基板上でビルドアップ型コンビナトリアルライブラリーを合成する方法
【課題】糖類をビルドアップ的に合成して糖鎖チップ等を作製する方法を提供すること。
【解決手段】選択的に脱保護可能な水酸基の保護基により保護された糖を基板に結合し、第1の所望の水酸基を選択的に脱保護した後、光切断保護基Wを該水酸基に導入する。基板の所望の領域を選択的に露光して、その領域にある保護基Wを選択的に脱保護した後、所望の糖又はキャッピング基を選択的に導入する。基板上のすべての保護基Wを変換するまで、この露光及び糖又はキャッピング基の導入を繰り返す。次に、第2の所望の水酸基を選択的に脱保護、W基の導入、露光、糖又はキャッピング基の導入を繰り返す事を特徴とする糖鎖チップの作製方法。
【解決手段】選択的に脱保護可能な水酸基の保護基により保護された糖を基板に結合し、第1の所望の水酸基を選択的に脱保護した後、光切断保護基Wを該水酸基に導入する。基板の所望の領域を選択的に露光して、その領域にある保護基Wを選択的に脱保護した後、所望の糖又はキャッピング基を選択的に導入する。基板上のすべての保護基Wを変換するまで、この露光及び糖又はキャッピング基の導入を繰り返す。次に、第2の所望の水酸基を選択的に脱保護、W基の導入、露光、糖又はキャッピング基の導入を繰り返す事を特徴とする糖鎖チップの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2以上の水酸基を有する化合物、典型的には糖類のコンビナトリアルライブラリーの合成方法に関し、さらに詳細には、2以上の水酸基を有する化合物の基板上でのビルドアップ型コンビナトリアルライブラリー合成方法および該ライブラリーを含む基板に関する。特に、病気や、毒素の診断薬・検査薬としてのニーズが高い糖鎖チップ等を作製するのに有用な化合物ライブラリーの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病気や、各種毒素には糖鎖を認識するものがある。それらを迅速に検査する為には、各種糖鎖が基板上に結合している糖鎖チップを用いるのが迅速でかつ高感度であると考えられる。既にDNAチップは市販されており、研究・診断に用いられている。更にペプチド(プロテイン)チップも研究が盛んに行われている。しかし、その複雑な構造ゆえ現在においても満足のいく糖鎖チップは存在していない。
【0003】
現存するすべての糖鎖チップは天然から単離精製した糖鎖や、それを酵素処理したものや、単純な糖の有機合成品などを基板に結合させることにより作製されている。これらの糖鎖チップ上の糖鎖は数十種類程度で、より多種類の糖鎖を基板上に結合させる事が望まれている。多種類の糖鎖構造を有する糖鎖チップを作製する為には、まずは必要な数の糖鎖を調達する必要がある。糖鎖は複雑に分岐を有する構造で、有機合成するのも容易ではなく、従来の技術により数百ないし数千種類もの糖鎖を合成することは、事実上不可能である。また、もし仮に合成できたとしても、コストが非常にかかり、実用的ではない。現在のDNAチップ作製法は基板上でのDNA合成手法であるアフィメトリクス法と、既に作製したDNAを基板に結合させるスタンフォード法に2分される。ビルドアップ的に基板上で合成するチップは低価格化・集積化等に優れており、糖鎖チップにおいても基板上での合成が期待されている。しかし、今までに、基板上でビルドアップ的に糖鎖を合成し、糖鎖チップを作製した例はない。
【0004】
多数の水酸基を有する化合物(特に糖質、複合糖質、それらの誘導体又は類縁体)のコンビナトリアルライブラリー合成は未だ達成されていない未開の領域である。それはひとえに同じような反応性を持つ水酸基を選択的に脱保護させる技術、特にコンビナトリアルライブラリー合成に最適化された水酸基の保護基の技術が存在していない為である。多くの従来の技術では様々な種類の保護基を適宜用いて、その反応性の違いを利用して目的の保護基のみを選択的に脱離させていたが、この様な手法では、コンビナトリアルライブラリー合成は現実的には不可能である。
【0005】
これを可能にする唯一の技術として、特定の保護基Yを用いた方法(以下「Y法」という)が挙げられる(特許文献1及び2)。Y法を用いれば、単にY基の重合度を変えるだけで無限の水酸基を選択的に脱保護させる事が出来る。
特許文献1及び2記載の方法は、重合度の異なる保護基により多くの水酸基を保護し、重合度の違いにより脱保護する順番を決定し、選択的に目的の水酸基を脱保護させることができるという手法である。それにより、樹脂ビーズ上で糖鎖ライブラリーを構築することができる。
しかし、この手法を基板上でのコンビナトリアルライブラリー合成に適応しようとすると、次のような問題があった。すなわち、基板のある部位のみに選択的に反応させる事が必要である為、当然、光による制御が必要になってくるが、光による反応を特許文献2記載の方法に組み合わせると非常に長い反応段階が必要になるということである。
【0006】
特許文献2記載の方法を用いて基板上でビルドアップ的に糖鎖を合成する手法を図1に示す。
図1において、特許文献2記載の方法の典型的な構造として、糖の水酸基がA−Y、A−YY(Aは酸性、遷移金属又は遷移金属有機錯体、光分解、又は酵素により脱離可能な保護基を示す。Yは−NR1−CR2R3−CO−、R1は炭素数1〜6のアルキル基又は水素原子、R2及びR3は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜20のアルケニル基、炭素数6〜7のアリール基、又は炭素数7〜20のアリールアルキル基であり、同一でも異なっていても良い。)により保護された、(1)の構造を有する糖が表面に結合したガラスを想定する。Aはここでは酸性条件で脱離可能なBoc基(ターシャリー−ブトキシカルボニル基)とし、Yを−[(CH3CH2)2CH]N−CH2−CO−とする。RはAの脱離する条件及び、光反応・PITC化反応・TFA処理反応・再Boc化反応・縮合反応で脱離しない保護基、例えばBz基(ベンゾイル基)またはBn基(ベンジル基)とする。
【0007】
基板上のある特定の位置に存在する水酸基を選択的に脱保護させる為には、光により反応する保護基を用いるのが一般的である。そこで、酸性条件で切断できるBoc基を光により切断しようとする場合、光を当てると酸を発生する光酸発生剤が必要になる。この光酸発生剤を基板にコートしてから目的の部位に選択的に光を当て、酸を発生させ、Boc基を切断する。Boc基が切断されたら、その後はYの重合度を減少させる操作を行う。
まずはPITC(フェニルイソチオシアネート)を反応させ、次にTFA(トリフルオロ酢酸)により2重合を1重合に変換し(すなわち、YYをYに)、同時に1重合のYを除去し水酸基を脱保護する。最後に再Boc化を行い一連の反応を終了し基板(3)を得る。ここで選択的に脱保護された水酸基に次の糖を縮合させる。ここではGalを導入し、部位特異的にGalが導入された基板(4)を得る。
この操作を繰り返すことにより、基板の部位特異的に構造の異なる糖鎖を組み上げる(ビルドアップする)ことができる。しかし、1種類の糖を導入するのに、1.光によるBoc基の切断、2.PITC化、3.TFA処理、4.再Boc化、5.縮合、と5段階を必要とする。仮に異なる5種類の糖を導入しようとすると、5×5で25段階が必要であり、非常に多段階を必要とする。従って、この方法は、糖の種類を増やしていったときには実現が極めて困難となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4102263号
【特許文献2】特開2008−201686
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特許文献2記載の技術上の問題点を改良し、基板上での糖鎖合成をより実現可能なものにしようとするものである。
すなわち、本発明の目的は、2以上の水酸基を有する化合物を基板上でビルドアップ的に合成してコンビナトリアルライブラリーを合成する方法を提供することである。
本発明の他の目的は、糖類をビルドアップ的に合成して糖鎖チップ等を作製する方法を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、病気や、毒素の診断薬・検査薬としてのニーズが高い糖鎖チップ等の基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下に示す化合物ライブラリーの合成方法及びこれを含む基板を提供するものである。
1.基板上に結合した、少なくとも2個の水酸基を有する化合物であって、そのすべての水酸基が、脱保護条件が相互に異なる少なくとも2種の保護基からなる群から選ばれる保護基で保護された化合物をアクセプターとして用い、該保護基を選択的に脱保護し、脱保護された水酸基に所望のドナー又はキャッピング基を選択的に導入して一枚の基板上でビルドアップ型コンビナトリアルライブラリーを合成する方法において、
(1)第1の保護された水酸基を選択的に脱保護する工程、
(2)脱保護された水酸基に、W基もしくはW(Z)基(Wは光分解により脱離可能な保護基を示し、ZはW基が脱離する光分解の条件でW基と同時に脱保護される基、もしくはW基が脱離する事により、活性化(もしくは不安定化)され、選択的に除去可能になる基を示す)を導入する工程、
(3)基板をn個(nは1以上の整数)の部位に分割し、該基板の第1の部位を選択的に露光し、露光部のW基もしくはW(Z)基を選択的に脱保護し、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第1のドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程、
(4)nが2以上の整数である場合、工程(3)を第2の部位から所望の第nの部位まで繰り返し、各部位において、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第2のドナー又はキャッピング基ないし所望の第nのドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程、
(5)第2の保護された水酸基について、工程(1)から(4)を繰り返し、第2の保護された水酸基を脱保護し、脱保護された水酸基に、W基もしくはW(Z)基を導入し、基板をn個(nは1以上の整数)の部位に分割し、該基板の第1の部位を選択的に露光し、露光部のW基もしくはW(Z)基を選択的に脱保護し、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第1のドナー又はキャッピング基を選択的に導入し、上記工程を第2の部位から所望の第nの部位まで繰り返し、各部位において、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第2のドナー又はキャッピング基ないし所望の第nのドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程、
(6)必要により、工程(5)を所望の、保護された水酸基について繰り返し、各水酸基の各部位において、選択的に脱保護された水酸基に、第1ないし第nのドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程を含み、
工程(1)〜(6)において、繰り返して使用する、W基もしくはW(Z)基、基板の分割部位の数n、ドナー又はキャッピング基は、同一でも異なっていても良い、
ことを特徴とする、ビルドアップ型コンビナトリアルライブラリー合成方法。
2.アクセプターの水酸基の保護基がA(Y)m基(Aは酸性、塩基性、遷移金属又は遷移金属有機錯体、光分解、又は酵素により脱離可能な保護基を示す。Yは−NR1−CR2R3−CO−、R1は炭素数1〜6のアルキル基又は水素原子、R2及びR3は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜20のアルケニル基、炭素数6〜7のアリール基、又は炭素数7〜20のアリールアルキル基であり、同一でも異なっていても良く、mはYの重合度を示し、1以上の整数であり、mが2以上の整数の場合、各Y中のR1、R2、R3は、相互に同一でも異なっていても良い。)である上記1記載の方法。
3.第1の保護された水酸基を選択的に脱保護する工程が、A(Y)m基のY基中の酸アミド結合をN末端側から逐次切り離す方法により重合度の小さなY基を選択的に脱保護する工程を含む上記2記載の方法。
4.アクセプターの1個の水酸基の保護基がV基(Vは塩基性、酸化剤、フッ素化合物、光分解、又は酵素により脱離可能な保護基を示す。)であり、他の少なくとも1個の水酸基の保護基がA(Y)m基(Aは酸性、塩基性、遷移金属又は遷移金属有機錯体、光分解、又は酵素により脱離可能な保護基を示す。ただし、AがVと同一であることはなく、Vの脱離条件でAが脱離することはない。)であり、第1の保護された水酸基がV基で保護された水酸基である上記1又は2記載の方法。
5.ドナーがA(Y)m基により保護された少なくとも1個の水酸基を含み、工程(1)〜(6)を繰り返すことを特徴とする上記1〜4のいずれか1項記載の方法。
6.ドナーがV基により保護された少なくとも1個の水酸基を含む上記1〜5のいずれか1項記載の方法。
7.アクセプターが糖である上記1〜6のいずれか1項記載の方法。
8.保護基AがBoc基であり、保護基WがNPPOC基である上記1〜7のいずれか1項記載の方法。
9.アクセプターが、リンカーを介して基板に固定されている上記1〜8のいずれか1項記載の方法。
10.基板が、ガラスである上記1〜9のいずれか1項記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複雑な構造の化合物ライブラリー、特に糖鎖ライブラリーを簡単に、かつ正確、短工程で基板上で作り分けることが可能である。従って、一枚の基板上に構造の異なる数百〜数千の糖鎖を少ない工程数で正確かつ効率よく構築することが現実的に可能である。
本発明により製造された、化合物ライブラリーが結合した基板(具体的には糖鎖チップ)は、生物を扱うすべての分野に利用可能である。例えば、病気や、毒素の診断薬・検査薬等として極めて有用である。
糖鎖は遺伝子、蛋白質に継ぐ第3の生命鎖として重要であり、DNAチップ、プロテインチップに次ぐ糖鎖チップは生命科学に必須なツールである。本発明(基板上でのビルドアップ的糖鎖チップ作製手法)により、第3の生命鎖として重要な糖鎖を、基板上で効率よく作製することができると共に、様々な構造の糖鎖機能を一度に解析可能なツールである糖鎖チップを提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】特許文献2記載の方法の概要を示すスキームである。
【図2】本発明の方法の概要を示すスキームである。
【図3】基板に結合した3つの水酸基を有する化合物(各水酸基はそれぞれ脱離条件の違う保護基により保護されている)と、その置換基を示す模式図である。
【図4】それぞれ保護された、3つの水酸基を有する丸囲み数字1の化合物(例えばGal)の保護基Aを脱保護した後、光切断保護基(星印)を導入して得られた基板の模式図を示す。ここでは基板に均一に同じ化合物が存在する。
【図5】図4の基板の左1/3を露光し、元々Aで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこにキャッピング基を選択的に導入しキャッピングを行った基板の模式図を示す。
【図6】図5の基板の中央1/3を露光し、元々Aで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこに丸囲み数字2の化合物(例えばGlc)を選択的に導入した基板の模式図を示す。
【図7】図6の基板の右1/3を露光し、元々Aで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこに四角囲み数字3の化合物(例えばGlcNAc)を選択的に導入した基板の模式図を示す。
【図8】図7の基板の保護基Bを脱保護し、光切断保護基(星印)を導入して得られた基板の模式図を示す。
【図9】図8の基板を横方向に3分割し、まず下1/3を露光し、元々Bで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこにキャッピング基を選択的に導入しキャッピングを行った基板の模式図を示す。
【図10】図9の基板の中央1/3を露光し、元々Bで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこに丸囲み数字2の化合物(例えばGlc)を選択的に導入した基板の模式図を示す。
【図11】図10の基板の上1/3を露光し、元々Bで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこに四角囲み数字3の化合物(例えばGlcNAc)を選択的に導入した基板の模式図を示す。
【図12】図11の基板の保護基Cを脱保護し、光切断保護基(星印)を導入した基板の模式図を示す。
【図13】図12の基板を3分割し、3区分の各区分の左1/3を露光し、元々Cで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこにキャッピング基を選択的に導入しキャッピングを行った基板の模式図を示す。
【図14】図13の基板の3区分の各区分の中央1/3を露光し、元々Cで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこに丸囲み数字2の化合物(例えばGlc)を選択的に導入した基板の模式図を示す。
【図15】図14の基板の3区分の各区分の右1/3を露光し、元々Cで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこに四角囲み数字3の化合物(例えばGlcNAc)を選択的に導入した基板の模式図を示す。
【図16】以上の手順により複雑な構造の種々の化合物(例えば糖鎖)(27種類:順列組み合わせで可能な全構造)が形成された基板の模式図を示す。
【図17】実施例2で作製したガラスの蛍光スキャナーによる観察結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
