説明

基体の選択的な金属めっき方法およびその方法により製造された成形回路部品

【課題】プラスチック表面の構造化および選択的な金属めっきのためのレーザを用いた方法の欠点を踏まえて、根本的に改良された方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、プラスチック基体表面の選択的な金属めっき方法およびこの方法により製造された成形回路部品に関し、この方法では、プラスチック基体が添加剤として天然のまたは合成して製造されたテクトアルミノケイ酸塩を含んでおり、プラスチック基体表面のアブレーション処理によりこのテクトアルミノケイ酸塩への到達を可能にし、シーディングし、最後に外部から電流をかけずに金属めっきする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の主要な部分が添加剤を収容または担持するプラスチックから成る基体の選択的な金属めっき方法であって、金属めっきすべき領域内で、基体の表面付近の層がアブレーション法により除去される方法に関する。さらに本発明は、この方法により製造された成形回路部品に関する。
【背景技術】
【0002】
前世紀の60年代初めに、ABS(アクリルニトリルブタジエンスチレン)から成る射出成形されたプラスチック部品を、確実な付着性で湿式化学的に金属めっきすることに初めて成功して以来、連続使用温度が最高で約150℃の工業用プラスチック、例えばポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、またはポリカーボネート(PC)をも、ならびにさらに高い熱負荷を掛けることができる高性能プラスチック、例えばポリエーテルイミド(PI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、または液晶ポリマー(LCP)をも、機能的および/または装飾的な表面加工の目的で、確実に付着させて金属めっきする多くの方法が開発された。
【0003】
プラスチック表面を金属めっきする前のプラスチック表面の前処理は、一般的にはコンディショニング、シーディング、および活性化のプロセスステップに区分することができる。
【0004】
専門文献には、プラスチック表面の表面前処理のための多くの様々な機械的、化学的、および物理的な方法が記載されており、これらの方法では特に化学的な方法の場合に、プラスチック表面の性質に適応していることが多い。すべてのこれらの方法の本質は、堆積すべき金属層のために必要な被付着下地を形成するため、プラスチックの基体表面を開くことである。化学的な方法では、酸洗もしくは膨潤および表面からの成分溶出により表面粗化を達成し、この表面粗化は同時に、たいていは親水化を伴う表面積拡大という形ではっきりと現れる。
【0005】
特許出願公開DE10054544A1(特許文献1)は、硫酸中にCr(VI)イオンが高濃度で溶解した溶液中で浸食処理することにより、表面を、特にアクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)から成る表面およびABSとその他のポリマーとの混合物(ブレンド)から成る表面を、化学的に金属めっきするための方法を開示している。
【0006】
当業者の一般的な理解では、これらの溶液の積極的な浸食処理作用が、表面でABS基体マトリクスのブタジエン成分を酸化分解し、この酸化生成物が選択的に表面から溶出し、こうして空洞を有する多孔質の基体表面が生じ、この多孔質の基体表面が、後続の貴金属シーディングおよび化学的金属めっきに対して、いわゆる「押しボタン効果」による優れた付着性をもたらす(Eugen G. Leuze VerlagのSchriftenreihe Galvanotechnik;Schuchentrunk, R.ら、「Kunststoffmetallisierung」、Bad Saulgau 2007;ISBN 3-87480-225-6(非特許文献1)も参照)。
【0007】
公報EP0146724B1(特許文献2)は、無電解金属めっきの前に、ポリアミドから成る成形部品の表面を前処理することについて、周期表のIA族もしくはIIA族の元素のハロゲン化物と、IIIA族、IIIB族、IVA族、IVB族、VIA族、およびVIIA族の硫酸塩、硝酸塩、もしくは塩化物との混合物中での処理、または非浸食性の有機膨潤剤もしくは有機溶剤中の周期表のVIIIA族の非貴金属と、周期表のIB族もしくはVIIIA族の元素の有機金属の錯化合物との混合物中での処理を開示している。
