説明

基板表面加熱装置及び基板表面加熱方法

【課題】基板表面の加熱の深さ及び表面温度を正確に制御する。
【解決手段】加速された電子を基板表面に照射させて基板表面を加熱する基板表面加熱装置において、真空容器11内に配置した対向電極12間で気体を放電させ、対向電極12間に電子を生成する電子生成手段と、電子を真空容器11内に設置した基板18の表面に照射するために、対向電極12及び基板18に直流バイアスを印加するバイアス印加手段と、照射された電子の量を電流値として読み取り、電流値を積算することによって基板18への電子の照射量を制御する照射制御手段と、を有することを特徴とする基板表面加熱装置が提供される。これにより、基板18の表面の加熱の深さ及び表面温度が正確に制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板表面加熱装置及び基板表面加熱方法に関し、特に真空中で加速された電子を基板表面に照射する基板表面加熱装置及びその加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置製造における加熱処理(アニール)は、半導体材料の結晶性回復やドーパント不純物拡散、電気的活性化で主に行われる。昨今の半導体素子の微細化に伴い、加熱処理は不必要な原子拡散の要因となることから、深さ50nm以下の極浅接合の形成用途など、表面から原子層オーダー(0.1〜1nm)の領域での加熱技術が必要とされている。
【0003】
現在、表面加熱技術として、赤外線によるRTA(Rapid Thermal Annealing)や紫外光によるレーザーアニールがある。
赤外線によるアニールでは、深さ方向に対する分解能が低い。このため深さ方向の温度を充分に制御できない。一方、紫外光のレーザーアニールを用いても、分解能はシリコン基板で深さ5nm程度であり、原子層オーダーでの加熱は困難である。
【0004】
また、プラズマ中の活性種を照射する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、試料を構成する原子との弾性衝突による活性種侵入に対する阻止能が大きく、極浅領域での加熱が可能となる。しかし、活性種を衝突させる方法は、活性種自体の質量が大きく、素子表面のダメージを誘発する。従って、この方法は深さ50nm以下の極浅接合の用途には不向きである。
【0005】
この点、電子を照射する方法は有効である。電子を所定の電圧で加速して照射した場合、固体中では電子の侵入長を極めて短く制御できるからである。例えば、電圧が1keV以下での電子の平均自由行程1nm以下である。
【0006】
電子を照射する方法の電子源としては、プラズマ中に発生する電子の照射が開示されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【特許文献1】特開2003−68666号公報
【特許文献2】特開平8−165563号公報
【特許文献3】特開2001−28343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開平8-165563号公報では、表面温度の制御に放射温度計が用いられており、表面からどの程度の深さまでが正確に加熱されているかの制御性に欠ける。
【0008】
一方、特開2001-28343号公報では、プラズマ源とグリッド電極を対向させ、グリッド電極に正の電位を印加させている。そして、グリッド電極を通過した電子をガスに照射させプラズマ化し、基板の処理を施す装置構成が開示されている。
【0009】
このような構成では、基板がグリッド電極の下方に配置されているため、基板の直上においては、均一な電界が形成されず、電子の衝突散乱によるエネルギー分布が大きくなる。さらに、プラズマ源として、アーク放電を用いているため、プラズマ源の電子密度に分布が生じ、基板への均一な量の電子照射ができないという問題がある。また、100V以下の低電圧加速において、グリッド電極への電子流入により、試料への照射量を十分に得ることが難しい。
【0010】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、基板表面の加熱処理に関し、制御性に優れた基板表面加熱装置及びその加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では上記課題を解決するために、加速された電子を基板表面に照射させて基板表面を加熱する基板表面加熱装置において、真空容器内に配置した電極間で気体を放電させ、前記電極間に電子を生成する電子生成手段と、前記電子を前記真空容器内に設置した基板の表面に照射するために、前記電極及び前記基板に直流バイアスを印加するバイアス印加手段と、照射された前記電子の量を電流値として読み取り、電流値を積算することによって前記基板への前記電子の照射量を制御する照射制御手段と、を有することを特徴とする基板表面加熱装置が提供される。
