説明

培養細胞に試料物質を導入する方法

【課題】 簡易簡便な培養細胞における試料物質を導入する方法を提供する。
【解決手段】 培養細胞における試料物質を導入する方法であって、前記試料物質を動物に投与した後に、前記動物のリンパ組織から、前記試料物質を含んでなるリンパ液および/または前記動物の生体内で代謝された前記試料物質を含んでなるリンパ液を取り出し、 前記リンパ液を前記培養細胞に導入することを含んでなるものにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養細胞に試料物質を導入する方法およびそれを用いた試料物質の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、細胞培養評価方法は、免疫学、毒物学、遺伝子技術および細胞生物学等に於いて広範囲に使用されている。細胞培養評価方法は、動物実験を用いた評価方法に比べて、試料物質の使用量が少量で済み、試験時間が短時間であり、かつ、繰り返し試験を行えるとの利点を有する。しかしながら、培養細胞に試料物質を物理的に導入すると培養細胞が死滅することがある。また、非水性試料物質は培養細胞に直接付与した場合、培養細胞系自体が水性である等の理由から、培養細胞に非水性試料物質が導入されないことがあるとの指摘がなされていた。
【0003】
従来、非水性試料物質を培養細胞に導入する場合、非水性試料物質を、アルコールまたはジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した後に、培養細胞の存在する培地に導入する方法が提案されている(非特許文献1)。しかしながら、この方法にあっては、培養細胞が死滅することが稀に生じ、特定の培養細胞を用いた非水性試料物質の評価を十分に行うことができないことがあった。また、アルコールまたはジメチルスルホキシド(DMSO)自体が、培養細胞の代謝に影響を与えることがあり、非水性試料物質導入による所望の培養細胞の代謝機能および遺伝子発現を正確に特定し評価することができないことがしばしば指摘されていた。また、非水性試料物質を培養細胞に導入する場合、例えば、トウィーン(Tween) 20(商標)等の溶解補助剤を用いてエマルジョン化させる方法が提案され一般的に行われているが、乳化安定性に欠け、また極めて有毒なエマルジョンが生成するとの指摘がなされている。一方、特許文献1(特開平11−318436号)によれば、ナノエマルジョンを親油性物質に添加して得られた分散液を培養細胞に導入する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、試料物質に溶解剤、エマルジョン等の溶剤を添加した調製物を用いることなく、培養細胞に試料物質を直接付与することができれば、低廉かつ簡単に培養細胞技術を用いることができ、かつ、培養細胞の死滅、代謝機能異常等の問題を回避することでき、培養細胞における試料物質の代謝機能の試験、代謝物の確認等を正確に行うことが可能となる。
【特許文献1】特開平11−318436号
【非特許文献1】(David L.Aatroy and Stephe B.Smith等;Biocchemical and Molecular Roles of Nutrients 1998,p92-97)
【発明の概要】
【0005】
本発明者等は、本発明時において、試料物質、とりわけ、非水性試料物質を培養細胞に直接導入することができ、培養細胞を死滅または形質転換をさせることなく、試料物質由来の細胞発現を高い確率で実現することができ、かつ、試料物質導入による培養細胞から産出物を高い感度で測定若しくは評価し、または高い収率で得られるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づいてなされたものである。
【0006】
従って、本発明は、培養細胞に試料物質を導入する方法であって、
前記試料物質を動物に投与した後に、前記動物のリンパ組織から、前記試料物質を含んでなるリンパ液および/または前記動物の生体内で前記試料物質が代謝された動物代謝物質を含んでなるリンパ液を取り出し、
前記リンパ液を前記培養細胞に導入することを含んでなるものである。
