説明

塗り厚ガイド、防耐火構造体および防耐火構造体の構築方法

【課題】 モルタルの塗り厚を正確にガイドすることが可能であり、かつ十分な防耐火性能を得ることができるとともに、塗り厚の検査、管理が容易な塗り厚ガイド、およびこれを用いた防耐火構造体ならびにその構築方法を提供する
【解決手段】 構造材であるたて材T,Tの屋外側に張り付けられた下張材2と、この下張材2の屋外側に取り付けられたラス3と、このラス3のラス目に差し込まれた複数の塗り厚ガイド4,4…と、ラス3にセメント系モルタルを塗り付けて構成された防耐火被覆層5と、から防耐火構造体たる外壁1を構成する。ここで、塗り厚ガイド4は、防耐火被覆層5と同じく、セメント系モルタルを硬化させることにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗り厚ガイド、防耐火構造体および防耐火構造体の構築方法に関し、さらに詳しくは湿式工法で構築される防耐火構造体の塗り厚の目安として用いる塗り厚ガイド、およびこれを用いた防耐火構造体、ならびにその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式工法は、下張材の表面にモルタル塗り下地としてラスを取り付け、当該ラスにモルタルを塗り付けることにより、壁等を構築する方法である。
そして、特許文献1には、下張材にメタルラスを取り付けるためのステープルに、モルタルの塗り厚の目安となる塗り厚ガイドを設けたものが開示されている。
かかるステープルは、下張材に打ち込まれる一対の脚部と、該脚部を連結する連結部とからなるステープル本体と、当該ステープル本体から前記脚部と反対側に延びる塗厚ガイドと、を備える金属製の部材である。
【特許文献1】特開平10−152965号公報(段落0023−0025、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ラスに塗り付ける左官材料として、防火性能・耐火性能を備える左官材料(例えば石こう系材料やセメント系材料で練ったモルタル等)を使用することにより、構造体に所望の防火性能、耐火性能(以下、「防耐火性能」という場合がある。)を付与することが行われている(以下、このような構造体を「防耐火構造体」という。)。
このような防耐火構造体の構築に、従来のような金属製の塗り厚ガイドを用いると、金属部分から下張材に熱が伝わってしまい、十分な防耐火性能が得られないおそれがある。
【0004】
また、従来の塗り厚ガイドは、非常に細い針状の部材であるため、モルタル塗り仕上げを行った後に、塗り厚ガイドを確認することが困難であった。そのため、適切な塗り厚に仕上げられているかを検査、管理することが難しかった。
【0005】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、左官材料の塗り厚を正確にガイドすることが可能であり、かつ十分な防耐火性能を得ることができるとともに、塗り厚の検査、管理が容易な塗り厚ガイド、およびこれを用いた防耐火構造体ならびにその構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る塗り厚ガイドは、左官工事において左官材料の塗り厚の目安として用いられる塗り厚ガイドであって、防耐火性能を有する左官材料を硬化させて形成されていることを特徴とする。
【0007】
かかる構成によれば、防耐火性能を有する左官材料を硬化させて塗り厚ガイドが形成されていることから、塗り厚ガイド部分の防耐火性能を左官仕上部分と同程度に高めることができる。そのため、塗り厚ガイド部分が弱点となることがなく、左官材料の塗り厚を正確にガイドしつつ、下張材や梁柱を火災から好適に保護することができる。
【0008】
ここで、前記防耐火性能を有する左官材料は、セメント系又は石こう系もしくはエトリンガイト系結合材を成分とする水和硬化物であるのが好ましい。これらの材料は、無機質の不燃材料であるので、好適に防耐火性能を発揮することができる。