【0008】
公報DE102005051632B4(特許文献3)も、化学的金属めっきをする前のプラスチックおよび特にポリアミドの前処理の課題に取り組んでおり、その方法は、Na、Mg、Al、Si、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ca、およびZnから成る群のハロゲン化物および/または硝酸塩を含む浸食溶液でプラスチック表面を処理し、その際、この溶液が、一般式M(HF)の配位化合物の形の可溶性フッ化物を含むというものである。
【0009】
選択的に金属めっきされたプラスチック部品を製造するため、過去には非常に頻繁に2成分射出成形法が用いられた。特に前世紀の90年代には、例えば射出成形された3次元成形回路部品(3−D MID)の製造に関し、プロセス経路の2つの可能性、つまりSKW法(Sankyo Kasei Wiring)およびPCK法(Printed Circuit Board Kollmorgan)が浮上した。「Proceedings of 1st International Congress Molded Interconnect Devices」、1994年9月28〜29日、Erlangen、ドイツ、発行元:Research Association Interconnect Devices 3-D MID e.V.、ISBN 3-87525-062-1(非特許文献2)も参照のこと。
【0010】
両方の方法の特徴は、金属めっき可能なまたは金属めっきのために活性化可能なプラスチック材料と、金属めっき可能でないまたは金属めっきのために活性化可能に前処理できない材料との組合せを使用することである。
【0011】
その後、この技術をさらに発展させていく中で、金属めっき可能な部材のための原材料として、例えばパラジウムをドープした核触媒反応性プラスチックが利用されるようになる。パラジウムがドープされたプラスチックおよびパラジウムがドープされていないプラスチックからの2成分射出成形の後、射出成形部品のうち核触媒反応性のプラスチック成分が存在する表面領域は、プラスチック中に挿入されたパラジウム核に無電解金属めっき浴が到達し得るように前処理されなければならない。これは、MID部品にしばしば利用される高性能原材料としてのLCPの場合、強アルカリ性溶液中での表面浸食によって行われる。
【0012】
そしてとりわけ公報DE10054088C1(特許文献4)からは、LCPのような高性能原材料およびシンジオタクチックポリスチレンの有利な組合せから成る3次元成形回路部品(3−D MID)が、2成分射出成形法において製造できることが知られており、この場合、60℃〜90℃の間の温度の10〜15規定の苛性ソーダ溶液中で浸食した後で、核触媒反応性のLCP部材の選択的な金属めっきを行うことができる。この浸食処理ステップにより、LCPの射出成形におけるスキン層が溶解され、プラスチック中に包埋されていた鉱物質充填粒子が溶出する。こうしてここでも多孔質の表面が形成され、この多孔質の表面は、続いて堆積される金属めっきの優れた被付着下地となる。
【0013】
プラスチック表面のコンディショニング後には、シーディングが行われる。シーディングでは、コンディショニングされたプラスチック表面にパラジウム化合物を吸着させる。これはたいてい、イオノゲン性またはコロイド状のパラジウムを含む塩酸溶液中で行われる。イオノゲンによるシーディングは、たいていは主にテトラクロロパラデート(II)イオン[PdCl2−の形の2価に荷電したPd2+により行われる。これに対しコロイドによるシーディングは、保護コロイドにより溶液中に保持された金属パラジウムを有している。保護コロイドとしてはたいてい塩化スズ(II)SnClが用いられる。保護コロイドは、パラジウム−スズクラスターの周りに負に荷電した保護シェルを形成しており、保護シェルは水分子の双極子と相互作用することができ、これにより金属クラスターは溶液中に保持される。クラスター直径は2〜10nmの間の範囲内で変化する。コロイド状に溶解されたパラジウム−スズクラスターの構造は、例えばR. L. Cohen;K. W. West、J. Electrochem. Soc. 120、502 (1973)(非特許文献3)に記載されている。
【0014】
プラスチック表面の実際の金属めっき前の最後のステップでは、シーディングに続いて活性化が行われ、つまり前処理された表面に金属パラジウム核が生成される。
