説明

坩堝カバー及び合金燃料製造装置

【課題】高蒸気圧性の放射性元素による装置内汚染を低減すると共に、当該元素の蒸発損失を抑制する合金燃料製造装置に用いられる坩堝カバーを提供する。
【解決手段】本発明の合金燃料製造装置は、超ウラン元素を含む合金原料を溶融する坩堝141の上部を覆い、高蒸気圧性元素の蒸発飛散を防止する坩堝カバー142であって、前記坩堝カバー142にはモールド挿通用の貫通孔143が設けられることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽水炉及び高速炉の使用済み燃料から発生する超ウラン(TRU)元素を含むTRU合金燃料を製造する合金燃料製造装置に用いられる坩堝カバー、及びそのような坩堝カバーが適用された合金燃料製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軽水炉及び高速炉の使用済み燃料から出される使用済燃料の中には、ネプツニウム237(237Np)、アメリシウム−241(241Am)、アメリシウム243(243Am)、
キュリウム−242(242Cm)やキュリウム−244(244Cm)等の超ウラン元素(Trans−Uranium:以下TRU元素という。)が含まれており、このTRU元素からプルトニウム(Pu)を除いたマイナーアクチノイド元素(以下、MA元素という。)の中には、237Npや241Am、243Amのように半減期が各々214万年、432年、
7380年と極めて長く、短期間にて消滅処理させることができない核種(マイナーアクチノイド核種)が存在する。
【0003】
現在、軽水炉の使用済み燃料は硝酸で溶解した後、リン酸トリブチル(TBP)を抽出剤として用いる溶媒抽出法によりUやPuを抽出分離して回収しているが、抽出後の溶解液中には、種々の核分裂生成物や先の超ウラン元素が残っており、この抽出残液は高レベル放射性廃液となる。このような高レベル放射性廃液については、硝酸回収工程や蒸発濃縮工程を経て、最終的にガラス固化体の形態に加工してから地層深部に貯蔵することによる処分が行われる。このような処分を行うのは、上記のようにTRU元素の半減期が極めて長く、処分を行う際に、超長期間にわたって環境への影響がないように配慮する必要があるからであり、これにより処理のためのコストは非常に大きなものとなってしまう。
【0004】
一方、TRU元素は高速炉燃料として有効利用できる可能性があり、上記のような高レベル放射性廃液からTRU元素を回収して燃料に混入して利用すれば処分負担が軽減できると共に、エネルギー資源の利用効率の向上を図ることも可能となる。TRU元素を新たに燃料として用いてリサイクルするためには、ウランを含む合金体、或いはこれにさらにプルトニウムを加えた合金体に、ネプツニウム、アメリシウム及びキュリウムを添加して数10cmの棒状に成型加工したスラグと呼ばれるものとする。このようなTRU元素が添加された燃料のことを、本明細書ではTRU合金燃料と称することとする。なお、TRU元素のリサイクルについては、例えば特許文献1(特開平9−43389号公報)に記載されている。
【特許文献1】特開平9−43389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、TRU元素の中でアメリシウムは高蒸気圧性を有しており、TRU合金燃料の製造工程の中で、合金化のための溶融工程において、この高蒸気圧性のアメリシウムが蒸発することに伴い、蒸発損失が発生してしまうという問題があった。また、上記のようなアメリシウムの製造時蒸発により、製造装置内が汚染され高線量化してしまう、という問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような問題点を解決するために、請求項1に係る発明は、超ウラン元素を含む合金原料を溶融する坩堝の上部を覆い、高蒸気圧性元素の蒸発飛散を防止する坩堝カバーであって、前記坩堝カバーにはモールド挿通用の貫通孔が設けられることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の坩堝カバーにおいて、前記坩堝カバー上面側における前記貫通孔の径は第1の径であり、前記坩堝カバー下面側における前記貫通孔の径は、前記第1の径より大きい第2の径あることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の坩堝カバーによって覆われた坩堝を有し、当該坩堝中の超ウラン元素を含む合金原料を溶融する溶融部と、前記溶融部を収容する内筒部材と、前記内筒部材の鉛直上方を略閉塞するように配される天板部材と、前記天板部材及び前記内筒部材を収容する外筒部材と、からなることを特徴とする合金燃料製造装置である。
