説明

地盤変位計測装置

【課題】本発明は、従来にない作用効果を発揮する画期的な地盤変位計測装置を提供することを目的とする。
【解決手段】地滑りや土砂崩れなどの地盤変位を計測するための装置であって、被計測地域Aにおける移動するであろう移動部位A1と移動しないであろう不動部位A2との間に架設され、前記被計測地域Aに這わせ状態若しくは埋設状態で配設される計測棒体1を有し、この計測棒体1は適宜な柔軟性を具備して配設部位の形状に順応するフレキシブル構造体であり、前記移動部位A1が移動した際、前記計測棒体1が接続される計測器2により該計測棒体1の移動が計測されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤変位計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地滑りや土砂崩れなどの地盤変位(自然災害)の発生が増加しており、大きな社会問題となっている。
【0003】
そこで、従来においても、地滑りや土砂崩れなどの地盤変位が発生したことを迅速に把握すべく、例えば特開平9−257527号に開示される地滑り計測装置(以下、従来例という。)が提案されている。
【0004】
この従来例は、図8に図示したように被計測地域Aにおける移動するであろう移動部位A1と移動しないであろう不動部位A2夫々に設けられる杭体34間に架設されるインバー線31と、不動部位A2に設けられインバー線31に接続される計測器32とを具備し、この計測器32により移動部位A1の移動によって生じるインバー線31の移動量(長さ方向への移動量)を計測するものである。尚、インバー線31はニッケル合金製で直径約0.5mmと極めて細く、図示省略の錘体若しくはバネにより張設されている。
【0005】
また、従来例に係る計測器31には警報ユニット35が接続され、この警報ユニット35により計測器31で計測されるインバー線31の移動量の異常を検知した際、サイレン及び回転灯が作動し、よって、計測結果をもとに警報ユニット35を介して地盤変位の発生が報知される。
【0006】
また、従来例は、図8に図示したようにインバー線31に日光や風雨や降雪が当たったり、落葉や動物が接触したり、植物のつるが絡むなどして、インバー線31が破損したり誤作動したりするのを防止すべく、インバー線31に管体33(約100mmの塩ビ管)が被嵌されており、この管体33の被計測地域A(地上0.5m〜2mの空中位置)への設置は、熱膨張の少ない木杭36を用いて行われる。
【0007】
【特許文献1】特開平9−257527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来例は、これから地盤変位が発生すると予想される地域で使用されるのは勿論、既に地盤変位が発生した地域で二次発生を想定して使用される場合も多く、このような足場の悪い起伏した被計測地域Aでインバー線31を一直線に張った状態で架設し、更に、図9に図示したように、このインバー線31に触れないように管体33を被嵌して設置する作業は極めて困難である(管体33がインバー線31に触れると誤作動の原因となり、また、インバー線31が破損する原因ともなり、この場合インバー線31を張りなおさなければならない。)。
【0009】
また、従来例は、管体33としてインバー線31に触れない径大の管体33を採用しなければならず、よって、装置自体が大掛かりなものとなってしまい、この点においても取り扱い性が悪くて設置作業が困難で、また、これらの被測定地域Aへの搬送作業も困難であり、しかも、コスト高である。
【0010】
また、従来例は、降雪地域においては、管体33を保護すべく図10に図示したような大掛かりな雪囲い37(屋根37aやカバー37b)をしなけれなならず、よって、この点においても設置作業が困難であり、しかも、コスト高である。
【0011】
以上のように、従来例は、被計測地域Aへの設置作業が困難で、しかも、装置自体が大掛かりなものとなりコスト高であるなどの問題点がある。
【0012】
本発明は、上述の問題点に着目し、種々の実験・研究を繰り返し行った結果、従来にない作用効果を発揮する画期的な地盤変位計測装置を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0014】
地滑りや土砂崩れなどの地盤変位を計測するための装置であって、被計測地域Aにおける移動するであろう移動部位A1と移動しないであろう不動部位A2との間に架設され、前記被計測地域Aに這わせ状態若しくは埋設状態で配設される計測棒体1を有し、この計測棒体1は適宜な柔軟性を具備して配設部位の形状に順応するフレキシブル構造体であり、前記移動部位A1が移動した際、前記計測棒体1が接続される計測器2により該計測棒体1の移動が計測される構成であることを特徴とする地盤変位計測装置に係るものである。
【0015】
また、請求項1記載の地盤変位計測装置において、前記計測棒体1は炭素繊維を束ねて成る棒状体であることを特徴とする地盤変位計測装置に係るものである。
【0016】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の地盤変位計測装置において、前記計測棒体1は、直径2mm〜20mm、線膨張係数が0.1×10−6/℃〜1.0×10−6/℃であることを特徴とする地盤変位計測装置に係るものである。
【0017】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載の地盤変位計測装置において、前記計測棒体1には管体3が被嵌されており、この管体3は適宜な柔軟性を具備して配設部位の形状に順応するフレキシブル構造体であることを特徴とする地盤変位計測装置に係るものである。
