説明

地盤改良工法

【課題】盛土併用の真空圧密工法を適用して地盤改良を行う際に地盤変位を制御可能である地盤改良工法を提供する。
【解決手段】この地盤改良工法は、真空圧密と盛土との組み合わせによる地盤改良工法であって、真空圧密のための負圧を地盤改良対象域Dの中心部分から外側に段階的に拡げるようにして作用させ、その負圧の作用の開始に合わせて盛土Mの施工を開始し、盛土載荷を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空圧密と盛土との組み合わせによる地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤上に道路などの盛土を築造する場合に、地盤の安定性確保の目的から真空圧密工法を併用する場合がある。たとえば、10mの盛土荷重により軟弱地盤を圧密改良する場合には、負圧(例えば、65kN/m2)を併用すると、6.4mの盛土高(65kN/m2=土の密度18kN/m3×3.6m)で目的を達成できるからである。一方、ある県においては、条令により、盛土周辺部の地盤変形を規制している場合がある。例えば、道路盛土の法尻部から10m離れた地点において、水平・鉛直とも5cm以上の変位を生じさせてはならない、などである。この条令は道路築造現場の周辺に民家がある場合などが対象である。
【0003】
盛土併用の真空圧密工法には、ドレーンに排水ホース付のキャップを取り付けた真空圧密ドレーン工法(たとえば、特許文献1乃至4参照)がよく適用されている。このキャップ付ドレーンを利用した真空圧密工法は、気密キャップを取り付けたドレーンを改良対象の地盤中に設置して排水ホース、集水管を通して真空ポンプ等からなる負圧作用装置により排水しながら真空圧密を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2873764号公報
【特許文献2】特許第3777566号公報
【特許文献3】特許第3763054号公報
【特許文献4】特許第3731201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軟弱地盤上に道路盛土等を築造する場合、上述のような県の条例等に基づく要求(道路盛土の法尻部から10m離れた地点において水平変位・鉛直変位ともに5cm以下とする)を満足することが必要である。
【0006】
本発明は、盛土併用の真空圧密工法を適用して地盤改良を行う際に上記要求を満たす等のために地盤変位を制御可能である地盤改良工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者等による検討・研究の結果、盛土併用の真空圧密工法において、負圧載荷範囲を、盛土の施工期間を考慮して中心部分から外側に拡げることで地盤変位を制御することが可能であり、上記要求を満たすことができるという知見を得て、かかる知見に基づいて本発明に至ったものである。
【0008】
すなわち、上記目的を達成するための第1の地盤改良工法は、真空圧密と盛土との組み合わせによる地盤改良工法であって、真空圧密のための負圧を地盤改良対象域の中心部分から外側に段階的に拡げるようにして作用させ、前記負圧の作用の開始に合わせて盛土施工を開始し、盛土載荷を増加させることを特徴とする。
【0009】
この地盤改良工法によれば、真空圧密のための中心部分への部分的な負圧載荷の開始と、盛土施工の開始とを合わせて実施し、負圧を地盤改良対象域の中心部分から外側に段階的に拡げるようにして作用させることで、地盤変位を制御でき、負圧載荷の途中段階において負圧載荷に起因する地表面における引き込み側(中心部分に向かう)の水平変位を抑制することができる。
【0010】
上記目的を達成するための第2の地盤改良工法は、真空圧密と盛土との組み合わせによる地盤改良工法であって、真空圧密のための負圧を地盤改良対象域の中心部分から外側に段階的に拡げるようにして作用させ、前記負圧の作用の開始に遅れて盛土施工を開始し、盛土載荷を増加させることを特徴とする。
【0011】
この地盤改良工法によれば、真空圧密のための中心部分への負圧載荷を盛土施工の開始よりも先行して実施し、その後、負圧を地盤改良対象域の中心部分から外側に段階的に拡げるようにして作用させることで、地盤変位を制御でき、負圧載荷の途中段階において負圧載荷に起因する地表面における引き込み側(中心部分に向かう)の水平変位を抑制することができる。
【0012】
