説明

基材搬送システム及び印刷装置

【課題】搬送初期段階に発生しうる不具合を解消し、簡便な方法でより安定して放電定着処理が行える基材搬送システムを提供することを提供すること。
【解決手段】少なくとも大気圧近傍の誘電体バリア放電を用いて基材上のインクを基材に定着させるインク定着手段に基材を搬送する、基材搬送手段を備え、前記基材搬送手段は、複数の吸引開口部を有するベルト部材を用いた搬送機構であることを特徴とする基材搬送システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式印刷された基材を搬送する基材搬送システム及びこの基材搬送システムを備えた印刷装置に関し、特に、湿式印刷された基材上のインクを基材に定着させるインク定着手段に、基材を搬送する基材搬送システム及びこの基材搬送システムを備えた印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式の印刷装置は、一般的には印刷業務を行わない長期間の放置においても固化・乾燥しにくいインクが利用されている。しかしながら、乾燥しにくいインクは安定である反面、転写後の紙等基材の上でも乾燥しにくいものであり、裏移り、貼り付きの対策や、両面印刷時の再給紙ローラー跡等を起こさないために長時間の放置乾燥が必要とされ、利用者の利便性を損なう面が多かった。
【0003】
そこで、インクを大気圧近傍の電極間放電を用いて基材に定着させる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、前記特許文献1には、印刷装置からインク定着手段まで搬送する搬送初期段階において、ベルト部材の帯電によってインク転写後の基材をベルト表面に帯電吸着させることが開示されている。
【0004】
そして、この基材は、大気圧近傍の誘電体バリア放電による放電空間に搬送されると、放電プラズマからの力が作用することにより、ベルト表面に強く密着される(これは、「放電プラズマ中のイオン粒子衝突から生じた大気熱膨張圧力」と一般的には説明されている)。これにより、放電電極間隔から誘電体被覆材厚みとベルト部材厚みと基材の厚み分の合計を差し引いた間隙(余裕分)が極めて狭い場合でも、基材がベルト面から浮き上がってベルト上の電極と衝突せずに搬送することができる。
【0005】
しかしながら、基材の材質、基材の種類、基材上のインク量などの条件によっては,特に搬送初期段階において、反り、浮き、皺などが発生することがあり、狭い放電空間に安定して紙を挿入することが困難となる場合があった(図9参照)。
その結果、基材と放電電極との衝突によるジャム発生確率が高く、詰まった基材の除去等、復帰作業に多くの時間を取られ、迅速な印刷業務の遂行を妨げる要因となっていた。
【0006】
【特許文献1】特開2007−106105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、搬送初期段階に発生しうる不具合を解消し、簡便な方法でより安定して放電定着処理が行える基材搬送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、インキ転写工程後の基材を放電空間まで搬送する「搬送初期段階」において、少なくとも複数の吸引開口部を有するベルト表面に基材を吸着させることで安定した搬送を行うことができた、という知見である。
【0009】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 少なくとも大気圧近傍の誘電体バリア放電を用いて基材上のインクを基材に定着させるインク定着手段に基材を搬送する、基材搬送手段を備え、
前記基材搬送手段は、複数の吸引開口部を有するベルト部材を用いた搬送機構であることを特徴とする基材搬送システムである。
<2> ベルト部材が、比誘電率が5以下で、厚みが0.01〜0.5mmである<1>に記載の基材搬送システムである。
<3> ベルト部材が、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、4フッ化エチレン、ポリアミド及びポリイミドから選択される少なくとも1種を含む<1>から<2>のいずれかに記載の基材搬送システムである。
<4> ベルト部材の開口面積率が、2%以上、10%未満である<1>から<3>のいずれかに記載の基材搬送システムである。
<5> ベルト部材が、インク定着手段が有する接地側電極上の誘電体表面に密着して配される<1>から<4>のいずれかに記載の基材搬送システムである。
<6> 基材をベルト部材の表面に真空吸着させるために減圧する減圧手段を更に備え、
前記減圧手段は、誘電体バリア放電により発生するオゾンをオゾン除去フィルターまで吸引するオゾン吸引手段を用いてなる<1>から<5>のいずれかに記載の基材搬送システムである。
<7> 誘電体バリア放電を制御する放電制御手段を更に備え、
前記放電制御手段は、前記誘電体バリア放電における放電を開始する制御と停止する制御とを、基材搬送手段の搬送速度が線速5cm/秒以上である間に行う<1>から<6>のいずれかに記載の基材搬送システムである。
<8> 大気圧近傍の誘電体バリア放電を用いて基材上のインクを基材に定着させるインク定着手段を更に備え、
前記インク定着手段は、誘電体で被覆された接地側電極と、前記接地側電極から隔てられた非接地側電極とを有し、
前記接地側電極は、厚みが0.1〜5mmで比誘電率が10以下の誘電体によって、少なくとも一部が絶縁被覆された電極板である<1>から<7>のいずれかに記載の基材搬送システムである。
<9> <1>から<8>のいずれかに記載の基材搬送システムを備えてなる印刷装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、搬送初期段階に発生しうる不具合を解消し、簡便な方法でより安定して放電定着処理が行える基材搬送システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(基材搬送システム)
図1に示すように、本発明の基材搬送システム1は、少なくとも大気圧近傍の誘電体バリア放電を用いて基材上のインクを基材に定着させるインク定着手段に基材を搬送する、基材搬送手段10を備え、更に必要に応じて、減圧手段20、基材の入力手段(図示せず)、基材の出力手段(図示せず)、基材に供給されたインクを基材上に定着させるインク定着手段30、ガス除去手段などの副産物の排出手段50、60、70、除電手段(図示せず)、インク定着手段の作動制御手段(図示せず)、インク定着手段の誘電体バリア放電のタイミングを制御する放電制御手段(図示せず)、インク供給手段(図示せず)、その他の手段を備えてなる。
なお、前記各構成要素は、副産物の外部への漏洩を防いだり、減圧手段20による効率的な減圧を行ったりするために、適宜筐体40に格納される。
また、前記基材搬送システム1は、面上に予めインクが供給された基材Pを導入する機構としてもよく、何らインクの供給されていない基材Pを基材搬送システム1に入力し、前記インク供給手段などにより、基材搬送システム1内で基材Pの面上にインクを供給する機構としてもよい。
【0012】
−基材−
前記基材Pとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、更紙、中質紙、上質紙、のし紙、封筒、薄紙、画用紙、はがき、軽量コート紙などが挙げられる。
【0013】
<基材搬送手段>
前記基材搬送手段10の搬送機構としては、ベルト部材を用いた搬送機構であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ベルト搬送機構が挙げられる。
図1に示すように、前記ベルト搬送機構(基材搬送手段10)は、例えば、ベルト部材11、駆動ローラー(図示せず)、プーリー12、従動プーリー13、テンショナープーリー14、ベルトガイド板15などにより構成される。そして、通常は、駆動ローラー、プーリー12及び従動プーリー13に巻かれたベルト部材11が駆動ローラーの回転によって移動し、前記ベルト部材11の上面に印刷面を上にして載置された基材Pが、前記ベルト部材11の移動に伴って搬送される。
【0014】
前記基材搬送手段10の搬送路としては、大気圧近傍の誘電体バリア放電を用いて基材上のインクを基材に定着させるインク定着手段30に基材を搬送する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記搬送路としては、例えば、入力手段から投入された基材をインク定着手段30を経由して出力手段まで搬送する搬送路が挙げられる。なお、このような搬送路を用いた基材の搬送において、入力手段からインク定着手段までの搬送が「搬送初期段階」に該当する。
【0015】
−ベルト部材−
図2に示すように、前記ベルト部材11は、複数の吸引開口部(適宜、「開口部」と称する。)11aを有する。
【0016】
−−吸引開口部−−
図2に示すように、前記吸引開口部11aは、ベルト部材11の厚さ方向に設けられた貫通孔を含んでなる。
前記吸引開口部11aの各開口の面積(孔面積)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、φ2〜10mmが好ましく、φ3〜5mmが更に好ましい。前記面積が、φ2mm未満であると、基材をベルト面に固定する充分な吸着力が得られないことがある。前記面積が、φ10mmより大きいと、基材が開口部で凹み、定着処理が不均一なものとなることがある。
