説明

地盤変形解析装置及び地盤変形解析プログラム

【課題】地下水位の変動に伴う地盤変形の評価を一貫して合理的に行う。
【解決手段】解析対象の所定深さの地盤を透水層と不透水層に分類し、各層について、層厚、深度、初期水位、不飽和単位体積重量、水中単位体積重量及び各層が透水層であるか不透水層であるかを示す情報を入力し、入力した情報に基づいて、各層の初期水圧を計算する手段と、各層における水位を入力し、水位の変化量を求める手段と、求めた水位の変化量に基づいて、透水層において水位の変化があるか否かを判定する手段と、水位が低下したと判定された場合に、水位面より浅い位置であるかまたは深い位置であるかに応じた荷重を計算して荷重情報記憶手段に記憶する第1の荷重計算手段と、水位が上昇したと判定された場合に、水位面より浅い位置であるかまたは深い位置であるかに応じた荷重を計算して荷重情報記憶手段に記憶する第2の荷重計算手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水位の変動に伴う地盤変形の評価を行う地盤変形解析装置及び地盤変形解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から建築地下工事において地下常水位面以深での施工を行う場合に掘削領域を止水壁で囲って内部の地下水をディープウェル等で揚水し、地下水位を掘削底面より下げた状態でドライ施工を行うことが多い。地下水位が変動すると、掘削による除荷や構造物構築による載荷を行わなくても、地盤内の有効応力が変化し、それに伴う地盤の変形が生じる。すなわち地下水位が低下すると地盤の有効応力が増加するために沈下が生じ、逆に地下水位が上昇すると地盤の有効応力が減少するためにリバウンドが生じる。また止水壁(山留め壁)の内側で水圧の作用する深度が変化するため、壁に水平方向の変位が生じる。
【0003】
このような現象は事実として知られており、地下施工時の地盤と構造物の沈下・リバウンド挙動、山留め壁の変形挙動等を適切に表現するためには考慮すべき問題である。有効応力の変化を浮力の増減として作用させる等の方法によりその評価が試みられている。
【0004】
なお、先行技術として、既存建物の地下外壁の一部を利用する新規建物の地下部掘削工事における支保部材の合理化を図るために、不透水層のある山留め壁の支保性能の評価を行う手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−000000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、地盤内に不透水層が存在する場合にはその上下の一方で水位が変化しても他方では変化せず、上位の層で荷重として浮力を与えた場合には下位の層でそれを打ち消す荷重を与える必要があるなど、現象が複雑であり、通常行われる全応力解析では表現が困難である。従来技術では、このような問題を一貫して合理的に扱う方法は提案されていない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、地下水位の変動に伴う地盤変形の評価を一貫して合理的に行うことができる地盤変形解析装置及び地盤変形解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、地下水位の変動に伴う地盤変形の解析を行うのに必要な荷重計算を行う地盤変形解析装置であって、荷重情報を記憶する荷重情報記憶手段と、解析対象の所定深さの地盤を透水層と不透水層に分類し、各層について、層厚、深度、初期水位、不飽和単位体積重量、水中単位体積重量及び各層が透水層であるか不透水層であるかを示す情報を入力し、入力した情報に基づいて、各層の初期水圧を計算する初期設定手段と、各層における水位を入力し、水位の変化量を求める水位算出手段と、前記水位算出手段によって求めた前記水位の変化量に基づいて、前記透水層において水位の変化があるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段によって、水位が低下したと判定された場合に、前記水位面より浅い位置であるかまたは深い位置であるかに応じた荷重を計算して前記荷重情報記憶手段に記憶する第1の荷重計算手段と、前記判定手段によって、水位が上昇したと判定された場合に、前記水位面より浅い位置