地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法
【課題】 鉄道において、P波地震速報を導入した際に、S波警報のままだった場合に比して、危険率がどの程度低下するのかを、P波警報の導入による余裕時間、鉄道車両の諸元(ブレーキ性能及び走行特性)をパラメータとして求めるようにした地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法を提供する。
【解決手段】 地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、P波地震情報とS波到達の時間差に相当する余裕時間の長さと、鉄道車両の諸元との関係により、鉄道車両の危険度の評価を行う。
【解決手段】 地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、P波地震情報とS波到達の時間差に相当する余裕時間の長さと、鉄道車両の諸元との関係により、鉄道車両の危険度の評価を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法に係り、特に鉄道へのS波地震情報に対するP波地震情報又はS波地震情報の導入効果評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新幹線では、従来よりP波による地震情報により列車停止の制御が行われてきた。近年では、気象庁の緊急地震速報の一般配信が開始されたこともあり、鉄道に限らず、早期地震情報の活用方法が盛んに検討されている。
【0003】
P波を用いた地震情報(P波警報)に関する以下のような提案がなされている。
【0004】
(1)P波の波形から地震が被害を及ぼすほど大きなものか否かを判定し、警報を発する、所謂早期地震警報装置(下記特許文献1参照)
(2)LPG貯蔵設備が地震被害を受けてガス漏れが生じることがないように、昨年10月から運用が始まった緊急地震速報を用い、予めガス供給を停止する(下記特許文献2参照)
(3)緊急地震速報を利用して、半導体工場のラインを予め停止させ、工場の被害を最小限にとどめる(下記特許文献3参照)
(4)P波の波形から地震の大きさ(マグニチュード)を推定する機能を備えた地震計(下記特許文献4参照)
(5)地震計で観測されたP波から地震規模を推定し、推定された地震規模がしきい値以上の場合に、表示若しくは音声によって警報を発する地震防災システム(下記特許文献5参照)など
がそれぞれ提案されている。
【特許文献1】特開2001−147273号公報
【特許文献2】特開2005−349063号公報
【特許文献3】特開2007−108012号公報
【特許文献4】特開2007−298446号公報
【特許文献5】特許第3929058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来技術は、いずれもP波を用いた地震警報に関するものであり、P波警報を用いたことによって、地震の主要動であるS波を用いた地震情報(S波警報)に比して、危険率がどの程度低下したのかについて、定量的に示すものは、提案されていない。
【0006】
ところで、P波警報は、地震の主要動(S波)が到達する前に、鉄道や工場などの運転を停止させる措置を講じることができるため、従来のS波警報に比べて、安全措置を講じるための余裕時間が生まれる。
【0007】
そこで、鉄道において従来のS波警報に比べて、P波警報を導入したことによって生じる余裕時間を利用して、この間に措置を講じた場合に、S波警報によって措置を講じた場合との間で、危険率がどの程度低下するかを算出することができれば、P波警報の導入の効果を定量化することができ、P波警報を出力する地震計の設置位置の最適化の検討を行うことができる。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みて、鉄道において、P波地震速報を導入した際に、S波警報のみの場合に比して、危険率がどの程度低下するのかを、P波警報の導入による余裕時間、鉄道車両の諸元(ブレーキ性能及び走行特性)をパラメータとして求めるようにした地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、P波地震情報とS波到達の時間差に相当する余裕時間の長さと、鉄道車両の諸元との関係により、地震発生時に走行している、下記の式による鉄道車両の危険度の評価を行うことを特徴とする。
〔2〕上記〔1〕記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、前記鉄道車両の諸元が、この鉄道車両のブレーキ性能であることを特徴とする。
【0010】