上記各地盤改良工法において前記負圧を前記中心部分から外側に拡げる際の拡大速度は、前記盛土の100%/αの完成時点で前記負圧が前記地盤改良対象域の全体に作用するように決められることが好ましい。これにより、盛土載荷荷重による地表面における押し出し側(中心部分から外側に向かう)の水平変形量が大きくなってしまうことを抑制できる。
【0013】
ただし、α=(γt×H)/P (1)
γt:盛土の単位体積重量
H:最大盛土高さ
P:作用負圧
【0014】
上記αは、盛土載荷圧(γt×H)の真空載荷圧力Pに対する比を示すパラメタであり、負圧載荷範囲の拡大速度を設定するために用いられる。すなわち、設計において定められた盛土高さと作用負圧とを用いてαの値を上記式(1)から算出することによって、上述の盛土の100%/αの完成時点が決定され、負圧載荷範囲の拡大速度を定めることができる。
【0015】
盛土載荷圧が真空載荷圧力に比べて大きい場合、上記αは大きい値をとり、それによって負圧載荷範囲の拡大速度は大きく設定される。すなわち、盛土載荷圧が大きい場合は、負圧載荷範囲を速く拡大し、盛土によって外に押し出す水平変形を抑制するように考慮するものである。なお、盛土載荷圧が真空載荷圧力に比べて小さい場合は、上記αは小さくなり、それによって負圧載荷範囲の拡大速度は小さく設定されるが、盛土完成時には地盤改良対象域内に負圧の未作用域は残っていないようにαの最小値として1.0以上の値をとるものとする。
【0016】
また、前記盛土の法尻部から所定距離だけ離れた地表面における変位量を測定し、その変位量から得られた変位量の増加速度に基づいて前記負圧を外側に拡げる際の拡大速度を調整することが好ましい。これにより、盛土の法尻部から所定距離だけ離れた地表面における変位量が所定値以下となるように地盤変位を制御することができる。
【0017】
また、前記盛土の法尻部から所定距離だけ離れた地表面における変位量を測定し、その変位量に基づいて前記中心部分の範囲を調整することが好ましい。これにより、盛土の法尻部から所定距離だけ離れた地表面における変位量が所定値以下となるように地盤変位を制御することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の地盤改良工法によれば、地盤変位を制御でき、負圧載荷の途中段階において負圧載荷に起因する地表面における引き込み側(中心部分に向かう)の水平変位を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施の形態を示す、地盤改良対象区域における計画負圧載荷・盛土載荷の範囲(縦断面)を示す概略図である。
【図2】図1において負圧載荷を段階的に実施する際の範囲を示す概略図である。
【図3】図2の計画負圧載荷範囲D内に打設した鉛直ドレーン材を含む真空圧密システムを示す概略図である。
【図4】本実施形態における地盤改良工法の各工程(S01〜S06)の第1例を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態における地盤改良工法の各工程(S11〜S17)の第2例を示すフローチャートである。
【図6】図4または図5の地盤改良工程において盛土の法尻部から所定距離だけ離れた位置で測定した水平変位量に基づいて負圧載荷範囲を調整する工程を説明するためのフローチャートである。
【図7】本実施例の解析に用いた原地盤の層構成モデルを示す図である。
【図8】本実施例のFEM解析に用いた地盤メッシュ図である。
【図9】本実施例の解析に用いた原地盤の物性パラメータ(a)及び施工部(盛土)の物性パラメータ(b)を示す図である。
【図10】実施例1の法尻から10m離れた位置における地盤変位の解析結果として地表面鉛直変位の時間変化を示すグラフ(a)及び水平変位深度分布の時間変化を示すグラフ(b)である。
【図11】実施例2の法尻から10m離れた位置における地盤変位の解析結果として地表面鉛直変位の時間変化を示すグラフ(a)及び水平変位深度分布の時間変化を示すグラフ(b)である。
【図12】比較例1の法尻から10m離れた位置における地盤変位の解析結果として地表面鉛直変位の時間変化を示すグラフ(a)及び水平変位深度分布の時間変化を示すグラフ(b)である。
【図13】比較例2の法尻から10m離れた位置における地盤変位の解析結果として地表面鉛直変位の時間変化を示すグラフ(a)及び水平変位深度分布の時間変化を示すグラフ(b)である。
【図14】図4の地盤改良工法における日数による負圧載荷範囲(%)及び盛土完成率(%)の変化例を示すグラフである。
