基質濃度の連続測定方法
小型化の要求に応えつつ、高い感度を確保することができ、かつ簡易に製造することができる分析用具を提供する。本発明はセンサに電圧を印加したときの応答に基づいて基質濃度を連続測定する方法に関する。本発明は、基質に起因する応答が得られる応答電圧E2を印加する応答電圧印加ステップと、基質に起因する応答が全くあるいは実質的に得られない非応答電圧E1を印加する非応答電圧印加ステップと、を含んでいる。好ましくは、応答電圧印加ステップと非応答電圧印加ステップとを交互に繰り返し行なう。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコースなどの基質濃度を連続測定する方法に関する。本発明は特に、体内に植え込んだグルコースセンサを利用して血糖値を連続測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血糖値の測定方法としては、例えば人体の腹部や腕部などに植え込んだグルコースセンサを利用して、間質液中のグルコース濃度を連続測定する方法がある。測定原理としては、主に電気化学法が採用されている。この場合のグルコースセンサは、少なくとも作用極および対極を有するものとされる。作用極には、例えばグルコースオキシダーゼ(GOD)が固定化されている。グルコース濃度は、作用極と対極との間に、0.3〜0.6V程度の定電圧を連続的に印加する一方で(図12(a)参照)、そのときに得られる応答電流(図12(b)参照)に基づいて連続測定される。
【0003】
応答電流値は、たとえばGODの触媒反応により発生した過酸化水素を、電気化学的に酸化することにより(たとえば特許文献1,2)、あるいはGODを介してグルコースから取り出した電子を、Osポリマーをメディエータとして利用して得ることができる(たとえば特許文献3参照)。
【0004】
一方、グルコース濃度の演算は、連続的に得られる応答電流値から定期的に電流をサンプリングし、サンプリング電流に基づいて行なわれる。
【0005】
しかしながら、応答電流には、間質液中のアスコルビン酸などの共存物質、あるいは電磁ノイズなどの外界環境によるバックグランド成分が含まれている。そのため、たとえば測定データが上昇傾向(あるいは下降傾向)にあったとしても、それが、グルコース濃度の上昇(あるいは下降)によるものなのか、バッググランド成分の上昇(あるいは下降)によるものなのかは、応答電流からは厳密に区別することは困難である。そのため、バックグランド成分の影響を受けやすい環境下では、グルコースセンサから得られる応答電流のシグナルの精度が悪化してしまう。
【0006】
また、作用極に固定化されたグルコース酸化還元酵素は、電圧の印加によってタンパクの変性を引き起こし、結果としてセンサの安定性が下がることがわかっている。このような安定性の低下は、図13においてグルコース酸化還元酵素としてGDHを用いた場合の残存活性を例示したように、電圧の大きさおよび電圧の印加時間に依存することがわかっている。すなわち、GDHなどのグルコース酸化還元酵素の安定性は、印加される電圧が大きいほど、あるいは電圧印加時間が長いほど低下する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007−516814号公報
【特許文献2】特表2007−535991号公報
【特許文献3】特表平10−505421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、グルコースなどの基質の連続測定において、測定精度および測定に使用されるセンサの安定性を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基質に電圧を印加したときの応答に基づいて基質濃度を連続測定する方法であって、基質に起因する応答が得られる応答電圧を印加する応答電圧印加ステップと、基質に起因する応答が全くあるいは実質的に得られない非応答電圧を印加する非応答電圧印加ステップと、を含んでいることを特徴とする、基質の連続測定方法である。
【0010】
好ましくは、前記応答電圧印加ステップと前記非応答電圧印加ステップとは、交互に繰り返し行なわれる。前記応答電圧印加ステップおよび前記非応答電圧印加ステップのそれぞれは、必ずしも定電圧の単一のパルスを印加することにより行なう必要はなく、たとえば電位の異なる複数の定電圧のパルスが組み合わさった階段状のパルスを印加することにより行なってもよい。
【0011】
本発明では、たとえば前記応答電圧印加ステップにおいて得られる応答と、前記非応答電圧印加ステップにおいて得られる応答と、の差分に基づいて基質の演算を行なう。この場合、前記非応答電圧印加ステップにおける印加電圧は、前記センサに印加する電圧を大きくしていったときに、前記基質に起因する応答が得られ始める印加電圧(反応電位)に対して、±0.5Vの範囲、好ましくは±25mVの範囲において設定される。
【0012】
本発明は、前記応答電圧印加ステップと前記非応答電圧印加ステップとを交互に所定数行った後に、前記非応答電圧よりも絶対値において小さい電圧を印加する待機ステップを含んでいてもよい。前記待機ステップは、前記センサを含む回路を開回路とすることにより行うようにしてもよい。
【0013】
前記センサは、たとえば体内に植え込んで使用するものである。前記センサは、酵素が固定化された電極を含んでいてもよい。もちろん、本発明は、体外に取り出した血液や間質液中のグルコースなどの基質濃度を測定する場合、血液や間質液以外の基質含有液、あるいは人体外の液体中の基質を測定する場合に適用することができる。
【0014】
前記基質は、たとえばグルコースであり、前記センサは、たとえばグルコースセンサである。前記グルコースセンサは、グルコース酸化還元酵素が固定化された電極を含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】グルコースの連続測定方法を実施するためのグルコース連続測定装置の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示したグルコース連続測定装置におけるグルコースセンサを、要部拡大図とともに示した全体斜視図である。
【図3】図1に示したグルコース連続測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】図2に示したグルコースセンサに対する電圧印加パターンの一例を説明するためのグラフである。
【図5】図4に示したパターンで電圧を印加したときの応答電流の一例を示すグラフである。
【図6】複数のグルコース濃度に対するボルタンメトリーの測定結果を同時に示すグラフである。
【図7】1ステップ中での反応電圧および非反応電圧の印加パルスの他の例を説明するためのグラフである。
【図8】実施例1におけるボルタンメトリーの測定結果を示すグラフである。
【図9】図9(a)および図9(b)は実施例1における応答電流の経時的変化の測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例1における応答特性の測定結果を示すグラフである。
【図11】実施例2における安定性の評価結果を示すグラフである。
【図12】図12(a)は従来におけるグルコースセンサに対する電圧印加のパターンを示すグラフであり、図12(b)は図12(a)に示した電圧印加に対する応答電流の一例を示すグラフである。
【図13】従来における酵素の残存活性の経時変化を示すグラフである。
【図14】図7(a)に示す階段状のパルス電圧を、酵素固定化電極に繰り返し印加した場合についての電流密度の変化を示すグラフである。
【図15】電流密度と、グルコース濃度との関係を示すグラフである。
【図16】酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合における応答電流の測定結果を示すグラフである。
【図17】酵素固定化電極に600mVの定電圧を連続して印加した場合における応答電流の測定結果を示すグラフである。
【図18】実施例4における安定性の評価結果を示すグラフである。
【図19】酵素固定化電極に定電圧を連続して印加した場合において、グルコース濃度を増加したときの応答電流値の変化を示すグラフである。
【図20】酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合において、グルコース濃度を増加したときの応答電流の変化を示すグラフである。
【図21】酵素固定化電極に定電圧を連続して印加した場合の応答電流I3と、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合の応答電流I4と、を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る基質連続測定方法について、体液中のグルコース濃度を測定する場合を例にとって、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1に示したグルコース連続測定装置1は、血液や間質液中のグルコース濃度を連続的に測定可能なものであり、人体の腹部や肩の皮膚に装着して使用するものである。このグルコース連続測定装置1は、筐体2、回路基板3およびグルコースセンサ4を備えている。
【0018】
筐体2は、グルコース連続測定装置1の外形をなすものであり、カバー20および基板21を含んでいる。カバー20および基板21は、これらによって規定される空間に回路基板3を収容するものであり、相互に固定されている。筐体2は、防水性あるいは耐水性を有しているのが好ましい。このような筐体2は、たとえば少なくともカバー20(必要に応じて基板21)を金属やポリプロピレン樹脂などの透水性の極めて低い材料により形成される。
【0019】
基板21は、グルコースセンサ4が挿通される部分であり、グルコースセンサ4の端部40を固定している。基板21には、接着フィルム5が固定されている。この接着フィルム5は、グルコース連続測定装置1を皮膚に固定するときに利用されるものである。接着フィルム5としては、両面に粘着性を有するテープを使用することができる。
【0020】
回路基板3は、グルコース連続測定装置1の所定の動作(たとえば電圧の印加、グルコース濃度の演算あるいは外部との通信)に必要な電子部品を搭載したものである。この回路基板3はさらに、後述するグルコースセンサ4の電極42(図2参照)に接触させるための端子30を備えている。この端子30は、グルコースセンサ4に電圧を印加し、グルコースセンサ4から応答電流値を得るために利用されるものである。
【0021】
グルコースセンサ4は、血液や間質液中のグルコース濃度に応じた応答を得るためのものである。このグルコースセンサ4は、端部40が皮膚6から突出して回路基板3の端子
30に接触しているとともに、その他の大部分が皮膚6に挿入されている。
【0022】
図2に示したように、グルコースセンサ4は、基板41、電極42および固定化酵素部43を有している。
【0023】
基板41は、電極42を支持するためのものであり、絶縁性および可撓性を有するシート状に形成されている。基板41は、端部41Aが筐体2の内部に存在している一方で、端部41Bが鋭利なものとして形成されている。端部10Bを鋭利な構造とすれば、皮膚6へのグルコースセンサ4の挿入を容易に行なうことができるようになり、使用者の痛みを低減することができる。
【0024】