であるかまたは深い位置であるかに応じた荷重を計算して前記荷重情報記憶手段に記憶する第2の荷重計算手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明は、地下水位の変動に伴う地盤変形の解析を行うのに必要な荷重計算を行うために、求めた荷重情報を記憶する荷重情報記憶手段を備える地盤変形解析装置上のコンピュータで動作する地盤変形解析プログラムであって、解析対象の所定深さの地盤を透水層と不透水層に分類し、各層について、層厚、深度、初期水位、不飽和単位体積重量、水中単位体積重量及び各層が透水層であるか不透水層であるかを示す情報を入力し、入力した情報に基づいて、各層の初期水圧を計算する初期設定ステップと、各層における水位を入力し、水位の変化量を求める水位算出ステップと、前記水位算出ステップによって求めた前記水位の変化量に基づいて、前記透水層において水位の変化があるか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップによって、水位が低下したと判定された場合に、前記水位面より浅い位置であるかまたは深い位置であるかに応じた荷重を計算して前記荷重情報記憶手段に記憶する第1の荷重計算ステップと、前記判定ステップによって、水位が上昇したと判定された場合に、前記水位面より浅い位置であるかまたは深い位置であるかに応じた荷重を計算して前記荷重情報記憶手段に記憶する第2の荷重計算ステップとを前記コンピュータに行わせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地下水位の変動に伴う地盤変形の評価を一貫して合理的に行うことができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す荷重計算部11の処理動作を示すフローチャートである。
【図3】図1に示す荷重計算部11の処理動作を示すフローチャートである。
【図4】図1に示す荷重計算部11の処理動作を示すフローチャートである。
【図5】図1に示す荷重計算部11の処理動作を示すフローチャートである。
【図6】評価対象の地盤の例を示す模式図である。
【図7】解析対象例の2次元地盤モデルの構成を示す説明図である。
【図8】図7に示す地盤モデルの地盤定数を示す図である。
【図9】モデル地盤の解析ステップを示す説明図である。
【図10】モデル地盤の解析ステップを示す説明図である。
【図11】解析StepA〜Bにおける変形図の表示例を示す図である。
【図12】解析StepC〜Eにおける変形図の表示例を示す図である。
【図13】各解析Stepにおける掘削底面(層3の上面)における鉛直変位の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態による地盤変形解析装置を説明する。図1は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、符号1は、パーソナルコンピュータ等で構成する解析装置である。符号2は、キーボードやマウスで構成する入力部である。符号3は、液晶ディスプレイ装置等で構成する表示部である。符号11は、地下水位の変動に伴う地盤変形の評価を行うために、事前に荷重計算を行う荷重計算部である。符号12は、荷重計算部11で求めた荷重情報を記憶する荷重情報記憶部である。符号13は、荷重情報記憶部12に記憶されている荷重情報を読み込んで、地盤の変形状態を可視化するための計算を行う変形計算部であり、例えば、有限要素法を用いた計算処理を実行する。符号14は、変形計算部13で計算した地盤の変形状態情報を記憶する変形計算結果情報記憶部である。
【0013】
ここで、図6を参照して、評価対象の地盤を定義する。図6は、評価対象の地盤の一例を示す模式図である。図6に示すように、評価対象の地盤は、6層からなり、地表に近い方から、層1から層6と称する。ここでは、層1〜3、層5は、透水層であり、層4、6は、不透水層であるものとする。
【0014】
