説明

地盤改良用撹拌装置

【課題】掘削土と地盤改良材の撹拌混合を確実かつ効率良く行うことのできる地盤改良用撹拌装置を提案すること。
【解決手段】地盤改良用撹拌装置20は、逆向き状態で掘削軸21に取り付けた前側V字撹拌翼22と後側V字撹拌翼23を備えている。地盤掘削時には、主として前側V字撹拌翼22によって掘削土と地盤改良材が撹拌混合される。前側V字撹拌翼22の内側に入り込んだ掘削土はこの後側に配置されている水平撹拌翼24によって撹拌される。地盤改良用撹拌装置20の引抜時には、前側V字撹拌翼22によって撹拌混合された掘削土および地盤改良材が、後側V字撹拌翼23によって再度、撹拌混合される。この場合においても、後側V字撹拌翼23の内側に入り込んだ掘削土は水平撹拌翼24によって撹拌される。往復撹拌混合による確実で効率的な地盤改良作業を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良対象の地盤を掘削しながら地盤改良材を注入して掘削土と地盤改良材を撹拌混合する地盤改良用撹拌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粘性土、砂質土、シルト、礫質土、ローム等の軟弱地盤の安定化を図るために、軟弱地盤を鉛直に掘削しながら地盤改良材(安定材)、例えばセメント系のスラリーを軟弱地盤に注入して撹拌混合する地盤改良工法が知られている。この地盤改良工法は、例えば、構造物の基礎地盤の改良、自然斜面・盛土斜面などの斜面の滑り・崩壊の防止、建築基礎の支持地盤の造成・液状化対策・基礎補強等のために広く用いられている。
【0003】
この地盤改良工法においては、クレーンなどの作業機械のブームの先端に鉛直に支持した回転軸の下端に撹拌装置を装着し、地盤を掘削しながら撹拌装置の先から地盤改良材を掘削土に注入すると共に撹拌装置の撹拌翼によって地盤改良材および掘削土を撹拌混合している。撹拌装置としては、特許文献1〜3に開示されているように、掘削軸(回転軸)の先端に掘削ビットを備えていると共に掘削軸の外周から半径方向に延びる複数枚の水平撹拌翼を備えたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−64660号公報
【特許文献2】特開2003−13438号公報
【特許文献3】特開2011−69093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、このような水平撹拌翼を備えた撹拌装置を用いる場合には、地盤改良材と掘削土を十分に撹拌混合できないことがある。例えば、水平撹拌翼の間に位置する掘削土が水平撹拌翼によって十分に粉砕されず、地盤改良材と掘削土とが十分に撹拌混合されないことがある。このために、同一の掘削位置において撹拌装置の掘進および引抜動作を繰り返し行う必要があり、効率良く掘削土と地盤改良材を撹拌混合することができないという解決すべき課題がある。
【0006】
本発明の課題は、この点に鑑みて、掘削土と地盤改良材の撹拌混合を確実かつ効率良く行うことのできる地盤改良用撹拌装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明による地盤改良用撹拌装置は、
中空の掘削軸と、この掘削軸に取り付けた前側V字撹拌翼、後側V字撹拌翼および水平撹拌翼とを有しており、
掘削軸における地盤掘削方向の先端部外周面には地盤改良材の吐出口が形成されており、
前側V字撹拌翼は、掘削軸に直交する方向から見た場合に、当該掘削軸の地盤掘削方向に向けて先細りとなり、当該掘削軸の中心軸線を対称軸線とするV字形状をしており、
後側V字撹拌翼は、掘削軸に直交する方向から見た場合に、当該掘削軸を地盤から引き抜く引抜方向に向けて先細りとなり、当該掘削軸の中心軸線を対称軸線とするV字形状をしており、
後側V字撹拌翼は、前側V字撹拌翼に対して引抜方向の側に配置されており、
水平撹拌翼は、掘削軸における前側V字撹拌翼と後側V字撹拌翼の間において、掘削軸の両側から当該掘削軸に直交する方向に延びていることを特徴としている。
【0008】
本発明の地盤改良用撹拌装置は、逆向き状態で掘削軸に取り付けた一対の前側V字撹拌翼および後側V字撹拌翼を備えている。地盤掘削時には、主として前側V字撹拌翼によって掘削土と地盤改良材が撹拌混合される。また、前側V字撹拌翼の内側に入り込んだ掘削土はこの後側に配置されている水平撹拌翼によって撹拌される。次に、撹拌装置の引抜時には、前側V字撹拌翼によって撹拌混合された掘削土および地盤改良材が、引抜方向の側に位置している後側V字撹拌翼によって再度、撹拌混合される。この場合においても、後側V字撹拌翼の内側に入り込んだ掘削土は水平撹拌翼によって撹拌される。
