説明

垂直磁気記録媒体の製造方法、垂直磁気記録媒体、および磁気記録装置

【課題】スパイクノイズを抑制できる垂直磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】ディスク状基板の上に、磁化容易軸が半径方向に配向するように磁性膜を形成する工程を含む垂直磁気記録媒体の製造方法において、前記マグネトロンスパッタ工程を、前記基板に、中心部に第1の磁極を周辺部に第2の磁極を有する第1の磁石が形成する磁界を前記第1の側から印加し、さらに前記基板に、中心部に前記第1の磁極を周辺部に前記第2の磁極を有する第2の磁石が形成する磁界を第2の側から印加することにより実行し、前記マグネトロンスパッタ工程において前記第1および第2の磁石を、前記ディスク状基板の中心線に対して偏倚した位置に形成し、さらに前記マグネトロンスパッタ工程を、前記第1および第2の磁石を、前記中心線の周りで同時に周回させながら実行し、その際、前記中心線周りでの前記第1の磁石と第2の磁石の位相角のずれを−90°から+90°の範囲に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に磁気記録技術に係り、特に垂直磁気記録媒体の製造方法、かかる製造方法により製造された垂直磁気記録媒体、さらにかかる垂直磁気記録媒体を有する磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置などの磁気記録装置では、近年の磁気記録媒体の記録密度の急激な増大により、めざましい記録容量の増加が達成されている。
【0003】
従来の磁気記録装置では、記録媒体中に情報を、面内磁化を有する記録ビットの形で記録する、いわゆる面内記録型の磁気記録装置が主流であったが、かかる面内記録方式では、記録磁界や熱揺らぎにより記録ビットが消失しやすく、記録密度の向上は限界に達しつつある。そこで、記録媒体の面に垂直方向に磁気記録を行う、いわゆる垂直記録型の磁気記録装置について、研究開発がなされている。
【0004】
図1は、垂直記録型磁気記録装置の原理を説明する図である。
【0005】
図1を参照するに、垂直磁気記録装置は、基板11と、前記基板11上に形成された軟磁性裏打ち層12と、前記軟磁性裏打ち層12上に形成された垂直記録層13とよりなる垂直磁気記録媒体10を使い、前記垂直磁気記録媒体10中に、面積の小さい主磁極14Aと、前記主磁極よりも面積の大きい副磁極14Bを備えた磁気ヘッド14により、磁気記録を行う。
【0006】
すなわち前記主磁極14Aから出た磁束は前記垂直磁気記録媒体10を通過して副磁極14Bに戻るが、前記記録層13のうち、前記主磁極14A直下の領域13Aにおいては大きな磁束密度が生じ、磁気記録媒体10の面に対して垂直方向の磁化が、記録ビットとして形成される。
【特許文献1】特開2001−155321号公報
【特許文献2】特許第2947029号公報
【特許文献3】特許第3617400号公報
【特許文献4】米国特許6709773号公報
【非特許文献1】IEEE Trans. Mag.38(2002)1991
【非特許文献2】IEEE Trans. Mag.33(1997)2983
【非特許文献3】IEEE Trans. Mag.40(2004)2386
【非特許文献4】IEEE Trans. Mag.40(2004)2382
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、このような軟磁性裏打ち層12を備えた垂直磁気記録媒体では、読み取り時に記録ビット13A以外に起因する、いわゆるスパイクノイズが観測されることがある。このようなスパイクノイズは、軟磁性裏打ち層12中に形成された磁壁からの漏洩磁束に起因するもので、垂直磁気記録媒体におけるビット誤り率を抑制するには、軟磁性裏打ち層12中における磁区の制御が重要となる。
【0008】
かかる軟磁性裏打ち層の磁区制御については非特許文献1,2に、軟磁性裏打ち層に隣接して、反強磁性層あるいは強磁性層を設け、前記軟磁性裏打ち層の磁化方向を揃え、スパイクノイズを低減する技術が記載されている。
