説明

堤防の侵食防止構造

【課題】 浸透による湿潤線の上昇を抑制しつつ、越流による裏法面の侵食を有効かつ経済的に防止するとともに植生の維持管理を軽減する。
【解決手段】 本発明に係る堤防の侵食防止構造1は、堤防11の裏法面2のうち、一部を露出領域5として露出させて植生6を施すとともに、残りの被覆領域4を木片コンクリート板3で被覆してある。木片コンクリート板3は木片コンクリートを予め硬化させたものであり、透水性コンクリートの単一層で構成された透水性被覆層として機能するとともに、木片コンクリートの植物の定着容易性により、露出領域5の植生6を被覆領域4に拡大させるようになっている。木片コンクリート板3は矩形状に成形してあるとともに、被覆領域4と露出領域5とが市松状に交互に並ぶように裏法面2に配置してあり、かかる構成により、露出領域5における植生6が被覆領域4に拡大しやすいようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として河川堤防の裏法面における侵食防止対策として採用される堤防の侵食防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
堤防は、河川の流水による氾濫を防ぐ河川構造物であって、予想される降雨や流量増加に基づいて計画高水位が設定されるとともに、該計画高水位に背後地の重要性等に応じた余裕高が加えられることで天端高が決定される。
【0003】
そのため、河川流水が堤防を越えるいわゆる越流は原則として想定されておらず、堤防の安全対策としては、もっぱら浸透に対する対策が重要視されてきた。
【0004】
すなわち、堤防内では、河川水位の上昇や降雨に起因して湿潤線が上昇し、それが土のせん断強度低下や土の単位体積重量の増加を招いて法面安定性を低下させる。
【0005】
浸透水に対する対策としては、堤防法面のうち、河川側の法面、いわゆる川表あるいは表法面と呼ばれる側に水密性の高いコンクリートを構築したり、不透水性シートを敷設したりする方法が一般的であり、かかる対策によって、湿潤線の上昇を抑制し、堤防の安全性を確保することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−161364号公報
【特許文献2】特開2008−261204号公報
【特許文献3】特開2009−235760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、地球温暖化に代表される気候変動の影響により、集中豪雨の際、想定外の雨量となって河川流水の水位が計画高水位を上回り、越流水として堤防を越える事態が観測されるようになってきた。
【0008】
かかる越流水は、堤防を乗り越えた後、勢いよく裏法面を流下しながら該裏法面を侵食し、表法面からの浸透と相俟って、ついには堤防を決壊させる原因となる。
【0009】
そのため、堤防が河川の氾濫防止機能を十分に果たすためには、上述した浸透のみならず、越流に対しても十分な対策を施す必要性が高まってきた。
【0010】
しかしながら、堤防の嵩上げによる対策では、大規模な造成工事が必要となって経済性に欠けるという問題や、表法面と同様に裏法面をコンクリートで覆う対策では、侵食防止はできても、コンクリートによって排水が阻害されるため、堤防内の湿潤線が上昇して法面安定性が低下するという問題を生じていた。
【0011】
また、植生による侵食防止対策も採用されてはいるが、その目的上、できるだけ成長の早い植物、具体的には在来種よりも成長の早い外来種によって裏法面を覆うことが必要になるため、成長し過ぎた植物に対する刈り取り等の維持管理が大きな負担になるという問題や、成長力の強い外来種が在来種を駆逐するのではないかという生態系への影響が懸念されるという問題も生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、浸透による湿潤線の上昇を抑制しつつ、越流による裏法面の侵食を有効かつ経済的に防止するとともに、植生の維持管理を軽減可能な堤防の侵食防止構造を提供することを目的とする。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る堤防の侵食防止構造は請求項1に記載したように、堤防の裏法面のうち、一部を露出領域として露出させて該露出領域に植生を施すとともに、残りを透水性被覆層で被覆して被覆領域とし、前記透水性被覆層に透水性コンクリート層が含まれるようにかつ前記露出領域の植生が前記被覆領域に拡大可能となるように該透水性被覆層を構成したものである。
