説明

地盤強化用鋼管、及びそれを使用した地盤強化方法

【課題】トンネル工事等における先受け工法や、掘削されるトンネルの補強材として使用するに適した地盤強化用鋼管であって、注入材と鋼管との密着性を高め、該鋼管を地盤やコンクリート基礎などに強固に固定できるものを提供する。
【解決手段】鋼管の周方向に凹部を有し、該凹部あるいはその他の鋼管の周面に注入材を鋼管の外部に流出させるための鋼管内外に通ずる複数の通孔が設けられている地山強化用鋼管。鋼管の外径(D)50mm以上、凹部の深さが0.005D〜0.2D、凹部の幅が0.015D〜2Dで、凹部の幅を(B)、凹部の深さを(H)としたときに
(1)凹断面形状が三角形状の時、B/H=3〜20
(2)凹断面形状が四角形状の時、B/H=4〜20
(3)凹断面形状が半円状、台形状の時、B/H=3〜20
が望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル工事等における先受け工法や掘削壁面の補強工法等に使用するに適した地盤強化用鋼管、及びそれを使用した地盤強化方法、並びにコンクリート基礎などの構造体を補強する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、軟弱な地山におけるトンネル工事では、地山を補強するために、鋼管を埋設する先受け工法が採用されることが多い。この工法では、先端部にビットを装着したさく孔ロッドに鋼管を外嵌して穿孔を行い。所定深さの穿孔を行ったら、鋼管をそのまま残してさく孔ロッドを引き抜き、鋼管の内部にモルタル等の強化材を注入する。鋼管の胴部には内外に通ずる多数の通孔が穿孔されており、内部に注入された強化材が、その通孔を通って地山に浸透して固化することにより、軟弱な地山が強化される。なお、先受け工法については、多数の特許出願がなされている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
上記先受け工法に使用される鋼管は、地山に埋設されるものであるから、比較的安価で強度が大きい材質の鋼管が使用される。注入材の注入時には、上記通孔を通して流出する注入材が地山に十分に浸透し、かつ地山と鋼管との隙間に密に充填される必要がある。また、埋設された鋼管が強固に固定されるためには、該鋼管とその外周部の注入材の層とが強固に一体化しているのが望ましい。
【0003】
しかしながら、従来の鋼管は、外面が平滑な面として形成されているので、外部の注入材の層との引っ掛かりがなく、両者がしっかりと固定されているとは言えなかった。これを改良するため、鋼管の外面にサンドブラスト処理等を施して、面を荒くすることも試みられ、それなりの効果が得られたが、鋼管を地山に強固に固定するという面では未だ満足できるものではなかった。
また、特許文献3には、地盤強化用鋼管として、外周部に螺旋状の凸条が形成され、該螺旋状凸条の間隔部に注入材を鋼管の外部に流出させるための内外に通ずる複数の通孔が設けられた地盤強化用鋼管が開示されている。
【特許文献1】特開2000−204870号公報
【特許文献2】特開2001−020657号公報
【特許文献3】特開2006−022501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献3に開示される鋼管では、鋼管外周面に凸部があるので、鋼管打設時の邪魔になり、外表面側からの土砂排出の邪魔となるため、凸部を大きな形状とすることができず、十分な密着性が確保し難い。また、鋼管外周面に凸部を付与することは鋼管製造後に別工程で凸形状物を付与する加工が必要となるため、生産性が劣り、また、コストが高くなるとの問題がある。
本発明は上記問題を解決するものであり、製造コストを高くすることなく地盤に埋設するときは抵抗が小さく、且つ、補強材を流し込んだ際には、鋼管とその周辺とがしっかりと強固に密着する地盤強化用鋼管、及びそれを使用した地盤強化方法、並びに構造物の強化方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、次のような構成とした。
(1)地盤に打設し、当該地盤の中に強化材を注入するための地盤強化用鋼管であって、
