説明

埋設金属パイプラインのカソード防食方法及びカソード防食システム

【課題】鋳鉄管と鋼管が絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインをカソード防食している現場で、鋳鉄管のカソード防食状態を適正に把握することができ、実際にカソード防食を行っている現場での定期点検において、短い作業時間で効率的に点検作業を行うことができる。
【解決手段】鋼管P1に定電流制御された流電陽極10を接続し、鋼管P1と鋳鉄管P2との間を流れるボンド電流を生じさせるボンド電流回路20を絶縁継手IJと並列に接続する。ボンド電流回路20には、ボンド電流回路20をオン・オフする回路遮断手段21を設ける。流電陽極10の発生電流によって鋼管P1と鋳鉄管P2の両方をカソード防食している状態で回路遮断手段21をオフにして、鋳鉄管P2における管対地電位の計測値変化から鋳鉄管P2の復極量edを求め、復極量edに基づいて鋳鉄管P2のカソード防食状態を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管と鋳鉄管が絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインのカソード防食方法及びカソード防食システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
埋設金属パイプラインには、連続した一本のパイプラインに鋳鉄管と鋼管が混在している場合がある。鋳鉄管は、長年にわたり日本や欧米を含む様々な地域で水道やガスなどのパイプラインとして用いられている。この鋳鉄管は、低強度材料であるため、埋設箇所の地上環境変化などによって埋設パイプラインの一部に強度上の問題が生じた場合には、既設の鋳鉄管に換わって延性特性を有し高強度の鋼管を部分的に接続することが行われる。また、既設の鋳鉄管の端部を長い延長距離に亘って新たに敷設した鋼管に接続することも行われている。いずれにしても鋳鉄管は鋼管よりも敷設年数が長く、鋳鉄管外面には鉄酸化物などから成る腐食生成物が見られることが多い。
【0003】
このように鋳鉄管と鋼管が混在した埋設金属パイプラインでは、鋼管には歴青質塗覆装又はプラスチック被覆が施されており、鋳鉄管は塗覆装や被覆の無い、いわゆる裸管である。このような埋設金属パイプラインにおいて、仮に鋼管と鋳鉄管が電気的に接続されているとすると、鋼管の塗覆装や被覆に欠陥部(鋼管と土壌のような電解質との接触部)が生じた場合に、この欠陥部の鋼管がアノードになり、表面を鉄酸化物などの腐食生成物で覆われた鋳鉄管がカソードになる腐食電池が形成され、鋼管の塗覆装又は被覆の欠陥部で腐食が進行することになる。このような腐食を防止するために、鋼管と鋳鉄管は絶縁継手を介して接続されており、更に鋼管に対してはカソード防食が施されている。
【0004】
下記特許文献1には、鋳鉄管と鋼管が接続された埋設金属パイプラインを効果的にカソード防食する方法が示されている。この方法は、鋳鉄管と鋼管が絶縁継手を介して接続されている埋設金属パイプラインにおいて、鋼管側に発生電流を定電流制御し得るカソード防食電流発生手段を接続し、更に、逆並列接続したダイオードを絶縁継手と並列に鋳鉄管と鋼管に接続している。そして、絶縁継手の両側でそれぞれ計測される管対地電位の差がダイオードの動作電位以上になるように、カソード防食電流発生手段からの電流を鋳鉄管に流入させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−1549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した従来技術によると、鋼管側に接続したカソード防食電流発生手段が発生するカソード防食電流の一部を鋳鉄管側に流入させることができ、鋼管側が過防食になることがなく、また、他の埋設金属パイプラインの直流干渉リスクを誘発させることなく、効果的に両管をカソード防食することが可能になる。
【0007】
このような従来技術によると、塗覆装又は被覆が施されていない鋳鉄管は塗覆装又は被覆が施されている鋼管よりも接地抵抗が低いので、カソード防食電流の大半が鋳鉄管側に流入して、鋳鉄管の管対地電位をマイナス側にシフトさせる。また、この状態でも鋳鉄管の管対地電位は鋼管の管対地電位よりプラス側の値であるため、両管に接続されたダイオードが動作し、鋳鉄管側から鋼管側にダイオードを経由して電流が流れ、このような状態が継続することで鋳鉄管のカソード分極を進行させている。
