塗布型電極群を用いた電池
【課題】振動などの外力が電池に加わった場合でも、電気容量を減少させることなく正極電極と負極電極とセパレータの相対的な位置ずれを抑制し、正負電極やセパレータの位置関係を保つことが可能な電池を提供する。
【解決手段】正極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている正極電極と、負極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている負極電極と、正極電極と負極電極を電気的に隔離するセパレータ30とを備える塗布型電極群100を用いた電池において、正極電極と負極電極のうち一方の電極10の塗布層は、予め定めた1辺方向の長さが、他方の電極20の塗布層の1辺方向の長さよりも長く、1辺方向の両端の端部領域の少なくとも一部に、厚さが1辺方向の中央部より厚くなっている厚部40が設けられる。他方の電極20は、一方の電極10の塗布層の1辺方向の一端に設けられた厚部40と他端に設けられた厚部40との間に位置する。
【解決手段】正極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている正極電極と、負極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている負極電極と、正極電極と負極電極を電気的に隔離するセパレータ30とを備える塗布型電極群100を用いた電池において、正極電極と負極電極のうち一方の電極10の塗布層は、予め定めた1辺方向の長さが、他方の電極20の塗布層の1辺方向の長さよりも長く、1辺方向の両端の端部領域の少なくとも一部に、厚さが1辺方向の中央部より厚くなっている厚部40が設けられる。他方の電極20は、一方の電極10の塗布層の1辺方向の一端に設けられた厚部40と他端に設けられた厚部40との間に位置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布型電極群を用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温暖化ガス排出抑制の観点から、電気自動車やハイブリッド自動車などの技術開発や商品化が進んでいる。このような用途に好適な電池として、他の電池系と比較して高いエネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池が特に注目されている。
【0003】
自動車に使用される部品や搭載機器類は、走行時には路面の凹凸などによって断続的な振動や衝撃にさらされ、これは電気自動車やハイブリッド自動車においても同様である。したがって、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される電池にも、十分な耐振動性が求められる。
【0004】
電池に対して外部から振動が加わった場合に電池内部で生じ得る不具合としては、溶接などで形成された導電経路の断裂や、電流タブの破断などを挙げることができる。これらの不具合は、電池の内部抵抗の増大や導電経路の切断を招く。
【0005】
他の不具合として、正極電極と負極電極とセパレータの位置ずれを挙げることができる。正極電極と負極電極の相対位置がずれれば、正負電極の対向面積が変化するために電池容量が変化してしまう。また、セパレータの相対位置がずれ、正負電極が直接対向してしまうような場合には、この部分で内部短絡を生ずる可能性がある。
【0006】
電池の耐振動性を向上させる目的のため、特許文献1には、電池外装缶の中央付近あるいは上部および下部に、最外周極板にくい込むような環状の溝部を形成することで、電極群を圧迫して固定する手法が開示されている。また、特許文献2では、非水電解液を吸収して膨張する樹脂シートを正極、負極およびセパレータと共に巻き取る手法が提案されている。この手法によると、電池内部では樹脂シートが非水電解液を吸収して膨張するため、電極群が圧迫されて固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−293529号公報
【特許文献2】特開2001−52755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の手法は、電池外装缶に形成する溝部を最外周極板にくい込ませることで効果を得るものである。しかし、高出力型電池などにおいて、内部抵抗を低減する必要性から薄型電極を採用する場合には、電極を薄くすればするほど溝部を最外周極板だけにくい込ませることは困難になると共に、他の電極やセパレータを変形させ傷つけてしまう恐れがある。
【0009】
特許文献2に記載の手法では、電極群内に樹脂シートを介在させるために、電極群内で正極と負極が占める割合が少なくなる。このため、電池の電気容量が減少する恐れがある。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、振動などの外力が電池に加わった場合でも、電気容量を減少させることなく正極電極と負極電極とセパレータの相対的な位置ずれを抑制し、正負電極やセパレータの位置関係を保つことが可能な電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による塗布型電極群を用いた電池は、次のような特徴を備える。
【0012】
正極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている正極電極と、負極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている負極電極と、前記正極電極と前記負極電極を電気的に隔離するセパレータとを備える塗布型電極群を用いた電池において、前記正極電極と前記負極電極のうち一方の電極の塗布層は、予め定めた1辺方向の長さが、他方の電極の塗布層の前記1辺方向の長さよりも長く、前記1辺方向の両端の端部領域の少なくとも一部に、厚さが前記1辺方向の中央部より厚くなっている厚部が設けられる。前記他方の電極は、前記一方の電極の塗布層の前記1辺方向の一端に設けられた前記厚部と他端に設けられた前記厚部との間に位置する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、振動などの外力が電池に加わった場合でも、電気容量を減少させることなく正極電極と負極電極とセパレータの相対的な位置ずれを抑制し、正負電極やセパレータの位置関係を保つことが可能な電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】塗布型捲回式電極群を用いた電池のZ軸に平行でZ軸を含む断面の模式図である。
【図2】実施例1での、捲回式電極群のZ軸に平行な断面を示す模式図である。
【図3】捲回式電極群のS端部を拡大して示した模式図である。
【図4】捲回式電極群のT端部を拡大して示した模式図である。