〔3〕上記〔1〕記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、前記鉄道車両の諸元が、この鉄道車両の走行特性であることを特徴とする。
【0011】
〔4〕上記〔3〕記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、前記鉄道車両の走行特性が、この鉄道車両の初速度であることを特徴とする。
【0012】
〔5〕地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、ある基準速度で走行中の鉄道車両へ出力されるS波地震情報に対して下記の式による鉄道車両の危険度の評価を行うことを特徴とする。
〔6〕上記〔5〕記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、ある初速度で走行中の鉄道車両へ出力されるS波地震情報の速度の違いによる危険性の差異を定量化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、P波による地震情報を導入することにより、余裕時間を生み、その余裕時間に対する危険率低減(安全性向上)の定量的評価を行うことができる。
【0014】
また、これにより、P波地震情報導入の検討材料とすることができ、その情報を出力する地震検知点の設置位置の適正化のための検討材料とすることもできる。また、車両の諸元の一つであるブレーキ性能の違いによる地震時の危険性の評価も行うことができる。
【0015】
さらに、S波情報に基づいた鉄道に対する定量的評価を行うこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のS波地震情報に対するP波地震情報の鉄道への導入効果評価方法は、P波地震情報とS波到達の時間差に相当する余裕時間の長さと、鉄道車両の諸元との関係により、地震発生時に走行している、下記の式による鉄道車両の危険度の評価を行う。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
余裕時間の増加による危険率低減の評価について説明する。
【0019】
減速度特性から列車速度・制動時間・制動距離のそれぞれの関係を算出する。
【0020】
それぞれの算出には以下の非同次2階線形微分方程式を解く
d2 x/dt2 =−α・dx/dt−β
危険率を以下の式で定義する。
【0021】
危険率(P)
危険率(S)
なお、x:変位(m)→本発明の解析では制動距離に対応
t:時間(sec)→本発明の解析では制動時間に対応
dx/dt:速度(m/sec)→本発明の解析では列車速度に対応 d2 x/dt2 :加速度(m/sec2 )→本発明の解析ではブレー キによる減速度に対応
α:係数1→初期条件(車両種別等)により任意の値となる。
【0022】
β:係数2→初期条件(車両種別等)により任意の値となる。
【0023】
Rp:P波警報を用いた際の危険率
Rs:S波警報を用いた際の危険率
Dpv0 :初速度V0 km/hとした時のP波警報での制動距離(m)
まず、初速度や車両の違いによる危険率の変化を比較する。
【0024】
(1)700系の減速特性
図1は本発明にかかる減速度特性(700系)を示す図であり、横軸に速度(km/h)、縦軸に減速度(km/h/s)を示している。また、この図において、実線はEB(緊急ブレーキ)、点線はB7(常用ブレーキの7段階目)を表している。なお、700系の減速特性については、「伊藤順一,坂東重樹,上林賢次郎,上野雅之,JR東海,JR西日本700系新幹線電車(量産先行試作車)の概要,車両技術,pp.4−26,215,1998.2」に開示されている。
【0025】
図2は本発明にかかる危険率(PおよびS警報)の算出の概念を示す図であり、四角付き実線はP波警報による制動、丸付き実線はS波警報による制動をそれぞれ示している。また、横軸は時間T(sec)、縦軸は列車速度V(km/h)が表されており、V0 は初速度、Vstd は基準速度、TP はP波警報による制動開始時間、TS はS波警報による制動開始時間、Tm は余裕時間である。
【0026】
(2)700系のブレーキ特性
図3は本発明にかかる700系の制動時間−列車速度関係を示す図であり、横軸に制動時間T(sec)、縦軸に列車速度V(km/h)を示している。
【0027】
図4は本発明にかかる700系の制動時間−制動距離関係を示す図であり、横軸に制動時間T(sec)、縦軸に制動距離D(m)を示している。
【0028】
図5は本発明にかかる700系の列車速度−制動距離関係を示す図であり、横軸に列車速度V(km/h)、縦軸に制動距離D(m)を示している。
【0029】