特許文献2記載の方法によれば、重合度の異なる保護基により基板上に存在する水酸基を保護した後、重合度の違いを利用して選択的に目的の水酸基を脱保護させる。ここで脱保護される水酸基は多数ある水酸基の中の特定の水酸基であるが、基板の部位による差はない。その後、特許文献2記載の方法では、次の糖もしくはキャッピング基を導入している。
本発明では、新たに、光で切断可能な水酸基の保護基(W基もしくはW(Z)基)を導入しているため、基板上の目的の部位を選択的に露光することにより、その部位にある水酸基を選択的に脱保護することができる。このため、その後、次の糖を縮合すれば、露光部の基板上で脱保護された水酸基のみに次の糖が縮合され、基板の部位選択的に目的の糖鎖構造を構築することができる。
【0014】
本発明の方法を、図2を参照しながら説明する。
図1と同じ基板(1)をスタート物質とする。基板としては、各種板状ガラス(例えば、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミナケイ酸塩ガラス、シリカガラス、リン酸塩系ガラス、亜テルル酸塩ガラス、ハロゲン化物ガラス、カルコゲナイドガラス等)、板状各種樹脂(例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン等)、板状各種繊維、板状シリカ、セロファン等が挙げられる。これら基板に対して、APTES(3-aminopropyltriethoxysilane: 3-アミノプロピルトリエトキシシラン)処理や、紫外線処理、電子線処理、プラズマ処理、高圧処理、高温処理、酸処理、塩基処理等を行い、表面改質を行う。この様な処理により表面に現れる官能基としては例えば水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基等が挙げられる。基板の寸法は幅1mmから100mm、好ましくは5mmから50mm、長さは1mmから200mm、好ましくは10mmから100mm、厚みは0.01mmから20mm、好ましくは0.1mmから5mmである。
【0015】
アクセプターは、基板に直接固定しても良いが、リンカーを介して固定してもよい。リンカーの種類は特に制限がなく、基板に共有結合していても良く、疎水結合でも良い。例えばポリエチレングリコール、6−ヒドロキシヘキサン酸、2−(6−ヒドロキシヘキサンアミド)酢酸、4−(6−ヒドロキシヘキサンアミド)安息香酸、6−ヒドロキシ−N−(3−ヒドロキシプロピル)ヘキサンアミド等が挙げられる。
【0016】
アクセプターは、保護された水酸基n個(nは2以上の整数)を有する化合物であれば特に制限されない。例えば、6炭糖、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、フコース、アロース、アルトロース、グロース、イドース、タロース、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、イズロン酸、ソルボース、タガトース、フルクトース、プシコース等、5炭糖、例えば、アラビノース、キシロース、リボース、リキソース、リブロース、キシルロース等、更に、9炭糖のシアル酸等、これらのオリゴ糖、複合糖質、これらの誘導体及び類縁体等が挙げられる。
【0017】
ドナーとしては、アクセプターとして例示した上記化合物が挙げられる。ドナーが糖である場合、そのアノメリック位水酸基は、リン酸エステル基、トリクロロアセトイミデート基、フェニルチオ基、メチルチオ基、ブロモ基、クロロ基、フルオロ基、ヨード基等、化学的に活性化可能な置換基に変換しておく必要がある。更にアノメリック位以外の水酸基の中で、後に他のドナー糖、又はキャッピング基を導入する予定の水酸基には目的の水酸基を選択的に脱保護可能な、オルソゴナルな保護基(orthogonal protecting groups)(ある特殊な条件で、他の保護基に影響を与えずに目的の保護基のみ選択的に脱保護可能な保護基の総称)を導入しておく必要がある。後に他のドナー糖、又はキャッピング基を導入する予定のない水酸基には、先に導入したオルソゴナルな保護基の脱離条件、縮合条件、光切断条件等、一連の反応条件で脱離しない保護基を導入しておく必要がある。このようなオルソゴナルな保護基として、例えば、NH2NH2(ヒドラジン)により選択的に除去可能なLev基(レブリニル基)、thiourea(チオウレア)により選択的に除去可能なClCH2CO基(クロロアセチル基)、NaOMe(ナトリウムメチラート)により除去可能なPhCO基(ベンゾイル基)を導入し、それ以外の水酸基は上記反応条件では安定でかつ、Pd/C(パラジウム炭素)により除去可能なBn基(ベンジル基)等を導入する。あるいは、オルソゴナルな保護基として、適切な重合度で、且つ適切な保護基を有するY基、又は、中性又は塩基性で脱離可能な保護基V基、又は光切断可能なW又はW(Z)基を導入し、それ以外の水酸基には、Y基の重合度を減少させるエドマン分解の反応条件及び、縮合条件及び、中性又は塩基性条件で脱離可能な保護基Vの除去条件、さらには、光切断条件に対して安定な保護基、例えば、ベンゾイル基、ベンジル基、アセチル基等を導入する。
【0018】
アクセプターとドナーの反応は、公知の条件、例えば、活性化剤としてTMSOTf、BF3OEt2、NIS−TfOH等を用い、反応溶媒としてジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、DMF、THF、トルエン、ベンゼン等中、温度−40〜50℃で5分〜24時間程度行えば良い。
【0019】
本発明に使用する「キャッピング基」としては、オルソゴナルな保護基の脱離条件で脱離しない保護基が使用される。例えば、オルソゴナルな保護基がY基の場合、Bz基、Bn基、アセチル基、クロロアセチル基、レブリニル基、TBDMS基(ターシャリー−ブチルジメチルシリル基)、TBDPS基(ターシャリー−ブチルジフェニルシリル基)等が「キャッピング基」として使用される。
【0020】
本発明の説明の便宜上、以下、アクセプター及びドナーとして糖を使用した場合について説明する。また、便宜上、光切断保護基(W基)としてNPPOC基[2−(2−ニトロフェニル)プロピルオキシカルボニル基]、キャッピング基としてBz基、AとしてBoc基、RとしてBz基、Yとして−[(CH3CH2)2CH]N−CH2−CO−を使用した場合について説明する。
図2において、本発明ではまず、Y基の重合度を減少させる操作を行う。つまり、1.TFAによる脱Boc化、2.PITC化、3.TFA処理、4.再Boc化を行うと、Y基の重合度が一つずつ減少し、1重合のY基が選択的に脱保護される。その後、光切断保護基であるW基を導入する。1つの水酸基が選択的に脱保護されるため、W基も選択的に目的の水酸基に導入され、基板(8)が得られる。
基板の目的の部位を選択的に露光すると、その部位に存在するW基が脱離され、水酸基が脱保護された基板(9)が得られる。
そこに次の糖を縮合させる。ここではGalを導入して基板(10)を得ている。次に、基板(10)の別の部位を露光すると、露光部の水酸基が選択的に脱保護された基板(11)が得られる。基板(11)のこの水酸基に、また別の糖、ここではGlcを導入して基板(12)を得ている。
【0021】
このように、本発明によれば、導入する糖の種類が増えても露光、縮合の2段階が増えるのみである。本発明の方法では、2種類の糖の導入は、最初の5段階+1種類目の糖の導入で2段階+2種類目の糖の導入で2段階の全9段階で可能である。仮に異なるn種類の糖を導入しようとすると、(5+2n)段階(例えば、糖の種類が5種類であれば、5+2+2+2+2+2の15段階)でよく、導入する糖が増えれば増えるほど図1に示した従来の方法と比較して、反応段階が飛躍的に減少する。従って、本発明によれば、一枚の基板上に構造の異なる数百、数千の糖鎖を構築することが現実的に可能である。
【0022】
多種類の糖鎖を基板上に構築する具体的な手法を、図3〜16を参照しながら、詳細に説明する。
ここでは便宜上丸囲み数字1をGal、丸囲み数字2をGlc、四角囲み数字3をGlcNAcとしている。Galの各水酸基は以下のように保護されているとする。Galの2位水酸基は今後の反応で影響がない保護基により保護されている(例えばBz基、Bn基等)。3位水酸基はB’という特殊な条件で選択的に切断可能なBという保護基により保護されている。4位水酸基はA’という特殊な条件で選択的に切断可能なAという保護基により保護されている。6位水酸基はC’という特殊な条件で選択的に切断可能なCという保護基により保護されている。Galの3位、4位、および6位水酸基に、例としてそれぞれGlcとGlcNAcを導入する手法を示す。順列組み合わせで可能な全27種類の糖鎖の合成が、本発明を使えば短い反応段階で可能になる。
まずは、Aを選択的に脱離し、光切断保護基(星印)を導入する。こうして得られた基板の模式図を図4に示す。ここでは基板に均一に同じ化合物が結合している。
【0023】
図4の左1/3を露光し、4位水酸基を脱保護し、そこにキャッピング基を選択的に導入しキャッピングを行い、基板図5を得る。
次に中央1/3を露光し、4位水酸基を脱保護し、そこに丸囲み数字2のGlcを選択的に導入し、基板図6を得る。
最後に右1/3を露光し、4位水酸基を脱保護し、そこに四角囲み数字3のGlcNAcを選択的に導入し、基板図7を得る。
次にBを選択的に脱保護し、3位水酸基に選択的に光切断保護基(星印)を導入する。こうして得られた基板の模式図を図8に示す。
【0024】
先ほどと同様に基板を今度は横方向に3分割しそれぞれ露光する。まず下1/3を露光し、選択的に脱保護された3位水酸基にキャッピング基を導入しキャッピングを行い(図9)、次に、中央1/3を露光し、選択的に脱保護された3位水酸基に丸囲み数字2のGlcを導入し(図10)、さらに上1/3を露光し、選択的に脱保護された3位水酸基に四角囲み数字3のGlcNAcを導入する(図11)。
最後にCを選択的に脱保護し、6位水酸基に選択的に光切断保護基(星印)を導入する。こうして得られた基板の模式図を図12に示す。
【0025】
再度、基板を3分割し、3分割した各区分の左1/3を露光し、選択的に脱保護された6位水酸基にキャッピング基を導入しキャッピングを行い(図13)、次に3分割した各区分の中央1/3を露光し、選択的に脱保護された6位水酸基に丸囲み数字2のGlcを導入し(図14)、さらに右1/3を露光し、選択的に脱保護された6位水酸基に四角囲み数字3のGlcNAc(図15)を導入する。
以上の手順により複雑な構造の糖鎖も簡単に、かつ正確、短工程で作り分けることが可能である(図16)。
【0026】
本発明において選択的に脱保護可能な水酸基の保護基の例としては、特許文献1及び2記載のY基、及び一般的なオルソゴナルな水酸基の保護基(Boltje, T. J., C. X. Li, et al. (2010). Organic Letters 12(20): 4636-4639.)が使用可能である。一般的なオルソゴナルな水酸基の保護基の例としては以下のものが挙げられる(Sears, P. and C. H. Wong (2001). Science 291(5512): 2344-2350.)。
【0027】
【0028】
これら保護基を使用して選択的に目的の水酸基を脱保護する事は一般的常套手段である。括弧の中の試薬は脱保護試薬である。
Pd/C:パラジウム炭素、Pd nanoparticles:パラジウムナノパーティクル、TFA:トリフルオロ酢酸、DDQ: 2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン、NaOMe:ナトリウムメチラート、2°amine:2級アミン、acid:酸、TsOH:p-トルエンスルホン酸、tBuKO:カリウム ターシャリーブトキシド、Ir:イリジウム、Pd:パラジウム、Rh:ロジウム、Bu4NF:フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム、HF:フッ化水素、AcOH:酢酸、thiourea:チオウレア、NaHCO3:炭酸水素ナトリウム、NH2NH2:ヒドラジン。
【0029】
本発明において、光分解により脱離可能な保護基Wの例としては、NPPOC基[2−(2−ニトロフェニル)プロピルオキシカルボニル](Kim, C., J. Kaysen, et al. (2006). Microelectronic Engineering 83(4-9): 1613-1616.)、MNPPOC基[2-(3,4-メチレンジオキシ−6−ニトロフェニル)-プロピルオキシカルボニル](Bhushan, K. R. (2006). Organic & Biomolecular Chemistry 4(10): 1857-1859.)、NVOC基(オルト-ニトロベラトリルオキシカルボニル)(Patchorn.A, B. Amit, et al. (1970). Journal of the American Chemical Society 92(21): 6333-6335.)、MeNPOC基(α-メチル-オルト−ニトロピペロニルオキシカルボニル)(McGall, G. H., A. D. Barone, et al. (1997). Journal of the American Chemical Society 119(22): 5081-5090.)、Aqmoc基(アントラキノン-2-イルエトキシ-カルボニル)(Furuta, T., Y. Hirayama, et al. (2001). Organic Letters 3(12): 1809-1812.)、DMB基(3,5−ジメトキシベンゾイン−カルボニル)(Pirrung, M. C., L. Fallon, et al. (1998). Journal of Organic Chemistry 63(2): 241-246.)等が挙げられる。
【0030】
W(Z)のZ基の例としては、
【0031】
などが挙げられる。
【0032】
この様なZ基はWが切断される条件で同時に切断される。あるいはW基が切断される事により不安定になり弱酸性、もしくは弱塩基性で切断されるようになるものもある。またWが切断される条件では完全には切断されず、その後、PITC化を行う事により選択的に定量的に切断されるものもある。
ここで挙げた構造のみならず、W基が切断される事により活性化(もしくは不安定化)され、他の保護基に影響を与えない特殊な反応条件で選択的に切断され、脱保護される構造はいずれもZとして使用することができる。
【0033】
光分解により脱離可能な保護基WもしくはW(Z)を脱離するのに使用する露光光源としては例えば、太陽光、UVランプ、LED、水銀ランプ、レーザー、エキシマランプ等が挙げられ、露光量は0.01〜100 mW/cm2、好ましくは0.1〜50 mW/cm2、露光時間は通常1秒〜24時間、好ましくは20秒〜3時間である。露光の際の温度は0〜100℃が適当であり、通常は室温でよい。
【0034】
また、本発明において、塩基性、酸化剤、フッ素化合物、酵素、または2段階反応により脱離可能な保護基Vの例を表1に示すが、ここで挙げた構造に限定されるわけではない。
【0035】
【表1】
【0036】
さらに本発明において、Yの例としては、
等が挙げられる。
【0037】
さらに本発明において、アクセプターを基板に結合する際に使用しても良いリンカーは特に制限はなく、リンカーは基板に対して共有結合していても良く、疎水結合でも良い。例えば、ポリエチレングリコール、6−ヒドロキシヘキサン酸、2−(6−ヒドロキシヘキサンアミド)酢酸、4−(6−ヒドロキシヘキサンアミド)安息香酸、6−ヒドロキシ−N−(3−ヒドロキシプロピル)ヘキサンアミド等が挙げられる。
基板にリンカー又はアクセプターを結合する方法に特に限定はなく、例えばグリコシド結合、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、アルキル結合等により容易に結合することができる。
【実施例】
【0038】
以下の実施例において、質量分析装置ESI-FT-MSは、Bruker社製REFLEX IIを用いた。また、HPLCは、Waters社製Delta600を用い、カラムとしてMightysil RP-18 GP 250-4.6 (4.6 x 250 mm, 5 μm, 関東化学)を付け、流速1 ml/minで流した。最初アセトニトリル:水=30:70で10分流し、10分後直ちに40:60に変更した。その後50分かけて50:50に変わるよう直線的にグラジェントをかけた。215nmでのUV吸収を検出した。蛍光スキャナーは、GEヘルスケア社製Typhoonを用いた。溶媒及び試薬は市販の試薬グレードを用いた。
【0039】
また、この明細書において、次の略号を使用する。
2−(2−ニトロフェニル)プロピルオキシカルボニル(NPPOC)
二炭酸ジ-ターシャリー-ブチル(Boc2O)
N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)
4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)
ジクロロメタン(CH2Cl2、DCM)
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)
フェニルイソチオシアネート(PITC)
N−メチルモルフォリン(NMM)
N−ヨードスクシンイミド(NIS)
トリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)
安息香酸(BzOH)
トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMSOTf)
テトラヒドロフラン(THF)
トリフルオロ酢酸(TFA)
tert(ターシャリー)−ブトキシカルボニル(Boc)
9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニル(Fmoc)
ベンゾイル(Bz)
ベンジル(Bn)
チオフェニル(SPh)
アリール(Ar)
室温(r.t.)