具体的には、上記3種類の結合材と水と骨材とを練り合わせたモルタルや、前記骨材に替えて、又は、骨材とともにガラス繊維(チョップドストランド)を混入したものや、結合材と水のみを練り合わせたものなどが好ましい。また、エトリンガイト系結合材と水とガラス繊維とを混合した水和硬化物を用いるのがさらに好ましい。エトリンガイト系結合材を用いると、材料中の結晶水分子の量が多くなり、防耐火性能を大きく向上させることができるからである。
【0009】
また、水和反応によって硬化するモルタルなどの水和硬化物(水和硬化材料ともいう。)の特性上、後から塗られた左官材料と同材料でありながらも施工完了後の色味が異なることから、施工完了後においても塗り厚ガイドを目視で容易に確認することができるとともに、塗り厚の検査、管理が容易となる。
【0010】
また、本発明に係る塗り厚ガイドは、柱状部と、この柱状部の一端側に連続するテーパ部とからなり、前記テーパ部は、前記柱状部から離れるほど先細りとなるように構成するのがよい。
【0011】
かかる構成によれば、塗り厚ガイドはテーパ部を備え、当該テーパ部は柱状部から離れるほど先細りとなることから、かかるテーパ部をモルタル塗り下地となるラスに向けて差し込むときに、差し込みやすい。そのため、仮に柱状部がラスのラス目より大きくても、塗り厚ガイドをラスに容易に差し込むことができる。
【0012】
また、前記テーパ部の一端側の断面の外接円の直径は、モルタル塗り下地となるラスのラス目の内接円の直径よりも小径であり、前記テーパ部の柱状部側の断面および前記柱状部の断面の外接円の直径は、前記ラスのラス目の内接円の直径と同径又はそれよりも若干大径であるように構成するのがよい。
【0013】
かかる構成によれば、テーパ部の一端側の断面の外接円の直径は、モルタル塗り下地となるラスのラス目の内接円の直径よりも小径であることから、塗り厚ガイドをラスに容易に差し込むことができる。また、テーパ部の柱状部側の断面および柱状部の断面の外接円の直径は、ラスのラス目の内接円の直径と同径又はそれよりも若干大径であることから、塗り厚ガイドをラスのラス目に差し込んだときに、柱状部の周面とラス目の内面とが当接し、ラスによって塗り厚ガイドを保持することができる。そのため、左官作業時に塗り厚ガイドがぐらついたり脱落したりすることがなく、精度よく左官作業を行うことができる。
【0014】
ここで、「ラスのラス目の内接円の直径よりも若干大径」とは、塗り厚ガイドをラスのラス目に挿入するときに、塗り厚ガイドの外周面がラスに引っ掛かって削られながら差し込まれる程度に大きいことをいう。このような大きさに形成すれば、塗り厚ガイドをラスによって一層しっかりと保持させることができる。
【0015】
また、本実施形態に係る塗り厚ガイドは、所定の断面形状を呈する柱状体からなり、前記断面形状の外接円の直径は、モルタル塗り下地となるラスのラス目の内接円の直径と同径又はそれよりも若干大径であることを特徴とする。
【0016】
かかる構成によっても、塗り厚ガイドをラスのラス目に差し込んだときに、柱状部の周面とラス目の内面とが当接するので、ラスによって塗り厚ガイドを保持することができる。そのため、左官作業時に塗り厚ガイドがぐらついたり脱落したりすることがなく、精度よく左官作業を行うことができる。
【0017】
また、本発明に係る防耐火構造体は、下張材と、前記下張材に取り付けられたラスと、前記ラスのラス目に差し込まれた前記塗り厚ガイドと、前記塗り厚ガイドの他端側の端面と略面一に形成された防耐火性能を有する左官材料からなる防耐火被覆層と、からなることを特徴とする。
【0018】
かかる構成によれば、前記したように、防耐火性能を有する左官材料を硬化させて形成した塗り厚ガイドを用いていることから、塗り厚ガイド部分が弱点となることがない。そのため、所望の防火性能、耐火性能を満足する防耐火構造体を構築することができる。
【0019】