図6及び図7は本発明にかかる基準速度と初速度が270km/hの場合の余裕時間に対する車両別の危険率(P)特性図であり、横軸に余裕時間Tm(sec)、縦軸に危険率Rpを示している。○付き曲線は500系車両、△付き曲線は700系車両、□付き曲線は800系車両の特性を示している。ただし、図6の縦軸はリニアスケール、図7の縦軸はログスケールとなっている。
【0030】
この図から明らかなように、800系車両が、一番危険率の低減の度合が大きく、500系と700系車両の危険率の低減の割合は800系車両に劣ることが分かり、鉄道車両により異なるブレーキ特性の違いを把握することができる。
【0031】
図8及び図9は本発明にかかる新幹線700系車両の基準速度を270kmとしたときの余裕時間に対する初速度別の危険率(P)特性図であり、横軸に余裕時間Tm (sec)、縦軸に危険率Rpを示している。□付き曲線は初速度270km/h、△付き曲線は初速度200km/h、○付き曲線は初速度100km/hの特性を示している。ただし、図8の縦軸はリニアスケール、図9の縦軸はログスケールとなっている。
【0032】
これらの図から明らかなように、初速270km/hにおいて、余裕時間0の場合危険率1であるのに対して、P波の場合、初速200km/hの場合は、危険率0.23、初速100km/hの場合は、危険率0.01である。
【0033】
ここで、S波地震情報に対するP波地震情報を用いた場合の危険率の算定例について述べる。
【0034】
まず、危険率(P)の計算例について述べる。
【0035】
条件をVstd =270km/h,V0 =200km/h,Tm=20secとした時
Dsvstd =4082.6m
Dpv0=(4082.6−3168.3)m=914.3m
よって、上記式Rpに従って
Rp=(914.3/4085.6)×(21.3/42.3)2 =0.057となる。
【0036】
図10(a)〔図5に対応〕、図10(b)〔図3に対応〕及び図10(c)〔図9に対応〕にそれぞれの値を示す。
【0037】
図11及び図12は本発明にかかる新幹線700系車両の基準速度を270km/hとしたとき基準速度と初速度の割合に対する危険率(S)特性図であり、横軸に基準速度に対する初速度の割合(V0 /V270 )、縦軸に危険率Rsを示している。ただし、図11の縦軸はリニアスケール、図12の縦軸はログスケールとなっている。
【0038】
ここで、S波地震情報に基づく危険率の算定例について述べる。
【0039】
条件をVstd =270km/h,V0 =200km/hとした時
V0 /Vstd =0.74
Dsvstd =4082.6m
Dsv0 =(4082.6−2199.0)/(96.5−33.5−
20.0)=21.3m/sec
Vsvstd =4082.6/96.5=42.3m/sec
Vsv0 =(4082.6−2199.0)/(96.5−33.5)
=29.9m/sec
よって、上記式Rsに従って
Rs=(1883.6/4085.6)×(29.9/42.3)2 =0.23 図13(a)〔図5に対応〕、図13(b)〔図3に対応〕及び図13(c)〔図11に対応〕にそれぞれの値を示す。
【0040】
P波地震情報を導入した際には、地震発生時にS波到達までの余裕時間を生むことができ、本発明によれば、この余裕時間の増加の有効性を定量的に評価することができる。これにより、P波地震情報導入の検討材料とすることができ、その情報を出力する地震検知点の設置位置の適正化のための検討材料とすることもできる。また、車両の諸元の一つであるブレーキ性能の違いによる地震時の危険性の評価も行うことができる。
【0041】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法は、早期地震警報システムの高度化に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明にかかる減速度特性(700系)を示す図である。
【図2】本発明にかかる危険率(PおよびS警報)の算出の概念を示す図である。
【図3】本発明にかかる700系の制動時間−列車速度関係を示す図である。
【図4】本発明にかかる700系の制動時間−制動距離関係を示す図である。
【図5】本発明にかかる700系の列車速度−制動距離関係を示す図である。
【図6】本発明にかかる基準速度と初速度が270km/hの場合の余裕時間に対する車両別の危険率(P)特性図である(縦軸の危険率がリニアスケール)。
【図7】本発明にかかる基準速度と初速度が270km/hの場合の余裕時間に対する車両別の危険率(P)特性図である(縦軸の危険率がログスケール)。
【図8】本発明にかかる新幹線700系車両の基準速度を270km/hとしたときの余裕時間に対する初速度別の危険率(P)特性図である(縦軸の危険率がリニアスケール)。
【図9】本発明にかかる新幹線700系車両の基準速度を270km/hとしたときの余裕時間に対する初速度別の危険率(P)特性図である(縦軸の危険率がログスケール)。
