説明

基体への注入による植物への物質投与

処理薬剤として作用する少なくとも1種類の物質を、植物素材に対して投与する方法および装置であって、表面とそこに在る少なくとも1つの植え付け箇所とを有する、少なくとも1つの基体を設けるステップと、注入手段を設けるステップと、前記基体と前記注入手段とを相対的に移動させるステップと、前記植え付け箇所に対する前記注入手段の配列を制御するステップと、前記注入手段を用いて前記植え付け箇所の所定位置に前記物質を注入するステップと、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば種子,種苗,挿し穂および植物などの植物素材に、若しくはその近くに、少なくとも1種類の物質を投与するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物上にスプレー(spray)を吹き付けることにより、又は、そこに植え付けるか種を撒くことができる或いは植え付けられているか種が撒かれている植物素材のために、土壌(基体)上にスプレーを吹き付けることにより、植物の植え付け箇所に物質を投与することは既知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このやり方は、処理薬剤のかなりの損失(ロス:loss)を伴うものである。植物上への投与は効率が低く、全体にわたって効果的であるためには、大量に投与しなければならない。離れた所からの基体(サブストレート:substrate)上への投与、つまり、スプレーの吹き付け,滴下あるいはデポジッティング(depositing)は、植物の植え付け箇所ではない意図しない箇所に処理薬剤が撒かれてしまうという結果をもたらすかも知れない。しかも、土壌中に又は土壌上に生育した植物が既にあれば、葉が途中で薬剤を取ってしまうこともある。この点について、植物の植え付け箇所に適量投与する既知の技術では、通常、不十分な精度でしか投与できないことに留意すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、例えば作物保護剤,成長促進剤および根ホルモン(root hormone)のような物質を表面下に注入することにより、これらの薬剤が、当該薬剤の最大の薬効を達成するやり方で投与される。更に、殺菌剤,殺虫剤,除草剤,殺線虫剤なども適用可能である。これにより、表面または植物自体に発生する有害な汚染を効果的に回避することも可能である。このようにして、植え付け箇所での、非常に精密な位置決め、及び、しかも物質もしくは処理薬剤の適量投与を、保証することができる。
【0005】
この注入は、正確な「植え付け箇所」が決まると直ちに利用することができる。これは、例えば、いわゆる「土壌ブロック(soil block)」のプレス(pressing)後すぐ、或いは所謂トレイを基体で満たした後すぐの場合、すなわち、植物,挿し穂,種苗もしくは種子が「植え付け箇所」に存在する前の場合である。本発明の適用の場(フィールド:field)の他の例は、ロックウールの鉢(ポット:pot),ヤシポット(coco-pot),予め充填された紙のポットなどである。本発明は、植物素材が植え付け箇所に着床し、暫くの間生育した後であっても、かかる場合の解決法をも与えるものである。
【0006】
尚、例えば肥料の注入は既知であるが、処理薬剤の注入を正確な植え付け箇所に関連付けることは、本発明の非常に今日的な意義ある特徴であることに留意すべきである。肥料が注入される場合には、正確に適量投与することは余り意義ある因子(ファクタ:factor)ではなく、肥料の量は、植え付け箇所当たりに適量を投与することについて何ら考慮することなく、基体上あるいは草地上に均一に散布しなければならない。これは、本発明と対照的である。
【0007】
一つの植え付け箇所当たりへ正確に決められた量の物質もしくは処理薬剤を投与することは、植え付け箇所に物質もしくは処理薬剤と種子とをデポジット(deposit)することに対して、本発明でかなり改善される。というのは、例えば空気の流れで、物質もしくは処理薬剤と種子とが流されて移動することが起こり得ないからであり、また、本来的に注入のより正確な適量投与が可能だからである。更に、温度依存性があり予測困難な蒸気の形成を防ぐこともできる。蒸気の形成は、その結果として、植え付け箇所に実際に着床しようとしている物質の量、特に液状の処理薬剤の量が、意図されたよりも少なくならしめるものである。
【0008】