【0014】
また、本発明に係る堤防の侵食防止構造は、前記透水性被覆層を、透水性コンクリート層とその上に積層された植生基材層との二層構造としたものである。
【0015】
また、本発明に係る堤防の侵食防止構造は、前記透水性被覆層を、透水性コンクリートの単一層で構成するとともに該透水性コンクリートを木片コンクリートで構成したものである。
【0016】
また、本発明に係る堤防の侵食防止構造は、前記木片コンクリートを、予め硬化させた木片コンクリート板で構成したものである。
【0017】
また、本発明に係る堤防の侵食防止構造は、前記木片コンクリートを、未だ硬化していない木片コンクリートを現場施工して硬化させることで構成したものである。
【0018】
また、本発明に係る堤防の侵食防止構造は、前記被覆領域と前記露出領域とが市松状に交互に並ぶように前記透水性被覆層を前記裏法面に配置したものである。
【0019】
また、本発明に係る堤防の侵食防止構造は、前記被覆領域が格子状となりそれらに囲まれた各矩形領域が前記露出領域となるように前記透水性被覆層を前記裏法面に配置したものである。
【0020】
また、本発明に係る堤防の侵食防止構造は、前記露出領域が格子状となりそれらに囲まれた各矩形領域が前記被覆領域となるように前記透水性被覆層を前記裏法面に配置したものである。
【0021】
本発明に係る堤防の侵食防止構造においては、堤防の裏法面のうち、一部を露出領域として露出させて該露出領域に植生を施すとともに、残りを透水性被覆層で被覆して被覆領域とし、かかる透水性被覆層に透水性コンクリート層が含まれるようにかつ露出領域の植生が被覆領域に拡大可能となるように該透水性被覆層を構成する。
【0022】
このようにすると、集中豪雨等で河川流水が堤防を越え、その越流水が堤防の裏法面を流下したとしても、被覆領域においては、透水性被覆層を構成する透水性コンクリート層が裏法面を侵食から保護し、露出領域においては、地盤内に根を伸張させた植物が裏法面を侵食から保護するため、施工当初から裏法面全体で侵食防止機能が発揮されるとともに、露出領域に植栽した植物がその植生を被覆領域に拡大させ、やがては裏法面全体を覆うため、長期的には侵食防止機能がさらに向上する。
【0023】
一方、越流が生じる状況においては、表法面や堤防天端からの浸透も当然懸念されるが、かかる浸透水は、被覆領域においては透水性被覆層を介して堤防の外側に排水され、露出領域においては、堤防の外側に直接排水されるため、裏法面全体で排水機能が発揮される。そして、かかる排水機能により、堤防内での湿潤線の上昇が抑制されて法面安定性の低下は未然に回避される。
【0024】
また、施工当初においては、植栽の範囲が露出領域に限られるため、植物を用いた侵食防止のための初期コストが大幅に軽減されるとともに、裏法面での侵食防止機能が施工当初から発揮されるため、従来のように植物の生長を急ぐ必要がなくなり、その結果、外来種ではなく、在来種を選択することが可能となり、かくして、刈取りやその処分のための維持管理負担が大幅に軽減されるとともに、かかるコスト削減効果は、被覆領域に植生が拡大した段階で一層顕著となる。
【0025】
透水性被覆層は、侵食防止のための透水性コンクリート層が含まれ、全体として透水性が確保され、かつ露出領域の植生が被覆領域に拡大可能となるように構成される限り、その構成は任意であり、例えば、透水性コンクリート層とその上に積層された植生基材層との二層構造とする構成が可能である。また、透水性コンクリート自体の構成も任意であり、例えばポーラスコンクリートで構成することが可能である。
【0026】
なお、かかる構成における植生基材層は、肥料、水、チップ材、粘着剤等を攪拌混合した水性スラリーの吹付け物で構成することができるが、本発明における被覆領域は、周囲に拡がる露出領域からの植生拡大が見込まれるので、従来の植生基材層とは異なり、植物の種子を混入する必要はない。
【0027】
また、透水性被覆層は、透水性コンクリートの単一層で構成するとともに該透水性コンクリートを木片コンクリートで構成することが可能である。
【0028】
かかる構成においては、露出領域で成長した植物の種子が木片コンクリートに飛散しあるいは根が伸張したとき、植物は、木片コンクリートを構成する木片同士の間隙を介してその根を地盤に伸張させるので、被覆領域における植生の拡大がより確実となり、かくして植物による侵食防止機能が大幅に向上する。