【0008】
このようなカソード防食方法においては、鋼管と鋳鉄管の両方が適正なカソード防食状態にあるか否かの把握が問題になる。鋼管のカソード防食状態は、鋼管側で計測される管対地電位がカソード防食電位(例えば、−850mVCSE;飽和硫酸銅電極基準)よりマイナス側であるか否かでその良否を判断することができる。これに対して、鋳鉄管はいわゆる裸管であるため、カソード防食電位まで管対地電位をマイナス側にシフトさせようとすると、多大なカソード防食電流が必要になり、他の埋設金属構造物の直流干渉リスクを誘発する問題や、鋼管側の過防食が問題になる。そこで、鋳鉄管のカソード防食状態をいかに定量的に把握し、カソード防食状態の良否を判断するかが問題になる。
【0009】
一方、塗覆装のない埋設金属構造物などのカソード防食状態を把握する基準として、最小100mVカソード分極を指標としたカソード防食基準が知られている。これは、埋設金属構造物に対するカソード防食電流の印加によるカソード分極量を計測し、計測されたカソード分極量が100mV以上であればカソード防食基準に合格していると判断するものである。この基準は、金属が最小100mVカソード分極した状態における腐食速度が自然腐食速度より一桁小さくなるという、電気化学理論から導き出される根拠に基づくものである。
【0010】
この最小100mVカソード分極基準を、鋳鉄管のカソード防食状態の把握に利用しようとすると、先ず、埋設された鋳鉄管の自然電位を知る必要があり、カソード防食を開始して鋳鉄管のカソード分極が進行する過程での管対地電位を逐次計測する必要がある。そして、計測された管対地電位と自然電位との差からIRドロップを差し引いた値をカソード分極量として求めることが必要になる。ここでのIRドロップとは、カソード防食電流Iと土壌抵抗Rの積による電位降下であって、カソード防食電流の印加によって生じる管対地電位のマイナスシフト量の中でカソード分極に寄与していない電位降下である。
【0011】
前述した従来技術を用いて、鋳鉄管と鋼管が絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインにおいて、鋳鉄管のカソード分極量を求めるためには、先ずカソード防食電流を遮断して鋳鉄管の自然電位を求め、その後カソード防食電流を印加して鋳鉄管の管対地電位の変化を計測することが必要になる。しかしながら、カソード防食電流を遮断することで、鋳鉄管が自然電位に戻るまでの長時間に亘って鋼管と鋳鉄管を無防食状態にすること自体が防食管理上問題になる。
【0012】
更には、特に鉄酸化物で覆われた鋳鉄管のカソード分極の速度は速いとは言えないので、長時間に亘って鋳鉄管の管対地電位の変化を計測し続けることが必要になり、実際にカソード防食を行っている現場での定期点検で鋳鉄管のカソード分極量を求めようとすると、点検に要する時間が長くなり、効率的に点検作業を行うことができない問題がある。
【0013】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、鋳鉄管と鋼管が絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインにおいて、鋳鉄管のカソード防食状態を適正に把握することができること、また、実際にカソード防食を行っている現場での定期点検において、短い作業時間で効率的に点検作業を行うことができること、などが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するために、本発明による埋設金属パイプラインのカソード防食方法及びカソード防食システムは、以下の構成を少なくとも具備するものである。
【0015】
塗覆装又は被覆が施された鋼管と塗覆装又は被覆が施されていない鋳鉄管とが絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインのカソード防食方法であって、前記鋼管に定電流制御された流電陽極を接続し、前記鋼管と前記鋳鉄管との間を流れるボンド電流を生じさせるボンド電流回路を前記絶縁継手と並列に接続し、前記ボンド電流回路には、当該ボンド電流回路をオン・オフする回路遮断手段が設けられ、前記流電陽極の発生電流によって前記鋼管と前記鋳鉄管の両方をカソード防食している状態で前記回路遮断手段をオフにして、前記鋳鉄管における管対地電位の計測値変化から前記鋳鉄管の復極量を求め、該復極量に基づいて前記鋳鉄管のカソード防食状態を判断することを特徴とする埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【0016】
