説明

培養槽装置、細胞培養方法及び物質生産方法

【課題】培養槽の上部における溶存酸素濃度と下部における溶存酸素濃度との較差を小とする。
【解決手段】培養槽と、培養槽内の下部に配置された散気手段と、培養槽上下方向に複数段に配置されるとともに、下段よりも上段のほうが単位回転数当たりの物質移動容量係数KLaの大きい複数の攪拌翼とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養槽内に対して通気撹拌しながら細胞を培養する培養槽装置、当該培養槽装置を用いた細胞培養方法及び当該培養槽装置を用いた物質生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大腸菌などの微生物を培養するための培養槽は、微生物を用いて有用物質を生産する手段として広く用いられている。微生物培養槽では、散気管より酸素あるいは空気を培養槽内に通気しつつ、攪拌翼で攪拌して、槽内の溶存酸素濃度を一定に保つように制御がなされる。槽内では気泡中の酸素ガスが液中に溶存酸素として溶け込み、菌体は一定の消費速度で溶存酸素を吸収する。この気泡から液中への酸素溶解速度と菌体による酸素消費速度が釣り合うことにより、培養槽内の溶存酸素濃度が一定に保たれる。単位体積当たりの酸素消費速度は、菌体重量当たりの酸素消費速度と単位液体積あたり菌体重量の積で与えられるが、培養槽内の全領域において概ね一定値となる。
【0003】
一方、培養槽底部の散気管から投入された気泡は、上部の培養槽液面にむけて上昇する過程で液中に酸素が溶解し気泡中の酸素分圧が低下していくため、培養槽上部へいくほど酸素溶解速度が減少していく。このため、培養槽下部の溶存酸素濃度が高く、培養槽上部の溶存酸素濃度が低くなり、培養槽の溶存酸素濃度に濃度勾配が生じる。このことは、大きな酸素消費速度を有する菌体ほど顕著である。制御的には培養槽内の溶存酸素濃度の平均値を用いて制御をおこなうことになるが、平均値よりも高すぎる溶存酸素濃度も低すぎる溶存酸素濃度も、培養環境としては好適とはいえない。
【0004】
培養槽上部での溶存酸素濃度低下を防ぐために培養槽の上下複数の位置に散気管を設置するものもあるが、散気配管の引き回しによる構造上の複雑化、および通気量制御の複雑化という不利益がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上述したような実情に鑑み、培養槽の上下方向において溶存酸素濃度の均一化に有効な培養槽装置、当該培養槽装置を用いた細胞培養方法及び当該培養槽装置を用いた物質生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成した本発明は以下を包含する。
すなわち、本発明に係る培養槽装置は、培養槽と、培養槽内の下部に配置された散気手段と、培養槽上下方向に複数段に配置されるとともに、下段よりも上段のほうが単位回転数当たりの物質移動容量係数KLaの大きい複数の攪拌翼とを備えている。
【0007】
本発明に係る培養槽装置において上記複数の撹拌翼は、下段の撹拌翼の翼外径よりも上段の撹拌翼の翼外径の方が大となっているか、下段の撹拌翼の総面積よりも上段の撹拌翼の総面積の方が大となっているか、下段の撹拌翼の枚数よりも上段の撹拌翼の枚数の方が大となっている。あるいは、本発明に係る培養槽装置は、上記複数の撹拌翼をそれぞれ駆動制御する制御装置を更に供え、上記制御装置が下段の撹拌翼の回転速度よりも上段の撹拌翼の回転速度を大とするように上記複数の撹拌翼の駆動制御を行う。
【0008】
特に本発明に係る培養槽装置における上記培養槽は、上下方向における溶存酸素濃度の差が3.0mg/L以上となるような高さを有するものであることが好ましい。
【0009】