【0009】
また特許文献1および非特許文献3,4では、軟磁性層中に極薄の非磁性層を設けることにより、前記軟磁性層を上部層と下部層に分割し、これらの間に生じるRKKY(Reduerman-Kittel-Kasuya-Yoshida)交換相互作用を利用して、前記上部層および下部層の磁化方向を、反平行に制御する技術が記載されている。
【0010】
ところで、図1において前記軟磁性裏打ち層12を磁気ヘッド14の一部と考えると、前記軟磁性裏打ち層12の磁化容易軸は、ディスク状の磁気記録媒体の面内において半径方向に配向するのが、前記スパイクノイズを低減する観点から好ましい。
【0011】
軟磁性裏打ち層の磁化方向制御については、特許文献2〜4に提案がなされているが、特許文献2,3に記載の技術では、前記マグネトロンスパッタ法により硬磁性ピニング層、軟磁性裏打ち層および記録層を、基板近傍において半径方向に磁界を印加した状態で順次形成し、その際、特に前記硬磁性ピニング層に、磁化容易軸が半径方向に配列するような磁気異方性を付与している。このように硬磁性ピニング層に磁気異方性を付与することにより、前記特許文献2,3の技術では、その上に形成される軟磁性裏打ち層の磁化容易軸の方位をも面内半径方向に制御しようとしている。
【0012】
図2は、上記特許文献2,3で使われるマグネトロンスパッタ装置の主要部を示す。
【0013】
図2を参照するに、ディスク状の基板15およびターゲット16が、マグネトロンスパッタ装置を構成する真空処理容器(図示せず)中に、磁化印加装置17とマグネトロン18の間で、互いに対向するように、図示の例では、基板15が、磁界印加装置14の側に、またターゲット16がマグネトロン18の側に位置するように配置されている。
【0014】
前記磁界印加装置14は、純鉄よりなるディスク状ヨーク20と、前記ヨーク20上に保持された円柱上の希土類磁石22、さらに前記ヨーク20上に前記磁石22を囲むように配置されたリング状の希土類磁石24より構成されており、一方、前記マグネトロン18は、純鉄よりなるディスク状ヨーク30と、前記ヨーク30上に保持された円柱上の希土類磁石32、さらに前記ヨーク30上に前記磁石22を囲むように配置されたリング状の希土類磁石34より構成されている。
【0015】
前記磁石22,24および32,34は、前記被処理基板15に前記磁石22のS極が、また前記磁石24のN極が面するように配置され、また前記磁石32,24は、前記ターゲット16に磁石32のS極と磁石34のN極が面するように配置されており、磁石22のN極から出た磁束は、ヨーク20を通って磁石24のS極に吸い込まれ、また磁石24のN極から出た磁束は前記被処理基板15を通って磁石22のS極に吸い込まれる。同様に、磁石32のN極から出た磁束は、ヨーク30を通って磁石34のS極に吸い込まれ、また磁石34のN極から出た磁束は前記ターゲット16を通って磁石32のS極に吸い込まれる。
【0016】
このように、上記特許文献2,3の技術では、硬磁性ピニング層、軟磁性裏打ち層、および記録層をマグネトロンスパッタにより堆積する際に、前記磁石22,24および32,34の形成する磁界を印加することにより、被処理基板15上に形成される硬磁性層の磁化容易軸の方位を制御しようとするものであるが、上記磁気異方性を付与する磁石22,24,32,34は固定されており、このような構成では、上記の磁気回路以外に、例えば磁石24のN極から磁石32のS極に至る磁束、あるいは磁石34のN極から磁石22のS極に至る磁束よりなる磁気回路が形成され、さらにこれらの磁気回路相互間における磁束の干渉効果も生じ、実際に基板15に印加される磁束分布は非常に複雑なものになる。
【0017】
このため、上記従来の技術により基板上に形成される軟磁性裏打ち層において、磁化容易軸を所望の、半径方向に向いた面内分布に制御するのは、実際には困難である。
【0018】
また特許文献4では、上記特許文献2,3における磁界印加装置14を省略した構成が記載されているが、かかる構成では、基板15に印加される磁界は単純化されるものの、軟磁性層への異方性付与効果、すなわち磁化容易軸を揃える効果は薄いものと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