【0015】
イオノゲンによりシーディングされた場合、吸着したパラジウム化合物は、還元剤、例えば次亜リン酸ナトリウムNaHPOまたはジメチルアミノボラン(CHNH−BHにより、金属パラジウムへと還元される。
【0016】
金属パラジウムがすでに存在しているが保護コロイド内で結合しているコロイド状パラジウムのシーディング後には、基体表面の保護コロイドを分解させると同時に、プラスチック表面に金属パラジウムを吸着させる。当業者はこれを促進と言う。促進剤としては例えばシュウ酸HOOC−COOHまたはテトラフルオロホウ酸HBFが使用され、促進剤は、保護コロイドのSnClシェルを除去し、保護シェルから遊離したパラジウムクラスターをプラスチック表面にじかに付着させる。
【0017】
ここでは外部から電流をかけない、したがって化学的な金属めっきステップとしてのみ考慮すべきその後の金属めっきステップでは、イオノゲンまたはコロイドによるシーディングに続いて生成されたパラジウム原子が、電解質中にある金属イオンと還元剤の間の還元反応を触媒することにより、電解質の準安定平衡を乱す。この反応が最初に一度開始されると、金属堆積は自己触媒反応によりさらに進行し、その場合、堆積した金属自体が、パラジウムクラスターのように還元反応を触媒する。
【0018】
プラスチック部品の選択的な金属めっきは、3次元の射出成形された成形回路部品(Molded Interconnect Device、3−D MID)の分野で特に大きな役割を果たしている。この技術は、メカトロニクスシステムの思想では、プラスチック射出成形法のほぼ任意の造形自由度および機械的な機能性を、成形回路部品製造の可能性と理想的に結びつけることができるので、近年ますます重要性を増している。
【0019】
MIDの様々な製造法の概要は、ハンドブック「Herstellungsverfahren, Gebrauchsanforderungen und Materialkennwerte Raeumlicher Elektronischer Baugruppen 3-D MID」、発行者:Forschungsvereinigung Raeumliche Elektronische Baugruppen 3-D MID e.V. D-Erlangen、Carl Hanser Verlag、Muenchen 2004 (ISBN 3-446-22720-2)(非特許文献4)に示されている。
【0020】
金属めっき可能なプラスチックおよび金属めっき可能でないプラスチックを1つの部品に統合し、その後、金属めっき可能な部材から成り、表面でたいていは導体路として形成される回路領域を選択的に金属めっきし得るすでに言及した2成分射出成形法のほかに、近年いわゆるレーザ・ダイレクト・ストラクチャリングが、MIDの製造に関する重要なマーケットシェアを獲得した。
【0021】
導体路を製造するための基本原理および導体路の製造方法の基本原理は、公報EP1274288B1(特許文献5)内で開示されている。この文献では、成形回路部品として使用されるプラスチック中に、一般的には周期表のdブロックおよびfブロックの金属酸化物から成る添加剤、特別な実施形態ではスピネルから成る添加剤、およびさらに厳密に言えば銅含有スピネルから成る添加剤を組み込んでコンパウンド化し、続いて、得られたプラスチック部品をレーザの電磁放射により加工する。その際、プラスチック部品の表面では、ポリマー表面に亀裂を生じさせる僅かな除去が達成され、この除去と同時に、触媒作用を起こす核が生成され、この核は、レーザ放射とプラスチック中に取り込まれた添加剤との作用により生成される。こうして活性化された部品は、続いて無電解銅浴中で選択的に銅めっきすることができる。
【0022】
この方法は、MIDの製造に関する、および特に移動無線アンテナの製造の分野での大きな市場成果にもかかわらず、使用される添加剤自体の色が黒いという欠点を有しており、したがって後の金属めっきのために十分な活性化を達成するのに必要な濃度では、添加されたプラスチックまたはこのプラスチックから製造した射出成形部品自体が黒くなる。このことは、例えば携帯電話の分野では、有用に内側で金属のアンテナ構造を施すことができるカバーの外側を黒色でしか製造できず、したがって外側はデザインの希望に対応してさらなるステップで、例えば塗装技術により着色しなければならないことにより、デザインの自由度を制限している。