なお、防耐火被覆層を形成するにあたっては、前記防耐火性能を有する左官材料として、セメント系又は石こう系もしくはエトリンガイト系結合材を成分とする水和硬化物を用いるのが好適である。これらの材料は、無機質の不燃材料であるので、好適に防耐火性能を発揮することができる。また、塗り厚ガイドと防耐火被覆層を、同じ材質で構築すれば、材料のなじみがよく、防耐火性能にムラが生じることがない。
【0020】
また、本発明に係る防耐火構造体の構築方法は、下張材にラスを取り付けるラス取付工程と、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の塗り厚ガイドを前記ラスのラス目に差し込む塗り厚ガイド差込工程と、前記塗り厚ガイドの他端側の端面と略面一になるまで防耐火性能を有する左官材料を前記ラスに塗り付ける左官材料塗付工程と、を含んでなることを特徴とする。
【0021】
かかる方法によれば、ラスに差し込まれた塗り厚ガイドを目安にして、防耐火被覆層を均一な層厚で施工することができる。ここで、「略面一」とは、完全に面一となる場合のみならず、塗り厚ガイドの他端側の端面がうっすらと隠れる程度の厚さに塗り上げる場合など、数ミリの厚さの違いも許容するものである。
【0022】
なお、前記塗り厚ガイド差込工程において、前記ラスのラス目に、前記塗り厚ガイドを削りながら差し込むようにするのが好適である。
【0023】
このようにすると、塗り厚ガイドがラスのラス目に食い込んで、しっかりと保持されるため、塗り厚ガイドのぐらつきや脱落を確実に防止することができる。そのため、品質を一層向上させることが可能となる。
【0024】
また、前記塗り厚ガイド差込工程の前に、前記ラスの表面付近まで前記左官材料を下塗りする左官材料下塗工程を含むように構成するのが好ましい。
【0025】
このようにすると、下塗りされた左官材料の層によって塗り厚ガイドを保持することができる。そのため、ラスのラス目の内接円よりも直径の小さい塗り厚ガイドを用いることが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、左官材料の塗り厚を正確にガイドすることが可能であり、かつ十分な防耐火性能を得ることができるとともに、塗り厚の検査、管理が容易な塗り厚ガイド、およびこれを用いた防耐火構造体ならびにその構築方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
[第1実施形態]
本発明を実施するための第1実施形態について図面を参照して詳細に説明する。説明において、同一の要素には同一の番号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、第1実施形態に係る防耐火構造体の一例である外壁を一部切り欠いて示した斜視図である。図2は、第1実施形態に係る塗り厚ガイドを示した図であり、(a)は斜視図、(b)はラスに取り付けた状態を示した正面図である。なお、以下の説明においては、図1の手前側を屋外側、図1の奥側を屋内側として説明する。
【0028】
(外壁1)
防耐火構造体たる外壁1は、図1に示すように、構造材であるたて材T,Tの屋外側に張り付けられた下張材2と、この下張材2の屋外側に取り付けられたラス3と、このラス3のラス目に差し込まれた複数の塗り厚ガイド4,4…と、ラス3に左官材料であるセメント系モルタルを塗り付けて構成された防耐火被覆層5と、から構成されている。
外壁1は、下張材2の屋外側をセメント系モルタルからなる防耐火被覆層5で被覆することにより、火災の熱からたて材T,Tや梁柱(図示省略)などの構造材および屋内の家財や住人を保護するものである。外壁1は、防耐火被覆層5の厚さや材質を調整することにより、所望の防火性能、耐火性能を発揮するようになっている。たて材T,Tは構造材であり、例えばツーバイフォー構法におけるたて枠材などで構成されている。
【0029】
(下張材2)
下張材2は、図1に示すように、たて材T,Tの屋外側に張り付けられた板状の部材であり、例えば合板(普通合板、構造用合板等)、石膏ボード、ケイ酸カルシウムボード、セメントボードなどで構成されている。
下張材2の材質および厚さは、特に限定されるものではなく、外壁1に要求される性能に応じて適宜選択すればよい。