【0009】
このように、逆向きの一対のV字撹拌翼を備えているので、掘削時と引抜時の双方の行程ともに同様の撹拌混合性能が発揮される。すなわち、往復撹拌混合による確実で効率的な地盤改良作業を行うことができる。また、V字撹拌翼は水平撹拌翼に比べて撹拌混合性能が高い。したがって、従来の撹拌装置に比べて掘削土と地盤改良材の撹拌混合を確実かつ効率良く行うことができる。
【0010】
ここで、前側V字撹拌翼における地盤掘削方向を向いている掘削側表面部分に、掘削方向等を向く状態に複数の掘削ビットを固定すると共に、後側V字撹拌翼における引抜方向を向いている引抜側表面部分にも引抜方向等を向く状態に複数の掘削ビットを固定しておくことが望ましい。掘削時に粉砕されなかった掘削土が引抜時に後向き掘削ビットによって確実に粉砕され、掘削土と地盤改良材を確実に撹拌混合することができる。
【0011】
また、掘削軸に直交する方向から見た場合に、矩形形状となるように前側V字撹拌翼と後側V字撹拌翼を相互に連結しておくことが望ましい。このようにすれば、前側V字撹拌翼と後側V字撹拌翼が掘削軸の軸線方向において離れている場合に比べて、掘削土を確実に粉砕混合することができる。また、これらの撹拌翼の強度、剛性を高めることができ、耐久性が向上するなどの利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による地盤改良用撹拌装置を備えた地盤改良設備の例を示す配置図である。
【図2】(a)は図1の地盤改良用撹拌装置を示す側面図であり、(b)は(a)とは直交する方向から見た場合の側面図である。
【図3】地盤改良用撹拌装置を用いて地盤改良を行う場合の施工の流れを示す説明図である。
【図4】地盤改良用撹拌装置を用いて地盤を柱状に改良する場合の柱状改良手順を示す説明図である。
【図5】地盤改良用撹拌装置を用いて地盤の全面を改良する場合の全面改良手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して本発明を適用した地盤改良用撹拌装置の実施の形態を説明する。
【0014】
図1を参照して、地盤改良用撹拌装置を備えた地盤改良設備の一例を説明する。この図に示すように、地盤改良設備は、改良対象となる地盤面Gの近傍の敷地に設置した地盤改良材供給用のプラント1と、ここから地盤改良材の供給を受けて改良対象の地盤面Gの改良を行う改良施工機2を備えている。
【0015】
プラント1は、例えば地盤改良材としてセメント系固化材を水に混合したスラリーを供給するものであり、セメントサイロ3、水槽4、バッチャープラント5、グラウトポンプ6および発電機7を備えている。グラウトポンプ6の吐出口から供給管8を介してスラリーが改良施工機2に供給される。改良施工機2は、汎用のバックホー11と、このバックホー11のブーム先端に取り付け可能な回転駆動機構12と、回転駆動機構12によって垂直に支持された状態で回転駆動される中空の回転軸13と、地盤改良用撹拌装置20とを備えている。
【0016】
図2を参照して地盤改良用撹拌装置20の構成を説明する。地盤改良用撹拌装置20(以下、単に「撹拌装置20」と呼ぶ場合もある。)は、回転軸13の下端部に同軸状態に連結固定される中空の掘削軸21を備えており、この掘削軸21には、溶接等によって、前側V字撹拌翼22、後側V字撹拌翼23および水平撹拌翼24が固定されている。
【0017】
掘削軸21における地盤掘削方向Aの先端部外周面にはスラリーの吐出口25が形成されている。プラント1の側から供給管8を介して供給されるスラリーは、中空の回転軸13の中空部および中空の掘削軸21の中空部に形成した供給経路(図示せず)を介して吐出口25に導かれ、ここから外部に噴射される。
【0018】
前側V字撹拌翼22は、図2(a)から分かるように、掘削軸21に直交する方向から見た場合に、当該掘削軸21の地盤掘削方向Aに向けて先細りとなり、当該掘削軸21の中心軸線21aを対称軸線とするV字形状をしている。これに対して、後側V字撹拌翼23は逆向き状態で掘削軸21に固定されている。すなわち、掘削軸21に直交する方向から見た場合に、当該掘削軸21を地盤から引き抜く引抜方向Bに向けて先細りとなり、当該掘削軸21の中心軸線21aを対称軸線とするV字形状をしている。
【0019】