当該鋼管の外周面に凹部を有し、且つ、当該凹部あるいはその他の平滑部に、注入材を鋼管の外部に流出させるための鋼管内外に通ずる複数の通孔が設けられていることを特徴とする地盤強化用鋼管。
(2)前記凹部の断面形状が、鋼管外径が(D)の時、凹部の深さが0.005D〜0.2D、凹部の幅が0.015D〜2Dで、凹部の幅を(B)、凹部の深さを(H)としたときに
(1)凹断面形状が三角形状の時、B/H=3〜20
(2)凹断面形状が四角形状の時、B/H=4〜20
(3)凹断面形状が半円状、台形状の時、B/H=3〜20
であることを特徴とする(1)記載の地盤強化用鋼管。
(3)前記凹部を、鋼管の同一円周上に複数設けたことを特徴とする(1)又は(2)記載の地盤強化用鋼管。
(4)前記凹部が、円周方向に複数設けられ、少なくとも向かい合う凹部が同一円周上に存在しないことを特徴とする請求項1乃至2記載の地盤強化用鋼管。
(5)前記凹部が、鋼管軸に対し、斜め方向に複数設けたことを特徴とする(1)又は(2)記載の地盤強化用鋼管。
(6)前記凹部が、鋼管軸に対し、平行に複数設けたことを特徴とする(1)又は(2)記載の地盤強化用鋼管。
(7)前記凹部が、スポット状に複数設けたことを特徴とする(1)又は(2)記載の地盤強化用鋼管。
(8)前記鋼管の表面にめっき、あるいは、樹脂被覆を施したことを特徴とする(1)又は(7)のいずれか1項記載の地盤強化用鋼管。
(9)地盤強化に際して、地盤を掘削しながら(1)乃至(8)記載の地盤強化用鋼管を打設し、鋼管を打設後、当該鋼管の内部から前記複数の通孔を通して当該鋼管の外部に強化材を注入することを特徴とする地盤強化方法。
(10)前記地盤強化用鋼管の最小内径が、前記地盤を掘削する際に用いる内側ビットの外径よりも大きいことを特徴とする(8)記載の地盤強化方法。
(11)前記地盤強化用鋼管の最大外径が、前記地盤の掘削に用いる外側ビットの外径よりも小さいことを特徴とする(8)記載の地盤強化方法。
(12)(9)〜(11)記載の地盤強化方法において、前記地盤に替えて、建造物の基礎等のコンクリート、セメント等の構造体を強化することを特徴とする構造体の強化方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明による地盤強化用鋼管を使用することにより、鋼管外周面に凹部が形成されているので、地盤への埋設時には抵抗にならず、且つ、鋼管外周面に強化材を流し込んだ際には、凹部にも強化材が充填され、地盤との密着性が向上する。その結果、施工時の埋設本数の削減が可能となり、施工コストおよび施工工期の短縮が可能となる。
また、本発明に係る鋼管は、外周面に凹部を設けるのみなので、例えば、鋼管を造管後、そのまま凸部を有したロール間を通すだけで製造可能であり、生産能率も低下せず、製造コストも従来方法に比較して低減可能である。
また、本発明の地盤強化用鋼管を使用すれば、例えば建造物のコンクリート基礎などの構造物の補強にも同様に適用が可能で、低コストで強固な補強が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面によって本発明を具体的に説明する。
図1は本発明に係る地盤強化用鋼管1を例示するもので、この鋼管は、外周部に一定間隔で周状に凹部2を設けたものである。
図1の鋼管では、その周状に複数の箇所に凹部を有し、且つ、周面全面に鋼管1の内外を通ずる複数の通孔3があり、これらの通孔3を通して鋼管外面に強化材を注入した場合、鋼管の凹部が鋼管と地盤あるいはコンクリート等との摩擦力を高めることができる。4は外側ビットを示す。
またこの鋼管の製造方法は、鋼管製造ラインにおいて造管後、熱間あるいは温間で、押圧手段により鋼管表面に凹部を付与するのみであり、生産性は通常の造管工程と殆ど変わらない。
【0008】
図2(a)〜(k)は、その他の凹部形状を示した具体例を示す。
図2の(a)(b)(c)は、いずれの鋼管1Aの円周方向に凹部2を有し、該凹部2が軸方向に一定間隔で複数形成されている。図2(a)の鋼管では、凹部2を鋼管1Aの同一円周上に複数(図では対向して2個)設けた例であり、(b)は、凹部2を圧延ロールではなく、鋼管1Aに対し、近接、退避可能な往復式の押圧装置により形成したもので、凹部2が円周上でほぼ同一の深さとなっている。(c)の鋼管では、凹部2は鋼管1Aの円周方向に複数設けられ、これらのうち少なくとも向かい合う凹部が同一円周上には存在しない例である。
