説明

地盤改良体からなる擁壁の構造及びその施工方法

【課題】コンクリート製擁壁の問題点を解消して施工作業を容易化することができる、地盤改良体からなる擁壁の構造を提供する。
【解決手段】地盤改良体からなる擁壁を、基礎地盤Bの掘下げ部を地盤改良して形成された底部地盤改良体1と、底部地盤改良体1上の盛土を地盤改良して形成され、法面Sが連続するように順次積み重ねられた上下複数の地盤改良体2A,2B,…,2Eからなる擁壁部地盤改良体2と、地盤改良体2A,2B,…,2Eの背面側の盛土を掘り下げて裏込め材4を充填して形成された、擁壁部地盤改良体2の背面に接して上下方向に延びる透水層3と、透水層3から擁壁部地盤改良体2の法面Sまで延び、擁壁部地盤改良体2の背面側の水を正面側へ排水する排水管5と、擁壁部地盤改良体2の法面S及び上面C並びに透水層3の上面Dを保護する保護部材とにより構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留め用の擁壁の構造及びその施工方法に関わり、更に詳しくは、コンクリート製擁壁を代替する地盤改良体からなる擁壁の構造及びその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
法面の崩壊を防ぐ土留め擁壁としてコンクリート製擁壁が広く用いられており、重力式コンクリート擁壁として、施工現場に組んだ型枠内に鉄筋を配設し、コンクリートを打設して構築するもの(以下において「現場打ちコンクリート方式」という。)、及び、施工現場の上下左右にプレキャストコンクリートブロックを積み上げ、これらブロックの上下に連通する空隙部に鉄筋を配設し、前記空隙部にコンクリートを充填して構築するもの(以下において「プレキャストコンクリートブロック積み上げ方式」という。例えば、特許文献1参照。)、L型コンクリート擁壁として、竪壁及び底板からなるプレキャスト成形品である鉄筋コンクリート製擁壁ブロックを、そのまま施工現場に並設するもの(以下において「L型コンクリートブロック並設方式」という。例えば、特許文献2参照。)等がある。
【0003】
【特許文献1】特開2005−98093号公報(図1)
【特許文献2】登録実用新案第3022072号公報(図1、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現場打ちコンクリート方式では、型枠の組立作業、型枠内に鉄筋を配設する作業及び生コンクリート固化後における型枠の解体作業が必要であり、作業が繁雑であることから工期が長くなるとともに、型枠工等の技能工が必要になる。
また、プレキャストコンクリートブロック積み上げ方式では、ブロックの形状が大きい場合には施工時にブロックを吊り上げる重機が必要になり、ブロックの形状が小さい場合には1個ずつブロックを積み上げる作業に時間がかかり、ブロックの形状が大きい場合及び小さい場合のいずれにおいても、上下左右に積み上げたブロックの上下に連通する空隙部に鉄筋を配設してコンクリートを充填する現場作業が必要になる。
さらに、L型コンクリートブロック並設方式では、擁壁ブロックの形状及び重量が大きいため施工現場への運搬及び施工時にブロックを吊り上げる大型の重機が必要になるとともに、隣接する擁壁ブロックを連結固定する連結金具等が必要になる。
以上のように、コンクリート製擁壁では、施工に時間がかかるとともに施工コストが増大するという問題がある。
【0005】
そこで本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、上述のコンクリート製擁壁の問題点を解消して施工作業を容易化することができる、地盤改良体からなる擁壁の構造及びその施工方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る地盤改良体からなる擁壁の構造は、前記課題解決のために、基礎地盤の掘下げ部を地盤改良して形成された底部地盤改良体と、該底部地盤改良体上の盛土を地盤改良して形成され、法面が連続するように順次積み重ねられた上下複数の地盤改良体からなる擁壁部地盤改良体と、前記上下複数の地盤改良体の背面側の盛土を掘り下げて裏込め材を充填して形成された、前記擁壁部地盤改良体の背面に接して上下方向に延びる透水層と、該透水層から前記擁壁部地盤改良体の法面まで延び、前記擁壁部地盤改良体の背面側の水を正面側へ排水する排水管と、前記擁壁部地盤改良体の法面及び上面並びに前記透水層の上面を保護する保護部材とからなるものである。