基板40のための材料としては、人体への害がなく、適切な絶縁性を有するものであればよく、たとえばPET、PP、PEなどの熱可塑性樹脂、あるいはポリイミド樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を使用することができる。
【0025】
電極42は、固定化酵素部43に電圧を印加し、固定化酵素部43から電子を取り出すために利用されるものである。電極42は、作用極42Aおよび対極42Bを含んでいる。作用極42Aは、グルコースと電子授受を行う部分である。対極42Bは、作用極42Aとともに電圧印加に利用されるものである。電極42は、カーボンインクを用いたスクリーン印刷により形成することができる。
【0026】
固定化酵素43は、グルコースと作用極42Aとの間の電子授受を媒体するものである。この固定化酵素部43は、作用極42Aの端部42Aaにおいて、グルコース酸化還元酵素を固定化することにより形成されている。
【0027】
グルコース酸化還元酵素としては、グルコースオキシダーゼ(GOD)およびグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を使用することができる。グルコース酸化還元酵素の固定化方法としては、公知の種々の方法、たとえば重合性ゲル、ポリアクリルアミドやリンなどの高分子、リン脂質ポリマーにシランカップリング剤を導入したMPC重合体あるいはタンパク質膜を利用する方法を採用することができる。
【0028】
図3に示したように、グルコース連続測定装置1は、回路基板3およびグルコースセンサ4の他に、通信部10、電源11、制御部12、演算部13、および記憶部14をさらに備えている。
【0029】
通信部10は、グルコース連続測定装置1と外部の情報処理端末との間でデータ通信を行なうためのものである。この通信部10は、少なくとも送信部を有しており、必要に応じて受信部を含んでいる。
【0030】
データ通信は、たとえば無線通信手段(赤外線を使ったIrDAあるいは2.4GHzの周波数帯を使ったブルートゥース)を利用することができる。もちろん、グルコース連続測定装置1の通信部10と外部の情報処理端末の通信部とをケーブルなどを用いて有線でデータ通信を行なうようにしてもよい。
【0031】
外部の情報処理端末としては、たとえば人体にインスリンを投与するためのインスリン送出装置、簡易型血糖値測定装置、腕時計型表示機、あるいはパーソナルコンピュータを挙げることができる。
【0032】
グルコース連続測定装置1とインスリン送出装置とのデータ通信は、たとえばグルコース連続測定装置1でのグルコース濃度の測定結果を、インスリン送出装置に送信すること
により行なわれる。これにより、グルコース連続測定装置1からの測定データに基づいて、人体に投与すべきインスリン量をコントロールすることができる。
【0033】
グルコース連続測定装置1と簡易型血糖値測定装置とのデータ通信は、たとえば簡易血糖値測定装置での血糖値測定結果を、グルコース連続測定装置1に送信することにより行なわれる。これにより、グルコース連続測定装置1の測定結果と簡易血糖値測定装置での測定結果とを比較して、これらの測定結果が一定値以上乖離している場合には、グルコース連続測定装置1の校正を行なうことができる。また、簡易型血糖値測定装置に対しては、グルコース連続測定装置1において測定された生データ(応答電流)を送信するようにしてもよい。
【0034】
グルコース連続測定装置1と腕時計型表示機とのデータ通信は、たとえばグルコース連続測定装置1の血糖値測定結果を腕時計型表示機に送信することにより行なわれる。これにより、グルコース連続測定装置1が肩などのように使用者が視認しにくい位置に装着されていたとしても、グルコース連続測定装置1での測定結果を腕時計型表示機において表示させ、使用者に把握させることができる。
【0035】
グルコース連続測定装置1とパーソナルコンピュータとのデータ通信は、たとえばグルコース連続測定装置1の血糖値測定結果や生データ(応答電流)をパーソナルコンピュータに送信することにより行なわれる。これにより、パーソナルコンピュータにおいて、グルコース濃度の変遷をモニタすることができる。また、グルコース連続測定装置1に対しては、パーソナルコンピュータから校正用のデータを送信するようにしてもよい。
【0036】
電源11は、回路基板3やグルコースセンサ4へ電力を供給するための直流電源である。電源11としては、たとえば電源電圧が1〜3Vであるボタン電池が使用される。
【0037】
制御部12は、各種の動作、たとえば電圧印加のタイミング、印加電圧値、応答電流のサンプリング、グルコース濃度の演算、あるいは外部の情報処理端末との通信を制御するものである。
【0038】
演算部13は、各種の演算、たとえばグルコース濃度の演算の他、グルコース連続測定装置1の動作に必要な演算を行うものである。
【0039】
記憶部14は、各種の演算に必要なプログラムおよびデータ(たとえば検量線に関するデータ、補正データあるいは電圧印加パターンに関するデータ)を記憶したものである。この記憶部14はさらに、グルコースセンサ4からの応答電流値や演算されたグルコース濃度を記憶できるものであってもよい。
【0040】
制御部12、演算部13および記憶部14は、回路基板3に搭載された電子部品、たとえばCPU(あるいはMPU)、ROMおよびRAMにより実現される。
【0041】
ここで、グルコース連続測定装置1におけるグルコースセンサ4への電圧印加は、たとえば図4に示したパターンのようにして行なわれる。図示した例は、一定時間T2の非反応電圧E1を印加する状態と、一定時間T1の反応電圧E2を印加する状態の組み合わせを1ステップ(1パルス)として、このステップを繰り返し行ない、複数ステップ後に待機時間T3を設定したものである。また、図5として、図4に示した電圧印加パターンのときの応答電流の例を示した。
【0042】
非反応電圧E1は、グルコースが全く反応しないか、グルコースが反応してごくわずかで実質的にグルコースが反応しない電圧である(図6参照)。すなわち、非反応電圧E1
をグルコースセンサ4に印加したときの応答電流は、グルコースに起因する応答量が極めて少なく、主としてセンサに固有のバックグランド(感度)、共存物質に起因するバックグランドおよび電磁ノイズなどの外部環境に起因するバックグランドによるものである。
【0043】
この非反応電圧E1の大きさは、グルコースセンサ4の仕様(たとえば使用する酵素の量や固定化方法、あるいは電極の構成材料や反応面積)に応じて設定される。具体的には、非反応電圧E1は、グルコースセンサ4に印加する電圧を大きくしていったときに、グルコースに起因する応答電流が流れ始める電圧(反応電位)もしくは反応電位から±0.5V(好ましくは±25mV)の範囲とされる。図示したグルコースセンサ4では、非反応電圧E1は、たとえば−1〜1Vとされる。また、1ステップにおける非反応電圧E1の印加時間T2は、応答電流を一定値に安定化させることができる時間、たとえば0.1〜300secとされる。
【0044】
反応電圧E2は、十分な分解能をもってグルコースが反応する電位である(図6参照)。この反応電圧E2の大きさは、グルコースセンサ4の仕様(たとえば使用する酵素の量や固定化方法、あるいは電極の構成材料や反応面積)により設定されるが、たとえば−1〜1Vとされる。また、1ステップにおける反応電圧E2の印加時間T1は、応答電流の急激な変化がなくなる時間、たとえば0.1〜300μsecとされる。
【0045】
非反応電圧E1および反応電圧E2は、1ステップにおいて必ずしも図4に示したような定電圧の単一のパルスとしてグルコースセンサ4に印加する必要はなく、たとえば図7(a)〜図7(d)に示したように電位の異なる複数の定電圧のパルスが組み合わさった階段状のパルスとしてグルコースセンサ4に印加するようにしてもよい。1ステップにおいて非反応電圧E1および反応電圧E2を階段状のパルスとして印加する場合、図7(a)〜図7(d)では3つの定電圧を含んでいるが、定電圧の数は2つであっても4つ以上であってもよい。
【0046】
待機時間T3は、グルコースセンサ4に印加する電圧が、絶対値において非反応電圧E1よりもさらに小さな待機電圧E3を印加する状態である。この待機時間T3は、グルコースセンサ4に不必要に大きな電圧が印加されるのを回避するためものであり、たとえば0.1〜300secに設定される。待機時間T3における印加電圧(待機電圧)E3は、絶対値において0V以上非反応電圧E1未満に設定される。ここで、待機電圧E3を0Vに設定する方法としては、回路基板3には駆動電圧を印加しつつもグルコースセンサ4に印加する電圧を0Vとする方法の他、主電源をオフにする方法がある。もちろん、待機時間T3は、必ずしも必要なものではなく、また待機時間T3は、非反応電圧E1と反応電圧E2とを含む1ないし複数ステップ(たとえば2〜1500ステップ)の後で任意に設ければよい。
【0047】
以上のような印加電圧パターンでは、グルコース濃度の演算時において、反応電圧E2において応答電流I2(n)をサンプリングする一方で、応答電流をサンプリングしたのと同ステップでの非反応電圧印加時の応答電流I1(n)をサンプリングする。それぞれの電圧E1,E2を印加したときの電流値のサンプリングタイミングT1’,T2’は、応答電流値の変動が小さく比較的に応答電流が安定した状態のときに行なわれる。
【0048】
ただし、応答電流のサンプリングに代えて、たとえばインピーダンス、エネルギ、あるいは電量を応答として取得してもよい。
【0049】
一方、演算部13においては、非反応電圧E1の印加時にサンプリングされた応答電流を考慮してグルコース濃度の演算が行なわれる。典型的には、グルコース濃度は、反応電圧E2における応答電流I2(n)から非反応電圧E1における応答電流I1(n)を差
分した応答電流値(I2(n)−I1(n))から演算される。
【0050】
グルコース濃度の演算は、複数のステップからなる1サイクルにおいて1回行うようにしてもよいし、複数のサイクルから選択される1つのサイクルにおいて行なってもよい。また、1サイクル中において、各ステップごとにグルコース濃度を演算し、それらの演算結果の平均値をそのステップのグルコース濃度として決定してもよい。
【0051】
また、反応電圧E2における応答電流I2(n)、非反応電圧E1における応答電流I1(n)、あるいはこれらの応答電流値の差分値(I2(n)−I1(n))に関して、測定値の閾値、あるいは前回測定時との差分に関する閾値を設定し、グルコース濃度の演算前に閾値との比較を行なうようにしてもよい。これにより、それぞれのパラメータを演算に使用するのに適切な値であるかを判断し、グルコース濃度の演算(グルコースの測定)を行うか否かを判定することが可能になる。その結果、グルコース連続測定装置1では、より精度の高いグルコースの定量が可能となる。
【0052】
演算されたグルコース濃度は、主としてインスリンの投与量を決定するために使用され、必要に応じてグルコース連続測定装置1の校正のために使用される。校正用のグルコース濃度の演算は、複数のサイクルのそれぞれから任意に選択されるステップ毎に算出したグルコース濃度の平均値を採用するのが好ましい。
【0053】
上述のように、非反応電圧E1に対する応答電流は、グルコース反応とは全くまたは実質的に関係のないものであり、主としてバックグランド成分に起因するものである。そのため、非反応電圧E1に対応する応答電流を考慮すれば、バックグランド成分の影響を極力除外してグルコース濃度の演算が可能となるため測定精度を向上させることができる。