【0029】
また、植生基材を吹き付ける必要がないため、植物を用いた侵食防止のための初期コストがいっそう軽減されるとともに、木片コンクリートによる植物の定着容易性が寄与して、露出領域から被覆領域への植生の拡大がより早期にかつ確実に実現される。
【0030】
木片コンクリートとは、木片とセメント含有物質との混練物又はその硬化物を意味し、セメント含有物質とは、セメントと水との水和反応による固結作用が得られるものであって、具体的には、セメント及び水からなるセメントミルク(セメントペースト)、セメント、水及び細骨材からなるフレッシュモルタルあるいはセメント、水、細骨材及び粗骨材からなるフレッシュコンクリートの3つの形態が含まれる。
【0031】
木片コンクリートは、予め硬化させた木片コンクリート板で構成し、又は未だ硬化していない状態で現場施工してから硬化させて構成することが可能であり、前者の場合には、多数の木片を該木片同士に間隙が生じるようにセメント含有物質で相互に固結させて構成し、後者の場合には、多数の木片とセメント含有物質とを含む混練物を、木片同士の間に間隙が形成された状態で該木片が相互に固結されるように、吹付け等の方法で現場施工すればよい。
【0032】
なお、本発明とは別に、裏法面全体に木片コンクリートを敷設することでも、該裏法面における侵食と浸透水の排水が可能であるが、長期的には、植物の根の伸張による地盤安定が効果的であって、植栽が不可欠となるため、裏法面全体に木片コンクリートを敷設する場合には、該木片コンクリートへの植生基材の吹付けが必要となる。
【0033】
そして、かかる構成においては、木片コンクリートの敷設面積も植生基材の吹付け面積も裏法面全体に及び、初期投資が大きくなるとともに、該植生基材に種子として混入される植物は、成長が早い外来種を選択せざるを得ないため、植物の維持管理が負担となるが、本発明においては、木片コンクリートの敷設面積を例えば50%程度に減らすことが可能であり、また植生基材の吹付けも不要であるため、初期コストが大幅に軽減されるとともに、在来種の採用が可能になるため、植生維持管理の負担も大幅に軽減される。
【0034】
露出領域のみに施す植栽とは、植物を定着させることができる限り、その具体的方法は任意であって、播種からの生育や苗木の植付けが含まれるとともに、場合によっては成長した植物の植付けでもかまわない。そのため、外来種を用いずとも、植生による侵食防止を早期に実現することが可能となる。
【0035】
本発明においては、堤防の裏法面を全て透水性被覆層で覆うのではなく、その一部を露出領域とするが、被覆領域と露出領域との面積割合やその配置形態は任意であり、例えば、被覆領域と露出領域とが市松状に交互に並ぶように透水性被覆層を裏法面に配置した構成や、被覆領域が格子状となりそれらに囲まれた各矩形領域が露出領域となるように透水性被覆層を裏法面に配置した構成、あるいは露出領域が格子状となりそれらに囲まれた各矩形領域が被覆領域となるように透水性被覆層を裏法面に配置した構成を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態に係る堤防の侵食防止構造の図であり、(a)は堤体軸方向から見た断面図、(b)は裏法面2の法線方向から見た正面図。
【図2】A−A線方向に沿った断面図。
【図3】本実施形態に係る堤防の侵食防止構造の作用を説明した断面図。
【図4】変形例に係る堤防の侵食防止構造の図であり、(a)は裏法面2の法線方向から見た正面図、(b)はB−B線方向に沿った断面図。
【図5】別の変形例に係る堤防の侵食防止構造の図であり、(a)は法面2の法線方向から見た正面図、(b)はC−C線方向に沿った断面図。
【図6】別の変形例に係る堤防の侵食防止構造の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る堤防の侵食防止構造の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0038】
図1乃至図3は、本実施形態に係る堤防の侵食防止構造を示した図である。これらの図でわかるように、本実施形態に係る堤防の侵食防止構造1は、堤防11の裏法面2のうち、一部を露出領域5として露出させて該露出領域に植生6を施すとともに、残りの被覆領域4を木片コンクリート板3で被覆してある。