【図15】図5の地盤改良工法における日数による負圧載荷範囲(%)及び盛土完成率(%)の変化例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施の形態を示す、地盤改良対象区域における計画負圧載荷・盛土載荷の範囲(縦断面)を示す概略図である。図2は図1において負圧載荷を段階的に実施する際の範囲を示す概略図である。
【0021】
図1のように、本実施形態による真空圧密と盛土との組み合わせによる地盤改良工法では、粘性土からなり軟弱地盤である原地盤Gに盛土併用の真空圧密工法を適用し、原地盤Gの地盤改良対象区域として計画負圧載荷範囲Dが設定され、計画負圧載荷範囲Dに対応する地表面S上に盛土Mの載荷範囲が設定される。
【0022】
図2のように、本実施形態による地盤改良工法は、盛土Mを地盤改良対象区域で継続的に施工して盛土載荷を増加させるとともに、真空圧密のための負圧を、計画負圧載荷範囲D内の中心部分から外側に拡げて作用させるものである。
【0023】
すなわち、盛土Mを地表面S上に載荷する際に、盛土施工を継続的に実施し、盛土の一部M1、次の一部M2を施工するようにして順次盛土を設置し、盛土Mを完成させるとともに、真空圧密のための負圧を、計画負圧載荷範囲D内の中心部分から順次、外側に段階的に拡げ、中央部D1から両側部分D2,D3へと拡げて作用させ、最終的に計画負圧載荷範囲Dの全体に作用させる。
【0024】
次に、本実施形態において真空圧密のための真空圧密システムの構成例について図3を参照して説明する。図3は図2の計画負圧載荷範囲D内に打設した鉛直ドレーン材を含む真空圧密システムを示す概略図である。
【0025】
図3に示すように、真空圧密システム100は、軟弱地盤からなる原地盤Gに所定間隔で打設された複数の鉛直ドレーン材1〜14と、各鉛直ドレーン材1〜14の上端に設けられかつ原地盤G内に所定深さに埋め込まれた気密性キャップ31〜44と、各気密性キャップ31〜44に接続して地表面Sを突き抜けて延びる排水ホース51〜66と、隣接する2本の排水ホース(51,52)(53,54)(55,56)(57,58)(59,60)(61,62)(63,64)がそれぞれ接続する集水管71〜77と、集水管71〜77にバルブ81〜87を介して接続するヘッダパイプ90と、ヘッダパイプ90に接続し真空ポンプ等からなる負圧作用装置91と、を備える。
【0026】
真空圧密システム100では、図3のように、鉛直ドレーン材1〜14が直列的に並ぶ方向に略直交する方向(奥行き方向)に同様の鉛直ドレーン材がさらに所定間隔で複数打設されており、それらの鉛直ドレーン材から気密性キャップを介して延びた排水ホース51a〜64a、51b〜64bが同様にそれぞれ集水管71〜77に接続している。
【0027】
なお、鉛直ドレーン材や気密性キャップや排水ホース等の具体例は、上記特許文献1〜4に記載されている。また、図3は、軟弱地盤上に道路盛土を構築する場合の例である。
【0028】
図3の真空圧密システム100によれば、計画負圧載荷範囲D内に打設された鉛直ドレーン材1〜14を含む鉛直ドレーン材,排水ホース51〜64,51a〜64a,51b〜64b,集水管71〜77及びヘッダパイプ90を通して負圧作用装置91により負圧を作用させることで、鉛直ドレーン材1〜14等の内部を略真空状態にし、原地盤G内の間隙水を吸引して外部に排出する。このようにして、計画負圧載荷範囲Dにおいて、負圧作用装置91による負圧を原地盤Gに作用させることで、真空圧密により原地盤Gの地盤改良を行うことができる。なお、この場合、気密性キャップ31〜44が原地盤G内の所定深さ位置にあるため、気密性キャップ31〜44よりも上部の原地盤(粘性土)を気密シール層として利用することができ、従来のような気密シートは不要である。
【0029】
図3において、負圧を図2の計画負圧載荷範囲D内で段階的に拡大して作用させる場合、鉛直ドレーン材1〜14を例にして説明すると、例えば、バルブ84のみを開き、他のバルブ81,82,83,85,86,87を閉じることで、図2の計画負圧載荷範囲Dの中心部分に対応する鉛直ドレーン材7,8のみに負圧を作用させることができる。次に、バルブ83,85を開くことで、鉛直ドレーン材5,6,9,10にも負圧を作用させることができる。このように、バルブ81〜87を順次開くことで、負圧を図2の計画負圧載荷範囲Dの中心部分に対応する鉛直ドレーン材7,8から、その外側部分に対応する鉛直ドレーン材5,6,9,10へと段階的に作用させ、最終的に計画負圧載荷範囲D内の鉛直ドレーン材1〜14の全部に作用させることができる。
