説明

垂直磁気記録媒体の製造方法

【課題】電気磁気変換特性を向上させ、よりいっそうの高記録密度化に対応可能な垂直磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】垂直磁気記録方式での情報記録に用いる垂直磁気記録媒体であって、基板上に、少なくとも軟磁性層と下地層と磁気記録層とを備える垂直磁気記録媒体の製造方法において、前記下地層は、スパッタリング成膜により形成され、成膜時のガス圧が低ガス圧にて成膜される低ガス圧成膜層と、成膜時のガス圧が高ガス圧にて成膜される高ガス圧成膜層からなる。そして、前記高ガス圧成膜層は、成膜レートを段階的に低下させた多層成膜により形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)等の磁気ディスク装置に搭載される垂直磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDD(ハードディスクドライブ)の面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径磁気ディスクにして、1枚当り250Gバイトを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような所要に応えるためには1平方インチ当り400Gビットを超える情報記録密度を実現することが求められる。HDD等に用いられる磁気ディスクにおいて高記録密度を達成するためには、情報信号の記録を担う磁気記録層を構成する磁性結晶粒子を微細化すると共に、その層厚を低減していく必要があった。ところが、従来より商業化されている面内磁気記録方式(長手磁気記録方式、水平磁気記録方式とも呼称される)の磁気ディスクの場合、磁性結晶粒子の微細化が進展した結果、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、熱揺らぎ現象が発生するようになり、磁気ディスクの高記録密度化への阻害要因となっていた。
【0003】
この阻害要因を解決するために、近年、垂直磁気記録方式用の磁気ディスクが提案されている。垂直磁気記録方式の場合では、面内磁気記録方式の場合とは異なり、磁気記録層の磁化容易軸は基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は面内記録方式に比べて、熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。例えば、特開2002−92865号公報(特許文献1)では、基板上に軟磁性層、下地層、Co系垂直磁気記録層、保護層等をこの順で形成してなる垂直磁気記録媒体に関する技術が開示されている。また、米国特許第6468670号明細書(特許文献2)には、粒子性の記録層に交換結合した人口格子膜連続層(交換結合層)を付着させた構造からなる垂直磁気記録媒体が開示されている。
【0004】
そして、現在では、垂直磁気記録媒体での更なる高記録密度化が求められている。
垂直磁気記録媒体は、大きく分けて、硬質磁性材料からなる磁気記録層、軟磁性材料からなる軟磁性(裏打ち)層、これら磁気記録層と軟磁性層の間に存在する非磁性材料からなる中間層等を構成要素として備えている。現状ではいずれの層も多層構造をとっている。
【0005】
このうち、中間層は、磁気記録層の下部に位置しており、磁気記録層の結晶配向性及びグラニュラー構造における分離性を制御する部分である。云わば、磁気記録層の土台とも言える非常に重要な部分である。したがって、これまでに構造、材料、成膜プロセス等において精力的に研究開発が進められた結果、中間層は、下方のシード層と上方の下地層に分かれ、さらに下地層は、同じ材料を使用しながら低ガス圧プロセスにて成膜される下部下地層と高ガス圧にて成膜される上部下地層との積層構造をとるようになった。特に、高ガス圧で成膜される上部下地層は、グラニュラー磁気記録層の直下に位置するため、磁気特性を制御する上で非常に重要な部分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−92865号公報
【特許文献2】米国特許第6468670号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、本発明者が研究を進めるうち、従来の低ガス圧プロセスにて成膜される下部下地層と高ガス圧にて成膜される上部下地層との単なる積層構造では、より高記録密度の磁気記録媒体向けには所望の電気磁気変換特性が得られないことが判明した。