【0009】
また、請求項4に係る発明は、請求項3に記載の合金燃料製造装置において、前記天板部材には冷媒の流路が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、モールド挿通用の貫通孔のみが穿設された高蒸気圧性元素の蒸発飛散を防止する坩堝カバーであり、当該貫通孔より蒸発飛散するアメリシウム量を微量に制限することが可能となるので、本発明に係る坩堝カバーによれば、アメリシウムの蒸発損失を抑制でき、装置内の汚染と高線量化を抑制することができるようになる。
【0011】
また、本発明に係る合金燃料製造装置によれば、TRU元素を含む合金燃料を溶融する溶融部は、内筒部材及び外筒部材からなる二重管構造に収容されると共に、内筒部材の鉛直上方には天板部材が配されており、合金燃料溶融工程において高蒸気圧性のアメリシウムは内筒部材の天板部材に集中的に付着するようになるので、装置の他箇所に付着してこれを汚染する可能性が非常に低くなると共に、天板部材に付着したアメリシウムを回収することにより、アメリシウムの蒸発損失を抑制でき、装置内の汚染と高線量化を抑制することができるようになる。
【0012】
また、本発明に係るTRU合金燃料の製造装置や、当該装置によるTRU合金燃料製造過程で使用したモールドや被覆管など、TRU合金燃料と接触しTRU元素が付着もしくは混在したことにより放射性廃棄物として処分しなければならない材料については、高温溶解して蒸気圧の高いアメリシウムを蒸発分離することで、廃棄物の減容や除染が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置における天板部材の概略を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置において区画分けされた各空間を説明する図である。
【図4】本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置の天板部材150(円盤部151)における冷媒流路を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態に係る坩堝カバーの諸態様を説明する図である。
【図6】本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置における溶融工程の様子を模式的に示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る坩堝カバー142において貫通孔143の第2の径r2が第1の径r1より大きい場合の効果を示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置における誘導コイル導入部の絶縁構造を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置による合金燃料製造工程を示す図である。
【図10】本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置による合金燃料製造工程を示す図である。
【図11】本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置による合金燃料製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置の概略を示す図である。図1において、100はTRU合金燃料製造装置、110は円筒状チャンバー、111は基台、112は外筒部材、113はコイル電力導入ポート、114は熱電対導入ポート、115は不活性ガス導入ポート、116は外筒空間排気ポート、117は内筒空間排気ポート、118は冷媒導入ポート、119は冷媒排出ポート、120は内筒部材、121は第1シール構造部、122は第2シール構造部、123は第3シール構造部、125は拡散板、130は蓋部材、140は台部、141は坩堝、142は坩堝カバー、143は貫通孔、145は誘導コイル、146は絶縁部材、150は天板部材、151は円盤部、152は円筒部、153は貫通孔、157は回収面、160は昇降装置、161はモールドをそれぞれ示している。