ガラクトース(Gal)
グルコサミン(GlcN)
グリシン(Gly)
2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基(Troc)
ユニケモハイドロキシ保護基(UCHP)(特許文献1及び2記載のY基の総称)
【0040】
実施例1
この実施例では、一枚のガラス上に結合位置の異なる3種類の2糖を作りわけている。
実施例1A(アクセプターを基板に結合する工程)
ガラス(13)(シリカガラスを3-アミノプロピルトリエトキシシラン処理後、6−ヒドロキシヘキサン酸を結合させた物。これによりガラス表面に水酸基を有するリンカーが共有結合している)にFmocGlyを導入し、導入されたFmocの量を定量することにより水酸基のローディング量を0.0235mmol/gと決定した。
そのガラス(13)の全面にまず、3位水酸基がBocを持った1重合のY基(-[(CH3CH2)2CH]N-CH2-CO-)で保護され、4位水酸基がNPPOCで保護され、6位水酸基がBocを持った2重合のY基により保護されたグルコサミンドナー(15)を導入した。
ガラス(13)3枚((i)1.561g(2.7cm x 2.6cm x 0.1cm)、(ii)2.190g(5.0cm x 2.5cm x 0.1cm)、(iii)2.178g(5.0cm x 2.5cm x 0.1cm))に、グルコサミンドナー(15)(566mg)、モレキュラーシーブス4A(4.67g)、NIS(309mg)を加え、窒素雰囲気下、脱水ジクロロメタン(6ml)を加えて、-30℃で振盪した。そこにTfOH (122μl)を加え-30℃で1日振盪した。ガラスをNa2S2O3水溶液/アセトン、水、メタノール、DMFの順に洗浄後、縮合時に切断されたBoc基の再導入のため、DMF(6ml)、Boc2O(600μl)、飽和重曹水(600μl)を加え、室温にて4時間振盪した。ガラスを水/DMF、DMF、クロロホルムの順に洗浄後真空乾燥し、ガラス(16)を得た。
ガラス上の構造確認の為に、ガラス(16)を少々砕き玉尾酸化の条件にさらし、切り出しを行い、MS(MALDI-TOF)を測定し目的物(化合物17)を確認した。
化合物17:MALDI-TOF-MS, C59H95Cl3N6O20Na+ (M+Na)+の計算値:1335.56, 実測値:1336.5
【0041】
【化1】
【0042】
縮合されなかった未反応の水酸基に対してBzキャッピングを行った。ガラス(16)にBz2O (600mg)、DMAP (15mg)、ピリジン(6ml)を加え室温にて4時間振盪した。反応液を除去した後、もう一度同じ量でBz化を4時間行った。反応液を除去した後、ガラスを水/DMF、2N―塩酸水、水、DMF,クロロホルムの順で洗浄し真空乾燥した。
Bzキャッピング後のガラスを4領域に区別する為にガラス切りで下記スキームに示すように十字の線を書いた。
【0043】
【化2】
【0044】
それぞれ、以下、領域1、領域2,領域3,領域4と呼ぶ。領域1には単糖(GlcN)、領域2には2糖(Galβ1-4GlcN)、領域3には2糖(Galβ1-3GlcN)、領域4には2糖(Galβ1-6GlcN)を作り分ける。
【0045】
実施例1B(Galβ1-4GlcN構造を構築する工程)
まず、GlcNの4位水酸基を選択的に脱保護し、Galβ1-4GlcN構造を構築する為に、領域2だけに光を当てる。ガラスをアセトニトリル10ml、水10mlの混合溶媒中に浸し、360nmの光(9.19 mW/cm2)を領域2にだけ室温下30分照射した。水、アセトンの順にガラスを洗浄し、真空乾燥することにより、領域2に存在するGlcNの4位に結合したNPPOC基を脱離したガラス(18)を得た。
領域2のガラスを少々砕き玉尾酸化することにより選択的にNPPOCが脱離された化合物19を確認した。
化合物19:MALDI-TOF-MS, C49H86Cl3N5O16Na+ (M+Na)+の計算値:1128.50, 実測値:1129.1
【0046】
【化3】
【0047】
ガラス(18)にガラクトースドナー(20)を縮合する。3枚のガラス(18)((i)1.1697g、(ii)1.5026g、(iii)2.1835g)に、ガラクトースドナー(20)(116.4mg)、モレキュラーシーブス4A(5g)を入れ窒素雰囲気下、無水ジクロロメタン(6ml)を入れ、−15℃に冷却した。−15℃にてTMSOTf(85μl)を入れそのまま2時間振盪した。ガラスをクロロホルム、DMF、クロロホルムの順で洗浄し真空乾燥した。この縮合操作はもう一度同じ条件にて繰り返した。縮合時に脱離したBoc基の再導入の為に、縮合後のガラスにDMF(7ml)、Boc2O(700μl)、飽和重曹水(700μl)を加え室温にて6時間振盪した。ガラスをDMF/水、DMF、クロロホルムの順で洗浄し真空乾燥した。この再Boc化も同じ条件にて繰り返しガラス(21)を得た。
ガラス上の構造確認の為に、ガラス(21)の領域2を少々砕き玉尾酸化の条件にさらし切り出しを行い、MS(MALDI-TOF)を測定し目的物(22)を確認した。
化合物22:MALDI-TOF-MS, C83H118Cl3N5O22Na+ (M+Na)+の計算値:1664.72, 実測値:1664.7
【0048】
【化4】
【0049】
次に、他の領域の4位水酸基をBz基にてキャッピングをする為に、他の領域(領域1,3,4)に光を当て、NPPOCを脱離する。
ガラスをアセトニトリル10ml、水10mlの混合溶媒中に浸し、360nmの光(9.19 mW/cm2)を領域1,3,4だけに室温下30分照射した。水、アセトンの順にガラスを洗浄し、真空乾燥することにより、領域1,3,4に存在するGlcNの4位に結合したNPPOC基を脱離したガラスを得た。その後、ガラスにBz2O(500mg)、DMAP(50mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温にて1日振盪した。2N-塩酸水/アセトン、水、DMF、クロロホルムの順にガラスを洗浄し、真空乾燥した。このBzキャッピングを同条件で繰り返し、ガラス(23)を得た。
構造確認のため、領域1を玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの4位がBz化された化合物24を確認した。
化合物24:MALDI-TOF-MS, C56H90Cl3N5O17Na+ (M+Na)+の計算値:1232.53, 実測値:1233.5
【0050】
【化5】
【0051】
次に、GlcNの3位水酸基を選択的に脱保護する。特許文献1及び2記載の方法に従いY基の重合度を一つずつ減少させる。3位の1重合のY基を脱離すると共に、6位の2重合のY基を1重合にする。ガラス(23)に、20%TFA/ジクロロメタン(20ml)を加え30分間室温にて振盪した。反応液を除去した後、もう一度同じ反応を繰り返した。ガラスをクロロホルム、DMFの順に洗浄後、DMF(8ml)、PITC(4ml)、NMM(960μl)を加え、室温にて30分間振盪した。ガラスをDMF、クロロホルムの順に洗浄後、20%TFA/ジクロロメタン(20ml)を加え30分間室温にて振盪した。反応液を除去した後、もう一度同じ反応を繰り返した。ガラスをクロロホルム、DMFの順に洗浄後、DMF(8ml)、Boc2O(800μl)、飽和重曹水(800μl)を加え、室温にて1日振盪した。ガラスをDMF/水、DMF、クロロホルムの順に洗浄し真空乾燥した。その後もう一度Boc化を同様に行い、ガラス(25)を得た。
構造確認のため、領域1のガラスを少々砕きピリジン(1ml)、無水酢酸(500μl)を加え室温にて1時間振盪し、DMF、クロロホルムの順に洗浄した後、玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの3位がAc化され(選択的に脱保護された3位水酸基にアセチル基が選択的に導入された)、6位が1重合のY基により保護された化合物26を確認した。
化合物26:MALDI-TOF-MS, C39H58Cl3N3O14Na+ (M+Na)+の計算値:920.29, 実測値:920.4
【0052】
【化6】
【0053】
選択的に脱保護された3位水酸基に光切断保護基であるNPPOCを導入する。ガラス(25)にピリジン(10ml)、NPPOC-OPNP(324mg)、DMAP(229mg)を加え室温にて1日振盪した。ガラスをアセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。このNPPOC化はさらに2回同様に行い、合計3回行い、ガラス(27)を得た。
構造確認のため、領域1のガラスを少々砕き玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの3位がNPPOC化された化合物28を確認した。
化合物28:MALDI-TOF-MS, C47H65Cl3N4O17Na+ (M+Na)+の計算値:1085.33, 実測値:1085.3
【0054】
【化7】
【0055】
実施例1C(Galβ1-3GlcN構造を構築する工程)
領域3に選択的にGalβ1-3GlcN構造を構築するために、領域3のみ3位水酸基を脱保護し、他の領域はBz基にてキャッピングする必要がある。
まず、領域1,2,4に対して3位水酸基のBzキャッピングを行う。ガラス(27)をアセトニトリル10ml、水10mlの混合溶媒中に浸し、360nmの光(9.19 mW/cm2)を領域1,2,4にだけ室温下30分照射した。水、アセトンの順にガラスを洗浄し、真空乾燥することにより、領域1,2,4に存在するGlcNの3位に結合したNPPOC基を脱離したガラスを得た。その後、ガラスにBz2O(500mg)、DMAP(50mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温にて1日振盪した。2N-塩酸水/アセトン、水、DMF、クロロホルムの順にガラスを洗浄し、真空乾燥した。このBzキャッピングを同条件で繰り返し、ガラス(29)を得た。
構造確認のため、領域1を玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの3位がBz化された化合物30を確認した。
化合物30:MALDI-TOF-MS, C44H60Cl3N3O14Na+ (M+Na)+の計算値:982.30, 実測値:982.3
【0056】
【化8】
【0057】
次は領域3に選択的に光を当て3位水酸基を脱保護させる。ガラス(29)をアセトニトリル10ml、水10mlの混合溶媒中に浸し、360nmの光(9.19 mW/cm2)を領域3にだけ室温下30分照射した。水、アセトンの順にガラスを洗浄し、真空乾燥することにより、領域3に存在するGlcNの3位に結合したNPPOC基を脱離したガラス(31)を得た。
領域3のガラスを少々砕き玉尾酸化することにより選択的にNPPOCが脱離された化合物32を確認した。
化合物32:MALDI-TOF-MS, C37H56Cl3N3O13Na+ (M+Na)+の計算値:878.28, 実測値:878.4
【0058】
【化9】
【0059】
ガラス(31)の領域3に選択的にガラクトースを導入する。ガラス(31)にガラクトースドナー(20)(232.8mg)、モレキュラーシーブス4A(5g)を加え窒素雰囲気下、無水ジクロロメタン(6ml)を加え-15℃に冷却した。-15℃でTMSOTf(169μl)を加え、2時間振盪した。ガラスをクロロホルム、DMF、クロロホルムの順に洗浄し真空乾燥した。縮合時に切断されたBoc基の再導入のために、ガラスにDMF(10ml)、Boc2O(1ml)、飽和重曹水(1ml)を加え室温にて6時間振盪した。ガラスをアセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムにて洗浄後真空乾燥した。この再Boc化はもう一度同じ条件にて繰り返し、ガラス(33)を得た。
ガラス上の構造確認の為に、ガラス(33)の領域3を少々砕き玉尾酸化の条件にさらし切り出しを行い、MS(MALDI-TOF)を測定し目的物(34)を確認した。
化合物34:MALDI-TOF-MS, C71H88Cl3N3O19Na+ (M+Na)+の計算値:1414.50, 実測値:1414.5
【0060】
【化10】
【0061】
次は、未反応の水酸基をBz基にてキャッピングを行う。ガラス(33)にBz2O(500mg)、DMAP(50mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温にて1日振盪した。2N-塩酸水/アセトン、水、DMF、クロロホルムの順にガラスを洗浄し、真空乾燥した。このBzキャッピングを同条件で繰り返した。その後、GlcNの6位水酸基を選択的に脱保護する。ガラスに、20%TFA/ジクロロメタン(20ml)を加え30分間室温にて振盪した。反応液を除去した後、もう一度同じ反応を繰り返した。ガラスをクロロホルム、DMFの順に洗浄後、DMF(8ml)、PITC(4ml)、NMM(960μl)を加え、室温にて30分間振盪した。ガラスをDMF、クロロホルムの順に洗浄後、真空乾燥し、6位水酸基が選択的に脱保護されたガラスを得た。その後6位水酸基にNPPOCを導入した。ガラスにジクロロメタン(10ml)、NPPOC-OPNP(324mg)、DMAP(229mg)を加え室温にて1日振盪した。ガラスをアセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。このNPPOC化はもう一度同様に行い、ガラス(35)を得た。
構造確認のため、領域1のガラスを少々砕き玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの6位がNPPOC化された化合物36を確認した。
化合物36:MALDI-TOF-MS, C42H48Cl3N3O15Na+ (M+Na)+の計算値:962.20, 実測値:962.2
【0062】
【化11】
【0063】
実施例1D(Galβ1-6GlcN構造を構築する工程)
領域4に選択的にGalβ1-6GlcN構造を構築するために、領域4のみ6位水酸基を脱保護し、他の領域はBz基にてキャッピングする必要がある。まず、領域1,2,3に対して6位水酸基のBzキャッピングを行う。ガラス(35)をアセトニトリル10ml、水10mlの混合溶媒中に浸し、360nmの光(9.19 mW/cm2)を領域1,2,3のみに室温下30分照射した。水、アセトンの順にガラスを洗浄し、真空乾燥することにより、領域1,2,3に存在するGlcNの6位に結合したNPPOC基を脱離したガラスを得た。その後、ガラスにBz2O(500mg)、DMAP(50mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温にて1日振盪した。2N-塩酸水/アセトン、水、DMF、クロロホルムの順にガラスを洗浄し、真空乾燥した。このBzキャッピングを同条件で繰り返し、ガラス(37)を得た。
構造確認のため、領域1を玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの6位がBz化された化合物38を確認した。
化合物38:MALDI-TOF-MS, C39H43Cl3N2O12Na+ (M+Na)+の計算値:859.18, 実測値:859.5
【0064】
【化12】
【0065】
次は領域4に選択的に光を当て6位水酸基を脱保護させる。ガラス(37)をアセトニトリル10ml、水10mlの混合溶媒中に浸し、360nmの光(9.19 mW/cm2)を領域4にのみ室温下30分照射した。水、アセトンの順にガラスを洗浄し、真空乾燥することにより、領域4に存在するGlcNの6位に結合したNPPOC基を脱離したガラス(39)を得た。
領域4のガラスを少々砕き玉尾酸化することにより選択的にNPPOCが脱離された化合物40を確認した。
化合物40:MALDI-TOF-MS, C32H39Cl3N2O11Na+ (M+Na)+の計算値:755.15, 実測値:756.3
【0066】
【化13】
【0067】
ガラス(39)の領域4に選択的にガラクトースを導入する。ガラス(39)にガラクトースドナー(20)(232.8mg)、モレキュラーシーブス4A(5g)を加え窒素雰囲気下、無水ジクロロメタン(6ml)を加え-15℃に冷却した。-15℃でTMSOTf(169μl)を加え、2時間振盪した。ガラスをクロロホルム、DMF、クロロホルムの順に洗浄し真空乾燥し、各領域を作り分けたガラス(41)を得た。
【0068】
各領域のガラスを少々砕き玉尾酸化することによりそれぞれ選択的に目的の構造が合成できていることを確認した。領域1から化合物42(目的の単糖)、領域2から化合物43(目的の2糖(Galβ1-4GlcN))、領域3から化合物44(目的の2糖(Galβ1-3GlcN))、領域4から化合物45(目的の2糖(Galβ1-6GlcN))を得た。
化合物42:MALDI-TOF-MS, C39H43Cl3N2O12Na+ (M+Na)+の計算値:859.18, 実測値:859.7
化合物43:MALDI-TOF-MS, C66H71Cl3N2O17Na+ (M+Na)+の計算値:1291.37, 実測値:1292.5
化合物44:MALDI-TOF-MS, C66H71Cl3N2O17Na+ (M+Na)+の計算値:1291.37, 実測値:1291.7
化合物45:MALDI-TOF-MS, C66H71Cl3N2O17Na+ (M+Na)+の計算値:1291.37, 実測値:1291.8
【0069】
【化14】
【0070】
以上の結果より、本発明の手法を用いると構造の異なる糖鎖をビルドアップ的に基板上に合成できることがわかる。
すべての工程をMSにより追跡できた事、及び特許文献1及び2記載の方法により、Y基を用いた重合度の減少による水酸基の連続的脱保護は、選択的に進行することが証明されている事から、目的の領域に目的の化合物が合成できていることは確かであるが、念のため標品を用いたHPLCの保持時間の比較を行った。
領域2,3,4を玉尾酸化することにより得られる3種類の2糖、化合物(43)(Galβ1-4GlcN)、化合物(44)(Galβ1-3GlcN)、化合物(45)(Galβ1-6GlcN)に対して、メタノール中、NaOMeを作用してそれぞれ化合物(46)、(47)、(48)を得た。別途用意したこれら3種と同じ構造の化合物標品と、HPLCの保持時間を比較した。C-18HPLCカラムを用い、1ml/minの流速で流し、215nmでのUV吸収を検出した。最初アセトニトリル:水=30:70で10分流し、10分後直ちに40:60に変更した。その後50分かけて50:50に変わるようグラジェントをかけた。標品の保持時間は化合物(46)、(47)、(48)それぞれ46.232分、45.572分、40.230分であるのに対し、各領域から得られた2糖由来のピークはそれぞれ45.700分、45.023分、39.510分であり、正確に各結合が合成できていることが証明された。
【0071】
【化15】
【0072】
実施例2(レクチンによりガラス表面糖鎖が認識されることの確認)
ビルドアップ的に合成した糖鎖がレクチンにより認識されることを以下のようにして証明した。
リンカーを導入したガラス(49)に対し、実施例1に記載した方法に従いNPPOCを導入し、その後未反応のOH基をBzでキャッピングを行いガラス(50)を得た。そこに、星形に光を当てることにより星形にNPPOCが脱離し、星形に水酸基が脱保護されたガラス(51)を得た。
そこにガラクトースドナー(52)を縮合した。ガラス(51)(50mg)にガラクトースドナー(52)(10mg)、NIS(10mg)を加え窒素雰囲気下、無水ジクロロメタンを加え-30℃に冷却した。そこにTfOH(4μl)を加え、-30℃で1日振盪した。ガラスを飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液/アセトン、水、メタノール、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥することによりガラス(53)を得た。すべての保護基を脱保護するために、ガラス(53)にメタノール(1ml)を加え、NaOMeをpH11になるまで加えた後、室温にて1日振盪した。ガラスを水、2N−塩酸水、水、DMF、クロロホルムの順に洗浄し真空乾燥することによりガラス(54)を得た。
【0073】
ガラス(54)を1%PBSに浸し15分振盪した。溶液を除去した後、1%BSA入り1%PBS溶液(1%BSA/PBS)に浸し6℃にて12時間振盪した。溶液を除去した後、ビオチン化されたRCA120レクチン(50μl、10μg/ml)でガラスを覆い4時間室温にて軽く振盪した。溶液を除去した後、1%PBS溶液を加え軽く5分間振盪、その後溶液を除去するという洗いの操作を3回繰り返した。
溶液を除去したガラスにアビジン化されたAlexaFluor488(登録商標)(0.1mg)/(1%BSA/PBS(800μl))で覆い2時間室温にて軽く振盪した。溶液を除去した後上記洗いの操作を3回繰り返した。ガラスの蛍光を蛍光スキャナーで観察した。532nmレーザーを用い励起させ、蛍光フィルターとして526nmのバンドパスフィルターを用いて観察した結果、図17のように星形に光った。つまり、星形に光を当てて光切断保護基を脱離した所にガラクトースが導入され、その導入されたガラクトースをレクチンが認識したためである。これによりビルドアップ的にガラス上で合成した糖鎖をレクチンが認識可能であることが証明できた。
【0074】
【化16】
【0075】
実施例3(光切断保護基としてW(Z)基を使用した例)
実施例1では光切断保護基としてW基を直接水酸基に結合させていたが、この実施例では光切断保護基としてW(Z)基でも可能であることを示す。
