説明

垂直磁気記録媒体

【課題】 高い保磁力Hcを確保しつつSNRを更に向上し、更なる高記録密度化を達成することが可能な垂直磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】 本発明にかかる垂直磁気記録媒体100の構成は、基体110上に少なくとも、柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の第1磁気記録層122aと、第1磁気記録層の上に設けられ、Ruを含む非磁性の介在層122bと、介在層の上に設けられ、柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の第2磁気記録層122cと、を備え、第1磁気記録層および第2磁気記録層は、粒界部を形成する酸化物を含み、第1磁気記録層に含まれる酸化物の量をA、第2磁気記録層に含まれる酸化物の量をBとすると、酸化物の含有量の関係A/Bは、0.5<A/B<1.0の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径の磁気記録媒体にして、1枚あたり200GBを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには1平方インチあたり400GBを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
HDD等に用いられる磁気記録媒体において高記録密度を達成するために、近年、垂直磁気記録方式が提案されている。垂直磁気記録方式に用いられる垂直磁気記録媒体は、磁気記録層の磁化容易軸が基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は従来の面内記録方式に比べて、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、いわゆる熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。
【0004】
垂直磁気記録方式に用いる磁気記録媒体としては、高い熱安定性と良好な記録特性を示すことから、CoCrPt−SiO垂直磁気記録媒体(非特許文献1参照)が提案されている。これは磁気記録層において、Coのhcp構造(六方最密結晶格子)の結晶が柱状に連続して成長した磁性粒子の間に、SiOが偏析した非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造を構成し、磁性粒子の微細化と保磁力Hcの向上をあわせて図るものである。非磁性の粒界(磁性粒子間の非磁性部分)には酸化物を用いることが知られており、例えばSiO、Cr、TiO、TiO、Taのいずれか1つを用いることが提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかし磁気記録層に強い磁界を印加すると、隣接トラックへの漏れ磁場も大きくなることから、WATE(Wide Area Track Erasure)、すなわち、書込みの対象となるトラックを中心に数μmにわたって記録情報が消失する現象が問題となる。WATEを低減させる手法として、磁気記録層の逆磁区核形成磁界Hnを負とし、さらにその絶対値を大きくすることが重要である。高い(絶対値の大きい)Hnを得るために、グラニュラー構造を有する磁気記録層の上方又は下方に高い垂直磁気異方性を示す薄膜が形成されたCGC(Coupled Granular Continuous)媒体が考案されている(特許文献2)。
【0006】
一般に、磁気記録層の保磁力Hcを向上させていくと、高記録密度化が達成できる反面、磁気ヘッドによる書き込みが困難になる傾向にある。そこで、書き込みやすさ、すなわちオーバーライト特性(OW特性)の改善を図るために、近年では、基体主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続し、垂直磁気異方性の高い単一の膜である補助記録層を磁気記録層の上に形成する場合が多い。補助記録層は、飽和磁化Msを向上させることによりオーバーライト特性を向上させる役割を有している。言い換えれば、磁気記録層の上に補助記録層を設ける目的は、逆磁区核形成磁界Hnを向上させてノイズを低減し、飽和磁化Msを向上させてオーバーライト特性も向上させることである。なお補助記録層は連続層またはキャップ層とも呼ばれる場合もある。
【非特許文献1】T. Oikawa et. al.、 IEEE Trans. Magn、 vol.38、 1976-1978(2002)
【特許文献1】特開2006−024346号公報
【特許文献2】特開2003−346315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の如く高記録密度化している磁気記録媒体であるが、今後さらなる記録密度の向上が要請されている。高記録密度化のために重要な要素としては、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hnなどの静磁気特性の向上と、オーバーライト特性やSNR(Signal to Noise Ratio:シグナルノイズ比)、トラック幅の狭小化などの電磁変換特性の向上がある。その中でも保磁力Hcの向上とSNRの向上は、面積の小さな記録ビットにおいても正確に且つ高速に読み書きするために重要である。
【0008】
SNRの向上は、主に磁気記録層の磁化遷移領域ノイズの低減により行われる。ノイズ低減のために有効な要素としては、磁気記録層の結晶配向性の向上、磁性粒子の粒径の微細化、および磁性粒子の孤立化が挙げられる。中でも、磁性粒子の孤立化が促進されると隣接する磁性粒子との磁気的相互作用を遮断されるため、ノイズを大幅に低減することができ、SNRを著しく向上させることが可能となる。上述のグラニュラー構造の垂直磁気記録媒体では、酸化物によって粒界を形成することによって磁性粒子を孤立化および微細化し、SNRを向上させている。
【0009】
しかし上記のように、磁性粒子の孤立化を促進させるために単に磁気記録層中の酸化物量を増加させると、保磁力Hcの低下を引き起こし、記録再生特性の悪化につながる。そこで、磁気記録層を複数の層から構成して、保磁力が高い層とSNRが高い層に役割分担することにより両方の特性を得ていたが、高保磁力Hcを有する層に起因するノイズが問題となった。このため従来は保磁力の高い層の膜厚を薄めにしてノイズを抑えていた。しかし、最低限必要な保磁力を確保する必要があるため、ある程度のノイズは容認する必要があった。