培養槽の上下方向の溶存酸素濃度を均一化するためには、培養槽の任意の高さ位置において、培養槽の単位体積当たりの酸素消費速度と酸素溶解速度が釣り合う必要がある。培養槽の単位体積当たりの酸素消費速度は、菌体重量当たり酸素消費速度と単位体積あたり菌体重量の積で与えられ、培養槽内の任意の高さ位置で概ね一定値となる。したがって、酸素溶解速度もまた一定値となることが必要である。酸素溶解速度は、気泡中の酸素分圧と物質移動容量係数KLaの積に比例する。気泡中の酸素分圧は、培養槽の下部から上部へ向かって減少していく。本発明に係る培養槽装置においては、物質移動容量係数KLaが下部から上部へ向かって上昇するように構成されているため、気泡中酸素分圧の減少分を補償することができ、その結果、単位体積あたりの酸素溶解速度を一定とすることができる。
【0010】
なお、本発明において、「培養槽の上下方向において溶存酸素濃度を均一化する」とは、培養槽の上下方向のあらゆる位置において溶存酸素濃度が全く同一な値を示すことを意味するのではなく、従来の培養槽装置との比較において、培養槽の上部における溶存酸素濃度と下部における溶存酸素濃度との較差が小となっていることを意味する。
【0011】
なお、本発明に係る培養槽装置において、攪拌翼のKLaが大となるように調節する手段としては、撹拌翼の翼外径の増加、撹拌翼の枚数の増加、撹拌翼の回転速度の上昇等を例示できるがこれらの手段に限定されない、例えば、撹拌翼による撹拌によって、培養液の乱流を強化するため、撹拌翼に切欠き構造を採用するといった手段も適用することができる。これらの手段は、それぞれ単独で採用して撹拌翼を設計しても良いが、複数の手段を組み合わせて撹拌翼を設計してもよい。
【0012】
一方、本発明によれば、上述した本発明に係る培養槽装置を用いて、培養槽内に充填された培地を複数の撹拌翼によって撹拌しながら細胞を培養する、細胞培養方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、上述した本発明に係る培養槽装置を用いて、培養槽内に充填された培地を複数の撹拌翼によって撹拌しながら細胞を培養し、上記細胞による生産物を培地から採取する物質生産方法を提供することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る培養槽装置よれば、培養槽の上部と下部における溶存酸素濃度の較差を小とすることができ、培養槽の上下方向において溶存酸素濃度が均一化することができる。
【0014】
また、本発明に係る細胞培養方法によれば、培養槽の上下方向において溶存酸素濃度が均一化された細胞培養環境を達成した培養槽装置を用いているため、優れた培養効率で細胞を培養することができる。
【0015】
さらに、本発明に係る物質生産方法によれば、培養槽の上下方向において溶存酸素濃度が均一化された細胞培養環境を達成した培養槽装置を用いているため、優れた生産性を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
本発明を適用した培養槽装置は、図1に示すように、培養槽1と、培養槽1の底部に設置された散気管2と、培養槽1の上下方向に複数段に分かれて設置された複数の撹拌翼3a、3b、3c及び3dと、撹拌翼3a、3b、3c及び3dを回転駆動するモーター等の制御装置4とを備えている。なお、図1に示した培養装置においては、4段の撹拌翼3a、3b、3c及び3dを有する構成としたが、本発明の技術的範囲はこのような構成に限定されない。すなわち、本発明に係る培養槽装置は、2段以上の撹拌翼を有する構成であればよく、例えば、2段の撹拌翼を有する構成、3段の撹拌翼を有する構成、或いは5段の撹拌翼を有する構成等を挙げることができる。
【0017】
また、本発明に係る培養槽装置は、図1に示した構成以外の構成を有するものであってもよい。例えば、培養槽1の内壁に設置された複数のバッフル板、散気管2を介して培養槽1内に気体を導入するためのポンプ、培養槽1の内部に追加培地(フィード培地)を供給するための培地供給装置及び供給する培地量を制御する制御装置、培養液の温度を測定する温度測定電極、培養液のpHを測定するpH電極、培養液の溶存酸素濃度を測定するDO電極等を備えた培養槽装置にも本発明を適用することができる。
