応することができる。このため、冷凍機の設備の大型化を招かないようにすることができる。
【0063】
以上、本発明好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態では、シールドトンネルの接合部に凍土を造成しているが、シールドトンネルやそれ以外のトンネルの周囲に凍土を形成する場合にも用いることができ、さらには、トンネル以外の地下構造物を構築するときに凍土を造成する場合などにも用いることができる。
【0064】
さらに、上記実施形態では、凍結管として貼付凍結管を用いているが、他の凍結管とすることもできる。たとえば、地中に削孔して埋設する形式の単管、二重管、もしくは三重管や、シールドセグメントや鋼管などの内部に埋め込む形式の凍結管、その他のあらゆる形式の凍結管を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】凍結方法が適用される第一シールドトンネルと第二シールドトンネルとの接合部位の断面図である。
【図2】シールド掘進機に設けられた止水装置の断面図である。
【図3】ブライン冷却器を含む冷媒およびブラインの流れを説明する図である。
【図4】シャルピー試験における結果を示すグラフであり、(a)は試験片温度と衝撃吸収エネルギーの関係、(b)は試験片温度と脆性破面率との関係をそれぞれ示す。
【図5】凍土が造成される前後の経過日数と凍土厚との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
1…第一シールド掘進機
2…第二シールド掘進機
3…第一止水装置
4…第二止水装置
5…凍結装置
31…貼付凍結管
32…注入管
33…環状シール部材
34…冷却部材
41…貼付凍結管
50…ブライン冷却器
51…ブライン循環室
52…冷媒流通管
53…リニアバルブ
55…コンデンサ
56…冷媒循環室
57…冷却水流通管
58…冷却塔
61…ブライン用配管
62…ブラインヘッダ
62…ブライン用配管
63…ブライン循環ポンプ
64…気体冷媒用配管
65…液体冷媒用配管
66…冷凍機圧縮機
67…冷却水用配管
68…冷却水循環ポンプ
X…凍結対象領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤における凍結対象領域を凍結させる地盤の凍結方法であって、
前記凍結対象領域に配置された凍結管内に対して、圧縮器で圧縮された冷媒を熱交換器に供給し、前記熱交換器によってブラインと前記冷媒との間で熱交換して前記ブラインを冷却する冷凍機によって、−60℃〜−35℃の範囲に冷却されたブラインを循環供給して、前記凍結対象領域を凍結させることを特徴とする地盤の凍結方法。
【請求項2】
前記圧縮器として、前記冷媒を二段圧縮する二段式圧縮器が用いられている請求項1に記載の地盤の凍結方法。
【請求項3】
前記冷凍機は、前記圧縮器から供給される冷媒を前記熱交換器に膨張させながら供給する膨張弁を備えており、
前記膨張弁として、前記冷媒の圧縮機への吸入温度と蒸発圧力とを検出し、前記吸入温度および蒸発圧力に基づいて、開度をリニアに変化させて温度調節を行うリニアバルブを用いる請求項1または請求項2に記載の地盤の凍結方法。
【請求項4】
前記ブラインの粘度が150(mPa・s)以下とされている請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項に記載の地盤の凍結方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4に記載の地盤の凍結方法によって前記凍結対象領域を凍結させた後、
−35℃を超える温度のブラインを前記凍結対象領域に配置された凍結管内に供給して、前記凍結地盤の解凍および前記凍結地盤の過生成を防止することを特徴とする地盤の凍結方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−19650(P2008−19650A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193238(P2006−193238)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(390002233)ケミカルグラウト株式会社 (79)
【Fターム(参考)】