説明

基板搬送アーム

【課題】基板を吸着パッドにより下側に保持して搬送し、基板を真空吸着して保持するワークステージ上に載置するための基板搬送アームにおいて、搬送アームの移動中に基板が吸着パッドから外れたとしても、簡便な手段により落下することを防止する。
【解決手段】複数の吸着パッド1を備え、基板を真空吸着し下側に保持して搬送する基板搬送アーム10において、回転軸部により回転可能に取り付けられた腕部と、該腕部に取り付けられ該周縁の吸着パッド1の下側に突出する捕手部と、該腕部の先端に位置する滑走部からなる、一対の落下防止具20、20が、前記複数の吸着パッド1のうち、周縁に位置する吸着パッド1の一部に隣接して配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プリント基板や液晶パネル用のガラス基板等を真空吸着にて保持し搬送する基板搬送用アームに関する。特に、反りが生じている基板であっても、基板を落とすことなく搬送することができる、基板搬送アームの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント基板や液晶パネルなどの製造工程において、プリント基板や液晶パネルに使われるガラス基板等の搬送は、基板を搬送アームですくって持ち上げる方法(例えば特許文献1)と、搬送アームに取り付けた複数の吸着パッドで吸着して吊り下げる方法(例えば特許文献2)がある。
図5に基板を吸着パッドで吊り下げて搬送する搬送アームを供えた搬送装置の構成例を示す。同図は、搬送装置を横から見た図である。
搬送アーム10には、搬送対象となる基板11を吸着する複数の吸着パッド1が、下向きに取り付けられている。吸着パッド1は、主な構成としてパッド部2と軸部3からなる。パッド部は2基板に接触する部分であり、変形が可能なやわらかい樹脂でできている。また内部に真空供給路が形成されている。
【0003】
搬送する基板11の表面には、吸着パッド1のパッド部2が吸着しても許される領域が作られており、吸着パッド1は、その位置にあわせて搬送アーム10に取り付けられている。この吸着パッド1が吸着しても許される領域は、基板11に形成される回路等のパターンとパターンの間や、パターンの形成されない基板の周辺部であることが多い。
各吸着パッド1の軸部3には真空配管が接続され、基板11を吸着保持する際には真空が供給される。
搬送アーム10には、搬送アーム移動機構が取り付けられ、搬送アーム移動機構により、保持した基板11を所望の位置に移動させる。例えば、露光装置等の場合は、基板を搬送アーム10により保持して、ワークステージ上まで搬送し、ワークステージ上に載置して、ステージで真空吸着して保持させ、露光処理等を行う。
露光処理等が終わると、露光処理等が終わった基板は搬送アーム10により吸着保持され、ワークステージから搬出され、次の工程に送られる。
【0004】
搬送アーム移動機構は、Z方向ガイド13、X方向ガイド14に沿って搬送アーム10をZ方向(図面上下方向)、X方向(図面左右方向)に移動させるZ方向駆動部42およびX方向駆動部41から構成され、Z方向ガイド13はベースプレート15に取り付けられ、X方向ガイド14はZ方向駆動部42に取り付けられZ方向に移動する。
制御部30は、上記X方向駆動部41およびZ方向駆動部42を制御して、搬送アーム10を所望の位置に移動させるとともに、電磁弁31を駆動して搬送アーム10の吸着パッド1への真空の供給を制御して、吸着パッド1による基板11の吸着保持および解除を行う。
【0005】
図6は、図5の搬送アーム10の部分を拡大して示した図である。(a)は、吸着する前の搬送アームであり、(b)は吸着後の搬送アームを示す。
上記したように、吸着パッド1は主としてパッド部2と軸部3とから構成されている。パッド部2は、基板に触れる部分である。パッド部2の材質は柔らかい樹脂であり、ある程度の変形が可能である。
吸着パッド1は、軸部3において搬送アーム10の吸着パッド支持具10aに取り付けられる。
【0006】
搬送アーム10により搬送される基板11には、反りが生じているものがあり、特に、プリント基板においては、前工程での処理工程の結果、基板に反りが発生することがある。図6(a)においては、反りが生じている基板を示している(実際の基板の反りは数mm程度であるが、同図においては誇張して示している)。
図6を用いて、搬送アームが反った基板を保持する動作を説明する。
図6(a)において、搬送アーム10の吸着パッド1に真空が供給される。搬送アーム10は、基板11が載置してあるステージ15の直上に移動し、下降する。
次に、図6(b)に示すように、吸着パッド1のパッド部2が基板11に接触する。基板11は反っているが、基板の形状に合わせて軸部3の上下方向(Z方向)の位置が変化し、またパッド2も柔らかいために形状も変化する。これにより、基板11は吸着パッド1に吸着され保持される。次に、搬送アーム10が上昇し、基板11がステージから搬出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4052826号公報