【0039】
木片コンクリート板3は、透水性コンクリートである木片コンクリートを予め硬化させたものであり、透水性コンクリートの単一層で構成された透水性被覆層として機能するとともに、木片コンクリートの植物の定着容易性により、露出領域5の植生6を被覆領域4に拡大させることができるようになっている。
【0040】
すなわち、木片コンクリート板3は、多数の木片を該木片同士に間隙が生じるようにセメント含有物質としてのセメントミルクで相互に固結させて構成してあり、かかる構成により、木片同士の間隙に植物の根を伸張させて該木片に絡みつかせ、あるいは間隙を介して裏法面2に根を伸張させることで、植物をしっかりと支える定着機能を発揮する。
【0041】
木片コンクリート板3は、その厚さを10mm以上30mm以下、特に20mm以上30mm以下とするのが望ましい。10mm未満では、強度が不足して搬送時や法面に固定する際の釘打ち作業時に破損するおそれがあり、30mmを越えると、重量が大きくなって作業性が低下するからである。
【0042】
また、木片コンクリート板3は、施工能率を低下させることなく、作業員が持ち運ぶことができるように、その大きさを300mm×300mm以上、500mm×500mm以下、特に、400mm×400mm以上、500mm×500mm以下とするのが望ましい。
【0043】
木片コンクリート板3を製造するには、木片とセメントと少量の水とをミキサー内で混合して木片の表面にセメントミルクを絡ませるようにし、かかる状態で板状物製作用型枠内に投入し、適宜プレスをかけながら硬化乾燥させ、板状に成形すればよい。
【0044】
ここで、セメントミルクが多すぎると、製造された木片コンクリート内の間隙が少なくなり、セメントペーストが少なすぎると、木片同士を固結させる強度が不足して板状体としての強度が不足するため、セメント及び水の量は、かかる観点を考慮して適宜決定する。
【0045】
また、木片は、板状体としての強度を確保しつつ、それらの間に間隙が確実に形成されるよう、大きさを10mm以上30mm以下とするのが望ましい。
【0046】
木片コンクリート板3をこのような条件で製造すると、質量を1〜3kg、曲げ破壊荷重を400N程度以上、曲げ強さを0.7N/mm2程度以上にすることが可能であり、上述したように施工能率と作業性の両方を確保することができる。
【0047】
一方、木片コンクリート板3は矩形状に成形してあるとともに、図1(b)でよくわかるように、被覆領域4と露出領域5とが市松状に交互に並ぶように裏法面2に配置してあり、かかる構成により、露出領域5における植生6が被覆領域4に拡大しやすいようになっている。
【0048】
本実施形態に係る堤防の侵食防止構造1を構築するには、上述した木片コンクリート板3を施工現場に予め搬入しあるいは現地にて製作した後、該木片コンクリート板を、被覆領域4と露出領域5とが市松状に交互に並ぶように裏法面2に配置する。木片コンクリート板3は、ピンやアンカーなどを用いて裏法面2に適宜固定すればよい。
【0049】
次に、木片コンクリート板3で被覆された残りの領域、すなわち露出領域5に植栽6を施す。植栽6は、播種、苗木の植付けなど任意にその方法を選択することができる。
【0050】
本実施形態に係る堤防の侵食防止構造1においては、集中豪雨等で河川の水位が上昇して該河川の流水が堤防11を越えたとき、河川の流水は図3に示すように、越流水となって堤防11の裏法面2を流下するが、被覆領域4においては、木片コンクリート板3が裏法面2を侵食から保護し、露出領域5においては、地盤内に根を伸張させた植物がやはり裏法面2を侵食から保護する。
【0051】
一方、越流が生じる状況においては、表法面や堤防天端からの浸透も当然懸念されるが、かかる浸透水は図3に併せて示したように、被覆領域4においては、木片コンクリート板3を介して堤防11の外側に排水され、露出領域5においては、地肌から堤防11の外側に直接排水されるので、堤防11内で湿潤線が上昇することはない。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係る堤防の侵食防止構造1によれば、堤防11の裏法面2を2つの領域に分け、そのうちの一方の領域を、裏法面2の地肌が露出する露出領域5、他方の領域を、木片コンクリート板3で被覆される被覆領域4とし、露出領域5には植栽6を施したので、施工当初から裏法面2の全体にわたって侵食防止機能が発揮されるとともに、露出領域5に施した植栽6が被覆領域4にその植生を拡大し、やがては裏法面全体を覆うため、長期的には侵食防止機能がさらに向上する。また、裏法面2全体で排水機能が確保されるため、浸透による法面安定性の低下も未然に回避される。
