説明

基材温度上昇の少ない加熱コーティング方法

【課題】 加熱処理による皮膜作製法であって、プラスチックス等の加熱に弱い材料基材上に、基材に影響を与えることなく無機物成分組成比率の高い皮膜を施す技術を提供すること。
【解決手段】 高出力の赤外線をフラッシュまたはパルスで皮膜表面に照射することにより、耐熱性の低い材料である基材を加熱することなく、高温で焼結が必要な皮膜部分を直接加熱し焼き付けすることができた。皮膜自体を極短時間で直接加熱するため、基材の温度上昇を少なく抑えることができるとともに、加熱及び冷却に要する時間が短縮する等の利点を得ることができた。これにより、プラスチックス等の耐熱性の低い材料にも高温で焼結を必要とする無機物成分組成比率の高いセラミックス等のコーティングを施すことが可能となり、表面集塵性の抑制や表面防汚性などの特性を付与したり、光触媒能などの高度な機能性を付与することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線をフラッシュまたはパルスで照射することにより、基材温度の上昇を少なく抑えて無機物成分組成比率の高い皮膜をコーティングする方法を供するものである。
【背景技術】
【0002】
無機物成分組成比率の高いセラミックス等のコーティングは、皮膜の硬度が高く、耐擦傷性や耐薬品性などの基本的な表面物性の向上に加えて、光触媒能等の高度な機能性を付与することができる多様な用途を持った技術である。
【0003】
一般的に、無機物成分組成比率の高いセラミックス等のコーティングには、溶液状の原料を塗布し高温で焼き付けするゾルゲル法やスパッタリングなどの真空下での堆積技術が用いられてきた。
【0004】
ゾルゲル法は、ほとんどの元素の酸化物皮膜を作製することができ、また成分組成を制御した複合材料を作製することができる画期的な手法である。この手法は、材料の違いがあっても皮膜を作製する条件に大きな差が無く、特別な条件を要する場合を除いて、原料となるゾル溶液を基材に塗布・乾燥した後に500℃程度の高温で焼成することで、製膜・焼き付けする技術である。
【0005】
スパッタリングなどの真空下での堆積技術は、下地材料に対する影響が少なく幅広い組成の皮膜を施すことができる。しかしながら、真空中の処理であるため1回の処理に要する時間やコストが多大で安価な製品に適用することは困難である。また、作製される皮膜は、粒状の結晶核が成長するため、均一な皮膜を作製するにはある程度の厚さが必要となること、さらには皮膜の成長にも長い時間を要するなどの欠点を有している。そのため、この手法は、皮膜自体が機能性を成すデバイスであるような製品や装飾など非常に付加価値の高い用途に限定されて用いられてきた。
【0006】
一方で、これらのコーティングを施す基材には、プラスチックスやガラスなど様々な種類の製品が対象とされてきた。
【0007】
例えば、プラスチックス上へのハードコートは、プラスチックスの特性である軽量性や加工性、透明性等を損なうことなく表面の硬度を大きくすることにより損傷を受けにくいものにしようとする技術であり、硬度や透明性、基材との密着性等の観点からシリカ系のコーティング材が多く活用されている。しかしながら、プラスチックス等の耐熱性の低い材料においては、ゾルゲル法のような加熱処理による皮膜作製法を適用することができないため、塗装のような有機系の重合反応や前述のようなスパッタリングなどの真空下での堆積技術が主に用いられていた。シリカ系コーティング材のような有機−無機ハイブリット材料のコーティングの場合、材料中の無機物の成分組成比率を高めると皮膜硬度が大幅に向上する等のメリットを得られるが、それにともない定着に必要な熱処理温度が高温になるデメリットを生じるため、無機物成分組成の比率を低めに抑えたハードコートが行われている。
【0008】
また、ガラス等の無機物を基材として、無機物成分組成比率の高いセラミックス等のコーティングを施す製品も多い。近年着目を集めている光触媒処理などもその一つである。光触媒は、酸化チタンに代表される半導体物質で、光の照射を受けて有機物の分解や表面の超親水化などの作用を示す機能性セラミックスである。窓ガラス等の表面に酸化チタンをコーティングしたものは、汚れを分解・除去できるセルフクリーニング効果や表面の超親水化による防曇効果などの機能性を持った製品として開発が進められている。これらの製品の酸化チタンコーティングは、主にゾルゲル法による高温焼き付けの手法で作製されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