次に、図2〜図5を参照して、図1に示す荷重計算部11の処理動作を説明する。図2〜図5は、図1に示す荷重計算部11の処理動作を示すフローチャートである。ここで、図2〜図5において用いている変数について定義する。kは、計算を複数の段階に分けて行う場合の段階番号である。nは、地層番号である。Nは、地層の数である。z(n,k)は、k段階におけるn層の地下水位である。Δh(n)は、n層の地下水位変化量である。p(n)は、地層の透水性を表すフラグ(0は、不透水層,1は、透水層)である。H(n)は、n層の層厚である。z(n)は、地層の中央深度である。γ(n)は、n層の不飽和(湿潤)単位体積重量である。γ’(n)は、n層の水中(有効)単位体積重量である。p(n)は、n層における水圧である。γは、水の単位体積重量である。K(n)は、n層の静止土圧係数である。
【0015】
まず、荷重計算部11は、初期設定を行う(ステップS1)。ここで、図3を参照して、図2に示す初期設定処理について説明する。図3は、図2に示す初期設定(ステップS1)の処理動作を示すフローチャートである。
【0016】
まず、入力部2から解析者が入力する地層数Nを読み込む(ステップS11)。次に、ステップS12〜S24の処理を地層数N回繰り返す。続いて、入力部2から解析者が入力する各地層の厚さ(層厚)H(n)を読み込む(ステップS13)。ここで、nは地層番号である。
【0017】
次に、(1)式により、地層深度z(n)を算出する(ステップS14)。フローチャート図面中の式の表現において「→」は、変数への代入を示す。地層深度はその中央深度を代表値とする。なお、以下の説明においては、地表面を0として、深度及び水位を負の値で表現するものとする。
【数1】

【0018】
続いて、入力部2から解析者が入力する初期水位z(n,0)、不飽和単位体積重量γ(n)、水中単位体積重量γ’(n)をそれぞれ読み込む(ステップS15、S16、S17)。
【0019】
次に、荷重計算部11は、地下水位面との位置関係を判定する(ステップS18)。この判定は、地層深度z(n)と初期水位z(n,0)の大小比較を行うことにより行う。この判定の結果、地層深度z(n)が大きい(地下水位面以浅)場合、荷重計算部11は、地盤の単位重量γ(n)にγ(n)を代入する(ステップS19)。そして、初期水圧p(n)に0を代入する(ステップS20)。
【0020】
一方、地層深度z(n)が初期の水位z(n,0)より大きくない(地下水位面以深)の場合、荷重計算部11は、地盤の単位重量γ(n)にγ’(n)を代入する(ステップS21)。そして、初期水圧p(n)にγ(z(n,0)−z(n))の計算結果を代入する(ステップS22)。
【0021】
次に、入力部2から解析者が入力する透水性であるか否かを示す透水性フラグp(n)を読み込む(ステップS23)。不透水層である場合は0を、透水層である場合は1を入力する。荷重計算部11は、前述した処理動作を各地層について実行する。この例では、6層分の繰り返しが行われる。これにより初期設定処理が終了する。
【0022】
図2に戻り、荷重計算部11は、予め決められている複数の段階に分けて計算を行う場合の段階番号kの数だけステップS2〜S12の処理動作を繰り返し行う。さらに、ステップS3〜S10の処理を地層数N回繰り返す。続いて、入力部2から解析者が入力する水位z(n,k)を読み込む(ステップS4)。地下水位の設定(入力値)は連続した透水層では各計算段階において同一とし、不透水層によって隔てられた透水層間では独立とする。また不透水層に関する地下水位の変化は本計算方法においては考慮しない。そして、荷重計算部11は、水位変化量Δh(n)にz(n,k)−z(n,k−1)の計算結果を代入する(ステップS5)。
【0023】
次に、荷重計算部11は、透水性フラグp(n)を参照して、不透水層であるか否か(p(n)=0であるか)を判定する(ステップS6)。この判定の結果、不透水層であればステップS10へ移行する。一方、不透水層でない場合、荷重計算部11は、水位変化量Δh(n)を参照して、水位変化があるか(Δh(n)が0か)を判定する。この判定の結果、水位変化がない場合は、ステップS10へ移行する。また、水位が低下した場合は、水位低下時の処理を行い(ステップS8)、水位が上昇した場合は、水位上昇時の処理を行う(ステップS9)。ここでは地盤の変形計算に必要な荷重の設定方法について示している。地盤物性の拘束圧依存性を考慮する場合には、別途地盤内の有効応力を算出する必要がある。
【0024】