一の側面によれば本発明は、ディスク状基板の上に、磁化容易軸が半径方向に配向するように磁性膜を形成する工程を含む垂直磁気記録媒体の製造方法であって、前記マグネトロンスパッタ工程は、前記基板に、中心部に第1の磁極を周辺部に第2の磁極を有する第1の磁石が形成する磁界を前記第1の側から印加し、さらに前記基板に、中心部に前記第1の磁極を周辺部に前記第2の磁極を有する第2の磁石が形成する磁界を第2の側から印加することにより実行され、前記マグネトロンスパッタ工程において前記第1および第2の磁石は、前記ディスク状基板の中心線に対して偏倚した位置に形成され、さらに前記マグネトロンスパッタ工程は、前記第1および第2の磁石を、前記中心線の周りで同時に周回させながら実行され、その際、前記中心線周りでの前記第1の磁石と第2の磁石の位相角のずれを−90°から+90°の範囲に設定することを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、磁気記録媒体のディスク状基板の上にマグネトロンスパッタ工程により、磁化容易軸が半径方向に配向した磁性膜を形成することが可能となり、かかる磁性膜を軟磁性裏打ち層として使うことにより、垂直磁気記録媒体におけるスパイクノイズの発生を効果的に抑制することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[原理]
図3(A),(B)は、本発明の一実施形態による、被処理基板41上への磁性層のマグネトロンスパッタによる形成の様子を示す図である。ただし図3(A)は、本発明で使われるマグネトロンスパッタ装置を横方向から見た図を示し、図3(B)は、基板面に垂直方向から見た図を示す。ただし図3(A),(B)中、マグネトロンスパッタ装置の真空容器や基板保持機構、給電機構の図示は省略する。
【0022】
図3(A),(B)を参照するに、ディスク状の被処理基板41に対向して、第1の側に例えばFeCoB合金よりなるスパッタターゲット42Aが、離間して配設されており、また第2の側に、同様なスパッタターゲット42Bが、同様な距離だけ離間して配設されている。
【0023】
さらに、前記スパッタターゲット42Aおよび42Bのそれぞれ外側には、前記ディスク状被処理基板の中心線Cから同一の距離偏倚して、図3(C)に断面構成を示すマグネット43Aおよび43Bが配置されている。
【0024】
図3(C)に示すように、マグネット43Aは、中央のマグネット43A1とそれを囲むリング状のマグネット43A2よりなる円形形状を有し、前記ターゲット42Aに面した側において、中央のマグネット43A1のN極から出た磁束が外周部のリング状マグネット43A2のS極に還流するように配置されている。同様にマグネット43Bは、中央のマグネット43B1とそれを囲むリング状のマグネット43B2よりなる円形形状を有し、前記ターゲット42Bに面した側において、中央のマグネット43B1のN極から出た磁束が、外周部のリング状マグネット43B2のS極に還流するように配置されている。
【0025】
さらに本実施形態では、前記基板41上へのFeCoB膜のマグネトロンスパッタの際に、前記マグネット43Aおよび43Bは、前記中心線Cの周りで同期して回転される。
【0026】
その際、本実施形態では、図3(B)に示すように、前記マグネット43A,43Bを前記中心線Cの回りで同時に、同じ位相角θで回転させ、前記被処理基板41に与えられる磁界を均一化している。
【0027】
なお図示の例では、被処理基板41の外縁とマグネット43A,43Bが前記中心線Ccの回りで描く円の外縁43Cと一致しているように描かれているが、これは本発明にとって必須のことではなく、前記被処理基板41は、前記マグネット43A,43Bが描く円の外縁43Cよりも小さくても大きくてもかまわない。
【0028】