【0023】
この方法のさらなる欠点は、特に、ほとんど専ら携帯電話のアンテナの製造に使用される(特にABSおよびPC/ABSブレンドを含む)原材料が、レーザ構造化中またはレーザ活性化中に、非常に容易に溶融しがちであり、これにより活性化された添加剤が部分的に再び被包されるらしく、金属めっきが非常に困難になるという事情にある。実際にはこのレーザ構造化された部品は、しばしば2段階の銅めっきプロセスを施され、その際、第1の銅浴は高活性の化学的な銅電解質から成り、この銅浴中で部品が約1〜3μmの銅で「初期銅めっき」されることで、その後、普通に活性化された銅電解質中で規定層厚までさらに銅めっきすることができる。当業者は、高活性銅浴が非常に速く寿命に達し、その後はこの高活性銅浴を放棄してごみ処理に送るほかないことを承知している。したがってこの2段階の銅浴工程は高価であり、かつさらなる銅タンクキャパシティを必要とし、このさらなる銅タンク容量は、比較的長い金属めっきラインを必要とするかまたは1段階の作業法に比べてキャパシティが少ない。
【0024】
WO2008/119359A1(特許文献6)および「Proceedings of 8thInternational Congress Molded Interconnect Devices」、2008年9月24〜25日、Nuremberg-Fuerth、ドイツ、発行者:Research Association Interconnect Devices 3-D MID e.V.(非特許文献5)でも、3次元成形回路部品を製造するためにプラスチック表面を選択的に金属めっきするためのレーザを用いた方法が開示されており、この方法では、プラスチックの表面粗化だけが行われ、プラスチックは、レーザ構造化後に化学的銅めっきのための触媒として作用する添加剤を含まない。その際、レーザ処理は液体中で、最も簡単な場合には水面下で行われる。この場合、続くパラジウム活性化および金属めっきは、再びまた既知の前述の従来技術を踏襲する。
【0025】
部品を液体中でレーザにより大概3次元に構造化することは、実際には手間を掛けてようやく実現可能な手順であり、この方法が非経済的であろうことは明白である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】DE10054544A1
【特許文献2】EP0146724B1
【特許文献3】DE102005051632B4
【特許文献4】DE10054088C1
【特許文献5】EP1274288B1
【特許文献6】WO2008/119359A1
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Eugen G. Leuze VerlagのSchriftenreihe Galvanotechnik;Schuchentrunk, R.ら、「Kunststoffmetallisierung」、Bad Saulgau 2007;ISBN 3-87480-225-6
【非特許文献2】「Proceedings of 1stInternational Congress Molded Interconnect Devices」、1994年9月28〜29日、Erlangen、ドイツ、発行元:Research Association Interconnect Devices 3-D MID e.V.、ISBN 3-87525-062-1
【非特許文献3】R. L. Cohen;K. W. West、J. Electrochem. Soc. 120、502 (1973)
【非特許文献4】「Herstellungsverfahren, Gebrauchsanforderungen und Materialkennwerte Raeumlicher Elektronischer Baugruppen 3-D MID」、発行者:Forschungsvereinigung Raeumliche Elektronische Baugruppen 3-D MID e.V. D-Erlangen、Carl Hanser Verlag、Muenchen 2004 (ISBN 3-446-22720-2)