本発明者の考察によれば、その理由としては、高ガス圧プロセスにて成膜される上部下地層はそれ自体グラニュラー構造をとるが、その粒及び磁界の均一性及び分離性が不十分であるために、それが直上の磁気記録層のグラニュラー構造にも影響し、結果的に記録再生時のS/N(シグナル/ノイズ)比の劣化を招いてしまうものと考えられる。
【0008】
本発明はこのような従来の事情に鑑み、電気磁気変換特性を向上させ、よりいっそうの高記録密度化に対応可能な垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者の検討によると、主に磁性層の結晶配向性に寄与する下部下地層は、成膜レートの変更による電気磁気変換特性の改善効果は比較的少ないのに対し、主に磁性層の分離性に寄与する上部下地層は、成膜レートの低下(遅くする)により電気磁気変換特性が向上することを見い出した。スパッタ成膜の場合、高レートで成膜すると、スパッタ粒子は熱エネルギーをもち、基板へ到達後、基板上でマイグレーションし、格子欠陥の少ない、エネルギー的に安定した結晶性の高い膜が形成される。一方、低レートで成膜すると、スパッタ粒子が基板へ到達後、その場に留まることで疎な膜が形成される。従って、分離性を担う上部下地層を通常のパワーより低いパワーで、つまり低レートで成膜することにより、スパッタ粒子同士がより分離され、その上に成長する磁性粒の分離は促進されることで、電気磁気変換特性に優れた下地層を形成するものと考えられる。ただし、電気磁気変換特性の向上のために上部下地層を低レートで成膜すると、その分成膜時間が延びるので製造タクト(一定時間内の生産数)を落とすことになり、商業生産には向かない。
【0010】
そこで、本発明者は鋭意検討した結果、低レートでの成膜であっても条件に応じて必要なチャンバー数を増やすことで、所望の膜厚を得ることができ、タクト時間を落とすことなく、下地層による電気磁気変換特性を向上させることができることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を有するものである。
【0011】
(構成1)
垂直磁気記録方式での情報記録に用いる垂直磁気記録媒体であって、基板上に、少なくとも軟磁性層と下地層と磁気記録層とを備える垂直磁気記録媒体の製造方法において、前記下地層は、スパッタリング成膜により形成され、成膜時のガス圧が1.0Pa未満の低ガス圧にて成膜される低ガス圧成膜層と、成膜時のガス圧が1.0Pa以上の高ガス圧にて成膜される高ガス圧成膜層からなり、前記高ガス圧成膜層は、成膜レートを段階的に低下させた多層成膜により形成することを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0012】
(構成2)
前記高ガス圧成膜層を複数のチャンバーを用いて成膜することを特徴とする構成1に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0013】
(構成3)
前記下地層の成膜を3つのチャンバーを使用して行い、まず1つ目のチャンバーにおいて、成膜時のガス圧を低ガス圧に設定して成膜を行い、次に2つ目のチャンバーにおいて、成膜時のガス圧を高ガス圧に設定して成膜を行い、次いで3つ目のチャンバーにおいて、成膜時のガス圧を高ガス圧に設定し、なお且つ2つ目のチャンバーにおける成膜レートよりも低い成膜レートで成膜を行うことを特徴とする構成1又は2に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0014】
(構成4)
前記高ガス圧成膜層のうちの最上層の成膜レートが、1.6nm/秒以下であることを特徴とする構成1乃至3のいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0015】
(構成5)
前記下地層は、Ru又はその合金を主成分とする材料からなることを特徴とする構成1乃至4のいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前記下地層は、スパッタリング成膜により形成され、成膜時のガス圧が低ガス圧にて成膜される低ガス圧成膜層と、成膜時のガス圧が高ガス圧にて成膜される高ガス圧成膜層からなり、前記高ガス圧成膜層は、成膜レートを段階的に低下させた多層成膜により形成することにより、磁気記録層の直下の下地層における垂直配向性及び微細化による結晶分離性を改善することで、磁気記録層の電気磁気変換特性をさらに改善でき、よりいっそうの高記録密度化に対応可能な垂直磁気記録媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例と比較例の垂直磁気記録媒体における電気磁気変換特性の比較結果を示す図である。