【0054】
また、電圧印加パターンとして、非反応電圧E1と反応電圧E2とをグルコースセンサ4に繰り返し印加するパターンでは、継続的に定電圧を印加する場合に比べて、単位時間当たりにグルコースセンサ4に印加される電圧(エネルギ)が小さくなる。そのため、グルコース酸化還元酵素の変性などによる劣化を抑制することができるため、長期間にわたってグルコースセンサ4の感度を安定化させ、グルコースセンサ4の寿命を長くすることができる。その結果、グルコースセンサ4の取替え頻度やグルコース連続測定装置1の校正頻度を減らすことができるようになり、使用者の操作負担および経済的負担が軽減される。さらに、グルコースセンサ4に印加される電圧(エネルギ)が小さくできれば、グルコースを連続測定する場合における消費電力を小さくすることが可能となるため、電池寿命を延ばすことができる。その結果、電池としてボタン電池のような使い捨て電池を使用する場合において、使用者のへの経済的負担を軽減することができる。特に、待機期間T3を設け、待機時間T3のときに電源をオフするようにすれば、確実に電池寿命を延ばすことができる。
【0055】
以上に説明したグルコース連続測定装置1では、グルコース濃度の演算機能がグルコース連続測定装置1に組み込まれていたが、グルコース連続測定装置1において応答電流値などの応答値を測定する一方で、グルコース濃度の演算を外部の情報処理端末に行なわせるようにしてもよい。
【0056】
また、上述の実施の形態では、非反応電圧E1による電圧の印加の後に反応電圧E2による電圧の印加を行なう場合を1サイクル(1パルス)として定義しているが、反応電圧E2による電圧の印加の後に非反応電圧E1による電圧の印加を行なう場合を1サイクル(1パルス)として定義してもよい。
【0057】
本発明は人体の体液中のグルコース濃度を測定する場合に限らず、グルコース以外の基
質、あるいは体液以外の基質含有液を用いる場合にも適用することができる。
【0058】
次に、本発明の効果について実施例として検討する。
【0059】
[実施例1]
本実施例では、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加したときの応答特性について検討した。
【0060】
(酵素固定化電極の作製)
酵素固定化電極は、カーボン電極の表面に、リン脂質ポリマーを介してGDHを固定化することにより作製した。カーボン電極の作製に当たっては、まず120mgのケッチェンブラック(ライオン(株)製)を十分に混合した粉末に流動パラフィンを100μL添加してよく混合して材料ペーストを形成した。材料ペーストは、面積3φのペースト電極作製用ベース電極(ビー・エー・エス社製)に詰め込み、ジュランコンロッドにて圧縮することでカーボン電極とした。リン脂質ポリマーとしては、シランカップリング剤としてのテトラエトキシシランを導入したMPC重合体(商品名「リピジュア」;日油社製)を使用した。酵素は、リン脂質修飾カーボン電極を1250U/mLのGDH溶液に浸漬することにより固定化した。
【0061】
(印加電圧の設定)
印加電圧は、先に作製した酵素固定化電極を用いて、グルコース応答の電圧依存性をボルタンメトリーにより測定した結果に基づいて決定した。
【0062】
ボルタンメトリーにおいて、グルコース濃度は600mg/dLに設定した。
【0063】
ボルタンメトリーにおける電極系は、作用極として先に作製した酵素固定化電極、対極として白金電極、および参照極として銀/塩化銀電極を使用した。
【0064】
ボルタンメトリーにおける掃引は、0V〜0.6Vの範囲において、掃引速度を0.1V/secとし、正方向および負方向のそれぞれについて行なった。ボルタンメトリーの測定結果については図8に示した。
【0065】
図8から分かるように、印加電圧が75mV付近からグルコースに応答する酸化電流が検出されることがわかる。この結果から、グルコース反応しないか実質的に反応しない非応答電圧E1については、以下の検討において余裕を見て100mVの定電圧に設定した。一方、グルコース応答を示す反応電圧E2については、非応答電圧E1との電位差を600mVに設定することとして、700mVの定電圧に設定した。
【0066】
(印加電圧パターン)
非応答電圧E1および応答電圧E2の印加時間T1,T2については10秒に設定した。
【0067】
待機時間T3は、40秒とした。ただし、待機時間T3は、4ステップ(4パルス)毎に酵素固定化電極を含む電極系が開回路(0V)となるように設定した。
【0068】
(グルコースの応答特性の測定)
応答特性は、水とともに攪拌子を収容した容器に、酵素固定化電極(作用極)、白金電極(対極)、および銀/塩化銀電極(参照極)を浸漬した状態において、スターラによって攪拌子を回転させつつ、特定のタイミングでグルコースを添加することにより行なった。
【0069】
グルコースの添加は、4ステップ(4パルス)を1サイクルとし、4サイクル目の待機時間T3に行なった。グルコースの添加は3回行い、グルコース濃度を0mg/dL→5
0mg/dL→100mg/dL→600mg/dLと順次変化させた。
【0070】
応答電流は、非反応電圧E1および反応電圧E2をそれぞれ0mVおよび600mVの定電圧に設定して測定した。応答電流の測定結果については、図9(a)に示した。参考として、非反応電圧E1および反応電圧E2をそれぞれ100mVおよび700mVに設定して応答電流を測定した場合について図9(b)に示した。
【0071】
また、非応答電圧E1および応答電圧E2の印加における10秒後の電流値I1,I2をそれぞれサンプリングし、両者の差分値とグルコース濃度の関係を図10に示した。図10においては、応答電流の差分値は、酵素固定化電極の面積で割った値(電流密度)として示した。
【0072】
図9(a)および図9(b)から分かるように、グルコースの添加により電流値が増加していることが確認された。すなわち、応答電圧E2では、グルコースが反応し、それによって応答電流が生じていることが確認できた。
【0073】
また、応答電圧E2から非応答電圧E1に印加電圧を下げたとき、非応答電圧E1を100mVに設定した場合には、非応答電圧E1を0mVに設定した場合に比べて、応答電流の変動量(バックグランド)が著しく小さくなっている。
【0074】
一方、図10に示したように、非応答電圧E1を100mVに設定した場合には、非応答電圧E1を0mVに設定した場合に比べて、応答電圧E2の印加時の応答電流I2と非応答電圧E1の印加時の応答電流I1との差分(I2−I1)がグルコース濃度に関係なく小さくなっている。この点からも、非応答電圧E1を100mVに設定した場合、すなわち非応答電圧E1を0Vよりも大きく設定した場合には、バックグランドによる影響が小さく、応答感度も高いことがわかった。
【0075】
[実施例2]
本実施例では、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加したときの酵素固定化電極の安定性について評価した。
【0076】
(酵素固定化電極の作製)
酵素固定化電極は、カーボン電極の表面に、リン脂質ポリマーを介してGDHを固定化することにより作製した。カーボン電極は、ポリイミド基材の表面に形成した。電極材料としては、ケッチェンブラック(ライオン(株)製)40wt%、バインダーとしてのポリエステル樹脂40%wt、および溶剤としてのイソホロン20wt%を混合した印刷用インクを用いた。印刷用インクは、ポリイミド基材の表面へ、厚みが10μmになるように印刷し、150℃の環境下で30分間乾燥させて電極とした。リン脂質ポリマーとしては、シランカップリング剤としてのテトラエトキシシランを導入したMPC重合体(商品名「リピジュア」;日油社製)を使用した。酵素は、リン脂質修飾カーボン電極を1250U/mLのGDH溶液に浸漬することにより固定化した。
【0077】
(安定性の評価)
安定性は、600mg/dLのグルコース溶液を用いて応答電流を連続して測定した後の酵素固定化電極の感度として評価した。
【0078】
電極系および印加電圧パターンは、実施例1と同様にした。ただし、非応答電圧E1お
よび応答電圧E2はそれぞれ100mVおよび700mVとした。
【0079】
電圧印加時間は合計18時間とし、固定化電極の感度は応答電流として6時間ごとに測定した。比較として、600mVの定電圧を連続して印加した場合の感度を評価した。これらの測定方法における感度については、初期感度(0時間応答電流)に対する応答電流の相対値として図11に示した。
【0080】
図11から分かるように、比較例としての定電圧を連続的に印加する方法では、経時的に応答電流が下がり酵素電極の劣化が確認された。これに対して、パルス電圧を繰り返し印加する方法では、経時的な応答電流の減少は確認されず、酵素固定化電極の安定性が良好であることが確認された。これに関して、電圧の印加に対してGDHは変性し劣化するが、定電圧を連続的に印加する方法と比べて、パルス電圧を繰り返し印加する方法は、同じ測定時間において全体的に応答電圧を印加する時間は短い。従って、応答電圧を印加する時間が短い分、GDHの劣化は抑制され、GDHの安定性が保たれると考えられる。
【0081】
[実施例3]
実施例3では、段階状のパルス電圧の性能評価について検討した。酵素固定化電極の作製及び電極系は、実施例1と同様である。図14は、図7(a)に示す階段状のパルス電圧を、酵素固定化電極に繰り返し印加した場合についての電流密度の変化を示すグラフである。応答電流値を酵素固定化電極の面積で割って算出した値を、電流密度としている。図14では、階段状のパルス電圧を点線で示しており、電流密度を実線で示している。非応答電圧E1を印加する状態と、応答電圧E2を印加する状態と、中間電圧を印加する状態との組み合わせを1パルスとしている。印加電圧については、非応答電圧E1を300mVの定電圧に設定し、応答電圧E2を600mVの定電圧に設定し、中間電圧を450mVの定電圧に設定している。
【0082】
図15は、電流密度と、グルコース濃度との関係を示すグラフである。非応答電圧E1を印加した後の応答電流I1と、応答電圧E2を印加した後の応答電流I2とを、それぞれサンプリングし、応答電流I1と応答電流I2との差分値を算出する。応答電流の差分値を酵素固定化電極の面積で割って算出した値を、電流密度としている。
【0083】
図15では、非応答電圧E1を印加する状態と、応答電圧E2を印加する状態と、中間電圧を印加する状態との組み合わせを1パルスとしているパルス電圧を、階段状のパルス電圧として示している。印加電圧については、非応答電圧E1を300mVの定電圧に設定し、応答電圧E2を600mVの定電圧に設定し、中間電圧を450mVの定電圧に設定している。また、図15では、非応答電圧E1を印加する状態と、応答電圧E2を印加する状態と、の組み合わせを1パルスとしているパルス電圧を、通常のパルス電圧として示している。印加電圧については、非応答電圧E1を300mVの定電圧に設定し、応答電圧E2を600mVの定電圧に設定している。
【0084】
図15に示すように、階段状のパルス電圧及び通常のパルス電圧のいずれにおいても、グルコース濃度が増加するとともに、電流密度が上昇している。このように、階段状のパルス電圧は、通常のパルス電圧と比較して、性能に殆ど差がないことが確認された。
【0085】
[実施例4]
実施例4では、グルコース酸化還元酵素としてGODを用いた場合において、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加したときの応答特性について検討した。