リンカーを導入したガラス(55)(5.59g、水酸基のローディング = 0.01652 mmol/g)に光切断保護基を持たないグルコサミン誘導体ドナー(56)(509mg)、モレキュラーシーブス4A(5g)、NIS(249g)を入れ窒素雰囲気下、無水ジクロロメタン(5ml)を入れ、−30℃に冷却した。−30℃にてTfOH(98μl)を入れそのまま1日振盪した。ガラスをDMF、チオ硫酸ナトリウム水溶液/アセトン、水、DMFの順で洗浄した。このガラスにDMF(12ml)、Boc2O(1ml)、飽和重曹水(1ml)を加え室温にて12時間振盪した。ガラスをDMF/水、DMF、クロロホルムの順で洗浄し真空乾燥し、ガラス(57)を得た。
ガラスに結合した化合物の構造確認の為に、ガラス(57)を少々砕き玉尾酸化の条件にさらし切り出しを行い、MS(MALDI-TOF)を測定し目的物(58)を確認した。目的通りグルコサミン誘導体がガラス上に導入された。
化合物58:MALDI-TOF-MS, C71H109Cl3N6O19Na+ (M+Na)+の計算値:1477.67, 実測値:1478.0
【0076】
【化17】
【0077】
ガラス(57)の未反応の水酸基をBz基にてキャッピングを行った。ガラス(57)にBzOH(750mg)、DIC(900μl)、DMAP(12mg)、ジクロロメタン(12ml)を加え6℃にて12時間振盪した。クロロホルム、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し真空乾燥した。次は、6位水酸基を選択的に脱保護するためにY基の重合度を1つずつ減少させる。この操作により6位水酸基が選択的に脱保護されると共に、3位水酸基の2つのY基が1つだけ脱離する。Bzキャッピングしたガラスに、20%TFA/ジクロロメタン(20ml)を加え30分間室温にて振盪した。反応液を除去した後、もう一度同じ反応を繰り返した。ガラスをクロロホルム、DMFの順に洗浄後、DMF(8ml)、PITC(4ml)、NMM(960μl)を加え、室温にて30分間振盪した。ガラスをDMF、クロロホルムの順に洗浄後、20%TFA/ジクロロメタン(20ml)を加え30分間室温にて振盪した。反応液を除去した後、もう一度同じ反応を繰り返した。ガラスをクロロホルム、DMFの順に洗浄後、DMF(8ml)、Boc2O(800μl)、飽和重曹水(800μl)を加え、室温にて12時間振盪した。ガラスをDMF/水、DMF、クロロホルムの順に洗浄し真空乾燥し、ガラス(59)を得た。
構造確認のため、ガラスを少々砕きピリジン(1ml)、無水酢酸(500μl)を加え室温にて3時間振盪し、DMF、クロロホルムの順に洗浄した後、玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの6位がAc化され(選択的に脱保護された6位水酸基にアセチル基が選択的に導入された)、3位が1重合のY基により保護された化合物60を確認した。
化合物60:MALDI-TOF-MS, C54H77Cl3N4O16Na+ (M+Na)+の計算値:1165.43, 実測値:1166.3
【0078】
【化18】
【0079】
ガラス(59)((i)1.160g、(ii)1.174g)にそれぞれ(i)NPPOC-UCHP(54mg)、(ii)NPPOC-Gly(66mg)を加えジクロロメタン((i)1.5ml、(ii)1.5ml)を加えた。そこにDIC((i)48μl、(ii)72μl)を加え6℃に冷却した後、DMAP((i)5mg、(ii)7mg)を加え、6℃で12時間振盪した。それぞれのガラスをクロロホルム、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗い、真空乾燥しガラス(61、62)を得た。構造確認のため、ガラスをそれぞれ少々砕きピリジン(1ml)、無水酢酸(500μl)を加え室温にて2時間振盪し、DMF、クロロホルムの順に洗浄した後、玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの6位にNPPOC-UCHP及びNPPOC-Glyがそれぞれ導入された化合物63,64を確認した。
化合物63:MALDI-TOF-MS, C69H97Cl3N6O20Na+ (M+Na)+の計算値:1457.57, 実測値:1457.6
化合物64:MALDI-TOF-MS, C64H87Cl3N6O20Na+ (M+Na)+の計算値:1387.49, 実測値:1388.0
【0080】
【化19】
【0081】
ガラス(61)及び(62)それぞれに光を当て6位水酸基の選択的脱保護を検討した。
それぞれのガラスをTHF/水(10ml/10ml)に浸し、PITC(120μl)を加えしばらく振盪した後、360nm(8.6 mW/cm2)の光を室温にて30分間照射した。その後、水、アセトン、DMFの順にガラスを洗浄し、DMF(1.5ml)、PITC(500μl)、NMM(120μl)を加え室温にて30分間振盪した。ガラスをDMF、アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し真空乾燥することによりガラス(65)とガラス(66)をそれぞれ得た。
ガラス上の構造確認の為に、それぞれのガラスを少々砕き、構造確認を行った。ガラス(65、66)はそれぞれ玉尾酸化し、MSを測定した。その結果両方から同じ目的物(67、68)をそれぞれ確認した。ガラス(65)においては、念のため、遮光した部分のガラスを玉尾酸化の条件にさらし切り出しを行い、MS(MALDI-TOF)を測定した所、未反応体である化合物(63)を確認した。
化合物67:MALDI-TOF-MS, C52H75Cl3N4O15Na+ (M+Na)+の計算値:1123.42, 実測値:1123.4
化合物68:MALDI-TOF-MS, C52H75Cl3N4O15Na+ (M+Na)+の計算値:1123.42, 実測値:1123.7
化合物63:MALDI-TOF-MS, C69H97Cl3N6O20Na+ (M+Na)+の計算値:1457.57, 実測値:1458.0
【0082】
【化20】
【0083】
以上の結果より、W(Z)基でも光により選択的に切断可能であり、本発明に使用可能であることがわかる。
【0084】
実施例4
光切断保護基W基の種類を検討した。
水酸基に対して光切断保護基として、Aqmoc基、NPPOC基、MNPPOC基を導入し、光により切断されるか検討した。3,4位水酸基が脱保護されたGal(69)に対してそれぞれの光切断保護基を導入し化合物70,71,72を得た。これらに各種溶媒中太陽光を照射して反応をTLCで追跡した。結果、いずれにおいてもTHF/水=1/1の溶液中で反応させると定量的に脱保護でき、化合物73を与える事が判明し、このような光切断保護基が本発明に使用可能である事がわかる。
ここで、compound:化合物、solvent:溶媒、product:生成物、by-product:副生成物、no solvent:溶媒なし、50% aq THF:50%THF水溶液、CH2Cl2:ジクロロメタン、2% DBU in CH2Cl2:2%DBU含有ジクロロメタン、2% DIPEA in CH2Cl2:2%DIPEA含有ジクロロメタン、CH3CN:アセトニトリル、1,4-dioxane:1,4−ジオキサン、50% aq MeOH:50%メタノール水溶液を示す。
【0085】
【化21】
【0086】
実施例5
分岐を有する4糖を合成した例
リンカーが結合したガラス(74)3.75g(ローディング0.0347mmol/g)に、ガラクトースドナー(75)(413mg)、NIS(263.7mg)、モレキュラーシーブス4A(2g)、脱水ジクロロメタン(6ml)を加え、−30℃に冷却した。−30℃にてTfOH(103.7μl)を加え、そのまま−30℃で3時間振盪した。DMF、チオ硫酸ナトリウム水溶液/アセトン、水、DMFで洗浄後、DMF(10ml)、Boc2O(1ml)、飽和重曹水(1ml)を加え室温にて6時間振盪した。水/DMF、DMFで洗浄後、もう一度同じようにBoc化を行った。構造確認のため、ガラスを少々砕き玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、目的の化合物77を確認した。
化合物77:MALDI-TOF-MS, C63H81N3O16Na+ (M+Na)+の計算値:1158.55, 実測値:1158.9
【0087】
【化22】
【0088】
未反応の水酸基をベンゾイルキャッピングする為に、ガラス(76)にBzOH(500mg)、DIC(600μl)、ジクロロメタン(10ml)を加えた後、6℃にてDMAP(8mg)を加え、そのまま6℃で12時間振盪した。ガラスを水/アセトン、DMF、クロロホルムにて洗浄後、真空乾燥した。乾燥したガラスに、20%ピペリジン/DMF(10ml)を加え室温にて30分間振盪した。DMFで洗浄後、DMF(7.5ml)、PITC(2.5ml)、NMM(600μl)を加え室温にて30分間振盪した。ガラスをDMF、アセトン、アセトン/水、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。乾燥したガラスに、ピリジン(10ml)、NPPOC-OPNP(225mg)、DMAP(32mg)を加え室温にて1日振盪した。2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。乾燥したガラスにもう一度同じようにNPPOC化を行った。構造確認の為にガラスを少々砕き玉尾酸化を行い、3位水酸基にNPPOCが導入された化合物79を確認した。
化合物79:MALDI-TOF-MS, C51H67N3O17Na+ (M+Na)+の計算値:1016.44, 実測値:1016.6
【0089】
【化23】
【0090】
ガラス(78)に十字の傷を付け、下記のように4つの領域に分割した。それぞれ、領域1,領域2,領域3,領域4と呼ぶ。領域1はGal(ガラクトース)単糖、領域2はGalβ1-3Gal2糖、領域3はGlcNβ1-4Gal2糖、領域4はGalβ1-4Glcβ1-4(Galβ1-3)Gal4糖(分岐あり)を作り分ける。
【0091】
【化24】
【0092】
ガラス(78)の領域1および3を露光する。ガラス(78)をTHF/水(10ml/10ml)に浸し、領域1および3に360 nmのUV光(9.19 mW/cm2)を30分間照射した。得られたガラスは水、アセトンの順に洗浄後真空乾燥しガラス(80)を得た。構造確認の為、領域1のガラスを少々砕き玉尾酸化し、3位NPPOCが選択的に除去された化合物81を確認した。
化合物81:MALDI-TOF-MS, C41H58N2O13Na+ (M+Na)+の計算値:809.38, 実測値:810.0
【0093】
【化25】
【0094】
ガラス(80)にBz2O(600mg)、DMAP(400mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温で12時間振盪した。アセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。このBz化はもう一度同じように繰り返した。Bz化を行ったガラスをTHF/水(10ml/10ml)に浸し、領域2および4に360 nmのUV光(9.19 mW/cm2)を30分間照射した。得られたガラスは水、アセトンの順に洗浄後真空乾燥しガラス(82)を得た。構造確認の為、領域1および領域2のガラスを少々砕き玉尾酸化し、領域1から化合物83、領域2から化合物84を確認した。
化合物83:MALDI-TOF-MS, C48H62N2O14Na+ (M+Na)+の計算値:913.41, 実測値:913.3
化合物84:MALDI-TOF-MS, C41H58N2O13Na+ (M+Na)+の計算値:809.38, 実測値:809.3
【0095】
【化26】
【0096】
ガラス(82)の領域2および4のガラクトースの3位水酸基に2糖目のガラクトースを導入する。ガラス(82)にガラクトースドナー(85)(389mg)、モレキュラーシーブス4A(5g)、脱水ジクロロメタン(6ml)を加え−15℃に冷却した。そこに、TMSOTf(283μl)を加え、−15℃で2時間振盪した。ガラスをクロロホルム、DMF、DMF/飽和重曹水の順に洗浄した。得られたガラスに、DMF(10ml)、Boc2O(1ml)、飽和重曹水(1ml)加え、室温にて6時間振盪した。DMF/水、DMF、クロロホルムの順に洗浄した後、もう一度同じようにBoc化の反応を行った。得られたガラスにBz2O(600mg)、DMAP(400mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温で12時間振盪した。アセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。このBz化はもう一度同じように繰り返し、ガラス(86)を得た。構造確認の為、領域2のガラスを少々砕き玉尾酸化し、2糖化合物87を確認した。
化合物87:MALDI-TOF-MS, C75H90N2O19Na+ (M+Na)+の計算値:1345.60, 実測値:1345.7
【0097】
【化27】
【0098】
ガラス(86)にジクロロメタン(16ml)、TFA(4ml)を加え、室温にて30分間振盪した。反応液を除去した後、もう一度同じ反応を繰り返した。クロロホルム、DMFの順にガラスを洗浄後、DMF(8ml)、PITC(4ml)、NMM(960μl)加え、室温にて30分間振盪した。ガラスをDMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥する事により4位水酸基を脱保護したガラス(88)を得た。構造確認の為、領域1と2のガラスを少々砕きそれぞれ玉尾酸化し、領域1から化合物89を、領域2から化合物90を確認した。
化合物89:MALDI-TOF-MS, C36H41NO11Na+ (M+Na)+の計算値:686.26, 実測値:686.2
化合物90:MALDI-TOF-MS, C63H69NO16Na+ (M+Na)+の計算値:1118.45, 実測値:1118.3
【0099】
【化28】
【0100】
ガラス(88)にジクロロメタン(10ml)、NPPOC-OPNP(271mg)、DMAP(191mg)を加え室温にて12時間振盪した。反応液を除去し、アセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順にガラスを洗浄後、真空乾燥した。得られたガラスにもう一度同じ操作を繰り返し行い、4位水酸基にNPPOC基が導入されたガラス(91)を得た。構造確認の為、領域1のガラスを少々砕き玉尾酸化し、目的の化合物92を確認した。
化合物92:MALDI-TOF-MS, C46H50N2O15Na+ (M+Na)+の計算値:893.31, 実測値:893.3
【0101】
【化29】
【0102】
ガラス(91)の領域1および2を露光する。ガラス(91)をTHF/水(10ml/10ml)に浸し、領域1および2に360 nmのUV光(9.19 mW/cm2)を30分間照射した。水、アセトンの順に洗浄後真空乾燥した。得られたガラスに、Bz2O(600mg)、DMAP(400mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温で12時間振盪した。アセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。このBz化はもう一度同じように繰り返しガラス(93)を得た。構造確認の為、領域1および領域2のガラスを少々砕き玉尾酸化し、領域1から化合物94、領域2から化合物95を確認した。
化合物94:MALDI-TOF-MS, C43H45NO12Na+ (M+Na)+の計算値:790.28, 実測値:790.3
化合物95:MALDI-TOF-MS, C70H73NO17Na+ (M+Na)+の計算値:1222.48, 実測値:1222.5
【0103】
【化30】
【0104】
ガラス(93)の領域3を露光する。ガラス(93)をTHF/水(10ml/10ml)に浸し、領域3に360 nmのUV光(9.19 mW/cm2)を30分間照射した。水、アセトンの順に洗浄後真空乾燥し、ガラス(96)を得た。構造確認の為、領域3のガラスを少々砕き玉尾酸化し、化合物97を確認した。
化合物97:MALDI-TOF-MS, C36H41NO11Na+ (M+Na)+の計算値:686.26, 実測値:687.0
【0105】
【化31】
【0106】
ガラス(96)の領域3のガラクトースの4位水酸基に、2糖目としてグルコサミンを導入する。ガラス(96)にグルコサミンドナー(98)(198mg)、NIS(176mg)、モレキュラーシーブス4A(2g)、脱水ジクロロメタン(8ml)を加え−30℃に冷却した。そこに、TfOH(69μl)を加え、−30℃で3時間振盪した。ガラスをクロロホルム、DMF、チオ硫酸ナトリウム水溶液/アセトン、水、DMF、クロロホルムの順に洗浄後、真空乾燥しガラス(99)を得た。構造確認の為、領域3のガラスを少々砕き玉尾酸化し、2糖化合物100を確認した。
化合物100:MALDI-TOF-MS, C66H65Cl3N2O20Na+ (M+Na)+の計算値:1333.31, 実測値:1334.0
【0107】
【化32】
【0108】
ガラス(99)にBz2O(600mg)、DMAP(400mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温で12時間振盪した。アセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。このBz化はもう一度同じように繰り返した。得られたガラスをTHF/水(10ml/10ml)に浸し、領域4に360 nmのUV光(9.19 mW/cm2)を30分間照射した。水、アセトンの順に洗浄後真空乾燥し、ガラス(101)を得た。構造確認の為、領域4のガラスを少々砕き玉尾酸化し、化合物102を確認した。
化合物102:MALDI-TOF-MS, C63H69NO16Na+ (M+Na)+の計算値:1118.45, 実測値:1118.7
【0109】
【化33】
【0110】
ガラス(101)の領域4の1糖目のガラクトース4位水酸基に、ラクトースを導入する。ガラス(101)にラクトースドナー(103)(303mg)、NIS(176mg)、モレキュラーシーブス4A(5g)、脱水ジクロロメタン(6ml)を加え−30℃に冷却した。そこに、TfOH(69μl)を加え、−30℃で3時間振盪した。ガラスをクロロホルム、DMF、チオ硫酸ナトリウム水溶液/アセトン、水、DMF、クロロホルムの順に洗浄後、真空乾燥しガラス(104)を得た。構造確認の為、領域4のガラスを少々砕き玉尾酸化し、4糖化合物105を確認した。
化合物105:MALDI-TOF-MS, C124H117NO33Na+ (M+Na)+の計算値:2170.74, 実測値:2172.4
【0111】
【化34】
【0112】
以上の結果より、領域1にはガラクトース単糖(化合物94)、領域2にはGalβ1-3Gal(化合物95)、領域3にはGlcNβ1-4Gal(化合物100)、領域4にはGalβ1-4Glcβ1-4(Galβ1-3)Gal(化合物105)が選択的に合成できることがわかる。 ここで、領域4においては、基板上の3位水酸基に対してガラクトースドナー(85)を導入し、まず、Galβ1-3Gal2糖を得、その後この2糖をアクセプターとして使用し、これに、ラクトースドナー(103)を導入して4糖を合成している。
つまり、第1のアクセプターに第1のドナーを縮合させて第1の生成物を得、これを第2のアクセプターとし、これに第2のドナーを縮合させて第2の生成物を得る、という工程を順次必要な回数実施することにより、一枚の基板上で分岐構造及び/又は直鎖構造を有するコンビナトリアルライブラリーを効率よく合成することができる。
【0113】
実施例6
実施例1においてガラスの代わりに、板状PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の表面に真空紫外光(VUV)を照射した後、APTES(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)処理により表面にアミノ基を導入した樹脂基板を用いても、同様に基板上での糖鎖の作り分けが可能であった。
【0114】
実施例7
実施例1のグルコサミンドナー(15)において、3位水酸基の保護基を、Bocで保護された1重合のY基(-[(CH3CH2)2CH]N-CH2-CO-)に代えて、Bu4NFで選択的に脱保護可能なTBDMS基(tert-butyldimethylsilyl group: ターシャリー−ブチルジメチルシリル基)にし、6位水酸基の保護基をBocで保護された2重合のY基(-[(CH3CH2)2CH]N-CH2-CO-)に代えて、DDQで選択的に脱保護可能なPMB基(p-methoxybenzyl group: パラメトキシベンジル基)にしたドナーを用いても同様に基板上での糖鎖の作り分けが可能であった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、2以上の水酸基を有する化合物、典型的には糖類のコンビナトリアルライブラリーの合成方法に関し、さらに詳細には、2以上の水酸基を有する化合物の基板上でのビルドアップ型コンビナトリアルライブラリー合成方法および該ライブラリーを含む基板に関する。特に、病気や、毒素の診断薬・検査薬としてのニーズが高い糖鎖チップ等を作製するのに有用な化合物ライブラリーの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病気や、各種毒素には糖鎖を認識するものがある。それらを迅速に検査する為には、各種糖鎖が基板上に結合している糖鎖チップを用いるのが迅速でかつ高感度であると考えられる。既にDNAチップは市販されており、研究・診断に用いられている。更にペプチド(プロテイン)チップも研究が盛んに行われている。しかし、その複雑な構造ゆえ現在においても満足のいく糖鎖チップは存在していない。
【0003】