【0030】
上述のように、図3のバルブ81〜87の開閉操作により、負圧を図2の計画負圧載荷範囲Dの中心部分から外側に段階的に拡げるようにして作用させ、最終的に計画負圧載荷範囲Dの全体に作用させることができる。
【0031】
次に、本実施形態における地盤改良工法の工程について図4,図5を参照して説明する。図4は、本実施形態における地盤改良工法の各工程(S01〜S06)の第1例を示すフローチャートである。図5は、本実施形態における地盤改良工法の各工程(S11〜S17)の第2例を示すフローチャートである。
【0032】
図4の第1例では、図2,図3のように、まず、負圧を計画負圧載荷範囲D内の中心部分から載荷して真空圧密を開始するとともに、中心部分から負圧載荷範囲の拡大を開始し(S01)、負圧を作用させる負圧載荷範囲を段階的に外側に拡げる。この真空圧密の開始とほぼ同時期に盛土の施工を開始する(S02)。
【0033】
例えば、図3においてすべてのバルブ81〜87を閉じた状態からバルブ84を開き、鉛直ドレーン材7,8のみに負圧を作用させることで、負圧を限定範囲に載荷させる。次に、バルブ83,85を開き、鉛直ドレーン材5〜10に負圧を作用させ、次に、バルブ82,86を開き、鉛直ドレーン材3〜12に負圧を作用させ、次に、バルブ81,87を開き、すべての鉛直ドレーン材1〜14に負圧を作用させるようにすることで、負圧載荷範囲を図2の計画負圧載荷範囲Dの中心部分から外側に段階的に拡げ、中央部D1から両側部分D2,D3へと拡げるようにして最終的に計画負圧載荷範囲Dの全体に負圧を作用させる(S03)。
【0034】
一方、盛土の施工を続け、盛土Mの全体の約50%(盛土高さ)の盛土M1を完成させる(S04)。この約50%(盛土高さ)の盛土M1の完成時点で、真空圧密工程S03において負圧が計画負圧載荷範囲Dの全体に作用している状態とする。
【0035】
上述の真空圧密工程S04を続けながら、盛土施工を続行し、盛土M1の上に盛土M2を施工し、盛土M(M1+M2)を完成させる(S05)。
【0036】
次に、上述の真空圧密工程(S03)と盛土載荷工程(S05)とを所定期間実施してから、負圧を除荷する(S06)。
【0037】
上記工程S01からS03までの間に負圧載荷範囲を外側に拡げる際の拡大速度は、盛土の100%/αの完成時点で負圧が計画負圧載荷範囲Dの全体に作用しているように決められる。αは、例えば、盛土の単位体積重量γtを18kN/m3、最大盛土高さHを6m、作用負圧Pを60kN/m2とすると、式(1)から2程度と定めることができる。
【0038】
α=(γt×H)/P=18×6/60=1.8 (1)
【0039】
図14は、図4の地盤改良工法における日数による負圧載荷範囲(%)及び盛土完成率(%)の変化例を示すグラフである。上述のように、負圧載荷範囲を拡げて計画負圧載荷範囲Dの全部にまで拡げる拡大速度(%/日)は、盛土が100%/αの完成時点で、負圧が全域に載荷されるように設定されるものである。すなわち、図14のように、盛土が100/α=100/2=50%の完成時点(図14の例では、盛土100%の完成時点を120日とすると、60日)で負圧が計画負圧載荷範囲Dの全体に載荷される。
【0040】
図4では、負圧載荷範囲の拡大速度X(%/日)は、図14の直線aの傾きの勾配であり、次の式(2)で表すことができる。
【0041】
X=α×100%/(盛土施工に要する日数) (2)
上記式(2)は、X=100%/(盛土施工に要する日数×(1/α))となり、α=2とすると、X=100%/(盛土施工に要する日数×1/2)となる。図14の例では、X=100%/60日となり、この拡大速度X(%/日)で負圧載荷範囲を計画負圧載荷範囲Dの全体(100%)に至るまで拡大する。
【0042】
以上のように、図4,図14では、盛土Mの半分を施工する期間内で、負圧載荷範囲を、100%/(盛土施工に要する日数×1/2)の拡大速度で段階的に拡げ、計画負圧載荷範囲Dの全部にまで拡げる。すなわち、盛土の施工開始にあわせて負圧を段階的に作用させ始め、盛土が50%程度完成したときに負圧が計画負圧載荷範囲Dの全体に作用している状態とする。
【0043】