【図2】実施例と比較例の垂直磁気記録媒体における電気磁気変換特性の比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
本発明は、構成1にあるように、垂直磁気記録方式での情報記録に用いる垂直磁気記録媒体であって、基板上に、少なくとも軟磁性層と下地層と磁気記録層とを備える垂直磁気記録媒体の製造方法において、前記下地層は、スパッタリング成膜により形成され、成膜時のガス圧が低ガス圧にて成膜される低ガス圧成膜層と、成膜時のガス圧が高ガス圧にて成膜される高ガス圧成膜層からなり、前記高ガス圧成膜層は、成膜レートを段階的に低下させた多層成膜により形成することを特徴とするものである。
【0019】
本発明に係る上記垂直磁気記録媒体の層構成の一実施の形態としては、具体的には、基板に近い側から、例えば密着層、軟磁性層、シード層、下地層、磁気記録層(垂直磁気記録層)、保護層、潤滑層などを積層したものである。
【0020】
上記下地層は、垂直磁気記録層の結晶配向性(結晶配向を基板面に対して垂直方向に配向させる)、結晶粒径、及び粒界偏析を好適に制御するために用いられる。下地層の材料としては、面心立方(fcc)構造あるいは六方最密充填(hcp)構造を有する単体あるいは合金が好ましく、例えばRu、Pd,Pt,Tiやそれらを含む合金が挙げられるが、これらに限定はされない。本発明においては、特にRuまたはその合金が好ましく用いられる。Ruの場合、hcp結晶構造を備えるCoPt系垂直磁気記録層の結晶軸(c軸)を垂直方向に配向するよう制御する作用が高く好適である。なお、低ガス圧プロセスと高ガス圧プロセスによる積層構造の場合、同じ材料の組合わせはもちろん、異種材料を組合わせることもできる。
【0021】
本発明においては、下地層の成膜工程において、従来、たとえばスパッタリング法により、1つ目のチャンバーにおいて低ガス圧プロセス、2つ目のチャンバーにおいて高ガス圧プロセスによる成膜を行い2層の下地層を形成していたプロセスを、以下のプロセスに変更した。
【0022】
a.まず成膜時のガス圧を低ガス圧に設定して、低ガス圧成膜層を形成する。
b.次に、成膜時のガス圧を高ガス圧に設定して、高ガス圧成膜層を形成する。ただし、この高ガス圧成膜層は、複数のチャンバーを用いた多層成膜により形成することで、成膜レートを段階的に低下させた多層成膜により形成する。
【0023】
前述したように、本発明者の検討によると、高ガス圧成膜プロセスでの例えばRu層の成膜レートを遅くすると特性が大きく改善することが判明した。低ガス圧成膜プロセスでのRu層についても成膜レートを遅くすることで特性の改善が見られる。Ru層の成膜レートを遅くすることによる特性改善効果の大きいのは高ガス圧成膜プロセスである。ただし、高ガス圧成膜プロセスでの例えばRu層の成膜レートを単に遅くしただけでは、成膜時間が長くなってしまい、製造タクトが落ちる。通常、1つのチャンバーでの成膜時間は所定時間に決められている。このことから、高ガス圧成膜プロセスは、好ましくは複数のチャンバーを使用して行い、チャンバーごとに成膜レートを段階的に低下させた多層成膜を行う。
【0024】
つまり、本発明においては、下地層の材料が同じもしくは類似(金属単体とその合金など)のものを用いて、高ガス圧成膜プロセスを多層成膜プロセスとして、高ガス圧プロセスでの成膜レートを好適に下げることができる。言い換えれば、高ガス圧での例えばRu層の成膜時間を長くすることができ、特性改善を図れる。
【0025】
本発明における好ましい実施の形態の一つは、前記下地層の成膜を3つのチャンバーを使用して行い、まず1つ目のチャンバーにおいて、成膜時のガス圧を低ガス圧に設定して成膜を行い、次に2つ目、3つ目のチャンバーにおいて、成膜時のガス圧を高ガス圧に設定し、通常(現状)の成膜パワーより低いパワーに設定し、通常(現状)の成膜レートより低い成膜レートで成膜を行うことである。
【0026】
