説明

基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜及びこれを用いた燃料電池用膜・電極接合体の製造方法並びに燃料電池

【課題】 再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、膜質に優れ、自立膜性がなくても作製可能であり、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜及びこれを用いた燃料電池用膜・電極接合体の製造方法並びに燃料電池を提供する。
【解決手段】 本発明による基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜11は、基材6(7)上に金属リン酸塩を含む触媒層2(3)と金属リン酸塩を含む電解質膜1が順次積層された基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10Aの2つが、互いの電解質膜1により接合された構造を備える。基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10(10A)の2つを互いに電解質膜1側を対向させて配置し、熱プレス処理により接合して、基材6,7を剥離した後ガス拡散層4,5を触媒層2,3上に形成することにより燃料電池用膜・電極接合体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜及びこれを用いた燃料電池用膜・電極接合体の製造方法並びに燃料電池に関し、特に、金属リン酸塩を含む、基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜及びこれを用いた燃料電池用膜・電極接合体の製造方法並びに燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりとともに、COや汚染物質を排出しないクリーンエネルギーとして燃料電池が注目されている。その中でも、エネルギー効率が高く、温度領域が100℃前後と一般用に取り扱いやすい固体高分子電解質を用いたPEFC(固体高分子形燃料電池)の開発に注力がなされている。
【0003】
プロトンを伝導する高分子電解質としては、一般的にNafion(登録商標)で知られているパーフルオロスルホン酸等が用いられているが、プロトン伝導機構がHの状態でプロトンを伝導するVehicle(運搬)機構であるため、加湿機構を備える必要があり、このためシステムが煩雑になるという問題点がある。
【0004】
加湿の問題を改善した電解質としては、リン酸を含浸させたPBI(ポリベンズイミダゾール)膜が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この膜は90%以上が液体リン酸で構成されているため、強酸であるリン酸がしみ出しやすいことや、液体シールを厳密に行わなければならないこと、さらにセルを作製する際にリン酸のしみ出しによりMEA(膜・電極接合体)の作製が困難であること、等の問題点がある。
【0005】
一方、無加湿状態でプロトン伝導性を有するプロトン伝導性電解質として金属リン酸塩を電解質膜や触媒層に用いた燃料電池が知られている(例えば、特許文献2参照。)。また、金属リン酸塩の一部に別種の金属をドープしたものとバインダーを有するフィルムを電解質膜に用いた燃料電池も開示されている(例えば、特許文献3,4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2001−510931号公報
【特許文献2】特開2005−294245号公報
【特許文献3】特開2008−53224号公報
【特許文献4】特開2008−53225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記金属リン酸塩の場合、合成過程で必要となる350℃以上の熱処理の際に、リン酸が消失するおそれがあるため、製造物の再現性が得られず、合成条件のコントロールが困難であるといった問題がある。
【0008】
また、電解質膜や触媒層の形成においては、金属リン酸塩が粉体であるため、成形性、自立膜性に乏しいといった問題点がある。
【0009】
また、燃料電池に用いられる電解質膜や触媒層は、粉体とバインダーを有するペーストを圧延したものであり、粉体の凝集によりピンホールが発生しやすく、膜質が不良となるといった問題がある
【0010】
本発明の目的は、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、膜質に優れ、自立膜性がなくても作製可能であり、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する、基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜及びこれを用いた燃料電池用膜・電極接合体の製造方法並びに燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、基材上に金属リン酸塩を含む触媒層と金属リン酸塩を含む電解質膜が順次積層された基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜の2つが、互いの前記電解質膜により接合された構造を備えたことを特徴とする基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜である。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、基材と、前記基材上に配置された金属リン酸塩、リン酸類、触媒及びバインダーを含有する触媒層と、前記触媒層上に配置された金属リン酸塩、リン酸類、及びバインダーを含有する電解質膜とを備えたことを特徴とする基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜である。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜の2つを互いに前記電解質膜側を対向させて圧着により接合する工程と、前記基材を剥離する工程と、ガス拡散層を前記基材の剥離により露出した前記触媒層上に形成する工程とを備えたことを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体の製造方法である。