図4の第1例による地盤改良工法によれば、真空圧密と盛土とを組み合わせて地盤改良を行う際に、真空圧密と盛土載荷とをほぼ同時期に開始するが、真空圧密工程の途中段階において図2のように真空圧密のための負圧の作用範囲を計画負圧載荷範囲D内の中央部D1に限定することで、地盤の変位を制御することができ、負圧載荷に起因する地表面Sにおける引き込み側(図2の中央部D1に向かう)の水平変位が抑制される。このため、図2の盛土Mの法尻部Jから外側に所定距離だけ離れた位置における最大水平変位量を抑えることができる。
【0044】
図5の第2例は、計画負圧載荷範囲D内の中心部分のみに負圧を作用させる真空圧密工程を盛土載荷工程に先行させて行うものである。すなわち、まず、図4と異なり、盛土建設に先立って、負圧を計画負圧載荷範囲D内の中心部分のみに作用させて真空圧密を行う(S11)。図3においてすべてのバルブ81〜87を閉じた状態から例えば、バルブ84を開き、計画負圧載荷範囲D内の中心部分に対応する鉛直ドレーン材7,8のみに負圧を作用させることで、負圧を限定範囲に載荷させる。
【0045】
上述の真空圧密工程(S11)を所定期間実施してから、盛土施工を開始する(S12)とともに、負圧載荷範囲の拡大を開始し(S13)、図4と同様にして負圧を作用させる範囲を段階的に外側に拡げる。これにより、図3のすべての鉛直ドレーン材1〜14に負圧を作用させることで、計画負圧載荷範囲Dの全体に負圧を作用させる(S14)。
【0046】
一方、盛土の施工を続け、盛土Mの全体の約50%(盛土高さ)の盛土M1を完成させる(S15)。この約50%(盛土高さ)の盛土M1の完成時点で、真空圧密工程S14において負圧が計画負圧載荷範囲Dの全体に作用している状態とする。
【0047】
上述の真空圧密工程(S14)を続けながら、盛土施工を続行し、盛土M1の上に盛土M2を施工し、盛土M(M1+M2)を完成させる(S16)。
【0048】
次に、上述の真空圧密工程(S14)と盛土載荷工程(S16)とを所定期間実施してから、負圧を除荷する(S17)。
【0049】
図15は、図5の地盤改良工法における日数による負圧載荷範囲(%)及び盛土完成率(%)の変化例を示すグラフである。上述のように、図5,図15では、事前改良として負圧を計画負圧載荷範囲Dの一部に作用させ、その後、盛土の施工開始にあわせて、図4の例と同じように、盛土が100/αの完成時点で、負圧が全域に載荷されるように負圧載荷範囲を拡大していく。基本的に、この場合の負圧載荷範囲の拡大速度X(%/日)は、図15のように、真空圧密工程S11の先行負圧における負圧載荷範囲をA%とすると、次の式(3)で与えられる。
【0050】
X=α×(100−A)%/(盛土施工に要する日数) (3)
【0051】
なお、上記拡大速度X(%/日)は、図14(式(2))と同じ、α×100%/(盛土施工に要する日数)で与えてもよい。
【0052】
図5の第2例による地盤改良工法によれば、真空圧密と盛土とを組み合わせて地盤改良を行う際に、盛土載荷に先行して真空圧密を行い、真空圧密工程の途中段階において図2のように真空圧密のための負圧の作用範囲を計画負圧載荷範囲D内の中央部D1に限定することで、地盤の変位を制御することができ、負圧載荷に起因する地表面Sにおける引き込み側(図2の中央部D1に向かう)の水平変位が抑制される。このため、図2の盛土Mの法尻部Jから外側に所定距離だけ離れた位置における最大水平変位量を抑えることができる。
【0053】
次に、図4または図5のように、真空圧密による領域への段階的載荷と盛土による載荷とを実施する際に、盛土の法尻部から所定距離だけ離れた位置における水平変位量を測定するようにした例について図6を参照して説明する。図6は、図4または図5の地盤改良工程において盛土の法尻部から所定距離だけ離れた位置で測定した水平変位量に基づいて負圧載荷範囲を調整する工程を説明するためのフローチャートである。
【0054】
図2のように、盛土Mの法尻部Jから所定距離Lだけ離れた地表面S上に変位計95を設置する。変位計95は、例えば、トータルステーション(電子式測距測角儀)による測定を行う場合、光波反射プリズムや光波反射シートからなるターゲットを設けたものとし、変位計95の水平方向位置を計測することで水平方向の変位量をリアルタイムに測定できる。
【0055】
図4,図5の地盤改良工法を実施する際に真空圧密工程S01,S11の開始とともに、図2の変位計95を用いて、盛土Mの法尻部Jから所定距離Lだけ離れた位置で地表面Sにおける水平変位量の測定を開始する(S21)。
【0056】
上記水平変位量の測定を続け、測定した水平変位量から単位時間(1日)あたりの水平変位量の増加速度(cm/日)を求め、この増加速度が予め設定した基準値R(cm/日)以下であるか否かを判断する(S22)。