【0086】
(酵素固定化電極の作製)
ポリイミド基材の表面に、スパッタリング法で膜厚30nmの白金を堆積することによ
り、ポリイミド基板の表面に導電性層を形成する。そして、導電性層をGOD溶液(1mg/mLのGOD水溶液)に浸漬して、導電性層上にGOD層を形成することにより、酵素固定化電極を作製した。GOD溶液におけるGODの濃度は、活性基準において1100U/mLである。
【0087】
(グルコースの応答特性の測定)
グルコースの応答特性の測定は、リン酸緩衝液(100mM、pH=7.0)及び攪拌子を収容した容器に、酵素固定化電極(作用極)、白金電極(対極)、及び銀/塩化銀電極(参照極)を浸漬した状態において、スターラによって攪拌子を回転させつつ、グルコースを添加することにより行なった。グルコースの添加を1回行うことにより、グルコース濃度を0mg/dLから600mg/dLに変化させた。
【0088】
図16は、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合における応答電流の測定結果を示すグラフである。印加電圧については、非応答電圧E1を300mVの定電圧に設定し、応答電圧E2を600mVの定電圧に設定している。印加電圧パターンについては、非応答電圧E1の印加時間T2を30秒に設定し、応答電圧E2の印加時間T1を30秒に設定している。待機時間T3を0秒に設定している。図16に示すように、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加する場合において、応答電流は、ほぼ一定の値を保っていることが確認された。
【0089】
比較として、酵素固定化電極に600mVの定電圧を連続して印加した場合における応答電流の測定結果を、図17に示す。図17に示すように、酵素固定化電極に定電圧を連続して印加する場合において、時間の経過とともに、応答電流が増加することが確認された。GODは、Km値は高く反応速度は遅い。そのため、定電圧を連続的に印加する場合、電極表面上に、GODと未反応のグルコースが経時的に蓄積される。この状態において引き続き定電圧を連続的に印加した場合、電極表面上に蓄積されたグルコースが遅れてGODと反応するために、応答電流が時間の経過とともに上昇すると考えられる。これに対して、GODを用いた酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加する場合、パルス電圧を印加した時の応答電流を測定するため、応答電流は、ほぼ一定の値となる。パルス法においては、個々のパルスの応答電圧は、それぞれ独立して所定の印加時間のみが印加されている。従って、所定の印加時間内でのGODとグルコースとが反応した分の応答電流しか現れない。電極表面上に蓄積されたグルコースがGODと遅れて反応する時間まで、応答電圧を印加していないため、応答電流は、ほぼ一定の値となると考えられる。なお、GDHは、Km値は低く反応速度は速い。そのため、GDHを用いた酵素固定化電極に定電圧を連続して印加しても、応答電流は上昇しない。電圧の印加でGDHが変性し劣化することにより、応答電流は定電圧の連続印加時間に応じて減少する。
【0090】
また、実施例4では、グルコース酸化還元酵素としてGODを用いた場合において、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加したときの酵素固定化電極の安定性について評価した。安定性は、600mg/dLのグルコース溶液を用いて応答電流を連続して測定した後の酵素固定化電極の感度として評価した。印加電圧の設定及び印加電圧パターンについては、グルコースの応答特性の測定と同様である。
【0091】
電圧印加時間を105分に設定し、酵素固定化電極の感度を応答電流として15分ごとに測定した。比較として、酵素固定化電極に600mVの定電圧を連続して印加した場合の感度を評価した。これらの測定方法における感度について、初期感度(0時間応答電流)に対する応答電流の相対値(%)として図18に示した。
【0092】
図18に示すように、比較例としての定電圧を連続的に印加する方法では、時間の経過とともに応答電流が上昇した。GODは、Km値は高く反応速度は遅い。そのため、定電
圧を連続的に印加する場合、電極表面上に、GODと未反応のグルコースが経時的に蓄積される。この状態において引き続き定電圧を連続的に印加した場合、電極表面上に蓄積されたグルコースが遅れてGODと反応するために、応答電流が時間の経過とともに上昇すると考えられる。これに対して、パルス電圧を繰り返し印加する方法では、時間が経過しても応答電流の上昇は認められず、酵素固定化電極の安定性が良好であることが分かった。パルス法においては、個々のパルスの応答電圧は、それぞれ独立して所定の印加時間のみが印加されている。従って、所定の印加時間内でのGODとグルコースとが反応した分の応答電流しか現れない。電極表面上に蓄積されたグルコースがGODと遅れて反応する時間まで、応答電圧を印加していないため、応答電流は、ほぼ一定の値となると考えられる。
【0093】
[実施例5]
実施例5では、酵素固定化電極に定電圧を連続して印加した場合におけるグルコース濃度の依存性と、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合におけるグルコース濃度の依存性と、について検討した。すなわち、酵素固定化電極に定電圧を連続して印加した場合において、グルコース濃度を変化させたときの応答電流を測定した。また、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合において、グルコース濃度を変化させたときの応答電流を測定した。応答電流の測定は、リン酸緩衝液(100mM、pH=7.0)とともに攪拌子を収容した容器に、酵素固定化電極(作用極)、白金電極(対極)、および銀/塩化銀電極(参照極)を浸漬した状態において、スターラによって攪拌子を回転させつつ、特定のタイミングでグルコースを添加することにより行なった。
【0094】
(酵素固定化電極の作製)
ポリイミド基材の表面に、スパッタリング法で膜厚30nmの白金を堆積することにより、ポリイミド基板の表面に導電性層を形成する。そして、導電性層をGOD溶液(1mg/mLのGOD水溶液)に浸漬して、導電性層上にGOD層を形成することにより、酵素固定化電極を作製した。GOD溶液におけるGODの濃度は、活性基準において1100U/mLとした。
【0095】
図19は、酵素固定化電極に定電圧を連続して印加した場合において、グルコース濃度を増加したときの応答電流の変化を示すグラフである。グルコースの添加は2回行い、グルコース濃度を0mg/dL→100mg/dL→600mg/dLと順次変化させた。応
答電流は、酵素固定化電極に600mVの定電圧を連続して印加して測定した。
【0096】
図20は、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合において、グルコース濃度を増加したときの応答電流の変化を示すグラフである。パルス電圧を2回印加した後にグルコースを1回添加し、更にパルス電圧を2回印加した後にグルコースを1回添加し、更にパルス電圧を5回印加した。グルコースを2回添加することにより、グルコース濃度を0mg/dL→100mg/dL→600mg/dLと順次変化させた。応答電流は、
非応答電圧E1を300mVの定電圧に設定し、応答電圧E2を600mVの定電圧に設定して測定した。また、非応答電圧E1の印加時間T1を30秒に設定し、応答電圧E2の印加時間を30秒に設定している。
【0097】
図21は、酵素固定化電極に定電圧を連続して印加した場合の応答電流I3と、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合の応答電流I4と、を示したグラフである。図21に示すように、グルコース濃度が増加するにつれて、応答電流I3及び応答電流I4が上昇している。このように、グルコース酸化還元酵素としてGODを用いた場合においても、グルコース濃度が増加することで、応答電流が上昇することが確認された。
【符号の説明】
【0098】
1 グルコース連続測定装置
4 グルコースセンサ
E1 非反応電圧(非応答電圧)
E2 反応電圧(応答電圧)
E3 待機電圧
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコースなどの基質濃度を連続測定する方法に関する。本発明は特に、体内に植え込んだグルコースセンサを利用して血糖値を連続測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血糖値の測定方法としては、例えば人体の腹部や腕部などに植え込んだグルコースセンサを利用して、間質液中のグルコース濃度を連続測定する方法がある。測定原理としては、主に電気化学法が採用されている。この場合のグルコースセンサは、少なくとも作用極および対極を有するものとされる。作用極には、例えばグルコースオキシダーゼ(GOD)が固定化されている。グルコース濃度は、作用極と対極との間に、0.3〜0.6V程度の定電圧を連続的に印加する一方で(図12(a)参照)、そのときに得られる応答電流(図12(b)参照)に基づいて連続測定される。
【0003】
応答電流値は、たとえばGODの触媒反応により発生した過酸化水素を、電気化学的に酸化することにより(たとえば特許文献1,2)、あるいはGODを介してグルコースから取り出した電子を、Osポリマーをメディエータとして利用して得ることができる(たとえば特許文献3参照)。
【0004】
一方、グルコース濃度の演算は、連続的に得られる応答電流値から定期的に電流をサンプリングし、サンプリング電流に基づいて行なわれる。
【0005】
しかしながら、応答電流には、間質液中のアスコルビン酸などの共存物質、あるいは電磁ノイズなどの外界環境によるバックグランド成分が含まれている。そのため、たとえば測定データが上昇傾向(あるいは下降傾向)にあったとしても、それが、グルコース濃度の上昇(あるいは下降)によるものなのか、バッググランド成分の上昇(あるいは下降)によるものなのかは、応答電流からは厳密に区別することは困難である。そのため、バックグランド成分の影響を受けやすい環境下では、グルコースセンサから得られる応答電流のシグナルの精度が悪化してしまう。
【0006】
また、作用極に固定化されたグルコース酸化還元酵素は、電圧の印加によってタンパクの変性を引き起こし、結果としてセンサの安定性が下がることがわかっている。このような安定性の低下は、図13においてグルコース酸化還元酵素としてGDHを用いた場合の残存活性を例示したように、電圧の大きさおよび電圧の印加時間に依存することがわかっている。すなわち、GDHなどのグルコース酸化還元酵素の安定性は、印加される電圧が大きいほど、あるいは電圧印加時間が長いほど低下する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007−516814号公報
【特許文献2】特表2007−535991号公報