【0012】
また、本発明では、加速された電子を基板表面に照射させて基板表面を加熱する基板表面加熱方法において、真空容器内に配置した電極間で気体を放電させ、前記電極間に電子を生成するステップと、前記電子を前記真空容器内に設置した基板の表面に照射するために、前記電極及び前記基板に直流バイアスを印加するステップと、照射された前記電子の量を電流値として読み取り、電流値を積算することによって前記基板への前記電子の照射量を制御するステップと、を有することを特徴とする基板表面加熱方法が提供される。
【0013】
これらの基板表面加熱装置、基板表面加熱方法では、真空容器内に配置した電極間で気体が放電され、電極間に電子が生成される。電極及び真空容器内に設置した基板には、直流バイアスが印加され、直流バイアスを印加することによって生じた直流電界中で電子が加速され、基板の表面に照射される。そして、照射された電子の量を電流値として読み取り、電流値を積算することによって基板への電子の照射量が制御される。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、基板表面加熱装置、基板表面加熱方法において、真空容器内に配置した電極間で気体を放電させ、電極間に電子を生成させた。電極及び真空容器内に設置した基板には、直流バイアスを印加し、直流バイアスを印加することによって生じた直流電界中で電子を加速させ、基板の表面に照射した。そして、照射された電子の量を電流値として読み取り、電流値を積算することによって基板への電子の照射量を制御するようにした。
【0015】
これにより、加速された電子を基板表面に照射させて基板表面を加熱する基板表面加熱装置及びその加熱方法において、加熱される深さ及び表面温度について制御性に優れた基板表面加熱装置及びその加熱方法の実現が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
最初に第1の実施の形態について説明する。
図1は基板表面加熱装置の基本構造を説明する要部断面模式図である。
【0017】
基板表面加熱装置10は、枚葉式の装置であり、真空容器11の上部に対向電極12が配置されている。対向電極12には、電源13が接続され、対向電極12で気体を放電させ、真空容器11に電子を生成する。そして、電源13には直流電源であるプラズマ基準電源14が接続され、プラズマ空間電位をプラズマ基準電源14により調整することができる。真空容器11は接地されている。尚、電源13は直流電源または交流電源のいずれでもよい。
【0018】
真空容器11の側部には、真空容器11内に放電用のガスを供給するためのガス導入口15と、ガスを排気するためのガス排気口16が設けられている。
真空容器11の下部には、基板支持台17が設置され、基板支持台17の上に基板18が設置されている。基板支持台17は、基板バイアス電源19に接続され、基板18に直流バイアスを印加できるようになっている。具体的には、プラズマ空間電位に対し、基板18が正の電位となるように、基板支持台17に直流バイアスを印加する。また、基板支持台17には例えば、抵抗過熱型ヒータやチラーからの冷媒を流すことが可能な金属配管を埋め込むことで、必要に応じて基板18全体の温度を室温以上、または以下に制御することができる。基板18の上には、シャッタ20が設置されている。
【0019】
基板バイアス電源19と接地間には、電流計21が設けられている。電流計21で計測され、読み取られた電流値は、信号経路を介してコントローラ22に送信される。そして、コントローラ22は、受信した電流値の積算量をもとに、制御信号をプラズマ基準電源14、基板バイアス電源19、シャッタ20に送信し、プラズマ基準電位、基板のバイアス、シャッタの状態を制御する。
【0020】
次に、基板18に電子を照射させ、加熱する深さ、表面温度を制御する方法について説明する。
図2は基板表面温度を制御する方法を説明するフロー図である。
【0021】
基板18を加熱する深さ、表面温度の制御は、基板の表面に照射される電子の照射時間を変化させ、照射量を直接的に計量することによって制御する。
先ず、シャッタ20を閉じたまま、放電用のガスとして、例えば希ガスであるAr(アルゴン)ガスをガス導入口15から導入する。そして、真空容器11内の雰囲気を所定の圧力に維持できるようにガス排気口16からArガスを排気する。例えば、Ar雰囲気の圧力を30Paとなるように、Arガスを導入、排気する。