なお、高ガス圧成膜層の成膜レートは、タクト時間の設定によっても異なるが、例えば1.6nm/秒以下であることが電気磁気変換特性の向上効果が大きくなり好ましい。たとえば、タクト時間を1200pphに保ち、高ガス圧成膜層を2層の合計で10nm程度成膜する場合、1.6nm/秒以下の成膜レートで成膜することが好適である。
【0027】
本発明は、従来の高ガス圧での上部下地層の成膜プロセスを上述のように最適化することで、特に磁気記録層の直下の上部下地層のグラニュラー構造の均一性及び分離性を改善することができ、その結果、磁気記録層の電気磁気変換特性をさらに改善することができる。
【0028】
なお、本発明においては、上記下地層の成膜における、低ガス圧は、例えば1.0Pa未満に設定し、高ガス圧は例えば1.0Pa以上に設定することが好適である。
【0029】
また、下地層の膜厚は、特に制約される必要はないが、垂直磁気記録層の構造制御を行うのに必要最小限の膜厚とすることが望ましく、例えば下地層全体で5〜50nm程度の範囲とすることが適当である。
【0030】
基板上には、垂直磁気記録層の磁気回路を好適に調整するための軟磁性層を設けることが好適である。かかる軟磁性層は、第一軟磁性層と第二軟磁性層の間に非磁性のスペーサ層を介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchangecoupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することが好適である。これにより第一軟磁性層と第二軟磁性層の磁化方向を高い精度で反並行に整列させることができ、軟磁性層から生じるノイズを低減することができる。具体的には、第一軟磁性層、第二軟磁性層の組成としては、例えばCoTaZr(コバルト−タンタル−ジルコニウム)またはCoFeTaZr(コバルト−鉄−タンタル−ジルコニウム)またはCoFeTaZrAlCr(コバルト−鉄−タンタル−ジルコニウム−アルミニウム−クロム)またはCoFeNiTaZr(コバルト−鉄−ニッケル−タンタル−ジルコニウム)とすることができる。上記スペーサ層の組成は例えばRu(ルテニウム)とすることができる。
軟磁性層の膜厚は、構造及び磁気ヘッドの構造や特性によっても異なるが、全体で15nm〜100nmであることが望ましい。なお、上下各層の膜厚については、記録再生の最適化のために多少差をつけることもあるが、概ね同じ膜厚とするのが望ましい。
【0031】
また、基板と軟磁性層との間には、密着層を形成することも好ましい。密着層を形成することにより、基板と軟磁性層との間の付着性を向上させることができるので、軟磁性層の剥離を防止することができる。密着層の材料としては、例えばTi含有材料を用いることができる。
【0032】
また、シード層は、下地層の配向ならびに結晶性を制御するために用いられる。全層を連続成膜する場合には特に必要のない場合もあるが、軟磁性層と下地層の相性如何によっては結晶成長性が劣化することがあるため、シード層を用いることにより、下地層の結晶成長性の劣化を防止することができる。シード層の膜厚は、下地層の結晶成長の制御を行うのに必要最小限の膜厚とすることが望ましい。厚すぎる場合には、信号の書き込み能力を低下させてしまう原因となる。
【0033】
また、上記基板用ガラスとしては、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、ソーダタイムガラス等が挙げられるが、中でもアルミノシリケートガラスが好適である。また、アモルファスガラス、結晶化ガラスを用いることができる。なお、化学強化したガラスを用いると、剛性が高く好ましい。本発明において、基板主表面の表面粗さはRmaxで10nm以下、Raで0.3nm以下であることが好ましい。
【0034】
また、上記垂直磁気記録層は、コバルト(Co)を主体とする結晶粒子と、Si,Ti,Cr,Co、またはこれらSi,Ti,Cr,Coの酸化物を主体とする粒界部を有するグラニュラー構造の強磁性層を含むことが好適である。
具体的に上記強磁性層を構成するCo系磁性材料としては、非磁性物質である酸化ケイ素(SiO)又は酸化チタン(TiO)の少なくとも一方を含有するCoCrPt(コバルト−クロム−白金)からなる硬磁性体のターゲットを用いて、hcp結晶構造を成型する材料が望ましい。また、この強磁性層の膜厚は、例えば20nm以下であることが好ましい。
【0035】
また、補助記録層を、交換結合制御層を介して垂直磁気記録層の上部に設けることによって、磁気記録層の高密度記録性と低ノイズ性に加えて高熱耐性を付け加えることができる。補助記録層の組成は、例えばCoCrPtBとすることができる。