【非特許文献5】「Proceedings of 8thInternational Congress Molded Interconnect Devices」、2008年9月24〜25日、Nuremberg-Fuerth、ドイツ、発行者:Research Association Interconnect Devices 3-D MID e.V.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明の課題は、プラスチック表面の構造化および選択的な金属めっきのための上述のレーザを用いた方法の欠点を踏まえて、根本的に改良された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
この課題は本発明により、プラスチックが添加剤として、アルミノケイ酸塩、特にテクトアルミノケイ酸塩の物質群からの少なくとも1種の化合物を含むこと、および貴金属、特にパラジウムの挿入を達成するために、プラスチック表面の金属めっきすべき領域内で、プラスチック中に取り込まれたアルミノケイ酸塩への到達性およびアルミノケイ酸塩の孔もしくは孔構造の開口がアブレーション法により達成されること、および最後に、外部から電流をかけない金属めっきが実施され、その場合、金属は始めに孔または孔構造の中で堆積され、さらに孔の外側の周縁領域で堆積され、したがって基体表面では平面的な金属めっき層が形成されることによって解決される。つまり特に、もともと空洞構造を有する物質をポリマーマトリクス中に組み込み、このポリマーマトリクスから製造されたプラスチック体の表面スキン層を選択的にアブレーションすることでこの物質の空洞構造を露出させ、その後、アブレーションされた領域の貴金属シーディングを、既知で、プラスチック金属めっきにおいて実績のある方法により行うべきである。このために例えば、任意の熱可塑性または熱硬化性のポリマーマトリクス中に、一般的にはゼオライトの名称で知られる天然または合成のテクトアルミノケイ酸塩の群からの1種または複数の化合物を入れる。ゼオライトの構造を構成する基本単位はTO正四面体であり、その際、Tの位置にはケイ素またはアルミニウムがある。個々の単位が結合することにより3次元ネットワークが生じ、その際、ほぼすべての酸素原子は2つの正四面体と結合している。ただし、レーベンシュタインによる経験的法則によれば、2つのアルミニウム原子が1つの共通の酸素原子に結合することはできない。アルミニウムは3価にしか正に荷電しないが4配位であるので、AlO正四面体ごとに一つの負電荷が生じる。この負電荷は、直接的にはネットワーク内に組み入れられない陽イオンによって補われる。このようなイオンの例は、K、Na、Ca、Li、Mg、Sr、Baなどであり、これらは容易に交換することができる。
【0030】
合成ゼオライトを製造する際には、正四面体の陽イオンとしてとりわけGa、Ge、Be、およびPも使用され、ならびに「骨格外カチオン」としてアルカリ元素、アルカリ土類元素、希土類元素、および有機錯体も使用される。
【0031】
その点では、本発明により、そもそもは構造骨格がAlO正四面体およびSiO正四面体から成るゼオライトを表す概念において、Tの位置にAlおよびSiとは違う元素が配置された構造骨格も定義され、この場合には改変されたゼオライトとして理解されるべきである。
【0032】
ゼオライト中の孔路および孔の構造および構成は、イオン交換体としての用途のためおよび触媒としての使用に際して実際に特別な役割を果たしており、本発明でも利用される。
【0033】
意外にも、任意の熱可塑性または熱硬化性のポリマーから成るプラスチックマトリクス中に、乾燥した天然ゼオライトまたは合成ゼオライトもしくは適切に改変されたゼオライトを1〜40重量%の間、好ましくは2〜30重量%の間の濃度で入れた場合に、3次元成形回路部品を製造するための土台となるプラスチック成形体への二次加工に適した材料が生じることがここに見出された。
【0034】
ゼオライトの選択は、その内部にある空洞への孔開口部に基づき、好ましくはメソ多孔質またはマクロ多孔質のゼオライトの群から行われることが有用である。
【0035】
ポリマー混合物を成形するための適切な方法は、射出成形法、押出成形、およびプレス成形法である。
【0036】
成形後の部品の機械的特性またはその他の特性を改変するため、並行してポリマー混合物中に他の添加剤を一緒に取り入れることが絶対に必要なことがあり、または有意義なことがある。このようなさらなる添加剤の例は、強化剤、着色性充填剤、またはレオロジー的もしくは一般的な加工特性を改善する物質などである。
【0037】