【0030】
(ラス3)
ラス3は、図1に示すように、下張材2の屋外側に取り付けられた網状の部材であり、いわゆるモルタル塗り下地としての役割を担うものである。第1実施形態では、ラス3は、いわゆるメタルラスで構成されている。メタルラスは、金属板に切れ目を入れて、当該金属板を切れ目と垂直な方向に引き伸ばして形成される部材であり、図1および図2(b)に示すように、菱形形状のラス目3a(「網目」ともいう。)を有している。
【0031】
また、ラス3は、いわゆるこぶラスであり、ラス3の一部をへこませて形成したこぶ3c(図3(a)参照)を所定間隔で備えている。かかるこぶ3cにより、ラス3は、防耐火被覆層5の層厚方向の略中央に配置されている。換言すれば、こぶ3cは、防耐火被覆層5の層厚の半分程度の高さ(深さ)に形成されている。ラス3は、ステープルS(図3(a)参照)等によって、こぶ3cの位置で下張材2に止め付けられている。
なお、第1実施形態においては、下張材2の屋外側に直接ラス3を取り付けたが、下張材2とラス3との間に、例えば防水紙などの何らかの部材(あるいは層)が介在してもよい。
【0032】
(塗り厚ガイド4)
塗り厚ガイド4は、防耐火被覆層5の塗り厚の目安となる部材であり、図1に示すように、ラス3のラス目3aに所定の間隔を隔てて差し込まれている。また、第1実施形態では、塗り厚ガイド4は、防耐火被覆層5と同じく、セメント系モルタルを硬化させることにより形成されている。したがって、塗り厚ガイド4は、防耐火被覆層5と同じ防耐火性能を備えている。そのため、従来の金属製の塗り厚ガイドのように、火災の熱が塗り厚ガイド4を介して下張材2やたて材T,Tに伝達されることがない。
また、塗り厚ガイド4の設置間隔は、特に限定されるものではないが、1.0m〜1.5m間隔で設置するのが好適である。塗り厚ガイド4同士の間隔が1.5mを超えると、防耐火被覆層5の層厚に厚みムラが生じやすくなり、当該間隔が1.0m未満になると、塗り厚ガイド4の設置量が多くなるとともに設置作業や左官作業も煩雑となり、さらにはコスト増となるからである。
【0033】
ここで、第1実施形態では、防耐火被覆層5と同じくセメント系モルタルによって塗り厚ガイド4を形成したが、これに限られるものではなく、例えば石こう系モルタルによって塗り厚ガイド4を形成してもよい。
なお、防耐火被覆層5と塗り厚ガイド4とを同質の材料で形成すれば、防耐火性能にムラが生じることがなく、また、材料同士のなじみもよいため、外壁1を高品質に施工することが可能となる。
【0034】
第1実施形態に係る塗り厚ガイド4は、図2(a)に示すように、円柱形状を呈する柱状部41と、この柱状部41の一端側(屋内側)に連続し円錐台形状を呈するテーパ部42とから構成されている。塗り厚ガイド4の高さHは、防耐火被覆層5の層厚と等しく形成されている。これにより、塗り厚ガイド4は、防耐火被覆層5の層厚の目安となる。
【0035】
柱状部41は、塗り厚ガイド4をラス3のラス目3aに差し込んだときに、ラス3の屋外側に突出する部分であり、図2(a)に示すように、高さH1、直径D1の円柱形状を呈している。
柱状部41の高さH1は、ラス3の屋外側に塗り付けられる防耐火被覆層5の厚さと一致する大きさに形成されている。換言すれば、防耐火被覆層5は、柱状部41の他端側の端面41aの高さ位置と略同じ厚さになるまで塗り上げられる。
また、柱状部41の直径D1は、図2(b)に示すように、ラス目3aの内接円とほぼ同径かそれよりも若干大径に形成されている。すなわち、柱状部41は、ラス3によって保持可能な大きさに形成されている。したがって、塗り厚ガイド4をラス3のラス目3aに差し込んだときに、柱状部41の外周面とラス目3aの内面とが、接点3bで当接することとなる。
なお、柱状部41がラス目3aよりも若干大径に形成されている場合は、柱状部41の外周面がラス3によって若干削られながら差し込まれることとなる。かかる構成によれば、塗り厚ガイド4は、一層しっかりとラス3に保持される。
【0036】