【0007】
ここで、前記底部地盤改良体及び擁壁部地盤改良体の上下の地盤改良体間の接合面に凹凸係合部を形成又は前記接合面の上下に渡るダボを配設してなると好ましい。
【0008】
また、前記底部地盤改良体及び擁壁部地盤改良体の上下の地盤改良体間の接合面を前上がり傾斜面としてなると好ましい。
【0009】
さらに、前記擁壁部地盤改良体を、その法面を形成する前壁状地盤改良体及び該前壁状地盤改良体の背面から後方へ延びる、複数の垂直壁状地盤改良体からなる、平面視略櫛の歯状としてなると好ましい。
【0010】
本発明に係る地盤改良体からなる擁壁の施工方法は、前記課題解決のために、基礎地盤の表層部を掘り下げ、該掘下げにより取った土に固化材を添加混合して埋め戻して敷き均し、締め固めることにより、底部地盤改良体を形成する工程と、後側地盤の法面から所望の擁壁法面にわたって前方へ延びる段状の盛土を行う工程、該段状の盛土を下位地盤改良体の上面まで掘り下げる工程、該掘下げにより取った土に固化材を添加混合して埋め戻して敷き均し、締め固めるとともに、法勾配を整形することにより上位地盤改良体を形成する工程、該上位地盤改良体の形成前又は形成途中において、その法面から背面まで延びる排水管を布設する工程、及び、前記上位地盤改良体の背面側の盛土を掘り下げて裏込め材を充填する工程、を繰り返して、法面が連続するように順次積み重ねられた上下複数の地盤改良体からなる擁壁部地盤改良体、該擁壁部地盤改良体の背面に接して上下方向に延びる透水層及び前記擁壁部地盤改良体の背面側の水を正面側へ排水する排水管を、前記底部地盤改良体上に構築する工程と、前記擁壁部地盤改良体の法面及び上面並びに前記透水層の上面の保護工を行う工程とからなるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る地盤改良体からなる擁壁の構造は、基礎地盤の掘下げ部を地盤改良して形成された底部地盤改良体と、該底部地盤改良体上の盛土を地盤改良して形成され、法面が連続するように順次積み重ねられた上下複数の地盤改良体からなる擁壁部地盤改良体と、前記上下複数の地盤改良体の背面側の盛土を掘り下げて裏込め材を充填して形成された、前記擁壁部地盤改良体の背面に接して上下方向に延びる透水層と、該透水層から前記擁壁部地盤改良体の法面まで延び、前記擁壁部地盤改良体の背面側の水を正面側へ排水する排水管と、前記擁壁部地盤改良体の法面及び上面並びに前記透水層の上面を保護する保護部材とからなるので、地盤改良により形成された底部地盤改良体により地盤改良により形成された擁壁部地盤改良体を支持し、該擁壁部地盤改良体により土圧を受ける構成であることから、現場打ちコンクリート方式のような型枠の組立作業及び解体作業等が不要になるため、作業を簡素化することができるとともに、型枠工等の技能工が不要になる。
その上、プレキャストコンクリートブロック積み上げ方式のようなブロックを吊り上げる重機が不要になるとともに、上下左右に積み上げたブロックの上下に連通する空隙内への配筋及びコンクリートの充填作業が不要になる。
その上さらに、L型コンクリートブロック並設方式のようなブロックを吊り上げる大型の重機が不要になるとともに、隣接する擁壁ブロックを連結固定する連結金具も不要になる。
よって、擁壁を構築する工期を短縮することができるとともに、施工コストを低減することができる。
【0012】
また、前記底部地盤改良体及び擁壁部地盤改良体の上下の地盤改良体間の接合面に凹凸係合部を形成又は前記接合面の上下に渡るダボを配設してなると、前記効果に加え、上下の地盤改良体間のずれをより効果的に抑制することができるため、土圧の変動等があっても、長期間にわたって擁壁の形状を安定して保持することができる。