第2のステップでは、後の成形回路部品の表面のうち、その後の金属めっきステップで化学的に金属めっきされるべき領域で、僅かな層の材料が除去(アブレーション)される。これにはそもそもすべての材料除去法が適しており、それは例えば、機械的なフライス加工、幾つかのプラズマ法、および特に好ましくはレーザの電磁放射に基づいて作用する方法などである。
【0038】
その際、レーザの電磁放射の波長領域は、193nm〜10,600nmの間の領域内、好ましくは355nm〜1,064nmの間の領域内であることができる。
【0039】
本発明のさらなる一形態では、ポリマー材料中で、その時その時の波長でのレーザ光の吸収を上昇させる物質も、ポリマーマトリクスに混ぜることができる。その際、濃度はポリマー混合物の総重量に対して0.1〜10重量%の間であることが好ましい。
【0040】
この後に続く、選択的にアブレーションされたプラスチック体表面のシーディングおよび活性化のステップでは、従来技術の説明で概略を述べた標準的な方法を使用する。
【0041】
つまり、最初にプラスチック体をパラジウム含有溶液中に浸漬し、したがってイオノゲンによりシーディングするか、またはPd/SnCl溶液中に浸漬することでコロイドによりシーディングする。
【0042】
本発明によれば、イオノゲンによるシーディングの場合、いまや露出しているゼオライトの空洞内にPd2+イオンが拡散し、そこでゼオライト骨格の陽イオンと交換されることを基礎とすべきである。
【0043】
同様に本発明によれば、コロイドによるシーディングの場合、適切なゼオライトの選択により孔幅を適合させることを前提として、パラジウム−スズクラスターがゼオライトのセル構造内に拡散することを基礎とすべきである。
【0044】
本発明に従い、このように前処理された部品を徹底的に洗浄した後、然るべき反応溶液中に浸漬することにより、金属パラジウムへの還元または保護コロイドの分解が、それも直接的にゼオライトの空洞内で起こる。
【0045】
最後に本発明に従い、このように前処理された表面を市販の化学的な銅浴中で処理し、その際、銅めっきはゼオライトの空洞内で始まり、その後、アブレーションされた領域の表面で続行され、これにより完成した金属めっき層の優れた付着性がもたらされると考えられる。
【0046】
以下に、例示的実施形態に基づき本発明をさらに詳しく説明する。
【発明を実施するための形態】
【0047】
実施例
形態1
予め4時間にわたって110℃の温度で乾燥したBayer AG社のBayblend T45型のポリカーボネートアクリルニトリルブタジエンスチレンブレンドから成る自然色の粒状物質を、Alpine社の100UPZ−II型のインパクトミル内で粉砕した。
【0048】
こうして得られたポリマー粉末540gを、予め5時間にわたり250℃で真空脱水したSued−Chemie社の改変された13X型ゼオライト60gと共に転動混合機内で15分間混合した。
【0049】
この混合物を、Dr.Collin社のコンパウンダ内で均質化し、続いて、細砕により得られたプラスチック粒状物質をDr.Boy社の射出成形機内で寸法60mm×60mm×2mmのプレート状の被検体へと射出成形した。
【0050】
形態2
形態1での第1のプロセスステップに倣い、BASF社のUltradur B4520型の自然色のポリブチレンテレフタレート(PBT)を、120℃で3時間の事前乾燥後に粉砕した。
【0051】
こうして得られたポリマー粉末480gを、予め5時間にわたり250℃で真空脱水したZeochem社の改変されたPentasil型ゼオライト60gと、予め2時間にわたり200℃で乾燥した商品名Finntalk M03−SQのタルカム60gと一緒に転動混合機内で15分間混合した。
【0052】
形態1に倣い、この混合物はコンパウンド化され、プレート状の被検体へと射出成形される。
【0053】
形態3
予め1%のAlbion−Colours社の色素「Red X2GP」で赤く着色され、30%のガラス繊維が充填されているEMS社のHT2V−3X V0型の部分芳香族コポリアミドを、形態1での第1のプロセスステップに倣い、80℃で10時間の事前乾燥後に粉砕した。
【0054】
こうして得られたポリマー粉末516gを、予め5時間にわたり250℃で真空脱水したSued−Chemie社の改変された13X型ゼオライト33gと、Imerys Performance & Filtration Materials社のPolestar200R型のか焼されたIR吸収体18gと一緒に転動混合機内で15分間混合した。