なお、前記各開口は、疎密の分布ができないように、例えば、千鳥配列などのレイアウトとすることが好ましい。
【0017】
そして、前記吸引開口部11aを有するベルト部材11に基材Pが載置されたときに、ベルト部材11の上面側に比べてベルト部材11の貫通孔内の気圧(即ち、ベルト部材11の下面側の気圧)が低下すると、前記ベルト部材11に載置された基材Pが、吸引開口部11aに真空吸着する。これにより、図3に示すように、基材Pがベルト部材11の表面に強く密着し、平坦化し、浮き上がりがなく安定した状態で、放電空間(接地側電極31と、非接地側電極32との間)に挿入される。
【0018】
前記ベルト部材11の開口面積率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2%以上、10%未満が好ましく、3〜5%が好ましい。前記開口面積率が、2%以上、10%未満であれば、ベルト部材11と基材Pとの間でのスリップロスが起こらず、基材Pを安定して搬送することができる。一方で、前記開口面積率が、2%未満であると、ベルト部材11表面への基材密着力が不足することがある。また、前記開口面積率が、10%以上であると、この場合も、ベルト部材11表面への基材密着力が不足することがある。
なお、前記開口面積率は、(孔面積×孔数)÷ベルト部材の面積×100により算出できる。
【0019】
前記ベルト部材11の比誘電率としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、比誘電率が、5より大きいと、基材表面で定着搬送を起こす沿面放電が発生しにくくなる。また、前記比誘電率が、5より大きいと、開口部の段差(角部)に強い分極が生じて、局所集中放電が起きやすくなり、その放電が集中される部分が高熱化して、ベルト部材11が損傷する場合がある。
ここで、前記比誘電率は、アジレントテクノロジ(株)製 HP4194A、HP4284により測定することができる。
【0020】
前記ベルト部材11の厚みとしては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01〜0.5mmが好ましく、0.03〜0.2mmが好ましく、0.06〜0.1mmが好ましい。前記厚みが、0.01mmより薄いと、短期間の使用でベルト部材11が破断することがある。前記厚みが、0.5mmより厚いと、ベルト部材11に形成された吸引開口部11aの段差が大きくなりすぎて、局所集中放電が起きることがある。また、前記厚みが、0.5mmより厚いと、駆動ローラー曲面へのベルト部材11の追従性が悪くなり、駆動ローラーとの間でスリップを生じやすくなる。
ここで、前記厚みは、(株)ミツトヨ製 ペーパーマイクロメータ PPM−25により測定することができる。
【0021】
そして、前記ベルト部材11の比誘電率が5以下で、厚みが0.01〜0.5mmであれば、ベルト部材11に開口部の段差(角部)が存在しても、放電の局所集中を回避して、インク定着処理を安定して行うことができる。
【0022】
前記ベルト部材11の材料としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、4フッ化エチレン、ポリアミド、及びポリイミドから選択される少なくとも1種を含むものが好ましい。前記材料を用いることで、ベルト部材11の比誘電率を5以下とすることができる。さらに、前記材料の中でも、耐プラズマ性の点で、シリコーンゴム、フッ素ゴム、4フッ化エチレン、ポリイミドがより好ましく、物理的特性に優れている点で、ポリイミドが特に好ましい。前記材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、前記ベルト部材11は、異なる材料からなる層を積層することにより構成してもよい。前記積層される層の数は、特に制限はなく、適宜選択される。
【0023】
なお、前記ベルト部材11は、インク定着手段30が有する接地側電極31上の誘電体31a表面に密着して配置されることが好ましい(図3参照)。このような構成とすることで、ベルト部材11上の基材表面に沿面放電が確実に発生し、均一な定着処理が可能となる。一方で、前記ベルト部材11が接地側電極31から離れて配置されると、ベルト部材11上の基材表面には沿面放電が発生せず、基材上のインクの硬化・定着の効率が低下する。
【0024】
前記基材搬送手段10による基材Pの搬送速度(ベルト部材11の移動速度)としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50〜200cm/秒が好ましく、100〜200cm/秒がより好ましい。前記搬送速度が、50cm/秒未満であると、生産性が低く、生産ラインの低下を招くことがある。前記搬送速度が、200cm/秒を超えると、大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)した際に、インク定着に有効に作用する活性エネルギー線の付与が不充分となり、インクの定着性が低下することがある。
【0025】
<減圧手段>
図1に示すように、前記基材搬送システム1における前記減圧手段20は、基材Pをベルト部材11の表面に真空吸着させるための減圧手段である。
前記減圧手段20としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ファンやポンプが挙げられる。
前記減圧手段20が配される場所としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することできるが、例えば、ベルト部材11の下面側(基材Pが載置される面とは反対)に前記減圧手段20を配する構成が挙げられる。
なお、前記基材搬送システム1が、ガス除去手段などの副産物の排出手段を有している場合には、前記副産物(例えば、オゾン)を除去フィルター(例えば、後記するオゾン除去フィルター50、60)まで吸引する吸引手段(例えば、後記するオゾン吸引手段70)を、前記基材Pをベルト部材11の表面に真空吸着させるための減圧手段20として兼用してもよい。このような構成とすることにより、大気や副産物の流路が単純化されて、基材Pをベルト部材11の表面に真空吸着させるためにより効率的に減圧でき、更に、前記副産物をより効率的に排出することができる。
【0026】
<入力手段>
前記入力手段は、基材搬送システム1に基材Pを導入する手段である。前記入力手段としては、特に制限はなく、従来公知の入力手段から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、給紙トレイ、給紙バンク(箱)、ロール紙セット機構、ロール紙カット機構、基材供給台、基材供給トレイ、基材供給棚などが挙げられる。なお、前記基材搬送システム1は、印刷物の後処理装置であるので、印刷機の排紙部と前記入力手段とを結合させて利用したり、印刷機の排紙部そのものを前記入力手段として利用したりすることができる。
【0027】
<出力手段>
前記出力手段は、インク定着を完了した基材Pを基材搬送システム1から排出する手段である。前記出力手段としては、特に制限はなく、従来公知の出力手段から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、収納トレイ、収納バンク(箱)、収納棚、巻き取り機構、折り重ね収納機構などが挙げられる。
【0028】
<インク定着手段>
前記インク定着手段30は、基材Pの面上に大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)に伴う活性エネルギー線を付与するエネルギー線付与部を少なくとも有してなる。
前記インク定着手段30の構成については、特開2007−106105号公報に開示される技術を好適に適用することができる。以下、前記インク定着手段30について、具体的に説明する。
【0029】
−エネルギー線付与部−
前記エネルギー線付与部は、基材の面上に大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)に伴う活性エネルギー線を照射、接触などによって付与することにより、基材の面上へのインクの定着を確実に行うものである。基材の面上に大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)に伴う活性エネルギー線を照射、接触などによって付与することにより、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を少なくとも含み、かつ、光重合開始剤を含んでいないインクが硬化し、密着性、定着性に優れる定着が可能となる。
【0030】
前記「電極間放電」を行う方法としては、特に制限はなく、例えば、コロナ放電、直流アーク放電、誘電体バリア放電などが挙げられる。中でも、放電発生範囲の拡大と放電プラズマの熱化が抑制できる点で、誘電体バリア放電が好ましい。
なお、図3に示すように、前記誘電体バリア放電を行う場合のインク定着手段30は、誘電体31aで被覆された接地側電極31と、前記接地側電極31から隔てられた非接地側電極32を有してなる。また、前記誘電体バリア放電とは、一対の導電性の電極間に誘電体などの絶縁物を挿入して高電圧を印加したときに、電極間にストリーマと呼ばれる過渡的な微細放電柱がランダムに形成される現象を意味する。