【0007】
本発明は、試料物質を動物に投与した後に、この動物のリンパ組織から、試料物質を含んでなるリンパ液および/または動物の生体内で試料物質が代謝された動物代謝物を含んでなるリンパ液を採取し、このリンパ液を培養細胞に直接付与することを特徴とするものである。このため、本発明によれば、試料物質を物理的に培養細胞に導入する方法、または試料物質に溶解剤若しくはエマルジョン等を用いて得た調製液を導入する方法と比較して、培養細胞に与える悪影響が少なく、また試料物質による培養細胞の性能発現を高いレベルで実現することができるとの利点を有する。また、本発明によれば、試料物質等を含んでなるリンパ液を培養細胞に直接付与することから、上記した物理的または化学的方法を用いた副次的手段が全く不要なため、培養細胞実験が簡易簡便かつ安価に行うことができるとの利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
1.培養細胞に試料物質を導入する方法
本発明による第1の態様によれば、培養細胞に試料物質を導入する方法を提案することができる。本発明は、試料物質を培養細胞に直接導入するものではなく、試料物質を動物に投与し、その後に動物のリンパ組織から得た試料物質および/またはその動物代謝物を含むリンパ液を、培養細胞に導入する点に特徴を有する。
【0009】
投与手段
動物に試料物質を投与する手段はいずれの方法を用いてよく、例えば、経口投与、内臓臓器(例えば、胃又は腸)に直接投与、経静脈投与、経動脈的、胸腔内投与、腹腔内投与等が挙げられ、好ましくは経口投与が挙げられる。
リンパ液採取
本発明にあっては、動物に試料物質を投与した後、この動物のリンパ組織から、試料物質を含んでなるリンパ液および/または動物の生体内で試料物質が代謝された動物代謝物質を含んでなるリンパ液を採取し使用する。試料物質を動物に投与した後にリンパ液を取り出す時間は、試料物質の性質を考慮して適宜定めて良く、具体的には、試料物質がリンパ組織内に到達し相当程度の量存在している時間とすることが好ましい。リンパ液の採取は、吸引器(例えば、注射器)を使用してリンパ組織(リンパ管)から直接採取してもよく、動物がラット等の小動物の場合、屠殺し取り出したリンパ組織から直接採取する方法であってもよい。本発明にあっては、採取するリンパ液は、動物の体内に投与された試料物質が化学的特徴をそのまま維持した状態でリンパ液に存在するものが好ましいが、本発明にあっては、試料物質が動物の生体内で代謝された動物代謝物質を含んでなるリンパ液であってもよい。
【0010】
導入
採取したリンパ液を培養細胞に導入する方法は、直接導入する方法、例えば、振りかける方法が好ましくは挙げられる。このため、本発明による直接導入する方法は、物理的手法または試料物質に溶解液またはエマルジョン等を添加した調製液(化学法)を用いて培養細胞に導入する必要がないので好ましい。採取したリンパ液を前記培養細胞に直接導入する本発明の方法によれば、試料物質またはその動物代謝物質を含むリンパ液は培養細胞に自然と導入され取り込まれることとなる。採取したリンパ液を、培養細胞に投与する質量は、試料物質、培養細胞、培養条件、試験物質の治験の種類、投与時の形態等に合わせて、適宜定めることができる。本発明にあっては、採取したリンパ液を培養細胞に導入する場合に、培養細胞の性質に合致させて、このリンパ液の濃度等を可変するために、水、生理食塩水、緩衝溶液等を添加してもよい。
【0011】
試料物質
本発明において、試料物質は、水溶性物質、非水溶性物質またはこれらの混合物であってよいが、好ましくは、水溶性物質と非水性物質との性格を有する両性物質、非水溶性物質であってよく、より好ましくは非水溶性物質が用いられる。非水溶性物質とは、一般的に水に不溶とされる物質であって、そのような具体例としては、脂質、疎水性アミノ酸、疎水性タンパク質、ミネラル、食物繊維が挙げられ、この中でも、脂質(より好ましい)、疎水性アミノ酸、疎水性タンパク質が好ましくは挙げられる。
【0012】
脂質
脂質とは、一般に、水に不溶であり、エーテル、ヘキサン、ベンゼン、クロロホルム、メタノールなどの脂溶性溶媒に溶ける化合物をいう。脂質は、単純脂質、複合脂質、色素等に大別される。