【0036】
また、前記垂直磁気記録層と前記補助記録層との間に、交換結合制御層を有することが好適である。交換結合制御層を設けることにより、前記垂直磁気記録層と前記補助記録層との間の交換結合の強さを好適に制御して記録再生特性を最適化することができる。交換結合制御層としては、例えば、Ruなどが好適に用いられる。
【0037】
上記強磁性層を含む垂直磁気記録層の形成方法としては、スパッタリング法で成膜することが好ましい。特にDCマグネトロンスパッタリング法で形成すると均一な成膜が可能となるので好ましい。
【0038】
また、前記垂直磁気記録層の上に、保護層を設けることが好適である。保護層を設けることにより、磁気記録媒体上を浮上飛行する磁気ヘッドから磁気ディスク表面を保護することができる。保護層の材料としては、たとえば炭素系保護層が好適である。また、保護層の膜厚は3〜7nm程度が好適である。
【0039】
また、前記保護層上に、更に潤滑層を設けることも好ましい。潤滑層を設けることにより、磁気ヘッドと磁気ディスク間の磨耗を抑止でき、磁気ディスクの耐久性を向上させることができる。潤滑層の材料としては、たとえばPFPE(パーフルオロポリエーテル)系化合物が好ましい。潤滑層は、例えばディップコート法で形成することができる。
【実施例】
【0040】
以下実施例、比較例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円盤状に成型し、ガラスディスクを作成した。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性ガラス基板を得た。ディスク直径は65mmである。このガラス基板の主表面の表面粗さをAFM(原子間力顕微鏡)で測定したところ、Rmaxが2.18nm、Raが0.18nmという平滑な表面形状であった。なお、Rmax及びRaは、日本工業規格(JIS)に従う。
【0041】
次に、枚葉式静止対向スパッタ装置を用いて、上記ガラス基板上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて、順次、密着層、軟磁性層、シード層、下地層、垂直磁気記録層、交換結合制御層、補助記録層、保護層の各成膜を行った。
【0042】
以下の各材料の記述における数値は組成を示すものとする。
まず、密着層として、10nmのCr-50Ti層を成膜した。
次に、軟磁性層として、非磁性層を挟んで反強磁性交換結合する2層の軟磁性層の積層膜を成膜した。すなわち、最初に1層目の軟磁性層として、25nmの (30Fe-70Co)-3Ta5Zr層を成膜し、次に非磁性層として、0.7nmのRu層を成膜し、さらに2層目の軟磁性層として、1層目の軟磁性層と同じ、(30Fe-70Co)-3Ta5Zr層を25nm成膜した。
【0043】
次に、上記軟磁性層上に、シード層として、5nmのNi-7W層を成膜した。
【0044】
次に,下地層を成膜した。すなわち、Ruターゲットの取り付けられた1つ目のチャンバーにおいて、Arガス圧を0.7Paに調整し、パワーを通常の所定値に設定し、Ruを12nm成膜した。次の同じくRuターゲットの取り付けられた2つ目のチャンバーにおいて、Arガス圧を4.5Paに調整し、パワーを通常の所定値よりも低い値に設定して、Ruを1.6nm/秒の成膜レートで6nm成膜した。次に、同じくRuターゲットの取り付けられた3つ目のチャンバーにおいて、Arガス圧を4.5Paに調整し、パワーを通常の所定値よりも低い値に設定して、Ruを1.6nm/秒の成膜レートで6nm成膜した。なお、下地層の成膜は、タクト時間を1200pphに保った。
こうして、12nm厚の低ガス圧成膜層と、成膜レートを変更して成膜した2層の合計12nm厚の高ガス圧成膜層からなる下地層を形成した。
【0045】
次に、下地層の上に、磁気記録層を成膜した。まず、垂直磁気記録層として、10nmの90(Co-10Cr-16Pt)-5SiO2-5TiO2を成膜した。次に、交換結合制御層として、0.3nmのRu層を成膜し、更にその上に補助記録層として、7nmのCo-15Cr-15Pt-5Bを成膜した。
【0046】
そして次に、上記磁気記録層の上に、水素化ダイヤモンドライクカーボンからなる炭素系保護層を形成した。炭素系保護層の膜厚は5nmとした。