【0031】
前記大気圧近傍としては、プラズマ放電の際に減圧を必要としない圧力であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、具体的には、海抜の違いなどによる大気圧を考慮して、インク定着時の雰囲気の圧力が、0.07〜2MPa程度を意味する。0.07〜2MPaの範囲外で電極間放電を行うと、プラズマ放電室などの特殊な減圧容器や作業工程を必要とし、煩雑でコスト高となることがある。なお、上限値を2MPaとしたのは、基材をベルト部材で200cm/秒の速度で0.5mmの電極間隙を通過させた際に、前記電極間隙で局所的に発生する空気の流れにより生じる圧力が、およそ2MPaであるため、この場合の雰囲気圧力を含める意味で規定したものである。
【0032】
前記活性エネルギー線とは、前記大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)に伴って生じたもので、電子線もしくは荷電粒子線であると推定している。
本発明で使用するインクの構成成分は、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいないものであるが、これは大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)中の電子又は荷電粒子が、強い電界によって加速されたのちに、前記インク含有成分として存在するカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物に衝突することで、化学的反応(詳細には、脱水縮合反応によってエステル結合する反応)を生じ、基材上で液体成分が固化した、即ち蝋状の物質に化学変化したと考えられる。
前記インク定着前後の状態を、FTIR(フーリエ変換赤外分光)測定によって調べたところ、定着前には存在していなかったエステル結合のピークが、定着処理後に強く観測されたことから、上記のようなことが考えられる。
【0033】
なお、実用上充分なインク定着性を呈する反応を得るには、電極間の電界強度が少なくとも100kV/cmより大きいことが好ましい。前記電界強度が、100kV/cm以下であると、インク定着が困難となることがある。
【0034】
インクが供給された基材の面上に大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)に伴う活性エネルギー線を効果的に照射、接触付与するには、前記基材上で効率良く沿面放電を発生させる必要がある。
この場合の大気圧中の誘電体31aを挟んだ電極間放電とは、電極間に印加された高電圧によって、多数の微細なプラズマ柱(ストリーマとも言う)が電極間に生じたことによるものであるが、基材上のインクを広範に定着させるためにはそのプラズマ柱(ストリーマとも言う)が一点集中して発生しないように電極構造を工夫する必要がある。細い針状の電極で放電を一点集中させて発生させ、それを基材面上を高速スキャンさせる方法も可能であるが、定着速度の低下、効率の低下、信頼性の低下を招くため実用的ではないと判断される。
【0035】
そこで、均一にかつ広範な基材面へ活性エネルギー線を効果的に照射、接触付与するには、接地側電極31から見た際に、非接地側電極32との間に作られる電極間空間内に、放電の発生し易い電界強度の高い部分(以下、放電部と称する)と、非放電部とがそれぞれ複数形成されるよう電極を構成するとともに、その電極間空間内に基材を搬送させて、前記基材の全面が処理されるように構成するのが理想的である。なお、前記非放電部とは、放電の発生しづらく前記放電部より電界強度の低い部分であって、放電が殆ど発生しないか又はゼロであることを意味する。
【0036】
上記の構成において、複数存在する電界強度の高い放電部の中で優劣があると、その中で、更に最も電界強度が高いところに放電が集中することがある。従って、電界強度の高い放電部は、すべて同等の電界強度(即ち、一定値の電界強度)になるように設定されている必要があり、更に、その値としては、少なくとも100kV/cmより大きいことが好ましい。
【0037】
図3に示すように、前記接地側電極31は、主に電極板31bにより構成され、誘電体バリア放電の場合には、前記電極板31bの少なくとも一部、好ましくは全部が、誘電体31aにより被覆されて構成される。
前記電極板31bを構成する部材としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属板、金属板以外の導電性部材などが挙げられる。
【0038】
前記導電性部材としては、例えば、金属薄膜、酸化物半導体薄膜、導電性窒化物薄膜、導電性ホウ化薄膜、などの導電性薄膜が挙げられる。
前記金属薄膜に用いる金属としては、例えば、金、銀、白金、銅、アルミニウム、クロムなどが挙げられる。
【0039】
前記酸化物半導体薄膜としては、例えば、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、及びこれら酸化物の複合系素材(例えば、酸化スズ+酸化亜鉛:ZnSnO、酸化インジウム+酸化亜鉛:In−ZnO、酸化インジウム+酸化スズ:In−SnOなど)、などが挙げられる。
前記導電性窒化物薄膜としては、例えば、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(TiZr)、窒化ハフニウム(HfN)、などが挙げられる。
前記導電性ホウ化薄膜としては、例えば、ホウ化ランタン(LaB)、などが挙げられる。
前記導電性薄膜の形成方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、スパッタ法にて形成することができる。
【0040】
前記誘電体31aの厚みとしては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、0.1〜10mmが好ましく、0.1〜5mmがより好ましく、0.5〜2mmが更に好ましい。前記厚みが、0.1mmよりも薄いと、プラズマ熱による部分的加熱によって容易に破壊され、アーク放電など、熱化したプラズマの発生により近傍の部材が損傷することがある。前記厚みが、10mmよりも厚いと、実用的なインク定着速度を得るためには、電源容量をより大きなものにする必要があり、コンパクト化や低コスト化が図れないことがある。
【0041】
さらに、前記厚みが、5mmよりも厚いと、接地側電極31上の誘電体31aの分極が不十分となり、放電発生箇所が定まらず、まばらで不均一な放電が発生することがある。また、前記厚みが5mmよりも厚いと、放電電極から接地側電極31以外の付近の金属部材間でアーク放電など、熱化したプラズマが発生して金属部材を損傷することがある。また、前記厚みが5mmよりも厚いと、付近の電子回路を破壊する場合がある。
【0042】
前記誘導体31aの比誘電率としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、10以下が好ましく、5以下が更に好ましい。前記比誘電率が、10より高くなると、基材表面で発生する沿面放電の進展長が短くなり、面内均一な定着処理が行われないことがある。また、前記比誘電率が、10より高くなると、放電の集中が生じやすく、ムダなエネルギーを消費するばかりか、放電の集中によって基材に穴が開いたり、場合によっては発煙や燃焼を生じるたりすることがある。
【0043】
そして、前記誘電体31aが、厚みが0.1〜5mmで、比誘電率が10以下であると、基材表面で横方向に進展する沿面放電が効率よく発生し、面内均一な定着処理が可能となる。
【0044】
前記誘電体31aとして好適な、比誘電率が10以下の材料としては、例えば、雲母(4.5〜7.5)、ガラス(3.7〜10)、パイレックスガラス(登録商標名、4.8)、酸化アルミナ(2.14)、石英ガラス(3.5〜4.0)、硼珪酸ガラス(4.0〜5.0)などの無機材料が好ましく挙げられる。また、塩化ビニル樹脂(5.8〜6.4)、ウレタン(6.5〜7.1)、エポキシ樹脂(2.5〜6)、生ゴム(2.1〜2.7)、加硫ゴム(2.0〜3.5)、天然ゴム(2.7〜4.0)、鉱物油(2〜2.5)、3フッ化エチレン樹脂(2.4〜2.5)、4フッ化エチレン樹脂(2、登録商標名:テフロン)、フッ素樹脂(4.0〜8.0)、シリコーン樹脂(3.5〜5)、シリコーンゴム(3.0〜3.5)、全芳香族ポリイミド(3.2〜3.4)、半脂肪族ポリイミド(2.8〜3.0)、全脂肪族ポリイミド(2.5〜2.6)、ポリエステル樹脂(2.8〜8.1)、ポリカーボネート樹脂(2.9〜3.0)、紙(2.0〜2.5)などの有機材料が挙げられる。ただし、上記材料の例示中、カッコ内は各材料の比誘電率を表す。
【0045】
図3に示すように、前記非接地側電極32は、主に電極棒により構成される。
前記電極棒を構成する部材としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属、金属以外の導電性部材などが挙げられる。また、凹凸のある電極板による構成としてもよく、いずれにしても、対向する接地側電極31との前記対向側に、複数の突起部を有することが好ましい。