【0018】
また、請求項4記載の地盤変位計測装置において、前記管体3は複数の管部材3Aを連結して構成されており、この管部材3A同士の連結部位には伸縮機構Sが設けられていることを特徴とする地盤変位計測装置に係るものである。
【0019】
また、請求項5記載の地盤変位計測装置において、前記伸縮機構Sは、隣接する前記管部材3A同士の間に該管部材3A夫々の端部に嵌合する連結管部材3Bが設けられた構成であることを特徴とする地盤変位計測装置に係るものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明は上述のように構成したから、前述した従来例に比し、被計測地域への設置作業が簡易且つ迅速に行えることになり、しかも、装置自体が大掛かりなものとならないためコスト安であるなど従来にない作用効果を発揮する画期的な地盤変位計測装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
好適と考える本考案の実施形態を、図面に基づいて本考案の作用を示して簡単に説明する。
【0022】
被計測地域Aにおける移動部位A1と不動部位A2との間に計測棒体1を架設する。
【0023】
具体的には、この計測棒体1の架設作業は、被計測地域Aに計測棒体1を這わせ状態若しくは埋設状態に配設して行う。この計測棒体1は柔軟性を具備している為、配設部位の形状に順応することになり、被計測地域Aへの這わせ状態若しくは埋設状態での配設が良好に行える。
【0024】
その後、例えば被計測地域Aにて地滑りが生じて移動部位A1が移動した場合、計測棒体1が接続される計測器2により該計測棒体1の移動が計測される。
【0025】
従って、前述した従来例のようなインバー線31を空中に架設したり、この空中に架設されるインバー線31を大掛かりな構造体で保護する必要も無く、よって、被計測地域Aへの設置作業が簡易且つ迅速に行えることになり、しかも、装置自体が大掛かりなものとならないためコスト安である。
【実施例】
【0026】
本発明の具体的な一実施例について図面に基づいて説明する。
【0027】
本実施例は、地滑りや土砂崩れなどの地盤変位を計測するためのものである。
【0028】
尚、本実施例では、被計測地域Aとして地滑りや土砂崩れや岩盤崩れが生じる地域としているが、これに限られるものではなく、例えば雪崩の発生が予想される地域や人工的に土や岩を積んだ地域でも使用し得るものであり、その使用範囲は多岐に亙るものである。
【0029】
具体的には、本実施例は、被計測地域Aにおける移動するであろう移動部位A1と移動しないであろう不動部位A2との間に架設される計測棒体1を有し、この計測棒体1の作動により移動部位A1が移動したことを計測する計測器2が設けられたものである。
【0030】
計測棒体1は、図1,2に図示したように炭素繊維を束ねて結合(変性エポキシ樹脂をマトリクスとして結合)して成る棒状体であり、本実施例では東京製綱(株)製の炭素繊維複合材ケーブル「CFCC(登録商標)」を採用しており、適度な柔軟性を有し、高強度(剛性)、高耐食性に秀れている。
【0031】
具体的には、計測棒体1に使用する際の特性としては、直径(2mm〜20mm)、最小曲げ半径(0.3m〜1m)、単位長さ質量(直径2mmで5g/m、直径20mmで470g/m)、線膨張係数(0.1×10−6/℃〜1.0×10−6/℃)が好適であり、本実施例では、図3に図示した特性(直径4.2mm、線膨張係数0.6×10−6/℃)を有するものを採用している。
【0032】
尚、計測棒体1を構成する部材としてはこれに限られるものではない。
【0033】
また、計測棒体1には、管体3が被嵌されている。
【0034】
この管体3は、図1,2,4に図示したように適宜な合成樹脂製の部材(塩化ビニル)で形成したものであり、前述した計測棒体1に被嵌し得る内孔を有する複数の管部材3Aを連結して構成され、全体として適度な柔軟性を有するフレキシブル構造体であり、配設される部位の形状に順応することになる。
【0035】
この管部材3A同士の連結部位には伸縮機構Sが設けられている。
【0036】
この伸縮機構Sは、図2に図示したように隣接する管部材3A同士の間に該管部材3A夫々の端部に連結管部材3Bを被嵌して構成されている。尚、連結管部材3Bに管部材3A夫々の端部を被嵌したり、或いは、一端と他端を異なる嵌合状態(被嵌と嵌挿)としても良い。
【0037】
従って、管体3は伸縮機構Sにより伸縮することになり、管部材3Aが気温の変化により膨張若しくは収縮した際、各管部材3Aが連結管部材3B内を摺動するため、内部に配される計測棒体1に影響を与えないことになる。
【0038】
計測器2は、図1に図示したように従来から提案される周知構造のものであり、計測棒体1の端部が接続される接続部2aを有し、計測棒体1が該計測棒体1の長さ方向へ移動した際、その移動量を測定し得るように構成されている。
【0039】
また、計測器2には警報ユニット5が接続されている。
【0040】
この警報ユニット5は、図1に図示したように従来から提案される周知構造のものであり、計測器2により測定される計測棒体1の移動量の異常を1分おきに判定を行っており、異常を検知した際、サイレンや回転灯などの報知手段が作動するように構成されている。
【0041】
また、警報ユニット5は、前述した計測器2の測定をもとにした判定結果を随時記録する自動記録機能を具備している。
【0042】
尚、警報ユニット5は、特定省電力無線やパケット通信を用いて遠隔操作を行うようにしても良いし、携帯電話に異常を通報する機能を具備せしめても良い。
【0043】