【特許文献3】特表平10−505421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、グルコースなどの基質の連続測定において、測定精度および測定に使用されるセンサの安定性を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基質に電圧を印加したときの応答に基づいて基質濃度を連続測定する方法であって、基質に起因する応答が得られる応答電圧を印加する応答電圧印加ステップと、基質に起因する応答が全くあるいは実質的に得られない非応答電圧を印加する非応答電圧印加ステップと、を含んでいることを特徴とする、基質の連続測定方法である。
【0010】
好ましくは、前記応答電圧印加ステップと前記非応答電圧印加ステップとは、交互に繰り返し行なわれる。前記応答電圧印加ステップおよび前記非応答電圧印加ステップのそれぞれは、必ずしも定電圧の単一のパルスを印加することにより行なう必要はなく、たとえば電位の異なる複数の定電圧のパルスが組み合わさった階段状のパルスを印加することにより行なってもよい。
【0011】
本発明では、たとえば前記応答電圧印加ステップにおいて得られる応答と、前記非応答電圧印加ステップにおいて得られる応答と、の差分に基づいて基質の演算を行なう。この場合、前記非応答電圧印加ステップにおける印加電圧は、前記センサに印加する電圧を大きくしていったときに、前記基質に起因する応答が得られ始める印加電圧(反応電位)に対して、±0.5Vの範囲、好ましくは±25mVの範囲において設定される。
【0012】
本発明は、前記応答電圧印加ステップと前記非応答電圧印加ステップとを交互に所定数行った後に、前記非応答電圧よりも絶対値において小さい電圧を印加する待機ステップを含んでいてもよい。前記待機ステップは、前記センサを含む回路を開回路とすることにより行うようにしてもよい。
【0013】
前記センサは、たとえば体内に植え込んで使用するものである。前記センサは、酵素が固定化された電極を含んでいてもよい。もちろん、本発明は、体外に取り出した血液や間質液中のグルコースなどの基質濃度を測定する場合、血液や間質液以外の基質含有液、あるいは人体外の液体中の基質を測定する場合に適用することができる。
【0014】
前記基質は、たとえばグルコースであり、前記センサは、たとえばグルコースセンサである。前記グルコースセンサは、グルコース酸化還元酵素が固定化された電極を含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】グルコースの連続測定方法を実施するためのグルコース連続測定装置の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示したグルコース連続測定装置におけるグルコースセンサを、要部拡大図とともに示した全体斜視図である。
【図3】図1に示したグルコース連続測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】図2に示したグルコースセンサに対する電圧印加パターンの一例を説明するためのグラフである。
【図5】図4に示したパターンで電圧を印加したときの応答電流の一例を示すグラフである。
【図6】複数のグルコース濃度に対するボルタンメトリーの測定結果を同時に示すグラフである。
【図7】1ステップ中での反応電圧および非反応電圧の印加パルスの他の例を説明するためのグラフである。
【図8】実施例1におけるボルタンメトリーの測定結果を示すグラフである。
【図9】図9(a)および図9(b)は実施例1における応答電流の経時的変化の測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例1における応答特性の測定結果を示すグラフである。
【図11】実施例2における安定性の評価結果を示すグラフである。
【図12】図12(a)は従来におけるグルコースセンサに対する電圧印加のパターンを示すグラフであり、図12(b)は図12(a)に示した電圧印加に対する応答電流の一例を示すグラフである。
【図13】従来における酵素の残存活性の経時変化を示すグラフである。
【図14】図7(a)に示す階段状のパルス電圧を、酵素固定化電極に繰り返し印加した場合についての電流密度の変化を示すグラフである。
【図15】電流密度と、グルコース濃度との関係を示すグラフである。
【図16】酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合における応答電流の測定結果を示すグラフである。
【図17】酵素固定化電極に600mVの定電圧を連続して印加した場合における応答電流の測定結果を示すグラフである。
【図18】実施例4における安定性の評価結果を示すグラフである。
【図19】酵素固定化電極に定電圧を連続して印加した場合において、グルコース濃度を増加したときの応答電流値の変化を示すグラフである。
【図20】酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合において、グルコース濃度を増加したときの応答電流の変化を示すグラフである。
【図21】酵素固定化電極に定電圧を連続して印加した場合の応答電流I3と、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合の応答電流I4と、を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る基質連続測定方法について、体液中のグルコース濃度を測定する場合を例にとって、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1に示したグルコース連続測定装置1は、血液や間質液中のグルコース濃度を連続的に測定可能なものであり、人体の腹部や肩の皮膚に装着して使用するものである。このグルコース連続測定装置1は、筐体2、回路基板3およびグルコースセンサ4を備えている。
【0018】
筐体2は、グルコース連続測定装置1の外形をなすものであり、カバー20および基板21を含んでいる。カバー20および基板21は、これらによって規定される空間に回路基板3を収容するものであり、相互に固定されている。筐体2は、防水性あるいは耐水性を有しているのが好ましい。このような筐体2は、たとえば少なくともカバー20(必要に応じて基板21)を金属やポリプロピレン樹脂などの透水性の極めて低い材料により形成される。
【0019】
基板21は、グルコースセンサ4が挿通される部分であり、グルコースセンサ4の端部40を固定している。基板21には、接着フィルム5が固定されている。この接着フィルム5は、グルコース連続測定装置1を皮膚に固定するときに利用されるものである。接着フィルム5としては、両面に粘着性を有するテープを使用することができる。
【0020】
回路基板3は、グルコース連続測定装置1の所定の動作(たとえば電圧の印加、グルコース濃度の演算あるいは外部との通信)に必要な電子部品を搭載したものである。この回路基板3はさらに、後述するグルコースセンサ4の電極42(図2参照)に接触させるための端子30を備えている。この端子30は、グルコースセンサ4に電圧を印加し、グルコースセンサ4から応答電流値を得るために利用されるものである。
【0021】
グルコースセンサ4は、血液や間質液中のグルコース濃度に応じた応答を得るためのものである。このグルコースセンサ4は、端部40が皮膚6から突出して回路基板3の端子
30に接触しているとともに、その他の大部分が皮膚6に挿入されている。
【0022】
図2に示したように、グルコースセンサ4は、基板41、電極42および固定化酵素部43を有している。
【0023】
基板41は、電極42を支持するためのものであり、絶縁性および可撓性を有するシート状に形成されている。基板41は、端部41Aが筐体2の内部に存在している一方で、端部41Bが鋭利なものとして形成されている。端部10Bを鋭利な構造とすれば、皮膚6へのグルコースセンサ4の挿入を容易に行なうことができるようになり、使用者の痛みを低減することができる。
【0024】
基板40のための材料としては、人体への害がなく、適切な絶縁性を有するものであればよく、たとえばPET、PP、PEなどの熱可塑性樹脂、あるいはポリイミド樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を使用することができる。
【0025】
電極42は、固定化酵素部43に電圧を印加し、固定化酵素部43から電子を取り出すために利用されるものである。電極42は、作用極42Aおよび対極42Bを含んでいる。作用極42Aは、グルコースと電子授受を行う部分である。対極42Bは、作用極42Aとともに電圧印加に利用されるものである。電極42は、カーボンインクを用いたスクリーン印刷により形成することができる。
【0026】
固定化酵素43は、グルコースと作用極42Aとの間の電子授受を媒体するものである。この固定化酵素部43は、作用極42Aの端部42Aaにおいて、グルコース酸化還元酵素を固定化することにより形成されている。
【0027】
グルコース酸化還元酵素としては、グルコースオキシダーゼ(GOD)およびグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を使用することができる。グルコース酸化還元酵素の固定化方法としては、公知の種々の方法、たとえば重合性ゲル、ポリアクリルアミドやリンなどの高分子、リン脂質ポリマーにシランカップリング剤を導入したMPC重合体あるいはタンパク質膜を利用する方法を採用することができる。
【0028】
図3に示したように、グルコース連続測定装置1は、回路基板3およびグルコースセンサ4の他に、通信部10、電源11、制御部12、演算部13、および記憶部14をさらに備えている。
【0029】
通信部10は、グルコース連続測定装置1と外部の情報処理端末との間でデータ通信を行なうためのものである。この通信部10は、少なくとも送信部を有しており、必要に応じて受信部を含んでいる。
【0030】
データ通信は、たとえば無線通信手段(赤外線を使ったIrDAあるいは2.4GHzの周波数帯を使ったブルートゥース)を利用することができる。もちろん、グルコース連続測定装置1の通信部10と外部の情報処理端末の通信部とをケーブルなどを用いて有線でデータ通信を行なうようにしてもよい。
【0031】
外部の情報処理端末としては、たとえば人体にインスリンを投与するためのインスリン送出装置、簡易型血糖値測定装置、腕時計型表示機、あるいはパーソナルコンピュータを挙げることができる。
【0032】
グルコース連続測定装置1とインスリン送出装置とのデータ通信は、たとえばグルコース連続測定装置1でのグルコース濃度の測定結果を、インスリン送出装置に送信すること
により行なわれる。これにより、グルコース連続測定装置1からの測定データに基づいて、人体に投与すべきインスリン量をコントロールすることができる。
【0033】
グルコース連続測定装置1と簡易型血糖値測定装置とのデータ通信は、たとえば簡易血糖値測定装置での血糖値測定結果を、グルコース連続測定装置1に送信することにより行なわれる。これにより、グルコース連続測定装置1の測定結果と簡易血糖値測定装置での測定結果とを比較して、これらの測定結果が一定値以上乖離している場合には、グルコース連続測定装置1の校正を行なうことができる。また、簡易型血糖値測定装置に対しては、グルコース連続測定装置1において測定された生データ(応答電流)を送信するようにしてもよい。
【0034】
グルコース連続測定装置1と腕時計型表示機とのデータ通信は、たとえばグルコース連続測定装置1の血糖値測定結果を腕時計型表示機に送信することにより行なわれる。これにより、グルコース連続測定装置1が肩などのように使用者が視認しにくい位置に装着されていたとしても、グルコース連続測定装置1での測定結果を腕時計型表示機において表示させ、使用者に把握させることができる。