図4は、図3(A)〜(C)に示すように位相角θを0°とした場合に、被処理基板41にマグネット43A,43Bから図3(C)において矢印で示すように印加される漏洩磁界の面内成分をシミュレーションで求めた結果を示す。
【0029】
図4を参照するに、位相角θを0°とした場合、被処理基板41の面内方向に500Gの漏洩磁界を印加することが可能で、マグネット43A,43Bを前記被処理基板41の中心軸41C回りで回動させながら磁性膜のマグネトロンスパッタを実行することにより、図5に示すように、前記被処理基板41上に、磁化容易軸が半径方向に配列した磁性膜を形成することが可能となるのがわかる。
【0030】
これに対し、図6(A)は、図6(B)に示すように前記マグネット43Aと43Bの位相角θを180°とした場合に、被処理基板41に印加される漏洩磁界を、位相角以外は同じ条件でシミュレーションにより求めた結果を示す。
【0031】
図6(A)を参照するに、位相角θを180°とした場合には、面内方向での最大漏洩磁界は400Gに過ぎず、しかもディスク41外周部の一部の領域に限定されているのがわかる。そこで、このような条件下で磁性膜のマグネトロンスパッタを実行した場合、得られる磁性膜の磁化容易軸の配列は、図7に示すように、半径方向の配列以外に周方向、あるいは中間的な方向への配列も生じ、このような磁性膜を垂直磁気記録媒体の軟磁性裏打ち層として使った場合には、先に説明した磁壁からの漏洩磁束により、スパイクノイズが発生してしまう。

[第1の実施形態]
次に、本発明の第1の実施形態による垂直磁気記録媒体の製造工程を、図8(A)〜(C)を参照しながら説明する。なお以下の説明は、磁性膜の形成は基板の片側のみに行われている場合についてのものであるが、同様な工程で磁性膜を基板の両側に形成することも可能である。
【0032】
図8(A)を参照するに、Al合金や化学強化ガラスなどの非磁性材料上にNiPメッキ層(図示せず)を形成したディスク状の基板61が、先に図3(A)で説明したマグネトロンスパッタ装置中に被処理基板41として導入され、0.5PaのAr雰囲気中、投入電力を1kWに、またマグネット43A,43Bの位相角θを0°に設定してDCスパッタを実行し、前記基板61上に、例えばアモルファスFeCoB膜よりなり図5に示すような半径方向に配列した磁化容易軸を有する下部軟磁性裏打ち層62を、20〜24nmの膜厚に形成する。なお、前記非磁性基板61としては、結晶化ガラスや、表面に熱酸化膜が形成されたシリコン基板を使うことも可能である。また前記下部軟磁性裏打ち層62はFeCoB膜に限定されるものではなく、例えばCo基、Fe基、Ni基のいずれかに、Zr,Ta,C,Nb,SiおよびBのうちから選ばれる少なくとも一つの元素を添加したアモルファス相あるいは微結晶構造の合金層を使うことも可能である。
【0033】
次に図8(B)の工程において前記下部軟磁性裏打ち層62上にDCスパッタ法により、Ru膜よりなる非磁性層63を、圧力が0.5PaのAr雰囲気中、150Wの投入電力で、例えば0.7nmの膜厚に形成し、さらに前記非磁性層63上にアモルファスFeCoB膜を上部軟磁性裏打ち層64として、DCスパッタ法により、20〜24nmの膜厚に形成する。
【0034】
なお、前記非磁性層63としては、Rh膜、Ir膜、Cu膜、Cr膜、Re膜、Mo膜、Nb膜、W膜、Ta膜、C膜、あるいはこれらの少なくとも一つの元素を含む合金膜、あるいはMgO膜を使うことが可能である。また前記上部軟磁性裏打ち層64も、アモルファスFeCoB膜に限定されるものではなく、例えばCo基、Fe基、Ni基のいずれかに、Zr,Ta,C,Nb,SiおよびBのうちから選ばれる少なくとも一つの元素を添加したアモルファス相あるいは微結晶構造の合金層を使うことも可能である。
【0035】
このようにして形成された上部軟磁性裏打ち層64は、前記非磁性層63を介して下部軟磁性裏打ち層62と交換結合し、それぞれの磁化が反平行に配列した、安定な反強磁性結合状態を生じる。このような反磁性結合状態では、軟磁性裏打ち層62と64の間で磁束が還流し、外部への磁束の漏洩が低減され、先に図5で説明した軟磁性裏打ち層の磁化容易軸の配向制御効果と相まって、垂直磁気記録媒体のスパイクノイズをさらに低減することができる。また、このような交換結合に伴って、前記上部軟磁性層64の磁化容易軸は、前記上部軟磁性層64が図3のマグネトロンスパッタ装置以外の堆積装置により形成された場合であっても、前記下部軟磁性層62の磁化容易軸と共に、ディスク状基板61の半径方向に配向する。