【0010】
また、上記の補助記録層はグラニュラー構造を有しておらず、面内方向に磁気的にほぼ連続した構造となっている。このため、補助記録層によりオーバーライト特性を改善できる反面、ノイズの増加を招くこととなる。特に補助記録層は、媒体の上方に位置することになるため、ノイズ増加に対する影響は大きい。かといって、補助記録層なしではOW特性が極端に低くなり、昨今の保磁力の高い磁気記録層は、もはや書き込むことができなくなってしまう。このため、やはりある程度のノイズは容認する必要があった。
【0011】
したがって、上記の技術では、高い保磁力Hcを確保するためにノイズの増加をある程度許容しなくてはならず、SNRの向上は限界に達していた。このため、磁気記録媒体の更なる高記録密度化の達成には、高い保磁力Hcを確保しつつ、SNRを更に向上することが可能な新たな手法の確立が課題となっていた。
【0012】
本発明は、このような課題に鑑み、高い保磁力Hcを確保しつつSNRを更に向上し、更なる高記録密度化を達成することが可能な垂直磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために発明者らが鋭意検討したところ、磁気記録層に起因するノイズの低減に着目した。すなわち、磁気記録層における磁化状態がノイズの発生に影響を及ぼしている可能性があると考えた。そして、さらに研究を重ねることにより、磁気記録層を第1磁気記録層と第2磁気記録層とからなる2層で構成し、その間にRuを含む非磁性の介在層を介在させることにより、磁気記録層、特に第1磁気記録層の磁化方向を制御し、低ノイズ化を図り、上記課題の解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0014】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明にかかる垂直磁気記録媒体の代表的な構成は、基体上に、少なくとも、柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の第1磁気記録層と、第1磁気記録層の上に設けられ、Ruを含む非磁性の介在層と、介在層の上に設けられ、柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の第2磁気記録層と、を備え、第1磁気記録層および第2磁気記録層は、粒界部を形成する酸化物を含み、第1磁気記録層に含まれる酸化物の量をA、第2磁気記録層に含まれる酸化物の量をBとすると、酸化物の含有量の関係A/Bは、0.5<A/B<1.0の範囲であることを特徴とする。
【0015】
上記構成の如く、第1磁気記録層と第2磁気記録層の間に、Ruを含む介在層を介在させることにより、磁気記録層間に磁気的な相互作用である反強磁性交換結合(AFC:Antiferro-magnetic exchange coupling)を発生させることができる。これにより、第1磁気記録層の磁化方向と、第2磁気記録層の磁化方向とを反平行(相反する方向)に整列させ、相互に磁化方向を固定するように作用させることが可能となる。
【0016】
また、酸化物の含有量の関係A/Bは、0.5<A/B<1.0の範囲とすることにより、第1磁気記録層および第2磁気記録層における酸化物の含有量が適切化され、第1磁気記録層は粒界部が少なく保磁力Hcが高い層、第2磁気記録層は粒界部が多くSNRが高い層とすることができる。したがって、高保磁力Hcを確保しつつSNRを更に向上することが可能となる。また第1磁気記録層が高保磁力Hcであることから、かかる第1磁気記録層は、第2磁気記録層の磁化方向を固定するpin層として機能することが可能となる。
【0017】
上記の介在層は、膜厚が2Å以上且つ10Å以下であるとよい。介在層の膜厚をかかる範囲内に設定することにより、第1磁気記録層および第2磁気記録層の磁気を遮断し、AFCを発生させることができる。
【0018】
なお、介在層の膜厚を10Å以上とすると、磁気記録層間で生じる交換結合が弱くなってしまうために、所望のSNRが得られない。また10Å以上に膜厚が厚くなると、介在層の上下の磁気記録層が磁気的に完全に分離されて結晶配向性の継承を全く失ってしまう。一方、介在層の膜厚を2Å以下とすると、第1磁気記録層および第2磁気記録層の磁気を遮断できず、AFCを発生させることが出来なくなってしまう。また2Å以下では皮膜を形成できなくなってしまう。尚、ここで皮膜とは必ずしも連続なものでなくともよく、例えば島状に膜が析出した状態でも、機能が発揮できれば問題とはならない。
【0019】
上記の介在層は、RuまたはRu化合物からなるとよい。Ruは磁性粒子を構成するCoと同様の結晶形態(hcp)を有する為、磁気記録層の間に介在させてもCo結晶粒子のエピタキシャル成長を阻害しにくいためである。
【0020】
上記のRu化合物は、RuO、Ru−Co、Ru−Cr、Ru−SiO、Ru−TiO、Ru−Cr、Ru−WO、Ru−Taの群から選択されるとよい。数多く存在するRu化合物の中でも、これらのRu化合物が、高保磁力Hcの確保およびSNRの向上に最も効果的である。
【0021】
特に、かかるRu化合物が、RuOである場合、または酸化物を含有する場合、介在層は酸素原子を含む事となる。これにより、介在層のうち、第1磁気記録層のグラニュラー構造の粒界の上に位置する部分は、含有させた酸素原子が第1磁気記録層の粒界に含まれている酸素原子と親和性が高いため、Ru酸化物として磁性層の粒界構造を継承する。また介在層が酸化物を含んでいる場合、その酸化物が第1磁気記録層の粒界と親和性が高くなり、同様に第1磁気記録層の粒界構造を継承することとなる。したがって、いずれの場合においても介在層が第1磁気記録層の粒界構造の承継を阻害することなく、第2磁気記録層のCoの結晶粒子を成長させることができる。
【0022】
なお、介在層は、Ruと酸素とを含ませるための具体的な手段の一つとして、Ruと酸化物とから構成することができる。Ruと酸化物とを含むターゲットを用いてスパッタリングを行うと、酸化物から解離した酸素が膜中に含まれるため、酸素添加と同様の効果を奏するためである。
