説明

垂直磁気記録媒体

垂直磁気記録媒体であって、基板と、基板上に形成された金属下地層と、金属下地層上に無電解めっき法により形成された基板の面内方向に磁化容易軸を有する軟磁性と、軟磁性層上に形成された基板面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する磁性記録層とを含んでいる。金属下地層は、Co,Ni,Feからなる群から選択される元素の合金から形成されており、3エルステッド(Oe)以下の保磁力を有している。軟磁性裏打ち層は100nm〜600nmの膜厚を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、記録膜として垂直磁化膜を有する垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
近年、磁気ディスク装置の小型大容量化に伴い、媒体内の磁性粒子の微細化が求められているが、面内(長手)記録方式と呼ばれる従来の記録方式では、熱的不安定性の要因となるため磁性粒子の著しい微細化は困難である。このため、熱磁気緩和等において優位性を持つ垂直磁気記録方式が検討されている。一般的な垂直磁気記録方式では基板上に軟磁性裏打ち層(下地層)を積層し、この軟磁性裏打ち層上に非磁性層を介して垂直磁化膜を積層した2層膜媒体が用いられる。
垂直磁気記録方式では、隣接するビットの磁化が対向せず、互いのビットを強め合う性質があるので高い記録密度を実現するのに有効であると考えられる。基板と記録層の間に軟磁性裏打ち層を挿入することは垂直磁気記録媒体に非常に有効であるが、軟磁性裏打ち層の効果を発揮させるためには200nm〜400nmの膜厚が必要であり、従来の磁気記録媒体各層の成膜に用いられるスパッタリング法で軟磁性裏打ち層を形成すると異常に長時間を有し、生産コストが割高になると共に量産化が困難である。
【発明の開示】
よって、本発明の目的は、比較的安価に且つ量産化が可能な垂直磁気記録媒体を提供することである。
本発明によると、基板と、前記基板上に形成された金属下地層と、前記金属下地層上に無電解めっき法により形成された前記基板の面内方向に磁化容易軸を有する軟磁性層と、前記軟磁性層上に形成された基板面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する磁性記録層と、を具備したことを特徴とする垂直磁気記録媒体が提供される。
好ましくは、金属下地層はCo,Ni,Feからなる群から選択された元素の合金から形成される。より好ましくは、金属下地層はNi80Fe20,Ni50Fe50,FeC,FeAlSi,CoZrNb,CoTaZrからなる群から選択される合金から形成される。金属下地層はスパッタリングにより成膜され、3エルステッド(Oe)以下の保磁力を有する軟磁性薄膜から構成される。金属下地層の膜厚は10nm〜100nm、より好ましくは30nm〜70nmである。
好ましくは、軟磁性層の膜厚は100nm〜600nm、より好ましくは200nm〜400nmである。好ましくは、軟磁性層はCo,Ni,Fe及びBを含有し、Co含有量は40〜80at%、Fe含有量は15〜40at%、Ni含有量は5〜20at%、B含有量は0.5〜5at%である。
本発明の垂直磁気記録媒体は、軟磁性層を無電解めっき法により形成したことを一つの特徴とする。無電解めっき法はその成膜スピードが速く、厚膜を容易に得ることができ、尚且つバッチ処理が可能であるので非常に生産性に優れている。ガラス基板等の基板上に無電解めっき膜を形成する場合、無電解反応に活性触媒を示す下地層が必要となる。無電解めっき法はその成膜スピードが速いため、成膜された軟磁性層の保磁力が安定する1μm以上の膜厚を容易に得ることができる。
しかし、垂直磁気記録媒体の裏打ち層として用いる場合に適当とされる軟磁性層の膜厚200nm〜400nmの範囲内においては、より低保磁力化が必要とされる。無電解めっき法により比較的薄い軟磁性膜を形成する場合、従来用いられている非磁性NiP下地層に替えて、NiFe合金或いはCo合金系軟磁性膜を下地層に用いることが有効である。優れた軟磁気特性を有する金属膜を下地層として用いることで、無電解めっき膜の保磁力の膜厚依存性が小さくなり、所望の膜厚において低保磁力化が可能であり、安定した軟磁気特性を有する軟磁性裏打ち層を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明実施形態にかかる垂直磁気記録媒体の断面構成図;
図2は種々の下地層を用いた場合の保磁力の軟磁性裏打ち層の膜厚依存性を示す図;
図3Aは実施例1のBHループを示す図;
図3Bは実施例2のBHループを示す図;
図4は比較例2のBHループを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
図1を参照すると、本発明の実施例にかかる垂直磁気記録媒体2の断面構成図が示されている。2.5インチのガラスディスク基板4上に厚さ1nmのTa密着層6がスパッタリング法により成膜され、Ta密着層6上に厚さ50nmのNiFe下地層8がスパッタリング法により成膜されている。下地層8はNiFeに限定されるものではない。好ましくは、下地層8はCo,Ni,Feからなる群から選択される元素の合金から形成される。より好ましくは、下地層8はNi80Fe20,Ni50Fe50,FeC,FeAlSi,CoZrNb,CoTaZrからなる群から選択される合金から形成される。下地層の膜厚は10nm〜100nmの範囲が好ましく、特に30nm〜70nmの範囲がより好ましい。
NiFe下地層8上には厚さ300nmのCoNiFeB軟磁性裏打ち層10が無電解めっき法により形成されている。軟磁性裏打ち層10は基板4の面内方向に磁化容易軸を有している。無電解めっき法は、電気めっき法に比べ、外部電源を用いず成膜が可能であるという特徴から、微細で複雑なパターンにおいても均一な膜厚、均一な組成が得やすい成膜方法である。
本実施形態の軟磁性裏打ち層10は、Co,Ni,Fe及びBを含有し、Co含有量が40〜80at%、好ましくは50〜70at%、Fe含有量が15〜40at%、好ましくは20〜30at%、Ni含有量が5〜20at%、好ましくは10〜15at%、B含有量が0.5〜5at%、好ましくは0.5〜2at%である。更に、保磁力は8エルステッド(Oe)以下、好ましくは3Oe以下である。
無電解めっき法に用いるめっき浴中には、Coイオン、Feイオン、Niイオン、錯化剤及びホウ素含有還元剤が含まれている。金属イオンの供給源は、硫酸塩、スルファミン酸塩、酢酸塩、硝酸塩等の水溶性の塩から選択することが好ましく、特に硫酸塩を用いることが好ましい。上記めっき浴にガラス基板4を浸漬すると、無電解反応に触媒活性を示すNiFe下地層8上にCoNiFeB軟磁性裏打ち層10が成膜される。この無電解めっきにおいて、めっき温度は40〜95℃が好ましく、特に60〜80℃がより好ましい。
CoNiFeB軟磁性裏打ち層10上には厚さ10nmのRu中間層12がスパッタリング法により成膜されている。Ru中間層12上には厚さ20nmのCoCrPt記録層14がスパッタリング法により成膜されている。記録層14は基板面に対して垂直方向の磁化容易軸を有している。CoCrPt記録層14上にはダイヤモンドライクカーボンからなる厚さ4nmの保護膜16がスパッタリング法により成膜されており、保護膜16上にはパーフルオロポリエーテルからなる厚さ1nmの潤滑層18がスパッタリング法により成膜されている。
以下の実験では、2.5インチガラスディスク基板、Ta密着層(1nm)、Ni80Fe20又はNiP下地層(50nm)、CoNiFeB軟磁性層からなる積層膜を作成し、その磁気特性を評価した。静磁気特性(保磁力)は振動試料型磁力計(VSM)により測定した。図2に種々の下地層を用いた場合の軟磁性裏打ち層の膜厚の保磁力依存性を示す。
図2から明らかなように、いずれの下地層を用いた場合においても、軟磁性裏打ち層の膜厚の増加に伴って保磁力Hcが減少し、膜厚が1000nm以上において保磁力は一定値に安定する。しかしその一定値は、軟磁性裏打ち層が同一材料にも関わらず下地層の種類によって異なり、保磁力が小さい順に下地層はNiFeのみ、NiP/NiFe,NiPのみとなる。
下地層にNiPのみを用いた場合は、膜厚200nmで保磁力30Oe以上となり、下地層にNiPとNiFeを併用して用いた場合には、膜厚200nmで保磁力は20Oe程度となる。いずれの場合でも、記録層の裏打ち層として用いる軟磁性材料としては保磁力が大きすぎる。これに対して、下地層としてNiFeを用いた場合には、膜厚200nmで保磁力が5Oeまで低下しており、軟磁性裏打ち層の膜厚の保磁力依存性を小さくすることができる。
軟磁性裏打ち層の膜厚として好ましいとされる100nm〜600nmの膜厚範囲、より好ましくは200nm〜400nmの膜厚範囲において、無電解めっきにより成膜された低保磁力を示す軟磁性裏打ち層を得ることができた。下地層としてNiPを用いた場合でも、軟磁性裏打ち層の膜厚が700nm以上では保磁力が一定値に安定しており、軟磁性裏打ち層の膜厚を厚くすることにより所望の特性を得ることができる。
実施例及び比較例における膜構成及び保磁力(困難方向)を表1に示す。