【0036】
前記軟磁性裏打ち層62および64を合計した膜厚は、例えば飽和磁束密度Bsが1T以上の場合には、磁気ヘッドによる書き込み容易性や再生容易性の観点から、10nm以上、例えば30nm以上とするのが好ましい。一方、製造費用の観点からは前記合計膜厚は小さい方が好ましく、前記合計膜厚を100nm以下、例えば60nm以下とするのが好ましい。
【0037】
次に図8(C)の工程において、前記上部軟磁性層64上に圧力が8PaのAr雰囲気中、投入電力を250WとしたDCスパッタ法により、Ru膜よりなる非磁性下地層65が、約20nmの膜厚に形成される。ただし前記非磁性下地層65はRuの単層膜に限定されるものではなく、二層以上の多層構造膜により構成してもよい。この場合には、それぞれの層を、Co,Cr,Ge,Ni,MnのいずれかとRuの合金より構成するのが好ましい。
【0038】
また前記非磁性下地層65の結晶性向上と結晶粒径制御のために、前記非磁性下地層65の形成前に、前記上部軟磁性裏打ち層64上にシード層として、例えばTa,Ti,C,Mo,W,Re,Os,Hf,Mg,Ptのいずれか、あるいはこれらの合金よりなるアモルファス層を形成するのが好ましい。
【0039】
次に前記非磁性下地層65上にグラニュラー構造のCoCrPt−SiO2膜よりなる主記録層66を、圧力が約3PaのAr雰囲気中、350Wの投入電力でDCスパッタを行うことにより約10nmの膜厚で形成し、さらに前記主記録層66上に、CoCrPB層よりなる補助記録層67を、0.5PaのAr雰囲気中、400Wの投入電力でスパッタを行うことにより、約6nmの膜厚に形成する。前記主記録層66と補助記録層67は、垂直磁気記録媒体の記録層を構成する。
【0040】
このような条件で形成された主記録層66および補助記録層67では、それぞれの異方性磁界Hk1,Hk2と磁化反転パラメータα1,α2が、関係Hk1>Hk2およびα12を満たすが、これは、主記録層66の垂直磁気異方性が、補助記録層67のそれよりも大きい場合に対応しており、上記実施形態では、垂直磁気記録媒体の記録層が、垂直磁気異方性が大きい主記録層66と垂直磁気異方性がより小さい補助記録層67が積層された構造となる状況に対応する。
【0041】
主記録層66はこのように垂直磁気異方性が大きいため、単独では外部磁界による磁化の反転が生じにくく、磁気情報の書き込みが困難になる。しかし、上記のように垂直磁気異方性が小さく、外部磁界により磁化が容易に反転する補助記録層67を、前記主記録層66に接して設けることにより、層66,67間におけるスピン相互作用により、補助記録層67の磁化の反転に伴って主記録層66も磁化の反転を生じ、主記録層66への書き込みが容易に行われる。しかも、主記録層66における磁気異方性が大きいため、主記録層66では磁区間での磁化相互作用により、各磁区において磁化の向きが安定し、書き込まれた磁化情報の熱揺らぎに対する耐性が向上する。
【0042】
なお、熱揺らぎ耐性と書き込み容易性を両立させる場合には、このように記録層を主記録層と補助記録層の2層構造とするのが好ましいが、その必要が無い場合には、単層構造の記録層を使うことも可能である。更に、前記記録層を3層以上の積層構造とすることも可能である。
【0043】
図8(C)の工程では、このように補助記録層67を形成した後、C22ガスを反応ガスとするRFプラズマCVD法により、前記補助記録層67上にDLC(diamond-like carbon)膜68を、例えば4Paの圧力下、200℃の基板温度において、1000Wの高周波電極を供給し、さらに基板―シャワーヘッド間に200Vのバイアス電圧を印加することにより、例えば4nmの膜厚で形成する。
【0044】