本発明には数多くの可能な実施形態があり、その幾つかは独立請求項において規定されている。
【0009】
既に気付かれているように、本発明は、本発明に係る方法を実施するための装置にも関連している。
【0010】
以下に、本発明の例示的な実施形態、また、互いに異なる実施形態が添付図面を参照して説明される。ここに、類似の又は同一の部品および要素は、同一の参照番号を用いて表される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1はトレイ(tray)1を示している。トレイ1は、例えばプラスチック,スチロポール(styropor)などの合成材料、或いは他のあらゆる好適な材料で製作されている。植え付け箇所2は、トレイ1の表面に画定されている。トレイ1は、植え付け箇所に空洞部8(キャビティ:cavity)を備えており、該空洞部は、栓子9(プラグ:plug)を形成するために、例えば、岩綿(ロックウール:rockwool),土,粘度,鉢植え用の堆肥(コンポスト:compost),ココナツ(coconut)繊維、その他の基質材料で満たされている。より正確に言えば、プラグ9の窪みが、植え付け箇所2を画定している。種子,種苗,挿し穂および植物の初期の生育期の後、十分に発育したとき、前記プラグは、トレイ1から取り出され、基体ブロック(不図示)内または他の基体内に配置される。
【0013】
図1に示された例示的な実施形態では、1列3当たり7つの植え付け箇所でもって、植え付け箇所2は、トレイ1の表面に列3をなして配置されている。
【0014】
更に、液状の処理薬剤6の形態での物質に用いる注入器4(インジェクタ:injector)と、種子用の投下要素5(リリースエレメント:release element)とが、図1に示されている。処理薬剤6の小滴に加えて、或いは小滴に代えて、粒状または粉状の処理薬剤も使用できることは、明白であろう。インジェクタは、ポンプ11を有する導管路10を介して、処理薬剤6用の貯留器12に接続されている。
【0015】
トレイ1は、当該トレイ1の植え付け箇所2のプラグ9と共に、移送手段(不図示)によって矢印Aの方向に、インジェクタ4及びリリースエレメント5に対し相対的に移動させられる。インジェクタ及びリリースエレメントは、それ自体は静止しており、本発明に係る方法を実行するための装置の一部を構成するものである。尚、図1ではインジェクタ4とリリースエレメント5だけが示されているような装置は、移動式の形態をとることもできる。この場合、基体1がインジェクタ4及びリリースエレメント5の下方を通過するのではなく、インジェクタ4及びリリースエレメント5自体が、移動のために枠体(フレーム:frame)上に配置され、田畑あるいは空き地または他の静止した基体を横切って、移動もしくは引っ張られる。かかる解決法は、例えば、地面の整地と、図1に示された植え付け箇所2に相当する穴部の形成をもたらすこともできる。
【0016】
インジェクタ4及びリリースエレメント5の下方でのトレイ1の動作が、途中で中断されないようにすることも可能である。これは、インジェクタ4が十分な速度で、植え付け箇所内、植え付け箇所の下側またはその近くに処理薬剤6を注入できれば可能である。その場合、リリースエレメント5の制御は非常に高精度を要し、処理薬剤6と種子7とは、常に、植え付け箇所内、植え付け箇所上またはその近くに着床する必要がある。代案として、或る実施形態は、矢印A方向におけるトレイの動きが断続的に進行し、処理薬剤6が植え付け箇所内またはその下側に効果的に注入され、また、そこに種子7をデポジットすることもできるように、インジェクタ4が所望のやり方で植え付け箇所に指向させられる場合には、トレイの動きが中断される、手段を備えることができる。
【0017】
図2にも示されるように、トレイ1は矢印Aの方向に変位させられる。ここでは、植え付け箇所2(の列)は、いずれの場合でも、インジェクタ4の下方を、或いは、少なくとも、往復矢印Bで模式的に表されているインジェクタ4の動作方向において整列して、移動する。往復矢印Bの方向において往復するようにインジェクタ4を駆動することにより、処理薬剤6が、プラグ9内に、好ましくは正確に植え付け箇所2の下側に、注入されることができる。リリースエレメント5を用いて、同時に、又は、より早くに或いはより遅れて、植え付け箇所2内に、種子がデポジットされる。処理薬剤6用のインジェクタ4と種子用のリリースエレメント5とは、矢印Aの動作方向において、互いに幾らかの距離を置いて配置されている。