現存するすべての糖鎖チップは天然から単離精製した糖鎖や、それを酵素処理したものや、単純な糖の有機合成品などを基板に結合させることにより作製されている。これらの糖鎖チップ上の糖鎖は数十種類程度で、より多種類の糖鎖を基板上に結合させる事が望まれている。多種類の糖鎖構造を有する糖鎖チップを作製する為には、まずは必要な数の糖鎖を調達する必要がある。糖鎖は複雑に分岐を有する構造で、有機合成するのも容易ではなく、従来の技術により数百ないし数千種類もの糖鎖を合成することは、事実上不可能である。また、もし仮に合成できたとしても、コストが非常にかかり、実用的ではない。現在のDNAチップ作製法は基板上でのDNA合成手法であるアフィメトリクス法と、既に作製したDNAを基板に結合させるスタンフォード法に2分される。ビルドアップ的に基板上で合成するチップは低価格化・集積化等に優れており、糖鎖チップにおいても基板上での合成が期待されている。しかし、今までに、基板上でビルドアップ的に糖鎖を合成し、糖鎖チップを作製した例はない。
【0004】
多数の水酸基を有する化合物(特に糖質、複合糖質、それらの誘導体又は類縁体)のコンビナトリアルライブラリー合成は未だ達成されていない未開の領域である。それはひとえに同じような反応性を持つ水酸基を選択的に脱保護させる技術、特にコンビナトリアルライブラリー合成に最適化された水酸基の保護基の技術が存在していない為である。多くの従来の技術では様々な種類の保護基を適宜用いて、その反応性の違いを利用して目的の保護基のみを選択的に脱離させていたが、この様な手法では、コンビナトリアルライブラリー合成は現実的には不可能である。
【0005】
これを可能にする唯一の技術として、特定の保護基Yを用いた方法(以下「Y法」という)が挙げられる(特許文献1及び2)。Y法を用いれば、単にY基の重合度を変えるだけで無限の水酸基を選択的に脱保護させる事が出来る。
特許文献1及び2記載の方法は、重合度の異なる保護基により多くの水酸基を保護し、重合度の違いにより脱保護する順番を決定し、選択的に目的の水酸基を脱保護させることができるという手法である。それにより、樹脂ビーズ上で糖鎖ライブラリーを構築することができる。
しかし、この手法を基板上でのコンビナトリアルライブラリー合成に適応しようとすると、次のような問題があった。すなわち、基板のある部位のみに選択的に反応させる事が必要である為、当然、光による制御が必要になってくるが、光による反応を特許文献2記載の方法に組み合わせると非常に長い反応段階が必要になるということである。
【0006】
特許文献2記載の方法を用いて基板上でビルドアップ的に糖鎖を合成する手法を図1に示す。
図1において、特許文献2記載の方法の典型的な構造として、糖の水酸基がA−Y、A−YY(Aは酸性、遷移金属又は遷移金属有機錯体、光分解、又は酵素により脱離可能な保護基を示す。Yは−NR1−CR2R3−CO−、R1は炭素数1〜6のアルキル基又は水素原子、R2及びR3は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜20のアルケニル基、炭素数6〜7のアリール基、又は炭素数7〜20のアリールアルキル基であり、同一でも異なっていても良い。)により保護された、(1)の構造を有する糖が表面に結合したガラスを想定する。Aはここでは酸性条件で脱離可能なBoc基(ターシャリー−ブトキシカルボニル基)とし、Yを−[(CH3CH2)2CH]N−CH2−CO−とする。RはAの脱離する条件及び、光反応・PITC化反応・TFA処理反応・再Boc化反応・縮合反応で脱離しない保護基、例えばBz基(ベンゾイル基)またはBn基(ベンジル基)とする。
【0007】
基板上のある特定の位置に存在する水酸基を選択的に脱保護させる為には、光により反応する保護基を用いるのが一般的である。そこで、酸性条件で切断できるBoc基を光により切断しようとする場合、光を当てると酸を発生する光酸発生剤が必要になる。この光酸発生剤を基板にコートしてから目的の部位に選択的に光を当て、酸を発生させ、Boc基を切断する。Boc基が切断されたら、その後はYの重合度を減少させる操作を行う。
まずはPITC(フェニルイソチオシアネート)を反応させ、次にTFA(トリフルオロ酢酸)により2重合を1重合に変換し(すなわち、YYをYに)、同時に1重合のYを除去し水酸基を脱保護する。最後に再Boc化を行い一連の反応を終了し基板(3)を得る。ここで選択的に脱保護された水酸基に次の糖を縮合させる。ここではGalを導入し、部位特異的にGalが導入された基板(4)を得る。
この操作を繰り返すことにより、基板の部位特異的に構造の異なる糖鎖を組み上げる(ビルドアップする)ことができる。しかし、1種類の糖を導入するのに、1.光によるBoc基の切断、2.PITC化、3.TFA処理、4.再Boc化、5.縮合、と5段階を必要とする。仮に異なる5種類の糖を導入しようとすると、5×5で25段階が必要であり、非常に多段階を必要とする。従って、この方法は、糖の種類を増やしていったときには実現が極めて困難となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4102263号
【特許文献2】特開2008−201686
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特許文献2記載の技術上の問題点を改良し、基板上での糖鎖合成をより実現可能なものにしようとするものである。
すなわち、本発明の目的は、2以上の水酸基を有する化合物を基板上でビルドアップ的に合成してコンビナトリアルライブラリーを合成する方法を提供することである。
本発明の他の目的は、糖類をビルドアップ的に合成して糖鎖チップ等を作製する方法を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、病気や、毒素の診断薬・検査薬としてのニーズが高い糖鎖チップ等の基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下に示す化合物ライブラリーの合成方法及びこれを含む基板を提供するものである。
1.基板上に結合した、少なくとも2個の水酸基を有する化合物であって、そのすべての水酸基が、脱保護条件が相互に異なる少なくとも2種の保護基からなる群から選ばれる保護基で保護された化合物をアクセプターとして用い、該保護基を選択的に脱保護し、脱保護された水酸基に所望のドナー又はキャッピング基を選択的に導入して一枚の基板上でビルドアップ型コンビナトリアルライブラリーを合成する方法において、
(1)第1の保護された水酸基を選択的に脱保護する工程、
(2)脱保護された水酸基に、W基もしくはW(Z)基(Wは光分解により脱離可能な保護基を示し、ZはW基が脱離する光分解の条件でW基と同時に脱保護される基、もしくはW基が脱離する事により、活性化(もしくは不安定化)され、選択的に除去可能になる基を示す)を導入する工程、
(3)基板をn個(nは1以上の整数)の部位に分割し、該基板の第1の部位を選択的に露光し、露光部のW基もしくはW(Z)基を選択的に脱保護し、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第1のドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程、
(4)nが2以上の整数である場合、工程(3)を第2の部位から所望の第nの部位まで繰り返し、各部位において、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第2のドナー又はキャッピング基ないし所望の第nのドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程、
(5)第2の保護された水酸基について、工程(1)から(4)を繰り返し、第2の保護された水酸基を脱保護し、脱保護された水酸基に、W基もしくはW(Z)基を導入し、基板をn個(nは1以上の整数)の部位に分割し、該基板の第1の部位を選択的に露光し、露光部のW基もしくはW(Z)基を選択的に脱保護し、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第1のドナー又はキャッピング基を選択的に導入し、上記工程を第2の部位から所望の第nの部位まで繰り返し、各部位において、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第2のドナー又はキャッピング基ないし所望の第nのドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程、
(6)必要により、工程(5)を所望の、保護された水酸基について繰り返し、各水酸基の各部位において、選択的に脱保護された水酸基に、第1ないし第nのドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程を含み、
工程(1)〜(6)において、繰り返して使用する、W基もしくはW(Z)基、基板の分割部位の数n、ドナー又はキャッピング基は、同一でも異なっていても良い、
ことを特徴とする、ビルドアップ型コンビナトリアルライブラリー合成方法。
2.アクセプターの水酸基の保護基がA(Y)m基(Aは酸性、塩基性、遷移金属又は遷移金属有機錯体、光分解、又は酵素により脱離可能な保護基を示す。Yは−NR1−CR2R3−CO−、R1は炭素数1〜6のアルキル基又は水素原子、R2及びR3は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜20のアルケニル基、炭素数6〜7のアリール基、又は炭素数7〜20のアリールアルキル基であり、同一でも異なっていても良く、mはYの重合度を示し、1以上の整数であり、mが2以上の整数の場合、各Y中のR1、R2、R3は、相互に同一でも異なっていても良い。)である上記1記載の方法。
3.第1の保護された水酸基を選択的に脱保護する工程が、A(Y)m基のY基中の酸アミド結合をN末端側から逐次切り離す方法により重合度の小さなY基を選択的に脱保護する工程を含む上記2記載の方法。
4.アクセプターの1個の水酸基の保護基がV基(Vは塩基性、酸化剤、フッ素化合物、光分解、又は酵素により脱離可能な保護基を示す。)であり、他の少なくとも1個の水酸基の保護基がA(Y)m基(Aは酸性、塩基性、遷移金属又は遷移金属有機錯体、光分解、又は酵素により脱離可能な保護基を示す。ただし、AがVと同一であることはなく、Vの脱離条件でAが脱離することはない。)であり、第1の保護された水酸基がV基で保護された水酸基である上記1又は2記載の方法。
5.ドナーがA(Y)m基により保護された少なくとも1個の水酸基を含み、工程(1)〜(6)を繰り返すことを特徴とする上記1〜4のいずれか1項記載の方法。
6.ドナーがV基により保護された少なくとも1個の水酸基を含む上記1〜5のいずれか1項記載の方法。
7.アクセプターが糖である上記1〜6のいずれか1項記載の方法。
8.保護基AがBoc基であり、保護基WがNPPOC基である上記1〜7のいずれか1項記載の方法。
9.アクセプターが、リンカーを介して基板に固定されている上記1〜8のいずれか1項記載の方法。
10.基板が、ガラスである上記1〜9のいずれか1項記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複雑な構造の化合物ライブラリー、特に糖鎖ライブラリーを簡単に、かつ正確、短工程で基板上で作り分けることが可能である。従って、一枚の基板上に構造の異なる数百〜数千の糖鎖を少ない工程数で正確かつ効率よく構築することが現実的に可能である。
本発明により製造された、化合物ライブラリーが結合した基板(具体的には糖鎖チップ)は、生物を扱うすべての分野に利用可能である。例えば、病気や、毒素の診断薬・検査薬等として極めて有用である。
糖鎖は遺伝子、蛋白質に継ぐ第3の生命鎖として重要であり、DNAチップ、プロテインチップに次ぐ糖鎖チップは生命科学に必須なツールである。本発明(基板上でのビルドアップ的糖鎖チップ作製手法)により、第3の生命鎖として重要な糖鎖を、基板上で効率よく作製することができると共に、様々な構造の糖鎖機能を一度に解析可能なツールである糖鎖チップを提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】特許文献2記載の方法の概要を示すスキームである。
【図2】本発明の方法の概要を示すスキームである。
【図3】基板に結合した3つの水酸基を有する化合物(各水酸基はそれぞれ脱離条件の違う保護基により保護されている)と、その置換基を示す模式図である。
【図4】それぞれ保護された、3つの水酸基を有する丸囲み数字1の化合物(例えばGal)の保護基Aを脱保護した後、光切断保護基(星印)を導入して得られた基板の模式図を示す。ここでは基板に均一に同じ化合物が存在する。
【図5】図4の基板の左1/3を露光し、元々Aで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこにキャッピング基を選択的に導入しキャッピングを行った基板の模式図を示す。
【図6】図5の基板の中央1/3を露光し、元々Aで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこに丸囲み数字2の化合物(例えばGlc)を選択的に導入した基板の模式図を示す。
【図7】図6の基板の右1/3を露光し、元々Aで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこに四角囲み数字3の化合物(例えばGlcNAc)を選択的に導入した基板の模式図を示す。
【図8】図7の基板の保護基Bを脱保護し、光切断保護基(星印)を導入して得られた基板の模式図を示す。
【図9】図8の基板を横方向に3分割し、まず下1/3を露光し、元々Bで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこにキャッピング基を選択的に導入しキャッピングを行った基板の模式図を示す。
【図10】図9の基板の中央1/3を露光し、元々Bで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこに丸囲み数字2の化合物(例えばGlc)を選択的に導入した基板の模式図を示す。
【図11】図10の基板の上1/3を露光し、元々Bで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこに四角囲み数字3の化合物(例えばGlcNAc)を選択的に導入した基板の模式図を示す。
【図12】図11の基板の保護基Cを脱保護し、光切断保護基(星印)を導入した基板の模式図を示す。
【図13】図12の基板を3分割し、3区分の各区分の左1/3を露光し、元々Cで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこにキャッピング基を選択的に導入しキャッピングを行った基板の模式図を示す。
【図14】図13の基板の3区分の各区分の中央1/3を露光し、元々Cで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこに丸囲み数字2の化合物(例えばGlc)を選択的に導入した基板の模式図を示す。
【図15】図14の基板の3区分の各区分の右1/3を露光し、元々Cで保護されていた部位の水酸基を脱保護し、そこに四角囲み数字3の化合物(例えばGlcNAc)を選択的に導入した基板の模式図を示す。
【図16】以上の手順により複雑な構造の種々の化合物(例えば糖鎖)(27種類:順列組み合わせで可能な全構造)が形成された基板の模式図を示す。
【図17】実施例2で作製したガラスの蛍光スキャナーによる観察結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
特許文献2記載の方法によれば、重合度の異なる保護基により基板上に存在する水酸基を保護した後、重合度の違いを利用して選択的に目的の水酸基を脱保護させる。ここで脱保護される水酸基は多数ある水酸基の中の特定の水酸基であるが、基板の部位による差はない。その後、特許文献2記載の方法では、次の糖もしくはキャッピング基を導入している。
本発明では、新たに、光で切断可能な水酸基の保護基(W基もしくはW(Z)基)を導入しているため、基板上の目的の部位を選択的に露光することにより、その部位にある水酸基を選択的に脱保護することができる。このため、その後、次の糖を縮合すれば、露光部の基板上で脱保護された水酸基のみに次の糖が縮合され、基板の部位選択的に目的の糖鎖構造を構築することができる。
【0014】
本発明の方法を、図2を参照しながら説明する。
図1と同じ基板(1)をスタート物質とする。基板としては、各種板状ガラス(例えば、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミナケイ酸塩ガラス、シリカガラス、リン酸塩系ガラス、亜テルル酸塩ガラス、ハロゲン化物ガラス、カルコゲナイドガラス等)、板状各種樹脂(例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン等)、板状各種繊維、板状シリカ、セロファン等が挙げられる。これら基板に対して、APTES(3-aminopropyltriethoxysilane: 3-アミノプロピルトリエトキシシラン)処理や、紫外線処理、電子線処理、プラズマ処理、高圧処理、高温処理、酸処理、塩基処理等を行い、表面改質を行う。この様な処理により表面に現れる官能基としては例えば水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基等が挙げられる。基板の寸法は幅1mmから100mm、好ましくは5mmから50mm、長さは1mmから200mm、好ましくは10mmから100mm、厚みは0.01mmから20mm、好ましくは0.1mmから5mmである。
【0015】
アクセプターは、基板に直接固定しても良いが、リンカーを介して固定してもよい。リンカーの種類は特に制限がなく、基板に共有結合していても良く、疎水結合でも良い。例えばポリエチレングリコール、6−ヒドロキシヘキサン酸、2−(6−ヒドロキシヘキサンアミド)酢酸、4−(6−ヒドロキシヘキサンアミド)安息香酸、6−ヒドロキシ−N−(3−ヒドロキシプロピル)ヘキサンアミド等が挙げられる。
【0016】
アクセプターは、保護された水酸基n個(nは2以上の整数)を有する化合物であれば特に制限されない。例えば、6炭糖、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、フコース、アロース、アルトロース、グロース、イドース、タロース、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、イズロン酸、ソルボース、タガトース、フルクトース、プシコース等、5炭糖、例えば、アラビノース、キシロース、リボース、リキソース、リブロース、キシルロース等、更に、9炭糖のシアル酸等、これらのオリゴ糖、複合糖質、これらの誘導体及び類縁体等が挙げられる。
【0017】
ドナーとしては、アクセプターとして例示した上記化合物が挙げられる。ドナーが糖である場合、そのアノメリック位水酸基は、リン酸エステル基、トリクロロアセトイミデート基、フェニルチオ基、メチルチオ基、ブロモ基、クロロ基、フルオロ基、ヨード基等、化学的に活性化可能な置換基に変換しておく必要がある。更にアノメリック位以外の水酸基の中で、後に他のドナー糖、又はキャッピング基を導入する予定の水酸基には目的の水酸基を選択的に脱保護可能な、オルソゴナルな保護基(orthogonal protecting groups)(ある特殊な条件で、他の保護基に影響を与えずに目的の保護基のみ選択的に脱保護可能な保護基の総称)を導入しておく必要がある。後に他のドナー糖、又はキャッピング基を導入する予定のない水酸基には、先に導入したオルソゴナルな保護基の脱離条件、縮合条件、光切断条件等、一連の反応条件で脱離しない保護基を導入しておく必要がある。このようなオルソゴナルな保護基として、例えば、NH2NH2(ヒドラジン)により選択的に除去可能なLev基(レブリニル基)、thiourea(チオウレア)により選択的に除去可能なClCH2CO基(クロロアセチル基)、NaOMe(ナトリウムメチラート)により除去可能なPhCO基(ベンゾイル基)を導入し、それ以外の水酸基は上記反応条件では安定でかつ、Pd/C(パラジウム炭素)により除去可能なBn基(ベンジル基)等を導入する。あるいは、オルソゴナルな保護基として、適切な重合度で、且つ適切な保護基を有するY基、又は、中性又は塩基性で脱離可能な保護基V基、又は光切断可能なW又はW(Z)基を導入し、それ以外の水酸基には、Y基の重合度を減少させるエドマン分解の反応条件及び、縮合条件及び、中性又は塩基性条件で脱離可能な保護基Vの除去条件、さらには、光切断条件に対して安定な保護基、例えば、ベンゾイル基、ベンジル基、アセチル基等を導入する。
【0018】
アクセプターとドナーの反応は、公知の条件、例えば、活性化剤としてTMSOTf、BF3OEt2、NIS−TfOH等を用い、反応溶媒としてジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、DMF、THF、トルエン、ベンゼン等中、温度−40〜50℃で5分〜24時間程度行えば良い。
【0019】
本発明に使用する「キャッピング基」としては、オルソゴナルな保護基の脱離条件で脱離しない保護基が使用される。例えば、オルソゴナルな保護基がY基の場合、Bz基、Bn基、アセチル基、クロロアセチル基、レブリニル基、TBDMS基(ターシャリー−ブチルジメチルシリル基)、TBDPS基(ターシャリー−ブチルジフェニルシリル基)等が「キャッピング基」として使用される。
【0020】
本発明の説明の便宜上、以下、アクセプター及びドナーとして糖を使用した場合について説明する。また、便宜上、光切断保護基(W基)としてNPPOC基[2−(2−ニトロフェニル)プロピルオキシカルボニル基]、キャッピング基としてBz基、AとしてBoc基、RとしてBz基、Yとして−[(CH3CH2)2CH]N−CH2−CO−を使用した場合について説明する。
図2において、本発明ではまず、Y基の重合度を減少させる操作を行う。つまり、1.TFAによる脱Boc化、2.PITC化、3.TFA処理、4.再Boc化を行うと、Y基の重合度が一つずつ減少し、1重合のY基が選択的に脱保護される。その後、光切断保護基であるW基を導入する。1つの水酸基が選択的に脱保護されるため、W基も選択的に目的の水酸基に導入され、基板(8)が得られる。