【図10】本発明にかかる700系の列車に関する地震警報情報に基づく危険率(P)の計算例を示す図である。
【図11】本発明にかかる新幹線700系車両の基準速度を270km/hとしたときの基準速度と初速度の割合に対する危険率(S)特性図である(縦軸の危険率がリニアスケール)。
【図12】本発明にかかる新幹線700系車両の基準速度を270km/hとしたときの基準速度と初速度の割合に対する危険率(S)特性図である(縦軸の危険率がログスケール)。
【図13】本発明にかかる700系の列車に関する地震警報情報に基づく危険率(S)の計算例を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法に係り、特に鉄道へのS波地震情報に対するP波地震情報又はS波地震情報の導入効果評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新幹線では、従来よりP波による地震情報により列車停止の制御が行われてきた。近年では、気象庁の緊急地震速報の一般配信が開始されたこともあり、鉄道に限らず、早期地震情報の活用方法が盛んに検討されている。
【0003】
P波を用いた地震情報(P波警報)に関する以下のような提案がなされている。
【0004】
(1)P波の波形から地震が被害を及ぼすほど大きなものか否かを判定し、警報を発する、所謂早期地震警報装置(下記特許文献1参照)
(2)LPG貯蔵設備が地震被害を受けてガス漏れが生じることがないように、昨年10月から運用が始まった緊急地震速報を用い、予めガス供給を停止する(下記特許文献2参照)
(3)緊急地震速報を利用して、半導体工場のラインを予め停止させ、工場の被害を最小限にとどめる(下記特許文献3参照)
(4)P波の波形から地震の大きさ(マグニチュード)を推定する機能を備えた地震計(下記特許文献4参照)
(5)地震計で観測されたP波から地震規模を推定し、推定された地震規模がしきい値以上の場合に、表示若しくは音声によって警報を発する地震防災システム(下記特許文献5参照)など
がそれぞれ提案されている。
【特許文献1】特開2001−147273号公報
【特許文献2】特開2005−349063号公報
【特許文献3】特開2007−108012号公報
【特許文献4】特開2007−298446号公報
【特許文献5】特許第3929058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来技術は、いずれもP波を用いた地震警報に関するものであり、P波警報を用いたことによって、地震の主要動であるS波を用いた地震情報(S波警報)に比して、危険率がどの程度低下したのかについて、定量的に示すものは、提案されていない。
【0006】
ところで、P波警報は、地震の主要動(S波)が到達する前に、鉄道や工場などの運転を停止させる措置を講じることができるため、従来のS波警報に比べて、安全措置を講じるための余裕時間が生まれる。
【0007】
そこで、鉄道において従来のS波警報に比べて、P波警報を導入したことによって生じる余裕時間を利用して、この間に措置を講じた場合に、S波警報によって措置を講じた場合との間で、危険率がどの程度低下するかを算出することができれば、P波警報の導入の効果を定量化することができ、P波警報を出力する地震計の設置位置の最適化の検討を行うことができる。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みて、鉄道において、P波地震速報を導入した際に、S波警報のみの場合に比して、危険率がどの程度低下するのかを、P波警報の導入による余裕時間、鉄道車両の諸元(ブレーキ性能及び走行特性)をパラメータとして求めるようにした地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、P波地震情報とS波到達の時間差に相当する余裕時間の長さと、鉄道車両の諸元との関係により、地震発生時に走行している、下記の式による鉄道車両の危険度の評価を行うことを特徴とする。
〔2〕上記〔1〕記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、前記鉄道車両の諸元が、この鉄道車両のブレーキ性能であることを特徴とする。
【0010】
〔3〕上記〔1〕記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、前記鉄道車両の諸元が、この鉄道車両の走行特性であることを特徴とする。
【0011】
〔4〕上記〔3〕記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、前記鉄道車両の走行特性が、この鉄道車両の初速度であることを特徴とする。