【0053】
また、本実施形態に係る堤防の侵食防止構造1によれば、植生基材が積層されない木片コンクリート板3の単一層で透水性被覆層を構成したので、上述した侵食防止機能及び排水機能は、露出領域5に植え付けられた植物の成長に伴ってさらに向上する。
【0054】
すなわち、露出領域5に植栽6を施してから所定期間が経過し、露出領域5で成長した植物の種子が木片コンクリート板3に飛散しあるいは根が伸張したとき、植物は、木片コンクリート板3を構成する木片同士の間隙を介してその根を地盤に伸張させ、やがては被覆領域4においてもしっかりと植生を拡大し、植物による侵食防止機能が大幅に向上する。
【0055】
一方、施工当初においては、植栽6の範囲が露出領域5に限られるとともに、植生基材の吹付けも不要であるため、植物を用いた侵食防止のための初期コストが大幅に軽減される。加えて、木片コンクリート板3により、裏法面2での侵食防止機能が施工当初から発揮されるため、従来のように植物の生長を急ぐ必要がなくなり、その結果、外来種ではなく、在来種を選択することが可能となり、かくして、刈取りやその処分のための維持管理負担が大幅に軽減される。加えて、かかるコスト削減効果は、木片コンクリート板3に植生が拡大した段階で一層顕著となる。
【0056】
本実施形態では、予め硬化させてなる木片コンクリート板3で透水性被覆層を構成したが、これに代えて、未だ硬化していない木片コンクリートを現場施工しこれを硬化させることで透水性被覆層を構成するようしてもかまわない。
【0057】
かかる構成においては、まず、裏法面2のうち、被覆領域4に型枠を設置するとともに必要に応じてラスを敷設し、しかる後、該ラスの上からセメントミルクと多数の木片とを含む混練物を吹き付けることで、木片コンクリートからなる透水性被覆層を形成する。
【0058】
混練物は、木片とセメント含有物質としてのセメントミルクとを混合して構成してあり、セメントミルクが硬化した状態において、木片同士の間に空隙が形成された状態で該木片が相互に固結されるように、木片及びセメントミルクの混合割合を設定する。
【0059】
具体的には、セメントミルクを木片の量に対して貧配合とし、ミキサー内で木片の周囲にセメントミルクを付着させるように混合し、かかる状態で木片を吹き付けるのが望ましい。
【0060】
かかる混練物を吹き付けるにあたっては、例えば数cm程度の大きさの木片とセメントミルクとをそれぞれ必要な量だけ計量槽で計量し、これらをミキサーに投入して混合した後、例えばコンクリート吹付機を用いてその吹付けノズルから噴出するようにすればよい。
【0061】
また、本実施形態では、被覆領域4と露出領域5とが市松状に交互に並ぶように、透水性被覆層である木片コンクリート板3を裏法面2に配置したが、被覆領域と露出領域とをどのように組み合わせるか、あるいはそれらをどのような平面形状にするかは任意であって、例えば上述した構成に代えて、図4又は図5に示す構成を採用することができる。
【0062】
図4に示す変形例に係る堤防の侵食防止構造21は上述の実施形態と同様、侵食防止対象となる裏法面2のうち、一部を裏法面2の地肌が露出する露出領域5bとし、残りの部分を透水性被覆層としての木片コンクリート板3で覆われた被覆領域4bとするとともに、露出領域5bを植栽6の範囲としてあるが、矩形状に成形されてなる木片コンクリート板3は同図でよくわかるように、露出領域5bが格子状となるよう、互いに離間させて裏法面2に配置してある。
【0063】
かかる構成においても、上述の実施形態と同様の作用効果を奏するとともに、木片コンクリート板3に代えて、未硬化の木片コンクリートを吹き付けて硬化させることができる点についても上述したと同様であるが、ここではその説明を省略する。
【0064】
図5に示す変形例に係る堤防の侵食防止構造31は上述の実施形態と同様、侵食防止対象となる裏法面2のうち、一部を裏法面2の地肌が露出する露出領域5cとし、残りの部分を透水性被覆層としての木片コンクリート32で覆われた被覆領域4cとするとともに、露出領域5cを植栽6の範囲としてあるが、木片コンクリート32は同図でよくわかるように、被覆領域4cが格子状となるよう、かつそれらに囲まれた矩形領域がそれぞれ露出領域5cとなるように、裏法面2に配置してある。