【図5】実施例2での、捲回式電極群のZ軸に平行な断面を示す模式図である。
【図6】実施例3での、捲回式電極群のZ軸に平行な断面を示す模式図である。
【図7】扁平形捲回式電極群を用いた角形電池の構造模式図である。
【図8】扁平形捲回式電極群を用いた角形電池のD−Z平面における断面の模式図である。
【図9A】電極Aの塗布層とその厚部を示す模式図である。
【図9B】電極Aの塗布層とその厚部を示す別の模式図である。
【図9C】電極Aの塗布層とその厚部を示すさらに別の模式図である。
【図9D】電極Aの塗布層とその厚部を示すさらに別の模式図である。
【図10A】実施例5での、積層式電極群の構成の第1の例を示す図である。
【図10B】実施例5での、積層式電極群の構成の第2の例を示す図である。
【図10C】実施例5での、積層式電極群の構成の第3の例を示す図である。
【図10D】実施例5での、積層式電極群の構成の第4の例を示す図である。
【図10E】実施例5での、積層式電極群の構成の第5の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による電池は、正極電極板、負極電極板、およびセパレータから構成される電極群を有する。正極電極板および負極電極板は、集電体と塗布層(活物質塗工層)を有する塗布型電極からなる。塗布層は、活物質と適切な溶媒とバインダ等をスラリ状に混練したものを、集電体としての金属箔上に塗布し乾燥させて形成する。塗布型電極の塗布層の断面形状(厚さ)を最適化することにより、振動などの外力が電池に加わった場合でも正極電極と負極電極とセパレータの相対的な位置ずれを抑制することができ、正極電極板、負極電極板、およびセパレータの位置関係を保つことで電極の構造健全性を向上することができる。
【0016】
本発明による電池の電極群は、次のような構造を有する。正極電極と負極電極のいずれか一方の電極(以後、「電極A」と称する)において、電極板の予め定めた1辺方向(以後、「Z軸方向」と称する)の塗布層の長さを、他方の電極(以後、「電極B」と称する)のZ軸方向の塗布層の長さよりも長くする。さらに、電極Aは、Z軸方向の両端の端部領域の少なくとも一部に、塗布層の厚さが他の部分(Z軸方向の中央部)よりも厚い部分(以後、「厚部」と称する)を設ける。さらに、電極AのZ軸方向の一端の厚部と他端の厚部との間に、電極Bを配置する。電極群は、電極Aと電極Bの間にセパレータを介在させて形成する。
【0017】
Z軸方向(電極板の予め定めた1辺方向)は、正極電極と負極電極とセパレータの位置ずれが起きやすい方向に定めることができ、具体的には電極群の形態に応じて決めることができる。例えば、電極群が、正極電極と負極電極がセパレータを介して捲回されて形成される捲回式の場合は、捲回軸方向をZ軸方向とする。また、電極群が、正極電極と負極電極がセパレータを介して複数積層されて形成される積層式の場合は、電極板の任意の一辺方向をZ軸方向とする。電極群が積層式の場合には、厚部が一方向に集中して形成されないように、積層する電極板(正極電極と負極電極)ごとにZ軸方向を変えてもよい。
【0018】
本発明による電池では、電気容量などの特性や信頼性の悪化を招くことなく、振動などの外力が加わった場合でも正極電極と負極電極とセパレータの相対的な位置ずれを抑制でき、正負電極やセパレータの位置関係を保つことで電極の構造健全性を向上することが可能である。
【0019】
本発明は、電極群の形成方法を問わず、例えば、捲回式の電極群を用いた電池や積層式の電極群を用いた電池にも適用可能である。
【0020】
なお、本発明による塗布型電極群を用いた電池では、電極群の構造健全性を向上させる効果が得られるが、この効果は電極Aと電極Bの極性の別には依存しないことは明らかである。したがって、電極Aと電極Bは、どちらが正極でどちらが負極でもよく、極性は、電池設計上の要請に応じて適宜決めることができる。
【実施例1】
【0021】
本実施例では、塗布型電極群として、捲回式の電極群を用いた電池を例に挙げて説明する。
【0022】
図1は、本発明の第1の実施形態である塗布型捲回式電極群を用いた電池の、捲回軸に平行で捲回軸を含む断面の模式図である。第1の実施形態では、電極群として円筒形捲回式電極群を用いた円筒形電池を扱う。Z軸方向(電極板の予め定めた1辺方向)として、捲回軸方向を用いる。
【0023】
円筒形の捲回式電極群100は、軸芯110と称される芯材を巻き軸として、帯状の正極電極板120と帯状の負極電極板130と帯状のセパレータ140(図1の部分拡大図を参照)が、同心状に巻き取られて形成される。正極電極板120から正極集電リード210がZ軸方向の一方へ突出し、負極電極板130から負極集電リード220がZ軸方向の他方へ(正極集電リード210とは逆向きに)突出しており、それぞれ正極と負極の集電リード群を構成している。
【0024】
正極集電リード210は、正極集電リング215を介して正極接続板216に接続され、正極接続板216は、正極ターミナルキャップ310に接続される。負極集電リード220は、負極集電リング225を介して負極接続板226に接続される。
【0025】
捲回式電極群100は、電池外装缶300に収納される。このとき、負極接続板226は、電池外装缶300に接続される。電池外装缶300は、非水電解液が注入された後、ガスケット320を介して正極ターミナルキャップ310により密閉される。
【0026】
図1の部分拡大図に示したように、正極電極板120は、正極集電体126と、正極集電体126の両面に形成された正極活物質塗工層(塗布層)125を有する。負極電極板130は、負極集電体136と、負極集電体136の両面に形成された負極活物質塗工層(塗布層)135を有する。
【0027】
図2は、捲回式電極群100のZ軸(捲回軸)に平行な断面を示す模式図である。図2では、電極A(正極電極と負極電極のいずれか一方の電極)10と、電極B(他方の電極)20と、セパレータ30の位置関係を模式的に示している。
【0028】
電極A10と電極B20は、集電体の一部の両面に塗布層が形成されており、塗布層が形成されていない部分(集電体が露出している部分)は、それぞれ集電リード15と集電リード25になっている。電極A10の集電リード15は、Z軸方向の一方へ突出し、電極B20の集電リード25は、Z軸方向の他方へ(電極A10の集電リード15とは逆向きに)突出し、それぞれの極の集電リード群を構成している。
【0029】
図2に示すように、電極A10のZ軸方向の塗布層の長さは、電極B20のZ軸方向の塗布層の長さよりも長くなっている。さらに、電極A10の塗布層には、Z軸方向の両端の端部領域の少なくとも一部に、塗布層の厚さが他の部分(Z軸方向の中央部)よりも厚い部分(厚部40)が設けられている。厚部40は、電極A10の塗布層の両面に設けても、片面だけに設けてもよい。厚部40の厚さは、電極A10の塗布層ごとに変えてもよい。また、厚部40を電極A10の塗布層の両面に設ける場合は、厚部40の厚さを両面で変えてもよい。
【0030】