塗覆装又は被覆が施された鋼管と塗覆装又は被覆が施されていない鋳鉄管とが絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインのカソード防食システムであって、前記鋼管に接続されて定電流制御された流電陽極と、前記絶縁継手と並列に接続され、前記鋼管と前記鋳鉄管との間を流れるボンド電流を生じさせるボンド電流回路と、前記ボンド電流回路に設けられ、当該ボンド電流回路をオン・オフする回路遮断手段と、前記鋳鉄管に接続され当該鋳鉄管の管対地電位を計測する鋳鉄管側管対地電位計測手段と、前記流電陽極の発生電流によって前記鋼管と前記鋳鉄管の両方をカソード防食している状態で前記回路遮断手段をオフにして、前記鋳鉄管における管対地電位の計測値変化から前記鋳鉄管の復極量を求め、該復極量に基づいて前記鋳鉄管のカソード防食状態を判断するカソード防食状態判断手段とを備えることを特徴とする埋設金属パイプラインのカソード防食システム。
【発明の効果】
【0017】
このような特徴による埋設金属パイプラインのカソード防食方法及びカソード防食システムによると、以下の効果を得ることができる。
【0018】
鋳鉄管側のカソード防食状態を把握する際に、ボンド電流回路をオフにして、鋳鉄管に流入するカソード防食電流を遮断している。これによると、その間、鋼管側は流電陽極と接続されているので、鋼管のカソード防食状態を適正に維持することができる。
【0019】
鋳鉄管の復極量は、ボンド電流回路をオフした直後に大きく変化してその後の復極量は時間の経過に対して徐々に鈍くなる性質がある。したがって、復極量に基づいて鋳鉄管が適正にカソード分極されていたか否かを判断するには、ボンド電流回路をオフにした後の比較的短時間の計測値変化によって得られる復極量で十分な判断が可能になる。これによって、鋳鉄管のカソード防食状態を把握する際に、鋳鉄管に流入するカソード防食電流を遮断する時間を短くすることができる。また、これにより、鋳鉄管のカソード防食状態を把握するための点検作業を短時間で効率よく行うことができる。
【0020】
更には、鋳鉄管における管対地電位の計測値変化から求められる復極量はIRドロップが厳格に計測評価されているので、正確な鋳鉄管の復極量に基づいて鋳鉄管のカソード防食状態を適正に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る埋設金属パイプラインのカソード防食方法又はカソード防食システムを説明する説明図である。
【図2】鋼管側管対地電位計測手段と鋳鉄管側管対地電位計測手段によってそれぞれ計測される鋼管側の管対地電位(P/S)P1と鋳鉄管側の管対地電位(P/S)P2の経時変化を示した説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係るカソード防食方法の工程例を示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る埋設金属パイプラインのカソード防食方法又はカソード防食システムを説明する説明図である。本発明の実施形態に係るカソード防食方法又はカソード防食システムの対象は、鋳鉄管P2を含む埋設金属パイプラインであって、絶縁継手IJを介して鋼管P1と鋳鉄管P2が接続されている。鋼管P1は歴青質塗覆装又はプラスチック被覆Cが施されており、鋳鉄管P2は塗覆装又はプラスチック被覆Cが施されていない、いわゆる裸管である。
【0023】
このような埋設金属パイプラインに対して設置されるカソード防食システム1の構成例を説明する。このカソード防食システム1は、一つのカソード防食電流発生源によって、絶縁継手IJを介して接続された鋼管P1と鋳鉄管P2の両方をカソード防食することができるシステムである。また、このカソード防食システムは、鋼管P1と鋳鉄管P2のカソード防食状態を共に定量的に評価することができ、鋼管P1と鋳鉄管P2のカソード防食状態が適正になり、カソード防食電流を必要且つ十分な大きさに設定できるように、システム条件を設定調整することができるシステムである。
【0024】