【0013】
単純脂質
単純脂質としては、脂肪酸、炭化水素、アルコール、アルデヒド、長鎖塩基、アシルグリセロール、ステロイド及びテルペノイド、ワックス、トコフェロール等が挙げられる。
脂肪酸の具体例としては、直鎖または分岐鎖を有する飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸が挙げられ、より具体的には、ヘキサン酸(C6)、オクタン酸(C8)、デカン酸(C10)、ドデカン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、オレイン酸(C18:1n-9)、リノール酸(C18:2n-6)、α-リノレン酸(C18:3n-3)、γ-リノレン酸(C18:3n-6)、アラキドン酸(C20:4n-6)、エイコサペンタエン酸(C20:5n-3)、ドコサペンタエン酸(C22:5n-6、C22:5n-3)、ドコサヘキサエン酸(C22:6n-3)等が挙げられる。また、共役リノール酸、共役脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の共役型、不飽和脂肪酸のトランス型等が挙げられる。
炭化水素は、脂肪族炭化水素類とイソプレノイド炭化水素類に分類され、脂肪族炭化水素類の具体例としては、一般的に例示されるものが挙げられ、イソプレノイド炭化水素類の具体例としては、スクアレンが挙げられる。
アルコールは、第一級〜第三級のアルコール、ワックス成分である高級アルコールが挙げられる。アルデヒドは、単鎖または長鎖のものであってよく、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン(ビニルアルデヒド)、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、マロンジアルデヒド等が挙げられる。
長鎖塩基の具体例としては、長鎖アミノアルコール、例えばスフィンゴシン等が挙げられる。
アシルグリセロールは、一般に、モノ−、ジ−、およびトリ−アシルグリセロールが挙げられる。
ステロイドは、一般に、3個の6員環と1個の5員環とからなる炭化水素の総称であり、その具体例としては、コレステロール、スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、24−メチルコレステロール、エルゴステロール、コレスタノール、アンドロゲン、エストロゲン、コルチゾール、コルチゾン、アルドステロン、コルチコステロン、デオキシコルチコステロン等が挙げられる。
テルペノイドは、一般に、(C)nで示されるイソプレン単位から構成される化合物の総称であり、その具体例としては、モノテルペン(n=2)、セスキテルペン(n=3)、ジテルテルペン(n=4)、 セスタテルペン(n=5)、トリテルペン(n=6)等が挙げられ、より具体的には、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトラール(ゲラニアール)、シトロネロール、メントール、リモネン、テルピネロール、カルボン、ヨノン、ツヨン、樟脳(カンファー)、ボルネオール、ファルネソール、ネロリドール、幼若ホルモン、フムレン、カリオフィレン、エレメン、カジノール、カジネン、ツチン、ゲラニルゲラニオール、フィトール、アビエチン酸、ピマラジエン、ダフネトキシン、タキソール、ゲラニルファルネソール、スクアレン、リモニン、カメリアゲニン、ホパン、ラノステロール、カロテノイド等が挙げられる。
ワックスは、一般に、高級アルコールと高級脂肪酸のエステルと定義され、その具体例としては、植物系のものとして、ホホバ油、ハゼ蝋、ウルシ蝋、カルナバ蝋、サトウキビ蝋、パーム蝋等が挙げられる。動物系のものとして、オレンジラッフィー油、蜜蝋、鯨蝋、マッコウクジラ油、ツチクジラ油、羊毛蝋などがある。ワックス成分としては、パルミチン酸グリセリド、セロチン酸ミリシル、ミリシルアルコール、パルミチン酸ミリシル、セロチン酸、パルミチン酸セリル、オレイン酸、セチルアルコール、まっこう酸、パルミチン酸、オレイルアルコール、ミリスチン酸等が挙げられる。