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜の両面に配置された前記基材をそれぞれ剥離する工程と、ガス拡散層を前記基材の剥離により露出した前記触媒層上にそれぞれ形成する工程とを備えたことを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体の製造方法である。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法により製造された燃料電池用膜・電極接合体と、一対のセパレータとを備え、前記燃料電池用膜・電極接合体が、前記セパレータに狭持されたことを特徴とする燃料電池である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、膜質に優れ、自立膜性がなくても作製可能であり、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する、基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜及びこれを用いた燃料電池用膜・電極接合体の製造方法並びに燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜の模式的断面図。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜の模式的断面図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜の製造方法を説明する模式的断面図。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係る、燃料電池用膜・電極接合体の製造方法を説明する模式的断面図。
【図5】本発明の第5の実施の形態に係る燃料電池の模式的断面図。
【図6】実施例における電解質膜の表面をマイクロスコープで観察した図。
【図7】比較例における電解質膜の表面をマイクロスコープで観察した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に示す本発明の実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための材料や製造方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、材料や製造方法等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
また、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なり、また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることに留意すべきである。
【0020】
[第1の実施の形態]
(基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜)
本発明の第1の実施の形態に係る基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜11は、図1に示すように、基材6(7)上に金属リン酸塩を含む触媒層2(3)と金属リン酸塩を含む電解質膜1が順次積層された基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜の2つが、互いの電解質膜1により接合された構造を備える。すなわち、2つの電解質膜1同士が接合して形成された電解質膜1と、電解質膜1を挟持するように配置した触媒層2,3と、触媒層2,3それぞれの電解質膜1と接している面と反対側の表面に配置した基材6,7とを備える。
【0021】
(電解質膜)
本実施の形態に係る電解質膜1は、金属リン酸塩及びリン酸で構成されたプロトン伝導性電解質からなる。
【0022】
金属リン酸塩としては、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩等の化合物を挙げることができる。具体的には、リン酸スズ、リン酸ジルコニウム、リン酸セシウム等を挙げることができる。好ましくは、スズやセシウム等の金属の一部がインジウム,アルミニウム或いはアンチモン等のドーピング金属元素で置換されたピロリン酸塩であるのが良い。
【0023】
本実施の形態において、金属リン酸塩は、下記式(1)で表される化合物で構成されるのが好ましい。
【0024】
1−x ・・・(1)
(ここで、M,Nは金属元素、Xは0≦X<0.5であり、MはZr,Cs,Sn,Ti,Si,Ge,Pb,Ca,Mg及びAlの群から選ばれる1種であり、Nはドーピング金属元素であり、Al,In,B,Ga,Sc,Yb,Ce,La及びSbの群から選ばれる1種である。)
【0025】
本実施の形態に係る金属リン酸塩は、1種以上の金属酸化物とリン酸を加熱して、熱処理することにより合成することができる。
【0026】
ここで、リン酸類(以下、単に「リン酸」ともいう。)とは、オルトリン酸及びリン酸縮合体をいい、リン酸縮合体としては、ピロリン酸、トリリン酸、メタリン酸(ポリリン酸)等が挙げられる。
【0027】
金属酸化物としては、リン酸と結晶性塩を生成可能なものであれば、特に限定されない。例えば、以下の金属元素からなる酸化物を挙げることができる。すなわち、Zr,Cs,Sn,Ti,Si,Ge,Pb,Ca,Mg及びAl等の金属元素である。
【0028】
上記金属を主金属として、主金属と異なる金属をドープしてもよい。ドープ金属を用いた場合、上記主金属のうちリン酸塩としての安定性の点から、Sn,Cs,Ti及びZrを用いるのが望ましい。
【0029】
ドープ金属としては、例えば、Snを主金属として用いた場合、主金属と固溶可能なものであることから、In,Alが好適である。主金属とドープ金属の配合比率は固溶限界により異なるがSnを主金属、Inをドープ金属として用いる場合、例えば、Sn:In=7:3〜9.8:0.2の範囲が望ましい。