無機物成分組成比率の高いセラミックス等のコーティングは、種々の有用な機能性を得ることのできる優れた皮膜を作製することができるが、作製法や作製条件にともなう制限が多く、特に基材材料の限定や処理にともなうエネルギーやコストの負荷が大きいことなどがあげられる。
【0010】
例えばプラスチックスは、軽量で加工性が良いといった特長を有するものの、帯電や傷つきやすいといった表面に関する問題点が多い材料である。一方で、無機物成分組成比率の高いセラミックス等のコーティングは、これらの表面特性を大幅に改善することのできる技術であり、製品の付加価値を大きく向上させることが期待できる。しかしながら、これらのコーティングには高温での焼成処理が必要であるため、プラスチックスのような耐熱性の低い材料の上に、これらの皮膜を作製することは非常に困難であった。
【0011】
作製法や作製条件による制限については、例えばゾルゲル法の焼き付けは、ガス、電熱線、赤外線など種々の熱源を用いて、炉内で焼き付けるという手法が一般的である。この手法では、コーティング材料と一緒に基材も加熱されるため、セラミックスのような高温での焼結が必要な材料のコーティングは、ガラスなどの耐熱性のある基材にしか適用することができなかった。
【0012】
また、スパッタリング法等の真空中でのコーティング技術は、下地材料に対する影響が少なく幅広い組成の皮膜を施すことができるが、前述のように処理に要する時間やコストがかかるため安価な製品に適用することが難しい等の問題があった。
【0013】
さらに、炉を用いた加熱では、炉内を目的の温度まで上昇させ、続いて加熱した基材を取扱い可能な温度まで冷却させることが必要となる。そのため、ガラス等の基材上に無機物成分組成比率の高いセラミックス等のコーティングを焼き付ける際には、目的とする皮膜に加えて基材や周囲の炉体も含めて加熱・冷却する必要があり、焼成に要する全体的な熱エネルギーが大きくなることや加熱・冷却に要する時間に大きな損失があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明で提案する技術は、高出力の赤外線をフラッシュまたはパルスで皮膜表面に照射することにより、耐熱性の低い材料である基材を加熱することなく、高温で焼結が必要な無機物成分組成比率の高いセラミックス等の皮膜部分を直接加熱し焼き付けするものであり、無機物成分組成比率の高い皮膜をコーティングする際のこれまでの課題を解決することができる手法である。
【0015】
この手法に関する詳細な原理は、以下の通りである。
【0016】
赤外線による加熱は、赤外線の吸収によって温度が上昇するため、赤外線の照射を止めると瞬時に加熱が停止される。一方で、赤外線の照射を長時間続けると、表面での赤外線吸収によって生じた熱が伝導によって物質内部(基材)に伝わり、内部(基材)まで温度が上昇する。この時の上昇温度は、赤外線照射によって生じた熱量に依存し、物質の熱容量及び体積によって最終的な温度が決まる。また、赤外線を照射した際に吸収によって直接加熱される範囲は、赤外線の波長によって変わるが、比較的長い波長の赤外線を使うと浸透する厚みが非常に小さくなるため、皮膜部分のみを直接加熱することができる。
【0017】
そこで、皮膜の温度を瞬時に上昇させるため照射する赤外線の出力を高くし、また皮膜に加える熱量を少なく抑えるため赤外線を照射する時間を極短時間にすると、皮膜からの熱の散逸がほとんど無い状態で皮膜部分に最小限の熱量を加えて焼結温度に到達させることが可能となる。
【0018】
一方、皮膜に蓄積された熱量は、伝導によって基材材料に伝えられるが、皮膜の厚さが薄ければ焼結に必要な熱量はそれだけ少なくなり、基材の厚みが皮膜に比べて十分に厚ければ、皮膜から伝わる熱量による温度上昇を極めて小さくすることが可能になる。
【0019】