電極B20は、電極A10のZ軸方向の一端の厚部40と他端の厚部40との間に配置される。即ち、電極B20が電極A10の厚部40に重ならないようにして、セパレータ30を介して捲回式電極群100が形成される。
【0031】
厚部40の厚さは、均一である必要はない。また、Z軸方向の一端の厚部40と他端の厚部40とは、Z軸方向の長さが等しくなくてもよい。
【0032】
図9A〜図9Dを用いて、厚部40について説明する。図9A〜図9Dは、電極A10を展開したときの、電極A10の塗布層11とその厚部40を示す模式図であり、厚部40の配置例を示している。
【0033】
図9Aでは、厚部40は、塗布層11のZ軸方向の両端部において、端部領域の全体に、即ちZ軸に垂直な方向(塗布層11の長手方向、つまり図9Aの左右方向)に連続して、設けられている。
【0034】
図9Bでは、厚部40は、塗布層11のZ軸方向の両端部において、端部領域の一部に、即ちZ軸に垂直な方向に点在して、設けられている。また、Z軸方向の一端にある厚部40と、他端にある厚部40は、Z軸方向について対応する位置に設けられている。点在している厚部40のそれぞれの、Z軸方向の長さとZ軸に垂直な方向の長さは、等しくなくてもよい。
【0035】
図9Cでも、厚部40は、塗布層11のZ軸方向の両端部において、端部領域の一部に、即ちZ軸に垂直な方向に点在して、設けられている。ただし、Z軸方向の一端にある厚部40と、他端にある厚部40の位置は、Z軸方向について対応していない。
【0036】
厚部40は、塗布層11のZ軸方向の両端の端部領域に設けるが、塗布層11のZ軸方向の両端にある辺(塗布層11の長手方向、つまり図9Aの左右方向に伸びる辺)を含まなくもよい。図9Dでは、厚部40は、図9Aと同様に、塗布層11のZ軸方向の両端部において、端部領域の全体に、即ちZ軸に垂直な方向に連続して、設けられている。しかし、厚部40は、塗布層11のZ軸方向の両端にある辺を含んでいない。厚部40は、図9Bや図9Cに示したように塗布層11のZ軸に垂直な方向に点在して設けられている場合でも、塗布層11のZ軸方向の両端にある辺を含んでいなくてもよい。
【0037】
また、図示してはいないが、塗布層11のZ軸方向の両端のうち、一端では塗布層11の辺を含み、他端では塗布層11の辺を含まないようにして、厚部40を設けてもよい。
【0038】
ただし、電極A10のZ軸方向の一端の厚部40と他端の厚部40との間に電極B20を配置するので、電極B20と電極A10が対向する面積(電池反応を起こす面積)を考慮すると、図9A〜図9Cに示したように、塗布層11のZ軸方向の両端にある辺を含むように厚部40を設けるのが好ましい。
【0039】
図3と図4を用いて、厚部40の望ましい厚さについて説明する。なお、図3と図4において厚部40の厚さ(後述するS5、S6、T5、およびT6で表される厚さ)とは、塗布層の厚部40が設けられていない部分(Z軸方向の中央部)と比較して、塗布層がどれだけ厚くなっているかを示す値である。
【0040】
図3は、捲回式電極群100のZ軸方向の端部のうち、電極B20の集電リード25が突出している端部(以後、「S端部」と称する)を拡大して示した模式図である。図3において、厚部を設けていない部分における電極A10間の距離(電極A10の対向間隔)をS1、厚部40a、40bにおける電極A10間の距離(電極A10の対向間隔)をS2、電極B20の厚さをS3、電極B20の集電リード25の厚さをS4とする。集電リード25は、電極B20の集電体が露出している部分である。また、電極A10の厚部40aの厚さをS5、厚部40bの厚さをS6とする。なお、S1は、電極B20と2枚のセパレータ30の合計の厚さでもある。
【0041】
このとき、数式1の関係を満たすように、厚部40を構成するのが望ましい。
S1−S2≦S3−S4 ・・・(数式1)
S1とS2とS3とS4の関係が数式1を満たさない(S1−S2>S3−S4)と、S3<S1−S2+S4となり、S1−S2=S5+S6であるため、S3<S5+S6+S4となる。即ち、電極A10の厚部40aと厚部40bの厚さと電極B20の集電リード25の厚さの和(S5+S6+S4)の方が、電極B20の厚さ(S3)を上回ってしまう。これは、厚部40の厚さ(厚部40aと厚部40bの厚さの和)が厚すぎる状態である。数式1を満たさない部分が多いと、捲回式電極群100の直径は、S端部において、Z軸方向における中央付近の直径よりも著しく大きくなってしまい、捲回式電極群100の形状が歪になるという不都合が生じる。
【0042】
図4は、捲回式電極群100のZ軸方向の端部のうち、電極A10の集電リード15が突出している端部(以後、「T端部」と称する)を拡大して示した模式図である。図4において、厚部を設けていない部分における電極A10間の距離(電極A10の対向間隔)をT1、厚部40c、40dにおける電極A10間の距離(電極A10の対向間隔)をT2、電極B20の厚さをT3、電極B20の集電リード25の厚さをT4とする。また、電極A10の厚部40cの厚さをT5、厚部40dの厚さをT6とする。なお、T1は、電極B20と2枚のセパレータ30の合計の厚さでもある。
【0043】
このとき、数式2の関係を満たすように、厚部40を構成するのが望ましい。
T1−T2≦T3 ・・・(数式2)
T1とT2とT3の関係が数式2を満たさない(T1−T2>T3)と、T1−T2=T5+T6であるため、T3<T5+T6となる。即ち、電極A10の厚部40cと厚部40dの厚さの和(T5+T6)の方が、電極B20の厚さ(T3)を上回ってしまう。これは、厚部40の厚さ(厚部40cと厚部40dの厚さの和)が厚すぎる状態である。数式2を満たさない部分が多いと、捲回式電極群100の直径は、T端部において、Z軸方向における中央付近の直径よりも著しく大きくなってしまい、捲回式電極群100の形状が歪になるという不都合が生じる。
【0044】
電極Aの厚部の形成方法の例としては、電極Aの集電体上へ塗布層を形成する工程において、電極Aの完成時にZ軸方向の端部領域となる部分でのスラリの塗布量を多くして、塗布層の厚さを厚くする方法を挙げることができる。例えば、塗布層をコンマコーティング法によって形成する場合、ロッドナイフの径を部分的に小さくすれば、その部分のロッドナイフとロール間のクリアランスが他の部分よりも大きくなり、スラリの塗布量を多くすることができる。即ち、電極Aにおいて厚部を設けたい部分に対応して、ロッドナイフの径を適切に小さくすれば、望む形で厚部を形成することができる。
【0045】
一般に塗布型電極の製造工程では、塗布層の形成後にロールプレスによって塗布層表面の平滑化や塗布層密度を増す工程が存在する。このような工程を経る場合であっても、上述のようにして電極Aの完成時にZ軸方向の端部領域となる部分でのスラリの塗布量を多くしておけば、プレス後でもスプリングバックによって厚部が形成される。
【0046】