【0030】
本実施の形態に係るプロトン伝導性電解質は、金属リン酸塩とリン酸類を熱処理することにより得られる複合リン酸塩で構成されている。金属リン酸塩とリン酸類を熱処理することにより、プロトン伝導性が発現すると共に、複合リン酸塩となり構造的に強固なものとなる。
【0031】
上記複合リン酸塩は、金属リン酸塩の金属元素及びドープされる金属元素の原子数をそれぞれ[M]及び[N]、金属リン酸塩のリンの原子数とリン酸のリンの原子数の合計を[P]とした場合、下記式(2)を満たすことが好ましい。
【0032】
2<[P]/([M]+[N])≦4 ・・・(2)
より好ましくは、下記式(3)を満たすことが好ましい。
【0033】
2.4≦[P]/([M]+[N])≦3.2 ・・・(3)
【0034】
上記式(2)を満たすことにより、高いプロトン伝導性が得られるとともに、成形性が良好なものとなる。
【0035】
(バインダー)
電解質膜1は、バインダーを含有してもよい。金属リン酸塩にバインダーを添加してペースト化したものをキャスト成形することにより、機械強度にすぐれた電解質膜をえることができる。
【0036】
使用するバインダーは、例えば、pHが約1〜3程度における耐酸性、温度が約100〜300℃程度における耐熱性を有するものが好ましい。また、プロトン伝導性を有していても良い。
【0037】
このようなバインダーとして、フッ素系又は炭化水素系ポリマー、フッ素系又は炭化水素系イオノマーであることが好ましい。
【0038】
フッ素系ポリマーとしては、テトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン,四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP),四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂等を用いることができる。
【0039】
炭化水素系ポリマーとしては、炭化水素系化合物を主骨格とする高分子であって、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスチレンスルファイド、ポリベンズイミダゾール系等のような含窒素化合物や硫黄化合物も含まれる。また、Siなどの無機成分が含まれていてもよい。
【0040】
フッ素系イオノマーとしては、デュポン社のNafion(登録商標)、旭硝子社のフレミオン(登録商標)、旭化成社のアシプレックス(登録商標)のようなパーフルオロスルホン酸系が挙げられる。
【0041】
炭化水素系イオノマーとしては、ポリアリーレンエーテルスルホン酸,ポリスチレンスルホン酸,シンジオタクチックポリスチレンスルホン酸,ポリフェニレンエーテルスルホン酸,変性ポリフェニレンエーテルスルホン酸,ポリエーテルスルホンスルホン酸,ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸,及びポリフェニレンサルファイドスルホン酸等を挙げることができる。
【0042】
また、バインダーは、イオン性液体であってもよい。イオン性液体としては、プロトン伝導性を妨げない限り、特に限定されないが、例えば、フルオロハイドイロジェネート型イオン液体,ジエチルメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸系イオン液体等を挙げることができる。
【0043】
また、バインダーは、セルロース系ポリマーであってもよい。セルロース系ポリマーとしては、メチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,酢酸セルロース等を挙げることができる。
【0044】
上述したバインダーは1種類のみを用いてもよいし複数の種類を使用してもよい。
【0045】
これらのバインダーの中でも、耐久性・結着性・耐酸性・耐熱性の点よりPTFE,ポリフッ化ビニリデン,パーフルオロスルホン酸,トリアセチルセルロース,ポリイミド,ポリアミドイミド,スルホン化ポリイミドが好適に用いられる。
【0046】
電解質膜1に用いるバインダーの種類、溶媒の種類、配合比は、後述する触媒層2,3と同じであってもよいし異なってもよい。電解質膜1に用いるバインダーと触媒層2,3に用いるバインダーが異なる種類の場合、電解質膜1と触媒層2,3の密着性の点から電解質膜1と触媒層2,3に含まれる少なくとも1種類のバインダーは、ガラス転移点又は軟化点の他のバインダーとの差が約50℃以下であることが好ましい。これにより、触媒層2,3と電解質膜1をホットプレス等で接着する場合、同じホットプレス温度でも密着性が良好なものとなる。
【0047】
電解質膜1は、その厚みは限定的でないが、通常約20〜1000μm程度、強度の点から、好ましくは、約30〜300μm程度であるのが良い。
【0048】
(触媒層)
本実施の形態における触媒層2,3は、金属リン酸塩及びリン酸類で構成されたプロトン伝導性電解質及び触媒で構成される。
【0049】
触媒としては、燃料電池におけるアノード及びカソード反応を促進する物質であれば、特に限定されない。例えば、白金担持カーボン,白金−ルテニウム担持カーボン,白金−コバルト担持カーボン、金担持カーボン,銀担持カーボン,鉄−コバルト−ニッケル担持カーボンなどの金属担持カーボンや、白金ブラック、白金−ルテニウムブラック、白金−コバルトブラック、金ブラック、銀ブラックなどの金属微粒子、或いはモリブデンカーバイド等の無機物質を挙げることができる。このうち触媒活性の高い白金担持カーボン、リン酸被毒の少ないモリブデンカーバイド等が好適である。
【0050】
触媒層2,3は、バインダーを含有してもよい。触媒層2,3の形成には、金属リン酸塩と触媒のみでも成形可能であるが、これらにバインダーを添加してペースト化したものを塗工・成形することにより、機械強度にすぐれた触媒層を得ることができる。バインダーとしては、上述したバインダーを用いることができる。
【0051】
触媒層2,3の厚みは、電極基材の種類、電解質膜の厚み等を考慮して適宜決定すれば良い。その厚みは、例えば、約20〜3000μm程度、好ましくは、約30〜2000μm程度である。
【0052】
(基材)