テーパ部42は、塗り厚ガイド4をラス3のラス目3aに差し込んだときに、ラス3の屋内側(下張材2側)に突出する部分であり、図2(a)に示すように、高さH2、一端側の端面42aの直径D2の円錐台形状を呈している。
テーパ部42の高さH2は、下張材2の屋内側面とラス3との間隔に等しく形成されている。すなわち、テーパ部42の一端側の端面42aを下張材2の表面に当接させると、テーパ部42の他端側の断面42bの位置が、ラス3の位置と一致するようになっている。
テーパ部42の一端側の端面42aは、図2(b)に示すように、ラス3のラス目3aの内接円の直径よりも小径に形成されている。そのため、塗り厚ガイド4をラス3に差し込むときに、テーパ部42の一端側がラス目3aの中に入り込み易い。すなわち、塗り厚ガイド4は、ラス3によって保持可能であるとともに、ラス3に容易に差し込むことができるように構成されている。
【0037】
(防耐火被覆層5)
防耐火被覆層5は、火災等の熱からたて材T,Tなどを保護する役割を果たす層であり、図1に示すように、下張材2の屋外側に設けられている。第1実施形態では、防耐火被覆層5は、下張材2に取り付けたラス3にセメント系モルタルを塗り付けることにより構成されている。防耐火被覆層5の層厚方向の中心にはラス3が配置されており、かかるラス3を介して防耐火被覆層5と下張材2とが一体化されている。
【0038】
防耐火被覆層5を構成するセメント系モルタルは、例えばセメントと砂と水とを所定の配合で練り合わせた左官材料であり、高い防耐火性能を有している。とくに、エトリンガイト又はエトリンガイトの生成物質を多く含有するセメントを用いた場合には、このエトリンガイトに含まれる結晶水分子が蒸発する際に熱エネルギーを消費することで非常に高い防耐火性能を発揮することができる。
【0039】
なお、第1実施形態においては、防耐火被覆層5としてセメント系モルタルを用いたが、防耐火性能を備える左官材料であればこれに限られるものではなく、例えば石こう系モルタルなどを用いることができる。
【0040】
(外壁1の構築方法)
つづいて、主に図3(適宜図1、図2)を参照して外壁1の構築方法を説明する。
図3は、第1実施形態に係る防耐火構造体の一例である外壁の構築方法を順番に示した断面図である。なお、図3は、図2(b)に示すA−A線の断面図である。
【0041】
(ラス取付工程)
はじめに、図3(a)に示すように、下張材2の屋外側の面にラス3を取り付ける。ラス3は、防耐火被覆層5の層厚の1/2の高さのこぶ3cを備えているため、当該こぶ3cを下張材2の屋外側の面に当接させることにより、ラス3の平面部が防耐火被覆層5の層厚の中央に配置されることとなる。かかるこぶ3cをステープルSで止めつけることにより、ラス3を下張材2に取り付ける。
【0042】
(塗り厚ガイド差込工程)
つぎに、図3(b)に示すように、塗り厚ガイド4をラス3のラス目3aに差し込む。
このとき、塗り厚ガイド4のテーパ部42は、一端側(屋内側)に向かうほど先細りとなっており、また、一端側の端面42aの直径D2は、ラス目3aの内接円の直径よりも小径に構成されていることから、塗り厚ガイド4をラス目3aの中に容易に差し込むことができる。
【0043】
ここで、テーパ部42の高さH2は下張材2の表面からラス3の平坦部までの間隔に等しく、テーパ部42の他端側の断面42bの直径(すなわち柱状部41の直径)D1はラス目3aの内接円の直径と略同径または若干大径に構成されていることから、塗り厚ガイド4の端面42aが下張材2の表面に当接するまで差し込むと、テーパ部42の他端側(断面42a付近)の外周面がラス目3aの内面と接点3b,3b…で当接することとなる。これにより、塗り厚ガイド4がラス3に保持される(図2(b)参照)。
【0044】
(左官材料塗付工程)
つぎに、図3(c)に示すように、塗り厚ガイド4の他端側の端面41aの位置を目安にして、セメント系モルタルをラス3に塗り付けることにより、防耐火被覆層5を形成する。このとき、塗り厚ガイド4はラス3に嵌め込まれてしっかりと保持されているので、セメント系モルタルを塗り付けても脱落するおそれがない。そのため、防耐火被覆層5を均一な層厚で仕上げることができる。