また、後側V字撹拌翼23は、前側V字撹拌翼22に対して引抜方向Bの側に位置している。本例では、前側V字撹拌翼22の両端と後側V字撹拌翼23の両端が相互に連結されて、掘削軸21に直交する方向から見た場合に矩形形状をしている。
【0020】
これに対して、水平撹拌翼24は、掘削軸21における前側V字撹拌翼22と後側V字撹拌翼23の間に位置している。また、掘削軸21を中心として、その両側から当該掘削軸21に直交する方向に左右対称な状態に延びている。
【0021】
ここで、前側V字撹拌翼22における地盤掘削方向Aを向いている掘削側表面部分には、主として地盤掘削方向Aの側を向く状態で複数の掘削ビット(コニカルビット)26が溶接等によって固定されている。同様に、後側V字撹拌翼23における引抜方向Bの側を向いている引抜側表面部分にも、主として引抜方向Bを向く状態で複数の掘削ビット(コニカルビット)27が溶接等によって固定されている。
【0022】
なお、本例では、1つの前側V字撹拌翼22と1つの後側V字撹拌翼23を備えているが、掘削軸21における軸線方向の異なる位置に2つ、あるいはそれ以上の個数の前側V字撹拌翼22を配置することができる。同様に、掘削軸21における軸線方向の異なる位置に2つ、あるいはそれ以上の個数の後側V字撹拌翼23を配置することもできる。複数の前側V字撹拌翼22および複数の後側V字撹拌翼23を配置する場合には、例えば、掘削軸21における掘削方向Aの先端側の部位から引抜方向Bに向けて、前側V字撹拌翼22および後側V字撹拌翼23を交互に配置してもよい。さらに、複数の水平撹拌翼24を掘削軸21に配置することも可能である。例えば、隣接する前側V字撹拌翼22と後側V字撹拌翼23の間にそれぞれ水平撹拌翼24を配置すればよい。
【0023】
次に、図3を参照して、撹拌装置20を用いた地盤改良工事の施工手順の一例を説明する。まず、図3(a)に示すように、改良対象の地盤面Gにおける改良範囲31の位置出しを行う。次に、図3(b)に示すように汎用のバックホー11を用いて、改良範囲31の地盤表面を改良天端32まで先行掘削する。この後は、図3(c)に示すように、バックホー11のブームの先に回転駆動機構12、回転軸13および撹拌装置20を取り付け、スラリーを吐出しながら撹拌装置20により改良範囲31内の地盤部分を均質に撹拌混合する。改良範囲31内の地盤部分にスラリーを注入して撹拌混合した後は、図3(d)に示すように、バックホー11によって改良範囲31の地盤部分の天端レベル調整を行う。
【0024】
図4を参照して、図3(c)に示す地盤改良作業の一例を説明する。この図に示す地盤改良作業は柱状に地盤を改良する作業であり、図4(a)に示すように、改良範囲31内に設定した柱状部、例えば、矩形の改良範囲31内に設定した4つの柱状部41〜44のうちの一つの柱状部41に対して上側から撹拌装置20の掘削軸21の先端をセットし、低速回転で撹拌装置20を、改良範囲31の深さ方向の改良底面33まで掘進させる。改良底面33に到達した後は、撹拌装置20を高速回転(例えば、掘削時の回転速度の2倍の回転速度で回転)させながら改良天端32まで引き上げる。更に、高速回転のまま、撹拌装置20を改良天端32から改良底面33に掘進させて後に改良天端32の上方まで引き上げる。
【0025】
この後は、図4(b)に示すように、改良範囲31における対角方向の角の柱状部43の改良を同様の動作で行い、次に、図4(c)に示すように、隣接する角に位置する柱状部44の改良を行い、最後に図4(d)に示すように残りの角の柱状部42の改良を行う。この結果、図4(e)に示すように改良範囲31のほぼ全体が柱状に改良された状態が形成される。
【0026】
これに対して、図5に示す改良範囲31の全面改良作業においては、図4(a)〜図4(d)の場合と同様に、図5(a)〜図5(d)に示すように柱状に改良を行う。しかる後に、図5(e)に示すように、各柱状部41〜44の間の未改良部分が無くなるように、柱状部41〜44の間を改良する。これにより、図5(f)に示すように、改良範囲31の全体が改良された状態になる。
【0027】
先に述べたように、本例で使用している撹拌装置20は、逆向き状態で掘削軸21に取り付けた一対の前側V字撹拌翼22および後側V字撹拌翼23を備えている。したがって、地盤掘削時には、主として、前側V字撹拌翼22によって掘削土とスラリーが撹拌混合される。前側V字撹拌翼22の内側に入り込んだ掘削土はこの後側に配置されている水平撹拌翼24によって粉砕されてスラリーと撹拌混合される。
【0028】