【0018】
図1に示す培養槽装置において、撹拌翼3a、3b、3c及び3dは、各段6枚のディスクタービン翼から構成されている。本実施の形態に示す培養槽装置において、図2に示すように、撹拌翼3a、3b、3c及び3d(図2においては撹拌翼3として示す。)は、翼幅及び翼内径は各段において一定としているが、翼外径Lを下段から順次大きくし、翼面積の拡大を図っている。すなわち、撹拌翼3aの翼外径Lが最も小さく、撹拌翼3b、撹拌翼3c及び撹拌翼3dの順に翼外径Lが大きくなるように設計している。ここで、撹拌翼3a、3b、3c及び3dは、制御装置4によって同軸で回転駆動されるため、すべて回転数は同じになる。このため、常に下段よりも上段の撹拌翼のほうが、攪拌動力および物質移動容量係数KLaが大きくなるような構成となっている。なお、図1に示した培養槽装置においては、撹拌翼の翼外径Lを下段から順次大きくすることで、下段よりも上段の翼のほうが、物質移動容量係数KLaが大きくなるような構成としたが、本発明の技術的範囲はこのような構成に限定されない。
【0019】
例えば、撹拌翼3a、3b、3c及び3dの翼幅を下段から順次大きくすることで、複数段の撹拌翼の総面積を下段から順次大きくなるように設計することができる。また、複数段の撹拌翼の枚数を下段から順次多くなるようすることで、複数段の撹拌翼の総面積を下段から順次大きくなるように設計することができる。言い換えると、複数段の撹拌翼の総面積を下段から順次大きくなるように、各段の撹拌翼の形状や翼の枚数を適宜設計することができる。
【0020】
また、本発明に係る培養槽装置は、撹拌翼3a、3b、3c及び3dをそれぞれ別個独立して回転駆動するように制御装置を複数配設してもよい。この場合、撹拌翼3a、3b、3c及び3dの回転数が下段から順次多くなるように制御することによって、上段の撹拌翼による物質移動容量係数KLaを下段の撹拌翼による物質移動容量係数KLaより大となるようにすることができる。
【0021】
本発明に係る培養槽装置の培養槽1内における溶存酸素濃度の分布に関する理論を図3に示す。ここで、単位体積当たり単位時間当たり液中に溶け込む酸素量は、
【0022】
【数1】

である。ここにKLaは物質移動容量係数(1/s)である。DOは液中の溶存酸素濃度(mg/L)で、培養槽内で一定であるとする。DOeqは、気泡中の酸素分圧PO2に平衡する溶存酸素濃度(mg/L)である。ヘンリーの法則により、DOeqは酸素分圧PO2に比例する。菌体による単位体積あたり酸素消費速度(OUR:Oxygen Uptake Rate(mg/L/s) )は培養槽内で一定であるとする。培養槽内で溶存酸素濃度DOが一定であるためには、理想的には、培養槽のいたるところで
【0023】
【数2】

を満たしていればよい。この条件を満足していると仮定すると、酸素消費速度OURが一定であるので、気泡中の酸素は高さ方向に一定の割合で減少しており、気泡中酸素分圧PO2は図3のように一次関数的に減少していく。したがって、これと平衡する溶存酸素濃度DOeqもまた一次関数的に減少する。
【0024】
酸素の溶解速度(1)式を一定にするには、(DOeq−DO)の減少を補償するように高さ方向へKLaを増加すればよく、図3に示されるごとく、
【0025】
【数3】

にしたがってKLaが増加するように翼寸法を決定すればよい。なお、撹拌翼としてディスクタービン翼を使用する場合には、当該ディスクタービン翼における攪拌動力及びKLaを推定する設計式が存在している。よって当該設計式を用いてKLaが増加するように翼寸法を設計することができる。また、その他の一般の翼形については、流れの数値シミュレーション(R.Djebbar, M.Roustan, and A.Lane, “ Numerical Computation of Turbulent Gas-Liquid Dispersion in Mecanically Agitated Vessels”, Transactions of Institution of Chemical Engineers, Vol.74 Part A (1996)pp.492-498)を用いて所望のKLaを与える翼寸法を決定できる。