【0022】
電源13から対向電極12に直流電圧を400V印加し、Arガスを放電させ、対向電極12間に低温プラズマを発生させ、真空容器11内に電子を生成させる(ステップS1)。
【0023】
プラズマ放電条件については、放電の安定性を確保するために、ガスの種類、圧力、放電電圧については固定する。尚、この基板表面加熱装置10では、プラズマ中心から基板表面までの距離は、例えば45cmである。そして、目的とする加熱の深さ、表面温度をコントローラ22に入力する。
【0024】
次に、入力した加熱の深さ、表面温度からコントローラ22の演算部に格納されているデータベースをもとに、コントローラ22内の演算によって基板バイアス電源19及びプラズマ基準電源14のバイアス値が決定される。
【0025】
これらのバイアス値は制御信号に変換され、制御手段によって基板バイアス電源19及びプラズマ基準電源14が制御される。
そして、電子を真空容器11内に設置した基板18の表面に照射するために、対向電極12及び基板18に直流バイアスが印加される(ステップS2)。
【0026】
即ち、プラズマ基準電源14によるプラズマ空間電位、基板バイアス電源19による基板18の直流バイアスの調整によって、プラズマ空間電位に対して、基板18が正の電位となるように直流電界が形成する。
【0027】
そして、プラズマ空間電位に対して、基板18が正の電位の条件では、プラズマ中の電子が基板18の方向へ加速する(ステップS3)。ここで、基板18に入射する電子は、その電位差(プラズマ空間電位と基板バイアス電位との電位差)で加速されたエネルギーを有している。
【0028】
そして、シャッタ20を開状態にし、基板18の表面に電子を照射する。照射された全ての電子量が電流値として電流計21で測定され、照射量がコントローラ22内で積算される。
【0029】
コントローラ22内のデータベースには、所定の電位差で加速された電子の照射量と、所定の加熱される深さ、表面温度の関係が格納されている。そして、電子の照射量(電流値×照射時間)を積算しながら、目標の温度に到達した時点で基板バイアス電源21及びプラズマ基準電源14をオフ状態またはシャッタを閉状態にする。即ち、所定の電位差で加速された電子の基板18への照射量が制御される(ステップS4)。
【0030】
図3は電子照射条件と加熱の深さ及び表面温度の関係を説明する図である。
この図は、照射条件が1〜4の場合について、加熱の深さ(加熱領域)と表面温度をシミュレーションにより算出した。計算をする際に、表面温度は照射する電子のエネルギーが加熱する深さにおいて全て熱に変換するものとして算出した。また基板全体の温度は計算を簡略化するために室温とした。電流については実測により求めた。尚、図3に示すデータは、コントローラ22の演算部に格納されているデータベースの一例であり、このデータ以外の照射条件のデータがコントローラ22内に格納されている。
【0031】
この図から、電位差が+10V(プラズマ空間電位に対し、基板バイアス電源+10V)の場合、電流値が13μA/cm2で1.5秒間、電子を基板18の表面に照射させると、電子の照射量の増加に伴い、加熱される深さは2nmで、基板18の表面が25℃から541℃まで上昇する。3.0秒の照射では、電子の照射量の増加に伴い、加熱される深さは2nmで、基板18の表面が25℃から1050℃まで上昇する。
【0032】
また、電位差が+15Vの場合、電流値が17μA/cm2で0.4秒間、電子を基板18の表面に照射させると、電子の照射量の増加に伴い、加熱される深さは1nmで、基板18の表面が25℃から599℃まで上昇する。0.8秒の照射では、電子の照射量の増加に伴い、加熱される深さは1nmで、基板18の表面が25℃から1170℃まで上昇する。
【0033】
そして、上述したように、加熱温度が目標の温度に到達した時点で基板バイアス電源19及びプラズマ基準電源14をオフ状態またはシャッタを閉状態にする。即ち、所定の電位差で加速された電子の照射量を計量することによって、加熱する深さと表面温度を制御することができる。
【0034】
このような方法によれば、プラズマ源と基板表面の間に直流電界を形成させ、且つ、所定の電位差で加速された電子の照射量を電流計で直接的に計量しているので、加熱の深さ、表面温度を正確に制御することができる。特に、プラズマ状態にわずかな変動が生じ、プラズマ中の電子密度に変動が生じても、所定の電位差で加速された電子の照射量を電流計で直接的に計量しているので、原子層オーダーで加熱する深さ、表面温度を正確に制御することができる。