【0055】
形態1に倣い、この混合物はコンパウンド化され、赤く着色されたプレート状の被検体へと射出成形される。
【0056】
形態4
形態1または形態2から得られたプラスチックプレート上に、波長355nmのUVレーザにより、パルスエネルギー35μJおよび速度500mm/sでの1回の通過で矩形のテスト構造を描いた。
【0057】
形態5
形態3から得られたプラスチックプレート上に、波長1,054nmのNd−YAGレーザにより、パルスエネルギー120μJおよび速度4000mm/sでの2回の通過で矩形のテスト構造を描いた。
【0058】
形態6
形態1から得られたプラスチックプレートの平らな表面内に、CNCフライス機を使用し、直径1.5mmおよび回転数18,000回転/minの2枚刃フライスにより、プレート表面から測定した深さが0.15mmの複数の矩形の凹部をフライス加工した。
【0059】
形態7
形態4〜形態6で処理されたプレートを、組成が例えばAtotech社のMID活性剤Ni 200ml/lおよび濃HSO 5ml/lのPd2+含有水溶液中に、50℃で浴を動かしながら15分間浸漬した。その後プレートを、2段の流水洗浄カスケード内で、続いて脱イオン水中で洗浄した。
【0060】
続いてプレートを、組成が例えばEnthone社のコンディショナーUltraplast BL2220 25ml/lおよびUltraplast BL2230添加剤 2.5ml/lの、ジメチルアミノボランを含む還元溶液中で、40℃で浴を動かしながら5分間処理し、続いて再び洗浄した。
【0061】
こうして前処理されたプレートを、その直後にDow Chemical社のCircuposit4500型の作業温度54℃の活性化された無電解銅浴中に懸架し、約45分後に浴から取り出した。
【0062】
徹底的な洗浄の後、プレートを乾燥させた。プレートのうち予めレーザにより処理されていた位置または凹構造にフライス加工されていた位置では、選択的かつ鋭い縁で、均一な約4μm厚の銅層が確実に付着して堆積されていた。
【0063】
形態8
形態4〜形態6で処理されたさらなるプレートを、組成が例えば37%濃度HCl 250ml/l、PdCl 170ml/l、およびSnCl 15g/lのコロイド状のPd触媒溶液中に、30℃で浴を動かしながら5分間浸漬した。その後プレートを、2段の流水洗浄カスケード内で、続いて脱イオン水中で洗浄した。
【0064】
続いてプレートを、Enthone社のEnplate Accelerator860型のHBFを含む促進溶液中で、室温で浴を動かしながら3分間処理し、続いて再びしっかり洗浄した。
【0065】
こうして前処理されたプレートを、その直後にMacDermid社のM−Copper85型の作業温度48℃の活性化された無電解銅浴中に懸架し、約30分後に浴から取り出した。
【0066】
徹底的な洗浄の後、プレートを乾燥させた。プレートのうち予めレーザにより処理されていた位置または凹構造にフライス加工されていた位置では、選択的かつ鋭い縁で、均一な約2μm厚の銅層が確実に付着して堆積されていた。
【0067】
形態9
形態3および形態5から得られ、かつ形態7により選択的に銅めっきされた試料プレートに、銅めっきの直後にDow Chemical社のRonamerse SMT Catalyst CF型の市販の浴中でPd活性化を施し、それからNiposit LT型の化学的ニッケル浴中で約4μmのNiP(リン含有率4〜6%)をニッケルめっきし、続いてAurolectroless SMT−G型の無電解金浴からの約0.1μm厚の金フラッシュ層が施された(両方ともDow Chemical社の浴)。
【0068】
こうして銅めっきされ、ニッケルめっきされ、かつ金めっきされたプレート領域で、鉛フリーのはんだペーストの点を施し、それらの点中に、予めスズめっきされた銅ワイヤを据えた。沸騰温度が240℃の完全にフッ素化されたポリエーテル「Galden HS/240」(Solvay Solexis S.p.A.社の商品名)を送り込まれた気相はんだ付け設備内で、はんだペーストを溶融させた。