ここで、図4を参照して、図2に示す水位低下時の処理について説明する。図4は、図2に示す水位低下時の処理(ステップS8)動作を示すフローチャートである。まず、荷重計算部11は、地下水位面との関係を判定する(ステップS31)。この判定は、地層深度z(n)と水位z(n,k−1)の大小を比較することにより行う。この判定の結果、地層深度z(n)が水位z(n,k−1)より大きければ(地下水位面以浅)、処理を終了する。
【0025】
一方、地層深度z(n)が水位z(n,k−1)より大きくなければ(地下水位面以深)、荷重計算部11は、さらに地下水位面との関係を判定する(ステップS32)。この判定は、地層深度z(n)と水位z(n,k)の大小を比較することにより行う。この判定の結果、地層深度z(n)が水位z(n,k)より大きければ(地下水位面以浅)、地盤の単位体積重量γ(n)にγ(n)を代入する(ステップS33)。続いて、荷重計算部11は、地盤要素の物体力f(n)にf(n)−(γ(n)−γ’(n))の計算結果を代入する(ステップS34)。次に、荷重計算部11は、側面の水平分布荷重p(n)に、p(n)−p(n)−K(n)(γ(n)−γ’(n))Δh(n)の計算結果を代入する(ステップS35)。そして、水圧p(n)に0を代入する(ステップS36)。
【0026】
次に、ステップS32の判定の結果、地層深度z(n)が水位z(n,k)より大きくなければ(地下水位面以深)、荷重計算部11は、側面の水平分布荷重p(n)に、p(n)+γΔh(n)−K(n)(γ(n)−γ’(n))Δh(n)の計算結果を代入する(ステップS37)。続いて、水圧p(n)に、p(n)−γΔh(n)の計算結果を代入する(ステップS38)。そして、荷重計算部11は、下に不透水層があるか否かを判定する(ステップS39)。この判定は、透水性フラグp(n+1)が0であるか否かによって判定する。この判定の結果、下に不透水層がなければ処理を終了する。一方、下に不透水層があれば、層下面の鉛直分布荷重p(n)にp(n)−Δh(n)の計算結果を代入する(ステップS40)。
【0027】
次に、図5を参照して、図2に示す水位上昇時の処理について説明する。図5は、図2に示す水位上昇時の処理(ステップS9)動作を示すフローチャートである。まず、荷重計算部11は、地下水位面との関係を判定する(ステップS51)。この判定は、地層深度z(n)と水位z(n,k−1)の大小を比較することにより行う。この判定の結果、地層深度z(n)が水位z(n,k−1)より大きければ(地下水位面以浅)、さらに、地下水位面との関係を判定する(ステップS52)。この判定は、地層深度z(n)と水位z(n,k)の大小を比較することにより行う。この判定の結果、地層深度z(n)が水位z(n,k)より大きければ(地下水位面以浅)、処理を終了する。
【0028】
一方、地層深度z(n)が水位z(n,k)より大きくなければ(地下水位面以深)、地盤の単位体積重量γ(n)にγ’(n)を代入する(ステップS53)。続いて、荷重計算部11は、地盤要素の物体力f(n)にf(n)+γ(n)−γ’(n)の計算結果を代入する(ステップS54)。次に、水圧p(n)に、γ(z(n,k)−z(n))の計算結果を代入する(ステップS55)。そして、荷重計算部11は、側面の水平分布荷重p(n)に、p(n)+p(n)−K(n)(γ(n)−γ’(n))Δh(n)の計算結果を代入する(ステップS56)。
【0029】
次に、ステップS51の判定の結果、地層深度z(n)が水位z(n,k−1)より大きくなければ(地下水位面以深)、荷重計算部11は、側面の水平分布荷重p(n)にp(n)+γΔh−K(n)(γ(n)−γ’(n))Δh(n)の計算結果を代入する(ステップS57)。続いて、水圧p(n)に、p(n)+γΔh(n)の計算結果を代入する(ステップS58)。そして、荷重計算部11は、下に不透水層があるか否かを判定する(ステップS59)。この判定は、透水性フラグp(n+1)が0であるか否かによって判定する。この判定の結果、下に不透水層がなければ処理を終了する。一方、下に不透水層があれば、層下面の鉛直分布荷重p(n)にp(n)−Δh(n)の計算結果を代入する(ステップS60)。
【0030】
なお、図4、図5に示す処理動作においては、水平方向の分布荷重として層中央深度における値を示しているが、この値を中央値として、深さ方向に静水圧分布させるのが適当である。
【0031】