本実施の形態における基材6は、シート状或いはフィルム状のものであれば、特に限定されないが、例えば、金属箔、高分子フィルム等が挙げられる。これらの他、アート紙,コート紙,軽量コート紙等の塗工紙,ノート用紙,コピー用紙等の非塗工紙等であってもよい。
【0053】
高分子フィルムとしては、ポリイミド,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリパルバン酸アラミド,ポリアミド(ナイロン),ポリサルホン,ポリエーテルサルホン,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルエーテルケトン,ポリエーテルイミド,ポリアリレート,ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0054】
また、ポリエチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE),FEP,PFA,PTFE等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。
【0055】
基材6は、離型層や剥離層等を設けることが好ましい。これにより基材6の触媒層2,3からの剥離性を一層向上させることができる。例えば、金属箔や高分子フィルムからなる基材の表面に、公知のワックスから構成されたものやフッ素樹脂をコーティングで設けることもできるが、ケイ素酸化物等からなる蒸着層を離型層として設けることが望ましい。
【0056】
基材6の端部に電解質膜1の端面及び触媒層2,3の端面を覆うように目止め層を設けてもよい。目止め層は少なくとも金属リン酸塩又はバインダーのいずれか1種を含有することが好ましく、厚みは触媒層2,3と電解質膜1の厚みの合計になるように形成することが望ましい。このように形成することで、電解質膜1の端面及び触媒層2,3の端面を覆うことができるので、電解質膜1及び触媒層2,3中の遊離リン酸のしみ出しを防止することができる。
【0057】
基材6の厚みは、触媒層や電解質膜の厚み或いは触媒層からの剥離性等を考慮して適宜決定すれば良い。その厚みは、例えば、約20〜1000μm程度、好ましくは、約30〜500μm程度である。
【0058】
(基材付き触媒層付電解質膜の製造方法)
本実施の形態に係る基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜11は、基材6を準備する工程と、基材6(7)上に触媒層2(3)を形成する工程と、触媒層2(3)上に電解質膜1を形成して触媒層付き電解質膜10Aを作製する工程と、得られた触媒層付き電解質膜10Aの2枚を互いの電解質膜1側が対向するように配置し、熱プレス処理により接合する工程とを備える。
以下、詳細に説明をする。
【0059】
(a)まず、金属リン酸塩を以下のようにして、作製する。
スズ等の主金属及びインジウム等のドーピング金属を含む、それぞれの金属酸化物、金属水酸化物、金属塩化物、或いは金属硝酸化物等と液体リン酸を所定のモル数で配合する。次いで、これに水を加えて、温度、約100〜300℃程度で、約1〜3時間程度スターラー等を用いて攪拌して分散させる。この分散液を坩堝に入れて、例えば、約300〜700℃程度の温度で焼成する。焼成する時間は、例えば、約1〜3時間程度である。上記高温状態ではリン酸が消失するおそれがあるため、液体リン酸のモル数は大目、例えば、モル当量の約1.1〜1.5倍程度加えるのが望ましい。
【0060】
焼成時におけるリン酸消失の問題を回避するため、液体リン酸に代えて固体リン酸を用いても良い。固体リン酸を用いる場合は、例えば、リン酸1水素アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム等を用いて、スズ等の主金属及びインジウム等のドーピング金属を含む、それぞれの金属酸化物とを所定のモル数で混合する。金属酸化物は、主金属を含む酸化物とドーピング金属を含む酸化物が、主金属とドーピング金属のモル比を、例えば、約9:1〜1:1にして混合されたものがよい。これらを坩堝に投入し、例えば、約300〜650℃程度の温度で、約1〜3時間程度で焼成する。次いで、焼成で得られた生成物をめのう鉢で粉砕して、所望の金属リン酸塩を得ることができる。
【0061】
固体リン酸を用いることにより、モル当量のリン酸が、金属酸化物と反応し、余剰物は高温により揮発するため余剰のリン酸が付着せず再現性の良い金属リン酸塩を得ることができる。
【0062】
また、共沈法で作製することも可能である。例えば、スズ等の主金属イオン及びインジウム等のドーピング金属イオンのモル比が、例えば、約9:1〜1:1の割合で混合されたリン酸溶液にリン酸を過剰に添加することにより所望の金属リン酸塩を沈殿させて得ることができる。共沈法によれば、所望の複数の金属イオンを含む溶液から複数種類の難溶性塩を同時に沈殿させることで、均一性の高い粉体を調製することができる。
【0063】
(b)次に、得られた金属リン酸塩を用いて触媒層2を形成するための触媒ペーストを作製する。触媒ペーストは、上記金属リン酸塩をめのう鉢等で粉砕し、これに液体リン酸を混合して熱処理を行い、この熱処理を行った金属リン酸塩とリン酸の混合物(複合リン酸塩)に白金担持カーボン等の触媒とバインダーを所定量添加して作製することができる。
【0064】
熱処理温度は、例えば、約50〜300℃程度、好ましくは、約100〜250℃であるのがよい。熱処理温度が、約50〜300℃程度であると、リン酸中に含まれる水が除去でき、リン酸の揮発を防止できる。また、熱処理時間は、例えば、約10分〜5時間程度、好ましくは、約10分〜3時間程度である。
【0065】
金属リン酸塩とリン酸類の配合量は質量比で5:0.2〜5:2、好ましくは、5:0.3〜5:1.2、より好ましくは、5:0.8〜5:1、最も好ましくは、5:0.9になるように調整する。
【0066】
バインダーは、(触媒)対(金属リン酸塩とリン酸の混合物及びバインダー)の質量比(固形分)は、1:2〜1:0.1、好ましくは、1:1〜1:0.25である。この場合、上記バインダーの溶液もしくはディスパージョンに溶剤を加えて作製してもよい。溶媒は、バインダーを凝集させないものが用いられる。具体的には水,エタノール,メタノール,1−ブタノール,t−ブタノール,プロパノール,N−メチルピロリドン,ジメチルアセトアミド等を挙げることができる。