基板の目的の部位を選択的に露光すると、その部位に存在するW基が脱離され、水酸基が脱保護された基板(9)が得られる。
そこに次の糖を縮合させる。ここではGalを導入して基板(10)を得ている。次に、基板(10)の別の部位を露光すると、露光部の水酸基が選択的に脱保護された基板(11)が得られる。基板(11)のこの水酸基に、また別の糖、ここではGlcを導入して基板(12)を得ている。
【0021】
このように、本発明によれば、導入する糖の種類が増えても露光、縮合の2段階が増えるのみである。本発明の方法では、2種類の糖の導入は、最初の5段階+1種類目の糖の導入で2段階+2種類目の糖の導入で2段階の全9段階で可能である。仮に異なるn種類の糖を導入しようとすると、(5+2n)段階(例えば、糖の種類が5種類であれば、5+2+2+2+2+2の15段階)でよく、導入する糖が増えれば増えるほど図1に示した従来の方法と比較して、反応段階が飛躍的に減少する。従って、本発明によれば、一枚の基板上に構造の異なる数百、数千の糖鎖を構築することが現実的に可能である。
【0022】
多種類の糖鎖を基板上に構築する具体的な手法を、図3〜16を参照しながら、詳細に説明する。
ここでは便宜上丸囲み数字1をGal、丸囲み数字2をGlc、四角囲み数字3をGlcNAcとしている。Galの各水酸基は以下のように保護されているとする。Galの2位水酸基は今後の反応で影響がない保護基により保護されている(例えばBz基、Bn基等)。3位水酸基はB’という特殊な条件で選択的に切断可能なBという保護基により保護されている。4位水酸基はA’という特殊な条件で選択的に切断可能なAという保護基により保護されている。6位水酸基はC’という特殊な条件で選択的に切断可能なCという保護基により保護されている。Galの3位、4位、および6位水酸基に、例としてそれぞれGlcとGlcNAcを導入する手法を示す。順列組み合わせで可能な全27種類の糖鎖の合成が、本発明を使えば短い反応段階で可能になる。
まずは、Aを選択的に脱離し、光切断保護基(星印)を導入する。こうして得られた基板の模式図を図4に示す。ここでは基板に均一に同じ化合物が結合している。
【0023】
図4の左1/3を露光し、4位水酸基を脱保護し、そこにキャッピング基を選択的に導入しキャッピングを行い、基板図5を得る。
次に中央1/3を露光し、4位水酸基を脱保護し、そこに丸囲み数字2のGlcを選択的に導入し、基板図6を得る。
最後に右1/3を露光し、4位水酸基を脱保護し、そこに四角囲み数字3のGlcNAcを選択的に導入し、基板図7を得る。
次にBを選択的に脱保護し、3位水酸基に選択的に光切断保護基(星印)を導入する。こうして得られた基板の模式図を図8に示す。
【0024】
先ほどと同様に基板を今度は横方向に3分割しそれぞれ露光する。まず下1/3を露光し、選択的に脱保護された3位水酸基にキャッピング基を導入しキャッピングを行い(図9)、次に、中央1/3を露光し、選択的に脱保護された3位水酸基に丸囲み数字2のGlcを導入し(図10)、さらに上1/3を露光し、選択的に脱保護された3位水酸基に四角囲み数字3のGlcNAcを導入する(図11)。
最後にCを選択的に脱保護し、6位水酸基に選択的に光切断保護基(星印)を導入する。こうして得られた基板の模式図を図12に示す。
【0025】
再度、基板を3分割し、3分割した各区分の左1/3を露光し、選択的に脱保護された6位水酸基にキャッピング基を導入しキャッピングを行い(図13)、次に3分割した各区分の中央1/3を露光し、選択的に脱保護された6位水酸基に丸囲み数字2のGlcを導入し(図14)、さらに右1/3を露光し、選択的に脱保護された6位水酸基に四角囲み数字3のGlcNAc(図15)を導入する。
以上の手順により複雑な構造の糖鎖も簡単に、かつ正確、短工程で作り分けることが可能である(図16)。
【0026】
本発明において選択的に脱保護可能な水酸基の保護基の例としては、特許文献1及び2記載のY基、及び一般的なオルソゴナルな水酸基の保護基(Boltje, T. J., C. X. Li, et al. (2010). Organic Letters 12(20): 4636-4639.)が使用可能である。一般的なオルソゴナルな水酸基の保護基の例としては以下のものが挙げられる(Sears, P. and C. H. Wong (2001). Science 291(5512): 2344-2350.)。
【0027】
【0028】
これら保護基を使用して選択的に目的の水酸基を脱保護する事は一般的常套手段である。括弧の中の試薬は脱保護試薬である。
Pd/C:パラジウム炭素、Pd nanoparticles:パラジウムナノパーティクル、TFA:トリフルオロ酢酸、DDQ: 2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン、NaOMe:ナトリウムメチラート、2°amine:2級アミン、acid:酸、TsOH:p-トルエンスルホン酸、tBuKO:カリウム ターシャリーブトキシド、Ir:イリジウム、Pd:パラジウム、Rh:ロジウム、Bu4NF:フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム、HF:フッ化水素、AcOH:酢酸、thiourea:チオウレア、NaHCO3:炭酸水素ナトリウム、NH2NH2:ヒドラジン。
【0029】
本発明において、光分解により脱離可能な保護基Wの例としては、NPPOC基[2−(2−ニトロフェニル)プロピルオキシカルボニル](Kim, C., J. Kaysen, et al. (2006). Microelectronic Engineering 83(4-9): 1613-1616.)、MNPPOC基[2-(3,4-メチレンジオキシ−6−ニトロフェニル)-プロピルオキシカルボニル](Bhushan, K. R. (2006). Organic & Biomolecular Chemistry 4(10): 1857-1859.)、NVOC基(オルト-ニトロベラトリルオキシカルボニル)(Patchorn.A, B. Amit, et al. (1970). Journal of the American Chemical Society 92(21): 6333-6335.)、MeNPOC基(α-メチル-オルト−ニトロピペロニルオキシカルボニル)(McGall, G. H., A. D. Barone, et al. (1997). Journal of the American Chemical Society 119(22): 5081-5090.)、Aqmoc基(アントラキノン-2-イルエトキシ-カルボニル)(Furuta, T., Y. Hirayama, et al. (2001). Organic Letters 3(12): 1809-1812.)、DMB基(3,5−ジメトキシベンゾイン−カルボニル)(Pirrung, M. C., L. Fallon, et al. (1998). Journal of Organic Chemistry 63(2): 241-246.)等が挙げられる。
【0030】
W(Z)のZ基の例としては、
【0031】
などが挙げられる。
【0032】
この様なZ基はWが切断される条件で同時に切断される。あるいはW基が切断される事により不安定になり弱酸性、もしくは弱塩基性で切断されるようになるものもある。またWが切断される条件では完全には切断されず、その後、PITC化を行う事により選択的に定量的に切断されるものもある。
ここで挙げた構造のみならず、W基が切断される事により活性化(もしくは不安定化)され、他の保護基に影響を与えない特殊な反応条件で選択的に切断され、脱保護される構造はいずれもZとして使用することができる。
【0033】
光分解により脱離可能な保護基WもしくはW(Z)を脱離するのに使用する露光光源としては例えば、太陽光、UVランプ、LED、水銀ランプ、レーザー、エキシマランプ等が挙げられ、露光量は0.01〜100 mW/cm2、好ましくは0.1〜50 mW/cm2、露光時間は通常1秒〜24時間、好ましくは20秒〜3時間である。露光の際の温度は0〜100℃が適当であり、通常は室温でよい。
【0034】
また、本発明において、塩基性、酸化剤、フッ素化合物、酵素、または2段階反応により脱離可能な保護基Vの例を表1に示すが、ここで挙げた構造に限定されるわけではない。
【0035】
【表1】
【0036】
さらに本発明において、Yの例としては、
等が挙げられる。
【0037】
さらに本発明において、アクセプターを基板に結合する際に使用しても良いリンカーは特に制限はなく、リンカーは基板に対して共有結合していても良く、疎水結合でも良い。例えば、ポリエチレングリコール、6−ヒドロキシヘキサン酸、2−(6−ヒドロキシヘキサンアミド)酢酸、4−(6−ヒドロキシヘキサンアミド)安息香酸、6−ヒドロキシ−N−(3−ヒドロキシプロピル)ヘキサンアミド等が挙げられる。
基板にリンカー又はアクセプターを結合する方法に特に限定はなく、例えばグリコシド結合、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、アルキル結合等により容易に結合することができる。
【実施例】
【0038】
以下の実施例において、質量分析装置ESI-FT-MSは、Bruker社製REFLEX IIを用いた。また、HPLCは、Waters社製Delta600を用い、カラムとしてMightysil RP-18 GP 250-4.6 (4.6 x 250 mm, 5 μm, 関東化学)を付け、流速1 ml/minで流した。最初アセトニトリル:水=30:70で10分流し、10分後直ちに40:60に変更した。その後50分かけて50:50に変わるよう直線的にグラジェントをかけた。215nmでのUV吸収を検出した。蛍光スキャナーは、GEヘルスケア社製Typhoonを用いた。溶媒及び試薬は市販の試薬グレードを用いた。
【0039】
また、この明細書において、次の略号を使用する。
2−(2−ニトロフェニル)プロピルオキシカルボニル(NPPOC)
二炭酸ジ-ターシャリー-ブチル(Boc2O)
N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)
4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)
ジクロロメタン(CH2Cl2、DCM)
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)
フェニルイソチオシアネート(PITC)
N−メチルモルフォリン(NMM)
N−ヨードスクシンイミド(NIS)
トリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)
安息香酸(BzOH)
トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMSOTf)
テトラヒドロフラン(THF)
トリフルオロ酢酸(TFA)
tert(ターシャリー)−ブトキシカルボニル(Boc)
9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニル(Fmoc)
ベンゾイル(Bz)
ベンジル(Bn)
チオフェニル(SPh)
アリール(Ar)
室温(r.t.)
ガラクトース(Gal)
グルコサミン(GlcN)
グリシン(Gly)
2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基(Troc)
ユニケモハイドロキシ保護基(UCHP)(特許文献1及び2記載のY基の総称)
【0040】
実施例1
この実施例では、一枚のガラス上に結合位置の異なる3種類の2糖を作りわけている。
実施例1A(アクセプターを基板に結合する工程)
ガラス(13)(シリカガラスを3-アミノプロピルトリエトキシシラン処理後、6−ヒドロキシヘキサン酸を結合させた物。これによりガラス表面に水酸基を有するリンカーが共有結合している)にFmocGlyを導入し、導入されたFmocの量を定量することにより水酸基のローディング量を0.0235mmol/gと決定した。
そのガラス(13)の全面にまず、3位水酸基がBocを持った1重合のY基(-[(CH3CH2)2CH]N-CH2-CO-)で保護され、4位水酸基がNPPOCで保護され、6位水酸基がBocを持った2重合のY基により保護されたグルコサミンドナー(15)を導入した。
ガラス(13)3枚((i)1.561g(2.7cm x 2.6cm x 0.1cm)、(ii)2.190g(5.0cm x 2.5cm x 0.1cm)、(iii)2.178g(5.0cm x 2.5cm x 0.1cm))に、グルコサミンドナー(15)(566mg)、モレキュラーシーブス4A(4.67g)、NIS(309mg)を加え、窒素雰囲気下、脱水ジクロロメタン(6ml)を加えて、-30℃で振盪した。そこにTfOH (122μl)を加え-30℃で1日振盪した。ガラスをNa2S2O3水溶液/アセトン、水、メタノール、DMFの順に洗浄後、縮合時に切断されたBoc基の再導入のため、DMF(6ml)、Boc2O(600μl)、飽和重曹水(600μl)を加え、室温にて4時間振盪した。ガラスを水/DMF、DMF、クロロホルムの順に洗浄後真空乾燥し、ガラス(16)を得た。
ガラス上の構造確認の為に、ガラス(16)を少々砕き玉尾酸化の条件にさらし、切り出しを行い、MS(MALDI-TOF)を測定し目的物(化合物17)を確認した。
化合物17:MALDI-TOF-MS, C59H95Cl3N6O20Na+ (M+Na)+の計算値:1335.56, 実測値:1336.5
【0041】
【化1】
【0042】
縮合されなかった未反応の水酸基に対してBzキャッピングを行った。ガラス(16)にBz2O (600mg)、DMAP (15mg)、ピリジン(6ml)を加え室温にて4時間振盪した。反応液を除去した後、もう一度同じ量でBz化を4時間行った。反応液を除去した後、ガラスを水/DMF、2N―塩酸水、水、DMF,クロロホルムの順で洗浄し真空乾燥した。
Bzキャッピング後のガラスを4領域に区別する為にガラス切りで下記スキームに示すように十字の線を書いた。
【0043】
【化2】
【0044】
それぞれ、以下、領域1、領域2,領域3,領域4と呼ぶ。領域1には単糖(GlcN)、領域2には2糖(Galβ1-4GlcN)、領域3には2糖(Galβ1-3GlcN)、領域4には2糖(Galβ1-6GlcN)を作り分ける。
【0045】
実施例1B(Galβ1-4GlcN構造を構築する工程)
まず、GlcNの4位水酸基を選択的に脱保護し、Galβ1-4GlcN構造を構築する為に、領域2だけに光を当てる。ガラスをアセトニトリル10ml、水10mlの混合溶媒中に浸し、360nmの光(9.19 mW/cm2)を領域2にだけ室温下30分照射した。水、アセトンの順にガラスを洗浄し、真空乾燥することにより、領域2に存在するGlcNの4位に結合したNPPOC基を脱離したガラス(18)を得た。
領域2のガラスを少々砕き玉尾酸化することにより選択的にNPPOCが脱離された化合物19を確認した。
化合物19:MALDI-TOF-MS, C49H86Cl3N5O16Na+ (M+Na)+の計算値:1128.50, 実測値:1129.1
【0046】
【化3】
【0047】
ガラス(18)にガラクトースドナー(20)を縮合する。3枚のガラス(18)((i)1.1697g、(ii)1.5026g、(iii)2.1835g)に、ガラクトースドナー(20)(116.4mg)、モレキュラーシーブス4A(5g)を入れ窒素雰囲気下、無水ジクロロメタン(6ml)を入れ、−15℃に冷却した。−15℃にてTMSOTf(85μl)を入れそのまま2時間振盪した。ガラスをクロロホルム、DMF、クロロホルムの順で洗浄し真空乾燥した。この縮合操作はもう一度同じ条件にて繰り返した。縮合時に脱離したBoc基の再導入の為に、縮合後のガラスにDMF(7ml)、Boc2O(700μl)、飽和重曹水(700μl)を加え室温にて6時間振盪した。ガラスをDMF/水、DMF、クロロホルムの順で洗浄し真空乾燥した。この再Boc化も同じ条件にて繰り返しガラス(21)を得た。
ガラス上の構造確認の為に、ガラス(21)の領域2を少々砕き玉尾酸化の条件にさらし切り出しを行い、MS(MALDI-TOF)を測定し目的物(22)を確認した。
化合物22:MALDI-TOF-MS, C83H118Cl3N5O22Na+ (M+Na)+の計算値:1664.72, 実測値:1664.7
【0048】
【化4】
【0049】
次に、他の領域の4位水酸基をBz基にてキャッピングをする為に、他の領域(領域1,3,4)に光を当て、NPPOCを脱離する。
ガラスをアセトニトリル10ml、水10mlの混合溶媒中に浸し、360nmの光(9.19 mW/cm2)を領域1,3,4だけに室温下30分照射した。水、アセトンの順にガラスを洗浄し、真空乾燥することにより、領域1,3,4に存在するGlcNの4位に結合したNPPOC基を脱離したガラスを得た。その後、ガラスにBz2O(500mg)、DMAP(50mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温にて1日振盪した。2N-塩酸水/アセトン、水、DMF、クロロホルムの順にガラスを洗浄し、真空乾燥した。このBzキャッピングを同条件で繰り返し、ガラス(23)を得た。
構造確認のため、領域1を玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの4位がBz化された化合物24を確認した。
化合物24:MALDI-TOF-MS, C56H90Cl3N5O17Na+ (M+Na)+の計算値:1232.53, 実測値:1233.5
【0050】
【化5】
【0051】
次に、GlcNの3位水酸基を選択的に脱保護する。特許文献1及び2記載の方法に従いY基の重合度を一つずつ減少させる。3位の1重合のY基を脱離すると共に、6位の2重合のY基を1重合にする。ガラス(23)に、20%TFA/ジクロロメタン(20ml)を加え30分間室温にて振盪した。反応液を除去した後、もう一度同じ反応を繰り返した。ガラスをクロロホルム、DMFの順に洗浄後、DMF(8ml)、PITC(4ml)、NMM(960μl)を加え、室温にて30分間振盪した。ガラスをDMF、クロロホルムの順に洗浄後、20%TFA/ジクロロメタン(20ml)を加え30分間室温にて振盪した。反応液を除去した後、もう一度同じ反応を繰り返した。ガラスをクロロホルム、DMFの順に洗浄後、DMF(8ml)、Boc2O(800μl)、飽和重曹水(800μl)を加え、室温にて1日振盪した。ガラスをDMF/水、DMF、クロロホルムの順に洗浄し真空乾燥した。その後もう一度Boc化を同様に行い、ガラス(25)を得た。
構造確認のため、領域1のガラスを少々砕きピリジン(1ml)、無水酢酸(500μl)を加え室温にて1時間振盪し、DMF、クロロホルムの順に洗浄した後、玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの3位がAc化され(選択的に脱保護された3位水酸基にアセチル基が選択的に導入された)、6位が1重合のY基により保護された化合物26を確認した。
化合物26:MALDI-TOF-MS, C39H58Cl3N3O14Na+ (M+Na)+の計算値:920.29, 実測値:920.4
【0052】
【化6】
【0053】
選択的に脱保護された3位水酸基に光切断保護基であるNPPOCを導入する。ガラス(25)にピリジン(10ml)、NPPOC-OPNP(324mg)、DMAP(229mg)を加え室温にて1日振盪した。ガラスをアセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。このNPPOC化はさらに2回同様に行い、合計3回行い、ガラス(27)を得た。
構造確認のため、領域1のガラスを少々砕き玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの3位がNPPOC化された化合物28を確認した。
化合物28:MALDI-TOF-MS, C47H65Cl3N4O17Na+ (M+Na)+の計算値:1085.33, 実測値:1085.3
【0054】
【化7】
【0055】
実施例1C(Galβ1-3GlcN構造を構築する工程)
領域3に選択的にGalβ1-3GlcN構造を構築するために、領域3のみ3位水酸基を脱保護し、他の領域はBz基にてキャッピングする必要がある。
まず、領域1,2,4に対して3位水酸基のBzキャッピングを行う。ガラス(27)をアセトニトリル10ml、水10mlの混合溶媒中に浸し、360nmの光(9.19 mW/cm2)を領域1,2,4にだけ室温下30分照射した。水、アセトンの順にガラスを洗浄し、真空乾燥することにより、領域1,2,4に存在するGlcNの3位に結合したNPPOC基を脱離したガラスを得た。その後、ガラスにBz2O(500mg)、DMAP(50mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温にて1日振盪した。2N-塩酸水/アセトン、水、DMF、クロロホルムの順にガラスを洗浄し、真空乾燥した。このBzキャッピングを同条件で繰り返し、ガラス(29)を得た。
構造確認のため、領域1を玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの3位がBz化された化合物30を確認した。
化合物30:MALDI-TOF-MS, C44H60Cl3N3O14Na+ (M+Na)+の計算値:982.30, 実測値:982.3
【0056】
【化8】
【0057】
次は領域3に選択的に光を当て3位水酸基を脱保護させる。ガラス(29)をアセトニトリル10ml、水10mlの混合溶媒中に浸し、360nmの光(9.19 mW/cm2)を領域3にだけ室温下30分照射した。水、アセトンの順にガラスを洗浄し、真空乾燥することにより、領域3に存在するGlcNの3位に結合したNPPOC基を脱離したガラス(31)を得た。