【特許文献2】特許第4048464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、やはり基板に反りが生じていると、各吸着パッドが保持する面が傾いており、パッド部の密着が十分ではない場合がある。そのため、一部の吸着パッドが外れたりすると、これにともなって多数の吸着パッドが外れ、稀に基板が落下する場合がある。
特に、基板を垂直上下に搬送する場合に比べて、左右水平方向に搬送するときには、吸着パッドが支持する方向とは異なる方向に力が働くために吸着パッドが外れやすい。水平方向に搬送中に基板が落下した場合には、基板に傷がつくだけではなく、基板が予期しない方向に飛来し、衝突した装置自体にも傷がつくという問題があった。
【0009】
吸着搬送方式において落下を防止するには、基板の下面で保持する必要があるため、基板を吸着するときには退避して、吸着して基板を持ち上げた後には、下面に回り込んで保持する機構と動力源が別途必要となり、また、その動作時間が余分にかかる。
【0010】
以上により、本発明は、基板を吸着パッドにより下側に保持して搬送し、基板をワークステージ上に載置するための基板搬送アームにおいて、搬送アームの移動中に基板が吸着パッドから外れたとしても、簡便な手段により、落下することを防止しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、複数の吸着パッドを備え、基板を真空吸着し下側に保持して搬送する基板搬送アームにおいて、回転軸部により回転可能に取り付けられた腕部と、該腕部に取り付けられ該周縁の吸着パッドの下側に突出する捕手部と、該腕部の先端に位置する滑走部からなる、一対の落下防止具が、前記複数の吸着パッドのうち、周縁に位置する吸着パッドの一部に隣接して配置されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、滑走部は車輪よりなり、車輪の回転軸が前記腕部の回転軸部よりも前記吸着パッドに対して外側に位置することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記落下防止具は、前記基板搬送アームの水平搬送方向の前後に設けられていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、回転軸部の下側には、前記腕部が吸着パッド側に回転することを制限する、弾性部材よりなるストッパが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板が吸着パッドから外れても、落下防止具の捕手部によって受け止められるために落下することがない。しかも、基板吸着時には基板が置かれているステージの表面を、この落下防止具が滑走して外側に退避するため、吸着動作を妨げることがなく、基板を傷つけることもない。また、吸着時に退避させるための動力源も必要とせず、退避のための動作時間も特に必要としない。
【0016】
また、本発明によれば、滑走部が車輪である場合には、車輪の回転軸が腕部の回転軸よりも外側に設けられることにより、外側に向かって容易に滑走することができる。
【0017】
また、本発明によれば、落下防止具は、搬送アームの水平移動方向の前後に設けられていることによって、水平搬送中に基板が吸着パッドから外れたとしても、その搬送方向に基板が飛んで装置内で衝突することを防ぐことができる。
【0018】
また、本発明によれば、落下防止具の回転軸部の下方には、腕部が内側に回転することを防止するストッパが設けられていることにより、腕部が過度に内側に回転して基板を傷つけることもない。ストッパを弾性部材により構成すれば、腕部と衝突したときの衝撃を吸収することができるので、吸着パッド支持具が揺れず、吸着パッドが基板から外れにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかる基板搬送アームの全体構成図である。
【図2】本発明にかかる基板落下防止機構の動作を説明するための図である。
【図3】本発明にかかる搬送アームの斜視図である。
【図4】本発明の他の実施例を示す図である。
【図5】従来例にかかる基板搬送アームの全体構成図である。
【図6】従来例にかかる吸着パッドの動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に、本発明の実施例の搬送アームを備えた搬送装置の構成を示す。図5との違いは、落下防止具20を備えることである。その他の構成については、基本的には図5の構成と同じである。