すなわち、かかる方法によれば、防耐火被覆層5を所定の厚さで容易に構築することができる。
【0045】
また、仕上がった防耐火被覆層5の表面には、図1に示すように,塗り厚ガイド4の端面41a(図2参照)が露出することとなる。そのため、塗り厚ガイド4が適切に使用されていたかどうかを目視で容易に検査、管理することができる。また、適切な塗り厚で仕上られているか否かを容易に検査することができる。
なお、塗り厚ガイド4の端面41aがうっすらと隠れる程度まで塗り上げる場合もあるが、かかる場合でも、塗り厚ガイド4の上部とそれ以外の部分とでは、セメント系モルタルが水和反応によって硬化する際の水分蒸発や塗り付けた際の下地側への水分吸収度合などの条件がことなるため、防耐火被覆層5の表面に塗り厚ガイド4の端面41aの跡が浮かび上がることとなる。そのため、このような場合でも、塗り厚ガイド4が適切に使用されていたかどうかを目視で容易に検査、管理することができる。また、適切な塗り厚に仕上られているかどうかを容易に確認することができる。
【0046】
[第2実施形態]
つづいて、第2実施形態に係る塗り厚ガイド7について説明する。
図4は、第2実施形態に係る塗り厚ガイドを示した図であり、(a)は斜視図、(b)はラスに取り付けた状態を示した正面図である。
【0047】
第2実施形態に係る塗り厚ガイド7は、図4(a)に示すように、柱状部71およびテーパ部72の断面形状が正八角形である点が、前記した実施形態に係る塗り厚ガイド4と異なっている。
つまり、第2実施形態に係る塗り厚ガイド7は、図4(b)に示すように、正八角形に形成された柱状部71の断面の外接円の直径が、ラス3のラス目3aの内接円の直径と同径あるいはそれよりも若干大径となるように形成されている。そのため、塗り厚ガイド7は、八角形の頂点においてラス目3aの内面に当接可能となり、ラス3によって保持可能となっている。
【0048】
なお、第2実施形態においては塗り厚ガイド7の断面形状を正八角形にしたが、塗り厚ガイドの断面形状はこれに限定されるものではなく、例えば五角形、六角形あるいは星型など、どのような形状であってもよい。これにより、塗り厚ガイド7のデザイン性を向上させることができる。
また、どのような断面形状にした場合でも、当該断面形状の外接円の直径を、ラス目3aの内接円の直径と同径あるいはそれよりも若干大径となるように形成すれば、塗り厚ガイド7をラス3に保持させることが可能となり、後記する左官材料下塗工程を省略することができる。
また、かかる構成においても、塗り厚ガイド7は、セメント系モルタル又は石こう系モルタルで構成されていることから、火災時に弱点になることがなく、下張材2やたて材T,Tを好適に保護することができる。
【0049】
[第3実施形態]
つづいて、第3実施形態に係る塗り厚ガイド9について説明する。
図5は、第3実施形態に係る塗り厚ガイドを示した図であり、(a)は斜視図、(b)及び(c)はラスに取り付ける手順を示した断面図である。なお、図5(b)及び(c)は、(a)に示したB−B線の断面図である。
【0050】
第3実施形態に係る塗り厚ガイド9は、図5(a)に示すように、柱状体(柱状部)のみから構成されており、テーパ部を有しない点が、前記した実施形態に係る塗り厚ガイド4と相異している。
すなわち、第3実施形態に係る塗り厚ガイド9は、円柱形状を呈しており、その断面の直径は、ラス目3aの内接円の直径と同径あるいはそれよりも若干大径となるように形成されている。また、塗り厚ガイド9は、防耐火被覆層5の層厚と略等しく形成されている。
【0051】
塗り厚ガイド9は、前記した塗り厚ガイド4,7のようなテーパ部42,72を備えていないことから、かかる塗り厚ガイド9をラス3のラス目3aに差し込もうとすると、図5(b)に示すように、ラス3に引っ掛かる。