【0012】
〔5〕地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、ある基準速度で走行中の鉄道車両へ出力されるS波地震情報に対して下記の式による鉄道車両の危険度の評価を行うことを特徴とする。
〔6〕上記〔5〕記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、ある初速度で走行中の鉄道車両へ出力されるS波地震情報の速度の違いによる危険性の差異を定量化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、P波による地震情報を導入することにより、余裕時間を生み、その余裕時間に対する危険率低減(安全性向上)の定量的評価を行うことができる。
【0014】
また、これにより、P波地震情報導入の検討材料とすることができ、その情報を出力する地震検知点の設置位置の適正化のための検討材料とすることもできる。また、車両の諸元の一つであるブレーキ性能の違いによる地震時の危険性の評価も行うことができる。
【0015】
さらに、S波情報に基づいた鉄道に対する定量的評価を行うこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のS波地震情報に対するP波地震情報の鉄道への導入効果評価方法は、P波地震情報とS波到達の時間差に相当する余裕時間の長さと、鉄道車両の諸元との関係により、地震発生時に走行している、下記の式による鉄道車両の危険度の評価を行う。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
余裕時間の増加による危険率低減の評価について説明する。
【0019】
減速度特性から列車速度・制動時間・制動距離のそれぞれの関係を算出する。
【0020】
それぞれの算出には以下の非同次2階線形微分方程式を解く
d2 x/dt2 =−α・dx/dt−β
危険率を以下の式で定義する。
【0021】
危険率(P)
危険率(S)
なお、x:変位(m)→本発明の解析では制動距離に対応
t:時間(sec)→本発明の解析では制動時間に対応
dx/dt:速度(m/sec)→本発明の解析では列車速度に対応 d2 x/dt2 :加速度(m/sec2 )→本発明の解析ではブレー キによる減速度に対応
α:係数1→初期条件(車両種別等)により任意の値となる。
【0022】
β:係数2→初期条件(車両種別等)により任意の値となる。
【0023】
Rp:P波警報を用いた際の危険率
Rs:S波警報を用いた際の危険率
Dpv0 :初速度V0 km/hとした時のP波警報での制動距離(m)
まず、初速度や車両の違いによる危険率の変化を比較する。
【0024】
(1)700系の減速特性
図1は本発明にかかる減速度特性(700系)を示す図であり、横軸に速度(km/h)、縦軸に減速度(km/h/s)を示している。また、この図において、実線はEB(緊急ブレーキ)、点線はB7(常用ブレーキの7段階目)を表している。なお、700系の減速特性については、「伊藤順一,坂東重樹,上林賢次郎,上野雅之,JR東海,JR西日本700系新幹線電車(量産先行試作車)の概要,車両技術,pp.4−26,215,1998.2」に開示されている。
【0025】
図2は本発明にかかる危険率(PおよびS警報)の算出の概念を示す図であり、四角付き実線はP波警報による制動、丸付き実線はS波警報による制動をそれぞれ示している。また、横軸は時間T(sec)、縦軸は列車速度V(km/h)が表されており、V0 は初速度、Vstd は基準速度、TP はP波警報による制動開始時間、TS はS波警報による制動開始時間、Tm は余裕時間である。
【0026】
(2)700系のブレーキ特性
図3は本発明にかかる700系の制動時間−列車速度関係を示す図であり、横軸に制動時間T(sec)、縦軸に列車速度V(km/h)を示している。
【0027】
図4は本発明にかかる700系の制動時間−制動距離関係を示す図であり、横軸に制動時間T(sec)、縦軸に制動距離D(m)を示している。
【0028】
図5は本発明にかかる700系の列車速度−制動距離関係を示す図であり、横軸に列車速度V(km/h)、縦軸に制動距離D(m)を示している。
【0029】
図6及び図7は本発明にかかる基準速度と初速度が270km/hの場合の余裕時間に対する車両別の危険率(P)特性図であり、横軸に余裕時間Tm(sec)、縦軸に危険率Rpを示している。○付き曲線は500系車両、△付き曲線は700系車両、□付き曲線は800系車両の特性を示している。ただし、図6の縦軸はリニアスケール、図7の縦軸はログスケールとなっている。
【0030】