なお本実施形態では、前記層63〜67の形成、すなわち下部軟磁性裏打ち層62の形成後の成膜工程をDCスパッタ法により行う場合を例として説明したが、層63〜66の形成はDCスパッタ法に限定されるものではなく、RFスパッタ法、パルスDCスパッタ法、CVD法などにより行うことも可能である。
【0045】
図9は、前記図8(A)の状態の下部軟磁性裏打ち層62について、基板方位角および基板中心からの距離で規定される様々な座標位置における磁化特性を、面内Kerr測定により求めた結果を示す。図9中、方位角は、任意に定めた基準方位から測った周方向の角度であり、Rは、基板中心から測った距離を示す。また図中、「Rad」とあるのは、外部磁界Hを半径方向に印加した場合の磁化特性であり、「Cir」となるのは外部磁界Hを周方向に印加した場合の磁化特性を示す。また磁化は縦軸に、Kerr回転角として示してある。
【0046】
図9を参照するに、前記図3(A)〜(C)の工程においてマグネット43A,43Bのなす位相角θを0°とした場合には、いずれの位置座標においても、外部磁界Hを半径方向に印加した場合には角形比SQが1に近い、直立したヒステリシス曲線が見られ、磁性膜はわずかな外部磁界で飽和するのがわかる。これは、磁化容易軸が基板上、半径方向に整列していることを示している。一方、外部磁界Hを周方向に印加した場合には、角形比SQが小さく、磁性膜の磁化は外部磁界Hと共に緩やかに増加するが、これは、磁化容易軸が周方向には向いていないことを示している。すなわち、図9の結果は、実際に下部軟磁性裏打ち層62中に、先に図5で示した磁化容易軸の配向が実現されていることを示している。
【0047】
これに対し、図10は、図6(A)の下部軟磁性裏打ち層62の形成を、図6(A),(B)の比較例に示すようにマグネット43A,43Bのなす位相角を180°に設定し実行した場合の、得られた下部軟磁性裏打ち層62の磁化特性を示す図である。図10においても、前記図9に対応したディスク状基板61上の様々な座標位置について、面内Kerr効果で求めた磁化曲線を示している。
【0048】
図10の場合には、周方向に外部磁界Hを印加した場合にも大きな角形比SQを有するヒステリシス曲線が得られる場合があり、図5で示したような基板面内で磁化容易軸が一様に半径方向に配向した磁性膜は得られず、むしろ図7で示したような、磁化容易軸が様々な方向に向いた磁性膜が得られていることがわかる。
【0049】
さらに図11は、前記図3(A)〜(C)の構成において、片側のマグネット43Aのみを設け、他方のマグネット43Bを省略した場合に得られる磁性膜の磁化曲線を示す。
【0050】
このような場合には、半径方向に外部磁化Hを印加した場合の周方向に外部磁化Hを印加した場合で、大きな差がなく、磁化容易軸の配向制御がなされていないことを示している。
【0051】
このように、図9の磁化曲線を示す磁性膜を軟磁性裏打ち層として使った場合には、スパイクノイズを効果的に抑制することができるのに対し、図10,11の磁化曲線を示す磁性膜を軟磁性裏打ち層として使った場合には、スパイクノイズの抑制は困難である。
【0052】
以上の実施形態では、図3(A)〜(C)のマグネトロンスパッタ装置において、マグネット43A,43Bの位相差θを0°および180°に設定した場合を検討したが、本発明の発明者は、さらに前記位相差θを90°および270°にふった場合についても、磁化曲線を求め、評価を行った。
【0053】
図12は、このように位相差θを変化させた場合の、観測される磁化曲線の角形比SQを示す。
【0054】
図12を参照するに、磁界を半径方向に印加した場合、位相角θが0〜90°および270〜360°(θ≦±90°)の場合には、磁化曲線は理想的なほぼ角形比1を示し、磁化容易軸が図5のように半径方向に配列するのに対し、前記位相角θの絶対値が90°を超えると、角形比は急激に劣化し、磁化容易軸の配列が半径方向から乱れるのがわかる。これに相反して、磁界を周方向に印加した場合の角形比SQは、位相角θが±90°以内であればほとんどゼロで、周方向に配向した磁化容易軸はほとんど無いのに対し、位相角θの絶対値が90°を超えると、角形比が増大し、周方向に配向した磁化容易軸の割合が増加するのがわかる。すなわち、前記位相角θが90°から270°の間では、先に図7で説明したような磁化容易軸の分布が生じているものと考えられる。