このとき、塗り厚ガイド9をラス3にねじ込みながら押し付けると、塗り厚ガイド9は、ラス3(特にメタルラス)に比較して柔らかい材質であるセメント系モルタル又は石こう系モルタルを硬化させて形成されていることから、図5(c)に示すように、塗り厚ガイド9の外周面9aが削られながらラス3(ラス目3a)に挿入されることとなる。
これにより、塗り厚ガイド9は、一層しっかりとラス3に保持されることとなる。また、かかる構成においても、塗り厚ガイド9は、セメント系モルタル又は石こう系モルタルで構成されていることから、火災時に弱点とならずに下張材2やたて材T,Tを好適に保護することができる。
【0052】
[第4実施形態]
つづいて、第4実施形態に係る防耐火構造体の構築方法について説明する。
図6は、第4実施形態に係る防耐火構造体の一例である外壁の構築方法を順番に示した断面図である。
【0053】
第4実施形態に係る外壁10の構築方法は、ラス3の取り付け後、塗り厚ガイド11の差し込み前に、ラス3の表面までセメント系モルタルを下塗りするモルタル下塗工程を備える点、および、塗り厚ガイド11の断面の直径がラス目3aの内接円の直径よりも小さい点が、前記した第1実施形態に係る外壁1の構築方法と異なっている。
以下、図6を参照して第4実施形態に係る外壁10の構築方法について説明する。
【0054】
(ラス取付工程)
はじめに、図6(a)に示すように、下張材2の屋外側の面にラス3を取り付ける。かかる工程は、前記した第1実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0055】
(モルタル下塗工程)
つぎに、図6(b)に示すように、ラス3の平坦部の表面付近までセメント系モルタルを塗り付けて下塗層5Aを形成する。
【0056】
(塗り厚ガイド差込工程)
つぎに、図6(c)に示すように、塗り厚ガイド11をラス目3aから下塗層5Aに差し込む。これにより、塗り厚ガイド11は、下塗層5Aによって保持されることとなる。そのため、塗り厚ガイド11の断面の直径がラス目3aの内接円の直径より小さくても、塗り厚ガイド11が脱落することがない。
【0057】
(左官材料塗付工程)
つぎに、図6(d)に示すように、塗り厚ガイド11の高さと略同じ厚さまでセメント系モルタルを塗り付けて上塗層5Bを形成する。これにより、防耐火被覆層5が形成され、外壁10が完成する。
【0058】
なお、第4実施形態においては、左官材料塗下塗工程において、ラス3全体にセメント系モルタルを下塗りすることとしたが、これに限られるものではなく、塗り厚ガイド11を差し込む部分のみにモルタルを下塗りするようにしてもよい。
【0059】
以上、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0060】
例えば、本実施形態においては、塗り厚ガイドをセメント系モルタルで形成することとしたが、これに限られるものではなく、石こう系モルタルまたはエトリンガイト系モルタルで形成してもよい。石こう系モルタルまたはエトリンガイト系モルタルでも、塗り厚ガイド部分から下張材などに熱が伝わるのを防ぐことができる。
【0061】
また、本実施形態では、ラス3としてこぶ付きのメタルラスを用いたが、これに限られるものではなく、他のラス下地を用いてもよい。他のラス下地の例としては、例えばワイヤラスやラスボード等を用いることができる。また、こぶラス以外にも、平ラス、リブラス、波形ラスなどを用いることができる。
【0062】
なお、防耐火被覆層5の層厚は、所望の防火性能、耐火性能を発揮できれば、特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】第1実施形態に係る防耐火構造体の一例である外壁を一部切り欠いて示した斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る塗り厚ガイドを示した図であり、(a)は斜視図、(b)はラスに取り付けた状態を示した正面図である。
【図3】第1実施形態に係る防耐火構造体の一例である外壁の構築方法を順番に示した断面図である。