この図から明らかなように、800系車両が、一番危険率の低減の度合が大きく、500系と700系車両の危険率の低減の割合は800系車両に劣ることが分かり、鉄道車両により異なるブレーキ特性の違いを把握することができる。
【0031】
図8及び図9は本発明にかかる新幹線700系車両の基準速度を270kmとしたときの余裕時間に対する初速度別の危険率(P)特性図であり、横軸に余裕時間Tm (sec)、縦軸に危険率Rpを示している。□付き曲線は初速度270km/h、△付き曲線は初速度200km/h、○付き曲線は初速度100km/hの特性を示している。ただし、図8の縦軸はリニアスケール、図9の縦軸はログスケールとなっている。
【0032】
これらの図から明らかなように、初速270km/hにおいて、余裕時間0の場合危険率1であるのに対して、P波の場合、初速200km/hの場合は、危険率0.23、初速100km/hの場合は、危険率0.01である。
【0033】
ここで、S波地震情報に対するP波地震情報を用いた場合の危険率の算定例について述べる。
【0034】
まず、危険率(P)の計算例について述べる。
【0035】
条件をVstd =270km/h,V0 =200km/h,Tm=20secとした時
Dsvstd =4082.6m
Dpv0=(4082.6−3168.3)m=914.3m
よって、上記式Rpに従って
Rp=(914.3/4085.6)×(21.3/42.3)2 =0.057となる。
【0036】
図10(a)〔図5に対応〕、図10(b)〔図3に対応〕及び図10(c)〔図9に対応〕にそれぞれの値を示す。
【0037】
図11及び図12は本発明にかかる新幹線700系車両の基準速度を270km/hとしたとき基準速度と初速度の割合に対する危険率(S)特性図であり、横軸に基準速度に対する初速度の割合(V0 /V270 )、縦軸に危険率Rsを示している。ただし、図11の縦軸はリニアスケール、図12の縦軸はログスケールとなっている。
【0038】
ここで、S波地震情報に基づく危険率の算定例について述べる。
【0039】
条件をVstd =270km/h,V0 =200km/hとした時
V0 /Vstd =0.74
Dsvstd =4082.6m
Dsv0 =(4082.6−2199.0)/(96.5−33.5−
20.0)=21.3m/sec
Vsvstd =4082.6/96.5=42.3m/sec
Vsv0 =(4082.6−2199.0)/(96.5−33.5)
=29.9m/sec
よって、上記式Rsに従って
Rs=(1883.6/4085.6)×(29.9/42.3)2 =0.23 図13(a)〔図5に対応〕、図13(b)〔図3に対応〕及び図13(c)〔図11に対応〕にそれぞれの値を示す。
【0040】
P波地震情報を導入した際には、地震発生時にS波到達までの余裕時間を生むことができ、本発明によれば、この余裕時間の増加の有効性を定量的に評価することができる。これにより、P波地震情報導入の検討材料とすることができ、その情報を出力する地震検知点の設置位置の適正化のための検討材料とすることもできる。また、車両の諸元の一つであるブレーキ性能の違いによる地震時の危険性の評価も行うことができる。
【0041】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法は、早期地震警報システムの高度化に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明にかかる減速度特性(700系)を示す図である。
【図2】本発明にかかる危険率(PおよびS警報)の算出の概念を示す図である。
【図3】本発明にかかる700系の制動時間−列車速度関係を示す図である。
【図4】本発明にかかる700系の制動時間−制動距離関係を示す図である。
【図5】本発明にかかる700系の列車速度−制動距離関係を示す図である。
【図6】本発明にかかる基準速度と初速度が270km/hの場合の余裕時間に対する車両別の危険率(P)特性図である(縦軸の危険率がリニアスケール)。
【図7】本発明にかかる基準速度と初速度が270km/hの場合の余裕時間に対する車両別の危険率(P)特性図である(縦軸の危険率がログスケール)。
【図8】本発明にかかる新幹線700系車両の基準速度を270km/hとしたときの余裕時間に対する初速度別の危険率(P)特性図である(縦軸の危険率がリニアスケール)。
【図9】本発明にかかる新幹線700系車両の基準速度を270km/hとしたときの余裕時間に対する初速度別の危険率(P)特性図である(縦軸の危険率がログスケール)。
【図10】本発明にかかる700系の列車に関する地震警報情報に基づく危険率(P)の計算例を示す図である。
【図11】本発明にかかる新幹線700系車両の基準速度を270km/hとしたときの基準速度と初速度の割合に対する危険率(S)特性図である(縦軸の危険率がリニアスケール)。