【0046】
基材の搬送方向に対して長尺な電極を用いたり、複数の電極を用いることは、電源コストを低下させることに対して極めて効果があることが、これまでの検討の結果わかっている。
【0047】
基材上のインクを定着させるのには必要な放電量がある一定量あればよく(ただし、前記放電量は、インクの種類などによって差がある)、それを超えて多大な放電量があったとしても電極間に無効な電流を流すためだけに電力が使われたり、基材を損傷してしまうエネルギーとなってしまうだけで、インク定着に関しては全く意味がない。また、放電は広く浅く均一に、一定量を与える必要があると一般的に考えられている。
【0048】
これまでの種々の検討から、一定の面積を持った電極からインク定着に寄与する放電量を引き出すことは限度があることがわかっている。限度を超えたものは無効な電流となったり、基材を損傷(発熱させて分解したり燃やしてしまうなど)したりしてしまう。
非接地側電極32の非放電部分を除いた金属又は導体における単位面積当たり(1cm当たり)の投入電力は最大約70Wであり、これを超えて電力を加えてもインク定着に寄与する放電は得られない。
【0049】
投入電力について、更に最適化するにあたっては、インクの組成や基材へのインク供給量、定着速度、誘電体31aの種類などによって調整する必要がある。
放電電極面積を変えないでインク定着に寄与する放電を増やそうとすると、電源周波数を高くしなければならないが、高圧で100kHz以上を与える電源は、電源自体が非常に大きなものとなってしまい、実用的でない。
【0050】
低周波であっても(50〜60kHz)、搬送方向に対して長尺な電極を用いたり、複数の電極を用いることによって、インク定着に有効な放電をより多く引き出すことができる。なお、このような長い距離の(複数の)電極間を、高速に基材を搬送するためには、ベルト部材11を用いた搬送機構が最も適していると考えられる。
【0051】
−インク(印刷インク)−
本発明の基材搬送システム1で使用されるインクとしては、構成成分としてカルボキシル基を有する不揮発性有機化合物が含まれ、かつ、光重合開始剤を含んでいないインクであれば特に制限はなく、目標とする色相に応じて適宜材料を選択することができる。
【0052】
前記インクとしては、エマルションインク、水性インク、油性インクが挙げられる。これらに含まれる前記カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物としては、アラキドン酸、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ラノリン脂肪酸、リノール酸、リノレン酸などの油溶性化合物、アルギン酸、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性ポリマーなどが好適に挙げられる。これらの成分は、環境負荷低減及び有害物質の発生抑制などの観点からも好ましい。また、これらの成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
このようなインクを使用し、大気圧近傍の電極間放電(大気圧プラズマ放電)を用いた活性エネルギー線を付与することによって、インクを基材に定着させることにより、有害物質発生の防止効果に優れるとともに、未定着インクが生じた場合でも、人体や環境への影響を良好に回避することができる。
【0054】
前記水性インクとしては、前記成分の他に、水又は水溶性有機溶剤、染料、顔料、分散剤を含んでなり、必要に応じて、樹脂、樹脂の前駆体、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、浸透剤、キレート化剤、乾燥防止剤、有機アミンなどを含んでなる。また、前記水性インクの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、有機溶剤又は水に、前記成分を分散させ、必要に応じて乳化して、インク化する。
【0055】
前記油性インクとしては、前記成分の他に、有機溶剤又は油、染料、顔料、分散剤を含んでなり、必要に応じて、炭化水素、油脂、ロウ類、樹脂、樹脂の前駆体、高級アルコール、エステル類、高級脂肪酸、界面活性剤、粘度調整剤、防菌剤、潤滑剤、高分子分散剤、可塑剤、帯電防止剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを含んでなる。また、前記油性インクの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、有機溶剤又は油成分に、前記成分を分散させ、必要に応じて乳化して、インク化する。
【0056】
前記エマルションインクは、油相と水相とからなり、前記油相には、炭化水素、油脂、ロウ類、樹脂、樹脂の前駆体、高級アルコール、エステル類、高級脂肪酸、有機白顔料、白色以外の着色顔料、体質顔料、無機系白顔料、分散剤、酸化防止剤、乳化剤、ゲル化剤、その他の成分を含有してなる。また、前記水相には、有機白顔料、水、水溶性高分子化合物、抗菌剤、水の蒸発防止剤又は凍結防止剤、電解質、O/W樹脂エマルジョン、pH調整剤、その他の成分を含有してなる。また、前記エマルションインクの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、常法により油相及び水相液を予め別々に調製し、前記油相中に水相を添加して、ディスパーミキサー、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー等の公知の乳化機内で乳化させることにより製造することができる。
【0057】
−−樹脂−−
前記樹脂としては、特に制限はなく、目標とする色相に応じて適宜選択することができ、例えば、アルキド樹脂、ロジン;重合ロジン、水素化ロジン、ロジンエステル、ロジンポリエステル樹脂、水素化ロジンエステル等のロジン系樹脂;ロジン変性アルキド樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂等のロジン変性樹脂;マレイン酸樹脂;フェノール樹脂;石油樹脂;環化ゴム等のゴム誘導体樹脂;テルペン樹脂;重合ひまし油、などが挙げられ、これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルキド樹脂が特に好ましい。
【0058】
前記樹脂のインクにおける含有量としては、コスト及び印刷適正の観点から、1〜40質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
前記樹脂の重量平均分子量は、定着性及び印刷適性から8,000〜16万が好ましく、3万〜8万がより好ましい。
前記樹脂の重量平均分子量が低い場合及び含有量が少ない場合には、定着性への効果が小さいことがあり、一方、重量平均分子量が高すぎたり、樹脂の含有量が多い場合にはインクの粘度が高くなり、インクが漏れるなどの印刷適性の問題が生じることがある。
【0059】
−−樹脂の前駆体−−
前記樹脂の前駆体としては、特に制限はなく、目標とする色相に応じて適宜選択することができ、例えば、モノマー、オリゴマー、分散体ポリマーなどが挙げられる。
前記モノマーとしては、取り扱いの安全性などを考慮して、単官能イミドアクリレート(HHPI−A)、二官能アクリレート(NDDA、TEGDA、TCDDA、NPG・PO・DA、TPGDA、A−BPE4)、多官能アクリレート(TMPTA、PETA、THEIC−TA、DTMPTA、DPHA、TMP・EO・TA)、などが挙げられる。
前記オリゴマーとしては、ポリエステル・アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、などが挙げられる。
【0060】
前記分散体ポリマーとしては、スチレンアクリルポリマー(具体的製品としては、ジョンクリル63、ジョンクリル61J、ジョンクリルHPD71、ジョンクリルHPD96:ジョンソンポリマー株式会社製、などが挙げられる)、ポリアクリル酸ナトリウム(具体的製品としては、アクアリックDLシリーズ:株式会社日本触媒製、が挙げられる)、アクリル酸/マレイン酸共重合体塩(具体的製品としては、アクアリックTLシリーズ:株式会社日本触媒製、が挙げられる)、などが挙げられる。
前記樹脂の前駆体のインクにおける含有量としては、10〜50質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。
【0061】
−−油脂−−
前記油脂とは、脂肪酸とグリセリンがエステル結合したものである。前記油脂としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、植物油脂、動物油脂、石油精製油脂、などが挙げられる。
前記植物油脂としては、例えば、アポカド油、アルモンド油(アーモンド油)、アルガン油、オリーブ油(オリブ油)、カロット油(キャロット油)、キューカンバー油、ククイナッツ油(キャンドルナッツ油)、グレープシード油(プドウ油)、ゴマ油、小麦胚芽油、コメ胚芽油(オリザオイル)、コメヌカ油(コメ油)、コーン油、サフラワー油、シアバター(シア脂)、シソ油、大豆油、茶油(茶実油、茶種子油)、月見草油、ツパキ油、トウモロコシ胚芽油(マゾラ油)、ナタネ油、パーシック油(杏仁油、桃仁油)、ハトムギ油、パーム油、パーム核油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油(カスターワックス)、ヒマワリ油、サンフラワー油、へーゼルナッツ油、ポピー油、ボラジ油、マカデミアナッツ油、メドウホーム油、綿実油、モクロウ、ヤシ油、落花生油(ピーナツ油)、リンシード油、ローズヒップ油、などが挙げられる。