【0013】
さらに、前記底部地盤改良体及び擁壁部地盤改良体の上下の地盤改良体間の接合面を前上がり傾斜面としてなると、前記効果に加え、上側の地盤改良体がその重力により前上がり傾斜面に沿って背面側へ移動する方向の分力が作用し、したがってより大きな土圧に対抗することができることから、地盤改良体の前後方向の長さを小さくすることができるため、地盤改良を行う範囲を小さくすることができる。
よって、盛土の掘削範囲及び地盤改良体の量を削減することができるため、さらに工期の短縮及び施工コストの削減を図ることができる。
【0014】
さらにまた、前記擁壁部地盤改良体を、その法面を形成する前壁状地盤改良体及び該前壁状地盤改良体の背面から後方へ延びる、複数の垂直壁状地盤改良体からなる、平面視略櫛の歯状としてなると、前記効果に加え、前壁状地盤改良体の背面から後方へ延びる垂直壁状地盤改良体が擁壁の前方への倒れを抑制するとともに、擁壁部地盤改良体の強度と剛性も増加することから、平面視略櫛の歯状の地盤改良体として地盤改良体全体の体積を小さくすることができるため、地盤改良を行う範囲を小さくすることができる。
よって、盛土の掘削範囲及び地盤改良体の量を削減することができるため、さらに工期の短縮及び施工コストの削減を図ることができる。
【0015】
本発明に係る地盤改良体からなる擁壁の施工方法は、基礎地盤の表層部を掘り下げ、該掘下げにより取った土に固化材を添加混合して埋め戻して敷き均し、締め固めることにより、底部地盤改良体を形成する工程と、後側地盤の法面から所望の擁壁法面にわたって前方へ延びる段状の盛土を行う工程、該段状の盛土を下位地盤改良体の上面まで掘り下げる工程、該掘下げにより取った土に固化材を添加混合して埋め戻して敷き均し、締め固めるとともに、法勾配を整形することにより上位地盤改良体を形成する工程、該上位地盤改良体の形成前又は形成途中において、その法面から背面まで延びる排水管を布設する工程、及び、前記上位地盤改良体の背面側の盛土を掘り下げて裏込め材を充填する工程、を繰り返して、法面が連続するように順次積み重ねられた上下複数の地盤改良体からなる擁壁部地盤改良体、該擁壁部地盤改良体の背面に接して上下方向に延びる透水層及び前記擁壁部地盤改良体の背面側の水を正面側へ排水する排水管を、前記底部地盤改良体上に構築する工程と、前記擁壁部地盤改良体の法面及び上面並びに前記透水層の上面の保護工を行う工程とからなるので、現場打ちコンクリート方式のような型枠を組み立てる工程、型枠内に鉄筋を配設する工程及び生コンクリート固化後における型枠を解体する工程が不要になる。
【0016】
その上、プレキャストコンクリートブロック積み上げ方式のような重機によりブロックを吊り上げる工程、並びに、上下左右に積み上げたブロックの上下に連通する空隙内へ配筋する工程及びコンクリートを充填する工程が不要になる。
その上さらに、L型コンクリートブロック並設方式のような大型の重機によりブロックを吊り上げる工程、及び、隣接する擁壁ブロックを連結金具により連結固定する固定が不要になる。
よって、擁壁の施工方法を簡素化することができるため、擁壁を構築する工期を短縮することができるとともに、施工コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に本発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明するが、本発明は、添付図面に示された形態に限定されず特許請求の範囲記載の要件を満たす実施形態の全てを含むものである。なお、本明細書においては、擁壁の背面側から正面側へ向かって(図中矢印F参照。)、前後左右をいうものとする。