領域3のガラスを少々砕き玉尾酸化することにより選択的にNPPOCが脱離された化合物32を確認した。
化合物32:MALDI-TOF-MS, C37H56Cl3N3O13Na+ (M+Na)+の計算値:878.28, 実測値:878.4
【0058】
【化9】
【0059】
ガラス(31)の領域3に選択的にガラクトースを導入する。ガラス(31)にガラクトースドナー(20)(232.8mg)、モレキュラーシーブス4A(5g)を加え窒素雰囲気下、無水ジクロロメタン(6ml)を加え-15℃に冷却した。-15℃でTMSOTf(169μl)を加え、2時間振盪した。ガラスをクロロホルム、DMF、クロロホルムの順に洗浄し真空乾燥した。縮合時に切断されたBoc基の再導入のために、ガラスにDMF(10ml)、Boc2O(1ml)、飽和重曹水(1ml)を加え室温にて6時間振盪した。ガラスをアセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムにて洗浄後真空乾燥した。この再Boc化はもう一度同じ条件にて繰り返し、ガラス(33)を得た。
ガラス上の構造確認の為に、ガラス(33)の領域3を少々砕き玉尾酸化の条件にさらし切り出しを行い、MS(MALDI-TOF)を測定し目的物(34)を確認した。
化合物34:MALDI-TOF-MS, C71H88Cl3N3O19Na+ (M+Na)+の計算値:1414.50, 実測値:1414.5
【0060】
【化10】
【0061】
次は、未反応の水酸基をBz基にてキャッピングを行う。ガラス(33)にBz2O(500mg)、DMAP(50mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温にて1日振盪した。2N-塩酸水/アセトン、水、DMF、クロロホルムの順にガラスを洗浄し、真空乾燥した。このBzキャッピングを同条件で繰り返した。その後、GlcNの6位水酸基を選択的に脱保護する。ガラスに、20%TFA/ジクロロメタン(20ml)を加え30分間室温にて振盪した。反応液を除去した後、もう一度同じ反応を繰り返した。ガラスをクロロホルム、DMFの順に洗浄後、DMF(8ml)、PITC(4ml)、NMM(960μl)を加え、室温にて30分間振盪した。ガラスをDMF、クロロホルムの順に洗浄後、真空乾燥し、6位水酸基が選択的に脱保護されたガラスを得た。その後6位水酸基にNPPOCを導入した。ガラスにジクロロメタン(10ml)、NPPOC-OPNP(324mg)、DMAP(229mg)を加え室温にて1日振盪した。ガラスをアセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。このNPPOC化はもう一度同様に行い、ガラス(35)を得た。
構造確認のため、領域1のガラスを少々砕き玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの6位がNPPOC化された化合物36を確認した。
化合物36:MALDI-TOF-MS, C42H48Cl3N3O15Na+ (M+Na)+の計算値:962.20, 実測値:962.2
【0062】
【化11】
【0063】
実施例1D(Galβ1-6GlcN構造を構築する工程)
領域4に選択的にGalβ1-6GlcN構造を構築するために、領域4のみ6位水酸基を脱保護し、他の領域はBz基にてキャッピングする必要がある。まず、領域1,2,3に対して6位水酸基のBzキャッピングを行う。ガラス(35)をアセトニトリル10ml、水10mlの混合溶媒中に浸し、360nmの光(9.19 mW/cm2)を領域1,2,3のみに室温下30分照射した。水、アセトンの順にガラスを洗浄し、真空乾燥することにより、領域1,2,3に存在するGlcNの6位に結合したNPPOC基を脱離したガラスを得た。その後、ガラスにBz2O(500mg)、DMAP(50mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温にて1日振盪した。2N-塩酸水/アセトン、水、DMF、クロロホルムの順にガラスを洗浄し、真空乾燥した。このBzキャッピングを同条件で繰り返し、ガラス(37)を得た。
構造確認のため、領域1を玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの6位がBz化された化合物38を確認した。
化合物38:MALDI-TOF-MS, C39H43Cl3N2O12Na+ (M+Na)+の計算値:859.18, 実測値:859.5
【0064】
【化12】
【0065】
次は領域4に選択的に光を当て6位水酸基を脱保護させる。ガラス(37)をアセトニトリル10ml、水10mlの混合溶媒中に浸し、360nmの光(9.19 mW/cm2)を領域4にのみ室温下30分照射した。水、アセトンの順にガラスを洗浄し、真空乾燥することにより、領域4に存在するGlcNの6位に結合したNPPOC基を脱離したガラス(39)を得た。
領域4のガラスを少々砕き玉尾酸化することにより選択的にNPPOCが脱離された化合物40を確認した。
化合物40:MALDI-TOF-MS, C32H39Cl3N2O11Na+ (M+Na)+の計算値:755.15, 実測値:756.3
【0066】
【化13】
【0067】
ガラス(39)の領域4に選択的にガラクトースを導入する。ガラス(39)にガラクトースドナー(20)(232.8mg)、モレキュラーシーブス4A(5g)を加え窒素雰囲気下、無水ジクロロメタン(6ml)を加え-15℃に冷却した。-15℃でTMSOTf(169μl)を加え、2時間振盪した。ガラスをクロロホルム、DMF、クロロホルムの順に洗浄し真空乾燥し、各領域を作り分けたガラス(41)を得た。
【0068】
各領域のガラスを少々砕き玉尾酸化することによりそれぞれ選択的に目的の構造が合成できていることを確認した。領域1から化合物42(目的の単糖)、領域2から化合物43(目的の2糖(Galβ1-4GlcN))、領域3から化合物44(目的の2糖(Galβ1-3GlcN))、領域4から化合物45(目的の2糖(Galβ1-6GlcN))を得た。
化合物42:MALDI-TOF-MS, C39H43Cl3N2O12Na+ (M+Na)+の計算値:859.18, 実測値:859.7
化合物43:MALDI-TOF-MS, C66H71Cl3N2O17Na+ (M+Na)+の計算値:1291.37, 実測値:1292.5
化合物44:MALDI-TOF-MS, C66H71Cl3N2O17Na+ (M+Na)+の計算値:1291.37, 実測値:1291.7
化合物45:MALDI-TOF-MS, C66H71Cl3N2O17Na+ (M+Na)+の計算値:1291.37, 実測値:1291.8
【0069】
【化14】
【0070】
以上の結果より、本発明の手法を用いると構造の異なる糖鎖をビルドアップ的に基板上に合成できることがわかる。
すべての工程をMSにより追跡できた事、及び特許文献1及び2記載の方法により、Y基を用いた重合度の減少による水酸基の連続的脱保護は、選択的に進行することが証明されている事から、目的の領域に目的の化合物が合成できていることは確かであるが、念のため標品を用いたHPLCの保持時間の比較を行った。
領域2,3,4を玉尾酸化することにより得られる3種類の2糖、化合物(43)(Galβ1-4GlcN)、化合物(44)(Galβ1-3GlcN)、化合物(45)(Galβ1-6GlcN)に対して、メタノール中、NaOMeを作用してそれぞれ化合物(46)、(47)、(48)を得た。別途用意したこれら3種と同じ構造の化合物標品と、HPLCの保持時間を比較した。C-18HPLCカラムを用い、1ml/minの流速で流し、215nmでのUV吸収を検出した。最初アセトニトリル:水=30:70で10分流し、10分後直ちに40:60に変更した。その後50分かけて50:50に変わるようグラジェントをかけた。標品の保持時間は化合物(46)、(47)、(48)それぞれ46.232分、45.572分、40.230分であるのに対し、各領域から得られた2糖由来のピークはそれぞれ45.700分、45.023分、39.510分であり、正確に各結合が合成できていることが証明された。
【0071】
【化15】
【0072】
実施例2(レクチンによりガラス表面糖鎖が認識されることの確認)
ビルドアップ的に合成した糖鎖がレクチンにより認識されることを以下のようにして証明した。
リンカーを導入したガラス(49)に対し、実施例1に記載した方法に従いNPPOCを導入し、その後未反応のOH基をBzでキャッピングを行いガラス(50)を得た。そこに、星形に光を当てることにより星形にNPPOCが脱離し、星形に水酸基が脱保護されたガラス(51)を得た。
そこにガラクトースドナー(52)を縮合した。ガラス(51)(50mg)にガラクトースドナー(52)(10mg)、NIS(10mg)を加え窒素雰囲気下、無水ジクロロメタンを加え-30℃に冷却した。そこにTfOH(4μl)を加え、-30℃で1日振盪した。ガラスを飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液/アセトン、水、メタノール、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥することによりガラス(53)を得た。すべての保護基を脱保護するために、ガラス(53)にメタノール(1ml)を加え、NaOMeをpH11になるまで加えた後、室温にて1日振盪した。ガラスを水、2N−塩酸水、水、DMF、クロロホルムの順に洗浄し真空乾燥することによりガラス(54)を得た。
【0073】
ガラス(54)を1%PBSに浸し15分振盪した。溶液を除去した後、1%BSA入り1%PBS溶液(1%BSA/PBS)に浸し6℃にて12時間振盪した。溶液を除去した後、ビオチン化されたRCA120レクチン(50μl、10μg/ml)でガラスを覆い4時間室温にて軽く振盪した。溶液を除去した後、1%PBS溶液を加え軽く5分間振盪、その後溶液を除去するという洗いの操作を3回繰り返した。
溶液を除去したガラスにアビジン化されたAlexaFluor488(登録商標)(0.1mg)/(1%BSA/PBS(800μl))で覆い2時間室温にて軽く振盪した。溶液を除去した後上記洗いの操作を3回繰り返した。ガラスの蛍光を蛍光スキャナーで観察した。532nmレーザーを用い励起させ、蛍光フィルターとして526nmのバンドパスフィルターを用いて観察した結果、図17のように星形に光った。つまり、星形に光を当てて光切断保護基を脱離した所にガラクトースが導入され、その導入されたガラクトースをレクチンが認識したためである。これによりビルドアップ的にガラス上で合成した糖鎖をレクチンが認識可能であることが証明できた。
【0074】
【化16】
【0075】
実施例3(光切断保護基としてW(Z)基を使用した例)
実施例1では光切断保護基としてW基を直接水酸基に結合させていたが、この実施例では光切断保護基としてW(Z)基でも可能であることを示す。
リンカーを導入したガラス(55)(5.59g、水酸基のローディング = 0.01652 mmol/g)に光切断保護基を持たないグルコサミン誘導体ドナー(56)(509mg)、モレキュラーシーブス4A(5g)、NIS(249g)を入れ窒素雰囲気下、無水ジクロロメタン(5ml)を入れ、−30℃に冷却した。−30℃にてTfOH(98μl)を入れそのまま1日振盪した。ガラスをDMF、チオ硫酸ナトリウム水溶液/アセトン、水、DMFの順で洗浄した。このガラスにDMF(12ml)、Boc2O(1ml)、飽和重曹水(1ml)を加え室温にて12時間振盪した。ガラスをDMF/水、DMF、クロロホルムの順で洗浄し真空乾燥し、ガラス(57)を得た。
ガラスに結合した化合物の構造確認の為に、ガラス(57)を少々砕き玉尾酸化の条件にさらし切り出しを行い、MS(MALDI-TOF)を測定し目的物(58)を確認した。目的通りグルコサミン誘導体がガラス上に導入された。
化合物58:MALDI-TOF-MS, C71H109Cl3N6O19Na+ (M+Na)+の計算値:1477.67, 実測値:1478.0
【0076】
【化17】
【0077】
ガラス(57)の未反応の水酸基をBz基にてキャッピングを行った。ガラス(57)にBzOH(750mg)、DIC(900μl)、DMAP(12mg)、ジクロロメタン(12ml)を加え6℃にて12時間振盪した。クロロホルム、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し真空乾燥した。次は、6位水酸基を選択的に脱保護するためにY基の重合度を1つずつ減少させる。この操作により6位水酸基が選択的に脱保護されると共に、3位水酸基の2つのY基が1つだけ脱離する。Bzキャッピングしたガラスに、20%TFA/ジクロロメタン(20ml)を加え30分間室温にて振盪した。反応液を除去した後、もう一度同じ反応を繰り返した。ガラスをクロロホルム、DMFの順に洗浄後、DMF(8ml)、PITC(4ml)、NMM(960μl)を加え、室温にて30分間振盪した。ガラスをDMF、クロロホルムの順に洗浄後、20%TFA/ジクロロメタン(20ml)を加え30分間室温にて振盪した。反応液を除去した後、もう一度同じ反応を繰り返した。ガラスをクロロホルム、DMFの順に洗浄後、DMF(8ml)、Boc2O(800μl)、飽和重曹水(800μl)を加え、室温にて12時間振盪した。ガラスをDMF/水、DMF、クロロホルムの順に洗浄し真空乾燥し、ガラス(59)を得た。
構造確認のため、ガラスを少々砕きピリジン(1ml)、無水酢酸(500μl)を加え室温にて3時間振盪し、DMF、クロロホルムの順に洗浄した後、玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの6位がAc化され(選択的に脱保護された6位水酸基にアセチル基が選択的に導入された)、3位が1重合のY基により保護された化合物60を確認した。
化合物60:MALDI-TOF-MS, C54H77Cl3N4O16Na+ (M+Na)+の計算値:1165.43, 実測値:1166.3
【0078】
【化18】
【0079】
ガラス(59)((i)1.160g、(ii)1.174g)にそれぞれ(i)NPPOC-UCHP(54mg)、(ii)NPPOC-Gly(66mg)を加えジクロロメタン((i)1.5ml、(ii)1.5ml)を加えた。そこにDIC((i)48μl、(ii)72μl)を加え6℃に冷却した後、DMAP((i)5mg、(ii)7mg)を加え、6℃で12時間振盪した。それぞれのガラスをクロロホルム、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗い、真空乾燥しガラス(61、62)を得た。構造確認のため、ガラスをそれぞれ少々砕きピリジン(1ml)、無水酢酸(500μl)を加え室温にて2時間振盪し、DMF、クロロホルムの順に洗浄した後、玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、GlcNの6位にNPPOC-UCHP及びNPPOC-Glyがそれぞれ導入された化合物63,64を確認した。
化合物63:MALDI-TOF-MS, C69H97Cl3N6O20Na+ (M+Na)+の計算値:1457.57, 実測値:1457.6
化合物64:MALDI-TOF-MS, C64H87Cl3N6O20Na+ (M+Na)+の計算値:1387.49, 実測値:1388.0
【0080】
【化19】
【0081】
ガラス(61)及び(62)それぞれに光を当て6位水酸基の選択的脱保護を検討した。
それぞれのガラスをTHF/水(10ml/10ml)に浸し、PITC(120μl)を加えしばらく振盪した後、360nm(8.6 mW/cm2)の光を室温にて30分間照射した。その後、水、アセトン、DMFの順にガラスを洗浄し、DMF(1.5ml)、PITC(500μl)、NMM(120μl)を加え室温にて30分間振盪した。ガラスをDMF、アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し真空乾燥することによりガラス(65)とガラス(66)をそれぞれ得た。
ガラス上の構造確認の為に、それぞれのガラスを少々砕き、構造確認を行った。ガラス(65、66)はそれぞれ玉尾酸化し、MSを測定した。その結果両方から同じ目的物(67、68)をそれぞれ確認した。ガラス(65)においては、念のため、遮光した部分のガラスを玉尾酸化の条件にさらし切り出しを行い、MS(MALDI-TOF)を測定した所、未反応体である化合物(63)を確認した。
化合物67:MALDI-TOF-MS, C52H75Cl3N4O15Na+ (M+Na)+の計算値:1123.42, 実測値:1123.4
化合物68:MALDI-TOF-MS, C52H75Cl3N4O15Na+ (M+Na)+の計算値:1123.42, 実測値:1123.7
化合物63:MALDI-TOF-MS, C69H97Cl3N6O20Na+ (M+Na)+の計算値:1457.57, 実測値:1458.0
【0082】
【化20】
【0083】
以上の結果より、W(Z)基でも光により選択的に切断可能であり、本発明に使用可能であることがわかる。
【0084】
実施例4
光切断保護基W基の種類を検討した。
水酸基に対して光切断保護基として、Aqmoc基、NPPOC基、MNPPOC基を導入し、光により切断されるか検討した。3,4位水酸基が脱保護されたGal(69)に対してそれぞれの光切断保護基を導入し化合物70,71,72を得た。これらに各種溶媒中太陽光を照射して反応をTLCで追跡した。結果、いずれにおいてもTHF/水=1/1の溶液中で反応させると定量的に脱保護でき、化合物73を与える事が判明し、このような光切断保護基が本発明に使用可能である事がわかる。
ここで、compound:化合物、solvent:溶媒、product:生成物、by-product:副生成物、no solvent:溶媒なし、50% aq THF:50%THF水溶液、CH2Cl2:ジクロロメタン、2% DBU in CH2Cl2:2%DBU含有ジクロロメタン、2% DIPEA in CH2Cl2:2%DIPEA含有ジクロロメタン、CH3CN:アセトニトリル、1,4-dioxane:1,4−ジオキサン、50% aq MeOH:50%メタノール水溶液を示す。
【0085】
【化21】
【0086】
実施例5
分岐を有する4糖を合成した例
リンカーが結合したガラス(74)3.75g(ローディング0.0347mmol/g)に、ガラクトースドナー(75)(413mg)、NIS(263.7mg)、モレキュラーシーブス4A(2g)、脱水ジクロロメタン(6ml)を加え、−30℃に冷却した。−30℃にてTfOH(103.7μl)を加え、そのまま−30℃で3時間振盪した。DMF、チオ硫酸ナトリウム水溶液/アセトン、水、DMFで洗浄後、DMF(10ml)、Boc2O(1ml)、飽和重曹水(1ml)を加え室温にて6時間振盪した。水/DMF、DMFで洗浄後、もう一度同じようにBoc化を行った。構造確認のため、ガラスを少々砕き玉尾酸化し、MSを測定した。その結果、目的の化合物77を確認した。
化合物77:MALDI-TOF-MS, C63H81N3O16Na+ (M+Na)+の計算値:1158.55, 実測値:1158.9
【0087】
【化22】
【0088】
未反応の水酸基をベンゾイルキャッピングする為に、ガラス(76)にBzOH(500mg)、DIC(600μl)、ジクロロメタン(10ml)を加えた後、6℃にてDMAP(8mg)を加え、そのまま6℃で12時間振盪した。ガラスを水/アセトン、DMF、クロロホルムにて洗浄後、真空乾燥した。乾燥したガラスに、20%ピペリジン/DMF(10ml)を加え室温にて30分間振盪した。DMFで洗浄後、DMF(7.5ml)、PITC(2.5ml)、NMM(600μl)を加え室温にて30分間振盪した。ガラスをDMF、アセトン、アセトン/水、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。乾燥したガラスに、ピリジン(10ml)、NPPOC-OPNP(225mg)、DMAP(32mg)を加え室温にて1日振盪した。2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。乾燥したガラスにもう一度同じようにNPPOC化を行った。構造確認の為にガラスを少々砕き玉尾酸化を行い、3位水酸基にNPPOCが導入された化合物79を確認した。
化合物79:MALDI-TOF-MS, C51H67N3O17Na+ (M+Na)+の計算値:1016.44, 実測値:1016.6
【0089】
【化23】
【0090】
ガラス(78)に十字の傷を付け、下記のように4つの領域に分割した。それぞれ、領域1,領域2,領域3,領域4と呼ぶ。領域1はGal(ガラクトース)単糖、領域2はGalβ1-3Gal2糖、領域3はGlcNβ1-4Gal2糖、領域4はGalβ1-4Glcβ1-4(Galβ1-3)Gal4糖(分岐あり)を作り分ける。
【0091】
【化24】
【0092】
ガラス(78)の領域1および3を露光する。ガラス(78)をTHF/水(10ml/10ml)に浸し、領域1および3に360 nmのUV光(9.19 mW/cm2)を30分間照射した。得られたガラスは水、アセトンの順に洗浄後真空乾燥しガラス(80)を得た。構造確認の為、領域1のガラスを少々砕き玉尾酸化し、3位NPPOCが選択的に除去された化合物81を確認した。
化合物81:MALDI-TOF-MS, C41H58N2O13Na+ (M+Na)+の計算値:809.38, 実測値:810.0
【0093】
【化25】
【0094】