図2(c)の鋼管のように、向かい合う凹部2が同一円周上に存在しないように千鳥配置としたのは、(a)の鋼管に比べて凹部位置の強度を向上させるためであり、特にこの部分の強度がより高く要求される場合に適応するに適している。なお、凹部2の千鳥配置の例では、対向する凹部部分の全幅がラップしないように形成することが望ましい。
【0009】
図2(d)〜(g)は、鋼管軸に対し斜め方向に長辺を有する凹部2を形成した鋼管を示した図、(h)及び(i)は、鋼管軸に平行な方向に長辺を有する凹部を形成した鋼管を示した図、(j)及び(k)は、丸いスポット状の凹部を形成した鋼管を示した図である。スポット状の凹部形状は、形成し易さなどから楕円や多角形などから自由に選択できる。また、凹部を同一円周上に配置するかあるいは交互に千鳥状に配置するかなども自由に選択できる。
ここで、凹形状の制約は高さのみで、管内面を掘削ビッドが通過できるだけのスペースを確保してやればよい。
【0010】
本発明の鋼管は、後述するように熱間あるいは温間で凹部を形成するので、例えば鋼管の肉厚が2mm以上でも容易に製造可能であり、厚肉なので鋼管として例えば地盤に回転させながら打ち込む際に、鋼管にねじれ力が作用し、屈曲したり、先端が潰れたりすることがない。また、鋼管として実用可能な外径50mm以上のものも容易に製造できる。
なお、本発明に係る鋼管を、特に耐食性が要求される用途に使用する場合には、前記の如く構成した鋼管の表面にめっき、あるいは、樹脂被覆を施して、良好な耐食性を発揮させることが望ましい。
【0011】
鋼管の凹部については、図3(a)、(b)、(c)、(d)に示す如く、基本的には断面形状が三角形状の場合と、断面四角形状の場合が考えられる。半円状、及び台形状の場合はほぼ三角形と等しいと考えてもよい。いずれの場合も、凹部の深さ(最も深い部分の深さを指す)Hは、鋼管周面と地盤あるいはコンクリート等との摩擦力を得るために0.005D(但し、D:鋼管外径)以上は必要である。しかし、0.2D超で摩擦力向上の効果も飽和してしまうので、凹部深さは0.005D〜0.2Dとする。さらに凹部の幅Bは、上記摩擦力を得るためには0.015D以上必要であるが、2D超では、摩擦力向上効果が小さいため2D以下とする必要がある。
【0012】
更に、上記の前提のもとで、凹部形状の最適化を図る上で、下記の事項を規定することが重要である。すなわち、
(1)凹断面形状が三角形状の時、B/H=3〜20
(2)凹断面形状が四角形状の時、B/H=4〜20
(3)凹断面形状が半円状、台形状の時、B/H=3〜20
である。
以下、上記のB/Hの関係が導き出された経緯を図4を用いて説明する。なお、前提として、凹部での破壊モードは、凹部の外側、図中の三角形の底辺でのソイルセメントのせん断強度と、凹部の内部でのソイルセメントの支圧強度のいずれかで決定されるものとする。このとき、いずれかの破壊モードが他方に対して、明らかに先行すると、その破壊モードで強度が決定するため、強度は低下すると考えられる。ゆえに、凹部の最適形状を考える上では、上記の二つの破壊モードが同時に発生するような形状を見出することが必要となる。
【0013】
その結果、最適形状においては、支圧強度を与える支圧力Pとせん断強度を与えるせん断力Sは、以下の式(1)のつりあい条件式を満たすことが求められる。
S=Pcosθ (1)
ただし、θ:鋼管表面と凹部入側面のなす角度
ここで、せん断力Sは、せん断力が作用する面積×せん断力で定義されるため、以下の式(2)で定式化される。尚、ここでは、凹部は鋼管周囲全周に配置されるものと仮定し、せん断面積は、鋼管の周長πDと、凹部の幅B(三角形の底辺部分)の積で表される。
S=τ・B・π・D (2)
一方、支圧力は、支圧応力に作用する面積を乗じたものとして以下のように定式化される。
P=H・σb・cosθ・π・D (3)
τ:せん断応力、D:鋼管外径、σb:支圧力(支圧応力、力/面積の次元)