【0067】
(c)次に、高分子フィルム等の基材6を準備する。
【0068】
(d)次に、得られた触媒ペーストを基材6上に塗工し、熱処理をして触媒層2を形成する。触媒ペーストの塗工量としては、例えば、白金担持カーボンを用いる場合、白金担持量として約0.1〜1.0mg/cm程度、好ましくは、約0.3〜0.6mg/cm程度であるのがよい。
【0069】
熱処理温度は、例えば、約50〜300℃程度であるのがよい。熱処理温度が、約50〜300℃程度であると、リン酸中に含まれる水が除去でき、リン酸の揮発を防止できる。また、熱処理時間は、例えば、約10分〜5時間程度である。
【0070】
基材6への触媒ペーストの塗工方法は、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター,バーコーター,スプレー,ディップコーター,スピンコーター,ロールコーター,ダイコーター,カーテンコーター,スクリーン印刷,圧延法、ディスペンサー等の一般的な方法を適用することができる。 厚塗りの場合は、圧延法を用いるのが好ましい。
【0071】
(e)次に、電解質ペーストを触媒層2上に塗工・乾燥して電解質膜1を形成し、基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10Aを作製する。
【0072】
電解質膜ペーストは、上記金属リン酸塩をめのう鉢等で粉砕し、これに液体リン酸を混合し、触媒ペーストと同様に熱処理を行い、この熱処理を行った金属リン酸塩とリン酸の混合物に上記バインダーを所定量添加し、分散機を用いて混合・分散して作製することができる。
【0073】
(f)最後に、図3に示すように、得られた基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10Aの2つを互いに電解質膜1側を対向させて配置し、ホットプレス等の熱プレス処理をすることにより基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜11を製造することができる。なお、この熱プレス処理には、各種のプレス機を用いることができる。
【0074】
熱プレスする際の加圧レベルは、限定的ではないが、例えば、通常約0.5〜10MPa程度、好ましくは、1〜10MPa程度に加圧すればよい。熱プレスする際の加熱温度は、限定的ではないが、例えば、通常約30〜200℃程度、好ましくは、50〜170℃程度に加熱すればよい。また、プレス時間は、加熱温度に応じて適宜決定されるが、例えば、通常約10〜240秒程度、好ましくは、30〜150秒程度とすればよい。
【0075】
本実施の形態によれば、熱プレス処理により基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10Aの2つを互いに接合するので、電解質膜1は一体化して形成され、膜厚方向に貫通した所定の径以上の貫通孔(ピンホール)が膜内にない状態、つまり緻密な状態となる。これにより電解質膜1の膜質が良好なものとなる。所定の径以上の貫通孔が電解質膜1に存在すると、電解質膜1のひび割れ等の原因になると共に、貫通孔がカソードとアノード間での燃料ガスや酸化剤ガスのクロスリークをもたらす経路となり起電力の低下をもたらすおそれがある。
【0076】
なお、緻密な状態とは、具体的には、例えば、電解質膜1の面積5cm内に直径70μm以上の貫通孔がない状態をいう。貫通孔は、例えば、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、或いはマイクロスコープ等を用いて測定することができる。
【0077】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、膜質に優れ、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用触媒層付電解質膜を製造することが可能となる基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜11を提供することができる。
【0078】
[第2の実施の形態]
(基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜)
本発明の第2の実施の形態に係る基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10は、図2に示すように、基材6と、基材6上に配置された金属リン酸塩、リン酸類、触媒及びバインダーを含有する触媒層2と、触媒層2上に配置された金属リン酸塩、リン酸類、及びバインダーを含有する電解質膜1とを備える。
【0079】
金属リン酸塩、リン酸類、触媒及びバインダーの材質は、第1の実施の形態で述べたのと同様の材質のものを用いればよい。
【0080】
また、基材6、触媒層2及び電解質膜1の形状寸法等も、第1の実施の形態で述べたのと同様のものを用いればよい。
【0081】
本実施の形態に係る基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10の製造方法は、第1の実施の形態において述べた製造方法(a)〜(e)と同様であるので、重複した説明は省略する。
【0082】
本実施の形態によれば、基材6に形成された触媒層2が支持体となるため、電解質膜1が良好な成形性を有し、再現性にすぐれ、自立膜性がなくても製造可能であり、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用触媒層付電解質膜を製造することが可能となる基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10を提供することができる。
【0083】
[第3の実施の形態]
(燃料電池用膜・電極接合体の製造方法)
本発明の第3の実施の形態に係る、燃料電池用膜・電極接合体の製造方法は、図4に示すように、第2の実施の形態と同様の基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10の2つを互いに電解質膜1側を対向させて接合する工程と、基材6,7を剥離する工程と、ガス拡散層4,5を基材6,7の剥離により露出した触媒層2,3上に形成する工程とを備える。