【0035】
グルコース連続測定装置1とパーソナルコンピュータとのデータ通信は、たとえばグルコース連続測定装置1の血糖値測定結果や生データ(応答電流)をパーソナルコンピュータに送信することにより行なわれる。これにより、パーソナルコンピュータにおいて、グルコース濃度の変遷をモニタすることができる。また、グルコース連続測定装置1に対しては、パーソナルコンピュータから校正用のデータを送信するようにしてもよい。
【0036】
電源11は、回路基板3やグルコースセンサ4へ電力を供給するための直流電源である。電源11としては、たとえば電源電圧が1〜3Vであるボタン電池が使用される。
【0037】
制御部12は、各種の動作、たとえば電圧印加のタイミング、印加電圧値、応答電流のサンプリング、グルコース濃度の演算、あるいは外部の情報処理端末との通信を制御するものである。
【0038】
演算部13は、各種の演算、たとえばグルコース濃度の演算の他、グルコース連続測定装置1の動作に必要な演算を行うものである。
【0039】
記憶部14は、各種の演算に必要なプログラムおよびデータ(たとえば検量線に関するデータ、補正データあるいは電圧印加パターンに関するデータ)を記憶したものである。この記憶部14はさらに、グルコースセンサ4からの応答電流値や演算されたグルコース濃度を記憶できるものであってもよい。
【0040】
制御部12、演算部13および記憶部14は、回路基板3に搭載された電子部品、たとえばCPU(あるいはMPU)、ROMおよびRAMにより実現される。
【0041】
ここで、グルコース連続測定装置1におけるグルコースセンサ4への電圧印加は、たとえば図4に示したパターンのようにして行なわれる。図示した例は、一定時間T2の非反応電圧E1を印加する状態と、一定時間T1の反応電圧E2を印加する状態の組み合わせを1ステップ(1パルス)として、このステップを繰り返し行ない、複数ステップ後に待機時間T3を設定したものである。また、図5として、図4に示した電圧印加パターンのときの応答電流の例を示した。
【0042】
非反応電圧E1は、グルコースが全く反応しないか、グルコースが反応してごくわずかで実質的にグルコースが反応しない電圧である(図6参照)。すなわち、非反応電圧E1
をグルコースセンサ4に印加したときの応答電流は、グルコースに起因する応答量が極めて少なく、主としてセンサに固有のバックグランド(感度)、共存物質に起因するバックグランドおよび電磁ノイズなどの外部環境に起因するバックグランドによるものである。
【0043】
この非反応電圧E1の大きさは、グルコースセンサ4の仕様(たとえば使用する酵素の量や固定化方法、あるいは電極の構成材料や反応面積)に応じて設定される。具体的には、非反応電圧E1は、グルコースセンサ4に印加する電圧を大きくしていったときに、グルコースに起因する応答電流が流れ始める電圧(反応電位)もしくは反応電位から±0.5V(好ましくは±25mV)の範囲とされる。図示したグルコースセンサ4では、非反応電圧E1は、たとえば−1〜1Vとされる。また、1ステップにおける非反応電圧E1の印加時間T2は、応答電流を一定値に安定化させることができる時間、たとえば0.1〜300secとされる。
【0044】
反応電圧E2は、十分な分解能をもってグルコースが反応する電位である(図6参照)。この反応電圧E2の大きさは、グルコースセンサ4の仕様(たとえば使用する酵素の量や固定化方法、あるいは電極の構成材料や反応面積)により設定されるが、たとえば−1〜1Vとされる。また、1ステップにおける反応電圧E2の印加時間T1は、応答電流の急激な変化がなくなる時間、たとえば0.1〜300μsecとされる。
【0045】
非反応電圧E1および反応電圧E2は、1ステップにおいて必ずしも図4に示したような定電圧の単一のパルスとしてグルコースセンサ4に印加する必要はなく、たとえば図7(a)〜図7(d)に示したように電位の異なる複数の定電圧のパルスが組み合わさった階段状のパルスとしてグルコースセンサ4に印加するようにしてもよい。1ステップにおいて非反応電圧E1および反応電圧E2を階段状のパルスとして印加する場合、図7(a)〜図7(d)では3つの定電圧を含んでいるが、定電圧の数は2つであっても4つ以上であってもよい。
【0046】
待機時間T3は、グルコースセンサ4に印加する電圧が、絶対値において非反応電圧E1よりもさらに小さな待機電圧E3を印加する状態である。この待機時間T3は、グルコースセンサ4に不必要に大きな電圧が印加されるのを回避するためものであり、たとえば0.1〜300secに設定される。待機時間T3における印加電圧(待機電圧)E3は、絶対値において0V以上非反応電圧E1未満に設定される。ここで、待機電圧E3を0Vに設定する方法としては、回路基板3には駆動電圧を印加しつつもグルコースセンサ4に印加する電圧を0Vとする方法の他、主電源をオフにする方法がある。もちろん、待機時間T3は、必ずしも必要なものではなく、また待機時間T3は、非反応電圧E1と反応電圧E2とを含む1ないし複数ステップ(たとえば2〜1500ステップ)の後で任意に設ければよい。
【0047】
以上のような印加電圧パターンでは、グルコース濃度の演算時において、反応電圧E2において応答電流I2(n)をサンプリングする一方で、応答電流をサンプリングしたのと同ステップでの非反応電圧印加時の応答電流I1(n)をサンプリングする。それぞれの電圧E1,E2を印加したときの電流値のサンプリングタイミングT1’,T2’は、応答電流値の変動が小さく比較的に応答電流が安定した状態のときに行なわれる。
【0048】
ただし、応答電流のサンプリングに代えて、たとえばインピーダンス、エネルギ、あるいは電量を応答として取得してもよい。
【0049】
一方、演算部13においては、非反応電圧E1の印加時にサンプリングされた応答電流を考慮してグルコース濃度の演算が行なわれる。典型的には、グルコース濃度は、反応電圧E2における応答電流I2(n)から非反応電圧E1における応答電流I1(n)を差
分した応答電流値(I2(n)−I1(n))から演算される。
【0050】
グルコース濃度の演算は、複数のステップからなる1サイクルにおいて1回行うようにしてもよいし、複数のサイクルから選択される1つのサイクルにおいて行なってもよい。また、1サイクル中において、各ステップごとにグルコース濃度を演算し、それらの演算結果の平均値をそのステップのグルコース濃度として決定してもよい。
【0051】
また、反応電圧E2における応答電流I2(n)、非反応電圧E1における応答電流I1(n)、あるいはこれらの応答電流値の差分値(I2(n)−I1(n))に関して、測定値の閾値、あるいは前回測定時との差分に関する閾値を設定し、グルコース濃度の演算前に閾値との比較を行なうようにしてもよい。これにより、それぞれのパラメータを演算に使用するのに適切な値であるかを判断し、グルコース濃度の演算(グルコースの測定)を行うか否かを判定することが可能になる。その結果、グルコース連続測定装置1では、より精度の高いグルコースの定量が可能となる。
【0052】
演算されたグルコース濃度は、主としてインスリンの投与量を決定するために使用され、必要に応じてグルコース連続測定装置1の校正のために使用される。校正用のグルコース濃度の演算は、複数のサイクルのそれぞれから任意に選択されるステップ毎に算出したグルコース濃度の平均値を採用するのが好ましい。
【0053】
上述のように、非反応電圧E1に対する応答電流は、グルコース反応とは全くまたは実質的に関係のないものであり、主としてバックグランド成分に起因するものである。そのため、非反応電圧E1に対応する応答電流を考慮すれば、バックグランド成分の影響を極力除外してグルコース濃度の演算が可能となるため測定精度を向上させることができる。
【0054】
また、電圧印加パターンとして、非反応電圧E1と反応電圧E2とをグルコースセンサ4に繰り返し印加するパターンでは、継続的に定電圧を印加する場合に比べて、単位時間当たりにグルコースセンサ4に印加される電圧(エネルギ)が小さくなる。そのため、グルコース酸化還元酵素の変性などによる劣化を抑制することができるため、長期間にわたってグルコースセンサ4の感度を安定化させ、グルコースセンサ4の寿命を長くすることができる。その結果、グルコースセンサ4の取替え頻度やグルコース連続測定装置1の校正頻度を減らすことができるようになり、使用者の操作負担および経済的負担が軽減される。さらに、グルコースセンサ4に印加される電圧(エネルギ)が小さくできれば、グルコースを連続測定する場合における消費電力を小さくすることが可能となるため、電池寿命を延ばすことができる。その結果、電池としてボタン電池のような使い捨て電池を使用する場合において、使用者のへの経済的負担を軽減することができる。特に、待機期間T3を設け、待機時間T3のときに電源をオフするようにすれば、確実に電池寿命を延ばすことができる。
【0055】
以上に説明したグルコース連続測定装置1では、グルコース濃度の演算機能がグルコース連続測定装置1に組み込まれていたが、グルコース連続測定装置1において応答電流値などの応答値を測定する一方で、グルコース濃度の演算を外部の情報処理端末に行なわせるようにしてもよい。
【0056】
また、上述の実施の形態では、非反応電圧E1による電圧の印加の後に反応電圧E2による電圧の印加を行なう場合を1サイクル(1パルス)として定義しているが、反応電圧E2による電圧の印加の後に非反応電圧E1による電圧の印加を行なう場合を1サイクル(1パルス)として定義してもよい。
【0057】
本発明は人体の体液中のグルコース濃度を測定する場合に限らず、グルコース以外の基
質、あるいは体液以外の基質含有液を用いる場合にも適用することができる。
【0058】
次に、本発明の効果について実施例として検討する。
【0059】
[実施例1]
本実施例では、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加したときの応答特性について検討した。
【0060】
(酵素固定化電極の作製)
酵素固定化電極は、カーボン電極の表面に、リン脂質ポリマーを介してGDHを固定化することにより作製した。カーボン電極の作製に当たっては、まず120mgのケッチェンブラック(ライオン(株)製)を十分に混合した粉末に流動パラフィンを100μL添加してよく混合して材料ペーストを形成した。材料ペーストは、面積3φのペースト電極作製用ベース電極(ビー・エー・エス社製)に詰め込み、ジュランコンロッドにて圧縮することでカーボン電極とした。リン脂質ポリマーとしては、シランカップリング剤としてのテトラエトキシシランを導入したMPC重合体(商品名「リピジュア」;日油社製)を使用した。酵素は、リン脂質修飾カーボン電極を1250U/mLのGDH溶液に浸漬することにより固定化した。
【0061】
(印加電圧の設定)
印加電圧は、先に作製した酵素固定化電極を用いて、グルコース応答の電圧依存性をボルタンメトリーにより測定した結果に基づいて決定した。
【0062】
ボルタンメトリーにおいて、グルコース濃度は600mg/dLに設定した。
【0063】
ボルタンメトリーにおける電極系は、作用極として先に作製した酵素固定化電極、対極として白金電極、および参照極として銀/塩化銀電極を使用した。
【0064】
ボルタンメトリーにおける掃引は、0V〜0.6Vの範囲において、掃引速度を0.1V/secとし、正方向および負方向のそれぞれについて行なった。ボルタンメトリーの測定結果については図8に示した。