カソード防食システム1は、鋼管P1に接続された流電陽極10と、絶縁継手IJと並列に鋼管P1と鋳鉄管P2に接続されるボンド電流回路20と、ボンド電流回路20をオン・オフする回路遮断手段21と、鋳鉄管P2に接続されて鋳鉄管P2の管対地電位を計測する鋳鉄管側管対地電位計測手段30と、カソード防食状態判断手段40を少なくとも備えている。
【0025】
更にカソード防食システム1は、図示の例では、前述した構成に加えて、鋼管P1に接続されて鋼管P1の管対地電位を計測する鋼管側管対地電位計測手段50、ボンド電流回路20を流れるボンド電流を計測するボンド電流計測手段22などを備えている。
【0026】
このカソード防食システム1ではカソード防食電流の発生源として流電陽極10が用いられる。流電陽極10はより接地抵抗の高い鋼管P1に接続されている。流電陽極10をより接地抵抗の高い鋼管P1側に接続することで、流電陽極10から発生するカソード防食電流を低く抑えることができる。流電陽極10としてはMg陽極が適する。鋼管P1と流電陽極10とを接続する接続線11には、流電陽極10からの発生電流を定電流制御する定電流制御手段12が接続され、この定電流制御手段12を介して流電陽極10は鋼管P1に接続されている。定電流制御手段12は、流電陽極10からの発生電流を定電流制御できるものであればよく、例えば、直流電池(乾電池)12Aと迷走電流が鋼管P1に流入するのを防止するダイオード(ショットキー・バリア・ダイオード)12Bとを直列接続した乾電池外電が簡易に設置可能な設備として好ましい。
【0027】
このカソード防食システム1では、カソード防食電流発生源として流電陽極(Mg陽極)10を用いているので、カソード防食電流発生源と防食対象である鋼管P1,鋳鉄管P2との距離は比較的短く設定される。これによって、流電陽極10と防食対象である鋼管P1,鋳鉄管P2との間に他の埋設金属構造物が存在する可能性は少なくなり、流電陽極10から発生するカソード防食電流が他の埋設金属構造物に干渉するリスクは少なくなる。
【0028】
鋼管P1と鋳鉄管P2はボンド電流回路20で接続されている。ボンド電流回路20は、絶縁継手IJと並列に接続されて鋼管P1と鋳鉄管P2との間を流れるボンド電流を生じさせる回路である。ボンド電流回路20には、ボンド電流が発生する動作開始電圧を設定調整可能な双方向に並列接続されたダイオード20Aを含み、必要に応じて、雷などのサージ対策として、ダイオード20Aと直列に複数のコイルやヒューズが接続され、ダイオード20Aと並列に電源用保安器やバリスタが接続されている。ボンド電流回路20は、ダイオード20Aの特性を選択して、その立ち上がり特性を調整することでボンド電流が発生する動作開始電圧を調整することができる。ボンド電流回路20には、ボンド電流回路20をオン・オフする回路遮断手段21が直列に接続されている。また、ボンド電流回路20には、ボンド電流を計測するボンド電流計測手段22が直列に接続されている。
【0029】
回路遮断手段21は、ボンド電流回路20のオン状態(通電状態)とオフ状態(遮断状態)を切り替えることができるスイッチ手段であり、常時はボンド電流回路20をオン状態(通電状態)にしておき、必要時(鋳鉄管に対するカソード防食状態の点検時)にのみボンド電流回路20をオフ状態にする。回路遮断手段21は、機械的なスイッチ手段によって構成することができるが、動作の安定性を確保するために非接触型のスイッチ素子(例えば、非接触型半導体リレー)を用いることが好ましい。非接触型のスイッチ素子を用いることで、鋳鉄管P2に対するカソード防食状態点検時にボンド電流回路20をオン・オフする際の機械的な接点不良を回避することができ、安定した電位計測を行うことが可能になる。
【0030】
鋳鉄管側管対地電位計測手段30は、地上に設置した照合電極(例えば、飽和硫酸銅電極)31と電圧計33を備え、照合電極31と鋳鉄管P2とを接続する接続線32に電圧計33を接続している。鋳鉄管側の管対地電位(P/S)P2は、鋳鉄管P2と照合電極31との電位差を計測する電圧計33の計測値によって得ることができる。鋼管側管対地電位計測手段50は、地上に設置した照合電極(例えば、飽和硫酸銅電極)51と電圧計53を備え、照合電極51と鋼管P1とを接続する接続線52に電圧計53を接続している。鋼管側の管対地電位(P/S)P1は、鋼管P1と照合電極51との電位差を計測する電圧計53の計測値によって得ることができる。
【0031】