【図4】第2実施形態に係る塗り厚ガイドを示した図であり、(a)は斜視図、(b)はラスに取り付けた状態を示した正面図である。
【図5】第3実施形態に係る塗り厚ガイドを示した図であり、(a)は斜視図、(b)及び(c)はラスに取り付ける手順を示した断面図である。
【図6】第4実施形態に係る防耐火構造体の一例である外壁の構築方法を順番に示した断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 外壁
2 下張材
3 ラス
3a ラス目
4 塗り厚ガイド
5 防耐火被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左官工事において左官材料の塗り厚の目安として用いられる塗り厚ガイドであって、防耐火性能を有する左官材料を硬化させて形成されていることを特徴とする塗り厚ガイド。
【請求項2】
前記防耐火性能を有する左官材料は、セメント系又は石こう系もしくはエトリンガイト系結合材を成分とする水和硬化物であることを特徴とする請求項1に記載の塗り厚ガイド。
【請求項3】
柱状部と、この柱状部の一端側に連続するテーパ部とからなり、
前記テーパ部は、前記柱状部から離れるほど先細りとなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗り厚ガイド。
【請求項4】
前記テーパ部の一端側の断面の外接円の直径は、モルタル塗り下地となるラスのラス目の内接円の直径よりも小径であり、
前記テーパ部の柱状部側の断面および前記柱状部の断面の外接円の直径は、前記ラスのラス目の内接円の直径と同径又はそれよりも若干大径であることを特徴とする請求項3に記載の塗り厚ガイド。
【請求項5】
所定の断面形状を呈する柱状体からなり、
前記断面形状の外接円の直径は、モルタル塗り下地となるラスのラス目の内接円の直径と同径又はそれよりも若干大径であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の塗り厚ガイド。
【請求項6】
下張材と、
前記下張材に取り付けられたラスと、
前記ラスのラス目に差し込まれた請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の塗り厚ガイドと、
前記塗り厚ガイドの他端側の端面と略面一に形成された防耐火性能を有する左官材料からなる防耐火被覆層と、を備えることを特徴とする防耐火構造体。
【請求項7】
前記防耐火性能を有する左官材料は、セメント系又は石こう系もしくはエトリンガイト系結合材を成分とする水和硬化物であることを特徴とする請求項6に記載の防耐火構造体。
【請求項8】
下張材にラスを取り付けるラス取付工程と、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の塗り厚ガイドを前記ラスのラス目に差し込む塗り厚ガイド差込工程と、
前記塗り厚ガイドの他端側の端面と略面一になるまで防耐火性能を有する左官材料を前記ラスに塗り付ける左官材料塗付工程と、を含んでなることを特徴とする防耐火構造体の構築方法。
【請求項9】
前記塗り厚ガイド差込工程において、前記ラスのラス目に、前記塗り厚ガイドを削りながら差し込むことを特徴とする請求項8に記載の防耐火構造体の構築方法。
【請求項10】
前記塗り厚ガイド差込工程の前に、前記ラスの表面付近まで前記左官材料を下塗りする左官材料下塗工程を含むことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の防耐火構造体の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−342608(P2006−342608A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170363(P2005−170363)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000174884)三井ホーム株式会社 (87)
【Fターム(参考)】