【0035】
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態の説明では、図1と同一の要素については、同一の符号を付し、その詳細の説明については省略する。
図4は基板表面加熱装置の変形例を説明する要部断面模式図である。
【0036】
基板18を加熱する深さ、表面温度の制御は、バイパスライン23a、23b、23cの少なくとも一つを選択することにより基板の表面に照射される電子の通過距離を変化させ、照射量を直接的に計量することによって制御する。この制御では、バイパスラインとしての距離が長くなる程、基板18付近の電離した電子密度が減少し、基板18に入射する電子量が減少するという性質を利用する。
【0037】
この基板表面加熱装置30では、図1に示す部材の要素の他、真空容器11の側部に複数のバイパスライン23a、23b、23cが設けられている。また、真空容器11の中部には、真空容器11を上部と下部を離隔するバルブ24が設けられ、放電中は閉状態とする。真空容器11の下部には、真空容器11内のガスを排気するガス排気口25が設けられている。
【0038】
そして、基板バイアス電源19と接地間に電流計21が設けられ、電流計21で計測された電流値は、信号経路を介してコントローラ22に送信される。
コントローラ22は、受信した電流値をもとに、制御信号をプラズマ基準電源14、基板バイアス電源19、シャッタ20に送信し、プラズマ基準電位、基板のバイアス、シャッタの状態を制御する。さらに、コントローラ22は、制御信号を複数のバイパスライン23a、23b、23cに送信し、複数のバイパスライン23a、23b、23cの少なくとも一つが選択される。
【0039】
次に、基板18に電子を照射させ、加熱する深さ、表面温度を制御する方法について説明する。
先ず、シャッタ20を閉じたまま、放電用のガスとして、例えば希ガスであるArガスをガス導入口15から導入する。真空容器11内の雰囲気を所定の圧力に維持できるようにガス排気口16からArガスを排気する。例えば、Ar雰囲気の圧力を30Paとなるように、Arガスを導入、排気する。
【0040】
電源13から対向電極12に直流電圧を例えば、400V印加しArガスを放電させ、対向電極12間に、例えば低温プラズマを発生させ、電子を生成させる。ここで、プラズマ放電条件については、放電の安定性を確保するために、ガスの種類、圧力、放電電圧については固定させる。そして、目的とする加熱の深さ、表面温度をコントローラ22に入力する。
【0041】
次に、入力した加熱の深さ、表面温度からコントローラ22内に格納されているデータベースをもとに、コントローラ22内の演算によって基板バイアス電源19及びプラズマ基準電源14のバイアス値、照射時間、バイパスライン23a、23b、23cの少なくとも一つが決定される。ここで、同一のバイアス値、同一の照射時間でも、バイパスライン23aを選択する場合に比べ、バイパスライン23cを選択した方が、その距離が長い分、電子密度が減少し、表面温度をより低く制御することができる。
【0042】
バイアス値は制御信号に変換され、制御手段によって基板バイアス電源19及びプラズマ基準電源14が制御される。
そして、電子を真空容器11内に設置した基板18の表面に照射するために、対向電極12及び基板18に直流バイアスが印加される。
【0043】
即ち、プラズマ基準電源14によるプラズマ空間電位、基板バイアス電源19による基板18のバイアスの調整によって、プラズマ空間電位に対して、基板18が正の電位となるようにする。そして、プラズマ空間電位に対して、基板18が正の電位の条件では、プラズマ中の電子がバイパスライン23a、23b、23cの少なくとも一つを通して基板18の方向へ加速する。基板18に入射する電子は、その電位差(プラズマ空間電位と基板バイアス電位との電位差)で加速されたエネルギーを有している。
【0044】
そして、シャッタ20を開状態にし、基板18の表面にバイパスライン23a、23b、23cの少なくとも一つを通して照射される電子が電流値として電流計21で測定され、照射量がコントローラ22内で積算される。
【0045】
コントローラ22内の演算部のデータベースには、電位差で加速された電子の照射量と、加熱する深さ、表面温度、対向電極12と基板18間距離(バイパスライン)の関係が格納されている。そして、電子の照射量(電流値×照射時間)を積算しながら、目標の温度に到達した時点で基板バイアス電源19及びプラズマ基準電源14をオフ状態またはシャッタを閉状態にする。
【0046】