【0057】
なお、押し出し側(図2の中央部D1から外側に向かう)の水平変形量をプラス(+)、引き込み側(図2の中央部D1側に向かう)の水平変位量をマイナス(−)とした場合、水平変形量の絶対値から求めた増加速度を基準値Rと比較する。
【0058】
水平変位量の増加速度が基準値R以下である場合には、工程S21に戻り、水平変位量の測定を続ける。水平変位量の増加速度が基準値Rを超えた場合、図4の真空圧密工程S01からS03までの間に、または、図5の真空圧密工程S13からS14までの間に、その負圧載荷範囲を外側に拡大する拡大速度を調整する(S23)。なお、基準値Rは、例えば、0.04cm/日と設定することができるが、別の値を設定してもよい。
【0059】
本発明者等の検討によれば、負圧載荷範囲の拡大速度が遅くなると、盛土載荷荷重による地表面Sにおける押し出し側の水平変形量(+)が大きくなってしまう。このため、水平変位量(+)の測定結果から得た増加速度が基準値を超えたとき、上記調整工程S23において上記式(2)または(3)のαを大きくし、負圧載荷範囲の拡大速度を早めにすることで、押し出し側の水平変形量を抑えることができる。
【0060】
また、負圧載荷範囲の拡大速度が早すぎると、地表面Sにおける引き込み側の水平変位量(−)が大きくなってしまう。このため、水平変位量(−)の測定結果から得た増加速度が基準値を超えたとき、上記調整工程S23において上記式(2)または(3)のαを小さくし(ただし、α≧1)、負圧載荷範囲の拡大速度を遅くすることで、引き込み側の水平変形量を抑えることができる。
【0061】
上述の図6の例によれば、図4,図5のように真空圧密の地盤改良対象区域における段階的載荷と盛土載荷とを実施する際に、盛土の法尻部から所定距離だけ離れた位置で測定した水平変位量から得た水平変位量の増加速度を基準値と比較し、基準値を越えた場合、水平変位量の+(押し出し側)、−(引き込み側)から判断して上記式(2)または(3)のαを増減し、負圧載荷範囲の拡大速度を増減するようにして調整することで、地盤の変位を制御することができ、盛土Mの法尻部Jから所定距離Lだけ離れた位置の地表面Sにおける水平変位量を所定値以下に抑えることができる。これにより、例えば、道路盛土の法尻部から10m離れた地点において水平変位量を5cm以下とする条例等の要求を満足させることができる。
【0062】
軟弱地盤上に道路等を構築するために盛土併用の真空圧密工法を適用する場合、従来、盛土の設置前に負圧を計画負圧載荷範囲の全体に作用させ、その後、盛土を段階的に載荷するように施工することが一般的であったが、本実施形態によれば、盛土建設の途中段階において、計画負圧載荷範囲Dの全体に負圧を作用させるのではなく、図2のように計画負圧載荷範囲Dの中央部D1のみに負圧を作用させることで、負圧載荷に起因する地表面Sにおける引き込み側の水平変位を抑制し、図2の盛土Mの法尻部Jから外側に所定距離だけ離れた位置における最大水平変位量を抑えることができる。また、地表面Sにおける水平変位量を測定し、その水平変位量の増加速度から判断して負圧載荷範囲の拡大速度を調整することで、盛土Mの法尻部Jから所定距離Lだけ離れた位置の地表面Sにおける水平変位量を所定値以下に抑えることができる。
【0063】
また、図5のように、真空圧密工程を事前に行う場合、盛土Mの法尻部Jから所定距離Lだけ離れた位置の地表面Sにおける水平変位量を図6のようにして測定し、その引き込み側の水平変位量が所定値を越えないように真空圧密工程S11における負圧載荷範囲を調整するようにしてもよく、図3においてバルブ81〜87の開閉により負圧を作用させる鉛直ドレーン材を選択する。これにより、盛土Mの法尻部Jから所定距離Lだけ離れた位置の地表面Sにおける水平変位量を所定値以下に抑えることができる。なお、所定値は、例えば、2cmに設定することができるが、適宜変更可能である。
【0064】
従来、地盤改良工法において盛土を段階的に載荷する方法はあったが、本実施形態のように地盤変位を制御するために負圧を地盤改良対象区域内で中心部分から外側に拡げるようにして作用させる負圧載荷方法は従来にない新規なものである。
【実施例】
【0065】
本実施例は、軟弱地盤上に道路盛土を構築する場合を例として、有限要素法(FEM)による地盤変形解析手法を用い、真空・盛土併用時の地盤変形挙動を解析したものである。
【0066】