さらに、電極Aの厚部を形成する他の方法の例としては、電極Aの集電体上へ塗布層を形成した後の電極ロールプレス工程において、プレスロールの電極Aの端部領域に当接する部分の径を他の部分より小さくしておき、印加するプレス圧を減じて、厚部を形成する方法を挙げることができる。この方法では、ロールプレス工程を実施する前に、電極Aの塗布層の端部領域でのスラリの塗布量を多くしておく必要は必ずしもない。
【0047】
本実施例による捲回式電極群は、S端部においては、電極Aの厚部同士が対向する間隔(図3に示すS2)よりも、電極Bと2枚のセパレータの合計の厚さ(図3に示すS1)の方が厚く、T端部においては、電極Aの厚部同士が対向する間隔(図4に示すT2)よりも、電極Bと2枚のセパレータの合計の厚さ(図4に示すT1)の方が厚い。したがって、振動などが加わった場合でも、電極Bの変位は、電極Aの厚部に阻止され、また同様にして、電極Aの変位は電極Bに阻止される。
【0048】
したがって、本実施形態による捲回式電極群を用いた電池では、振動などの外力が加わった場合でも、捲回式電極群の巻きずれ(正極電極と負極電極とセパレータの相対的な位置ずれ)が抑制され、正負電極やセパレータの位置関係を保つことができ、捲回式電極の構造健全性を向上することができる。
【0049】
電極Aの厚部の形成方法は、上記の説明に例示した手法に限定されない。本発明の趣旨に沿った厚部を形成するものであれば、本発明は厚部の形成方法に依存しないことは明らかである。
【0050】
また、電極Aの厚部の形状や配置は、上記の説明に例示したものに限定されない。本発明の趣旨に沿うものであれば、電極Aの厚部は形状や配置の如何を問わないことは明らかである。
【0051】
なお、上記の説明に例示した電極Aの厚部は、電極Aの集電体の両面の両端領域において塗布層の厚さを厚くするようにして形成されているが、数式1と数式2の関係を満たすものであれば、集電体の各面および各端部領域の塗布層の厚さを同一にする必要はない。
【実施例2】
【0052】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、塗布型電極群として円筒形捲回式電極群を用いた電池を例に挙げて説明する。Z軸方向(電極板の予め定めた1辺方向)として、捲回軸方向を用いるのも、第1の実施形態と同様である。また、S端部とT端部も、第1の実施形態と同様の部分を称している。
【0053】
図5は、捲回式電極群100のZ軸に平行な断面を示す模式図である。図5において、図2と同一の符号は、図2と同一または共通する要素を示す。本実施形態では、厚部40は、電極A10の塗布層の片面だけに設けられている。即ち、電極A10の塗布層の片面において、Z軸方向の両端の端部領域に、塗布層の厚さを他の部分(Z軸方向の中央部)よりも厚くして厚部を設ける。また、S端部において数式1の関係を満たし、T端部において数式2の関係を満たすようにして厚部を形成する。このようにすると、本実施形態でも、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0054】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、塗布型電極群として円筒形捲回式電極群を用いた電池を例に挙げて説明する。Z軸方向(電極板の予め定めた1辺方向)として、捲回軸方向を用いるのも、第1の実施形態と同様である。また、S端部とT端部も、第1の実施形態と同様の部分を称している。
【0055】
図6は、捲回式電極群100のZ軸に平行な断面を示す模式図である。図6において、図2と同一の符号は、図2と同一または共通する要素を示す。本実施形態では、厚部40は、電極A10の塗布層の両面に設けられている。ただし、厚部40は、塗布層の一方の面ではZ軸方向の一端の端部領域のみに設けられ、塗布層の他方の面ではZ軸方向の他端の端部領域のみに設けられている。即ち、電極A10の塗布層において、一方の面のZ軸方向の一端の端部領域に、塗布層の厚さを他の部分(Z軸方向の中央部)よりも厚くして厚部を設け、他方の面のZ軸方向の他端の端部領域に、塗布層の厚さを他の部分(Z軸方向の中央部)よりも厚くして厚部を設ける。また、S端部において数式1の関係を満たし、T端部において数式2の関係を満たすようにして厚部を形成する。このようにすると、本実施形態でも、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【実施例4】
【0056】
本発明は、塗布型電極の塗布層の端部領域に厚部を設けて電極群の相対位置を規定することによって、塗布型電極群を用いた電池の構造健全性を向上する効果を得るものである。したがって、円筒形捲回式電極群を用いる円筒形電池に限らず、扁平形捲回式電極群を用いる角形電池でも、本発明の効果を得ることができる。
【0057】
図7は、本実施形態おける、扁平形捲回式電極群を用いた角形電池の構造模式図である。扁平形捲回式電極群500は、帯状の正極電極板と帯状の負極電極板と帯状のセパレータを扁平形状に巻き取ることで構成される。正極電極板の正極集電リードは、接続部615を介して正極集電板610と接続され、負極電極板の負極集電リードは、接続部635を介して負極集電板630と接続される。扁平形捲回式電極群500と正極集電板610と負極集電板630は、絶縁シート710を介して、電池外装缶700に収納される。本実施形態では、扁平形捲回式電極群500は、捲回軸を横方向(図7の左右方向)に向けた状態で電池外装缶700に収納される。
【0058】
本実施形態でも、捲回軸方向をZ軸方向とする。また、扁平形捲回式電極群500の厚さ方向(扁平形捲回式電極群500の捲回軸に垂直な断面の短辺方向)をD軸とし、Z軸とD軸に垂直な方向(扁平形捲回式電極群500の捲回軸に垂直な断面の長辺方向)をH軸とする。
【0059】
電池外装缶700には、扁平形捲回式電極群500と正極集電板610と負極集電板630が収納された後、非水電解液が注入され、電池上蓋750により密閉される。電池上蓋750は、正極ターミナル620と負極ターミナル640と注液栓770と圧力開放弁760を備える。正極ターミナル620と負極ターミナル640は、それぞれ正極集電板610と負極集電板630に接続されている。非水電解液は、注液栓770から電池外装缶700に注入する。圧力開放弁760は、電池外装缶700の内部の圧力が上昇したときに、内部の圧力を開放するために用いる。
【0060】
図8は、本実施形態おける扁平形捲回式電極群を用いた角形電池の、正極集電リードと正極集電板の接続部615と負極集電リードと負極集電板の接続部635を横断する平面(D−Z平面)における断面の模式図である。上述したように、扁平形捲回式電極群500と正極集電板610と負極集電板630は、絶縁シート710を介して、電池外装缶700に収納されている。
【0061】