トコフェロール類は、一般に、クロマン環にフェノール性の水酸基とイソプレノイド側鎖を持つアルコールであり、アルコール部位がエステル化されていないものと定義される。トコフェロール類の具体例としては、イソプレノイド側鎖の不飽和体のトコトリエールの4種類(α型、β型、γ型、δ型)等が挙げられる。
【0014】
複合脂質
複合脂質は、一般に、アルコール、脂肪酸、およびそれ以外の基を包含する脂肪酸エステルとして定義され、リン脂質、糖脂質、硫脂質等に大別される。
リン脂質は、一般に、グリセロリン脂質、グリセロホスホノ脂質、スフィンゴリン脂質、スフィンゴホスホノ脂質の4つに分類される。
グリセロリン脂質は、一般に、ホスファチジル酸を基本骨格とし、このリン酸に、コリン、エタノールアミン、セリン、グリセロール、イノシトール等がエステル結合したものと定義される。グリセロリン脂質の具体例としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、プラスマローゲン、アルキルエーテルグリセロリン脂質、ホスファチジン酸、カルジオリピン、ホスファチジルイノシトール4-リン酸、コリンプラズマローゲン、エタノールアミンプラズマローゲン、リゾホスファチジルコリン、プラズマニルコリン等が挙げられる。
グリセロホスホノ脂質は、一般に、グリセロリン脂質と同様に、ホスファチジル酸を基本骨格とするが、極性基側の炭素原子とリン原子が直接共有結合(C−P結合)した脂質と定義される。グリセロホスホノ脂質の具体例としては、(3-sn-ホスファチジル)-エチルアミン、1-アルキル-2-アシル-sn-グリセロ-(3)-アミノエチルホスホン酸等が挙げられる。
スフィンゴリン脂質は、一般に、スフィンゴシン等の長鎖塩基を包含するリン脂質群の総称であり、その具体例としては、スフィンゴミエリン、スフィンゴエタノールアミン、セラミドホスホグリセロール、セラミドホスホグリセロリン酸等が挙げられる。
スフィンゴホスホノ脂質の具体例としては、セラミド−2−アミノエチルホスホン酸、が挙げられる。
糖脂質は、疎水性のアルキル鎖部分と親水性の糖部分からなる構造を有するものの総称であり、ジアシルグリセロールに糖鎖が結合したグリセロ糖脂質と、スフィンゴシンと脂肪酸から成るサラミドに糖鎖が結合したスフィンゴ糖脂質とに大別される。グリセロ糖脂質は、酸性型と中性型とに類別され、酸性型糖脂質における酸性基は、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、ウロン酸及びシアル酸等のカルボキシル基が挙げられる。糖脂質の代表的な具体例は、ガラクトシルジグリセリド等が挙げられる。スフィンゴ糖脂質は、中性型と酸性型とに類別され、中性型スフィンゴ糖脂質は、セラミドに結合する1番目の糖として、グルコース、ガラクトース等が挙げられ、具体的には、ガラクトセレブロシド、グルコセレブロシド、サイトリピンH、アミノCTH、パラグロボシド、P抗原、i抗原、サイトリピンR、フォルスマン抗原が挙げられる。酸性スフィンゴ糖脂質の代表的なものとしては、ガングリオシド、グルクロン酸、ホスホン酸を含むもの等が挙げられる。
硫脂質は、スフィンゴ糖脂質に硫酸エステルが結合したスルファチド群と、グリセロ糖脂質のセミノリピドとに分類される。硫脂質の具体例としては、スルファチド、セミノチリド等が挙げられる。
【0015】
色素類
色素類は、分子内に可視光の特定領域を吸収する発色団を有することから、着色を呈する物質群の総称として定義されている。色素には、ポルフィン系色素、カロテノイド系色素、キノン系色素、フラボノイド系色素等が挙げられる。
ポルフィン系色素は、ポルフィンの側鎖に様々の誘導体が結合したものの総称であり、その具体例としては、クロロフィルa、クロロフィルb、ヘモグロビン、シトクロム等が挙げられる。
カロテノイド系色素は、共役二重結合からなるポリエン構造を含有する黄色〜赤色を呈する色素の総称であり、その具体例としては、αカロチン、βカロチン、リコペン等が挙げられる。また、酸素原子を水酸基として包含したアルコールとしてのカロテノイドはキサントフィルと総称され、その具体例としては、ルティン、ゼアキサンチン等が挙げられる。