撹拌装置20の引抜時には、前側V字撹拌翼22によって撹拌混合された掘削土およびスラリーが、主として、引抜方向Bの側に位置している後側V字撹拌翼23によって再度、撹拌混合される。この場合においても、後側V字撹拌翼23の内側に入り込んだ掘削土は水平撹拌翼24によって粉砕されてスラリーと撹拌混合される。
【0029】
このように、撹拌装置20は逆向きのV字撹拌翼22、23を備えているので、掘削時および引抜時の双方の行程ともに同様の撹拌混合性能が発揮される。また、V字撹拌翼22、23は水平撹拌翼に比べて撹拌混合性能が高い。したがって、従来の撹拌装置に比べて掘削土と地盤改良材の撹拌混合を確実かつ効率良く行うことができる。この結果、良好な改良地盤を得ることができる。
【0030】
また、前側V字撹拌翼22における地盤掘削方向を向いている掘削側表面部分には、複数の掘削ビット26が固定されていると共に、後側V字撹拌翼23における引抜方向を向いている引抜側表面部分にも複数の掘削ビット27が固定されている。したがって、掘削時に粉砕されなかった掘削土が引抜時に掘削ビット27によって確実に粉砕されるので、掘削土と地盤改良材を確実に撹拌混合することができる。
【0031】
一方、本例の改良施工機は、汎用のバックホー11を用いており、そのブームを鉛直方向および水平方向に移動させることができる。したがって、ここに取り付けた撹拌装置20を改良範囲31内において任意の方向に移動させながら掘削土とスラリーの撹拌混合動作を行うことができるので、図4に示す柱状改良作業と共に図5に示す全面改良作業を簡単に行うことができ、便利である。
【符号の説明】
【0032】
1 プラント
2 改良施工機
3 セメントサイロ
4 水槽
5 バッチャープラント
6 グラウトポンプ
7 発電機
8 供給管
11 バックホー
12 回転駆動機構
13 回転軸
20 地盤改良用撹拌装置
21 掘削軸
21a 中心軸線
22 前側V字撹拌翼
23 後側V字撹拌翼
24 水平撹拌翼
25 吐出口
26 掘削ビット
27 掘削ビット
31 改良範囲
32 改良天端
33 改良底面
41〜44 柱状部
A 掘削方向
B 引抜方向
G 地盤面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象となる地盤を掘削しながら地盤改良材を注入して掘削土と地盤改良材を撹拌混合する地盤改良用撹拌装置であって、
中空の掘削軸と、この掘削軸に取り付けた前側V字撹拌翼、後側V字撹拌翼、および水平撹拌翼とを有しており、
前記掘削軸における地盤掘削方向の先端部外周面には地盤改良材の吐出口が形成されており、
前記前側V字撹拌翼は、前記掘削軸に直交する方向から見た場合に、当該掘削軸の地盤掘削方向に向けて先細りとなり、当該掘削軸の中心軸線を対称軸線とするV字形状をしており、
前記後側V字撹拌翼は、前記掘削軸に直交する方向から見た場合に、当該掘削軸を地盤から引き抜く引抜方向に向けて先細りとなり、当該掘削軸の中心軸線を対称軸線とするV字形状をしており、
前記後側V字撹拌翼は、前記前側V字撹拌翼に対して前記引抜方向の側の位置に配置されており、
前記水平撹拌翼は、前記掘削軸における前記前側V字撹拌翼と前記後側V字撹拌翼の間の位置において、前記掘削軸の両側から当該掘削軸に直交する方向に延びていることを特徴とする地盤改良用撹拌装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記前側V字撹拌翼における前記地盤掘削方向を向いている掘削側表面部分には複数の掘削ビットが固定されており、
前記後側V字撹拌翼における前記引抜方向を向いている引抜側表面部分にも複数の掘削ビットが固定されていることを特徴とする地盤改良用撹拌装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記前側V字撹拌翼と前記後側V字撹拌翼は相互に連結されて、前記掘削軸に直交する方向から見た場合に矩形形状をしていることを特徴とする地盤改良用撹拌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−251398(P2012−251398A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126844(P2011−126844)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(509042482)株式会社平林工業 (3)
【Fターム(参考)】