ガラス(80)にBz2O(600mg)、DMAP(400mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温で12時間振盪した。アセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。このBz化はもう一度同じように繰り返した。Bz化を行ったガラスをTHF/水(10ml/10ml)に浸し、領域2および4に360 nmのUV光(9.19 mW/cm2)を30分間照射した。得られたガラスは水、アセトンの順に洗浄後真空乾燥しガラス(82)を得た。構造確認の為、領域1および領域2のガラスを少々砕き玉尾酸化し、領域1から化合物83、領域2から化合物84を確認した。
化合物83:MALDI-TOF-MS, C48H62N2O14Na+ (M+Na)+の計算値:913.41, 実測値:913.3
化合物84:MALDI-TOF-MS, C41H58N2O13Na+ (M+Na)+の計算値:809.38, 実測値:809.3
【0095】
【化26】
【0096】
ガラス(82)の領域2および4のガラクトースの3位水酸基に2糖目のガラクトースを導入する。ガラス(82)にガラクトースドナー(85)(389mg)、モレキュラーシーブス4A(5g)、脱水ジクロロメタン(6ml)を加え−15℃に冷却した。そこに、TMSOTf(283μl)を加え、−15℃で2時間振盪した。ガラスをクロロホルム、DMF、DMF/飽和重曹水の順に洗浄した。得られたガラスに、DMF(10ml)、Boc2O(1ml)、飽和重曹水(1ml)加え、室温にて6時間振盪した。DMF/水、DMF、クロロホルムの順に洗浄した後、もう一度同じようにBoc化の反応を行った。得られたガラスにBz2O(600mg)、DMAP(400mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温で12時間振盪した。アセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。このBz化はもう一度同じように繰り返し、ガラス(86)を得た。構造確認の為、領域2のガラスを少々砕き玉尾酸化し、2糖化合物87を確認した。
化合物87:MALDI-TOF-MS, C75H90N2O19Na+ (M+Na)+の計算値:1345.60, 実測値:1345.7
【0097】
【化27】
【0098】
ガラス(86)にジクロロメタン(16ml)、TFA(4ml)を加え、室温にて30分間振盪した。反応液を除去した後、もう一度同じ反応を繰り返した。クロロホルム、DMFの順にガラスを洗浄後、DMF(8ml)、PITC(4ml)、NMM(960μl)加え、室温にて30分間振盪した。ガラスをDMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥する事により4位水酸基を脱保護したガラス(88)を得た。構造確認の為、領域1と2のガラスを少々砕きそれぞれ玉尾酸化し、領域1から化合物89を、領域2から化合物90を確認した。
化合物89:MALDI-TOF-MS, C36H41NO11Na+ (M+Na)+の計算値:686.26, 実測値:686.2
化合物90:MALDI-TOF-MS, C63H69NO16Na+ (M+Na)+の計算値:1118.45, 実測値:1118.3
【0099】
【化28】
【0100】
ガラス(88)にジクロロメタン(10ml)、NPPOC-OPNP(271mg)、DMAP(191mg)を加え室温にて12時間振盪した。反応液を除去し、アセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順にガラスを洗浄後、真空乾燥した。得られたガラスにもう一度同じ操作を繰り返し行い、4位水酸基にNPPOC基が導入されたガラス(91)を得た。構造確認の為、領域1のガラスを少々砕き玉尾酸化し、目的の化合物92を確認した。
化合物92:MALDI-TOF-MS, C46H50N2O15Na+ (M+Na)+の計算値:893.31, 実測値:893.3
【0101】
【化29】
【0102】
ガラス(91)の領域1および2を露光する。ガラス(91)をTHF/水(10ml/10ml)に浸し、領域1および2に360 nmのUV光(9.19 mW/cm2)を30分間照射した。水、アセトンの順に洗浄後真空乾燥した。得られたガラスに、Bz2O(600mg)、DMAP(400mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温で12時間振盪した。アセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。このBz化はもう一度同じように繰り返しガラス(93)を得た。構造確認の為、領域1および領域2のガラスを少々砕き玉尾酸化し、領域1から化合物94、領域2から化合物95を確認した。
化合物94:MALDI-TOF-MS, C43H45NO12Na+ (M+Na)+の計算値:790.28, 実測値:790.3
化合物95:MALDI-TOF-MS, C70H73NO17Na+ (M+Na)+の計算値:1222.48, 実測値:1222.5
【0103】
【化30】
【0104】
ガラス(93)の領域3を露光する。ガラス(93)をTHF/水(10ml/10ml)に浸し、領域3に360 nmのUV光(9.19 mW/cm2)を30分間照射した。水、アセトンの順に洗浄後真空乾燥し、ガラス(96)を得た。構造確認の為、領域3のガラスを少々砕き玉尾酸化し、化合物97を確認した。
化合物97:MALDI-TOF-MS, C36H41NO11Na+ (M+Na)+の計算値:686.26, 実測値:687.0
【0105】
【化31】
【0106】
ガラス(96)の領域3のガラクトースの4位水酸基に、2糖目としてグルコサミンを導入する。ガラス(96)にグルコサミンドナー(98)(198mg)、NIS(176mg)、モレキュラーシーブス4A(2g)、脱水ジクロロメタン(8ml)を加え−30℃に冷却した。そこに、TfOH(69μl)を加え、−30℃で3時間振盪した。ガラスをクロロホルム、DMF、チオ硫酸ナトリウム水溶液/アセトン、水、DMF、クロロホルムの順に洗浄後、真空乾燥しガラス(99)を得た。構造確認の為、領域3のガラスを少々砕き玉尾酸化し、2糖化合物100を確認した。
化合物100:MALDI-TOF-MS, C66H65Cl3N2O20Na+ (M+Na)+の計算値:1333.31, 実測値:1334.0
【0107】
【化32】
【0108】
ガラス(99)にBz2O(600mg)、DMAP(400mg)、ジクロロメタン(10ml)を加え室温で12時間振盪した。アセトン、2N-塩酸水/アセトン、水/アセトン、DMF、クロロホルムの順に洗浄し、真空乾燥した。このBz化はもう一度同じように繰り返した。得られたガラスをTHF/水(10ml/10ml)に浸し、領域4に360 nmのUV光(9.19 mW/cm2)を30分間照射した。水、アセトンの順に洗浄後真空乾燥し、ガラス(101)を得た。構造確認の為、領域4のガラスを少々砕き玉尾酸化し、化合物102を確認した。
化合物102:MALDI-TOF-MS, C63H69NO16Na+ (M+Na)+の計算値:1118.45, 実測値:1118.7
【0109】
【化33】
【0110】
ガラス(101)の領域4の1糖目のガラクトース4位水酸基に、ラクトースを導入する。ガラス(101)にラクトースドナー(103)(303mg)、NIS(176mg)、モレキュラーシーブス4A(5g)、脱水ジクロロメタン(6ml)を加え−30℃に冷却した。そこに、TfOH(69μl)を加え、−30℃で3時間振盪した。ガラスをクロロホルム、DMF、チオ硫酸ナトリウム水溶液/アセトン、水、DMF、クロロホルムの順に洗浄後、真空乾燥しガラス(104)を得た。構造確認の為、領域4のガラスを少々砕き玉尾酸化し、4糖化合物105を確認した。
化合物105:MALDI-TOF-MS, C124H117NO33Na+ (M+Na)+の計算値:2170.74, 実測値:2172.4
【0111】
【化34】
【0112】
以上の結果より、領域1にはガラクトース単糖(化合物94)、領域2にはGalβ1-3Gal(化合物95)、領域3にはGlcNβ1-4Gal(化合物100)、領域4にはGalβ1-4Glcβ1-4(Galβ1-3)Gal(化合物105)が選択的に合成できることがわかる。 ここで、領域4においては、基板上の3位水酸基に対してガラクトースドナー(85)を導入し、まず、Galβ1-3Gal2糖を得、その後この2糖をアクセプターとして使用し、これに、ラクトースドナー(103)を導入して4糖を合成している。
つまり、第1のアクセプターに第1のドナーを縮合させて第1の生成物を得、これを第2のアクセプターとし、これに第2のドナーを縮合させて第2の生成物を得る、という工程を順次必要な回数実施することにより、一枚の基板上で分岐構造及び/又は直鎖構造を有するコンビナトリアルライブラリーを効率よく合成することができる。
【0113】
実施例6
実施例1においてガラスの代わりに、板状PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の表面に真空紫外光(VUV)を照射した後、APTES(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)処理により表面にアミノ基を導入した樹脂基板を用いても、同様に基板上での糖鎖の作り分けが可能であった。
【0114】
実施例7
実施例1のグルコサミンドナー(15)において、3位水酸基の保護基を、Bocで保護された1重合のY基(-[(CH3CH2)2CH]N-CH2-CO-)に代えて、Bu4NFで選択的に脱保護可能なTBDMS基(tert-butyldimethylsilyl group: ターシャリー−ブチルジメチルシリル基)にし、6位水酸基の保護基をBocで保護された2重合のY基(-[(CH3CH2)2CH]N-CH2-CO-)に代えて、DDQで選択的に脱保護可能なPMB基(p-methoxybenzyl group: パラメトキシベンジル基)にしたドナーを用いても同様に基板上での糖鎖の作り分けが可能であった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に結合した、少なくとも2個の水酸基を有する化合物であって、そのすべての水酸基が、脱保護条件が相互に異なる少なくとも2種の保護基からなる群から選ばれる保護基で保護された化合物をアクセプターとして用い、該保護基を選択的に脱保護し、脱保護された水酸基に所望のドナー又はキャッピング基を選択的に導入して一枚の基板上でビルドアップ型コンビナトリアルライブラリーを合成する方法において、
(1)第1の保護された水酸基を選択的に脱保護する工程、
(2)脱保護された水酸基に、W基もしくはW(Z)基(Wは光分解により脱離可能な保護基を示し、ZはW基が脱離する光分解の条件でW基と同時に脱保護される基、もしくはW基が脱離する事により、活性化(もしくは不安定化)され、選択的に除去可能になる基を示す)を導入する工程、
(3)基板をn個(nは1以上の整数)の部位に分割し、該基板の第1の部位を選択的に露光し、露光部のW基もしくはW(Z)基を選択的に脱保護し、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第1のドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程、
(4)nが2以上の整数である場合、工程(3)を第2の部位から所望の第nの部位まで繰り返し、各部位において、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第2のドナー又はキャッピング基ないし所望の第nのドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程、
(5)第2の保護された水酸基について、工程(1)から(4)を繰り返し、第2の保護された水酸基を脱保護し、脱保護された水酸基に、W基もしくはW(Z)基を導入し、基板をn個(nは1以上の整数)の部位に分割し、該基板の第1の部位を選択的に露光し、露光部のW基もしくはW(Z)基を選択的に脱保護し、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第1のドナー又はキャッピング基を選択的に導入し、上記工程を第2の部位から所望の第nの部位まで繰り返し、各部位において、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第2のドナー又はキャッピング基ないし所望の第nのドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程、
(6)必要により、工程(5)を所望の、保護された水酸基について繰り返し、各水酸基の各部位において、選択的に脱保護された水酸基に、第1ないし第nのドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程を含み、
工程(1)〜(6)において、繰り返して使用する、W基もしくはW(Z)基、基板の分割部位の数n、ドナー又はキャッピング基は、同一でも異なっていても良い、
ことを特徴とする、ビルドアップ型コンビナトリアルライブラリー合成方法。
【請求項2】
アクセプターの水酸基の保護基がA(Y)m基(Aは酸性、塩基性、遷移金属又は遷移金属有機錯体、光分解、又は酵素により脱離可能な保護基を示す。Yは−NR1−CR2R3−CO−、R1は炭素数1〜6のアルキル基又は水素原子、R2及びR3は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜20のアルケニル基、炭素数6〜7のアリール基、又は炭素数7〜20のアリールアルキル基であり、同一でも異なっていても良く、mはYの重合度を示し、1以上の整数であり、mが2以上の整数の場合、各Y中のR1、R2、R3は、相互に同一でも異なっていても良い。)である請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1の保護された水酸基を選択的に脱保護する工程が、A(Y)m基のY基中の酸アミド結合をN末端側から逐次切り離す方法により重合度の小さなY基を選択的に脱保護する工程を含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
アクセプターの1個の水酸基の保護基がV基(Vは塩基性、酸化剤、フッ素化合物、光分解、又は酵素により脱離可能な保護基を示す。)であり、他の少なくとも1個の水酸基の保護基がA(Y)m基(Aは酸性、塩基性、遷移金属又は遷移金属有機錯体、光分解、又は酵素により脱離可能な保護基を示す。ただし、AがVと同一であることはなく、Vの脱離条件でAが脱離することはない。)であり、第1の保護された水酸基がV基で保護された水酸基である請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
ドナーがA(Y)m基により保護された少なくとも1個の水酸基を含み、工程(1)〜(6)を繰り返すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ドナーがV基により保護された少なくとも1個の水酸基を含む請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
アクセプターが糖である請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
保護基AがBoc基であり、保護基WがNPPOC基である請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
アクセプターが、リンカーを介して基板に固定されている請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
基板が、ガラスである請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項1】
基板上に結合した、少なくとも2個の水酸基を有する化合物であって、そのすべての水酸基が、脱保護条件が相互に異なる少なくとも2種の保護基からなる群から選ばれる保護基で保護された化合物をアクセプターとして用い、該保護基を選択的に脱保護し、脱保護された水酸基に所望のドナー又はキャッピング基を選択的に導入して一枚の基板上でビルドアップ型コンビナトリアルライブラリーを合成する方法において、
(1)第1の保護された水酸基を選択的に脱保護する工程、
(2)脱保護された水酸基に、W基もしくはW(Z)基(Wは光分解により脱離可能な保護基を示し、ZはW基が脱離する光分解の条件でW基と同時に脱保護される基、もしくはW基が脱離する事により、活性化(もしくは不安定化)され、選択的に除去可能になる基を示す)を導入する工程、
(3)基板をn個(nは1以上の整数)の部位に分割し、該基板の第1の部位を選択的に露光し、露光部のW基もしくはW(Z)基を選択的に脱保護し、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第1のドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程、
(4)nが2以上の整数である場合、工程(3)を第2の部位から所望の第nの部位まで繰り返し、各部位において、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第2のドナー又はキャッピング基ないし所望の第nのドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程、
(5)第2の保護された水酸基について、工程(1)から(4)を繰り返し、第2の保護された水酸基を脱保護し、脱保護された水酸基に、W基もしくはW(Z)基を導入し、基板をn個(nは1以上の整数)の部位に分割し、該基板の第1の部位を選択的に露光し、露光部のW基もしくはW(Z)基を選択的に脱保護し、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第1のドナー又はキャッピング基を選択的に導入し、上記工程を第2の部位から所望の第nの部位まで繰り返し、各部位において、選択的に脱保護された水酸基に、所望の第2のドナー又はキャッピング基ないし所望の第nのドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程、
(6)必要により、工程(5)を所望の、保護された水酸基について繰り返し、各水酸基の各部位において、選択的に脱保護された水酸基に、第1ないし第nのドナー又はキャッピング基を選択的に導入する工程を含み、
工程(1)〜(6)において、繰り返して使用する、W基もしくはW(Z)基、基板の分割部位の数n、ドナー又はキャッピング基は、同一でも異なっていても良い、
ことを特徴とする、ビルドアップ型コンビナトリアルライブラリー合成方法。
【請求項2】
アクセプターの水酸基の保護基がA(Y)m基(Aは酸性、塩基性、遷移金属又は遷移金属有機錯体、光分解、又は酵素により脱離可能な保護基を示す。Yは−NR1−CR2R3−CO−、R1は炭素数1〜6のアルキル基又は水素原子、R2及びR3は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜20のアルケニル基、炭素数6〜7のアリール基、又は炭素数7〜20のアリールアルキル基であり、同一でも異なっていても良く、mはYの重合度を示し、1以上の整数であり、mが2以上の整数の場合、各Y中のR1、R2、R3は、相互に同一でも異なっていても良い。)である請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1の保護された水酸基を選択的に脱保護する工程が、A(Y)m基のY基中の酸アミド結合をN末端側から逐次切り離す方法により重合度の小さなY基を選択的に脱保護する工程を含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
アクセプターの1個の水酸基の保護基がV基(Vは塩基性、酸化剤、フッ素化合物、光分解、又は酵素により脱離可能な保護基を示す。)であり、他の少なくとも1個の水酸基の保護基がA(Y)m基(Aは酸性、塩基性、遷移金属又は遷移金属有機錯体、光分解、又は酵素により脱離可能な保護基を示す。ただし、AがVと同一であることはなく、Vの脱離条件でAが脱離することはない。)であり、第1の保護された水酸基がV基で保護された水酸基である請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
ドナーがA(Y)m基により保護された少なくとも1個の水酸基を含み、工程(1)〜(6)を繰り返すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ドナーがV基により保護された少なくとも1個の水酸基を含む請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
アクセプターが糖である請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
保護基AがBoc基であり、保護基WがNPPOC基である請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
アクセプターが、リンカーを介して基板に固定されている請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
基板が、ガラスである請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−116803(P2012−116803A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269482(P2010−269482)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
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