キノン系色素には、ナフトキノン類と、アントラキノン類とがあり、それらの具体例としては、シコニン、メラニン等が挙げられる。
その他
その他の脂質としては、脂溶性ポリフェノール、カプサイシン、リグナン類が挙げられる。
【0016】
油脂
本発明では、試料物質として、脂質等を含んでなる油脂を使用することができる。そのような油脂の具体例としては、大豆油、菜種油、ごま油、米油、オリーブ油、コーン油、魚油、グレープシードオイル、豚脂、牛脂、鶏脂、乳脂、バター、高オレイン酸菜種油、コーン油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、小麦胚芽油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、魚油、アザラシ油、藻類油等が挙げられる。また、本発明にあっては、上記した油脂を品質改良した油脂、例えば、飽和脂肪酸量を低減させた油脂、水素添加した油脂、分別した油脂等を利用することができる。
【0017】
薬剤
本発明にあっては、試料物質に、薬剤を添加して用いてもよい。薬剤の具体例としては、抗生剤、抗癌剤、抗アレルギー剤、ステロイド系薬剤、クロフィブレート系薬剤、チアゾリジン系薬剤等が挙げられる。
補助剤
試料物質は補助剤を含んでなるものであって良い。補助剤の具体例としては、乳化剤、ビタミン、乳化剤(タウロコール酸、アルブミン)、水、寒天等が挙げられる。本発明にあっては、試料物質に補助剤を添加して、例えば、乳化した試料物質またはゲル化した試料物質として調製されてよい。
【0018】
動物
試料物質を投与する動物は、いずれの動物であってよいが、好ましくは哺乳類が挙げられる。哺乳類の具体例としては、ラット、マウス、ハムスター、モルモット、ウサギ、猫、犬、猿、人等が挙げられる。
【0019】
培養細胞
培養細胞はいずれのものであってよいが、好ましくは初代培養細胞または株化細胞が挙げられる。初代培養細胞の具体例としては、脂肪細胞(白色、褐色)、脂肪前駆細胞、肝細胞、内皮細胞、等が挙げられる。株化細胞の具体例としては、脂肪前駆細胞(3T3−L1)、肝細胞、ガン細胞、平滑筋細胞、神経細胞、リンパ細胞等が挙げられる。培養細胞は、必要とされる細胞を選択し、培養することにより得ても良く、また市販品を用いてもよい。本発明にあっては、リンパ組織(細胞)と同じ動物種の細胞を用いることがより好ましい。
【0020】
2.試料物質の評価方法
本発明による第2の態様によれば、培養細胞における試料物質の評価方法を提案することができ、その方法は、
前記培養細胞にリンパ液を導入し、
該リンパ液が、前記試料物質を動物に投与した後に、前記動物のリンパ組織から取り出した、前記試料物質を含んでなるリンパ液および/または前記動物の生体内で前記試料物質が代謝された動物代謝物質を含んでなるリンパ液であり、
前記培養細胞から分泌物質または細胞代謝物を測定し、または前記培養細胞における代謝活性能、遺伝子発現、酵素活性能の一種又は二種以上を測定することを含んでなるものである。
【0021】
本発明の第2の態様によれば、試料物質と培養細胞を選択し、その試料物質を培養細胞において治験または発現等を行うことにより評価することができるとの利点を有する。特に、本発明による試料物質の評価方法は、試料物質を培養細胞に導入する方法が本発明の第1の態様による方法を用いるため、試料物質の評価を高感度で、かつ高いレベルで行うことができるとの利点を有する。よって、本発明の第2の態様にあっては、試料物質、培養細胞等、試料物質を含むリンパ液を採取する方法、培養細胞に導入する方法等の内容は、本発明の第1の態様による方法で説明したのと同様であってよい。
【0022】
評価
本発明によれば、培養細胞から分泌物質若しくは細胞代謝物を測定し、試料物質を評価することができる。また、培養細胞における代謝活性能、遺伝子発現(mRNAの定性、定量)、タンパク質量若しくは酵素活性能を測定することにより、試料物質の性能を評価することができる。評価方法の具体例としては、放射性標識化合物を用いて、糖または脂肪の取り込み能、または糖から脂肪への合成能を評価することが挙げられる。タンパク質量は、ウェスタンブロット法、ELISA法等を用いて測定することができる。また、リポプロテインリパーゼ活性、脂肪酸エステル化酵素活性、脂肪分解酵素活性、脂肪合成系酵素、β−酸化系酵素活性などを評価することが挙げられる。これらの酵素活性は、分光光度計または放射性標識化合物を用いて、測定することができる。また、アディポネクチン、TNF−α、PAI−1、レジスチン、レプチン、脂質代謝酵素、糖質代謝酵素等のmRNAの発現量は、リアルタイムPCR装置を用いて測定することが挙げられる。