このことは、植え付け箇所2の1つに、連続して又は同時に、処理薬剤6と種子7とが着床することが望まれるときには、考慮に入れなければならない。ここでは、リリースエレメント5と植え付け箇所2の間の位置の違い及び種子7の落下特性に基づいた制御により駆動されるインジェクタ4及びリリースエレメント5を有するために、種子7の落下速度と空気抵抗も考慮に入れることができる。このように示された実施形態では、プラグ9内の穴部で形成された植え付け箇所2内に、先ず処理薬剤6が注入され、種子7がそれに続く。しかしながら、例えば法律の制定等を考慮に入れて、この順序を逆にすることも可能である。その場合には、先ず種子7がデポジットされ、処理薬剤6の注入がそれに続くことになり、その結果、種子7のデポジットに先立つプラグ9の前処理は無くなる、又は無くすることができる。
【0018】
本発明では、コスト面で非常に有利な高度に自動化されたプロセス(process)が可能であり、それ無しでは予め被覆(プリコート:pre-coated)された種子7が必要とされ、このプリコートされた種子は、購入するのにかなり費用の掛かり、或いは、処理薬剤6のスプレー吹き付けや滴下で生じ得るのと同じく、処理薬剤6が無駄に消費される。本発明によれば、特に、リリースエレメント5の植え付け箇所に対する位置的な差異、並びに、例えば種子,挿し穂など個々の播種および/又は植え付けできる素材の落下特性および経路の違いが、考慮される。これらの因子(ファクタ:factor)の全てを考慮に入れることにより、十分で且つ多過ぎない処理薬剤6が播種および/又は植え付けできる素材と組み合わされて各植え付け箇所2に注入されることを、確実に成し遂げることができる。
【0019】
図3の実施形態では、基体マット(mat)14が用いられている。植物15の栽培が行われる植え付け箇所2は、基体マット14の表面全体にわたって分布している。植物15は図3に示されているが、インジェクタ4が基体マット14上に作用するときに、植物15が、そのポイント又はその付近に、植え付けられ或いは配置(セット:set)されるようにすることも、本発明の範囲内で可能である。或る有利な実施形態では、注入以前の何時かの時点で、基体マット14内またはその上に、植物15が既に植え付けられているようにすることができる。植物が、ある期間にわたって育成された後、おそらく有害な影響を及ぼすものに曝される前、例えば、そこで生育した植物15を伴った前記トレイ又は基体マット14が、栽培者によって市場の園芸業者へ納入されるときに、処理薬剤6は、なお植物15に投与することができる。
【0020】
ここに、植え付け箇所2がインジェクタ4の近くに位置するときに表示する測定モジュール(module)13が設けられている。この測定モジュール13或いは他の態様の制御によって決定または促される的確な時機に、インジェクタ4が、表面下の或る程度の距離に植え付け箇所2が規定された基体マット14内に、正確な量の処理薬剤6を注入する。薬剤は、貯留器12から供給され、ポンプ11を有する導管路10を介してインジェクタ4に運ばれる。植え付け箇所2に対してインジェクタ4が正確に又は望ましく整列した状態で、駆動装置(不図示)により、好ましくは測定モジュール13の制御下または他のタイプの制御下で、インジェクタ4が往復矢印Bの方向に往復するように駆動される。図1において矢印Aで表示されているが、基体マット14とインジェクタ4とが相対的に動く場合には、特にタイミング(timing)は決定的に重要である。
【0021】
以上の記載を検討すれば、多くの代替案および追加の実施形態が当業者にとって思い浮かぶであろう。それらの全ては、添付のクレームの字義または精神を逸脱しない限り、それらのクレームによる保護範囲内に含まれるものである。従って、列3は個々の土壌ブロックを備え得るものである。その場合、植え付け箇所は、個々の土壌ブロック内に形成される。また、その場合、各土壌ブロックは、単一の植え付け箇所を有する一つの基体であると、考えることができる。
【0022】
播種の試料用および/又は植え付けできる素材用のリリースエレメント5及び/又はインジェクタ4が、正確には下方を指向しないようにすることも可能である。種子7が植え付け箇所2内に着地する前に、処理薬剤6を伴った液滴が、プラグ9内に「発射」され、植え付け箇所2の下側またはその近くに注入されることができる。播種の一つの試料および/又は植え付けできる素材の如何なる場合でも投下される大雑把なときに、プラグ9内に処理薬剤6を注入するように、インジェクタ4とリリースエレメント5とを組み合わせることもできる。従って、注入およびデポジッティング(depositing)に要する時間を最小にできる。その場合、リリースエレメント5は、例えば、インジェクタ4と共に上下に変位する。或る幾つかの条件では、先ず種子7を置き、処理薬剤6の注入が後に続くことも、好ましいかも知れない。