原地盤の層構成モデルを図7に示す。図7の原地盤は、aAc1,aAc2の軟弱な沖積粘土層を有するものとした。この地盤上に、高さ6.0mの盛土を構築する目的で、盛土直下に真空圧密ドレーン工法(負圧60kN/m2)を適用するものとした。盛土の法尻から10m離れた地点における水平変位量・鉛直変位量を評価した。
【0067】
実施例1,2及び比較例1,2の4ケースについて、FEMによる地盤変形解析を実施した。図8にFEM解析に用いた地盤メッシュ図を示す。図9(a)に解析に用いた原地盤の物性パラメータを示し、図9(b)に同じく施工部(盛土)の物性パラメータを示す。なお、図9(a)(b)では、10のべき乗の表現にEを用いて、例えば、E−02(=10-2)のように表している場合がある。
【0068】
(実施例1)
実施例1は、盛土を施工する期間の半分の期間内で負圧載荷範囲を外側に段階的に拡げていくものである。すなわち、図4のように、負圧載荷範囲が計画負圧載荷範囲の全体に占める割合の拡大速度(%/日)は、100%/(盛土建設に要する日数の1/2)に設定される。実施例1では、盛土の施工開始にあわせて負圧を作用させ始め、盛土が50%の完成時に負圧が全範囲に作用している状態とする。すなわち、実施例1では、盛土施工及び負圧載荷の開始から40日後に盛土2mの盛土載荷・中央22mの負圧載荷の状態→次の40日後に盛土4mの盛土載荷・全域への負圧載荷の状態→次の40日後に盛土6mの盛土載荷・全域への負圧載荷の状態となるモデルとしたが、盛土施工に要する日数は各段階1〜3における所要日数の総和(120日)であり、その半分の日数(60日)で負圧が全範囲に作用するものとした。実施例1の施工工程を次の表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
(実施例2)
実施例2は、事前改良として負圧を計画負圧載荷範囲の1/3の範囲(中央部分12m)に作用させ、その後、盛土の施工開始にあわせて、実施例1と同様に、盛土が100/α=50%の完成時点で負圧が全域に載荷されるように負圧載荷範囲を拡大させ、盛土を完成させるものである。実施例2の施工工程を次の表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
(比較例1)
比較例1は、盛土の設置前に、事前改良として負圧を計画負圧載荷範囲の全体に7日間作用させるもので、これ以外は、実施例2と同じである。比較例1の施工工程を表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
(比較例2)
比較例2は、負圧載荷範囲の拡大速度を実施例1の1/2とした以外は実施例1と同様にしたものである。盛土を施工する期間内で負圧載荷範囲を広げていくが、比較例2では、負圧載荷範囲が計画負圧載荷範囲の全体に占める割合の拡大速度(%/日)は,100%/(盛土施工に要する日数)に設定される。盛土の施工開始にあわせて、負圧を作用させ始め、盛土が100%完成時に負圧が計画負圧載荷範囲の全体に作用している状態とする。比較例2の施工工程を表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
上記解析による変位挙動結果をそれぞれ図10(a)(b)〜図13(a)(b)に示す。また、次の表5に上記解析結果のまとめとして、法尻から10m離れた位置における地表面の水平変位量・鉛直変位量を示す。
【0077】
【表5】

【0078】
上記解析による変位挙動結果から、施工初期において、計画負圧載荷範囲の全体に負圧を作用させる比較例1に比べて,段階的に負圧を作用させる実施例1,2では、地表面における引き込みの水平変位が抑えられることに伴い、最大変位量を抑えられることがわかる。また、実施例1と比較例2とを比較すると、比較例2では負圧載荷範囲の拡大速度が遅いために盛土荷重による押出し変形が大きく生じることがわかる。
【0079】
また、盛土設置時における押出し変形による水平変位の増加速度δh/日は、実施例1では、0.037cm/日、比較例2では、0.062cm/日であり、実施例1は比較例2よりも水平変位量の増加速度が遅いことがわかる。実際の施工においては、水平変位量を計測しながら、水平変位量の増加速度が例えば0.04cm/日以下となるように負圧載荷範囲の最適な拡大速度を決定することが好ましい。
【0080】