【0062】
前記動物油脂としては、例えば、オレンジラフィー油、牛脂、タートル油(アオウミガメ油)、ミンク油、卵黄油、粉末卵黄油(水素添加卵黄油)、馬油、などが挙げられる。
前記石油精製油脂としては、鉱油、合成油などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記油脂のインクにおける含有量としては、5〜30質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。
【0063】
−−ロウ類−−
前記ロウ類は、高級脂肪酸と高級アルコールのエステルである。前記ロウ類としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カルナウバロウ、鯨ロウ、セラック、ホホバ油、ミツロウ、サラシミツロウ(白ロウ)、モンタンロウ(モンタンワックス)、ラノリン、ラノリン誘導体、還元ラノリン、硬質ラノリン、吸着精製ラノリン、硬化油、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ロウ類のインクにおける含有量としては、5〜20質量%が好ましく、5〜10質量%がより好ましい。
【0064】
−−炭化水素−−
前記炭化水素は、炭素と水素のみからなる化合物である。前記炭化水素としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、α−オレフィンオリゴマー、α−メチルナフタレン、β−メチルアンスラセン、n−オクタデシルベンゼン、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジシクロヘキシル、ジフェニルメタン、スクワラン、植物性スクワラン、CDスクワラン、セレシン(地ロウ)、テトライソブチレン、テトラリン、デカリン、トリメチロールプロパンエステル、m−ビス(m−フェノキシフェノキシ)ベンゼン、パラフィン系炭化水素(固形パラフィン)、ヒドロポリイソブチレン、n−ヘキサン、n−ヘキサデシルベンゼン、n−デカン、o−キシレン、1,1−ジフェニルヘキサデカン、ナフタレン、ナフテン系炭化水素、芳香族炭化水素、プリスタン、ポリイソブチレン、ポリエチレン末、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、マイクロクリスタリンワックス、流動パラフイン、ワセリン、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記炭化水素のインクにおける含有量としては、0.5〜10質量%が好ましく、2〜5質量%がより好ましい。
【0065】
−−高級脂肪酸−−
前記高級脂肪酸とは、天然の油脂及びロウの構成成分であり、一般式RCOOHなどで表される化合物である。前記高級脂肪酸としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アラキドン酸、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ラノリン脂肪酸、硬質ラノリン脂肪酸、軟質ラノリン脂肪酸、リノール酸、リノレン酸、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記炭化水素のインクにおける含有量としては、15〜65質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。
【0066】
−−高級アルコール−−
前記高級アルコールとは、炭素原子数6以上の一価アルコールである。前記高級アルコールとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルドデカノール、キミルアルコール(グリセリルモノセチルエーテル)、コレステロール(コレステリン)、シトステロール(シトステリン)、ステアリルアルコール、セタノール(セチルアルコール、パルミチルアルコール)、セトステアリルアルコール、セラキルアルコール(モノオレイルグリセリルエーテル)、デシルテトラデカノール、バチルアルコール(グリセリルモノステアリルエーテル)、フィトステロール(フィトステリン)、ヘキシルデカノール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール、ラノリンアルコール、水素添加ラノリンアルコール、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記高級アルコールのインクにおける含有量としては、0.5〜10質量%が好ましく、2〜5質量%がより好ましい。
【0067】
−−エステル類−−
前記エステルとは、酸とアルコールとから脱水して得られる有機化合物であり、前記酸としては、脂肪酸、多塩基酸、ヒドロキシ酸などが挙げられ、前記アルコールとしては、低級アルコール、高級アルコール、多価アルコールなどが挙げられる。
【0068】
前記エステル類としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アセチル化ラノリン(酢酸ラノリン)、イソステアリン酸イソセチル(イソステアリン酸ヘキシルデシル)、イソステアリン酸コレステリル、エルカ酸オクチルドデシル(EOD)、オクタン酸セチル(2−エチルヘキサン酸セチル)、オクタン酸セトステアリル(2−エチルヘキサン酸セトステアリル、イソオクタン酸セトステアリル)、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ステアリン酸イソセチル(ステアリン酸ヘキシルデシル)、ステアリン酸コレステリル、ステアリン酸ブチル、長鎖−αヒドロキシ脂肪酸コレステリル(GLコレステリル)、トリミリスチン酸グリセリン、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、パルミチン酸イソプロピル(IPP、イソプロピルパルミテート)、ヒドロキシステアリン酸コレステロール、ミリスチン酸イソトリデシル(MITD)、ミリスチン酸イソプロピル(lPM、イソプロピルミリステート)、ミリスチン酸オクチルドデシル(MOD)、ミリスチン酸ミリスチル、ラウリン酸ヘキシル、ラノリン脂肪酸イソプロビル、ラノリン脂肪酸コレステリル、リンゴ酸ジイソステアリル、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記エステルのインクにおける含有量としては、0.5〜10質量%が好ましく、2〜5質量%がより好ましい。
【0069】
<排出手段>
前記排出手段は、エネルギー線付与部による活性エネルギー線付与で生じる副産物を排出するものである。前記副産物としては、特に制限はなく、電極間放電の際に生じるガス、電子線、光、基材からの脱ガス、インク定着時の反応などに伴って発生する種々のガスなどが挙げられる。なお、前記インク定着手段30によれば、低エネルギーで有害物質の発生の少ないインク定着が可能となるため、前記排出手段を設けていても、従来の基材搬送システムで必要とされた空冷ファン、熱排気ダクト、シャッター機構、UV光の漏れ防止遮断板などに比べて、コンパクトで簡易な構成の排出手段とすることができる。
【0070】
−ガス除去手段−
以下、副産物がガスであって、前記排出手段としてガス除去手段を用いる場合について、詳細に説明する。
前記ガス除去手段の対象となるガスとしては、特に制限はなく、例えば、前記電極間放電の際に生じるガス、基材からの脱ガス、インク定着の際に生じるガスとして、例えば、オゾンガス、NOxガス、VOCガス(揮発性有機化合物ガス)などが挙げられる。これらのガスは、人体や環境に影響を与えたり、人体に軽重を問わず刺激を与える可能性がある。
前記ガス除去手段としては、ガスを除去又は低減できる限り、特に制限はなく、例えば、ガス排気手段、ガス吸着手段、ガス分解手段などが挙げられる。
【0071】
前記ガス排気手段としては、特に制限はなく、従来公知のガス排気手段から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電極に臨ませて、排気ダクト、排気ファン、排気口などの風路を設ける構成が挙げられる。この風路により、前記電極付近の雰囲気を通気させて、前記ガスを除去することができる。
【0072】
前記ガス吸着手段としては、特に制限はなく、従来公知のガス吸着手段から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記風路内のいずれかの位置に、活性炭繊維、ゼオライト、光触媒などで形成したフィルターを配設し、これらにガスを吸着させる構成が挙げられる。前記フィルターは、活性炭繊維、ゼオライト、光触媒などを1種単独で用いて形成してもよいし、2種以上を組み合わせて形成してもよい。