【0015】
本発明に係る合金燃料製造装置は、ウランやプルトニウムを主原料としMA元素を添加したTRU合金燃料を製造するための装置であり、この装置で製造された合金燃料は、高速炉で燃焼させることが想定されるものである。本発明に係る合金燃料製造装置100で用いる原料としては、軽水炉及び高速炉の使用済み燃料から発生するMA元素と、ウラン、プルトニウムである。これらの原料は合金燃料製造装置100内の溶融部で溶融された後、石英管などのモールド161に充填されて、スラグに成型加工される。合金燃料製造装置100内における溶融工程は不活性ガス雰囲気中で行う必要があるため、合金燃料製造装置100の溶融部は所定のチャンバー内に設けられている。
【0016】
TRU合金燃料製造装置100においては、円筒状チャンバー110と、この円筒状チャンバー110鉛直上方に配される蓋部材130によって装置内の気密が保たれるようになっている。円筒状チャンバー110は、装置底部を構成する基台111と、この基台111から立設される筒状の外筒部材112とから構成されており、この外筒部材112には各種のポートが設けられている。
【0017】
本発明に係る合金燃料製造装置100では、TRU合金原料を溶融するための溶融部は、外筒部材112内における、さらに内筒部材120などによって区画された空間内に設けられている。このように、本発明に係る合金燃料製造装置100は、外筒部材112及び内筒部材120からなる、言わば、二重管構造となっていることが特徴のひとつとなっている。このような二重管構造の内筒部材120内に溶融部を設けるメリットとしては、高蒸気圧性のアメリシウムを内筒部材120内の空間に留めておくことができ、装置の内筒部材120と外筒部材112との間の空間の汚染を無くすことができる。
【0018】
内筒部材120の鉛直上方には、内筒部材120上方の空間を略閉塞するように天板部材150が設けられている。この天板部材150は、その底部に高蒸気圧性のアメリシウムを付着させる目的で配されており、天板部材150内部には冷媒を流通させるための流路がその内部に設けられている。
【0019】
図2は本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置100における天板部材の概略を示す図である。天板部材150は、円盤部151とこの円盤部151
の周縁から立設する筒状の円筒部152とからなっている。円盤部151の底面は、アメリシウムを付着させて、これを回収するための領域(回収面157)として用いられる。また、円盤部151にはモールド(石英管)161を挿通させるための貫通孔153が設けられる。
【0020】
円筒状チャンバー110の基台111と内筒部材120との間は円周状の第1シール構造部121によって、また、内筒部材120と天板部材150(円盤部151)との間は円周状の第2シール構造部122によって、また、天板部材150(円筒部152)と蓋部材130との間は円周状の第3シール構造部123によって、気密が保たれるようになっているので、合金燃料製造装置100内の空間は図3に示すように区画分けされていることとなる。
【0021】
図3は本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置100において区画分けされた各空間を説明する図である。図3に示すように、本発明に係る合金燃料製造装置100では、内筒部材120と天板部材150の円盤部151と基台111とによって仕切られた空間R1、天板部材150と蓋部材130によって仕切られた空間R2、及び、外筒部材112と内筒部材120と基台111と蓋部材130とによって仕切られた空間R3、の3つの空間が形成されることとなる。このような空間のうち、TRU合金原料を溶融するための溶融部は、空間R1に設けられているので、溶融工程で蒸発する高蒸気圧性の放射性元素であるアメリシウムが汚染する空間は、ほぼこの空間R1に限定されることとなるので、従来の技術のように装置全体に汚染が拡大することがない。
【0022】