また、実施例2のように、事前に計画負圧載荷範囲の1/3を地盤改良した上で、盛土の施工とあわせて負圧を段階的に作用させる地盤改良方法によれば、一般に行われる地盤改良方法である比較例1と比較して、鉛直変位量を41%、水平変位量を58%に低減させることができ、周辺施設への影響を著しく抑制できることがわかった。
【0081】
また、実施例2では、事前の負圧載荷範囲を全体の1/3の範囲に設定したが、実際の施工においては、事前の負圧による地盤改良時における引込みの水平変位量を計測し、その水平変位量が例えば2cm程度を超えないように、事前の負圧載荷範囲を定めることが好ましい。
【0082】
なお、実施例1,2,比較例1,2ともに放置期間を170日、270日、770日に変えて解析したが、図10(a)(b)〜図13(a)(b)からわかるように、放置期間により水平変位量・垂直変位量はほとんど変化していない。
【0083】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図3〜図5は、軟弱地盤上に道路盛土を構築する例であるが、本発明は、本例に限定されず、計画負圧載荷範囲が、道路のように細長い平面形状ではなく、略正方形状や略長方形状(細長い形状でない)や略台形状等の平面形状であってもよい。この場合には、図2の負圧載荷の途中段階における負圧載荷範囲の中央部D1では、図2の横方向のみならず紙面垂直方向においても中央部に負圧を作用させてから外側に段階的に拡げる(図3で説明すると、横方向において中心付近の鉛直ドレーン材のみに負圧を作用させてから外側に段階的に拡げるとともに奥行き方向においても中心付近の鉛直ドレーン材のみに負圧を作用させてから外側に段階的に拡げる)構成とすることが好ましい。
【0084】
また、図4,図5の説明では、盛土載荷は、盛土施工の開始から完成まで連続的に増加させるものとしたが、本発明はこれに限定されず、盛土の段階的載荷でもよい。すなわち、盛土を比較的早い速度で部分的に完成させ、その部分盛土載荷により所定期間圧密を実施し、その後同様にして部分盛土載荷を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1〜12 鉛直ドレーン材
31〜42 気密性キャップ
51〜62、51a〜62a、51b〜62b 排水ホース
71〜76 集水管
81〜86 バルブ
90 ヘッダパイプ
91 負圧作用装置
95 変位計
100 真空圧密システム
D 計画負圧載荷範囲、地盤改良対象域
D1 中央部
G 原地盤
J 法尻部
L 所定距離
M,M1,M2 盛土
S 地表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空圧密と盛土との組み合わせによる地盤改良工法であって、
真空圧密のための負圧を地盤改良対象域の中心部分から外側に段階的に拡げるようにして作用させ、
前記負圧の作用の開始に合わせて盛土施工を開始し、盛土載荷を増加させることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項2】
真空圧密と盛土との組み合わせによる地盤改良工法であって、
真空圧密のための負圧を地盤改良対象域の中心部分から外側に段階的に拡げるようにして作用させ、
前記負圧の作用の開始に遅れて盛土施工を開始し、盛土載荷を増加させることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項3】
前記負圧を前記中心部分から外側に拡げる際の拡大速度は、前記盛土の100%/αの完成時点で前記負圧が前記地盤改良対象域の全体に作用するように決められる請求項1または2に記載の地盤改良工法。
ただし、α=(γt×H)/P
γt:盛土の単位体積重量
H:最大盛土高さ
P:作用負圧
【請求項4】
前記盛土の法尻部から所定距離だけ離れた地表面における変位量を測定し、その変位量から得られた変位量の増加速度に基づいて前記負圧を外側に拡げる際の拡大速度を調整する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地盤改良工法。
【請求項5】
前記盛土の法尻部から所定距離だけ離れた地表面における変位量を測定し、その変位量に基づいて前記中心部分の範囲を調整する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の地盤改良工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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