扁平形捲回式電極群500は、扁平形状の軸芯510を巻き軸として、帯状の正極電極板120と帯状の負極電極板130と帯状のセパレータ140(図8の部分拡大図を参照)が、扁平形状になるように巻き取られて形成される。正極電極板120から正極集電リード612がZ軸方向の一方(−Z方向)へ突出し、負極電極板130から負極集電リード632がZ軸方向の他方(+Z方向)へ突出しており、それぞれ正極と負極の集電リード群を構成している。正極集電リード612は、接続部615を介して正極接続板610に接続され、負極集電リード632は、接続部635を介して負極接続板630に接続される。
【0062】
図8の部分拡大図に示したように、正極電極板120は、正極集電体126と、正極集電体126の両面に形成された正極活物質塗工層(塗布層)125を有する。負極電極板130は、負極集電体136と、負極集電体136の両面に形成された負極活物質塗工層(塗布層)135を有する。
【0063】
以上説明したように、扁平形捲回式電極群の基本構造は、実施例1〜3で説明した円筒形の捲回式電極群の構造と同じである。したがって、扁平形捲回式電極群においても、正極電極と負極電極のいずれか一方の電極(電極A)について、捲回軸方向(Z軸方向)の塗布層の長さを、他方の電極(電極B)のZ軸方向の塗布層の長さよりも長くし、電極Aの塗布層のZ軸方向の両端の端部領域の少なくとも一部に厚部を設け、電極Bを電極AのZ軸方向の一端の厚部と他端の厚部との間に配置することができる。
【0064】
このような構成をとることにより、本実施形態による扁平形捲回式電極群を用いた電池でも、捲回式電極群の巻きずれ(正極電極と負極電極とセパレータの相対的な位置ずれ)を抑制して、正負電極やセパレータの位置関係を保つことができ、捲回式電極の構造健全性を向上することができる。
【実施例5】
【0065】
実施例4では、捲回式の扁平形電極群を用いた角形電池について説明したが、本発明は、積層式電極群を用いる角形電池にも適用可能である。本発明は、塗布型電極の塗布層の端部領域に厚部を設けて電極群の相対位置を規定することによって、塗布型電極群を用いた電池の構造健全性を向上する効果を得るものである。したがって、積層式電極群を用いる電池でも、捲回式電極群を用いる電池と同様の効果を得ることができる。
【0066】
図10A〜図10Eには、本発明による積層式電極群の構成の例を示す。なお、図10A〜図10Eでは、電極A10と電極B20の間に存在するセパレータ30を省略し、図示していない。
【0067】
図10A〜図10Cにおいて、電極A10には、塗布層のZ軸方向の端部領域に厚部40が設けられており、電極B20は、電極A10のZ軸方向の一端の厚部40と他端の厚部40との間に配置される。図10Aでは、電極A10の集電リード15と電極Bの集電リード25は、電極A10のZ軸方向の両端から突出している。図10Bでは、電極A10の集電リード15と電極Bの集電リード25は、電極A10のW軸方向の両端から突出している。W軸方向とは、電極A10の面内において、Z軸方向に垂直な方向である。また、図10Cに示すように、電極A10の集電リード15と電極Bの集電リード25を同一の方向(図10Cの例では+Z方向)に突出させる構成にすることも可能である。当該構成においては、Z軸方向において本発明の効果を得ることができる。
【0068】
図10Dは、Z軸を定める方向が異なる、2種類の電極A10を組み合わせて用いる場合の積層式電極群の構成を示す。図10Dにおいて、上から1番目と3番目の電極A10には、塗布層のZ’軸方向の端部領域に厚部40が設けられており、上から2番目と4番目の電極A10には、塗布層のZ’’軸方向の端部領域に厚部40が設けられている。なお、図10Dでは、Z’軸方向とZ’’軸方向は直交する。
【0069】
図10Eでは、電極A10の厚部40は、方向の異なる2種類のZ軸、即ちZ’軸およびZ’’軸に沿って、塗布層の端部領域に設けられている。図10Eに示した例では、Z’軸方向とZ’’軸方向は直交している。したがって、厚部40は、電極A10の塗布層の外縁領域に、塗布層の外周に沿って連続的に形成されている。図10Eに示すように、電極B20は、塗布層の外縁領域に厚部40を設けた電極A10で挟まれるように配置されている。このため、Z’軸方向およびZ’’軸方向はもちろん、Z’軸とZ’’軸を含む面内の方向において、本発明の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0070】
10…電極A、11…電極Aの塗布層、15…電極Aの集電リード、20…電極B、25…電極Bの集電リード、30…セパレータ、40、40a、40b、40c、40d…厚部、100…円筒形の捲回式電極群、110…軸芯、120…正極電極板、125…正極活物質塗工層、126…正極集電体、130…負極電極板、135…負極活物質塗工層、136…負極集電体、140…セパレータ、210…正極集電リード、215…正極集電リング、216…正極接続板、220…負極集電リード、225…負極集電リング、226…負極接続板、300…電池外装缶、310…正極ターミナルキャップ、320…ガスケット、500…扁平形捲回式電極群、510…扁平形状の軸芯、610…正極集電板、612…正極集電リード、615…正極集電リードと正極集電板の接続部、620…正極ターミナル、630…負極集電板、632…負極集電リード、635…負極集電リードと負極集電板の接続部、640…負極ターミナル、700…電池外装缶、710…絶縁シート、750……電池上蓋、760…圧力開放弁、770…注液栓。
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布型電極群を用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温暖化ガス排出抑制の観点から、電気自動車やハイブリッド自動車などの技術開発や商品化が進んでいる。このような用途に好適な電池として、他の電池系と比較して高いエネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池が特に注目されている。
【0003】
自動車に使用される部品や搭載機器類は、走行時には路面の凹凸などによって断続的な振動や衝撃にさらされ、これは電気自動車やハイブリッド自動車においても同様である。したがって、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される電池にも、十分な耐振動性が求められる。
【0004】
電池に対して外部から振動が加わった場合に電池内部で生じ得る不具合としては、溶接などで形成された導電経路の断裂や、電流タブの破断などを挙げることができる。これらの不具合は、電池の内部抵抗の増大や導電経路の切断を招く。
【0005】
他の不具合として、正極電極と負極電極とセパレータの位置ずれを挙げることができる。正極電極と負極電極の相対位置がずれれば、正負電極の対向面積が変化するために電池容量が変化してしまう。また、セパレータの相対位置がずれ、正負電極が直接対向してしまうような場合には、この部分で内部短絡を生ずる可能性がある。
【0006】