円筒状チャンバー110の外筒部材112には各種ポートが設けられているが、このうちのひとつがコイル電力導入ポート113であり、このコイル電力導入ポート113から溶融部を構成する誘導コイル145に電力が供給される。ステンレス製の内筒部材120と、誘導コイル145の導体との間は、図8に示すような絶縁部材146によって電気絶縁が保たれるようになっている。図8は本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置における誘導コイル導入部の絶縁構造を示す図であり、コイル電力導入ポート113から内筒部材120内に導入されるコイル導体を断面的にみた図である。
【0023】
基台111の底部には台部140が設けられており、この台部140上には黒鉛製の坩堝141が載置できるようになっている。誘導コイル145は、台部140上の坩堝141の周りを囲むような配置となっており、誘導コイル145に電力が供給されると、坩堝141が熱せられて、この坩堝141中に予め投入されている、MA元素と、ウラン、プルトニウムなどのTRU合金原料が溶解するようになっている。坩堝141上部には坩堝カバー142が設けられ、溶融したTRU合金原料が蒸発・飛散しないようにされている。ただ、この坩堝カバー142には、モールド(石英管)161を挿通させるための貫通孔143が設けられており、高蒸気圧性のアメリシウムは、この貫通孔143から装置内の空間R1へと拡散する可能性はある。
【0024】
ここで、本発明の坩堝カバー142についてより詳しく説明する。図5は本発明の実施形態に係る坩堝カバー142の諸態様を説明する図である。図5(A)乃至(D)のいずれも、上側の図は坩堝カバー142の上面図を、また下側の図は坩堝カバー142の断面図を示している。また、いずれの坩堝カバー142においても、貫通孔143は、坩堝カバー142上面側における径r1と、坩堝カバー142下面側における径r2とが異なっており、貫通孔内壁がテーパー面となるように構成されている。
【0025】
図5(A)に示す坩堝カバー142は、坩堝カバー142下面側における貫通孔143の径(第2の径r2)が、坩堝カバー142上面側における貫通孔143の径(第1の径r1)より大きく、かつ坩堝カバー142下面側において周縁部から貫通孔143にかけ
て下側に凸である凸形状が形成されているものである。また、図5(B)に示す坩堝カバー142は、坩堝カバー142下面側における貫通孔143の径(第2の径r2)が、坩堝カバー142上面側における貫通孔143の径(第1の径r1)より大きく、かつ坩堝カバー142下面側において周縁部から貫通孔143にかけては平坦面にて形成されているものである。また、図5(C)に示す坩堝カバー142は、坩堝カバー142上面側における貫通孔143の径(第1の径r1)が、坩堝カバー142下面側における貫通孔143の径(第2の径r2)より大きく、かつ坩堝カバー142下面側において周縁部から貫通孔143にかけて下側に凸である凸形状が形成されているものである。また、図5(D)に示す坩堝カバー142は、坩堝カバー142上面側における貫通孔143の径(第1の径r1)が、坩堝カバー142下面側における貫通孔143の径(第2の径r2)より大きく、かつ坩堝カバー142下面側において周縁部から貫通孔143にかけては平坦面にて形成されているものである。以上のような図5(A)乃至(D)の4つの態様の坩堝カバー142について、溶融原料の蒸発損失について調べたところ、坩堝カバー142下面側における貫通孔143の径(第2の径r2)が、坩堝カバー142上面側における貫通孔143の径(第1の径r1)より大きい、図5(A)及び図5(B)に示すものの蒸発損失が少ないことが分かった。また、図5(A)と図5(B)の坩堝カバー142とを比較すると、図5(A)のように坩堝カバー142下面側において周縁部から貫通孔143にかけて下側に凸である凸形状が形成されているものが好ましいことが分かった。
【0026】
なお、図5(A)及び図5(B)に限らず、図5(C)及び図5(D)の坩堝カバー142であっても、モールド(石英管)161挿通用の貫通孔143のみが穿設された高蒸気圧性元素の蒸発飛散を防止する坩堝カバー142であり、貫通孔143より蒸発飛散するアメリシウム量を微量に制限することが可能となるので、アメリシウムの蒸発損失を抑制でき、装置内の汚染を抑制することができるようになる。
【0027】