式(1)に式(2)、(3)を代入して整理すると、以下の式が導かれる。
τ・B=(H・σb・cosθ)cosθ (4)
∴B/H=σb・cosθ/τ (4′)
式(4′)は、最適形状を与える際の力のつりあい条件式(1)を変形したものである。ここでは、凹部形状の側面、即ち図4の三角形の斜面が鋼管表面とのなす角度(θ)を45度の場合(これを以下、三角形状とする)と、90度の場合(これを以下、四角形状とする)に関して、解くこととする。
θ=90°(凹部が四角)とすると、
B/H=σb/τ (5)
例えば、ソイルセメントの支圧強度σb=1N/mm、せん断強度τ=0.1N/mmを(5)式に代入すると、B/H=10(凹部の幅が高さの10倍)となり、凹部形状は長辺10H、高さHの長方形となる。
【0014】
一方、最終的な凹部形状が三角形状で、更にその三角形が二等辺三角形とすると、B、H、θには下記の関係式が成立する。
tanθ=2・H/B (6)
これを式(4′)に代入すると、
2/(sinθ・cosθ)=σb/τ (7)
これに、ソイルセメントの支圧強度σb=1N/mm、せん断強度τ=0.1N/mmを代入すると、
sinθ・cosθ=1/5 (8)
sin2θ=2/5=0.4 (8′)
∴θ=11.8
ソイルセメント(コンクリート)の支圧強度σbとせん断強度τの関係を
1/20≦τ/σb≦2/9
とすると(通常はτ/σb=1/10程度)、
(a)凹部形状が四角形の場合、凹部の幅Bと深さHの関係は式(5)により
4.5≦B/H≦20.0
(b)凹部形状が三角形の場合、適正なθの範囲は式(7)により
5.8≦θ≦31.4
このとき、凹部の幅Bと深さHの関係は式(6)により
3.3≦B/H≦19.8
となる。
ここで、図2(d)〜(k)に示したような鋼管軸方向に斜め、平行、あるいはスポット状の凹部形状の場合についても、(d)のA−A断面、(h)のB−B断面、(j)のC−C断面について前記式を適用すればよい。
以上のことから、本発明においては、B/Hを下記の如く規定した。
(1)凹断面形状が三角形状の時、B/H=3〜20
(2)凹断面形状が四角形状の時、B/H=4〜20
(3)凹断面形状が半円状、台形状の時、B/H=3〜20
【0015】
次に、本発明に係る鋼管の製造方法について説明する。
本発明においては、以下のa)、b)、c)、d)のいずれかの工程でも適用可能であるが、鍛接鋼管の製造ラインを代表例として本発明を説明する。
a)電縫鋼管製造ラインにおいて、電縫溶接後、当該鋼管を加熱し、押圧手段によりその表面を押圧すること。
b)熱間あるいは温間溶接鋼管製造ラインにおいて、溶接後、押圧手段によりその表面を押圧すること。
c)鍛接鋼管製造ラインにおいて、衝合後、押圧手段によりその表面を押圧すること。
d)シームレス鋼管製造ラインにおいて、造管後、押圧手段によりその表面を押圧する。
【0016】
図5は通常の鍛接管の製造ラインを示す図である。
所望の幅にスリットされた鋼帯を#1ロールで断面円形状に成形し、#2ロールでその両端部を高熱に加熱し、圧接し、衝合する。衝合された管をそれ以降のロールにより所定の寸法に縮径するために絞り込み、そして切断機により所定の長さに切断し、以降のロールで形状を整えて鍛接管が製造される。
【0017】
図6は、鍛接管製造ラインの一実施例である。
従来の製造ラインに対して、切断機前の絞りロールの最終ロールのみを変更している。当該ロールは、図7のようにロール周面にロール軸方向に1箇所あるいは複数箇所に凸部を設け、これを押圧手段としている。この凸部を設けたロールを上下両方あるいは片側に使用する。なお、図では、上下2基のロールで示しているが、1組が3基以上のロールでも構わない。このような凸部を有したロールで高温の(およそ1200〜1300℃程度)鍛接管に圧力を加えるので、その凸部の当たる鋼管の部分は容易に凹部が形成される。しかも冷間での加工に比較して凹部形状はロールの凸部形状に則した形状で形成されるのでより鋭角の凹部を得ることが可能である。その後、所定の長さに切断され、定形され、凹部付き鍛接鋼管が完成される。