【0018】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る地盤改良体からなる擁壁の構造を示す縦断側面図、図2は同じく正面図、図3は地盤改良体からなる擁壁の施工方法を示す縦断側面図であり、図3(a)は底部地盤改良体1上に段状の盛土8Aを行った状態を、図3(b)は排水管5Aを布設し、地盤改良体2Aを形成して裏込め材4を充填した上に段状の盛土8Bを行った状態を示している。
【0019】
図1に示すように、本発明の実施の形態1に係る地盤改良体からなる擁壁は、原地盤Aに対して切土及び盛土を行って形成され、基礎地盤Bの掘下げ部を地盤改良して形成された底部地盤改良体1、底部地盤改良体1上の盛土を地盤改良して形成され、法面Sが連続するように順次積み重ねられた上下複数の地盤改良体2A,2B,…,2Eからなる擁壁部地盤改良体2、上下複数の地盤改良体2A,2B,…,2Eの背面側の盛土を掘り下げて、例えば砕石や砂利等からなる裏込め材4を充填して形成された、擁壁部地盤改良体2の背面に接して上下方向に延びる透水層3、透水層3から擁壁部地盤改良体2の法面Sまで延び、擁壁部地盤改良体2の背面側の水を正面側へ排水する排水管5、擁壁部地盤改良体2の法面S及び上面C並びに透水層3の上面Dを保護する、例えばモルタル若しくは客土の吹付け又は植生マット若しくは筵の張付け等である保護部材6からなる。
また、底部地盤改良体1は、略水平板状の下底部地盤改良体1A上に、前面を法面Sとした略水平板状の上底部地盤改良体1Bを積層しており、基礎地盤Bの略水平な地面から上底部地盤改良体1Bの上部が露出しているが、底部地盤改良体1はこのような上下の地盤改良体1B,1Aからなる構成に限定されるものではなく、さらに底部地盤改良体1の形状も図1に示す構成に限定されるものではない。
【0020】
図1及び図2に示すように、排水管5は、上下方向及び左右方向に離間して配設されており、すなわち、底部地盤改良体1上の地盤改良体2Aの下部に、その左右方向に離間して配置された排水管5A,…、地盤改良体2A上の地盤改良体2Bの下部に、その左右方向に離間して配置された排水管5B,…、地盤改良体2B上の地盤改良体2Cの下部に、その左右方向に離間して配置された排水管5C,…、地盤改良体2C上の地盤改良体2Dの下部に、その左右方向に離間して配置された排水管5D,…、及び、地盤改良体2D上の地盤改良体2Eの下部に、その左右方向に離間して配置された排水管5E,…からなる。
【0021】
また、擁壁部地盤改良体2の上下の地盤改良体2E,2D間の接合面、上下の地盤改良体2D,2C間の接合面、上下の地盤改良体2C,2B間の接合面、上下の地盤改良体2B,2A間の接合面には、それぞれ、下側の地盤改良体の後部左右に形成された凹部7A,…に上側の地盤改良体の後部左右に形成された凸部7B,…が係合する、凹凸係合部7,…が形成されていることから、上下の地盤改良体間のずれをより効果的に抑制することができるため、土圧の変動等があっても、長期間にわたって擁壁の形状を安定して保持することができる。
【0022】
ここで、凹凸係合部7,…に代えて、上下の地盤改良体間の接合面の上下に渡るダボを配設するようにしてもよく、このようなダボを配設する構成の方がその施工が簡素化される。
また、底部地盤改良体1とその上側の地盤改良体2Aとの接合面に凹凸係合部を形成してもよいし、あるいは、底部地盤改良体1と地盤改良体2Aとの接合面にその上下に渡るダボを配設してもよい。
なお、上下の地盤改良体間の接合面には摩擦力が作用してずれが抑制されるため、上記凹凸係合部7,…又はダボは必須の構成ではなく、擁壁を構築する場所によっては凹凸係合部7,…又はダボを無くすことができ、このような構成によれば、施工がさらに簡素化される。
【0023】
次に、図1〜図3を参照して、地盤改良体からなる擁壁の施工方法の詳細について説明する。
基礎地盤Bの表層部を所定形状にバックホウによる鋤取り等により掘り下げ、該掘下げにより取った土に、例えば二酸化けい素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム及び三酸化イオウ等の成分からなるセメント系固化材等の固化材を添加混合して埋め戻して敷き均し、重機及びローラー等により締め固めることにより、例えば高さが1m程度の下底部地盤改良体1Aを形成する。