電池の耐振動性を向上させる目的のため、特許文献1には、電池外装缶の中央付近あるいは上部および下部に、最外周極板にくい込むような環状の溝部を形成することで、電極群を圧迫して固定する手法が開示されている。また、特許文献2では、非水電解液を吸収して膨張する樹脂シートを正極、負極およびセパレータと共に巻き取る手法が提案されている。この手法によると、電池内部では樹脂シートが非水電解液を吸収して膨張するため、電極群が圧迫されて固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−293529号公報
【特許文献2】特開2001−52755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の手法は、電池外装缶に形成する溝部を最外周極板にくい込ませることで効果を得るものである。しかし、高出力型電池などにおいて、内部抵抗を低減する必要性から薄型電極を採用する場合には、電極を薄くすればするほど溝部を最外周極板だけにくい込ませることは困難になると共に、他の電極やセパレータを変形させ傷つけてしまう恐れがある。
【0009】
特許文献2に記載の手法では、電極群内に樹脂シートを介在させるために、電極群内で正極と負極が占める割合が少なくなる。このため、電池の電気容量が減少する恐れがある。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、振動などの外力が電池に加わった場合でも、電気容量を減少させることなく正極電極と負極電極とセパレータの相対的な位置ずれを抑制し、正負電極やセパレータの位置関係を保つことが可能な電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による塗布型電極群を用いた電池は、次のような特徴を備える。
【0012】
正極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている正極電極と、負極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている負極電極と、前記正極電極と前記負極電極を電気的に隔離するセパレータとを備える塗布型電極群を用いた電池において、前記正極電極と前記負極電極のうち一方の電極の塗布層は、予め定めた1辺方向の長さが、他方の電極の塗布層の前記1辺方向の長さよりも長く、前記1辺方向の両端の端部領域の少なくとも一部に、厚さが前記1辺方向の中央部より厚くなっている厚部が設けられる。前記他方の電極は、前記一方の電極の塗布層の前記1辺方向の一端に設けられた前記厚部と他端に設けられた前記厚部との間に位置する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、振動などの外力が電池に加わった場合でも、電気容量を減少させることなく正極電極と負極電極とセパレータの相対的な位置ずれを抑制し、正負電極やセパレータの位置関係を保つことが可能な電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】塗布型捲回式電極群を用いた電池のZ軸に平行でZ軸を含む断面の模式図である。
【図2】実施例1での、捲回式電極群のZ軸に平行な断面を示す模式図である。
【図3】捲回式電極群のS端部を拡大して示した模式図である。
【図4】捲回式電極群のT端部を拡大して示した模式図である。
【図5】実施例2での、捲回式電極群のZ軸に平行な断面を示す模式図である。
【図6】実施例3での、捲回式電極群のZ軸に平行な断面を示す模式図である。
【図7】扁平形捲回式電極群を用いた角形電池の構造模式図である。
【図8】扁平形捲回式電極群を用いた角形電池のD−Z平面における断面の模式図である。
【図9A】電極Aの塗布層とその厚部を示す模式図である。
【図9B】電極Aの塗布層とその厚部を示す別の模式図である。
【図9C】電極Aの塗布層とその厚部を示すさらに別の模式図である。
【図9D】電極Aの塗布層とその厚部を示すさらに別の模式図である。
【図10A】実施例5での、積層式電極群の構成の第1の例を示す図である。
【図10B】実施例5での、積層式電極群の構成の第2の例を示す図である。
【図10C】実施例5での、積層式電極群の構成の第3の例を示す図である。
【図10D】実施例5での、積層式電極群の構成の第4の例を示す図である。
【図10E】実施例5での、積層式電極群の構成の第5の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による電池は、正極電極板、負極電極板、およびセパレータから構成される電極群を有する。正極電極板および負極電極板は、集電体と塗布層(活物質塗工層)を有する塗布型電極からなる。塗布層は、活物質と適切な溶媒とバインダ等をスラリ状に混練したものを、集電体としての金属箔上に塗布し乾燥させて形成する。塗布型電極の塗布層の断面形状(厚さ)を最適化することにより、振動などの外力が電池に加わった場合でも正極電極と負極電極とセパレータの相対的な位置ずれを抑制することができ、正極電極板、負極電極板、およびセパレータの位置関係を保つことで電極の構造健全性を向上することができる。
【0016】
本発明による電池の電極群は、次のような構造を有する。正極電極と負極電極のいずれか一方の電極(以後、「電極A」と称する)において、電極板の予め定めた1辺方向(以後、「Z軸方向」と称する)の塗布層の長さを、他方の電極(以後、「電極B」と称する)のZ軸方向の塗布層の長さよりも長くする。さらに、電極Aは、Z軸方向の両端の端部領域の少なくとも一部に、塗布層の厚さが他の部分(Z軸方向の中央部)よりも厚い部分(以後、「厚部」と称する)を設ける。さらに、電極AのZ軸方向の一端の厚部と他端の厚部との間に、電極Bを配置する。電極群は、電極Aと電極Bの間にセパレータを介在させて形成する。
【0017】
Z軸方向(電極板の予め定めた1辺方向)は、正極電極と負極電極とセパレータの位置ずれが起きやすい方向に定めることができ、具体的には電極群の形態に応じて決めることができる。例えば、電極群が、正極電極と負極電極がセパレータを介して捲回されて形成される捲回式の場合は、捲回軸方向をZ軸方向とする。また、電極群が、正極電極と負極電極がセパレータを介して複数積層されて形成される積層式の場合は、電極板の任意の一辺方向をZ軸方向とする。電極群が積層式の場合には、厚部が一方向に集中して形成されないように、積層する電極板(正極電極と負極電極)ごとにZ軸方向を変えてもよい。
【0018】
本発明による電池では、電気容量などの特性や信頼性の悪化を招くことなく、振動などの外力が加わった場合でも正極電極と負極電極とセパレータの相対的な位置ずれを抑制でき、正負電極やセパレータの位置関係を保つことで電極の構造健全性を向上することが可能である。
【0019】
本発明は、電極群の形成方法を問わず、例えば、捲回式の電極群を用いた電池や積層式の電極群を用いた電池にも適用可能である。