ここで、鋼管上の凹部の高さ、幅、ピッチを変更したい場合は、ロールの凸部の形状やピッチを変更すれば良い。また、上下ロール両方に凸部を設け、鋼管上の凹部位置を同じ位置で形成したい場合は、上下ロールの凸部位置を初期に合せておき、例えば上下ロールを一つの駆動源およびユニバーサルジョイントなどを介して連結し、同期させて上下ロールを駆動すれば良い。
【0018】
次に、ロールに形成する凸部の形状は、図7の下図に示すように、ロール中心部を高くし、ロール端部に向うに従い低くすることが望ましい。その理由は、ロールの中心部と端部とでは、周速が異なり、端部の方が径が大きいため周速が大きい。従って、通過する管よりも早く進行するために、鋼管に対し無用な力が加わり、必要以上の変形や歪を鋼管に与えてしまう。
【0019】
図8は、本発明による別の鍛接管製造ラインの例である。
本例では、絞りロールと切断機との間に、専用の鋼管への加圧装置(押圧手段)を設けた例である。加圧装置としては、前述の凸部を有したロールでも良く、また、上下から挟み込む形で鋼管に加圧するタイプのものでも良い。そしてこの加圧装置は、鋼管に対して進退、あるいは鋼管の進行方向に進退可能な機構を有することが望ましい。
鋼管に対して近接、退避可能なことにより、鋼管の任意の位置に凹部を形成することができ、また凹部のピッチを変更したいときでもロールの交換などしなくても良い。更に、この機能により、予め鋼管の切断位置を制御部が認識しておき、この切断位置に凹部が位置しないように制御することも可能となる。鋼管端部に凹部がくると鋼管毎に端面の径や形状が異なり、例えば鋼管同士の接続が困難となるからである。
また、鋼管の進行方向に移動可能とすることにより鋼管の進行と同調して縮径部形成装置を移動することができ、そのことにより、前述したようなロールの中心部と端部の周速の差による鋼管への無用な歪などが発生せずに凹部の形状も自由に形成できる。
以上、専用装置において説明したが、もちろんこれら機能を既存の最終絞りロールに凸部を設けたロールにもたせても良い。
【0020】
このように、造管方法は、電縫による造管方法、熱間あるいは温間で溶接する造管方法、鍛接による造管方法、シームレス造管方法のいずれでもよい。造管まま、あるいは造管後加熱などし、温間あるいは熱間の状態で押圧手段によりその造管された表面を押圧すれば良く、オンラインでの凹部付き鋼管の製造が可能である。
そして、これらの製造方法で製造された鍛接鋼管は、熱間で凹部を形成するので鋼管の肉厚が2mm以上でも容易に製造可能であり、例えば、厚肉なので鋼管杭として地盤に回転させながら打ち込む際に、鋼管にねじれ力が作用し、屈曲したり、先端が潰れたりすることがない。また、地盤強化用鋼管として実用可能な外径50mm以上のものも容易に製造できる。しかも生産能率は、通常の鍛接鋼管を製造する際と同じである。
【0021】
以上のような鋼管の製造方法により通常の鋼管の製造ラインにて、突起を付与した専用ロールで製管することで、鋼管製造と同時に凹形状を連続的に付与することができ、専用ロールの突起形状の変更により、任意に自在な形状、間隔、配置の凹形状を付与することが可能であり、また、別工程での加工の必要がなく、非常に安価に凹形状付の鋼管を提供することができる。
【0022】
本発明による鋼管では、このように鋼管の外表面側でなく、内表面側へ凹形状を付与することで、鋼管打設時に邪魔になることなく、十分な密着性を確保できる大きな凹部を有する地盤強化用鋼管を、生産性を落とすことなく低コストで製造することができる。
そして凹部を設けた鋼管に、複数の通孔を穿孔する。通孔は、鋼管の円周上の凹部でも良いし、凹部以外の平滑部に設けても良い。或いはどちらにも設けても良い。通孔の径や配置は、注入材が全長にわたって万遍なく行き渡るようなものであればよく、注入する強化剤の性状や注入する地盤の状態によって任意に決定すれば良い。
【0023】
図9は掘削用のビットと鋼管の位置を示した図である。外側ビットはロッド、内側ビットから伝達された動力によって回転しながら前方の地盤などを掘削していくもので、その後方に本発明の地盤強化用鋼管を配置している。従って、地盤強化用鋼管の外径は外側ビットの外径よりも小さければ良い。