【0023】
また、介在層に含まれる酸化物は、WO、TiO、またはRuOが特に好ましい。これにより、電磁変換特性(SNR)を向上させることができる。中でも、WOは高い効果を得ることができる。これは、WOが不安定な酸化物であるので、スパッタ中により多くの酸素が解離され、より効果的に酸素添加の効果を示すためである。
【0024】
上記の第1磁気記録層は、膜厚が0.7nm以上且つ3.0nm以下であるとよい。
【0025】
これにより第1磁気記録層の反磁界を強くして、第1磁気記録層に起因するノイズを低減させることができる。そして、第1磁気記録層の酸化物を減らして保磁力Hcを強くすることにより、第1磁気記録層は第2磁気記録層の磁化方向を固定するpin層としても機能するため、高保磁力Hcを達成することができる。
【0026】
上記の第1磁気記録層に含まれる酸化物の量は、5mol%以上であるとよい。5mol%以上であるとき高い保磁力Hcと高いSNRとを得ることができるためである。
【0027】
上記の第2磁気記録層に含まれる酸化物は、2種以上であるとよい。これにより、複数の酸化物の特性を得ることができ、第2磁気記録層の磁性粒子のさらなる微細化と孤立化を図ることによりノイズを低減し、かつSNRを向上させて高記録密度化を図ることのできる垂直磁気記録媒体を得ることができる。
【0028】
上記の第2磁気記録層に含まれる酸化物は、SiO、TiO、およびCoOから1または複数選択されるとよい。
【0029】
SiOは磁性粒子の微細化および孤立化を促進し、TiOは電磁変換特性(特にSNR)を向上させる特性がある。そしてこれらの酸化物を複合させて第2磁気記録層の粒界に偏析させることにより、双方の利益を享受することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、高い保磁力Hcを確保しつつSNRを更に向上し、更なる高記録密度化を達成することが可能な垂直磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0032】
(実施形態)
本実施形態では、まず本発明にかかる垂直磁気記録媒体の実施形態について説明した後に、第1磁気記録層、第2磁気記録層、および第1磁気記録層と第2磁気記録層の間に設けた介在層について詳細に説明する。
【0033】
[垂直磁気記録媒体]
図1は、本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気記録媒体100は、ディスク基体110、付着層112、第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114c、前下地層116、第1下地層118a、第2下地層118b、非磁性グラニュラー層120、第1磁気記録層122a、介在層122b、第2磁気記録層122c、補助記録層124、媒体保護層126、潤滑層128で構成されている。なお第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114cは、あわせて軟磁性層114を構成する。第1下地層118aと第2下地層118bはあわせて下地層118を構成する。第1磁気記録層122aと介在層122b、第2磁気記録層122cとはあわせて磁気記録層122を構成する。
【0034】
ディスク基体110は、アモルファス(非晶質)のアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性のディスク基体110を得ることができる。
【0035】
ディスク基体110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層112から補助記録層124まで順次成膜を行い、媒体保護層126はCVD法により成膜することができる。この後、潤滑層128をディップコート法により形成することができる。なお、生産性が高いという点で、インライン型成膜方法を用いることも好ましい。以下、各層の構成について説明する。
【0036】
付着層112はディスク基体110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層114とディスク基体110との剥離強度を高める機能と、この上に成膜される各層の結晶グレインを微細化及び均一化させる機能を備えている。付着層112は、ディスク基体110がアモルファスガラスからなる場合、そのアモルファスガラス表面に対応させる為にアモルファスの合金膜とすることが好ましい。
【0037】
付着層112としては、例えばCrTi系非晶質層、CoW系非晶質層、CrW系非晶質層、CrTa系非晶質層、CrNb系非晶質層から選択することができる。中でもCoW系合金膜は、微結晶を含むアモルファス金属膜を形成するので特に好ましい。付着層112は単一材料からなる単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。例えばCrTi層の上にCoW層またはCrW層を形成してもよい。またこれらの付着層112は、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、又は酸素を含む材料によってスパッタを行うか、もしくは表面層をこれらのガスで暴露したものであることが好ましい。
【0038】
軟磁性層114は、垂直磁気記録方式において記録層に垂直方向に磁束を通過させるために、記録時に一時的に磁路を形成する層である。軟磁性層114は第1軟磁性層114aと第2軟磁性層114cの間に非磁性のスペーサ層114bを介在させることによって、AFCを備えるように構成することができる。これにより軟磁性層114の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、磁化方向の垂直成分が極めて少なくなるため、軟磁性層114から生じるノイズを低減することができる。第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成としては、CoTaZrなどのコバルト系合金、CoCrFeB、CoFeTaZrなどのCo−Fe系合金などを用いることができる。
【0039】