これらの観点から、皮膜の厚さが基材に対して十分薄く、且つ高出力の赤外線を極短時間照射することで、基材自体の温度上昇がほとんど無い状態で皮膜を焼結させることができる。また、赤外線の照射を休止時間を十分にとったパルスで照射することにより、「焼き付け・熱の散逸」の工程をを繰り返し行うことができ、皮膜をより強固に焼結させることができる。
【0020】
以上のように、赤外線をフラッシュまたはパルスで照射することにより、基材温度の上昇を少なく抑えて無機物成分組成比率の高い皮膜をコーティングすることが可能となる。この手法を用いることで、耐熱性の低いプラスチックス等の基材上に、同素材の軟化温度以上の高温で焼き付けが必要な無機物成分組成比率の高い皮膜をコーティングすることが可能となる。さらに、アルミ箔等の金属基材上にも、同素材の融解、相転移、酸化等の劣化が生じる温度以上の高温で焼き付けが必要な無機物成分組成比率の高い皮膜をコーティングすることが可能となる。
【0021】
また、赤外線をフラッシュまたはパルスで照射することで、基材部分の温度上昇を少なく抑えて皮膜部分のみを効率よく加熱することが可能であるため、一般的な焼成法で必要とされる基材温度の上昇にともなう冷却時間を短縮することが可能となる。これにより、ガラス等の無機物基材上に、同手法を用いて高温焼結が必要な皮膜をコーティングすることで、加熱コーティングに要する熱エネルギーや加熱冷却に要する時間を大幅に削減することが可能となる。
【0022】
また、赤外線をフラッシュまたはパルスで照射し焼き付ける同手法では、アルミ箔のような金属薄膜は加熱されないため、基材を加熱から保護する目的または基材の特定の部分のみを加熱する目的で、アルミ箔等の金属の薄膜をマスキング材として用いて焼き付けすることが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、プラスチックス等の加熱に弱い材料基材上に、基材材料に影響を与えることなく無機物成分組成比率の高いセラミックス等のコーティングを施す技術を提供するものである。この手法は、これまでの皮膜作製法に比べて、以下のような利点を有する。
【0024】
コーティング膜自体を直接加熱するため、基材の温度上昇が少ない。
【0025】
コーティング膜を直接加熱するため、エネルギーの損失が少ない。
【0026】
コーティング膜のみを加熱して行くため、加熱に懸かる時間を短縮することができる。
【0027】
基材の温度上昇が少ないため、冷却に要する時間が短縮できる。
【0028】
基材の温度上昇を少なく抑えることができるため、加熱にともなう劣化や熱膨張に起因した破損を防ぐことができる。
【0029】
基材の加熱による劣化を抑制できるため、プラスチックス等の耐熱性の低い材料にも高温で焼結を必要とする無機物成分組成比率の高いセラミックス等のコーティングを施すことが可能となる。
【0030】
同手法による焼成では、アルミ箔のような物質は加熱されないので、それらをマスク材として使用することができ、コーティングを施す部分のパターニングが可能である。
【0031】
また、この技術を活用することで、無機物成分組成比率の高いセラミックス等のコーティングの特長である耐摩耗性や耐薬品性などの特性を付与したり、光触媒能などの高度な機能性を付与することができる。
【0032】
さらに、透明なセラミックスの薄膜をコーティングすることが可能であり、下地材料の色調を保持したり、透明性が重要な要素になる製品への応用も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明は、赤外線をフラッシュまたはパルスで照射することにより、基材温度の上昇を少なく抑えて無機物成分組成比率の高い皮膜をコーティングする方法を供するものである。以下にその適用例を示す。
【0034】
無機物成分組成比率の低い有機物を主成分とした皮膜は、一般的な塗装として知られるように溶媒の蒸散や高分子の重合反応を利用して製膜される。一方で、無機物成分組成比率の高いセラミックスのような皮膜は、皮膜を焼結・固着させるために、最も一般的な手法であるゾルゲル法で500℃程度の高温焼成が必要とされる。
【0035】
本発明は、この焼成手法に赤外線のフラッシュまたはパルスでの照射を使用することを提案するもので、シリカ皮膜、酸化チタン皮膜、シリカ−酸化チタン複合材料皮膜のような無機物成分組成比率が100%となるような皮膜をゾルゲル法により作製する際にも適用することができる。