はんだ付け後には、気泡のないはんだ流展を認めることができ、はんだ付けされたワイヤの引き抜きテストは、はんだプロセス後にも金属めっきが非常に良く付着していることを明らかにした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の主要な部分が添加剤を収容または担持するプラスチックから成る基体の選択的な金属めっき方法であって、金属めっきすべき領域内で、基体の表面付近の層がアブレーション法により除去される方法において、プラスチックが添加剤として、アルミノケイ酸塩、特にテクトアルミノケイ酸塩の物質群からの少なくとも1種の化合物を含むこと、および貴金属、特にパラジウムの挿入を達成するために、プラスチック表面の金属めっきすべき領域内で、プラスチック中に取り込まれたアルミノケイ酸塩への到達性およびアルミノケイ酸塩の孔もしくは孔構造の開口がアブレーション法により達成されること、および最後に、外部から電流をかけない金属めっきが実施され、その場合、金属は始めに孔または孔構造の中で堆積され、さらに孔の外側の周縁領域で堆積され、したがって基体表面では平面的な金属めっき層が形成されることを特徴とする方法。
【請求項2】
アブレーション法のために、電磁放射、特にレーザ放射が用いられることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電磁放射または前記レーザの波長が、193nm〜10,600nmの間の範囲内、好ましくは350nm〜1,100nmの間の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
使用するアルミノケイ酸塩の開口孔直径が、少なくとも、挿入反応に関与する反応物質の動的径(Kinetische Durchmesser)より大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
添加剤の含有率が、プラスチックの混合物全体に対して1〜40重量%の間、好ましくは2〜30重量%の間であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
プラスチックが熱可塑性または熱硬化性のプラスチックであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
金属めっきが、化学的に還元反応する金属浴(銅浴)中で化学的に実施されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
熱可塑性プラスチックが、射出成形またはストランド押出成形された形で、またはフィルムの形に成形されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
熱硬化性プラスチックが、プレス成形材料として、または液体の形で存在することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
プラスチックが、前記添加剤の他に1種またはそれ以上の無機または有機の添加剤を含み得ることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
前記さらなる添加剤が、赤外線の、緑の、および/または紫外線の波長領域内で、吸収最大を有し、かつプラスチックの吸収度を上昇させることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
プラスチックマトリクス中の選択的に露出された孔構造内に、イオノゲン性またはコロイド状の貴金属の物質輸送が行われること、およびそこでは既知の連続反応により、化学的な銅堆積が始まることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
貴金属としてパラジウムまたはパラジウム化合物が用いられることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
3次元成形回路部品(MID)を製造するために使用されることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一つに記載の方法によって製造された、基体上に金属めっき部を備えた成形回路部品。

【公開番号】特開2012−149347(P2012−149347A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−4584(P2012−4584)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【出願人】(399007154)エル・ピー・ケー・エフ・レーザー・ウント・エレクトロニクス・アクチエンゲゼルシヤフト (8)
【Fターム(参考)】