前下地層116は非磁性の合金層であり、軟磁性層114を防護する作用と、この上に成膜される下地層118に含まれる六方最密充填構造(hcp構造)の磁化容易軸をディスク垂直方向に配向させる機能を備える。前下地層116は面心立方構造(fcc構造)の(111)面がディスク基体110の主表面と平行となっていることが好ましい。また前下地層116は、これらの結晶構造とアモルファスとが混在した構成としてもよい。前下地層116の材質としては、Ni、Cu、Pt、Pd、Zr、Hf、Nb、Taから選択することができる。さらにこれらの金属を主成分とし、Ti、V、Cr、Mo、Wのいずれか1つ以上の添加元素を含む合金としてもよい。例えばfcc構造を取る合金としてはNiW、CuW、CuCrを好適に選択することができる。
【0040】
下地層118はhcp構造であって、磁気記録層122のCoのhcp構造の結晶をグラニュラー構造として成長させる作用を有している。したがって、下地層118の結晶配向性が高いほど、すなわち下地層118の結晶の(0001)面がディスク基体110の主表面と平行になっているほど、磁気記録層122の配向性を向上させることができる。下地層118の材質としてはRuが代表的であるが、その他に、RuCr、RuCoから選択することができる。Ruはhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁気記録層122を良好に配向させることができる。
【0041】
下地層118をRuとした場合において、スパッタ時のガス圧を変更することによりRuからなる2層構造とすることができる。具体的には、下層側の第1下地層118aを形成する際にはArのガス圧を所定圧力、すなわち低圧にし、上層側の第2下地層118bを形成する際には、下層側の第1下地層118aを形成するときよりもArのガス圧を高くする、すなわち高圧にする。これにより、第1下地層118aによる磁気記録層122の結晶配向性の向上、および第2下地層118bによる磁気記録層122の磁性粒子の粒径の微細化が可能となる。
【0042】
また、ガス圧を高くするとスパッタリングされるプラズマイオンの平均自由行程が短くなるため、成膜速度が遅くなり、皮膜が粗になるため、Ruの結晶粒子の分離微細化を促進することができ、Coの結晶粒子の微細化も可能となる。
【0043】
さらに、下地層118のRuに酸素を微少量含有させてもよい。これによりさらにRuの結晶粒子の分離微細化を促進することができ、磁気記録層のさらなる孤立化と微細化を図ることができる。なお酸素はリアクティブスパッタによって含有させてもよいが、スパッタリング成膜する際に酸素を含有するターゲットを用いることが好ましい。
【0044】
非磁性グラニュラー層120はグラニュラー構造を有する非磁性の層である。下地層118のhcp結晶構造の上に非磁性のグラニュラー層を形成し、この上に第1磁気記録層122a(または磁気記録層122)のグラニュラー層を成長させることにより、磁性のグラニュラー層を初期成長の段階(立ち上がり)から分離させる作用を有している。これにより、磁気記録層122の磁性粒子の孤立化を促進することができる。非磁性グラニュラー層120の組成は、Co系合金からなる非磁性の結晶粒子の間に、非磁性物質を偏析させて粒界を形成することにより、グラニュラー構造とすることができる。
【0045】
本実施形態においては、かかる非磁性グラニュラー層120にCoCr−SiOを用いる。これにより、Co系合金(非磁性の結晶粒子)の間にSiO(非磁性物質)が偏析して粒界を形成し、非磁性グラニュラー層120がグラニュラー構造となる。なお、CoCr−SiOは一例であり、これに限定されるものではない。他には、CoCrRu−SiOを好適に用いることができ、さらにRuに代えてRh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Au(金)も利用することができる。また非磁性物質とは、磁性粒(磁性グレイン)間の交換相互作用が抑制、または、遮断されるように、磁性粒の周囲に粒界部を形成しうる物質であって、コバルト(Co)と固溶しない非磁性物質であればよい。例えば酸化珪素(SiOx)、クロム(Cr)、酸化クロム(CrO、Cr23)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)を例示できる。
【0046】
なお本実施形態では、下地層188(第2下地層188b)の上に非磁性グラニュラー層120を設けているが、これに限定されるものではなく、非磁性グラニュラー層120を設けずに垂直磁気記録媒体100を構成することも可能である。
【0047】
磁気記録層122は、Co系合金、Fe系合金、Ni系合金から選択される硬磁性体の磁性粒の周囲に非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラー構造を有している。この磁性粒は、非磁性グラニュラー層120を設けることにより、そのグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長することができる。
【0048】
磁気記録層122は、本実施形態では組成および膜厚の異なる第1磁気記録層122aと、第2磁気記録層122c、およびこれらの間に設けられた介在層122bとから構成されている。これにより、第1磁気記録層122aの結晶粒子から継続して第2磁気記録層122cの小さな結晶粒子が成長し、主記録層たる第2磁気記録層122cの微細化を図ることができ、SNRの向上が可能となる。
【0049】
本実施形態では、第1磁気記録層122aにCoCrPt−Crを用いる。CoCrPt−Crは、CoCrPtからなる磁性粒(グレイン)の周囲に、非磁性物質であるCrおよびCr(酸化物)が偏析して粒界を形成し、磁性粒が柱状に成長したグラニュラー構造を形成した。この磁性粒は、非磁性グラニュラー層のグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長した。
【0050】
介在層122bはRuからなる非磁性の薄膜であって、第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122cの間に介在させることにより、これらの磁気記録層122間の磁気的な連続性は分断される。したがってこれらの磁気記録層122の間には、反強磁性交換結合(AFC)が発生する。これにより介在層122bの上下の磁気記録層122(第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122c)の間では磁化方向が反平行となり、ノイズを低減することができる。