本発明の実施形態に係るカソード防食システム1が備えるカソード防食状態判断手段40は、流電陽極10の発生電流によって鋼管P1と鋳鉄管P2の両方をカソード防食している状態で回路遮断手段21をオフにして、鋳鉄管P2における管対地電位の計測値変化から鋳鉄管P2の復極量を求め、この復極量に基づいて鋳鉄管P2のカソード防食状態を判断するものである。また、カソード防食状態判断手段40は、鋼管P1の管対地電位をカソード防食電位(例えば、−850mVCSE)と比較して鋼管P1のカソード防食状態を判断するものである。
【0032】
このようなシステム構成を備えたカソード防食システムを用いたカソード防食方法、或いは前述したカソード防食システムにおけるカソード防食状態の点検について以下に説明する。
【0033】
鋼管P1に接続された流電陽極(Mg陽極)10の発生電流を定電流制御手段12によって定電流制御した状態でボンド電流回路20をオン状態(回路遮断手段21をオン)にすると、流電陽極10から発生する電流(カソード防食電流)は、その一部が鋳鉄管P2に流入し、その残りが鋼管P1をカソード防食する。この際、流電陽極10から発生する電流のうち、どの程度が鋳鉄管P2に流入し、鋼管P1と鋳鉄管P2のカソード防食状態がどのようになっているかを把握することが、両管を適正にカソード防食する上で必要になる。
【0034】
図2は、鋼管側管対地電位計測手段50と鋳鉄管側管対地電位計測手段30によってそれぞれ計測される鋼管側の管対地電位(P/S)P1と鋳鉄管側の管対地電位(P/S)P2の経時変化を示した説明図である。鋼管P1のカソード防食状態が適正であるか否かは、ボンド電流回路20をオフ(回路遮断手段21をオフ)にする前の鋼管P1の管対地電位(EONP1がカソード防食電位(例えば、−850mVCSE)よりマイナス側であるか否かで判断することができる。カソード防食状態判断手段40は、鋼管側管対地電位計測手段50によって計測された鋼管P1の管対地電位(EONP1を基準値であるカソード防食電位と比較して、管対地電位(EONP1がカソード防食電位よりマイナス側であれば適正なカソード防食状態にあると判断する。
【0035】
これに対して、鋳鉄管P2のカソード防食状態が適正であるか否かの判断にカソード防食電位基準を適用することは好ましくない。既設で塗覆装又はプラスチック被覆が施されていない鋳鉄管P2の表面には鉄酸化物などの腐食生成物が存在しており、これによって鋳鉄管P2の表面は熱力学的に安定な状態が維持されている。カソード防食を施していない鋳鉄管P2単独の管対地電位は−400〜−500mVCSEを示す場合が多いが、この鋳鉄管P2に−850mVCSEのカソード防食電位基準を適用すると、大きなカソード防食電流を鋳鉄管P2に流入させることになり、表面の腐食生成物の還元反応を誘発し、腐食生成物が溶解することでカソード防食電流がかえって鋳鉄管P2に悪影響を及ぼすことになる。また、大きなカソード防食電流によって、鋼管P1が過防食になる問題があり、他の金属埋設構造物への直流干渉を誘発することが問題になる。
【0036】
そこで、鋳鉄管P2のカソード防食状態が適正であるか否かの判断は、流電陽極10の発生電流によって鋼管P1と鋳鉄管P2の両方をカソード防食している状態で回路遮断手段21をオフにして、鋳鉄管P2における管対地電位(P/S)P2の計測値変化から鋳鉄管P2の復極量edを求め、この復極量edに基づいて鋳鉄管P2のカソード防食状態を判断する。
【0037】
図2に示すように、流電陽極10の発生電流によって鋼管P1と鋳鉄管P2の両方をカソード防食している状態(ON状態)では、鋳鉄管P2の管対地電位(P/S)P2は−850mVCSEのカソード防食電位よりプラス側の値(オン電位(EONP2)を示している。そして、回路遮断手段21をオフにすると、鋳鉄管P2へのカソード防食電流の流入が遮断されることになるので、鋳鉄管P2の管対地電位(P/S)P2はオン電位(EONP2から更にプラス側にシフトする。この際、回路遮断手段21のオフ直後にはスパイクなどによって図示aのような異常電位が計測されることがあるが、その後は安定なオフ電位(EOFFP2となり、更に復極現象によって時間の経過に伴って管対地電位(P/S)P2は徐々にプラス側にシフトしていく。
【0038】