【0084】
本実施の形態において燃料電池用膜・電極接合体は以下のようにして製造する。
(a)まず、図4(a)に示すように、第2の実施の形態で示した基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10を用いて、これを2枚、互いに電解質膜1側を対向させて配置し、ホットプレス等の熱プレス処理により圧着する。熱プレス処理には、各種のプレス機を用いることができる。
【0085】
圧着の際、熱プレスする際の加圧レベルは、限定的ではないが、例えば、通常約0.5〜10MPa程度、好ましくは、1〜10MPa程度に加圧すればよい。熱プレスする際の加熱温度は、限定的ではないが、例えば、通常約30〜200℃程度、好ましくは、50〜170℃程度に加熱すればよい。また、プレス時間は、加熱温度に応じて適宜決定されるが、例えば、通常約10〜240秒程度、好ましくは、30〜150秒程度とすればよい。
【0086】
(b)次に、図4(b)に示すように、熱プレス処理をした基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10の両面の基材6,7を剥離する。
【0087】
(c)最後に、図4(c)に示すように、剥離した基材6,7に換えてガス拡散層4,5を触媒層2,3側に配置し、熱プレス処理することにより燃料電池用膜・電極接合体を製造することができる。
【0088】
なお、ガス拡散層4,5には、公知のものが利用でき、例えば、導電性の炭素紙からなるカーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロス等を使用することができる。具体例としては、東レ社製のカーボンペーパー「TGP−H」シリーズ、SGLカーボンジャパン社製のカーボンフェルト「SIGRACTE GDL」シリーズ等を挙げることができる。
【0089】
ガス拡散層4,5の膜厚は、例えば、約20〜400μm程度、好ましくは、約100〜300μm程度である。
【0090】
また、熱プレス処理には、上記(a)で述べたと同様に、各種のプレス機を用いることができ、加圧レベル、加熱温度及びプレス時間等も、上述したのと同様の条件で行えばよい。
【0091】
本実施の形態によれば、熱プレス処理により基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10の2つを互いに接合するので、電解質膜1は一体化して形成され、膜厚方向に貫通した所定の径以上の貫通孔(ピンホール)が膜内にない状態、上述した緻密な状態となる。これにより電解質膜1の膜質が良好なものとなる。
【0092】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、膜質に優れ、自立膜性がなくても作製可能であり、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用膜・電極接合体を生産効率よく製造することができる。
【0093】
[第4の実施の形態]
(燃料電池用膜・電極接合体の製造方法)
本発明の第4の実施の形態に係る、燃料電池用膜・電極接合体の製造方法は、第1の実施の形態と同様の基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜11の両面に配置された基材6,7をそれぞれ剥離する工程と、ガス拡散層4,5を基材6,7の剥離により露出した触媒層2,3上にそれぞれ形成する工程とを備える。
【0094】
本実施の形態において燃料電池用膜・電極接合体は以下のようにして製造する。
(a)まず、第1の実施の形態で示した基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜11を準備する。
(b)次に、基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜11の両面に配置された基材6,7を剥離する。
(c)最後に、剥離した基材6,7に換えてガス拡散層4,5を触媒層2,3側に配置し、ホットプレス等の熱プレス処理をすることにより燃料電池用膜・電極接合体を製造することができる。
【0095】
熱プレス処理には、第3の実施の形態で述べたと同様に、各種のプレス機を用いることができ、加圧レベル、加熱温度及びプレス時間等も、上述したのと同様の条件で行えばよい。
【0096】
本実施の形態によれば、燃料電池用触媒層付電解質膜11を用いてガス拡散層4,5を熱プレス処理により接合するので、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、膜質に優れ、自立膜性がなくても作製可能であり、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用膜・電極接合体を生産効率よく製造することができる。
【0097】
[第5の実施の形態]
(燃料電池)
本発明の第5の実施の形態に係る燃料電池20は、図5に示すように、第3又は第4の実施の形態において製造したと同様の燃料電池用膜・電極接合体と、一対のセパレータ12,13とを備える。燃料電池用膜・電極接合体は、セパレータ12,13に挟持されている。その他の構成は、第3又は第4の実施の形態と同様であるので、重複した説明は省略する。
【0098】
(セパレータ)
セパレータ13は、酸化剤ガスをガス拡散層5に供給するためのものであり、酸化剤ガスを流通するための酸化剤ガス流路15を有する。一方、セパレータ12は、燃料をガス拡散層4に供給するためのものであり、燃料を流通するための燃料流路14を有する。
【0099】
セパレータ12,13の材質としては、燃料電池20内の環境においても安定な導電性を有するものであればよい。一般的には、カーボン板に流路を形成したものが用いられる。また、セパレータ12,13は、ステンレススチール等の金属により構成し、その金属の表面にクロム,白金族金属又はその酸化物,導電性ポリマーなどの導電性材料からなる被膜を形成したものであってもよい。
【0100】