【0051】
また第2磁気記録層122cには、CoCrPt−SiO−TiOを用いる。第2磁気記録層122cにおいても、CoCrPtからなる磁性粒(グレイン)の周囲に非磁性物質であるCrおよびSiO、TiO(複合酸化物)が偏析して粒界を形成し、磁性粒が柱状に成長したグラニュラー構造を形成した。
【0052】
なお、上記に示した第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122cに用いた物質は一例であり、これに限定されるものではない。また、本実施形態では、第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122cで異なる材料(ターゲット)であるが、これに限定されず組成や種類が同じ材料であってもよい。非磁性領域を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化珪素(SiO)、クロム(Cr)、酸化クロム(Cr)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化鉄(Fe)、酸化ボロン(B)等の酸化物を例示できる。また、BN等の窒化物、B等の炭化物も好適に用いることができる。
【0053】
さらに本実施形態では、第1磁気記録層122aにおいて1種類の、第2磁気記録層122cにおいて2種類の非磁性物質(酸化物)を用いているが、これに限定されるものではなく、第1磁気記録層122aまたは第2磁気記録層122cのいずれかまたは両方において2種類以上の非磁性物質を複合して用いることも可能である。このとき含有する非磁性物質の種類には限定がないが、本実施形態の如く特にSiOおよびTiOを含むことが好ましい。したがって、本実施形態とは異なり、磁気記録層122が1層のみで構成される場合、かかる磁気記録層122はCoCrPt−SiO−TiOからなることが好ましい。
【0054】
補助記録層124は基体主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した磁性層である。補助記録層124は磁気記録層122に対して磁気的相互作用を有するように、隣接または近接している必要がある。補助記録層124の材質としては、例えばCoCrPt、CoCrPtB、またはこれらに微少量の酸化物を含有させて構成することができる。補助記録層124は逆磁区核形成磁界Hnの調整、保磁力Hcの調整を行い、これにより耐熱揺らぎ特性、OW特性、およびSNRの改善を図ることを目的としている。この目的を達成するために、補助記録層124は垂直磁気異方性Kuおよび飽和磁化Msが高いことが望ましい。なお本実施形態において補助記録層124は磁気記録層122の上方に設けているが、下方に設けてもよい。
【0055】
なお、「磁気的に連続している」とは磁性が連続していることを意味している。「ほぼ連続している」とは、補助記録層124全体で観察すれば一つの磁石ではなく、結晶粒子の粒界などによって磁性が不連続となっていてもよいことを意味している。粒界は結晶の不連続のみではなく、Crが偏析していてもよく、さらに微少量の酸化物を含有させて偏析させても良い。ただし補助記録層124に酸化物を含有する粒界を形成した場合であっても、磁気記録層122の粒界よりも面積が小さい(酸化物の含有量が少ない)ことが好ましい。補助記録層124の機能と作用については必ずしも明確ではないが、磁気記録層122のグラニュラー磁性粒と磁気的相互作用を有する(交換結合を行う)ことによってHnおよびHcを調整することができ、耐熱揺らぎ特性およびSNRを向上させていると考えられる。またグラニュラー磁性粒と接続する結晶粒子(磁気的相互作用を有する結晶粒子)がグラニュラー磁性粒の断面よりも広面積となるため磁気ヘッドから多くの磁束を受けて磁化反転しやすくなり、全体のOW特性を向上させるものと考えられる。
【0056】
媒体保護層126は、真空を保ったままカーボンをCVD法により成膜して形成することができる。媒体保護層126は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録媒体100を防護するための層である。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録媒体100を防護することができる。
【0057】
潤滑層128は、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により成膜することができる。PFPEは長い鎖状の分子構造を有し、媒体保護層126表面のN原子と高い親和性をもって結合する。この潤滑層128の作用により、垂直磁気記録媒体100の表面に磁気ヘッドが接触しても、媒体保護層126の損傷や欠損を防止することができる。
【0058】
以上の製造工程により、垂直磁気記録媒体100を得ることができた。次に、本発明の特徴である磁気記録層122(第1磁気記録層122a、第2磁気記録層122c、およびこれらの間に設けた介在層122b)についてさらに詳述する。
【0059】
上述したように、介在層122bは、第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122cとの間に設けられた非磁性層である。これにより、これらの磁気記録層122間の磁気的な連続性は分断され、磁気記録層122の間には、磁気的効果として反強磁性交換結合(AFC)が発生する。
【0060】
図2は、第1磁気記録層122a、介在層122b、第2磁気記録層122cからなる磁気結合のモデルを説明する図である。図2に示すように、第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122cとの間に介在層122bを設けることで反強磁性交換結合(AFC)が発生し、第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122cは磁化方向が反平行となり、相互に磁化方向を固定するように作用する。このため、ノイズを低減することができる。
【0061】