【0023】
性能評価の具体的な例
本発明における性能評価方法において非水性試料物質(単純脂質)である、共役リノール酸(CLA)を試料物質とし、培養細胞として脂肪細胞を用いる。共役リノール酸(CLA)を含んでなるリンパ液を脂肪細胞に導入すると、アディポサイトカインが脂肪細胞において生産され分泌される。この結果、共役リノール酸(CLA)が、脂肪細胞において、アディポサイトカインを産出し、分泌する物質であるとの性能が評価されることとなる。
【0024】
従って、本発明の好ましい態様によれば、培養脂肪細胞における脂質の評価方法を提案することができ、その評価方法は、
前記脂肪細胞にリンパ液を導入し、
該リンパ液が、前記脂肪を動物に投与した後に、前記動物のリンパ組織から取り出した、前記脂肪を含んでなるリンパ液および/または前記動物の生体内で前記脂肪が代謝された動物代謝物質を含んでなるリンパ液であり、
前記脂肪細胞から産出されたアディポネクチンを測定することを含んでなるものである。
【0025】
3.キット
本発明による第3の態様によれば、試料物質を含んでなるリンパ液と培養細胞とを備えてなるキットを提案することができ、そのキットは、
試料物質を動物に投与した後に、前記動物のリンパ組織から取り出した、前記試料物質を含んでなるリンパ液または前記動物の生体内で前記試料物質が代謝された動物代謝物質を含んでなるリンパ液と、
前記試料物質が導入される培養細胞とを備えてなるものである。
【0026】
本発明の第3の態様によれば、試料物質と培養細胞を選択し、その試料物質を含んでなるリンパ液と培養細胞とを組み合わせたキットを用いることにより、試料物質の性能検査が容易に行うことができるとの利点を有する。また、試料物質を含むリンパ液と培養細胞とをそれぞれ複数組み合わせたキットすることにより、ライブラリーを形成することができ、特定試料に対する特定培養細胞を瞬時に組み合わせて生体細胞の治験または産出発現およびそのメカニズム解明等に利用することができるとの利点を有する。本発明の第3の態様にあっては、試料物質、培養細胞等、試料物質を含むリンパ液を採取する方法等の内容は、本発明の第1の態様による方法で説明したのと同様であってよい。
【0027】
本発明の好ましい態様によれば、本発明によるキットは、本発明の各態様による方法に用いることが提案される。
【0028】
4.培養細胞から産出物質を得る方法
本発明による第4の態様によれば、培養細胞から産出物を得る方法を提案することができ、その方法は、
前記培養細胞に前記試料物質を導入し、
前記培養細胞を培養し、前記培養細胞から産出物を得ることを含んでなり、
前記培養細胞に前記試料物質を導入することが、本発明の第1の態様の導入方法を用いるものである。
【0029】
本発明の第4の態様によれば、試料物質と培養細胞を選択し、その試料物質を培養細胞に導入することにより、培養細胞から産出される物質を得ることができるとの利点を有する。特に、本発明による方法は、試料物質を培養細胞に導入する方法が本発明の第1の態様による方法を用いるため、効率よく、高い収率を持って産出物を得ることができるとの利点を有する。よって、本発明の第4の態様にあっては、試料物質、培養細胞等、試料物質を含むリンパ液を採取する方法、培養細胞に導入する方法等の内容は、本発明の第1の態様による方法で説明したのと同様であってよい。
【0030】
本発明にあっては、培養細胞から得られる物質は、分泌物、細胞代謝物、遺伝子、酵素、補酵素、ビタミンまたはホルモン等が挙げられる。
【0031】
本発明の別の態様によれば、本発明の第4の方法で得られた産出物を含んでなる、組成物、特に、医薬組成物、食品、飲料または飼料を提供することができる。
【実施例】
【0032】