【0055】
図12より、図3(A)〜(C)のマグネトロンスパッタ装置においては、前記位相角θを±90°以内、より好ましくは±45°以内、最も好ましくは0°に設定するのが好ましいことがわかる。

[第2の実施形態]
図13は、前記第1の実施形態による垂直磁気記録媒体を磁気ディスク110として使った磁気記録装置105の構成を示す。
【0056】
図13を参照するに、磁気記録装置105ではスピンドルモータ106により磁気ディスク110が回転駆動され、さらに前記磁気ディスク110の表面を、略半径方向に、所定の浮上量で走査するアーム120が設けられ、前記アーム120の先端部に、磁気ヘッド80が担持される。
【0057】
かかる磁気記録装置105では、媒体のスパイクノイズが低減され、高いS/N比で信号の書き込み・読み出しが可能となる。
【0058】
以上、本発明を好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記の特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した要旨内において様々な変形・変更が可能である。
【0059】
(付記1) ディスク状基板の上に、磁化容易軸が半径方向に配向するように磁性膜を形成する工程を含む垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
前記マグネトロンスパッタ工程は、前記基板に、中心部に第1の磁極を周辺部に第2の磁極を有する第1の磁石が形成する磁界を前記第1の側から印加し、さらに前記基板に、中心部に前記第1の磁極を周辺部に前記第2の磁極を有する第2の磁石が形成する磁界を第2の側から印加することにより実行され、
前記マグネトロンスパッタ工程において前記第1および第2の磁石は、前記ディスク状基板の中心線に対して偏倚した位置に形成され、
さらに前記マグネトロンスパッタ工程は、前記第1および第2の磁石を、前記中心線の周りで同時に回動させながら実行され、その際、前記中心線周りでの前記第1の磁石と第2の磁石の位相角のずれを−90°から+90°の範囲に設定することを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0060】
(付記2) 前記位相角のずれを−45°から+45°の範囲に設定することを特徴とする付記1記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0061】
(付記3) 前記位相角のずれは、実質的に0°であることを特徴とする付記1記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0062】
(付記4) 前記マグネトロンスパッタ工程は、前記基板と前記第1の磁石の間にターゲットを配設して実行されることを特徴とする付記1〜3のうち、いずれか一項記載の垂直磁気記録媒体の製造方法
(付記5) 前記マグネトロンスパッタ工程では、前記ディスク状基板と前記第2の磁石の間に別のターゲットが配設されることを特徴とする付記4記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0063】
(付記6) さらに前記磁性層上に、記録層が形成されることを特徴とする付記1〜5のうち、いずれか一項記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0064】
(付記7) 付記1〜6のうち、いずれか一項記載の製造方法で製造された垂直磁気記録媒体。
【0065】
(付記8)
付記1〜6のうち、いずれか一項記載の製造方法で製造された垂直磁気記録媒体を有する磁気記録装置。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】垂直磁気記録の原理を示す図である。
【図2】従来の垂直磁気記録媒体の製造工程およびその問題点を説明する図である。