【0036】
例えば、シリカ皮膜は、オルト珪酸テトラエチルを20wt%、エタノールを20wt%、塩酸を3wt%、水を57wt%の割合で混合して作製したゾル溶液を原料として、基材上に塗布した後、加熱焼結させることができる。また、酸化チタン皮膜の場合は、チタンテトライソプロポキシドを15wt%、イソプロピルアルコールを5wt%、硝酸を2wt%、水を78wt%の割合で混合して作製したゾル溶液を原料として、基材上に塗布した後、加熱焼結させることができる。シリカ−酸化チタン複合材料皮膜は、前述のシリカゾル溶液と酸化チタンゾル溶液を1対4の割合で混合して作製した溶液を原料として、基材上に塗布した後、加熱焼結させることができる。ここに示した配合は、それぞれの皮膜を作製する際の1例であり、これによる配合が制限されるものではない。
【0037】
もともとゾルゲル法は、ほとんどの元素の酸化物皮膜を作製することができ、また成分組成を制御した複合材料を作製することができる手法である。この手法は材料の違いがあっても皮膜を作製する条件に大きな差が無く、特別な条件を要する場合を除いて、本発明の手法を適用することが可能であることは、容易に推測することができる。
【0038】
これら皮膜の作製において、本発明の手法を適用することの有効性を確認する試験を行った。一般的な加熱炉を用いた焼成では、隔離された炉内の空間を均一に温度上昇させることによって加熱焼成が行われる。赤外線焼成炉の場合も、一方向に照射される赤外線を試料に対して直接使うことは少なく、一定の空間を均一に加熱する手法が適用されている。赤外線を試料に対して直接照射して加熱した場合、照射されている一方向から試料温度の上昇が起こるため、ガラスなどの試料では熱膨張の影響により短時間で簡単に破損してしまう。厚さ1mmのガラス基材に6kWの赤外線照射装置を用いて直接加熱を行うと約1分の加熱で基材が破損する。本発明のフラッシュまたはパルスによる照射では、基材試料自体の温度上昇がほとんど無く、この様な加熱による破損を防ぐことができる。
【0039】
このように本発明の焼成手法は、基材に対する影響が少なく、例えば汎用の熱可塑性プラスチックスのような耐熱性の低い材料にも適用することができる。本発明の手法を用いて、家庭用電気製品や台所用の日用品など多くの分野で活用されているポリプロピレン(PP)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂(PMMA)上に、先に明記したシリカ−酸化チタン複合材料皮膜を作製した結果を図1に示す。図1のプラスチックス板の右半面には、シリカ−酸化チタン複合材料皮膜を施してある。
【0040】
それぞれの樹脂の耐熱温度は表1のとおりであるが、本発明の手法を用いてシリカ−酸化チタン複合材料皮膜を製膜しても、変形や分解等が起こらず外観上全く変化のない綺麗な膜を作製することができた。
【0041】
【表1】

シリカ−酸化チタン複合材料コーティングを施した樹脂の耐熱温度
【0042】
また、基材プラスチックスの色については、図2に示したように白、赤及び黒のアクリル樹脂上に製膜した結果を比較しても、本発明による手法でシリカ−酸化チタン複合材料皮膜を製膜した場合、色調に関係なく基材への影響のない綺麗な膜を作製することができた。これらの結果から、本発明が材質に加えて色調などの製品特性に係わらず広範なプラスチックス材料に適用可能であることが示唆された。
【0043】
さらに、ガラスやプラスチックス以外にも図3のようにアルミ箔のような金属上にも製膜することが可能である。図3は、アルミ箔基材の右半面にシリカ−酸化チタン複合材料皮膜を施してあるが、基材のアルミ箔が融解や酸化等の劣化を起こすことなく綺麗な膜を製膜することができた。
【0044】
本発明による加熱は、赤外線の吸収により直接熱が生じるため、アルミ箔などの金属箔を図4のように基材上に配置し赤外線照射を行うと、アルミ箔部分では赤外線加熱による温度の上昇が起こらず、アルミ箔で遮られた赤外線の照射を受けない基材部分は温度の上昇が認められない。
【0045】