本発明の内容を下記実施例等により詳細に説明するが、本発明の内容はこれら実施例に限定して解釈されるものではない。
培養細胞への導入及び試料物質の評価試験
脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインの一つであるアディポネクチンの検出評価を下記のようにして行い、その結果を表1に示した。
【0033】
実施例1
試料物質調製
共役リノール酸(CLA)1mlに、生理食塩水1ml、タウロコール酸ナトリウム35mg、脂肪酸フリー牛血清アルブミンを混合しソニケーターを用いてエマルジョン化して、試料物質(非水性試料物質)を調製した。
動物投与およびリンパ液採取
調製した試料物質(1g)をラット(体重約300g)に、ゾンデを用いて経口投与した。投与後3時間経過後、ネンブタール麻酔を施して開腹し、胸管リンパ管から注射器を用いてリンパ液を採取し試験リンパ液とした。脂肪細胞はマウス由来の脂肪前駆細胞3T3−L1細胞を使用した。この脂肪細胞の分化後、10%FBSを含むDME培地100mlに、試験リンパ液を0.1ml添加した。
【0034】
比較例1
実施例1記載の10%FBSを含むDME培地100mlに、CLA(0.01ml)をDMSO(0.99ml)に溶解させた試料(CLA−DMSO)0.1mlを添加した。実施例1と同様に24時間後に細胞培養液を回収し、アディポネクチンの培地中濃度を測定した。
【0035】
比較例2(コントロール)
実施例1記載の10%FBSを含むDME培地には何も添加しなかった。実施例1と同様に24時間後に細胞培養液を回収し、アディポネクチンの培地中濃度を測定した。
表1
実施例1 比較例1 比較例2
アディポネクチン濃度 594 349 452
(ng/mL)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養細胞に試料物質を導入する方法であって、
前記試料物質を動物に投与した後に、前記動物のリンパ組織から、前記試料物質を含んでなるリンパ液および/または前記動物の生体内で前記試料物質が代謝された動物代謝物質を含んでなるリンパ液を取り出し、
前記リンパ液を前記培養細胞に導入することを含んでなる、方法。
【請求項2】
前記導入方法が、前記培養細胞に前記リンパ液を直接付与するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料物質が、非水溶性物質である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
培養細胞における試料物質の評価方法であって、
前記培養細胞にリンパ液を導入し、
該リンパ液が、前記試料物質を動物に投与した後に、前記動物のリンパ組織から取り出した、前記試料物質を含んでなるリンパ液および/または前記動物の生体内で前記試料物質が代謝された動物代謝物質を含んでなるリンパ液であり、
前記培養細胞から分泌物質または細胞代謝物を測定し、または前記培養細胞における代謝活性能、遺伝子発現、酵素活性能の一種又は二種以上を測定することを含んでなる、評価方法。
【請求項5】
培養脂肪細胞における脂質の評価方法であって、
前記脂肪細胞にリンパ液を導入し、
該リンパ液が、前記脂質を動物に投与した後に、前記動物のリンパ組織から取り出した、前記脂質を含んでなるリンパ液および/または前記動物の生体内で前記脂質が代謝された動物代謝物質を含んでなるリンパ液であり、
前記脂肪細胞から産出されたアディポネクチンを測定することを含んでなる、評価方法。
【請求項6】
試料物質を動物に投与した後に、前記動物のリンパ組織から取り出した、前記試料物質を含んでなるリンパ液および/または前記動物の生体内で前記試料物質が代謝された動物代謝物質を含んでなるリンパ液と、
前記試料物質が導入される培養細胞とを備えてなる、キット。

【公開番号】特開2006−345713(P2006−345713A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172128(P2005−172128)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】