次に、本発明の実施形態に係る坩堝カバー142によって高蒸気圧性元素の蒸発飛散を防止するメカニズムについて説明する。図6は本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置における溶融工程の様子を模式的に示す図である。図6において、上側の図は坩堝周辺の構成図を示しており、下側の図は坩堝内の溶融合金の温度勾配を示している。本発明に係る合金燃料製造装置100においては、誘導コイル145による高周波加熱で坩堝141中のTRU合金原料を溶融するが、このような加熱方法では坩堝141で発生した熱が、坩堝141中の合金原料に熱伝導するので、溶融合金の温度勾配としては、図6に示すように坩堝141内壁面が高く、この内壁面から離れ中心に向かうほど低くなる傾向を有している。したがって、坩堝141中における溶融合金液面と坩堝カバー142下面との間の空間では、図6に示すような坩堝141内壁面から中心近辺に向かい、中心近辺で再び、溶融合金液面へと向かうような対流が発生することとなる。そして、このような対流のために、溶融合金から蒸発した高蒸気圧性元素が、当該空間から貫通孔143を抜けて、空間R1へと飛散する確率は極めて低いものと想定される。
【0028】
さらに、坩堝カバー142下面側における貫通孔143の径(第2の径r2)が、坩堝カバー142上面側における貫通孔143の径(第1の径r1)より大きい場合には、上記のような坩堝カバー142自体による高蒸気圧性元素飛散防止効果に加え、貫通孔143の内壁面が形成するテーパー面による高蒸気圧性元素飛散防止効果も期待することができる。図7は本発明の実施形態に係る坩堝カバー142において貫通孔143の第2の径r2が第1の径r1より大きい場合の効果を示す図である。図7に示すように、貫通孔143から空間R1へと飛散しようとする高蒸気圧性元素のうちの一部は、テーパー面によって、溶融合金液面と坩堝カバー142下面との間の空間に戻されるような対流となる。このため、貫通孔143の第2の径r2が第1の径r1より大きい場合には、貫通孔143より蒸発飛散するアメリシウム量をより微量に制限することが可能となり、アメリシウムの蒸発損失を抑制でき、装置内の汚染・高線量化を抑制することができるようになるの
である。
【0029】
再び、図1に戻る。円筒状チャンバー110の外筒部材112には、熱電対導入ポート114が設けられており、この熱電対導入ポート114から導入される熱電対リードによって装置内の所定箇所の温度をモニターすることができるようになっている。このようなポート114から導入される熱電対によって温度検知する箇所は任意であるが、温度検知すべき候補箇所としては、坩堝141や内筒部材120、天板部材150などを挙げることができる。
【0030】
また、円筒状チャンバー110の外筒部材112には、不活性ガス導入ポート115が設けられている。この不活性ガス導入ポート115からは、フレキシブルチューブを介して、内筒部材120内の空間R1及び空間R2にアルゴンなどの不活性ガスを導入することができるようになっている。合金燃料の溶融工程実施時には、この不活性ガス導入ポート115からアルゴンガスが導入されるようになっている。また、溶融した合金燃料をスラグに成型する際には、射出鋳造法が採用されるが、鋳造工程実施時においても、この不活性ガス導入ポート115からアルゴンガスが導入される。
【0031】
また、円筒状チャンバー110の外筒部材112には、外筒空間排気ポート116が設けられており、この外筒空間排気ポート116から不図示の真空ポンプによって、空間R3内を排気することができるようになっている。
【0032】
また、円筒状チャンバー110の外筒部材112には、内筒空間排気ポート117が設けられている。この内筒空間排気ポート117はフレキシブルチューブを介して、内筒部材120に接続されている。内筒空間排気ポート117には不図示の真空ポンプが接続されており、このポンプを用いて内筒空間排気ポート117から真空引きを行うことによって、空間R1及び空間R2内を排気することができるようになっている。
【0033】
また、円筒状チャンバー110の外筒部材112には、冷媒導入ポート118及び冷媒排出ポート119が設けられている。これらのポートはフレキシブルチューブを介して天板部材150と接続されており、冷媒導入ポート118から導入した冷媒によって天板部材150の温度を下げるようになっている。天板部材150内の冷媒流路を経た冷媒は、冷媒排出ポート119から排出される。なお、天板部材150の冷却のために用いる冷媒としては気体、液体のいずれも用いることが可能である。