【0023】
インジェクタ4とリリースエレメント5の間に、図に示されているよりも大きな距離を設けることができる。その場合、インジェクタ4とリリースエレメント5の制御は、種子7の植え付け箇所へのデポジッティングを、対応する処理薬剤6の注入と、例えば殆ど同時となるように同期させることを余り狙いとはしていない。その場合、同期は、処理薬剤6の注入と種子7のデポジッティングとの間で、植え付け箇所によって移動された距離を考慮に入れたタイプのものとなる。
【0024】
種子7が既に播種されているとき、或いは、挿し穂,植物または種苗が既に位置設定(セット:set)または植え付けされているとき、或いは、例えば、若い植物が栽培者によって市場の園芸業者に今まさに届けられようとしているときなど、植物が既に発育しているときでも、注入を適用することもできる。また、注入は、植物,種苗あるいは挿し穂にも行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理薬剤として作用する少なくとも1種類の物質を、植物素材に対して投与する方法であって、
表面と、そこに在る少なくとも1つの植え付け箇所とを有する、少なくとも1つの基体を設けるステップと、
注入手段を設けるステップと、
前記基体と前記注入手段とを相対的に移動させるステップと、
前記植え付け箇所に対する前記注入手段の配列を制御するステップと、
前記注入手段を用いて前記植え付け箇所の所定位置に前記物質を注入するステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
注入に先立って、若しくは注入中に、或いは注入後に、前記植え付け箇所の基体上または基体内に、前記植物素材を播種もしくは位置設定あるいは植え付けするステップを更に備える、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一続きの基体と少なくとも一続きの植え付け箇所とを前進運動に対応する方向に設けるステップと、これに続いて前記注入手段を前記植え付け箇所に配列するステップと、前記運動中の不連続な瞬間に前記物質を繰り返し注入するステップと、を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも注入中は前記前進運動を中断するステップを更に備える、ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記物質は、殺菌剤,農薬,植物成長促進剤,バクテリア,殺虫剤,除草剤,殺線虫剤などで成るグループの中の一つである、ことを特徴とする請求項1から4の何れか一に記載の方法。
【請求項6】
前記植物素材は、挿し穂,種子,種苗,植物などで成るグループの中の一つである、ことを特徴とする請求項1から5の何れか一に記載の方法。
【請求項7】
前記基体は、ロックウール繊維などの板状素材,鉢植え堆肥,ココナツ(繊維);プラグ;土壌ブロックで成るグループの中の少なくとも一つである、ことを特徴とする請求項1から6の何れか一に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1種類の物質を植物素材に対して投与する装置であって、請求項1から7に規定された何れか一の方法を実行する手段を備えることを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−501193(P2010−501193A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525983(P2009−525983)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際出願番号】PCT/EP2007/007584
【国際公開番号】WO2008/025548
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(507348230)プレシジョン・ドリップ・ベスローテン・フェンノートシャップ (2)
【Fターム(参考)】