搬送アーム10の吸着パッド支持具10aには、基板11を吸着するためのパッド部2と軸部3からなる吸着パッド1が、複数個、基板を吸着する側を下向きにして取り付けられている。吸着パッド支持具10aは、例えば金属の板材からなるプレート状の支持具である。
パッド部2は、例えば変形が可能な柔らかい樹脂やゴムで形成された吸盤であり、軸部3には内部に真空供給路が形成されている。吸着パッド1は、例えば基板の周縁部に対応した位置や、基板11に形成される回路等のパターンとパターンの間に対応した位置に設けられる。
【0021】
搬送アーム10には、搬送アーム移動機構が取り付けられ、この搬送アーム移動機構により、保持した基板11を所望の位置に移動する。
搬送アーム移動機構は、X方向駆動部41およびZ方向駆動部42から構成され、Z方向ガイド13、X方向ガイド14に沿って、搬送アーム10を移動させる。なお、Y方向(図面手前奥方向)移動機構を設けて、Y方向(図面手前奥方向)に移動するように構成してもよい。
制御部30は、上記X方向駆動部41およびZ方向駆動部42を制御して、搬送アーム10を所望の位置に移動させるとともに、電磁弁31を駆動して、搬送アーム10の吸着パッド1への真空の供給を制御して、吸着パッド1による基板11の吸着保持および解除を行う。
【0022】
搬送アーム10の吸着パッド支持具10aの側面には、基板の落下を防止するための落下防止具20が取り付けられている。この落下防止具20の動作について以下に説明する。
図2(a)、(b)、(c)はそれぞれ、本発明の落下防止具の動作を説明するための図である。
図2(a)は、搬送アーム10の吸着パッド1が、ステージ12上に置かれた基板11を吸着する前の状態を示している。ここで示した吸着パッド1は、複数配置された吸着パッド1のうち、水平方向で周縁に位置する吸着パッドである。落下防止具20は、この周縁に位置する吸着パッドの一部に隣接するように設けられる。
搬送アーム10の吸着パッド支持具10aの側面には、落下防止具20の腕部21を回転可能に取り付ける、例えば蝶番である、回転軸部22が設けられている。また、吸着パッド支持具10aの側面における回転軸部22の下方には、腕部21が吸着パッド1側に回転することを制限するストッパ25が設けられている。ストッパ25は樹脂または金属であり、樹脂で構成する場合は、例えばゴムなどの弾性部材を用いることができる。
【0023】
以下では、腕部21の回転方向について、吸着パッド1側を内側、反対方向を外側という。腕部21には、これが垂下した状態で内側である部位に、突出した捕手部24が設けられている。
腕部21の垂直下方にある先端側には、滑走部23が設けられている。滑走部23は、例えば車輪であり、その車輪の回転軸が腕部21の回転軸部22の回転軸よりも外側に設けられている。
【0024】
図2(b)は、吸着パッド1が、基板11を吸着完了した状態を示している。基板11は、吸着パッド1のパッド部2が密着して、ここでは不図示の真空配管により排気されて、パッド部2内が真空状態となることにより吸着保持されている。
腕部21は、吸着パッド支持具10aが下方に移動するにともない、滑走部23が基板が置かれているステージ12に押し当てられて、外側に滑走していくことにより、同じく外側に回転して捕手部24を一旦退避させる。このとき、車輪の回転軸が腕部21の中心軸よりも外側に設けられていることにより、車輪は外側に向かって容易に滑走できる。
【0025】
図2(c)は、吸着された基板11が吊り下げられた状態を示している。
図2(b)において、基板を吸着完了した後は、搬送アーム10の吸着パッド支持具10aが直上に引き上げられる。すると、自重により滑走部23が内側に滑走して、腕部21も内側に回転し、もとの垂下した状態に戻ることとなる。このとき、捕手部24は吸着された基板11の下方に位置し、この基板11の縁よりも内側に回り込んだ状態で静止する。
捕手部24は、基板11とのあいだに間隙をもって静止している。これにより、基板11が吸着パッド1から外れたとしても、捕手部24によって受け止められるため、落下することがない。
なお、捕手部24は落下しようとする基板11を受け止めることができれば足り、基板11と密着させる必要はない。
【0026】
このような落下防止具20は、例えば以下のように配置される。図3(a)は搬送アーム10の斜視図である。
吸着パッド支持具10aの下面には、基板の周縁部に対応する位置に吸着パッド1が並んで配置されている。この吸着パッド支持具10aの側面に、一対となる落下防止具20、20が、例えば4箇所で2対、対向するように配置されている(一箇所は不図示)。設置個数はこれに限られるものではなく、4個以上設けてもよい。
【0027】
落下防止具20は、搬送アーム10の水平搬送方向で吸着パッド支持具10aの前後に設けられていることによって、水平移動時に基板が吸着パッドから外れたとしても、水平搬送方向に基板が飛んで装置の内部に衝突することを防ぐことができる。例えばこの図においては、矢印で示した水平方向に移動するときに、図示の配置であれば基板が飛ぶことを防ぐことができる。