このことは、アルミ箔等の金属箔が赤外線加熱から基材を保護するマスク材として活用可能であることを示唆しており、基材上の要加熱部分と加熱が好ましくない部分が同一表面上にあった場合、アルミ箔等の金属箔で被覆することにより、それらを1つの工程で処理することが可能となる。
【0046】
本発明の手法によりプラスチックス等の耐熱性の低い材料上に従来製膜することができなかった無機成分組成比率の高い皮膜を製膜することで、無機成分で構成された皮膜特有の有効な機能性を活用することができる。
【0047】
シリカ−酸化チタン複合材料皮膜は、緻密なセラミック層を形成し且つ酸化チタンに代表される酸化物半導体材料において得られる光触媒能を有する皮膜として知られている。
【0048】
この皮膜をコーティングすることで、後述のようにプラスチックス等の表面特性を大きく改善することができ、セラミックス皮膜特有の機能性を付与することができる。
【実施例1】
【0049】
プラスチックスは、絶縁体材料であるため摩擦等によって表面に電荷が蓄積される現象すなわち静電気が生じて、埃などを引きつけて汚れ等が付着する欠点を有していた。本発明の手法を用いてプラスチックス上にシリカ−酸化チタン複合材料皮膜をコーティングすることで、この表面集塵性を低下もしくは抑制することが可能となる。
【0050】
図5は、アクリル樹脂の板の右半面をシリカ−酸化チタン複合材料皮膜でコーティングした試料をグラファイト粉末に接触させ取り出した時の表面状態である。コーティングを施していない部分には大量のグラファイト粉末が付着しているのに対して、コーティングを施した面はほとんど粉末が付着していないことが確認できる。さらに、この試料を水道水で軽く水洗すると、コーティングを施していない面はグラファイトを完全に除去することができず汚れた状態になっているのに対して、コーティングを施した面はグラファイトの付着した痕跡が全くなくキレイに洗浄可能であることがわかった。
【実施例2】
【0051】
ホワイトボード用のマーカーを用いて、図6のようにアクリル樹脂の板の右半面をシリカ−酸化チタン複合材料皮膜でコーティングした試料に書込みすると、コーティングの有無にかかわらず綺麗な線を書き込むことができる。一方、これらの線を乾いた布で拭き取る作業を行うと、コーティングの無い部分は、若干の色落ちがあるものの線がそのまま残っているのが確認できる。それに対して、コーティングを施した面は、線の痕跡が全く無くなり、線を綺麗に除去することができた。
【実施例3】
【0052】
シリカ−酸化チタン複合材料は、前述のとおり光触媒能を有する機能性セラミックスである。この材料を皮膜化してコーティングすることで、表面に光触媒特有の機能性を付与することができる。
【0053】
アクリル樹脂の板の右半面をシリカ−酸化チタン複合材料皮膜でコーティングした試料を用いて、光触媒の機能性の1つである表面超親水性の発現を確認する試験を行った。試料にブラックライトを用いて紫外線を十分に照射した後、コーティングを施していない面とコーティングを施した面にそれぞれ水滴を滴下し、その状態を確認した。図7のとおりコーティングを施していない面は、アクリル樹脂の表面特性に応じて水はじきがあるのに対して、コーティングを施した面はシリカ−酸化チタン複合材料の光触媒作用にともなって表面が超親水化しており水が薄くに広がった状態になっていることが確認できる。このことは、本発明の手法により作製したシリカ−酸化チタン複合材料皮膜が、材料特有の光触媒能を発現していることを示唆しており、本発明の効果によって、耐熱性の低いプラスチックス基材の上に、無機物組成比率の高い皮膜が高品質に作製できていることを示している。
【実施例4】
【0054】
プラスチックスやアルミニウムなどの金属材料は、一般的にセラミックスよりも耐薬品性が低い傾向がある。汎用性プラスチックスの多くは有機系の溶媒等に対する耐性が低く、アルミニウム等の金属は酸・塩基等による溶解あるいは塩化物等による腐食を生じることがある。これらの材料表面に無機物成分組成比率の高いセラミックス等の皮膜を形成することで、表面の耐薬品性を向上させることができる。
【0055】