鋳鉄管P2の復極量edは、回路遮断手段21をオフにした後、設定時間経過後に計測される鋳鉄管P2の管対地電位(P/S)P2からオフ電位(EOFFP2を差し引いた値であり、回路遮断手段21をオフにする前後の設定時間内で管対地電位(P/S)P2の変化を経時記録することで求めることができる。カソード防食状態判断手段40は、時間経過に伴って逐次復極量edを求め、この復極量edが設定された基準値(例えば50mV)を超えた場合に鋳鉄管P2のカソード防食状態が適正であると判断する。この際、IRドロップは、オフ電位(EOFFP2とオン電位(EONP2の差として現れるが、オフ電位(EOFFP2からの変化量として復極量edを求めることでIRドロップを厳密に計測評価から外すことができ、復極現象を定量的に示す値として復極量edを正確に求めることが可能になる。
【0039】
ここで、復極量edは復極直後、活性復極であれば時間経過に対して対数関数的に変化することが知られている。すなわち、回路遮断手段21をオフした後の比較的短い時間内に復極量edはある程度大きな値になり、その後の復極量edは時間経過に対して小さい値になる。したがって、回路遮断手段21をオフにする前にカソード防食が施されていた鋳鉄管P2が十分にカソード分極していたかどうか、即ち、鋳鉄管P2のカソード防食状態が適正であったかどうかを判断するために、完全な復極を待つ必要は無く、比較的短い時間内での復極量edが設定された基準値を超えていればカソード防食状態は適正であったと判断することができる。逆に言えば、比較的短い時間内での復極量edが設定された基準値を超えなければ、その後いくら時間をかけても復極量edが大きく変わることはないので、その時点でカソード防食状態が不適正であったと判断することができる。
【0040】
このように、鋳鉄管P2の復極に着目してカソード防食状態を把握することで、点検のための作業時間を格段に短くすることができ、点検作業の効率化が可能になる。また、回路遮断手段21をオフにしてから再びオンにするまでの時間を短くすることができ、鋳鉄管P2を完全に復極させることもないので、点検に伴う鋳鉄管P2の腐食リスクを極力少なくすることができる。回路遮断手段21を再びオンにした後は速やかに元の適正なカソード防食状態に戻すことができる。
【0041】
また、回路遮断手段21をオフにしてから再びオンにするまでの間の鋼管P1側の管対地電位(P/S)P1は鋳鉄管P2に流入されるカソード防食電流が遮断されることで鋼管P1側のカソード防食状態が改善されることになり、その間のオフ電位(EOFFP1はオン電位(EONP1よりもマイナス側にシフトすることになる。したがって、回路遮断手段21をオフにした場合にも鋼管P1のカソード防食状態を適正に維持することができる。
【0042】
図3は、本発明の実施形態に係るカソード防食方法の工程例を示したフロー図である。先ずは、前述したカソード防食システム1におけるシステム条件の設定がなされる(S1)。システム条件としては、定電流制御手段12の定電流値とボンド電流回路20の起動電圧が初期設定される。ここでは、先ず、ボンド電流回路20をオン状態にして、鋼管P1と鋳鉄管P2に対してカソード防食を行い、鋼管側管対地電位計測手段50によって計測される鋼管P1の管対地電位(P/S)P1がカソード防食基準に合格しているか(カソード防食電位よりマイナス側であるか)否かを確認する。また、ボンド電流計測手段22によって計測されるボンド電流が鋳鉄管P2側から鋼管P1側に適正な値で流れているか否かを確認する。
【0043】
鋼管P1の管対地電位(P/S)P1がカソード防食基準に合格していることは、当初のシステム設計の大前提であり、計測した鋼管P1の管対地電位(P/S)P1がカソード防食基準に合格していない場合は、流電陽極10の定電流値の設定やボンド電流回路20の起動電圧の設定などを含めた基本設定の変更を行って、鋼管P1の管対地電位(P/S)P1がカソード防食基準に合格するような対策を講じる必要がある。鋼管P1の管対地電位(P/S)P1がカソード防食基準に合格しており、ボンド電流計測手段22によって計測されるボンド電流が鋳鉄管P2側から鋼管P1側に向けて適正に流れている状態で、カソード防食を継続する(S2)。
【0044】
その後に行われる定期点検では、カソード防食状態判断手段40を設置し、鋼管P1と鋳鉄管P2のカソード防食状態が適正であるか否かを判断する(S3)。先ずは、ボンド電流回路20のオン状態で鋼管P1の管対地電位(P/S)P1を計測し(S4)、カソード防食状態判断手段40によって、管対地電位(P/S)P1がカソード防食電位よりマイナス側であるか否かを判断する(S5)。