【0026】
図1に示した培養槽装置における各種寸法に具体的な数値を設定し、培養槽の各高さ位置で溶存酸素濃度を求めた結果を図4に示す。なお、培養槽装置における各種寸法としては以下のように設定した。まず、培養槽1の高さH1を3.0(m)、培養槽1の底部高さH2を0.45(m)及び培養槽の幅Wを1.8(m)と設定した。また、撹拌翼3aの翼外径Laを0.64(m)とし、撹拌翼3bの翼外径Lbを0.67(m)とし、撹拌翼3cの翼外径Lcを0.72(m)とし、撹拌翼3dの翼外径Ldを0.79(m)とした。なお、撹拌翼3a、3b、3c及び3dは、それぞれ翼内径Aを0.3(m)とし、翼幅Bを0.12(m)と一定に設計した。さらに、撹拌翼の回転数は180rpmに設定した。
【0027】
以上のような具体的設定のもとに算出した培養槽の各高さ位置での溶存酸素濃度は、図4における四角形を結んだグラフで示すようなプロファイルを示した。また、比較のため、撹拌翼3a、3b、3c及び3d全ての翼外径を0.6mに設定して回転数を220rpmに設定したもの(円形を結んだグラフ)、及び全ての翼外径を0.9mに設定し回転数を140rpmに設定したもの(三角形を結んだグラフ)を同様に計算した。なお、各種設計及び計算は数値シミュレーションを用いた解析である。
【0028】
このような、3つの解析ケースにおいておのおの攪拌回転数が異なるのは、槽内の攪拌動力の平均値を一定に揃えるためである。一般に翼外径が大きくなるほど攪拌動力は大きくなるから、翼外径の大きな培養槽では、攪拌回転数を減らすことになる。そのため、翼外径が0.6mの培養槽では回転数を220rpmとし、翼外径が0.9mの培養槽では140rpmとしている。本実施例では、各段の翼外径は、0.6mより大きく0.9mよりも小さいため、回転数は中間の180rpmとなっている。菌体の酸素消費速度は、150mmol/L/hrとし、槽内の平均溶存酸素濃度は、2.2mg/Lとなるように設計している。
【0029】
図4の結果から翼外径を4段とも同じにする培養槽では、培養槽下部で溶存酸素濃度が4mg/Lを越え、培養槽上部で1mg/Lを下回り、上下方向に大きな濃度勾配を生じるが、本実施例の培養槽では、培養槽下部で溶存酸素濃度が3.5mg/L程度、培養槽上部で1.5mg/L程度となり、上下方向の均一化が図られることがわかる。ただし、本実施例では、攪拌翼取り付け位置でのKLaが最も大きくなり、その周辺のKLaは低下するという分布をもつため、高さ方向の溶存酸素濃度は、4つの山をもち、図3に示すような理想的なものとはならない。
【0030】
本発明に係る培養槽装置の他の実施の形態としては、図5に示すように、下段から上段へ翼枚数が増加するように複数の撹拌翼3a、3b、3c及び3dを構成することができる。例えば、翼枚数としては、撹拌翼3a、3b、3c及び3dをそれぞれ3枚、4枚、5枚及び6枚とすることができる。なお、この場合、撹拌翼3a、3b、3c及び3dは、すべて同形状とすることができる(一例として翼径0.9m、翼幅0.12m)。図5に示すように複数の撹拌翼3a、3b、3c及び3dを構成することで、下段よりも上段において物質移動容量係数KLaが大きくなる。
【0031】
さらに、本発明に係る培養槽装置の他の実施の形態としては、図6に示すように、下段から上段へ翼幅が増加するように複数の撹拌翼3a、3b、3c及び3dを構成することができる。例えば、翼幅としては、撹拌翼3a、3b、3c及び3dをそれぞれ0.06m、0.12m、0.18m及び0.24mとすることができる(翼径は0.9mに固定)。なお、この場合、撹拌翼3a、3b、3c及び3dはすべて同枚数とすることができる。図6に示すように、複数の撹拌翼3a、3b、3c及び3dを構成することで、下段よりも上段において物質移動容量係数KLaが大きくなる。