図5は電子照射条件と加熱の深さ及び表面温度の関係を説明する図である。
この図に示すように、電位差が+15V(プラズマ空間電位に対し、基板バイアス電源+15V)の場合、バイパスラインのいずれかを選択した場合の、電子照射による電流値を23aで1μA/cm2、23bで0.5μA/cm2、23cで0.25μA/cm2と仮定すると、10秒間の電子照射で、表面から深さ1nmの領域が、室温25℃からそれぞれ850、450、250℃まで加熱される。
【0047】
このような方法によれば、プラズマ放電条件、例えばガスの種類、圧力、放電電圧については固定させた状態で、バイパスライン23a、23b、23cの少なくとも一つを選択することにより、基板18の表面に到達する電子密度を変化させ、加熱する深さ、表面温度を制御することができる。
【0048】
即ち、プラズマ放電条件を変動させることなく、同一の放電条件で維持させたまま、バイパスライン23a、23b、23cのいずれかを選択することにより、対向電極12から基板18の表面までの電子の通過距離を変化させることにより、基板18の表面に到達する電子密度を変化させ、加熱する深さ、表面温度を制御することができる。
【0049】
次に、第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態の説明では、図1、2と同一の要素については、同一の符号を付し、その詳細の説明については省略する。
図6は基板表面加熱装置の変形例を説明する要部断面模式図である。
【0050】
基板18を加熱する深さ、表面温度の制御は、基板支持台17の位置を移動させることにより基板の表面に照射される電子の通過距離を変化させ、照射量を直接的に計量することによって制御する。この制御では、プラズマ源と基板18の距離が長くなる程、電子の真空容器11の内壁への衝突頻度が増大し、基板18に入射する電子密度が減少するという性質を利用する。
【0051】
この基板表面加熱装置40では、図1に示す部材の要素の他、基板支持台17が上下に移動できるようになっている。
そして、基板バイアス電源19と接地間に電流計21が設けられ、電流計21で計測された電流値は、信号経路を介してコントローラ22に送信される。
【0052】
コントローラ22は、受信した電流値をもとに、制御信号をプラズマ基準電源14、基板バイアス電源19、シャッタ20に送信し、プラズマ基準電位、基板のバイアス、シャッタ20の状態を制御する。さらに、コントローラ22は、制御信号を基板支持台17に送信し、その上下方向の位置を制御することができる。
【0053】
次に、基板18に電子を照射させ、加熱する深さ、表面温度を制御する方法について説明する。
先ず、シャッタ20を閉じたまま、放電用のガスとして、例えば希ガスであるArガスをガス導入口15から導入する。真空容器11内の雰囲気を所定の圧力に維持できるようにガス排気口16からArガスを排気する。例えば、Ar雰囲気の圧力を30Paとなるように、Arガスを導入、排気する。
【0054】
電源13から対向電極12に直流電圧を400V印加し、Arガスを放電させ、対向電極12間に、例えば低温プラズマを発生させ、電子を生成させる。ここで、プラズマ放電条件については、放電の安定性を確保するために、ガスの種類、圧力、放電電圧については固定させる。そして、目的とする加熱の深さ、表面温度をコントローラ22に入力する。
【0055】
次に、入力した加熱の深さ、表面温度からコントローラ22内に格納されているデータベースをもとに、コントローラ22内の演算によって基板バイアス電源19及びプラズマ基準電源14のバイアス値、照射時間、基板18の上下方向の位置が決定される。ここで、同一のバイアス値、同一の照射時間でも、プラズマ源と基板18が長い程、電子密度が減少し、表面温度をより低く制御することができる。
【0056】
バイアス値は制御信号に変換され、制御手段によって基板バイアス電源19及びプラズマ基準電源14が制御される。
そして、電子を真空容器11内に設置した基板18の表面に照射するために、対向電極12及び基板18に直流バイアスが印加される。
【0057】
即ち、プラズマ基準電源14によるプラズマ空間電位、基板バイアス電源19による基板18のバイアスの調整によって、プラズマ空間電位に対して、基板18が正の電位となるようにする。そして、プラズマ空間電位に対して、基板18が正の電位の条件では、プラズマ中の電子が基板18の方向へ加速する。ここで、基板18に入射する電子は、その電位差(プラズマ空間電位と基板バイアス電位との電位差)で加速されたエネルギーを有している。
【0058】