【0034】
次に、冷媒導入ポート118から導入され、冷媒排出ポート119から排出される冷媒の流路について説明する。図4は本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置の天板部材150(円盤部151)における冷媒流路を説明する図である。天板部材150の円盤部151は中空状となっており、この中空状部は冷媒導入ポート118から導入さる冷媒の流路となっている。また、この中空状部内にはフィン部材156が立設するようにして設けられており、円盤部151の冷却効率を向上させるようになっている。図4に示す実施形態においては、2つのフィン部材156が設けられているが、このようなフィン部材156は天板部材150の冷却効率をより向上させるために、より多く設けることができるし、またフィン部材156の配置についても種々の態様をとることができる。天板部材150の中空状部を通り、円盤部151を冷却した冷媒は冷媒排出ポート119から排出される。
【0035】
上記のように冷媒によって冷却された天板部材150における円盤部151には、底面における回収面157で、溶融工程で蒸発したアメリシウムが効率よく捕捉されることとなる。溶融工程においては、誘導コイル145による高周波加熱でTRU合金原料を溶融するが、このとき、空間R1に蒸発拡散した微量の蒸発物質(アメリシウム)は容易に内
筒部材120の側壁に付着することなく、雰囲気ガスの対流により浮遊を続けるものと想定される。一方、内筒部材120上部に設けられた天板部材150は、上記のように冷媒による冷却で内筒部材120より温度が下げられており、浮遊蒸発物質が優先的に沈着する。
【0036】
合金燃料製造装置としては、わずかながらでも蒸発散逸する蒸発物質(アメリシウム)を効率的に回収することが、装置内汚染の防止上、或いは、作業者の被ばく管理、核燃料物質の計量管理のそれぞれの観点から必要であるが、本実施形態に係る合金燃料製造装置100によれば、天板部材150の回収面157で効率的に蒸発物質をすることが可能であるので、これらのニーズを満たすことができる。
【0037】
また、合金燃料製造装置において、通常の一重構造のチャンバーは、側面は作業者、マニプレータまたはその他の物質が接触するため、冷却が必要(空冷・水冷)であるが、1000℃以上の高温で合金製造した場合、チャンバー側面が室温程度であると蒸発物質の優先的な付着が広範囲にわたって生じる。そのため、本実施形態に係る合金燃料製造装置100のように、チャンバー内に側壁以外に低温部を設置することが重要となる。
【0038】
次に、以上のように構成される本実施形態に係る合金燃料製造装置100による合金燃料製造手順について説明する。図9乃至図11は本発明の実施形態に係る坩堝カバーが用いられる合金燃料製造装置による合金燃料製造工程を示す図である。
【0039】
まず、合金燃料製造装置100によって溶融工程を実施するにあたり、坩堝141にMA元素と、ウラン、プルトニウムなどのTRU合金原料を投入し、坩堝141に坩堝カバー142をかぶせ、蓋部材130をセットした後、外筒空間排気ポート116によって空間R3の排気を行うと共に、内筒空間排気ポート117によって空間R1及び空間R2の排気を行う。次いで、不活性ガス導入ポート115から空間R1及び空間R2にアルゴンガスが導入される。
【0040】
以上のような装置内の雰囲気調整が行われた後に溶融工程を実施する(図9)。この溶融工程では、誘導コイル145に電力を供給し、誘導コイル145による高周波加熱で坩堝141内のTRU合金原料を溶融する。
【0041】
上記溶融工程で坩堝141中のTRU合金原料を十分に溶融した後に、TRU合金をスラグに成型するために、射出鋳造工程が実施される。この射出鋳造工程においては、内筒空間排気ポート117によって空間R1及び空間R2内のアルゴンガスを排気する。これと同時に、外筒空間排気ポート116によって空間R3の排気も一応行う。そして、以上のように各排気ポートで合金燃料製造装置100内の空間を真空状態とした上で、昇降装置160でモールド161を下降させて、その一端が坩堝141中の溶融したTRU合金原料に浸かるようにする(図10)。次に、不活性ガス導入ポート115から空間R1及び空間R2にアルゴンガスが導入され、これら空間を加圧する。すると、坩堝141中の溶融TRU合金原料の液面に圧力が加えられて、図11に示すように溶融TRU合金がモールド161中に流入する。このようにTRU合金がモールド161中に射出された状態で自然もしくは強制冷却することによって、モールド161中にスラグ化されたTRU合金燃料を得ることができる。