【0032】
なお、図5及び図6に示す培養槽装置においては、撹拌翼3a、3b、3c及び3d以外は図1と同寸法とすることができる。図5及び図6に示した培養槽装置においては、下段から上段に向かって撹拌翼3a、3b、3c及び3d翼総面積が順に増加することとなる。これら図5及び図6に示した培養槽装置における、培養槽上下方向の溶存酸素濃度の解析結果を図7示す。図7において四角の点を結んだ線は図1に示した培養槽装置の解析結果を示し、丸の点を結んだ線は図5に示した培養槽装置の解析結果を示し、三角の点を結んだ線は図6に示した培養槽装置の解析結果を示している。各培養槽装置の攪拌回転数は攪拌動力が同じになるように調整している。
【0033】
図7からは、図5のように翼の枚数を変化させた場合には、設計の自由度が小さいために、最適な設計をおこなうことが容易でない場合があることがわかる。これに対して図7からは、図6にように翼幅を変化させて下段から上段へ翼面積の増大させた場合には、図1に示した培養槽装置と同様の溶存酸素濃度の均一化が可能であることが判る。
【0034】
一方、本発明に係る培養槽装置の他の実施の形態としては、図8に示すように、櫛歯状の切れ込みをもつ攪拌翼33を例示することができる。撹拌翼33は、培養槽1の底部から上部に向かって幅が大となるような外形を有し、培養槽1の底部から上部に向かって平行に複数の切欠き部が形成されている。図8に示した撹拌翼33によれば、図3に示したように高さ方向に溶存酸素濃度が一定となる理想的な分布を実現することができる。図8に示した撹拌翼33では、培養槽1の上方へ向かって翼外径が連続的に拡大しており、上方にいくほど大きな攪拌動力とKLaを得られる。また、撹拌翼33によれば、櫛歯状の切れ込みを有するため、当該複数の切欠き部において流体せん断力を大きくし、高いKLaを得るのに有効である。
【0035】
また、本発明に係る培養槽装置において、散気管2としては、培養槽1内部の培養液に酸素を含有する気体を供給できる構成であれば特に限定されず、例えば環状のパイプの表面に複数の散気用孔を形成したものを例示することができる。また、散気管2としては、多孔質材料から形成された筒状部材を有するものを例示することができる。ここで、多孔質材料としては、例えば、金属焼結体、有機高分子多孔質体、四フッ化エチレン樹脂、ステンレス、スポンジ及び軽石を使用することができる。このような構成とすることによって、図示しないポンプ手段から供給された気体が、散気管2から培養槽1内の培地へと供給されることとなる。
【0036】
以上のように構成された本発明に係る培養槽装置によれば、培養槽1内に充填された培地内において所望の細胞を通気撹拌しながら培養することができる。ここで、培養対象の細胞としては、何ら限定されないが、例えば、医薬品等の主原料となる物質を生産する細胞を挙げることができる。また、培養対象の細胞としては、何ら限定されるものではなく、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、細菌、酵母、真菌及び藻類等を挙げることができる。特に、本発明に係る細胞培養方法は、抗体や酵素等のタンパク質を生産する動物細胞を培養対象とすることが好ましい。本発明において、生産対象の物質としては、何ら限定されるものではなく、例えば抗体や酵素等のタンパク質、低分子化合物及び高分子化合物等の生理活性物質を挙げることができる。
【0037】