次に、例えば日を改めて(一定の時間をおいて)下底部地盤改良体1Aを硬化させた後、該下底部地盤改良体1A上に、前記掘下げにより取った土に固化材を添加混合して埋め戻して敷き均し、締め固めることにより、例えば高さが1m程度の上底部地盤改良体1Bを形成する。
【0024】
次に、例えば日を改めて(一定の時間をおいて)上底部地盤改良体1Bを硬化させた後、該上底部地盤改良体1B上に、図3(a)に示すように、後側地盤の法面SBから所望の擁壁法面Sにわたって前方へ延びる、例えば高さが1m程度の段状の盛土8Aを行い、該段状の盛土8Aを上底部地盤改良体1Bの上面まで掘り下げ、排水管5A,…を布設した後、前記掘下げにより取った土に固化材を添加混合して埋め戻して敷き均し、締め固めるとともに、例えば土羽打ち等により法勾配を整形することにより地盤改良体2Aを形成する。
そして、地盤改良体2Aの背面側の盛土8Aを掘り下げて裏込め材4を充填する。
なお、排水管5A,…は、地盤改良体2Aの形成前ではなく、その形成途中において、地盤改良体2Aの高さ方向の中間位置に布設してもよい。
【0025】
次に、例えば日を改めて(一定の時間をおいて)地盤改良体2Aを硬化させた後、該地盤改良体2A上に、図3(b)に示すように、後側地盤の法面SBから所望の擁壁法面Sにわたって前方へ延びる、例えば高さが1m程度の段状の盛土8Bを行い、上述の工程と同様の作業を行う。
すなわち、段状の盛土8Bを地盤改良体2A上面まで掘り下げ、排水管5B,…を布設した後、前記掘下げにより取った土に固化材を添加混合して埋め戻して敷き均し、締め固めるとともに、法勾配を整形することにより地盤改良体2Bを形成し、その背面側の盛土8Bを掘り下げて裏込め材4を充填する。
【0026】
以上のような後側地盤の法面SBから所望の擁壁法面Sにわたって前方へ延びる段状の盛土8A,8B,…を行う工程、段状の盛土8A,8B,…を下位地盤改良体1,2A,…の上面まで掘り下げる工程、掘下げにより取った土に固化材を添加混合して埋め戻して敷き均し、締め固めるとともに、法勾配を整形することにより上位地盤改良体2A,2B,…を形成する工程、上位地盤改良体2A,2B,…の形成前又は形成途中において、その法面Sから背面まで延びる排水管5A,…,5B,…を布設する工程、及び、上位地盤改良体2A,2B,…の背面側の盛土8A,8B,…を掘り下げて裏込め材4を充填する工程、を繰り返して、図1に示すように、法面Sが連続するように順次積み重ねられた上下複数の地盤改良体2A,2B,…からなる擁壁部地盤改良体2、擁壁部地盤改良体2の背面に接して上下方向に延びる透水層3及び擁壁部地盤改良体2の背面側の水を正面側へ排水する排水管5を底部地盤改良体1上に構築する。
【0027】
次に、図1に示すように、擁壁部地盤改良体2の法面S及び上面C並びに透水層3の上面Dの保護工を行う。すなわち、擁壁部地盤改良体2の法面S及び上面C並びに透水層3の上面Dに、例えばモルタル若しくは客土の吹付け又は植生マット若しくは筵の張付け等を行う。
【0028】
以上のような地盤改良体からなる擁壁の施工方法によれば、現場打ちコンクリート方式のような型枠を組み立てる工程、型枠内に鉄筋を配設する工程及び生コンクリート固化後における型枠を解体する工程が不要になる。
また、プレキャストコンクリートブロック積み上げ方式のような重機によりブロックを吊り上げる工程、並びに、上下左右に積み上げたブロックの上下に連通する空隙内へ配筋する工程及びコンクリートを充填する工程が不要になる。
さらに、L型コンクリートブロック並設方式のような大型の重機によりブロックを吊り上げる工程、及び、隣接する擁壁ブロックを連結金具により連結固定する固定が不要になる。
よって、擁壁の施工方法を簡素化することができるため、擁壁を構築する工期を短縮することができるとともに、施工コストを低減することができる。
【0029】
実施の形態2.