【0065】
図8から分かるように、印加電圧が75mV付近からグルコースに応答する酸化電流が検出されることがわかる。この結果から、グルコース反応しないか実質的に反応しない非応答電圧E1については、以下の検討において余裕を見て100mVの定電圧に設定した。一方、グルコース応答を示す反応電圧E2については、非応答電圧E1との電位差を600mVに設定することとして、700mVの定電圧に設定した。
【0066】
(印加電圧パターン)
非応答電圧E1および応答電圧E2の印加時間T1,T2については10秒に設定した。
【0067】
待機時間T3は、40秒とした。ただし、待機時間T3は、4ステップ(4パルス)毎に酵素固定化電極を含む電極系が開回路(0V)となるように設定した。
【0068】
(グルコースの応答特性の測定)
応答特性は、水とともに攪拌子を収容した容器に、酵素固定化電極(作用極)、白金電極(対極)、および銀/塩化銀電極(参照極)を浸漬した状態において、スターラによって攪拌子を回転させつつ、特定のタイミングでグルコースを添加することにより行なった。
【0069】
グルコースの添加は、4ステップ(4パルス)を1サイクルとし、4サイクル目の待機時間T3に行なった。グルコースの添加は3回行い、グルコース濃度を0mg/dL→5
0mg/dL→100mg/dL→600mg/dLと順次変化させた。
【0070】
応答電流は、非反応電圧E1および反応電圧E2をそれぞれ0mVおよび600mVの定電圧に設定して測定した。応答電流の測定結果については、図9(a)に示した。参考として、非反応電圧E1および反応電圧E2をそれぞれ100mVおよび700mVに設定して応答電流を測定した場合について図9(b)に示した。
【0071】
また、非応答電圧E1および応答電圧E2の印加における10秒後の電流値I1,I2をそれぞれサンプリングし、両者の差分値とグルコース濃度の関係を図10に示した。図10においては、応答電流の差分値は、酵素固定化電極の面積で割った値(電流密度)として示した。
【0072】
図9(a)および図9(b)から分かるように、グルコースの添加により電流値が増加していることが確認された。すなわち、応答電圧E2では、グルコースが反応し、それによって応答電流が生じていることが確認できた。
【0073】
また、応答電圧E2から非応答電圧E1に印加電圧を下げたとき、非応答電圧E1を100mVに設定した場合には、非応答電圧E1を0mVに設定した場合に比べて、応答電流の変動量(バックグランド)が著しく小さくなっている。
【0074】
一方、図10に示したように、非応答電圧E1を100mVに設定した場合には、非応答電圧E1を0mVに設定した場合に比べて、応答電圧E2の印加時の応答電流I2と非応答電圧E1の印加時の応答電流I1との差分(I2−I1)がグルコース濃度に関係なく小さくなっている。この点からも、非応答電圧E1を100mVに設定した場合、すなわち非応答電圧E1を0Vよりも大きく設定した場合には、バックグランドによる影響が小さく、応答感度も高いことがわかった。
【0075】
[実施例2]
本実施例では、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加したときの酵素固定化電極の安定性について評価した。
【0076】
(酵素固定化電極の作製)
酵素固定化電極は、カーボン電極の表面に、リン脂質ポリマーを介してGDHを固定化することにより作製した。カーボン電極は、ポリイミド基材の表面に形成した。電極材料としては、ケッチェンブラック(ライオン(株)製)40wt%、バインダーとしてのポリエステル樹脂40%wt、および溶剤としてのイソホロン20wt%を混合した印刷用インクを用いた。印刷用インクは、ポリイミド基材の表面へ、厚みが10μmになるように印刷し、150℃の環境下で30分間乾燥させて電極とした。リン脂質ポリマーとしては、シランカップリング剤としてのテトラエトキシシランを導入したMPC重合体(商品名「リピジュア」;日油社製)を使用した。酵素は、リン脂質修飾カーボン電極を1250U/mLのGDH溶液に浸漬することにより固定化した。
【0077】
(安定性の評価)
安定性は、600mg/dLのグルコース溶液を用いて応答電流を連続して測定した後の酵素固定化電極の感度として評価した。
【0078】
電極系および印加電圧パターンは、実施例1と同様にした。ただし、非応答電圧E1お
よび応答電圧E2はそれぞれ100mVおよび700mVとした。
【0079】
電圧印加時間は合計18時間とし、固定化電極の感度は応答電流として6時間ごとに測定した。比較として、600mVの定電圧を連続して印加した場合の感度を評価した。これらの測定方法における感度については、初期感度(0時間応答電流)に対する応答電流の相対値として図11に示した。
【0080】
図11から分かるように、比較例としての定電圧を連続的に印加する方法では、経時的に応答電流が下がり酵素電極の劣化が確認された。これに対して、パルス電圧を繰り返し印加する方法では、経時的な応答電流の減少は確認されず、酵素固定化電極の安定性が良好であることが確認された。これに関して、電圧の印加に対してGDHは変性し劣化するが、定電圧を連続的に印加する方法と比べて、パルス電圧を繰り返し印加する方法は、同じ測定時間において全体的に応答電圧を印加する時間は短い。従って、応答電圧を印加する時間が短い分、GDHの劣化は抑制され、GDHの安定性が保たれると考えられる。
【0081】
[実施例3]
実施例3では、段階状のパルス電圧の性能評価について検討した。酵素固定化電極の作製及び電極系は、実施例1と同様である。図14は、図7(a)に示す階段状のパルス電圧を、酵素固定化電極に繰り返し印加した場合についての電流密度の変化を示すグラフである。応答電流値を酵素固定化電極の面積で割って算出した値を、電流密度としている。図14では、階段状のパルス電圧を点線で示しており、電流密度を実線で示している。非応答電圧E1を印加する状態と、応答電圧E2を印加する状態と、中間電圧を印加する状態との組み合わせを1パルスとしている。印加電圧については、非応答電圧E1を300mVの定電圧に設定し、応答電圧E2を600mVの定電圧に設定し、中間電圧を450mVの定電圧に設定している。
【0082】
図15は、電流密度と、グルコース濃度との関係を示すグラフである。非応答電圧E1を印加した後の応答電流I1と、応答電圧E2を印加した後の応答電流I2とを、それぞれサンプリングし、応答電流I1と応答電流I2との差分値を算出する。応答電流の差分値を酵素固定化電極の面積で割って算出した値を、電流密度としている。
【0083】
図15では、非応答電圧E1を印加する状態と、応答電圧E2を印加する状態と、中間電圧を印加する状態との組み合わせを1パルスとしているパルス電圧を、階段状のパルス電圧として示している。印加電圧については、非応答電圧E1を300mVの定電圧に設定し、応答電圧E2を600mVの定電圧に設定し、中間電圧を450mVの定電圧に設定している。また、図15では、非応答電圧E1を印加する状態と、応答電圧E2を印加する状態と、の組み合わせを1パルスとしているパルス電圧を、通常のパルス電圧として示している。印加電圧については、非応答電圧E1を300mVの定電圧に設定し、応答電圧E2を600mVの定電圧に設定している。
【0084】
図15に示すように、階段状のパルス電圧及び通常のパルス電圧のいずれにおいても、グルコース濃度が増加するとともに、電流密度が上昇している。このように、階段状のパルス電圧は、通常のパルス電圧と比較して、性能に殆ど差がないことが確認された。
【0085】
[実施例4]
実施例4では、グルコース酸化還元酵素としてGODを用いた場合において、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加したときの応答特性について検討した。
【0086】
(酵素固定化電極の作製)
ポリイミド基材の表面に、スパッタリング法で膜厚30nmの白金を堆積することによ
り、ポリイミド基板の表面に導電性層を形成する。そして、導電性層をGOD溶液(1mg/mLのGOD水溶液)に浸漬して、導電性層上にGOD層を形成することにより、酵素固定化電極を作製した。GOD溶液におけるGODの濃度は、活性基準において1100U/mLである。
【0087】
(グルコースの応答特性の測定)
グルコースの応答特性の測定は、リン酸緩衝液(100mM、pH=7.0)及び攪拌子を収容した容器に、酵素固定化電極(作用極)、白金電極(対極)、及び銀/塩化銀電極(参照極)を浸漬した状態において、スターラによって攪拌子を回転させつつ、グルコースを添加することにより行なった。グルコースの添加を1回行うことにより、グルコース濃度を0mg/dLから600mg/dLに変化させた。
【0088】
図16は、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合における応答電流の測定結果を示すグラフである。印加電圧については、非応答電圧E1を300mVの定電圧に設定し、応答電圧E2を600mVの定電圧に設定している。印加電圧パターンについては、非応答電圧E1の印加時間T2を30秒に設定し、応答電圧E2の印加時間T1を30秒に設定している。待機時間T3を0秒に設定している。図16に示すように、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加する場合において、応答電流は、ほぼ一定の値を保っていることが確認された。
【0089】
比較として、酵素固定化電極に600mVの定電圧を連続して印加した場合における応答電流の測定結果を、図17に示す。図17に示すように、酵素固定化電極に定電圧を連続して印加する場合において、時間の経過とともに、応答電流が増加することが確認された。GODは、Km値は高く反応速度は遅い。そのため、定電圧を連続的に印加する場合、電極表面上に、GODと未反応のグルコースが経時的に蓄積される。この状態において引き続き定電圧を連続的に印加した場合、電極表面上に蓄積されたグルコースが遅れてGODと反応するために、応答電流が時間の経過とともに上昇すると考えられる。これに対して、GODを用いた酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加する場合、パルス電圧を印加した時の応答電流を測定するため、応答電流は、ほぼ一定の値となる。パルス法においては、個々のパルスの応答電圧は、それぞれ独立して所定の印加時間のみが印加されている。従って、所定の印加時間内でのGODとグルコースとが反応した分の応答電流しか現れない。電極表面上に蓄積されたグルコースがGODと遅れて反応する時間まで、応答電圧を印加していないため、応答電流は、ほぼ一定の値となると考えられる。なお、GDHは、Km値は低く反応速度は速い。そのため、GDHを用いた酵素固定化電極に定電圧を連続して印加しても、応答電流は上昇しない。電圧の印加でGDHが変性し劣化することにより、応答電流は定電圧の連続印加時間に応じて減少する。
【0090】
また、実施例4では、グルコース酸化還元酵素としてGODを用いた場合において、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加したときの酵素固定化電極の安定性について評価した。安定性は、600mg/dLのグルコース溶液を用いて応答電流を連続して測定した後の酵素固定化電極の感度として評価した。印加電圧の設定及び印加電圧パターンについては、グルコースの応答特性の測定と同様である。