特に、NOxガスは、光触媒、ゼオライト、活性炭繊維の組み合わせによるガス吸着手段によって効果的に除去でき、NOxガスの優れた除去効果が得られる。また、この吸着されたNOxガスは、光触媒効果によって、効率的にNOイオンに分解することができる。
【0073】
図1及び図4に示すように、前記ガス分解手段としては、特に制限はなく、従来公知のガス分解手段から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記オゾンガスを、例えば二酸化マンガンや活性炭繊維などを含んでなるオゾン除去フィルター50、60と接触させることにより、効果的にCOに変化させる構成が挙げられる。なお、前記オゾンガスは、例えばファンやポンプなどのオゾン吸引手段70により吸引することで、オゾンガスを前記オゾン除去フィルター50、60まで導くことができる。
【0074】
ガスがVOCガスである場合には、前記ガス吸着手段及びガス分解手段として、活性炭繊維に酸化チタンを添着したフィルターを用いることで、前記フィルターによりVOCガスを効果的に吸着することができる。次に、前記フィルターに屋外の太陽光を照射したり、適宜の紫外線ランプ(殺菌灯)の下で紫外線を直接照射したりすることにより、前記活性炭繊維に吸着されていたVOCガスが酸化チタン触媒によってCOに分解される。これにより、VOCガスの効果的な除去が可能となるとともに、活性炭繊維の再生使用が可能となる。また、ゼオライトと酸化チタン光触媒の組み合わせも、前記ガス吸着手段及びガス分解手段として、好適に利用できる。
【0075】
前記ガス吸着手段やガス分解手段は、特別な換気装置(強制ダクト排気設備)がないような事務オフィスにおいても、通常換気が可能な場所であれば、容易に適用することができる。
また、前記ガス排気手段によれば、装置からの排気を簡易的なダクトによって屋外へ排出すことができるので、ガスに対して過敏に反応する作業者がいて、かつ、ガス吸着手段やガス分解手段だけではガスを除去することが不十分である場合には、特に好適である。
【0076】
さらに、前記オゾンガスやNOxガスなどを発生させない環境を作ることも、人体への安全のために有効である。例えば、通気風路の放電電極の上流側に、シリコーンゴム製、ポリイミド製中空糸膜などで形成された、酸素遮断の中空糸タイプフィルターを設けて酸素を遮断し、放電電極付近の雰囲気を窒素で満たすことにより、酸素と活性エネルギー線との接触が防止され、前記オゾンガスやNOxガスなどの発生を効果的に防止することができる。
【0077】
<除電手段>
前記除電手段は、基材搬送手段10の搬送路の終了点において、基材をベルト部材11の表面から引き剥がしやすくするために、帯電状態の基材を除電するものである。前記除電手段としては、特に制限はなく、例えば、除電ブラシ、除電用のイオナイザーなどが挙げられる。
【0078】
<作動制御手段>
前記作動制御手段は、前記インク定着手段30の作動を制御するもので、例えば、基材の面上の未定着インクを検知又は検出し、未定着インクが存在する場合のみ、インク定着手段30を作動させることにより、不必要なエネルギーの消費を防止して、エネルギー効率を向上させることが可能となり、維持運営の更なる低コスト化を可能とするものである。
また、このような作動制御手段を備えることにより、比較的小さい被照射物、マーキング、線などの未定着インクに対して、効率よく活性エネルギー線を付与することができ、未定着インクを確実かつ効率的に硬化し定着させることができる。
【0079】
前記作動制御手段としては、特に制限はなく、従来公知の作動制御手段から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電気的な非接触センサー、磁気的な非接触センサー及び光学的な非接触センサーのいずれかを用いて未定着インクの存在を検知し、インク定着手段30の動作タイミングを制御するものであってもよい。
前記電気的な非接触センサーは、静電容量センサーなどを用いて基材の静電容量を検出し、基材及びインク材料の有する比誘電率の違いにより生じる前記静電容量の変化により、基材面上の未定着インクを検知する。
前記磁気的な非接触センサーは、インクに含まれる微量な磁性体による磁力線の強度変化を検出することにより、基材面上の未定着インクを検知する。
前記光学的な非接触センサーは、インクの光に対する反射率又は吸収率の差異を検出することにより、基材面上の未定着インクを検知する。
【0080】
また、基材面上の全体に、均一に未定着インクが存在している場合には、前記作動制御手段としては、未定着インクそのものを検知するのではなく、基材の搬送手段の搬送経路に設置した、機械的手段と、電気的接点及び磁気的接点のいずれかとの組み合わせ、及び機械的手段と光学的センサーとの組み合わせから選択されるいずれかにより、基材が前記搬送手段によってインク定着手段30を通過する始点及び終点を検知することにより、前記インク定着手段30の動作タイミングを制御するものが好適である。基材の一部の未定着インク部分のみを検出する場合には、検出手段が複雑で精密なものとなることがあるが、本形態によっては、基材の始点と終点を検出すればよいので、作動制御手段を簡易なものとすることができる。
【0081】
前記検知機構としては、前記基材の面始点を、例えば基材の搬送経路に設置した基材移動及び送りこみ用駆動部(駆動ローラーなど)と直結又は機械的機構を介して間接的に連結したカム機構からなる機械的手段が、そのカム機構の動作に伴って応答する電気的接点又は光学的センサーによって検出する。これによって、動作開始及び動作終了を基材の有無とみなし、さらに基材有りを「みなし未定着インクの存在」、基材無しを「みなし未定着インクの不在」と検知することによって、インク定着手段30を作動する。または、基材の搬送経路中に機械スイッチを設置して基材通過時の基材との接触や重量変化を機械スイッチに連動した電気的接点、もしくは光学的センサーにて検知し、これによって基材の有無判定とし、さらに基材有りを「みなし未定着インク」の存在、基材無しを「みなし未定着インクの不在」とに検知することによって、インク定着手段30を作動する。
【0082】
このように、基材の始点を検知した時点で活性エネルギー付与部を作動させ、基材の終点を検知した時点でエネルギー付与部を停止させることにより、基材全体に活性エネルギー線を付与することができ、また、基材以外の部分に活性エネルギー線付与が行われることがなく、不必要なエネルギーの消費を防止して、エネルギー効率に優れるインク定着が可能となる。
【0083】
<放電制御手段>
前記放電制御手段は、インク定着手段30の誘電体バリア放電のタイミングを制御するものである。例えば、前記放電制御手段は、前記誘電体バリア放電における放電を開始する制御と停止する制御とを、基材搬送手段10の搬送速度が線速5cm/秒以上である間に行う。このような構成とすることにより、基材搬送手段10におけるベルト部材11の、部分的な劣化や熱変形を防止することができる。
前記放電制御手段の構成としては、特に制限はなく、例えば、基材搬送手段10の搬送速度をモニタする磁気エンコーダ、光学エンコーダや、所定の回路を、インク定着手段30の電極に電気的に接続することで構成することができる。前記所定の回路としては、例えば、前記モニタされた搬送速度が線速5cm/秒以上であるか否かを判定し、線速5cm/秒未満であると判定した場合には、放電を開始する制御又は放電を停止する制御を、線速5cm/秒以上となるまで待機するように構成されたプログラムを備えた演算装置などが挙げられる。
【0084】
<インク供給手段>
前記インク供給手段は、基材の面上にインクを供給するものである。
前記インク供給手段により、基材の面上にインクを供給した後、前記インク定着手段30を用いて、前記インクに対してエネルギー線付与部により活性エネルギー線を付与し、インクを定着するものであってもよく、定着性に優れるインクの定着が可能となる。
また、予め印刷がされ、未定着インクが残留する可能性のある基材に対して、前記インク定着手段30を用いて、活性エネルギー線を付与して前記未定着インクを定着させた後、前記インク供給手段により、新たな印刷を行うものであってもよく、先の印刷と後の印刷とのインクの混色を防止して、にじみのない鮮明な印刷が可能となる。
前記インク供給手段としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、孔版、平版、凸版、凹版、及びインクジェット方式などが挙げられる。特に、インクジェット方式によるものであれば、オフセット印刷、スクリーン印刷に比べて、インク供給手段をコンパクトに形成することができる。
【0085】
<放電の状態>
図5は、本発明の要件を満たす条件で発生する放電の状態であって、基材上で広範囲に沿面放電が広がっている。この場合には、効率良く定着処理がなされる。
以下、本発明の要件を満たさない基材搬送システムにおける、好ましくない放電の状態について説明する。
【0086】
図6は、ベルト部材の比誘電率が高い場合、又は接地側電極被覆誘電体が厚い場合の放電状態を説明するための図である。図6に示すように、ベルト部材の比誘電率が高い場合、又は接地側電極被覆誘電体が厚い場合には、ベルト部材開口部の角に向かって局所集中放電が発生し、十分な定着処理がなされない。
【0087】