また、鋼管内側にはロッドと内側ビットが通過するので鋼管の最小内径は内側ビットの最大外径よりも大きくする必要がある。以上の条件を満足する限り鋼管周上の凹部の深さを大きくとることができる。
【0024】
この地盤強化用鋼管の使用に際しては、図9に示すように、先端部に内側ビットを装着したさく孔ロッドを当該鋼管内に挿通し、先端部の内側ビットが鋼管の外側ビットよりも突出するようにして、当該さく孔ロッドと鋼管の後端部をさく岩機(図示を省略)に接続する。そして、さく孔ロッドと鋼管にさく岩機から打撃と回転と推力を与えつつ穿孔を行う。穿孔中は、さく岩機から水又は圧縮空気が供給され、ビットの先端部から吐出される。穿孔によって生じる繰り粉は大部分が鋼管の内側を通って排出されるが、一部は鋼管の外側を通って後方へ排出される。
所定深さの穿孔が終了し、鋼管が地山中に埋設されたら、さく孔ロッドを内側ビットとともに鋼管から後方へ引き抜き、鋼管の後端部に注入装置(図示を省略)を取り付けて、注入材を鋼管内に圧入する。この注入材は、鋼管内に充満し、該鋼管に設けられている多数の通孔を通って外部へ流出して、鋼管の外面に沿って流動しつつ、地山内に浸透して固化する。これにより、地山が強化されるのである。
【0025】
この鋼管は、その外周部に凹部が形成されているので、当該凹部が固化した注入材の層に埋め込まれた状態となり、両者が強固に一体化する。このため、鋼管に軸方向の力が作用しても、当該凹部と注入材層との係合によって引っ掛かり抵抗が生じ、鋼管の移動が防止される。このようにして、鋼管が強固に地山中に固定されるのである。凹部は、所定の断面形状を持つので、注入材や繰り粉の流動性と逸脱防止のための引っ掛かり抵抗とを共に向上することができる。
【0026】
上記凹部は、通常圧延ロールで形成されたもので、断面形状においてエッジ部やコーナー部のないなだらかな形状となっているので、繰り粉や注入材がスムーズに流動し、部分的に詰まりや空隙が生じない。このため、繰り粉の排出状態が良好であるのみならず、注入材と鋼管との密着性が向上し、すぐれた地盤強化を達成することができるのである。なお、以上の説明では、ビットとして、鋼管の先端部に固着したリング状の外側ビットと、さく孔ロッドの先端部に装着された内側ビットとの組み合わせを採用したが、口径が拡縮可能な拡縮ビットを使用し、穿孔時は口径を鋼管の外径よりも大きくなるように拡張して穿孔を行い、穿孔終了時には、鋼管の内径よりも小さくなるように口径を収縮して後方へ引き抜くようにしてもよい。この場合は、鋼管の先端部にリングビットを固着しておく必要がない。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
次に、以下の水準で密着力を比較したのでそれを説明する。水準は表1の3水準とした。サイズ:76.3mmφ×3.2mmt×6mL、規格STK
【表1】

【0028】
密着力の評価方法は、ソイルセメント中に鋼管を埋設し、図10の通り上部より荷重をかけ最大荷重を計測した。(最大荷重にて密着度を評価した)
なお、ソイルセメントは、
・土と固化剤をまぜあわせたもの
・土は粘性土と砂質土の2例で実施
粘性土:粒径0.001〜0.005mm
砂質土:粒径0.074〜2mm
その結果、図11のように本発明は他の比較例に比べて押しぬき荷重が大きい、即ち、密着力が大きいことが認められた。
【0029】
なお、本発明の段付鋼管は、製造コストは比較例1の直管の製造コストとほぼ同レベルであるが、比較例2の凸付鋼管は、造管コストに、凸部を形成するための肉盛り溶接コストが上乗せされるので、高コストとなる。このようにコスト面でも本発明は優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上の説明から明らかなように、本発明に係る地盤強化用鋼管は、従来の鋼管の外周面に凹部を形成したもので、トンネル工事等における地盤強化あるいはコンクリート基礎などの構造体の強化を低コストで効果的に行うことができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の地盤強化用鋼管の一例を示す正面図。
【図2−1】(a)〜(c)は本発明の凹部付き地盤強化用鋼管の実施態様例を示す図。