また図2に示すように、第1磁気記録層122aの厚みは第2磁気記録層122cの厚みよりも薄いことが好ましく、更に好ましくは、第1磁気記録層122aは膜厚が0.7nm以上且つ3.0nm以下であるとよい。
【0062】
ここで第1磁気記録層122aは、介在層122bがなければ第2磁気記録層122cと連続した磁石であったところ、介在層122bによって分断されるために個別の短い磁石となる。そして、さらに第1磁気記録層122aの膜厚を薄くすることにより、グラニュラー磁性粒子の縦横比が短くなることから(垂直磁気記録媒体においては、膜厚方向が磁化容易軸の縦方向にあたる)、磁石の内部に発生する反磁界が強くなる。このため第1磁気記録層122aから外部に発生する磁界が弱まり、磁気ヘッドによって拾われにくくなる。すなわち、第1磁気記録層122aの膜厚を調節することによって、磁気ヘッドまで磁界が到達しにくく、かつ第2磁気記録層122cに対しては磁気的相互作用を有する程度に磁気モーメント(磁石の強さ)を設定することにより、高い保磁力を発揮しながらもノイズの少ない磁気記録層122とすることができる。
【0063】
また、第1磁気記録層122aから出るノイズは磁気ヘッドに到達しないため、第1磁気記録層122aは酸化物を減らして保磁力Hcを強くすることができ、さらには第2磁気記録層122cの磁化方向を固定するpin層として機能させることができる。
【0064】
介在層122bは、膜厚が2Å以上且つ10Å以下(0.2nm以上〜1nm以下)であるとよい。これにより、第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122cの磁気を遮断し、AFCを発生させることができる。ここで、介在層122bの膜厚を10Å以上とすると、磁気記録層122間で生じる交換結合が弱くなってしまうために所望のSNRが得られず、また介在層122bの上下の磁気記録層122が磁気的に完全に分離されて結晶配向性の継承も失ってしまう。一方、介在層122bの膜厚を2Å以下とすると、第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122cの磁気を遮断できず、AFCを発生させることが出来なくなってしまい、また皮膜を形成できなくなってしまう。なおAFCの交換結合の強さは介在する介在層122bの厚みによって振動しながら減衰するため、振動のピークを得られる膜厚とすることが好ましい。
【0065】
また結晶構造上は、第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122cが同様のグラニュラー構造であることから、これらの結晶配向性の継承を妨げない。介在層122bには磁気記録層122(第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122c)ほど大量の酸化物が含まれていないために粒界は形成しないが、1nm以下という極端な薄膜であり、かつ後述するように介在層122bを構成するRuがhcp構造を有することから、結晶成長を阻害しないものと推察される。
【0066】
以上、磁気記録層122の膜構成による利点を説明した。次に、第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122c、介在層122bの組成について詳述する。
【0067】
第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122cは、柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造を有する層であり、粒界部を形成する物質として酸化物を含有する。ここで、第1磁気記録層122aに含まれる酸化物の量をA、第2磁気記録層122cに含まれる酸化物の量をBとすると、酸化物の含有量の関係A/Bは、0.5<A/B<1.0の範囲であるとよい。
【0068】
これにより、第1磁気記録層122aは粒界部が少なく保磁力Hcが高い層、第2磁気記録層122cは粒界部が多くSNRが高い層とすることができ、高い保磁力Hcを確保しつつSNRを更に向上することが可能となる。また第1磁気記録層122aが高保磁力であることから、かかる第1磁気記録層122aは、第2磁気記録層122cの磁化方向を固定するpin層として機能することが可能となる。
【0069】
なお、第1磁気記録層122aに含まれる酸化物の量は、5mol%以上であるとよい。これにより、高い保磁力Hcと高いSNRとを得ることができるためである。
【0070】
また、第2磁気記録層122cに含まれる酸化物は、2種以上であるとよい。これにより、複数の酸化物の特性を得ることができ、第2磁気記録層122cの磁性粒子のさらなる微細化と孤立化を図ることによりノイズを低減し、SNRを向上させて垂直磁気記録媒体100の高記録密度化を図ることができる。
【0071】
中でも、第2磁気記録層122cに含まれる酸化物は、SiO、TiO、およびCoOから1または複数選択されるとよい。SiOは磁性粒子の微細化および孤立化の促進、TiOは電磁変換特性(特にSNR)の向上を図る特性がある。したがって、これらの酸化物を複合させて第2磁気記録層122cの粒界に偏析させることにより、双方の利益を享受することができる。
【0072】
介在層122bは、RuまたはRu化合物からなるとよい。Ruは磁性粒子を構成するCoと格子定数が近く、また磁性粒子を構成するCoと同様の結晶形態(hcp)を有する為、磁気記録層122の間に介在させてもCo結晶粒子のエピタキシャル成長を阻害しにくいためである。
【0073】
なお、Ru化合物は、RuO、Ru−Co、Ru−Cr、Ru−SiO、Ru−TiO、Ru−Cr、Ru−WO、Ru−Taの群から選択されるとよい。これらのRu化合物が、高保磁力Hcの確保およびSNRの向上に最も効果的だからである。
【0074】
(実施例)