【0020】
なお、本発明による塗布型電極群を用いた電池では、電極群の構造健全性を向上させる効果が得られるが、この効果は電極Aと電極Bの極性の別には依存しないことは明らかである。したがって、電極Aと電極Bは、どちらが正極でどちらが負極でもよく、極性は、電池設計上の要請に応じて適宜決めることができる。
【実施例1】
【0021】
本実施例では、塗布型電極群として、捲回式の電極群を用いた電池を例に挙げて説明する。
【0022】
図1は、本発明の第1の実施形態である塗布型捲回式電極群を用いた電池の、捲回軸に平行で捲回軸を含む断面の模式図である。第1の実施形態では、電極群として円筒形捲回式電極群を用いた円筒形電池を扱う。Z軸方向(電極板の予め定めた1辺方向)として、捲回軸方向を用いる。
【0023】
円筒形の捲回式電極群100は、軸芯110と称される芯材を巻き軸として、帯状の正極電極板120と帯状の負極電極板130と帯状のセパレータ140(図1の部分拡大図を参照)が、同心状に巻き取られて形成される。正極電極板120から正極集電リード210がZ軸方向の一方へ突出し、負極電極板130から負極集電リード220がZ軸方向の他方へ(正極集電リード210とは逆向きに)突出しており、それぞれ正極と負極の集電リード群を構成している。
【0024】
正極集電リード210は、正極集電リング215を介して正極接続板216に接続され、正極接続板216は、正極ターミナルキャップ310に接続される。負極集電リード220は、負極集電リング225を介して負極接続板226に接続される。
【0025】
捲回式電極群100は、電池外装缶300に収納される。このとき、負極接続板226は、電池外装缶300に接続される。電池外装缶300は、非水電解液が注入された後、ガスケット320を介して正極ターミナルキャップ310により密閉される。
【0026】
図1の部分拡大図に示したように、正極電極板120は、正極集電体126と、正極集電体126の両面に形成された正極活物質塗工層(塗布層)125を有する。負極電極板130は、負極集電体136と、負極集電体136の両面に形成された負極活物質塗工層(塗布層)135を有する。
【0027】
図2は、捲回式電極群100のZ軸(捲回軸)に平行な断面を示す模式図である。図2では、電極A(正極電極と負極電極のいずれか一方の電極)10と、電極B(他方の電極)20と、セパレータ30の位置関係を模式的に示している。
【0028】
電極A10と電極B20は、集電体の一部の両面に塗布層が形成されており、塗布層が形成されていない部分(集電体が露出している部分)は、それぞれ集電リード15と集電リード25になっている。電極A10の集電リード15は、Z軸方向の一方へ突出し、電極B20の集電リード25は、Z軸方向の他方へ(電極A10の集電リード15とは逆向きに)突出し、それぞれの極の集電リード群を構成している。
【0029】
図2に示すように、電極A10のZ軸方向の塗布層の長さは、電極B20のZ軸方向の塗布層の長さよりも長くなっている。さらに、電極A10の塗布層には、Z軸方向の両端の端部領域の少なくとも一部に、塗布層の厚さが他の部分(Z軸方向の中央部)よりも厚い部分(厚部40)が設けられている。厚部40は、電極A10の塗布層の両面に設けても、片面だけに設けてもよい。厚部40の厚さは、電極A10の塗布層ごとに変えてもよい。また、厚部40を電極A10の塗布層の両面に設ける場合は、厚部40の厚さを両面で変えてもよい。
【0030】
電極B20は、電極A10のZ軸方向の一端の厚部40と他端の厚部40との間に配置される。即ち、電極B20が電極A10の厚部40に重ならないようにして、セパレータ30を介して捲回式電極群100が形成される。
【0031】
厚部40の厚さは、均一である必要はない。また、Z軸方向の一端の厚部40と他端の厚部40とは、Z軸方向の長さが等しくなくてもよい。
【0032】
図9A〜図9Dを用いて、厚部40について説明する。図9A〜図9Dは、電極A10を展開したときの、電極A10の塗布層11とその厚部40を示す模式図であり、厚部40の配置例を示している。
【0033】
図9Aでは、厚部40は、塗布層11のZ軸方向の両端部において、端部領域の全体に、即ちZ軸に垂直な方向(塗布層11の長手方向、つまり図9Aの左右方向)に連続して、設けられている。
【0034】
図9Bでは、厚部40は、塗布層11のZ軸方向の両端部において、端部領域の一部に、即ちZ軸に垂直な方向に点在して、設けられている。また、Z軸方向の一端にある厚部40と、他端にある厚部40は、Z軸方向について対応する位置に設けられている。点在している厚部40のそれぞれの、Z軸方向の長さとZ軸に垂直な方向の長さは、等しくなくてもよい。
【0035】
図9Cでも、厚部40は、塗布層11のZ軸方向の両端部において、端部領域の一部に、即ちZ軸に垂直な方向に点在して、設けられている。ただし、Z軸方向の一端にある厚部40と、他端にある厚部40の位置は、Z軸方向について対応していない。
【0036】
厚部40は、塗布層11のZ軸方向の両端の端部領域に設けるが、塗布層11のZ軸方向の両端にある辺(塗布層11の長手方向、つまり図9Aの左右方向に伸びる辺)を含まなくもよい。図9Dでは、厚部40は、図9Aと同様に、塗布層11のZ軸方向の両端部において、端部領域の全体に、即ちZ軸に垂直な方向に連続して、設けられている。しかし、厚部40は、塗布層11のZ軸方向の両端にある辺を含んでいない。厚部40は、図9Bや図9Cに示したように塗布層11のZ軸に垂直な方向に点在して設けられている場合でも、塗布層11のZ軸方向の両端にある辺を含んでいなくてもよい。
【0037】
また、図示してはいないが、塗布層11のZ軸方向の両端のうち、一端では塗布層11の辺を含み、他端では塗布層11の辺を含まないようにして、厚部40を設けてもよい。
【0038】
ただし、電極A10のZ軸方向の一端の厚部40と他端の厚部40との間に電極B20を配置するので、電極B20と電極A10が対向する面積(電池反応を起こす面積)を考慮すると、図9A〜図9Cに示したように、塗布層11のZ軸方向の両端にある辺を含むように厚部40を設けるのが好ましい。
【0039】
図3と図4を用いて、厚部40の望ましい厚さについて説明する。なお、図3と図4において厚部40の厚さ(後述するS5、S6、T5、およびT6で表される厚さ)とは、塗布層の厚部40が設けられていない部分(Z軸方向の中央部)と比較して、塗布層がどれだけ厚くなっているかを示す値である。
【0040】
図3は、捲回式電極群100のZ軸方向の端部のうち、電極B20の集電リード25が突出している端部(以後、「S端部」と称する)を拡大して示した模式図である。図3において、厚部を設けていない部分における電極A10間の距離(電極A10の対向間隔)をS1、厚部40a、40bにおける電極A10間の距離(電極A10の対向間隔)をS2、電極B20の厚さをS3、電極B20の集電リード25の厚さをS4とする。集電リード25は、電極B20の集電体が露出している部分である。また、電極A10の厚部40aの厚さをS5、厚部40bの厚さをS6とする。なお、S1は、電極B20と2枚のセパレータ30の合計の厚さでもある。