【0045】
更に、カソード防食状態判断手段40は、鋳鉄管側管対地電位計測手段30の計測値に基づいて鋳鉄管P2の復極量edを求める(S6)。そして、カソード防食状態判断手段40は、復極量edが設定された基準値(例えば、50mV)を超えているか否かで鋳鉄管P2のカソード防食状態を判断する(S7)。
【0046】
鋳鉄管P2の復極量edを求めるためのカソード防食状態判断手段40の動作例を更に詳細に説明する。カソード防食状態判断手段40は、回路遮断手段21をオフにする動作指示を出力する前の設定時間(例えば10〜20s)と、回路遮断手段21をオフにする動作指示を出力した後の設定時間(例えば1〜15min)で、管対地電位(P/S)P2の電位波形(電位の時間変化)を記録する。その間、鋳鉄管側管対地電位計測手段30の計測値は0.1msec毎にサンプリングされ、交流の商用周波数50Hzの1周期である20ms毎の計測時間平均値を求め、これを計測時刻と共に記録する。20ms毎の計測時間平均値を求めることで、交流誘導の影響による計測値の経時変化を相殺することが可能になる。
【0047】
例えば、回路遮断手段21のオフ後1分(1000ms)の復極量edを求めるためには、回路遮断手段21のオフ後980msから1000msの間の20msにおける計測時間平均値から、回路遮断手段21のオフ後180msから200msの間の20msにおける計測時間平均値を差し引いて、この値を復極量edとする。回路遮断手段21のオフ後180msから200msの間の計測時間平均値は、スパイクなどの異常電位を除去したオフ電位(EOFFP2である。復極量edは、例えば、回路遮断手段21のオフ後1分毎に求め、求めた復極量edが設定された基準値(例えば、50mV)を超えた時点で、鋳鉄管P2のカソード防食状態が適正であると判断する。
【0048】
そして、鋼管P1の管対地電位(P/S)P1がカソード防食電位よりマイナス側でない場合(S5:NO)、又は、鋳鉄管P2の復極量edが設定された基準値を超えていない場合(S7:NO)は、システム条件の変更を行い(S10)、再びカソード防食条件の点検を行う(S3)。カソード防食条件の点検の結果、鋼管P1の管対地電位(P/S)P1がカソード防食電位よりマイナス側であり(S5:YES)、且つ、鋳鉄管P2の復極量edが設定された基準値を超えている場合(S7:YES)には、点検を終了し(S8)、鋼管P1と鋳鉄管P2に対するカソード防食を継続する(S9)。
【0049】
以上説明したような本発明の実施形態に係るカソード防食方法又はカソード防食システム1によると、鋼管P1と鋳鉄管P2が接続された埋設金属パイプラインに対して、一つのカソード防食電流発生源によって効果的にカソード防食を行うことができ、絶縁継手IJを介して接続される鋼管P1と鋳鉄管P2をそれぞれ適正なカソード防食状態に維持管理することができる。
【0050】
カソード防食システム1は、鋳鉄管P2側のカソード防食状態を把握する際に、ボンド電流回路20をオフにして、鋳鉄管P2に流入するカソード防食電流を遮断している。これにより、鋳鉄管P2側のカソード防食状態を把握する際にも鋼管P1側は流電陽極10と常時接続されており、鋼管P1側のカソード防食状態を適正に維持することができる。
【0051】
また、鋳鉄管P2の復極量edは、ボンド電流回路20をオフにした直後に大きく変化してその後の変化量は時間の経過に対して徐々に鈍くなる性質があり、復極量edに基づいて鋳鉄管P2が適正にカソード分極されていたか否かを判断するには、ボンド電流回路20をオフにした後の比較的短時間の計測値変化によって得られる復極量edで十分な判断が可能である。これによって、鋳鉄管P2のカソード防食状態を把握する際に鋳鉄管P2に流入するカソード防食電流を遮断する時間を短くすることができ、また、鋳鉄管P2のカソード防食状態を把握するための点検作業を短時間で効率よく行うことができる。
【0052】
また、鋳鉄管P2における管対地電位の計測値変化から求められる復極量edはIRドロップを厳格に計測評価しているので、正確な鋳鉄管P2の復極現象に基づいて鋳鉄管P2のカソード防食状態を適正に把握することができる。
【符号の説明】
【0053】
1:カソード防食システム,
10:流電陽極,11:接続線,12:定電流制御手段,
20:ボンド電流回路,21:回路遮断手段,22:ボンド電流計測手段,