ディスク基体110上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、付着層112から補助記録層124まで順次成膜を行った。付着層112は、CrTiとした。軟磁性層114は、第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成はCoCrTaZrとし、スペーサ層114bの組成はRuとした。前下地層116の組成はfcc構造のNiW合金とした。第1下地層118aは所定圧力(低圧:例えば0.6〜0.7Pa)のAr雰囲気下でRu膜を成膜した。第2下地層118bは、酸素が含まれているターゲットを用いて所定圧力より高い圧力(高圧:例えば4.5〜7Pa)のAr雰囲気下で、酸素を含有するRu膜を成膜した。非磁性グラニュラー層120の組成は非磁性のCoCr−SiOとした。第2磁気記録層122cは、粒界部に複合酸化物(複数の種類の酸化物)の例としてSiOとTiOを含有し、CoCrPt−SiO−TiOのhcp結晶構造を形成した。第1磁気記録層122aおよび介在層122bは、膜厚および組成について下記のような実施例と比較例を作成した。補助記録層124の組成はCoCrPtBとした。媒体保護層126はCVD法によりCおよびCNを用いて成膜し、潤滑層128はディップコート法によりPFPEを用いて形成した。
【0075】
図3は、介在層122bの膜厚とSNRの関係を示す図である。介在層122bの組成は全てRuとした。また、図3中、各系列に記載している物質名は、第1磁気記録層122aの組成を示している。
【0076】
図3に示すように、いずれの系列においても、介在層122bを設けない、すなわち介在層122bの膜厚が0nmから増すにつれ、SNRが著しく向上する。そして、介在層122bの膜厚が1nm(10Å)を超えるとSNRは低下し始め、膜厚が3nmとなると、SNRは介在層122bを設けない状態よりも低い値となる。
【0077】
垂直磁気記録媒体100の高記録密度化達成のために所望されるSNRは17.5dB以上であることから、図3を参照すると、介在層122bの膜厚は、0.2nm〜1.0nm(2Å〜10Å)が好ましいことが理解できる。これは、第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122cとの間に磁気的な相互作用である反強磁性交換結合(AFC)が発生し、第1磁気記録層122aの磁化方向と第2磁気記録層122cの磁化方向とが反平行に整列して固定され、ノイズが低減された結果、SNRが向上したためと推測される。
【0078】
なお、介在層122bの厚みが0.2nmより薄い場合、第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122cの磁気を遮断できず、AFCを発生させることが出来なかったため、所望する値までのSNRの向上が図れなかったと考えられる。また、介在層122bの膜厚が1.0nmよりも厚い場合、磁気記録層122間で生じるAFCが弱くなってしまったため、磁気記録層122(第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122c)の磁化方向の整列や固定する作用が低下し、所望のSNRを得ることができなかったと考察される。
【0079】
更に、図3において第1磁気記録層122aに含まれる酸化物に着目すると、4つの系列は、酸化物として、SiO(4mol%)およびTiO(4mol%)を含む1つの系列と、Crを含む他の3つの系列とに大別することができる。そして、SiOおよびTiOを含む系列と、Crを含む系列とを比較すると、いずれの系列においても、介在層122bを設けることでSNRが向上し、介在層122bの膜厚が厚くなりすぎるとSNRが低下する、というほぼ同様の傾向を示していることがわかる。このことから、介在層122bの膜厚を最適化することで、酸化物の種類に依ることなくSNRの向上が可能であることがわかる。
【0080】
また、Crを含む系列のみに着目すると、第1磁気記録層122aに含まれる酸化物の量が5mol%、7mol%、9mol%と増加するにつれて、SNRが向上していることがわかる。これは、第1磁気記録層122aに含まれる酸化物の量を増やすことで、第1磁気記録層122aにおける柱状の磁性粒子の粒界、すなわち粒界部を形成する物質が増え、その結果、磁性粒子の柱が細くなったためと考えられる。
【0081】
図4は、介在層122bの組成とSNRおよびトラック幅の関係を示す図である。ここで、介在層122bの組成は、実施例1ではRu、実施例2ではRu−Co、実施例3ではRu−Cr、実施例4ではRu−SiO、比較例1ではCo−Cr、比較例2ではNi−Cuである。Ru−Co、Ru−CrおよびRu−SiOは、Ru化合物である。また、介在層122bの膜厚は全て7Åとした。なお、上記のトラック幅とは、垂直磁気記録媒体100の実際のトラック幅ではなく、記憶可能幅試験において求められたトラックプロファイルが所定の割合を示すトラックの幅である。
【0082】
図4に示すように、実施例および比較例は、いずれも高記録密度化に際して所望されるSNRの値、17.5dBを上回っている。しかし、実施例および比較例を比較すると、介在層122bがRuまたはRu化合物から構成される実施例の方が比較例よりも高SNRであることがわかる。したがって、更なる高記録密度化を達成するためには、介在層122bにはRuまたはRu化合物を用いることが好ましいことが理解できる。
【0083】
またトラック幅においても、実施例は比較例よりも狭小化されている。このことからも、介在層にRuまたはRu化合物を用いることでトラック幅を狭小化することができ、更なる高記録密度化の達成が可能であることがわかる。
【0084】
図5は、磁気記録層122の酸化物の含有量の関係であるA/BとSNRおよび保磁力Hcの関係を示す図である。なお、保磁力Hcは絶対値が大きいほど優れているため、絶対値としてグラフに示している。なお、介在層122bの組成は全てRuとし、膜厚は7Åとした。
【0085】
図5に示すように、A/Bが増大するにつれて、SNRは向上し、保磁力Hcは低下する。このことから、保磁力HcとSNRはトレードオフの関係にあることが改めてわかる。しかし、A/Bを0.5<A/B<1.0の範囲とすることで、高記録密度化達成のための、SNR17.5dB以上、および保磁力Hc4800Oe以上という2つの条件を満たすことができる。したがって、高い保磁力Hcを確保しつつSNRを更に向上し、更なる高記録密度化を達成することが可能となる。
【0086】
図6は、第1磁気記録層122aの膜厚と保磁力Hcの関係を示す図である。なお、図6においても保磁力Hcは絶対値としてグラフに示している。また図6中、各系列に記載している物質名は、第1磁気記録層122aの組成を示している。介在層122bの組成は全てRuとし、膜厚は7Åとした。