【図12】本発明にかかる新幹線700系車両の基準速度を270km/hとしたときの基準速度と初速度の割合に対する危険率(S)特性図である(縦軸の危険率がログスケール)。
【図13】本発明にかかる700系の列車に関する地震警報情報に基づく危険率(S)の計算例を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
P波地震情報とS波到達の時間差に相当する余裕時間の長さと、鉄道車両の諸元との関係により、地震発生時に走行している、下記の式による鉄道車両の危険度の評価を行うことを特徴とする地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、前記鉄道車両の諸元が、該鉄道車両のブレーキ性能であることを特徴とする地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法。
【請求項3】
請求項1記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、前記鉄道車両の諸元が、該鉄道車両の走行特性であることを特徴とする地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法。
【請求項4】
請求項3記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、前記鉄道車両の走行特性が、該鉄道車両の初速度であることを特徴とする地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法。
【請求項5】
ある基準速度で走行中の鉄道車両へ出力されるS波地震情報に対して下記の式による鉄道車両の危険度の評価を行うことを特徴とする地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法。
【請求項6】
請求項5記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、ある初速度で走行中の鉄道車両へ出力されるS波地震情報の速度の違いによる危険性の差異を定量化することを特徴とする地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法。
【請求項1】
P波地震情報とS波到達の時間差に相当する余裕時間の長さと、鉄道車両の諸元との関係により、地震発生時に走行している、下記の式による鉄道車両の危険度の評価を行うことを特徴とする地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、前記鉄道車両の諸元が、該鉄道車両のブレーキ性能であることを特徴とする地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法。
【請求項3】
請求項1記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、前記鉄道車両の諸元が、該鉄道車両の走行特性であることを特徴とする地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法。
【請求項4】
請求項3記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、前記鉄道車両の走行特性が、該鉄道車両の初速度であることを特徴とする地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法。
【請求項5】
ある基準速度で走行中の鉄道車両へ出力されるS波地震情報に対して下記の式による鉄道車両の危険度の評価を行うことを特徴とする地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法。
【請求項6】
請求項5記載の地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法において、ある初速度で走行中の鉄道車両へ出力されるS波地震情報の速度の違いによる危険性の差異を定量化することを特徴とする地震警報情報の鉄道に対する定量的評価方法。
【図1】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−236497(P2009−236497A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79196(P2008−79196)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】
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