なお、セパレータ12,13は、燃料電池20を複数個積層して構成した燃料電池に用いる場合、集電体としての機能を有することができる。
【0101】
(動作原理)
燃料流路14に水素ガスあるいはメタノールなどの水素供給可能な燃料が、アノード側ガス拡散層4を介してアノード側触媒層2に供給され、この燃料からプロトン(H)と電子(e)が生成される。生成されたプロトンはプロトン伝導性電解質膜1によってカソード側触媒層3側へと搬送される。一方、酸化剤ガス流路15には空気あるいは酸素ガス等の酸化剤ガスがカソード側ガス拡散層5を介してカソード側触媒層3に供給され、プロトン伝導性電解質膜1によって搬送されてきたプロトンと外部回路16からくる電子及び酸化剤ガスとが反応して水が生成される。このようにして燃料電池として機能する。
【0102】
本実施の形態に係る燃料電池20の製造方法は、セパレータ12,13を膜・電極接合体に形成する方法が第3又は第4の実施の形態における製造方法と異なる点であり、他は第3又は第4の実施の形態と同様であるので、重複した説明は省略する。
【0103】
本実施の形態に係る燃料電池20の製造方法において、酸化剤ガス流路15が形成されたセパレータ13を酸化剤ガス流路15がカソード側ガス拡散層5側に接するように配置し、燃料流路14が形成されたセパレータ12を燃料流路14がアノード側ガス拡散層4側に接するように配置することにより、図5に示す燃料電池20を製造することができる。
【0104】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、膜質に優れ、自立膜性がなくても作製可能であり、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用膜・電極接合体を用いるので、安定性に優れ、高性能な燃料電池20を提供することができる。
【実施例】
【0105】
以下において、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
【0106】
[実施例1]
まず、金属リン酸塩を以下のようにして作製した。酸化スズ(SnO:Nano Tec社製)13.56g(0.09モル)及び酸化インジウム(In:ナカライテスク社製)1.40g(0.0050モル)にリン酸水素2アンモニウム(ナカライテスク社製)27.99g(0.212モル)を加え、これらを薬さじで混合した。
【0107】
得られた混合物を坩堝に投入し、約650℃で、約2時間程度焼成し、焼結後得られた生成物をめのうばちで粉砕し金属リン酸塩Sn0.9In0.127を得た。
【0108】
得られた金属リン酸塩5gをめのう鉢等で粉砕し、これに85%リン酸水溶液1.8gを混合し、160℃で30分間熱処理を行い、金属リン酸塩とリン酸の混合物を作製した。
【0109】
得られた金属リン酸塩とリン酸の混合物5gと、白金担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属社製)10g、バインダー(NafionDE2020CS、デュポン社製)4g、溶媒(水/アルコール=1/1混合液)3gを混合し分散機により約24時間混合し触媒ペーストを作製した。得られた触媒ペーストをブレードコーターを用いて、基材としての50μmカプトン(デュポン社製ポリイミド)フィルムに白金担持量0.5mg/cmとなるように塗工し、約95℃で、約20分間乾燥し基材付き触媒層を作製した。得られた触媒層の厚みは30μmであった。
【0110】
次に、上記で得られた金属リン酸塩とリン酸の混合物5gと、バインダー(Nafion DE2020CS、デュポン社製)4g、溶媒(水/アルコール=1/1混合液)3gを混合し分散機により約24時間混合し電解質ペーストを作製した。これをブレードコーターを用いて、上記で得られた基材付き触媒層の触媒層表面に塗工し、約95℃で、約20分間乾燥し、電解質膜1の厚みが50μmである基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10を作製した。
【0111】
次に、得られた基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10を2枚、電解質膜1側を対向させて、圧力約4MPa、加熱温度約150℃の条件で120秒ホットプレスにより接合して基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜11を作製した。
【0112】
最後に、上記で得られた基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜11の両面のカプトンフィルム基材6,7を剥離した後、剥離した側にガス拡散層4,5(SGL35BC、SGLカーボン社製)を接合して燃料電池用膜・電極接合体を作製し、JARI標準セルにセル組みした。
【0113】
なお、JARI標準セルとは、(財)日本自動車研究所(JARI:Japan Automobile Research Institute)において、PEFCの基礎研究およびPEFC用材料(膜、電極触媒、構成部品等)の評価試験用として開発されたセルである。
【0114】
[実施例2]
実施例1の触媒ペースト及び電解質膜ペーストに用いたバインダー(NafionDE2020CS、デュポン社製)に換えて、バインダーとして、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(以下で、SPEEKという)を用いた以外、実施例1と同様にして燃料電池用膜・電極接合体を作製し、JARI標準セルにセル組みした。
【0115】
なお、SPEEKは、以下のようにして作製した。まず、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、ビクトレックス社製)5gと、96%濃硫酸250mLとを還流冷却管の付いた500mLの丸底フラスコに入れ、オイルバス中で50℃に保ち、撹拌しながら18時間還流させた。
【0116】
次に、得られた攪拌液をガラスフィルターでろ過し、反応固形物をろ液が中性付近になるまで純水で洗浄を繰り返した。その後、50℃で24時間乾燥し、次いで60℃で6時間真空乾燥することにより、スルホン化度75%のSPEEKを得た。
【0117】