そして、シャッタ20を開状態にし、位置が固定された基板18の表面に照射される電子が電流値として電流計21で測定され、照射量がコントローラ22内で積算される。
コントローラ22内のデータベースには、電位差で加速された電子の照射量と、加熱する深さ、表面温度、通過距離(プラズマ源と基板との距離)の関係が格納されている。そして、電子の照射量(電流値×照射時間)を積算しながら、目標の温度に到達した時点で基板バイアス電源19及びプラズマ基準電源14をオフ状態またはシャッタ20を閉状態にする。
【0059】
図7は電子照射条件と加熱の深さ及び表面温度の関係を説明する図である。
この図に示すように、電位差が+15Vの場合、対向電極12と基板18間の距離を50、45、40cmとしたときの、前述の通り電子密度はプラズマ電極から離れるほど低くなることから、電子照射による電流値をそれぞれ2μA/cm2、1μA/cm2、0.5μA/cm2と仮定すると、5秒間の電子照射で、表面から深さ1nmの領域が、室温25℃からそれぞれ850、450、250℃まで加熱される。
【0060】
このような方法によれば、プラズマ放電条件、例えばガスの種類、圧力、放電電圧については固定させた状態で、基板18の位置を移動させることにより、基板18の表面に到達する電子密度を変化させ、加熱する深さ、表面温度を制御することができる。
【0061】
即ち、プラズマ放電条件を変動させることなく、同一の放電条件で維持させたまま、基板18の位置を移動させ、対向電極12から基板18の表面までの電子の通過距離を変化させることにより、基板18の表面に到達する電子密度を変化させ、加熱する深さ、表面温度を制御することができる。
【0062】
尚、上記の説明で、具体的にプラズマ空間電位に対して基板18が正の電位となるように制御するには、プラズマ空間電位に対する基板18の電位差を変化させ、電位差と電流の特性を測定することにより行う。
【0063】
例えば、電流計21で計量された電流が0(A)の場合は、プラズマ空間電位と基板18の電位が等電位にある。一方、負電流が流れた場合は、基板18の電位がプラズマ空間電位に対して正の電位となる。そして、その電位差と電流の特性を測定し、所定の電位差をプラズマ基準電源14、基板バイアス電源19の調整により決定する。このような方法により、正確にプラズマ空間電位と基板18の電位差を求めることができる。
【0064】
また、基板表面加熱装置10、30、40には、プラズマ放電用の電極として容量結合型の対向電極12を用いているが、電極の形状は特に容量結合型に限る必要はなく、誘導結合型でもよい。
【0065】
また、上記の第1、2、3の実施の形態は、複数以上の実施の形態を組み合わせたものでもよい。これにより、より正確に加熱の深さ、表面温度の制御を行うことができる。
(付記1) 加速された電子を基板表面に照射させて前記基板表面を加熱する基板表面加熱装置において、
真空容器内に配置した電極間で気体を放電させ、前記電極間に電子を生成する電子生成手段と、
前記電子を前記真空容器内に設置した基板の表面に照射するために、前記電極及び前記基板に直流バイアスを印加するバイアス印加手段と、
照射された前記電子の量を電流値として読み取り、電流値を積算することによって前記基板への前記電子の照射量を制御する照射制御手段と、
を有することを特徴とする基板表面加熱装置。
【0066】
(付記2) 前記電子を前記真空容器内に設置した前記基板の表面に照射することによって加熱される基板表面の深さが1乃至2nmであることを特徴とする付記1記載の基板表面加熱装置。
【0067】
(付記3) 前記基板への前記電子の照射量を制御する照射制御手段においては、前記電極から前記基板の表面までの前記電子の通過距離を変化させることによって制御する手段であることを特徴とする付記1又は2記載の基板表面加熱装置。
【0068】
(付記4) 前記電子の通過距離を変化させることによって制御する手段については、前記真空容器の側部に複数のバイパスラインの少なくとも一つを選択することによって制御する手段又は基板支持台が上下に移動させることによって制御する手段であることを特徴とする付記3記載の基板表面加熱装置。
【0069】
(付記5) 前記基板への前記電子の照射量を制御する照射制御手段においては、照射時間によって照射量を制御することを特徴とする付記1乃至4のいずれか1項に記載の基板表面加熱装置。
【0070】
(付記6) 加速された電子を基板表面に照射させて前記基板表面を加熱する基板表面加熱方法において、
真空容器内に配置した電極間で気体を放電させ、前記電極間に電子を生成するステップと、
前記電子を前記真空容器内に設置した基板の表面に照射するために、前記電極及び前記基板に直流バイアスを印加するステップと、