図7は、ベルト部材の比誘電率が高い、又は接地側電極被覆誘電体の比誘電率が高い場合の放電状態を説明するための図である。図7に示すように、ベルト部材の比誘電率が高い、又は接地側電極被覆誘電体の比誘電率が高い場合、基材上での沿面放電が発生しにくいため、均一な定着処理がなされない。
【0088】
図8は、基材ベルト部材が接地側電極から浮いている場合の放電状態である。図8に示すように、基材ベルト部材が接地側電極から浮いている場合、沿面放電が基材上で発生せず、接地側電極上で発生するために定着処理がなされない。
【0089】
以上説明したように、本発明の基材搬送システム1によれば、搬送初期段階に発生しうる不具合を解消し、簡便な方法でより安定して放電定着処理が行えるので、例えば、印刷装置、プリンター、塗布装置、コーティングマシンなどに好適に用いられる。
【0090】
(印刷装置)
本発明の印刷装置は、前記基材搬送システム1を少なくとも有してなり、更に必要に応じてインク供給手段、インク転写手段、その他の手段を有してなる。
前記インク定着手段30は、印刷装置によるインク転写プロセス直後に、未定着・未乾燥のインクが乗った基材を連続して受け取り、順次定着処理するために好適なものである。そして、本発明の印刷装置は、前記基材搬送システム1を有することにより、基材上のインクが一切接触されることなく、基材を前記インク定着手段30に搬送できるという、優れた効果を奏することができる。
前記印刷装置は、エネルギー効率、作業性に優れ、装置がコンパクトで簡易であり、インクの定着性に優れ、人体や環境への安全性に優れたインクの定着が可能で、低コストで高画質画像が得られため、孔版印刷装置、インクジェット印刷装置、凸版印刷装置、オフセット印刷装置などに好適に用いられる。
【実施例】
【0091】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0092】
(実施例1)
−基材搬送手段−
−−ベルト部材の作製−−
ポリイミドフィルムは、日東電工(株)より入手した。そして、前記ポリイミドフィルムを、ハトメ抜き工具(φ3mm)を用いて孔開け加工し、ベルト部材を作製した。前記ベルト部材は、比誘電率3.0、厚み0.1mm、開口面積率5%であった。
なお、前記比誘電率は、アジレントテクノロジ(株)製 HP4194A、HP4284により測定した。前記厚みは、ノギスにより測定した。前記開口面積率は、(孔面積×孔数)÷フィルム面積×100により算出した。
【0093】
そして、前記ベルト部材を常法により無端ベルトとし、このベルトを用いて図1に示すベルト搬送機構(基材搬送手段10)を構築した。
【0094】
−減圧手段−
減圧手段としては、図1の符号20に示す部分に、DCブラシレスブロアを配置した。
【0095】
−インク定着手段−
−−接地側電極の作製−−
誘電体としては、比誘電率5、厚さ1mmのパイレックス(登録商標)ガラスを用いた。そして、アルミ板に前記ガラスを載せてテープで固定することにより、アルミ板接地側電極を作製した。
なお、前記比誘電率は、アジレントテクノロジ(株)製 HP4194A、HP4284により測定した。前記ガラスの厚みは、ノギスにより測定した。
【0096】
そして、非接地側電極として、接地側電極のガラス面上部から1mmギャップでφ6mmのステンレス棒を5本配置することにより、誘電体バリア放電を行うための電極を作製し、インク定着手段とした。
なお、前記ベルト部材と前記接地側電極(接地側電極を被覆するガラス)とが密着するように、基材搬送手段とインク定着手段とを配置した。
【0097】
−基材搬送方法、及び、インク定着処理方法−
印刷機としてはデジタル孔版印刷機を用いた。前記印刷機を用いて、普通紙に、W/O型黒色エマルションインクをベタパターンで転写し、これを基材として用いた。
そして、前記ベルト搬送機構により、線速50cm/秒で、印刷機からインク定着手段を通過するまで基材を搬送した。搬送の際には、前記DCブラシレスブロアにより、基材をベルト部材に真空吸着させながら搬送した。インク定着手段では、出力300Wの誘電体バリア放電により、インク定着処理を行った。
【0098】
(比較例1)
実施例1において、ベルト部材の開口面積率を、5%に代えて、0%としたことと、搬送方法を、真空吸着搬送に代えて、帯電吸着搬送とした以外は、実施例1と同様にして基材のインク定着処理を行った。
【0099】
(比較例2)
実施例1において、ベルト部材をポリイミドフィルムに代えてウレタンフィルムとすることにより、ベルト部材の比誘電率を、3.0に代えて、6.0とした以外は、実施例1と同様にして基材のインク定着処理を行った。
なお、ウレタンフィルムは、日本バルカー工業(株)により入手した。また、ベルト搬送機構を構築するに際しては、前記ウレタンフィルムの端部を両面テープで接着することでベルト形状とした。
【0100】
(比較例3)
実施例1において、ベルト部材の厚みを、0.1mmに代えて、0.01mmとした以外は、実施例1と同様にして基材のインク定着処理を行った。
【0101】
(比較例4)
実施例1において、ベルト部材の厚みを、0.1mmに代えて、0.5mmとした以外は、実施例1と同様にして基材のインク定着処理を行った。
【0102】
(比較例5)
実施例1において、アルミ板接地側電極の表面を覆う部材をパイレックス(登録商標)ガラスに代えてアルミナセラミック板とすることにより、アルミ板接地側電極の表面を覆う部材の比誘電率を、5に代えて、10とした以外は、実施例1と同様にして基材のインク定着処理を行った。
【0103】
(比較例6)
実施例1において、アルミ板接地側電極の表面を覆う部材(ガラス)の厚さを、1mmに代えて、0.1mmとした以外は、実施例1と同様にして基材のインク定着処理を行った。
【0104】
(比較例7)
実施例1において、アルミ板接地側電極の表面を覆う部材(ガラス)の厚さを、1mmに代えて、5mmとした以外は、実施例1と同様にして基材のインク定着処理を行った。
【0105】
(比較例8)
実施例1において、真空吸着搬送の線速を、50cm/秒に代えて、5cm/秒とした以外は、実施例1と同様にして基材のインク定着処理を行った。
【0106】
(比較例9)
実施例1において、ベルト部材の開口面積率を、5%に代えて、2%とした以外は、実施例1と同様にして基材のインク定着処理を行った。
【0107】
(比較例10)
実施例1において、ベルト部材の孔開け加工を追加で行い、ベルト部材の開口面積率を、5%に代えて、10%とした以外は、実施例1と同様にして基材のインク定着処理を行った。
【0108】
(比較例11)
実施例1において、基材を、アルミ板接地側電極に密着した状態(より詳細には、前記アルミ板接地側電極を被覆するガラスに密着した状態)に代えて、アルミ板接地側電極から0.5mm浮かせた状態とした以外は、実施例1と同様にして基材のインク定着処理を行った。
【0109】
(実施例2)
実施例1において、真空吸着搬送における真空吸着のための減圧作用を、1つのオゾン除去用吸引ファン(オゾン吸引手段)で兼用させて基材のインク定着処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして基材のインク定着処理を行った(図1参照)。
【0110】
(比較例12)
実施例1において、真空吸着搬送における真空吸着のための減圧作用を、1つのオゾン除去用吸引ファン(オゾン吸引手段)とは別に、新たに1つ設けた真空吸着用吸引ファン(減圧手段)を用いて基材のインク定着処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして基材のインク定着処理を行った(図4参照)。
【0111】
−評価方法−
実施例1、2及び比較例1〜12の基材搬送システムを用いた基材の搬送及びインク定着処理について、下記の評価を行った。
【0112】
−−定着試験−−
定着試験は、搬送定着処理直後の印刷用紙のベタインクパターン面にメンディングテープを貼り付け、そのテープを剥がした時の粘着面に転写されたインク濃度をマクベス濃度計で計測し、インクの定着レベルを下記の基準に従って5段階で評価した。
〔評価基準〕
定着レベル 剥離テープ粘着面濃度(Id)
5 0〜0.1
4 0.11〜0.2
3 0.21〜0.3
2 0.31〜0.4
1 0.41以上
【0113】
−−運転状態−−
基材搬送手段における運転状態を、目視により評価した。
【0114】
−−オゾン濃度測定試験−−
オゾン濃度測定試験は、基材搬送システムを1立方メートルのアクリルボックス内で稼働させ、10分運転後のボックス内オゾン濃度を測定することで行った。なお、オゾン濃度測定試験は、実施例2と比較例12についてのみ行った。
なお、オゾン濃度は、(株)ガステック製 気体検知管 No.18L(オゾン用)により測定した。
【0115】
−−総合評価−−
総合評価の判断基準は、以下の通りである。
〔評価基準〕
○:実用化に問題がないレベル
△:利用条件によっては実用化可能なレベル
×:実用化の可能性が無いレベル
【0116】
評価結果を表1に示す。
【表1】

【0117】
以下、本実施例の結果について、更に詳細に考察する。
実施例1では、安定な用紙搬送により、問題無く定着処理が行われることが確認された。また、基材上で広範囲に沿面放電が広がり、効率良く定着処理がなされた(図5参照)。これは、従来に無い手段により構成された基材搬送システムが放電インク定着方法に最も適していることを示すものである。