【0042】
以上、説明した合金燃料製造装置によれば、TRU元素を含む合金燃料を溶融する溶融部は、内筒部材及び外筒部材からなる二重管構造に収容されると共に、内筒部材の鉛直上方には天板部材が配されており、合金燃料溶融工程において高蒸気圧性のアメリシウムは内筒部材の天板部材に集中的に付着するようになるので、装置の他箇所に付着してこれを汚染させ高線量化する可能性が非常に低くなると共に、天板部材に付着したアメリシウム
を回収することにより、アメリシウムの蒸発損失を抑制することができるようになる。
【0043】
また、本発明は、モールド挿通用の貫通孔のみが穿設された高蒸気圧性元素の蒸発飛散を防止する坩堝カバーであり、当該貫通孔より蒸発飛散するアメリシウム量を微量に制限することが可能となるので、本発明に係る坩堝カバーによれば、アメリシウムの蒸発損失を抑制でき、装置内の汚染を抑制することができるようになる。
【0044】
また、本発明に係るTRU合金燃料の製造装置や、当該装置によるTRU合金燃料製造過程で使用したモールドや被覆管など、TRU合金燃料と接触しTRU元素が付着もしくは混在したことにより放射性廃棄物として処分しなければならない材料については、高温溶解して蒸気圧の高いアメリシウムを蒸発分離することで、廃棄物の減容や除染が可能となる。
【符号の説明】
【0045】
100・・・TRU合金燃料製造装置
110・・・円筒状チャンバー
111・・・基台
112・・・外筒部材
113・・・コイル電力導入ポート
114・・・熱電対導入ポート
115・・・不活性ガス導入ポート
116・・・外筒空間排気ポート
117・・・内筒空間排気ポート
118・・・冷媒導入ポート
119・・・冷媒排出ポート
120・・・内筒部材
121・・・第1シール構造部
122・・・第2シール構造部
123・・・第3シール構造部
125・・・拡散板
130・・・蓋部材
140・・・台部
141・・・坩堝
142・・・坩堝カバー
143・・・貫通孔
145・・・誘導コイル
146・・・絶縁部材
150・・・天板部材
151・・・円盤部
152・・・円筒部
153・・・貫通孔
156・・・フィン部材
157・・・回収面
160・・・昇降装置
161・・・モールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超ウラン元素を含む合金原料を溶融する坩堝の上部を覆い、高蒸気圧性元素の蒸発飛散を防止する坩堝カバーであって、
前記坩堝カバーにはモールド挿通用の貫通孔が設けられることを特徴とする坩堝カバー。
【請求項2】
前記坩堝カバー上面側における前記貫通孔の径は第1の径であり、
前記坩堝カバー下面側における前記貫通孔の径は、前記第1の径より大きい第2の径あることを特徴とする請求項1に記載の坩堝カバー。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の坩堝カバーによって覆われた坩堝を有し、当該坩堝中の超ウラン元素を含む合金原料を溶融する溶融部と、
前記溶融部を収容する内筒部材と、
前記内筒部材の鉛直上方を略閉塞するように配される天板部材と、
前記天板部材及び前記内筒部材を収容する外筒部材と、からなることを特徴とする合金燃料製造装置。
【請求項4】
前記天板部材には冷媒の流路が形成されることを特徴とする請求項3に記載の合金燃料製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−149723(P2011−149723A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9099(P2010−9099)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、エネルギー対策特別会計委託事業、TRU燃焼のための合金燃料設計と製造の基盤技術開発(委託業務)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】