そして、スパッタ装置から取り出し、この後、PFPE(パーフロロポリエーテル)からなる潤滑層をディップコート法により形成した。潤滑層の膜厚は1nmとした。
以上の製造工程により、実施例1の垂直磁気記録媒体が得られた。
【0047】
(比較例)
下地層の成膜工程において、1つ目のチャンバーにおいて、Arガス圧を0.7Paに設定し、パワーを通常の所定値に設定して、Ruを12nm成膜し、次の2つ目のチャンバーにおいては、Arガス圧を4.5Paに調整し、パワーを通常の所定値に設定して、Ruを3.0nm/秒程度の成膜レートで12nm成膜した。
この下地層の成膜工程以外は、実施例1と同様にして、比較例の垂直磁気記録媒体を得た。
【0048】
(評価)
上記実施例、比較例の垂直磁気記録媒体を用いて、以下の評価を行った。
すなわち、上記実施例1、比較例の各垂直磁気記録媒体に対し、磁気特性、記録再生特性の評価を行った。静磁気特性の評価は、Kerr効果測定器を用いて、保磁力(Hc)、逆磁区核形成磁界(−Hn)、および飽和磁界(Hs)を測定した。また、記録再生特性の評価は、R/Wアナライザーと垂直磁気記録方式用の磁気ヘッドを用いて、S/N比(シグナル/ノイズ比)と、スカッシュ(Squash)を測定した。なお、スカッシュとは、隣接トラックからの影響による信号の減少率の評価指標となる値であり、具体的には、書き込んだ信号の両サイド、トラック幅の80%程度の位置に周波数を5%程度ずらした信号を書き込み、その後、最初に書き込んだ信号の出力を測定し、その変化量の割合で算出する。また、SPT/TMRヘッドを備えたスピンスタンドテスターを用いて、線記録密度1500kFCI(Kilo Flux Change per inch)にて、MWW(トラック幅)を測定した。
【0049】
得られた結果を纏めて下記表1、及び図1〜図2に示した。なお、図1はMWW(トラック幅)とS/N比との関係、図2はスカッシュとS/N比との関係との関係をそれぞれ示している。
【0050】
【表1】

【0051】
表1及び図1〜図2の結果から、実施例1の垂直磁気記録媒体は、比較例に比べて良好な静磁気特性とともに良好な記録再生特性を備えており、電気磁気変換特性の向上により、よりいっそうの高記録密度化に対応可能な所望の特性が得られることが確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気記録方式での情報記録に用いる垂直磁気記録媒体であって、
基板上に、少なくとも軟磁性層と下地層と磁気記録層とを備える垂直磁気記録媒体の製造方法において、
前記下地層は、スパッタリング成膜により形成され、成膜時のガス圧が1.0Pa未満の低ガス圧にて成膜される低ガス圧成膜層と、成膜時のガス圧が1.0Pa以上の高ガス圧にて成膜される高ガス圧成膜層からなり、前記高ガス圧成膜層は、成膜レートを段階的に低下させた多層成膜により形成することを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記高ガス圧成膜層を複数のチャンバーを用いて成膜することを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記下地層の成膜を3つのチャンバーを使用して行い、まず1つ目のチャンバーにおいて、成膜時のガス圧を低ガス圧に設定して成膜を行い、次に2つ目のチャンバーにおいて、成膜時のガス圧を高ガス圧に設定して成膜を行い、次いで3つ目のチャンバーにおいて、成膜時のガス圧を高ガス圧に設定し、なお且つ2つ目のチャンバーにおける成膜レートよりも低い成膜レートで成膜を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記高ガス圧成膜層の成膜レートが、1.6nm/秒以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記下地層は、Ru又はその合金を主成分とする材料からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−9089(P2012−9089A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141844(P2010−141844)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(510210911)ダブリュディ・メディア・シンガポール・プライベートリミテッド (53)
【Fターム(参考)】