表1から明らかなように、下地層に膜厚50nmのNi80Fe20を用いた実施例1では、軟磁性層の膜厚310nmで3.2Oeという非常に小さな保磁力が得られている。また、下地層として膜厚50nmのNiPを用いた場合にも、軟磁性裏打ち層の膜厚を1000nmと厚くすることにより比較的小さな保磁力を得ることができる。一方、比較例1及び比較例2では、保磁力を十分低減することができず、好ましくない。
図3Aに実施例1のBHループを、図3Bに実施例2のBHループを示す。図4に比較例2のBHループを示す。これらの図において、Rがディスク半径方向のBHループであり、Cがディスク周方向のBHループである。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、無電解めっき法により所望の軟磁気特性を有する垂直磁気記録媒体の裏打ち層の作成が可能となる。よって、垂直方向の記録磁界を優先的に強め且つ急峻化することができ、より高記録密度の記録が可能となる。
【図1】

【図2】


【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された金属下地層と、
前記金属下地層上に無電解めっき法により形成された前記基板の面内方向に磁化容易軸を有する軟磁性層と、
前記軟磁性層上に形成された基板面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する磁性記録層と、
を具備したことを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記金属下地層はCo,Ni,Feからなる群から選択された元素の合金から形成される請求項1記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記金属下地層は3エルステッド以下の保磁力を有する軟磁性薄膜から構成される請求項1記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記金属下地層はNi80Fe20,Ni50Fe50,FeC,FeAlSi,CoZrNb,CoTaZrからなる群から選択される合金から形成される請求項1記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記軟磁性層は100nm〜600nmの厚さを有している請求項1記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記金属下地層は10nm〜100nmの厚さを有している請求項1記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
前記軟磁性層はCoNiFeBから構成される請求項1記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
Co含有量が40〜80at%、Fe含有量が15〜40at%、Ni含有量が5〜20at%、B含有量が0.5〜5at%である請求項7記載の垂直磁気記録媒体。

【国際公開番号】WO2004/061829
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564434(P2004−564434)
【国際出願番号】PCT/JP2002/013711
【国際出願日】平成14年12月26日(2002.12.26)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】