図4は本発明の実施の形態2に係る地盤改良体からなる擁壁の構造を示す縦断側面図、図5は図4の矢視X−X断面図であり、実施の形態1の図1〜図3と同一符号は同一又は相当部分を示している。実施の形態2に係る地盤改良体からなる擁壁は、実施の形態1と同様の方法により施工される。
【0030】
実施の形態2において、上下複数の地盤改良体2A,2B,…,2Eは、同様の形状であり、図5に示すように、擁壁部地盤改良体2の法面Sを形成する前壁状地盤改良体9、及び、前壁状地盤改良体9の背面から後方へ延びる、左右方向に離間する複数の垂直壁状地盤改良体10,…からなり、平面視略櫛の歯状であるため、左右に隣り合う垂直壁状地盤改良体10,10の間の平面視略コ字状部内には盛土8Cが残っている。
また、排水管5は、垂直壁状地盤改良体10,…がある箇所に、擁壁部地盤改良体2の法面Sから垂直壁状地盤改良体10,…の背面に接する透水層3まで届くように布設される。
ここで、前壁状地盤改良体9の前面から垂直壁状地盤改良体10の後面までの前後方向長さである擁壁部地盤改良体2の奥行きEと擁壁部地盤改良体2の高さHとの比(E/H)は、0.3〜0.4程度である。
【0031】
以上のような地盤改良体からなる擁壁の構造によれば、前壁状地盤改良体9の背面から後方へ延びる垂直壁状地盤改良体10,…が擁壁の前方への倒れを抑制するとともに、擁壁部地盤改良体2の強度と剛性も増加することから、地盤改良体2A,2B,…,2Eを、平面視略櫛の歯状として地盤改良体全体の体積を小さくすることができるため、地盤改良を行う範囲を小さくすることができる。
よって、盛土の掘削範囲及び地盤改良体の量を削減することができるため、実施の形態1の擁壁の構造と比較して、さらに工期の短縮及び施工コストの削減を図ることができる。
【0032】
実施の形態3.
図6は本発明の実施の形態3に係る地盤改良体からなる擁壁の構造を示す縦断側面図であり、実施の形態1の図1及び実施の形態2の図4と同一符号は同一又は相当部分を示している。実施の形態3に係る地盤改良体からなる擁壁は、実施の形態1と同様の方法により施工される。
【0033】
実施の形態3において、上下複数の地盤改良体2A,2B,…,2Eは、これらの上下の地盤改良体間の接合面、すなわち地盤改良体2A,2B間の接合面、地盤改良体2B,2C間の接合面、地盤改良体2C,2D間の接合面及び地盤改良体2D,2E間の接合面を前上がり傾斜面としている。
したがって、上側の地盤改良体がその重力により前上がり傾斜面に沿って背面側へ移動する方向の分力が作用し、より大きな土圧に対抗することができることから、地盤改良体の前後方向の長さを小さくすることができるため、地盤改良を行う範囲を小さくすることができる。
よって、盛土の掘削範囲及び地盤改良体の量を削減することができるため、さらに工期の短縮及び施工コストの削減を図ることができる。
なお、底部地盤改良体1とその上の地盤改良体2Aとの間の接合面を前上がり傾斜面としてもよい。
【0034】
以上の説明においては、掘下げにより取った土に、例えば二酸化けい素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム及び三酸化イオウ等の成分からなるセメント系固化材等の固化材を添加混合して地盤改良を行う場合について説明したが、前記固化材に、ロックウール繊維、PVA繊維、ポリプロピレン繊維又はスチール繊維等の補強繊維(例えば数mmから数十mm程度の繊維長のもの。)を十分に分散させて混合してもよく、このような補強繊維を用いれば、底部地盤改良体1及び擁壁部地盤改良体2の強度が高くなるため、地盤改良体の量をさらに削減することができる。
よって、盛土の掘削範囲及び地盤改良体の量をさらに削減して、工期の短縮及び施工コストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態1に係る地盤改良体からなる擁壁の構造を示す縦断側面図である。
【図2】同じく正面図である。