図3(b)は、図3(a)に示した落下防止具配置の応用例を示す図である。
この図においては、図3(a)で示した落下防止具に加えて、水平方向で直交する2方向に対して搬送する場合を考慮して、2方向の前後に落下防止具が配置されている。この場合は、搬送アームが図3(b)に矢印で示したいずれの方向に移動した場合でも、移動中に基板が吸着パッドから外れたときに飛んでしまうという問題を解決することが出来る。
【0028】
このように、本発明の落下防止具は、回転軸部により回転可能に取り付けられた腕部と、腕部に設けられ吸着パッド側に突出する捕手部と、腕部の先端に位置する滑走部とを備えている。この落下防止具が、複数設けられ、少なくとも回転方向において対向する一対をなし、落下防止機構を構成している。
そのため、基板から吸着パッドから外れても、捕手部によって受け止められるために落下することがない。しかも、この落下防止具が基板吸着時には滑走して外側に退避するため、吸着動作を妨げることがなく、基板を傷つけることもない。また、捕手部を吸着時に退避させたり、吸着後に基板の下側に回りこませたりする動力源も必要とせず、退避のための動作時間も特に必要としない。
【0029】
また、滑走部が車輪である場合には、その車輪の回転軸が腕部の回転軸よりも外側に設けられることにより、容易に滑走することができる。
【0030】
また、落下防止具は、その回転方向が搬送アームの水平搬送方向で、吸着パッド支持具の前後に設けられていることによって、水平搬送中に基板が吸着パッドから外れたときに、基板が飛んで装置内で衝突することを防ぐことができる。
【0031】
また、落下防止具の回転軸部の下方には、腕部が内側に回転することを防止するストッパが設けられていることにより、腕部が過度に内側に回転して基板を傷つけることもない。ストッパを弾性部材により構成すれば、腕部と衝突したときの衝撃を吸収することができるので、吸着パッド支持具に衝撃が伝わらず、吸着パッドが基板から外れにくくなる。
【0032】
上記では、滑走部23が車輪である場合を例として説明したが、別の形態によっても実現できる。図4は本発明の他の実施例を示す図である。この図において、滑走部23以外の構成は、図2(a)と同様であるから説明を省略する。
図4において、滑走部23は腕部21をそのまま延伸して、先端を回転方向外側に向けて橇(そり)状に湾曲させた形状をしている。この場合においても、滑走部23の表面がある程度滑らかであれば、吸着パッド支持具10aが加工すると、落下防止具20はステージ12上を滑走して、図2に示したものと同様の作用を働かせることができる。
このように、腕部21の先端を橇状に湾曲させた滑走部23によって構成すると、車輪で構成する場合よりも部品点数が少なく、車輪部の組み立ても不要である。
【符号の説明】
【0033】
1 吸着パッド
2 パッド部
3 軸部
10 搬送アーム
10a 吸着パッド支持具
11 基板
12 ステージ
13 Z方向ガイド
14 X方向ガイド
15 ベースプレート
20 落下防止具
21 腕部
22 回転軸部
23 滑走部
24 捕手部
25 ストッパ
30 制御部
31 電磁弁
32 真空配管
41 X方向駆動部
42 Z方向駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吸着パッドを備え、基板を真空吸着し下側に保持して搬送する基板搬送アームにおいて、
回転軸部により回転可能に取り付けられた腕部と、該腕部に取り付けられ該周縁の吸着パッドの下側に突出する捕手部と、該腕部の先端に位置する滑走部からなる、一対の落下防止具が、前記複数の吸着パッドのうち、周縁に位置する吸着パッドの一部に隣接して配置されていることを特徴とする基板搬送アーム。
【請求項2】
前記滑走部は車輪よりなり、該車輪の回転軸が前記腕部の回転軸部よりも前記吸着パッドに対して外側に位置することを特徴とする請求項1に記載の基板搬送アーム。
【請求項3】
前記落下防止具は、前記基板搬送アームの水平搬送方向の前後に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の基板搬送アーム
【請求項4】
前記回転軸部の下側には、前記腕部が吸着パッド側に回転することを制限する、弾性部材よりなるストッパが設けられていることを特徴とする請求項1ないし3に記載の基板搬送アーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−45946(P2011−45946A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195140(P2009−195140)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】