【0091】
電圧印加時間を105分に設定し、酵素固定化電極の感度を応答電流として15分ごとに測定した。比較として、酵素固定化電極に600mVの定電圧を連続して印加した場合の感度を評価した。これらの測定方法における感度について、初期感度(0時間応答電流)に対する応答電流の相対値(%)として図18に示した。
【0092】
図18に示すように、比較例としての定電圧を連続的に印加する方法では、時間の経過とともに応答電流が上昇した。GODは、Km値は高く反応速度は遅い。そのため、定電
圧を連続的に印加する場合、電極表面上に、GODと未反応のグルコースが経時的に蓄積される。この状態において引き続き定電圧を連続的に印加した場合、電極表面上に蓄積されたグルコースが遅れてGODと反応するために、応答電流が時間の経過とともに上昇すると考えられる。これに対して、パルス電圧を繰り返し印加する方法では、時間が経過しても応答電流の上昇は認められず、酵素固定化電極の安定性が良好であることが分かった。パルス法においては、個々のパルスの応答電圧は、それぞれ独立して所定の印加時間のみが印加されている。従って、所定の印加時間内でのGODとグルコースとが反応した分の応答電流しか現れない。電極表面上に蓄積されたグルコースがGODと遅れて反応する時間まで、応答電圧を印加していないため、応答電流は、ほぼ一定の値となると考えられる。
【0093】
[実施例5]
実施例5では、酵素固定化電極に定電圧を連続して印加した場合におけるグルコース濃度の依存性と、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合におけるグルコース濃度の依存性と、について検討した。すなわち、酵素固定化電極に定電圧を連続して印加した場合において、グルコース濃度を変化させたときの応答電流を測定した。また、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合において、グルコース濃度を変化させたときの応答電流を測定した。応答電流の測定は、リン酸緩衝液(100mM、pH=7.0)とともに攪拌子を収容した容器に、酵素固定化電極(作用極)、白金電極(対極)、および銀/塩化銀電極(参照極)を浸漬した状態において、スターラによって攪拌子を回転させつつ、特定のタイミングでグルコースを添加することにより行なった。
【0094】
(酵素固定化電極の作製)
ポリイミド基材の表面に、スパッタリング法で膜厚30nmの白金を堆積することにより、ポリイミド基板の表面に導電性層を形成する。そして、導電性層をGOD溶液(1mg/mLのGOD水溶液)に浸漬して、導電性層上にGOD層を形成することにより、酵素固定化電極を作製した。GOD溶液におけるGODの濃度は、活性基準において1100U/mLとした。
【0095】
図19は、酵素固定化電極に定電圧を連続して印加した場合において、グルコース濃度を増加したときの応答電流の変化を示すグラフである。グルコースの添加は2回行い、グルコース濃度を0mg/dL→100mg/dL→600mg/dLと順次変化させた。応
答電流は、酵素固定化電極に600mVの定電圧を連続して印加して測定した。
【0096】
図20は、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合において、グルコース濃度を増加したときの応答電流の変化を示すグラフである。パルス電圧を2回印加した後にグルコースを1回添加し、更にパルス電圧を2回印加した後にグルコースを1回添加し、更にパルス電圧を5回印加した。グルコースを2回添加することにより、グルコース濃度を0mg/dL→100mg/dL→600mg/dLと順次変化させた。応答電流は、
非応答電圧E1を300mVの定電圧に設定し、応答電圧E2を600mVの定電圧に設定して測定した。また、非応答電圧E1の印加時間T1を30秒に設定し、応答電圧E2の印加時間を30秒に設定している。
【0097】
図21は、酵素固定化電極に定電圧を連続して印加した場合の応答電流I3と、酵素固定化電極にパルス電圧を繰り返し印加した場合の応答電流I4と、を示したグラフである。図21に示すように、グルコース濃度が増加するにつれて、応答電流I3及び応答電流I4が上昇している。このように、グルコース酸化還元酵素としてGODを用いた場合においても、グルコース濃度が増加することで、応答電流が上昇することが確認された。
【符号の説明】
【0098】
1 グルコース連続測定装置
4 グルコースセンサ
E1 非反応電圧(非応答電圧)
E2 反応電圧(応答電圧)
E3 待機電圧
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサに電圧を印加したときの応答に基づいて基質濃度を連続測定する方法であって、
基質に起因する応答が得られる応答電圧を印加する応答電圧印加ステップと、
基質に起因する応答が全くあるいは実質的に得られない非応答電圧を印加する非応答電圧印加ステップと、
を含んでいることを特徴とする、基質濃度の連続測定方法。
【請求項2】
前記応答電圧印加ステップと前記非応答電圧印加ステップとを交互に繰り返し行なう、請求項1に記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項3】
前記応答電圧印加ステップにおいて得られる応答と、前記非応答電圧印加ステップにおいて得られる応答と、の差分に基づいて基質濃度の演算を行なう、請求項1または2に記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項4】
前記非応答電圧は、前記センサに印加する電圧を大きくしていったときに、前記基質に起因する応答が得られ始める印加電圧に対して、±0.5Vの範囲において設定される、請求項3に記載に基質濃度の連続測定方法。
【請求項5】
前記応答電圧印加ステップと前記非応答電圧印加ステップとを交互に所定数行った後に、前記非応答電圧よりも絶対値において小さい電圧を印加する待機ステップを含んでいる、請求項2に記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項6】
前記応答電圧印加ステップと前記非応答電圧印加ステップとを交互に所定数行った後に、前記センサを含む回路を開回路とする待機ステップを含んでいる、請求項2に記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項7】
前記センサは、体内に植え込んで使用するものである、請求項1ないし6のいずれかに記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項8】
前記センサは、酵素が固定化された電極を含んでいる、請求項1ないし7のいずれかに記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項9】
前記基質はグルコースであり、
前記センサはグルコースセンサである、請求項1ないし8のいずれかに記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項10】
前記グルコースセンサは、グルコース酸化還元酵素が固定化された電極を含んでいる、請求項9に記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項1】
センサに電圧を印加したときの応答に基づいて基質濃度を連続測定する方法であって、
基質に起因する応答が得られる応答電圧を印加する応答電圧印加ステップと、
基質に起因する応答が全くあるいは実質的に得られない非応答電圧を印加する非応答電圧印加ステップと、
を含んでいることを特徴とする、基質濃度の連続測定方法。
【請求項2】
前記応答電圧印加ステップと前記非応答電圧印加ステップとを交互に繰り返し行なう、請求項1に記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項3】
前記応答電圧印加ステップにおいて得られる応答と、前記非応答電圧印加ステップにおいて得られる応答と、の差分に基づいて基質濃度の演算を行なう、請求項1または2に記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項4】
前記非応答電圧は、前記センサに印加する電圧を大きくしていったときに、前記基質に起因する応答が得られ始める印加電圧に対して、±0.5Vの範囲において設定される、請求項3に記載に基質濃度の連続測定方法。
【請求項5】
前記応答電圧印加ステップと前記非応答電圧印加ステップとを交互に所定数行った後に、前記非応答電圧よりも絶対値において小さい電圧を印加する待機ステップを含んでいる、請求項2に記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項6】
前記応答電圧印加ステップと前記非応答電圧印加ステップとを交互に所定数行った後に、前記センサを含む回路を開回路とする待機ステップを含んでいる、請求項2に記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項7】
前記センサは、体内に植え込んで使用するものである、請求項1ないし6のいずれかに記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項8】
前記センサは、酵素が固定化された電極を含んでいる、請求項1ないし7のいずれかに記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項9】
前記基質はグルコースであり、
前記センサはグルコースセンサである、請求項1ないし8のいずれかに記載の基質濃度の連続測定方法。
【請求項10】
前記グルコースセンサは、グルコース酸化還元酵素が固定化された電極を含んでいる、請求項9に記載の基質濃度の連続測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図7(c)】
【図7(d)】
【図8】
【図9(a)】
【図9(b)】
【図10】
【図11】
【図12(a)】
【図12(b)】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図7(c)】
【図7(d)】
【図8】
【図9(a)】
【図9(b)】
【図10】
【図11】
【図12(a)】
【図12(b)】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2012−520688(P2012−520688A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539196(P2011−539196)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【国際出願番号】PCT/JP2010/001834
【国際公開番号】WO2010/106781
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【国際出願番号】PCT/JP2010/001834
【国際公開番号】WO2010/106781
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
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