照射された前記電子の量を電流値として読み取り、電流値を積算することによって前記基板への前記電子の照射量を制御するステップと、
を有することを特徴とする基板表面加熱方法。
【0071】
(付記7) 前記電子を前記真空容器内に設置した前記基板の表面に照射することによって加熱される基板表面の深さが1乃至2nmであることを特徴とする付記6記載の基板表面加熱方法。
【0072】
(付記8) 前記基板への前記電子の照射量を制御するステップにおいては、前記電極から前記基板の表面までの前記電子の通過距離を変化させることによって制御するステップであることを特徴とする付記6又は7記載の基板表面加熱方法。
【0073】
(付記9) 前記電子の通過距離を変化させることによって制御する場合において、前記真空容器の側部に複数のバイパスラインの少なくとも一つを選択することによって制御するステップまたは基板支持台が上下に移動させることによって制御するステップであることを特徴とする付記8記載の基板表面加熱方法。
【0074】
(付記10) 前記基板への前記電子の照射量を制御するステップにおいては、照射時間によって照射量を制御することを特徴とする付記6乃至9のいずれか1項に記載の基板表面加熱方法。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】基板表面加熱装置の基本構造を説明する要部断面模式図である。
【図2】基板表面温度を制御する方法を説明するフロー図である。
【図3】電子照射条件と加熱の深さ及び表面温度の関係を説明する図である(その1)。
【図4】基板表面加熱装置の変形例を説明する要部断面模式図である(その1)。
【図5】電子照射条件と加熱の深さ及び表面温度の関係を説明する図である(その2)。
【図6】基板表面加熱装置の変形例を説明する要部断面模式図である(その2)。
【図7】電子照射条件と加熱の深さ及び表面温度の関係を説明する図である(その3)。
【符号の説明】
【0076】
10、30、40 基板表面加熱装置
11 真空容器
12 対向電極
13 電源
14 プラズマ基準電源
15 ガス導入口
16、25 ガス排気口
17 基板支持台
18 基板
19 基板バイアス電源
20 シャッタ
21 電流計
22 コントローラ
23a、23b、23c バイパスライン
24 バルブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速された電子を基板表面に照射させて前記基板表面を加熱する基板表面加熱装置において、
真空容器内に配置した電極間で気体を放電させ、前記電極間に電子を生成する電子生成手段と、
前記電子を前記真空容器内に設置した基板の表面に照射するために、前記電極及び前記基板に直流バイアスを印加するバイアス印加手段と、
照射された前記電子の量を電流値として読み取り、電流値を積算することによって前記基板への前記電子の照射量を制御する照射制御手段と、
を有することを特徴とする基板表面加熱装置。
【請求項2】
前記基板への前記電子の照射量を制御する照射制御手段においては、前記電極から前記基板の表面までの前記電子の通過距離を変化させることによって制御する手段であることを特徴とする請求項1記載の基板表面加熱装置。
【請求項3】
前記電子の通過距離を変化させることによって制御する手段については、前記真空容器の側部に複数のバイパスラインの少なくとも一つを選択することによって制御する手段又は基板支持台が上下に移動させることによって制御する手段であることを特徴とする請求項2記載の基板表面加熱装置。
【請求項4】
前記基板への前記電子の照射量を制御する照射制御手段においては、照射時間によって照射量を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板表面加熱装置。
【請求項5】
加速された電子を基板表面に照射させて前記基板表面を加熱する基板表面加熱方法において、
真空容器内に配置した電極間で気体を放電させ、前記電極間に電子を生成するステップと、
前記電子を前記真空容器内に設置した基板の表面に照射するために、前記電極及び前記基板に直流バイアスを印加するステップと、
照射された前記電子の量を電流値として読み取り、電流値を積算することによって前記基板への前記電子の照射量を制御するステップと、
を有することを特徴とする基板表面加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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