図2に戻り、ステップS8、S9のいずれかが実行されたのち、荷重計算部11は、得られた荷重の変数値を荷重情報記憶部12へ記憶する。そして、ステップS3〜S10の処理を地層数の回数だけ繰り返す。これにより、荷重情報記憶部12には、各地層における荷重情報が記憶されたことになる。荷重計算部11は、ステップS3〜S10の処理を地層数の回数だけ繰り返す処理が終了した時点で、変形計算部13に対して、変形計算処理を実行するように指示を出す。これを受けて、変形計算部13は、荷重情報記憶部12に記憶されている荷重情報を読み出して、地盤の変形計算を実行する(ステップS11)。この地盤の変形計算は、公知の方法や市販されている変形計算ソフトウェアを適用して実行するため、詳細な説明を省略する。変形計算部13は、変形計算を実行した結果の情報を変形計算結果情報記憶部14に記憶する。そして、可視化するソフトウェアを用いて、変形計算の結果を表示部13に表示する。
【0032】
次に、前述した処理によって、モデル地盤を解析した結果について説明する。図7は、解析対象の2次元地盤モデルの構成を示す説明図である。この地盤モデルは、7層の地盤からなっている。解析条件は、メッシュの寸法:1m角、境界条件は、左側方鉛直ローラー、右側方鉛直ローラー+回転拘束(対称境界)、下端水平ローラーであり、地盤の構成則は、線形弾性である。図8に地盤定数を示す。水の単位体積重量γ=10kN/m、山留め止水壁の剛性は考慮しないものとする。
【0033】
解析は、地盤の掘削・躯体の構築を模した計算を地下水位変動を考慮する場合(Case1;本発明を適用)と考慮しない場合(Case2)について行った。解析Stepは図9、図10に示すStepO、StepA、StepB、StepC、StepD、StepEからなる。まず、地盤の自重による初期応力を計算する(StepO)。次に、1次掘削(Case1,2共通)を行う(StepA)。1次掘削は、山留め壁内側の層1を掘削(地盤要素を除去)する。
【0034】
次に、地下水位を低下させる(Case1のみ、StepB)。山留め壁内側の層1〜3に関して地下水位GL−4m→GL−8m(Δh=−4m)とする。次に、2次掘削(Case1,2共通)を行う(StepC)。2次掘削は、山留め壁内側の層2を掘削(地盤要素を除去)する。次に、構造物を構築(Case1,2共通)する(StepD)。山留め壁内側の層3上面に構造物荷重を下向きに載荷する。構造物の重量が排土地盤の湿潤重量と等しくなるように載荷圧力は18kN/m×8m=144kN/mとする。次に、地下水位を回復(Case1のみ)させる(StepE)。山留め壁内側の層3に関して地下水位GL−8m→GL−4m(Δh=4m)とする。
【0035】
図11、図12に各解析StepA〜Eにおける変形図を示す。また各解析Stepにおける掘削底面(層3の上面)における鉛直変位の分布を図13に示す。Case1とCase2を比較すると、地下水位の変動を考慮したCase1ではStepDの構造物構築時に一旦沈下が生じるのに対して、地下水位の変動を考慮しないCase2では沈下は生じていない。また、Case2ではStepCでのリバウンド傾向を過大に評価している。また、本計算では簡単のため地盤を線形弾性としているため、最終的な変位はCase1とCase2で同じになるが、実際には地盤の変形挙動は非線形性を示すため、地下水位の変動を考慮するか否かにより途中段階の応力経路が異なり、最終的な変形も異なった結果となる。上述の結果から、モデル地盤における結果ではあるが、本発明を適用することにより地下水位の変動を考慮したCase1は、考慮しないCase2と比較してより実現象に近い結果が得られることがわかる。
【0036】
以上説明したように、地下水位の変動を模擬した荷重を荷重計算部11によって予め求めておき、この求めた荷重値を変形計算部13の入力情報とすることにより、地盤の鉛直・水平方向の変形を容易に評価することが可能になる。これにより、全応力計算・解析法において地下水位変動の効果を比較的簡便に適切に評価することが可能となり、地下施工時の複雑な地盤の変形挙動を実現象に逐次対応したかたちで精度良く予測することができるため、実態に即した安全管理及び施工の合理化が可能となる。
【0037】
なお、前述した説明では地盤内の1つの連続する透水層において水位変動がある場合について示したが、複数の連続する透水層群においてそれぞれ独立に水位変動が生じた場合の評価も可能である。水位変動が生じた以深の層において有効応力が変化するという原則の下に、荷重を重ね合わせて与えることで計算を実施すればよい。