特に本発明に係る培養槽装置においては、培養槽1の高さ方向において溶存酸素濃度が一定となるように培地を撹拌することができる。このため、当該培養槽装置によれば、培養槽1の高さ方向において細胞の培養条件を均一に培養することができ、培養対象細胞の増殖や、細胞からの目的生産物の生産性を向上させることができる。また、本発明に係る培養槽装置によれば、培養槽運転時において、培養槽1への通気量や、撹拌翼3の回転数の操作幅を小さく抑えられるという効果がある。たとえば、Fed Batch培養などの場合には、培養の進行に伴って、液量や酸素消費速度が増えていく。このため、翼外径が各段とも同じである培養槽では、培養の進行に伴って、回転数および通気量を増やしていく必要がある。一方、本発明の培養槽では回転数や通気量を変更しなくても、液量の増大と共に槽内のKLaが大きくなっていく性質があるため、運転期間中の通気量や回転数の運転操作幅を小さくできる。特に、図8に示した構成によれば、KLaが液面高さと共に連続的に変わる場合には、原理的には培養初期から終期まで通気量、回転数ともに一定で運転することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明を適用した培養槽装置の一例を模式的に示す概略構成図である。
【図2】本発明を適用した培養槽装置における撹拌翼を拡大して示す概略構成図である。
【図3】培養槽の高さ方向における物理量変化を表す特性図である。
【図4】培養槽の高さ方向における溶存酸素濃度分布を表す特性図である。
【図5】本発明を適用した培養槽装置の一例を模式的に示す概略構成図である。
【図6】本発明を適用した培養槽装置の一例を模式的に示す概略構成図である。
【図7】図5、図6の実施例に対応する、培養槽の高さ方向における溶存酸素濃度分布を表す特性図である。
【図8】本発明を適用した培養槽装置の他の例を模式的に示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0039】
1 培養槽、2 散気管、3 攪拌翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養槽と、
培養槽内の下部に配置された散気手段と、
培養槽上下方向に複数段に配置されるとともに、下段よりも上段のほうが単位回転数当たりの物質移動容量係数KLaの大きい複数の攪拌翼と
を備えた培養槽装置。
【請求項2】
上記複数の撹拌翼は、下段の撹拌翼の翼外径よりも上段の撹拌翼の翼外径の方が大となっていることを特徴とする請求項1記載の培養槽装置。
【請求項3】
上記複数の撹拌翼は、下段の撹拌翼の総面積よりも上段の撹拌翼の総面積の方が大となっていることを特徴とする請求項1記載の培養槽装置。
【請求項4】
上記複数の撹拌翼をそれぞれ駆動制御する制御装置を更に供え、
上記制御装置は、下段の撹拌翼の回転速度よりも上段の撹拌翼の回転速度を大とするように上記複数の撹拌翼の駆動制御を行うことを特徴とする請求項1記載の培養槽装置。
【請求項5】
上記複数の撹拌翼は、下段の撹拌翼の枚数よりも上段の撹拌翼の枚数の方が大となっていることを特徴とする請求項1記載の培養槽装置。
【請求項6】
上記培養槽は、上下方向における溶存酸素濃度の差が3.0mg/L以上となるような高さを有することを特徴とする請求項1記載の培養槽装置。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか一項記載の培養槽装置を用いて、培養槽内に充填された培地を複数の撹拌翼によって撹拌しながら細胞を培養する、細胞培養方法。
【請求項8】
請求項1乃至6いずれか一項記載の培養槽装置を用いて、培養槽内に充填された培地を複数の撹拌翼によって撹拌しながら細胞を培養し、上記細胞による生産物を培地から採取する、物質生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−72133(P2009−72133A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244932(P2007−244932)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】