【図2−2】(d)〜(g)は本発明の凹部付き地盤強化用鋼管の実施態様例を示す図。
【図2−3】(h)〜(k)は本発明の凹部付き地盤強化用鋼管の実施態様例を示す図。
【図3】本発明鋼管の凹部の具体例を示す図。
【図4】本発明鋼管の凹部の幅と深さをとの関係を示す図。
【図5】通常の鍛接鋼管の製造ラインを示す図。
【図6】本発明鋼管を製造する鍛接鋼管の製造ラインの一実施例を示す図。
【図7】本発明鋼管の製造に使用するロールの概念図。
【図8】本発明鋼管を製造する鍛接鋼管の製造ラインの他の実施例を示す図。
【図9】ビット付きのさく孔ロッドを挿入した鋼管の先端部の一部断面図。
【図10】実施例における密着力の評価方法を示す図。
【図11】実施例1における効果を比較した図。
【符号の説明】
【0032】
1:地盤強化用鋼管 2:凹部
3:通孔 4:外側ビット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に打設し、当該地盤の中に強化材を注入するための地盤強化用鋼管であって、当該鋼管の外周面に凹部を有し、且つ、当該凹部あるいはその他の平滑部に、注入材を鋼管の外部に流出させるための鋼管内外に通ずる複数の通孔が設けられていることを特徴とする地盤強化用鋼管。
【請求項2】
前記凹部の断面形状が、鋼管外径が(D)の時、凹部の深さが0.005D〜0.2D、凹部の幅が0.015D〜2Dで、凹部の幅を(B)、凹部の深さを(H)としたときに
(1)凹断面形状が三角形状の時、B/H=3〜20
(2)凹断面形状が四角形状の時、B/H=4〜20
(3)凹断面形状が半円状、台形状の時、B/H=3〜20
であることを特徴とする請求項1記載の地盤強化用鋼管。
【請求項3】
前記凹部を、鋼管の同一円周上に複数設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の地盤強化用鋼管。
【請求項4】
前記凹部が、円周方向に複数設けられ、少なくとも向かい合う凹部が同一円周上に存在しないことを特徴とする請求項1又は2記載の地盤強化用鋼管。
【請求項5】
前記凹部が、鋼管軸に対し、斜め方向に複数設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の地盤強化用鋼管。
【請求項6】
前記凹部が、鋼管軸に対し、平行に複数設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の地盤強化用鋼管。
【請求項7】
前記凹部が、スポット状に複数設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の地盤強化用鋼管。
【請求項8】
前記鋼管の表面にめっき、あるいは、樹脂被覆を施したことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の地盤強化用鋼管。
【請求項9】
地盤強化に際して、地盤を掘削しながら請求項1〜8のいずれか1項記載の地盤強化用鋼管を打設し、鋼管を打設後、当該鋼管の内部から前記複数の通孔を通して当該鋼管の外部に強化材を注入することを特徴とする地盤強化方法。
【請求項10】
前記地盤強化用鋼管の最小内径が、前記地盤を掘削する際に用いる内側ビットの外径よりも大きいことを特徴とする請求項8記載の地盤強化方法。
【請求項11】
前記地盤強化用鋼管の最大外径が、前記地盤の掘削に用いる外側ビットの外径よりも小さいことを特徴とする請求項8記載の地盤強化方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項記載の地盤強化方法において、前記地盤に替えて、建造物の基礎等のコンクリート、セメント等の構造体を強化することを特徴とする構造体の強化方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−167752(P2009−167752A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9570(P2008−9570)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】