【図3】施工方法を示す縦断側面図であり、(a)は底部地盤改良体上に段状の盛土を行った状態を、(b)は排水管を布設し、地盤改良体を形成して裏込め材を充填した上に段状の盛土を行った状態を示している。
【図4】本発明の実施の形態2に係る地盤改良体からなる擁壁の構造を示す縦断側面図である。
【図5】図4の矢視X−X断面図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係る地盤改良体からなる擁壁の構造を示す縦断側面図である。
【符号の説明】
【0036】
A 原地盤
B 基礎地盤
E 擁壁部地盤改良体の奥行き
S 法面
SB 後側地盤の法面
1 底部地盤改良体
2 擁壁部地盤改良体
2A,2B,2C,2D,2E 地盤改良体
3 透水層
4 裏込め材
5,5A,5B,5C,5D,5E 排水管
6 保護部材
7 凹凸係合部
8A,8B,8C 段状の盛土
9 前壁状地盤改良体
10 垂直壁状地盤改良体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎地盤の掘下げ部を地盤改良して形成された底部地盤改良体と、
該底部地盤改良体上の盛土を地盤改良して形成され、法面が連続するように順次積み重ねられた上下複数の地盤改良体からなる擁壁部地盤改良体と、
前記上下複数の地盤改良体の背面側の盛土を掘り下げて裏込め材を充填して形成された、前記擁壁部地盤改良体の背面に接して上下方向に延びる透水層と、
該透水層から前記擁壁部地盤改良体の法面まで延び、前記擁壁部地盤改良体の背面側の水を正面側へ排水する排水管と、
前記擁壁部地盤改良体の法面及び上面並びに前記透水層の上面を保護する保護部材と、
からなることを特徴とする地盤改良体からなる擁壁の構造。
【請求項2】
前記底部地盤改良体及び擁壁部地盤改良体の上下の地盤改良体間の接合面に凹凸係合部を形成又は前記接合面の上下に渡るダボを配設してなる請求項1記載の地盤改良体からなる擁壁の構造。
【請求項3】
前記底部地盤改良体及び擁壁部地盤改良体の上下の地盤改良体間の接合面を前上がり傾斜面としてなる請求項1記載の地盤改良体からなる擁壁の構造。
【請求項4】
前記擁壁部地盤改良体を、その法面を形成する前壁状地盤改良体及び該前壁状地盤改良体の背面から後方へ延びる、複数の垂直壁状地盤改良体からなる、平面視略櫛の歯状としてなる請求項1〜3の何れかに記載の地盤改良体からなる擁壁の構造。
【請求項5】
基礎地盤の表層部を掘り下げ、該掘下げにより取った土に固化材を添加混合して埋め戻して敷き均し、締め固めることにより、底部地盤改良体を形成する工程と、
後側地盤の法面から所望の擁壁法面にわたって前方へ延びる段状の盛土を行う工程、該段状の盛土を下位地盤改良体の上面まで掘り下げる工程、該掘下げにより取った土に固化材を添加混合して埋め戻して敷き均し、締め固めるとともに、法勾配を整形することにより上位地盤改良体を形成する工程、該上位地盤改良体の形成前又は形成途中において、その法面から背面まで延びる排水管を布設する工程、及び、前記上位地盤改良体の背面側の盛土を掘り下げて裏込め材を充填する工程、を繰り返して、法面が連続するように順次積み重ねられた上下複数の地盤改良体からなる擁壁部地盤改良体、該擁壁部地盤改良体の背面に接して上下方向に延びる透水層及び前記擁壁部地盤改良体の背面側の水を正面側へ排水する排水管を、前記底部地盤改良体上に構築する工程と、
前記擁壁部地盤改良体の法面及び上面並びに前記透水層の上面の保護工を行う工程と、
からなることを特徴とする地盤改良体からなる擁壁の施工方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−293331(P2009−293331A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150042(P2008−150042)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(503416504)
【出願人】(503195953)
【Fターム(参考)】