【図3】本発明で使われるマグネトロンスパッタ装置およびマグネトロンスパッタ工程の要部を示す図である。
【図4】本発明により被処理基板上に実現される磁界分布を示す図である。
【図5】本発明により被処理基板上に形成される磁性層における磁化容易軸の分布を示す図である。
【図6】本発明の比較例による磁界分布を示す図である。
【図7】本発明の比較例において被処理基板上に形成される磁化容易軸の分布を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態による垂直磁気記録媒体の製造工程を示す図である。
【図9】図8(A)の工程で得られた軟磁性裏打ち層の磁化特性極性を示す図である。
【図10】本発明の比較例による軟磁性裏打ち層の磁化特性曲線を示す図である。
【図11】本発明の別の比較例による軟磁性裏打ち層の磁化特性曲線を示す図である。
【図12】図3のマグネトロンスパッタ装置において許容される位相角の範囲を示す図である。
【図13】本発明の第2の実施形態による磁気記録装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
10 垂直記録媒体
11 基板
12 軟磁性裏打ち層
13 記録層
14 磁気ヘッド
14A 主磁極
14B 副磁極
15 被処理基板
16 ターゲット
17,18 磁化印加装置
20,30 ヨーク
22,24,32,34 磁石
41 被処理基板
42A,42B ターゲット
43A,43B、43A1,43A2,43B1,43B2 マグネット
61 基板
62 下部軟磁性裏打ち層
63 非磁性中間層
64 上部軟磁性裏打ち層
65 非磁性下地層
66 主記録層
67 補助記録層
68 保護膜
80 磁気ヘッド
105 磁気記録装置
106 モータ
110 磁気ディスク
120 アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク状基板の上に、磁化容易軸が半径方向に配向するように磁性膜を形成する工程を含む垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
前記マグネトロンスパッタ工程は、前記基板に、中心部に第1の磁極を周辺部に第2の磁極を有する第1の磁石が形成する磁界を前記第1の側から印加し、さらに前記基板に、中心部に前記第1の磁極を周辺部に前記第2の磁極を有する第2の磁石が形成する磁界を第2の側から印加することにより実行され、
前記マグネトロンスパッタ工程において前記第1および第2の磁石は、前記ディスク状基板の中心線に対して偏倚した位置に形成され、
さらに前記マグネトロンスパッタ工程は、前記第1および第2の磁石を、前記中心線の周りで同時に周回させながら実行され、その際、前記中心線周りでの前記第1の磁石と第2の磁石の位相角のずれを−90°から+90°の範囲に設定することを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記位相角のずれを−45°から+45°の範囲に設定することを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記位相角のずれは、実質的に0°であることを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうち、いずれか一項記載の製造方法で製造された垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項1〜3のうち、いずれか一項記載の製造方法で製造された垂直磁気記録媒体を有する磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−71383(P2008−71383A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247104(P2006−247104)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】