【0118】
比較例1では、基材ベルト部材の開口面積率を0%とし、真空吸着ではなく帯電吸着による用紙搬送を行った。ベルト部材は放電電極から与えられる交番する電界により帯電がなされ、用紙を静電気力で吸着している。この方式では用紙吸着力が不十分であり、先端がカールした用紙が放電電極に衝突することで用紙詰まりが発生しやすく、これを解決するには真空吸着方式が適していることを裏付けている。
【0119】
比較例2では、ベルト部材を比誘電率6.0のウレタン樹脂としており、比較的高誘電率のベルト部材では機材表面に沿面放電が発生し難く、十分な定着処理が行われない(図6参照)。また、開口部に形成された凹凸部分への局所集中放電が若干見られることから、ベルト部材は比誘電率5以下とすることが好ましいと判断できる。
【0120】
比較例3、4では、基材ベルト部材の厚みを振った条件であるが、薄い場合の定着レベルは十分であるものの、機械的強度が不足するために短時間の運転で断裂した。一方厚い場合は、開口部と非開口部の段差が大きく、放電電極に対向する接地側電極までの距離が見かけ上、大きい部分と小さい部分が存在することから、放電路が形成されやすい角部に局所集中放電が発生し、結果、放電が不均一に発生して面内均一な定着処理が十分になされない。よって、基材ベルト部材の厚みは0.01〜0.5mmの範囲内が好ましいと判断できる。
【0121】
比較例5では、接地側電極を被覆する誘電体31aを比誘電率10のアルミナセラミックス板としており、定着処理中の用紙表面に発生する沿面放電はその進展長が短く、隣接する放電柱間での定着処理が不十分となるために十分な定着処理効果が得られない(図7参照)。よって、接地側電極を被覆する部材の比誘電率は10以下であることが好ましいと判断できる。
【0122】
比較例6、7では、接地側電極を被覆する低誘電率のパイレックス(登録商標)ガラスの厚みを振った条件で試験を行っている。薄い場合の定着レベルは十分であるものの、熱容量の低さから局所的な加熱による熱膨張を緩和することができず、短時間で亀裂が発生した。一方厚い場合は、放電電極から与えられる電界に応答して形成されるガラス板上の分極が弱くなり、放電電極から発生する放電柱の数が減少し、面内均一な定着処理が行われない。よって、接地側電極を被覆する誘電体31aの厚みは、0.1〜5mmの範囲内が好ましいと判断できる。
【0123】
比較例8では、基材ベルト部材の移動速度を線速5cm/秒まで遅くしており、基材搬送速度が低いことで定着レベルは最も高くなるものの、ベルト部材が受けるプラズマ熱を分散させることが困難となりベルトの熱変形が生じ、そのゆがみは冷却しても元に戻ることはなかった。よって、放電開始及び停止の動作は、ベルト部材の移動速度が線速5cm/秒以上であるうちに行われることが好ましいと判断できる。
【0124】
比較例9、10では、ベルト部材の開口面積率を2%と10%に振っており、開口面積率が低い場合も高い場合も、真空吸着による用紙が受ける負圧が不十分となり、ベルト部材の線速に用紙が追従して移動することが困難となり、スリップによる用紙搬送遅延が確認された。よって、ベルト部材の開口面積率は2〜10%の範囲内とすることが好ましいと判断できる。
【0125】
比較例11では、放電電極−接地側電極対を0.5mm下方に下げることで、ベルト部材を接地側電極から0.5mm浮かせている。この条件での定着レベルは最低値となり、定着処理効果がほとんど無い状態となった(図8参照)。その理由は、接地側電極、接地側電極被覆誘電体、ベルト部材、及び基材が全て接触している時にのみ、基材表面に沿面放電が形成されて定着処理がなされるものであるのに対し、本例では接地側電極被覆誘電体とベルト部材が離れていることで、本来基材上で発生すべき沿面放電は、接地側電極被覆誘電体の表面にて発生してしまうことが確認された。よって、放電インク定着処理装置のベルト部材は、接地側電極上の誘電体表面に密着した状態となって用紙を搬送する必要があると判断できる。
【0126】
実施例2では、表1からも明らかなように、狭い空間である1立方メートルアクリルボックス内であっても、オゾン除去用吸引ファンが、基材をベルト部材に真空吸着させるための減圧作用を兼ねていれば、その流路は複雑化せずに単純なものとなり、放電空間から発生するオゾンを含んだ大気が効率よくオゾン除去フィルターで浄化されることを示している。
【0127】
比較例12では、実施例2に対比した条件として真空吸着用とオゾン除去用の吸引ファンを各1個ずつ別個に設けている。その結果、各ファンが減圧する空間の負圧抵抗の違いによってそれぞれ異なる回転数、あるいは各ファンの負圧の干渉により一定な回転数を維持できない不安定な回転数制御状態となり、オゾン除去フィルターの性能を十分に発揮することが困難となり、除去しきれないオゾンガスを多量に漏洩させてしまう。又はこの回転数が不安定になることでベルト部材の真空吸着力が安定しないことによる二次的な不具合の発生も懸念される。つまり、本例によって、オゾン除去用吸引ファン(オゾン吸引手段)が基材をベルト表面に真空吸着させるための減圧作用を兼ねていれば、効率良くオゾンを除去し、且つ安定な真空吸着で基材搬送定着処理が行える放電インク定着処理装置の基材搬送システムを構成できることが裏付けられたと判断する。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】図1は、基材搬送システムの全体構成図である。
【図2】図2は、吸引開口部を有するベルト部材の縦断面図である。
【図3】図3は、本発明の、開口部を有するベルト部材により基材を放電電極に搬送する際の様子を示す図である。
【図4】図4は、減圧手段とオゾン吸引手段とが別個に設けられた基材搬送システムを示す図である。
【図5】図5は、最適な条件下で発生する放電の状態である。
【図6】図6は、ベルト部材の比誘電率が高い場合、又は接地側電極被覆誘電体が厚い場合の放電状態である。
【図7】図7は、ベルト部材の比誘電率が高い、又は接地側電極被覆誘電体の比誘電率が高い場合の放電状態である。
【図8】図8は、ベルト部材が接地側電極から浮いている場合の放電状態である。
【図9】図9は、従来の、開口部を持たないベルト部材により基材を放電電極に搬送する際の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0129】
1 基材搬送システム
10 基材搬送手段
11 ベルト部材
12 プーリー
13 従動プーリー
14 テンショナープーリー
15 ベルトガイド板
20 減圧手段
30 インク定着手段
31 接地側電極
31a 誘電体
31b 電極板
32 非接地側電極
40 筐体
50 二酸化マンガンフィルター(オゾン除去フィルター)
60 活性炭フィルター(オゾン除去フィルター)
70 オゾン吸引手段
P 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも大気圧近傍の誘電体バリア放電を用いて基材上のインクを基材に定着させるインク定着手段に基材を搬送する、基材搬送手段を備え、
前記基材搬送手段は、複数の吸引開口部を有するベルト部材を用いた搬送機構であることを特徴とする基材搬送システム。
【請求項2】
ベルト部材が、比誘電率が5以下で、厚みが0.01〜0.5mmである請求項1に記載の基材搬送システム。
【請求項3】
ベルト部材が、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、4フッ化エチレン、ポリアミド及びポリイミドから選択される少なくとも1種を含む請求項1から2のいずれかに記載の基材搬送システム。
【請求項4】
ベルト部材の開口面積率が、2%以上、10%未満である請求項1から3のいずれかに記載の基材搬送システム。
【請求項5】
ベルト部材が、インク定着手段が有する接地側電極上の誘電体表面に密着して配される請求項1から4のいずれかに記載の基材搬送システム。
【請求項6】
基材をベルト部材の表面に真空吸着させるために減圧する減圧手段を更に備え、
前記減圧手段は、誘電体バリア放電により発生するオゾンをオゾン除去フィルターまで吸引するオゾン吸引手段を用いてなる請求項1から5のいずれかに記載の基材搬送システム。
【請求項7】
誘電体バリア放電を制御する放電制御手段を更に備え、
前記放電制御手段は、前記誘電体バリア放電における放電を開始する制御と停止する制御とを、基材搬送手段の搬送速度が線速5cm/秒以上である間に行う請求項1から6のいずれかに記載の基材搬送システム。
【請求項8】
大気圧近傍の誘電体バリア放電を用いて基材上のインクを基材に定着させるインク定着手段を更に備え、
前記インク定着手段は、誘電体で被覆された接地側電極と、前記接地側電極から隔てられた非接地側電極とを有し、
前記接地側電極は、厚みが0.1〜5mmで比誘電率が10以下の誘電体によって、少なくとも一部が絶縁被覆された電極板である請求項1から7のいずれかに記載の基材搬送システム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の基材搬送システムを備えてなる印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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