【0065】
木片コンクリート32は、格子状の型枠を裏法面2に建て込んだ後、未硬化の木片コンクリートを型枠内に吹き付けて硬化させるのが望ましい。
【0066】
かかる構成においても、上述の実施形態と同様の作用効果を奏するが、ここではその説明を省略する。
【0067】
また、本実施形態では、本発明の透水性被覆層を木片コンクリート板3で構成したが、これに代えて、図6に示すように、透水性コンクリート層41とその上に積層された植生基材層42との二層構造で透水性被覆層43を構成し、該透水性被覆層で堤防11の裏法面2を被覆して被覆領域4dとするとともに、残りを露出領域5dとし、植栽6を施すようにしてもよい。
【0068】
透水性コンクリート層41は、例えばポーラスコンクリートで形成するとともに、植生基材層42は、肥料、水、チップ材、粘着剤等を攪拌混合した水性スラリーの吹付け物で構成することができる。なお、被覆領域4dは、周囲に拡がる露出領域5dからの植生拡大が見込まれるので、従来の植生基材層とは異なり、植物の種子を混入する必要はない。
【0069】
かかる変形例においては、植生基材層42の吹付けに初期コストがかかるとともに、透水性コンクリート層41による植物の定着性は、ポーラスコンクリートゆえの空隙やひび割れを介した根の伸張によるしかないため、木片コンクリートほどは期待できないが、透水性コンクリート層41と植栽6によって施工当初から侵食防止機能が発揮されるとともに、露出領域5dでの植生が被覆領域4dに拡大して侵食防止機能が向上する点や、透水性コンクリート層41によって、裏法面2全体で排水機能が発揮される点あるいは植栽の維持管理負担が軽減される点については、上述の実施形態と同様であり、その説明についてはここでは省略する。
【0070】
なお、かかる変形例は、図1と同様、被覆領域4dと露出領域5dとが市松状に交互に並ぶように透水性被覆層43を裏法面2に配置してなるが、被覆領域と露出領域の配置形態は任意であって、図4や図5で説明した配置形態も可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0071】
1,21,31 堤防の侵食防止構造
2 裏法面
3 木片コンクリート板(透水性被覆層)
4,4b,4c 被覆領域
5,5b,5c 露出領域
6 植栽
11 堤防
32 木片コンクリート(透水性被覆層)
41 透水性コンクリート層
42 植生基材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
堤防の裏法面のうち、一部を露出領域として露出させて該露出領域に植生を施すとともに、残りを透水性被覆層で被覆して被覆領域とし、前記透水性被覆層に透水性コンクリート層が含まれるようにかつ前記露出領域の植生が前記被覆領域に拡大可能となるように該透水性被覆層を構成したことを特徴とする堤防の侵食防止構造。
【請求項2】
前記透水性被覆層を、透水性コンクリート層とその上に積層された植生基材層との二層構造とした請求項1記載の堤防の侵食防止構造。
【請求項3】
前記透水性被覆層を、透水性コンクリートの単一層で構成するとともに該透水性コンクリートを木片コンクリートで構成した請求項1記載の堤防の侵食防止構造。
【請求項4】
前記木片コンクリートを、予め硬化させた木片コンクリート板で構成した請求項3記載の堤防の侵食防止構造。
【請求項5】
前記木片コンクリートを、未だ硬化していない木片コンクリートを現場施工して硬化させることで構成した請求項3記載の堤防の侵食防止構造。
【請求項6】
前記被覆領域と前記露出領域とが市松状に交互に並ぶように前記透水性被覆層を前記裏法面に配置した請求項1乃至請求項5のいずれか一記載の堤防の侵食防止構造。
【請求項7】
前記被覆領域が格子状となりそれらに囲まれた各矩形領域が前記露出領域となるように前記透水性被覆層を前記裏法面に配置した請求項1乃至請求項5のいずれか一記載の堤防の侵食防止構造。
【請求項8】
前記露出領域が格子状となりそれらに囲まれた各矩形領域が前記被覆領域となるように前記透水性被覆層を前記裏法面に配置した請求項1乃至請求項5のいずれか一記載の堤防の侵食防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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