図8は、アルミ箔の右半面をシリカ−酸化チタン複合材料皮膜でコーティングした試料において、コーティング面とコーティングの無い面に塩酸を滴下して、腐食の進行状態を評価した結果である。コーティングの無い面は、アルミニウムが塩酸により溶解して裏面まで貫通した穴が大きく広がっていることがわかる。一方で、コーティングを施した面は、塩酸を滴下してもほとんど腐食が進行しておらず、アルミ箔表面の耐薬品性を確保できていることがわかる。このことは、本発明の手法により作製したシリカ−酸化チタン複合材料皮膜が、緻密なセラミックス皮膜を形成してセラミックス材料特有の耐薬品性を発現していることを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の手法によりシリカ−酸化チタン複合材料をコーティングしたプラスチックス板。試料の右半面にコーティングを施してある。(a)の試料は、ポリプロピレン。(b)の試料は、ABS樹脂。(c)の試料は、ポリエチレンテレフタレート。(d)の試料は、アクリル樹脂。
【図2】色の異なるアクリル樹脂に、本発明の手法によりシリカ−酸化チタン複合材料をコーティングした結果。試料の右半面にコーティングを施してある。(a)は、白色。(b)の試料は、赤色。(c)の試料は、黒色。
【図3】本発明の手法によりシリカ−酸化チタン複合材料をコーティングしたアルミ箔。試料の右半面にコーティングを施してある。
【図4】本発明の手法において、アルミ箔をマスク材として使用する場合の配置図。
【図5】本発明の手法によりシリカ−酸化チタン複合材料をコーティングしたアクリル樹脂板をグラファイト粉末と接触させた時の表面状態。試料の右半面にコーティングを施してある。(a)の図は、グラファイト粉末に接触させた直後の状態。(b)の図は、(a)の試料をさらに水洗した後の状態。
【図6】本発明の手法によりシリカ−酸化チタン複合材料をコーティングしたアクリル樹脂板にホワイトボード用マーカーで書き込みした時の表面状態。試料の右半面にコーティングを施してある。(a)の図は、ホワイトボード用マーカーで書き込みをした状態。(b)の図は、書込後さらに乾布で拭き取った後の状態。
【図7】本発明の手法によりシリカ−酸化チタン複合材料をコーティングしたアクリル樹脂板にブラックライト照射後に水を滴下した時の表面状態。試料の右半面にコーティングを施してある。
【図8】本発明の手法によりシリカ−酸化チタン複合材料をコーティングしたアルミ箔に塩酸を滴下して、10分間放置した後の表面状態。試料の右半面にコーティングを施してある。
【符号の説明】
【0057】
1 赤外線
2 反射
3 アルミ箔
4 試料
5 加熱・温度上昇部位
6 非加熱・温度上昇無し

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線をフラッシュまたはパルスで照射することにより、基材温度の上昇を少なく抑えて無機物成分組成比率の高い皮膜をコーティングする方法。
【請求項2】
請求項1の手法を用いて、プラスチックス基材上に、同素材の軟化温度以上の高温で焼き付けが必要な無機物成分組成比率の高い皮膜をコーティングする方法。
【請求項3】
請求項1の手法を用いて、アルミ箔等の金属基材上に、同素材の融解、相転移、酸化等の劣化が生じる温度以上の高温で焼き付けが必要な無機物成分組成比率の高い皮膜をコーティングする方法。
【請求項4】
ガラス等の無機物基材上に、請求項1の手法を用いて高温焼結が必要な皮膜をコーティングすることで、基材温度の上昇にともなう冷却時間を短縮するコーティング方法。
【請求項5】
請求項1〜4において、加熱から保護する目的または特定の部分のみをコーティングする目的で、アルミ箔等の金属の薄膜をマスキング材として用いてコーティングする方法。
【請求項6】
請求項1〜5の手法を用いて基材温度の上昇を少なく抑えて無機物成分組成比率の高い皮膜をコーティングすることにより、耐擦傷性や耐薬品性などの表面特性を向上させた製品及び光触媒能などの高度な機能性を付与した製品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−78191(P2009−78191A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246975(P2007−246975)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(591106462)茨城県 (45)
【Fターム(参考)】