【0038】
また、前述の方法は水位変動に伴う即時変形の評価法であり、一時的な比較的短期間の問題を扱う場合を想定している。水位変化が長期にわたる場合には不透水層の圧密変形を考慮する必要がある。不透水層上側の水位が低下した際に不透水層上面に作用させた分布荷重γΔhは、不透水層内に生じた過剰間隙水圧であり、水圧分布を想定した圧密計算を別途行うことにより、圧密変形も考慮した変形評価が可能である。圧密変形を考慮する場合には、不透水層上側だけではなく下側の透水層の水位変化も同時に考慮した圧密計算を行わなければならない。
【0039】
なお、図1に示す荷重計算部11の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより荷重計算処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0040】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
地下水位の変動に伴う地盤変形の評価を行うことが不可欠な用途に適用できる。
【符号の説明】
【0042】
1・・・解析装置(コンピュータ)、11・・・荷重計算部、12・・・荷重情報記憶部、13・・・変形計算部、14・・・変形計算結果情報記憶部、2・・・入力部、3・・・表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水位の変動に伴う地盤変形の解析を行うのに必要な荷重計算を行う地盤変形解析装置であって、
荷重情報を記憶する荷重情報記憶手段と、
解析対象の所定深さの地盤を透水層と不透水層に分類し、各層について、層厚、深度、初期水位、不飽和単位体積重量、水中単位体積重量及び各層が透水層であるか不透水層であるかを示す情報を入力し、入力した情報に基づいて、各層の初期水圧を計算する初期設定手段と、
各層における水位を入力し、水位の変化量を求める水位算出手段と、
前記水位算出手段によって求めた前記水位の変化量に基づいて、前記透水層において水位の変化があるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって、水位が低下したと判定された場合に、前記水位面より浅い位置であるかまたは深い位置であるかに応じた荷重を計算して前記荷重情報記憶手段に記憶する第1の荷重計算手段と、
前記判定手段によって、水位が上昇したと判定された場合に、前記水位面より浅い位置であるかまたは深い位置であるかに応じた荷重を計算して前記荷重情報記憶手段に記憶する第2の荷重計算手段と
を備えたことを特徴とする地盤変形解析装置。
【請求項2】
地下水位の変動に伴う地盤変形の解析を行うのに必要な荷重計算を行うために、求めた荷重情報を記憶する荷重情報記憶手段を備える地盤変形解析装置上のコンピュータで動作する地盤変形解析プログラムであって、
解析対象の所定深さの地盤を透水層と不透水層に分類し、各層について、層厚、深度、初期水位、不飽和単位体積重量、水中単位体積重量及び各層が透水層であるか不透水層であるかを示す情報を入力し、入力した情報に基づいて、各層の初期水圧を計算する初期設定ステップと、
各層における水位を入力し、水位の変化量を求める水位算出ステップと、
前記水位算出ステップによって求めた前記水位の変化量に基づいて、前記透水層において水位の変化があるか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップによって、水位が低下したと判定された場合に、前記水位面より浅い位置であるかまたは深い位置であるかに応じた荷重を計算して前記荷重情報記憶手段に記憶する第1の荷重計算ステップと、
前記判定ステップによって、水位が上昇したと判定された場合に、前記水位面より浅い位置であるかまたは深い位置であるかに応じた荷重を計算して前記荷重情報記憶手段に記憶する第2の荷重計算ステップと
を前記コンピュータに行わせることを特徴とする地盤変形解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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