以上の構成からなる本実施例に係る地盤変位計測装置の使用例について説明する。尚、本実施例では、図1に図示したように被計測地域Aとして既に地滑りが起きてクラックKが生じている地域を採用しており、このクラックKよりも下側の部位を移動するであろう移動部位A1とし、上側の部位を移動しないであろう不動部位A2として設置している。
【0044】
先ず、図1に図示したように移動部位A1と不動部位A2に杭体4を打ち、管体3に被嵌された計測棒体1を被計測地域Aに這わせた状態で配設するとともに、この計測棒体1の上下端部を上下の杭体4に接続して該杭体4間に計測棒体1を架設する。上側の杭体4には計測器2が設けられており、計測棒体1の上端部は計測器2に接続される。
【0045】
また、管体3は移動部位A1及び不動部位A2の所定位置に約1〜2m間隔で固定ピン6により固定される。
【0046】
尚、図5に図示したように被計測地域Aが降雪地であればフレキシブル構造のカバー体7で覆って保護するようにしても良く、また、図6に図示したように管体3(計測棒体1)を地中に埋設状態で配設するようにしても良い。
【0047】
その後、図7に図示したように移動部位A1が地滑りを起こして下方へ移動した際、計測棒体1は、下方に引動されて計測器2で該計測棒体1の移動量が計測される。
【0048】
この計測器2による計測棒体1の移動量が異常であると警報ユニット5が判定した際、警報ユニット5に具備される報知手段(サイレンや回転灯など)で地盤変位が報知される。
【0049】
本実施例は上述のように構成したから、前述した従来例のようなインバー線31を空中に架設したり、この空中に架設されるインバー線31を大掛かりな構造体で保護する必要も無く、よって、被計測地域Aへの設置作業が簡易且つ迅速に行えることになり、しかも、装置自体が大掛かりなものとならないためコスト安である。
【0050】
また、本実施例は、計測棒体1は炭素繊維を束ねて成る棒状体であり、高強度、高耐食性に秀れることになる。
【0051】
また、本実施例は、計測棒体1には管体3が被嵌されており、この管体3は適宜な柔軟性を具備して配設部位の形状に順応するフレキシブル構造体であるから、計測棒体1を確実に保護するのは勿論、計測棒体1の設置作業が簡易且つ迅速に行えることになる。
【0052】
また、本実施例は、管体3は複数の管部材3Aを連結して構成されており、この管部材3A同士の連結部位には伸縮機構Sが設けられているから、管体3が温度の変化などにより長さ変化を起こそうとしても、この伸縮機構Sで対応して管体3が蛇行したりすることが確実に防止されることになり、よって、計測棒体1を使用しての計測に何ら支障を来たすことがない。
【0053】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施例の使用状態説明図である。
【図2】本実施例に係る要部の説明図である。
【図3】本実施例に係る計測棒体1の特性を示す説明図である。
【図4】本実施例に係る要部の説明図である。
【図5】本実施例の別使用例を示す説明図である。
【図6】本実施例の別使用例を示す説明図である。
【図7】本実施例の使用状態説明図である。
【図8】従来例の使用状態説明図である。
【図9】従来例に係る要部の説明図である。
【図10】従来例の別使用例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0055】
A 被計測地域
A1 移動部位
A2 不動部位
S 伸縮機構
1 計測棒体
2 計測器
3 管体
3A 管部材
3B 連結管部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地滑りや土砂崩れなどの地盤変位を計測するための装置であって、被計測地域における移動するであろう移動部位と移動しないであろう不動部位との間に架設され、前記被計測地域に這わせ状態若しくは埋設状態で配設される計測棒体を有し、この計測棒体は適宜な柔軟性を具備して配設部位の形状に順応するフレキシブル構造体であり、前記移動部位が移動した際、前記計測棒体が接続される計測器により該計測棒体の移動が計測される構成であることを特徴とする地盤変位計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の地盤変位計測装置において、前記計測棒体は炭素繊維を束ねて成る棒状体であることを特徴とする地盤変位計測装置。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の地盤変位計測装置において、前記計測棒体は、直径2mm〜20mm、線膨張係数が0.1×10−6/℃〜1.0×10−6/℃であることを特徴とする地盤変位計測装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の地盤変位計測装置において、前記計測棒体には管体が被嵌されており、この管体は適宜な柔軟性を具備して配設部位の形状に順応するフレキシブル構造体であることを特徴とする地盤変位計測装置。
【請求項5】
請求項4記載の地盤変位計測装置において、前記管体は複数の管部材を連結して構成されており、この管部材同士の連結部位には伸縮機構が設けられていることを特徴とする地盤変位計測装置。
【請求項6】
請求項5記載の地盤変位計測装置において、前記伸縮機構は、隣接する前記管部材同士の間に該管部材夫々の端部に嵌合する連結管部材が設けられた構成であることを特徴とする地盤変位計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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