30:鋳鉄管側管対地電位計測手段,50:鋼管側管対地電位計測手段,
31,51:照合電極,32,52:接続線,33,53:電圧計,
40:カソード防食状態判断手段,
P1:鋼管,P2:鋳鉄管,IJ:絶縁継手,
C:歴青質塗覆装又はプラスチック被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗覆装又は被覆が施された鋼管と塗覆装又は被覆が施されていない鋳鉄管とが絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインのカソード防食方法であって、
前記鋼管に定電流制御された流電陽極を接続し、
前記鋼管と前記鋳鉄管との間を流れるボンド電流を生じさせるボンド電流回路を前記絶縁継手と並列に接続し、
前記ボンド電流回路には、当該ボンド電流回路をオン・オフする回路遮断手段が設けられ、
前記流電陽極の発生電流によって前記鋼管と前記鋳鉄管の両方をカソード防食している状態で前記回路遮断手段をオフにして、前記鋳鉄管における管対地電位の計測値変化から前記鋳鉄管の復極量を求め、該復極量に基づいて前記鋳鉄管のカソード防食状態を判断することを特徴とする埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【請求項2】
前記復極量を設定された基準値と比較し、前記復極量が設定された基準値を超える場合に前記鋳鉄管のカソード防食状態が適正であると判断することを特徴とする請求項1に記載された埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【請求項3】
前記復極量は、前記回路遮断手段のオフ直後の異常電位を除いたオフ電位に対する管対地電位の変化量によって求めることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載された埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【請求項4】
前記復極量が設定された基準値を超えるように、前記流電陽極の定電流値を調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【請求項5】
前記回路遮断手段のオフ前における前記鋼管の管対地電位がカソード防食電位よりマイナス側であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載された埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【請求項6】
塗覆装又は被覆が施された鋼管と塗覆装又は被覆が施されていない鋳鉄管とが絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインのカソード防食システムであって、
前記鋼管に接続されて定電流制御された流電陽極と、
前記絶縁継手と並列に接続され、前記鋼管と前記鋳鉄管との間を流れるボンド電流を生じさせるボンド電流回路と、
前記ボンド電流回路に設けられ、当該ボンド電流回路をオン・オフする回路遮断手段と、
前記鋳鉄管に接続され当該鋳鉄管の管対地電位を計測する鋳鉄管側管対地電位計測手段と、
前記流電陽極の発生電流によって前記鋼管と前記鋳鉄管の両方をカソード防食している状態で前記回路遮断手段をオフにして、前記鋳鉄管における管対地電位の計測値変化から前記鋳鉄管の復極量を求め、該復極量に基づいて前記鋳鉄管のカソード防食状態を判断するカソード防食状態判断手段とを備えることを特徴とする埋設金属パイプラインのカソード防食システム。
【請求項7】
前記鋼管に接続され当該鋼管の管対地電位を計測する鋼管側管対地電位計測手段を備え、
前記カソード防食状態判断手段は、前記鋼管の管対地電位をカソード防食電位と比較して前記鋼管のカソード防食状態を判断することを特徴とする請求項6に記載された埋設金属パイプラインのカソード防食システム。
【請求項8】
前記カソード防食状態判断手段は、前記回路遮断手段をオフにする前後の設定時間内で前記鋳鉄管の管対地電位の経時変化を記録することを特徴とする請求項7に記載された埋設金属パイプラインのカソード防食システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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