スルホン化度は、所定濃度の水酸化ナトリウム水溶液中でSPEEKのプロトンとNaをイオン交換し、その上澄み溶液を所定濃度の塩酸で逆滴定することにより求めた。
【0118】
[実施例3]
実施例1の基材6,7にカプトンフィルムに換えて、マットPET(ルミラーX44、東レ社製)を用いた以外は実施例1と同様にして燃料電池用膜・電極接合体を作製し、JARI標準セルにセル組みした。
【0119】
[実施例4]
実施例1の基材6,7にカプトンフィルムに換えて、マットPET(ルミラーX44、東レ社製)にケイ素酸化物からなる蒸着層を設けたフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして燃料電池用膜・電極接合体を作製し、JARI標準セルにセル組みした。
【0120】
[実施例5]
実施例1の基材6,7にカプトンフィルムに換えて、ケイ素酸化物からなる蒸着層を設けたカプトンフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして燃料電池用膜・電極接合体を作製し、JARI標準セルにセル組みした。
【0121】
[実施例6]
実施例1の基材6,7にカプトンフィルムに換えて、ケイ素酸化物からなる蒸着層を設けたアルミニウム箔を用いた以外は実施例1と同様にして燃料電池用膜・電極接合体を作製し、JARI標準セルにセル組みした。
【0122】
[比較例1]
実施例1と同様に作製した基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜10及び基材付き触媒層を用いて、触媒層付電解質膜10の電解質膜1側と基材付き触媒層の触媒層側とを対向させて配置し、ホットプレスにより接合して基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜11を作製した以外は実施例1と同様にして燃料電池用膜・電極接合体を作製し、JARI標準セルにセル組みした。
【0123】
(起電力の測定)
実施例1〜6、比較例1で得られた各セルについて、120℃、無加湿ガスを用いてI−V測定を行い、100mA/cmにおける各セルの起電力を調べた。結果を表1に示した。
【0124】
(ピンホール観察)
実施例1〜6、比較例1で得られた各セルについて、電解質膜の両面の触媒層を剥離し電解質膜表面の外観をハイブリッドマイクロスコープ(SH4500,ハイロックス社製)にて観察し、ピンホールの直径及び数を測定した。結果を表1に示した。また、実施例1の電解質膜と比較例1の電解質膜の外観をそれぞれ図6及び7に示した。
【0125】
【表1】

【0126】
表1に示すように、本発明の範囲内にある実施例1〜6では、100mA/cmにおいて良好な起電力を示した。これに対して、比較例1では、実施例1〜6に比べて低い起電力を示した。また、実施例1〜6ではピンホールは現れなかったが、比較例1ではピンホールが認められた。
【0127】
以上のことから、本発明による2枚の基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜の互いの電解質膜が接合された構造を備え、ガス拡散層を形成した燃料電池用膜・電極接合体は、電解質膜が緻密であり、再現性にすぐれ、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有することがわかった。
【符号の説明】
【0128】
1・・・電解質膜
2・・・燃料電池用触媒層(アノード側)
3・・・燃料電池用触媒層(カソード側)
4・・・ガス拡散層(アノード側)
5・・・ガス拡散層(カソード側)
6,7・・・基材
10,10A,11・・・基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜
12・・・セパレータ(アノード側)
13・・・セパレータ(カソード側)
14・・・燃料流路
15・・・酸化剤ガス流路
16・・・外部回路
20・・・燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に金属リン酸塩を含む触媒層と金属リン酸塩を含む電解質膜が順次積層された基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜の2つが、互いの前記電解質膜により接合された構造を備えたことを特徴とする基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜。
【請求項2】
基材と、
前記基材上に配置された金属リン酸塩、リン酸類、触媒及びバインダーを含有する触媒層と、
前記触媒層上に配置された金属リン酸塩、リン酸類、及びバインダーを含有する電解質膜とを備えたことを特徴とする基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜。
【請求項3】
請求項2に記載の基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜の2つを互いに前記電解質膜側を対向させて圧着により接合する工程と、
前記基材を剥離する工程と、
ガス拡散層を前記基材の剥離により露出した前記触媒層上に形成する工程と
を備えたことを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の基材付き燃料電池用触媒層付電解質膜の両面に配置された前記基材をそれぞれ剥離する工程と、
ガス拡散層を前記基材の剥離により露出した前記触媒層上にそれぞれ形成する工程と
を備えたことを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法により製造された燃料電池用膜・電極接合体と、
一対のセパレータとを備え、前記燃料電池用膜・電極接合体が、前記セパレータに狭持されたことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−218950(P2010−218950A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66153(P2009−66153)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】