【0087】
図6に示すように、いずれの系列においても、第1磁気記録層122aの膜厚が増すにつれ、保磁力Hcが向上する。そして、第1磁気記録層122aの膜厚が約3nmを超えると保磁力Hcは低下し始め、膜厚が約4nmとなると、保磁力Hcは第1磁気記録層122aを設けない状態よりも低い値となる。
【0088】
垂直磁気記録媒体に所望される保磁力Hcは4800Oe以上であることから、図6を参照すると、第1磁気記録層122aの膜厚は、0.7nm以上且つ3.0nm以下が好ましいことが理解できる。これにより、高保磁力Hcを確保しつつ、垂直磁気記録媒体100の高記録密度化を達成することができる。そして、第1磁気記録層122aが高保磁力Hcであることから、かかる第1磁気記録層122aは、第2磁気記録層122cの磁化方向を固定するpin層として機能することが可能となる。
【0089】
また、図6において第1磁気記録層122aに含まれる酸化物に着目すると、5つの系列は、酸化物として、TiO(9mol%)を含む系列と、SiO(4mol%)およびTiO(4mol%)を含む系列と、Crを含む他の3つの系列とに大別することができる。そして、上記の系列を比較すると、いずれの系列においても、第1磁気記録層122aの膜厚が厚くなると保磁力Hcが向上していき、膜厚が厚くなりすぎると保磁力Hcが低下し始めるという傾向を示すことがわかる。このことから、第1磁気記録層122aの膜厚を最適化することで、酸化物の種類に依ることなく高保磁力Hcの確保が可能であることが理解できる。
【0090】
上記説明した如く、本発明によれば、磁気記録層122を第1磁気記録層122a、介在層122b、および第2磁気記録層122cから構成し、各層の膜厚および組成を最適化することで、高い保磁力Hcを確保しつつSNRを更に向上させることができる。これにより、垂直磁気記録媒体100の更なる高記録密度化を達成することが可能である。
【0091】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDDなどに搭載される垂直磁気記録媒体として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体の構成を説明する図である。
【図2】第1磁気記録層、介在層、第2磁気記録層からなる磁気結合のモデルを説明する図である。
【図3】介在層の膜厚とSNRの関係を示す図である。
【図4】介在層の組成とSNRおよびトラック幅の関係を示す図である。
【図5】磁気記録層の酸化物の含有量の関係であるA/BとSNRおよび保磁力Hcの関係を示す図である。
【図6】第1磁気記録層の膜厚と保磁力Hcの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
100 …垂直磁気記録媒体、110 …ディスク基体、112 …付着層、114 …軟磁性層、114a …第1軟磁性層、114b …スペーサ層、114c …第2軟磁性層、116 …前下地層、118 …下地層、118a …第1下地層、118b …第2下地層、120 …非磁性グラニュラー層、122 …磁気記録層、122a …第1磁気記録層、122b …介在層、122c …第2磁気記録層、124 …補助記録層、126 …媒体保護層、128 …潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、少なくとも、
柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の第1磁気記録層と、
前記第1磁気記録層の上に設けられ、Ruを含む非磁性の介在層と、
前記介在層の上に設けられ、柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の第2磁気記録層と、を備え、
前記第1磁気記録層および第2磁気記録層は、前記粒界部を形成する酸化物を含み、
前記第1磁気記録層に含まれる酸化物の量をA、前記第2磁気記録層に含まれる酸化物の量をBとすると、該酸化物の含有量の関係A/Bは、0.5<A/B<1.0の範囲であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記介在層は、膜厚が2Å以上且つ10Å以下であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記介在層は、RuまたはRu化合物からなることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記Ru化合物は、RuO、Ru−Co、Ru−Cr、Ru−SiO、Ru−TiO、Ru−Cr、Ru−WO、Ru−Taの群から選択されることを特徴とする請求項3に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記第1磁気記録層は、膜厚が0.7nm以上且つ3.0nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記第1磁気記録層に含まれる酸化物の量は、5mol%以上であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
前記第2磁気記録層に含まれる酸化物は、2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
前記第2磁気記録層に含まれる酸化物は、SiO、TiO、およびCoOから1または複数選択されることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−175686(P2011−175686A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249266(P2008−249266)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(501259732)ホーヤ マグネティクス シンガポール プライベートリミテッド (124)
【住所又は居所原語表記】138 Cecil Street,#08−03 Cecil Court,Singapore 069538
【Fターム(参考)】