【0041】
このとき、数式1の関係を満たすように、厚部40を構成するのが望ましい。
S1−S2≦S3−S4 ・・・(数式1)
S1とS2とS3とS4の関係が数式1を満たさない(S1−S2>S3−S4)と、S3<S1−S2+S4となり、S1−S2=S5+S6であるため、S3<S5+S6+S4となる。即ち、電極A10の厚部40aと厚部40bの厚さと電極B20の集電リード25の厚さの和(S5+S6+S4)の方が、電極B20の厚さ(S3)を上回ってしまう。これは、厚部40の厚さ(厚部40aと厚部40bの厚さの和)が厚すぎる状態である。数式1を満たさない部分が多いと、捲回式電極群100の直径は、S端部において、Z軸方向における中央付近の直径よりも著しく大きくなってしまい、捲回式電極群100の形状が歪になるという不都合が生じる。
【0042】
図4は、捲回式電極群100のZ軸方向の端部のうち、電極A10の集電リード15が突出している端部(以後、「T端部」と称する)を拡大して示した模式図である。図4において、厚部を設けていない部分における電極A10間の距離(電極A10の対向間隔)をT1、厚部40c、40dにおける電極A10間の距離(電極A10の対向間隔)をT2、電極B20の厚さをT3、電極B20の集電リード25の厚さをT4とする。また、電極A10の厚部40cの厚さをT5、厚部40dの厚さをT6とする。なお、T1は、電極B20と2枚のセパレータ30の合計の厚さでもある。
【0043】
このとき、数式2の関係を満たすように、厚部40を構成するのが望ましい。
T1−T2≦T3 ・・・(数式2)
T1とT2とT3の関係が数式2を満たさない(T1−T2>T3)と、T1−T2=T5+T6であるため、T3<T5+T6となる。即ち、電極A10の厚部40cと厚部40dの厚さの和(T5+T6)の方が、電極B20の厚さ(T3)を上回ってしまう。これは、厚部40の厚さ(厚部40cと厚部40dの厚さの和)が厚すぎる状態である。数式2を満たさない部分が多いと、捲回式電極群100の直径は、T端部において、Z軸方向における中央付近の直径よりも著しく大きくなってしまい、捲回式電極群100の形状が歪になるという不都合が生じる。
【0044】
電極Aの厚部の形成方法の例としては、電極Aの集電体上へ塗布層を形成する工程において、電極Aの完成時にZ軸方向の端部領域となる部分でのスラリの塗布量を多くして、塗布層の厚さを厚くする方法を挙げることができる。例えば、塗布層をコンマコーティング法によって形成する場合、ロッドナイフの径を部分的に小さくすれば、その部分のロッドナイフとロール間のクリアランスが他の部分よりも大きくなり、スラリの塗布量を多くすることができる。即ち、電極Aにおいて厚部を設けたい部分に対応して、ロッドナイフの径を適切に小さくすれば、望む形で厚部を形成することができる。
【0045】
一般に塗布型電極の製造工程では、塗布層の形成後にロールプレスによって塗布層表面の平滑化や塗布層密度を増す工程が存在する。このような工程を経る場合であっても、上述のようにして電極Aの完成時にZ軸方向の端部領域となる部分でのスラリの塗布量を多くしておけば、プレス後でもスプリングバックによって厚部が形成される。
【0046】
さらに、電極Aの厚部を形成する他の方法の例としては、電極Aの集電体上へ塗布層を形成した後の電極ロールプレス工程において、プレスロールの電極Aの端部領域に当接する部分の径を他の部分より小さくしておき、印加するプレス圧を減じて、厚部を形成する方法を挙げることができる。この方法では、ロールプレス工程を実施する前に、電極Aの塗布層の端部領域でのスラリの塗布量を多くしておく必要は必ずしもない。
【0047】
本実施例による捲回式電極群は、S端部においては、電極Aの厚部同士が対向する間隔(図3に示すS2)よりも、電極Bと2枚のセパレータの合計の厚さ(図3に示すS1)の方が厚く、T端部においては、電極Aの厚部同士が対向する間隔(図4に示すT2)よりも、電極Bと2枚のセパレータの合計の厚さ(図4に示すT1)の方が厚い。したがって、振動などが加わった場合でも、電極Bの変位は、電極Aの厚部に阻止され、また同様にして、電極Aの変位は電極Bに阻止される。
【0048】
したがって、本実施形態による捲回式電極群を用いた電池では、振動などの外力が加わった場合でも、捲回式電極群の巻きずれ(正極電極と負極電極とセパレータの相対的な位置ずれ)が抑制され、正負電極やセパレータの位置関係を保つことができ、捲回式電極の構造健全性を向上することができる。
【0049】
電極Aの厚部の形成方法は、上記の説明に例示した手法に限定されない。本発明の趣旨に沿った厚部を形成するものであれば、本発明は厚部の形成方法に依存しないことは明らかである。
【0050】
また、電極Aの厚部の形状や配置は、上記の説明に例示したものに限定されない。本発明の趣旨に沿うものであれば、電極Aの厚部は形状や配置の如何を問わないことは明らかである。
【0051】
なお、上記の説明に例示した電極Aの厚部は、電極Aの集電体の両面の両端領域において塗布層の厚さを厚くするようにして形成されているが、数式1と数式2の関係を満たすものであれば、集電体の各面および各端部領域の塗布層の厚さを同一にする必要はない。
【実施例2】
【0052】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、塗布型電極群として円筒形捲回式電極群を用いた電池を例に挙げて説明する。Z軸方向(電極板の予め定めた1辺方向)として、捲回軸方向を用いるのも、第1の実施形態と同様である。また、S端部とT端部も、第1の実施形態と同様の部分を称している。
【0053】
図5は、捲回式電極群100のZ軸に平行な断面を示す模式図である。図5において、図2と同一の符号は、図2と同一または共通する要素を示す。本実施形態では、厚部40は、電極A10の塗布層の片面だけに設けられている。即ち、電極A10の塗布層の片面において、Z軸方向の両端の端部領域に、塗布層の厚さを他の部分(Z軸方向の中央部)よりも厚くして厚部を設ける。また、S端部において数式1の関係を満たし、T端部において数式2の関係を満たすようにして厚部を形成する。このようにすると、本実施形態でも、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0054】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、塗布型電極群として円筒形捲回式電極群を用いた電池を例に挙げて説明する。Z軸方向(電極板の予め定めた1辺方向)として、捲回軸方向を用いるのも、第1の実施形態と同様である。また、S端部とT端部も、第1の実施形態と同様の部分を称している。
【0055】
図6は、捲回式電極群100のZ軸に平行な断面を示す模式図である。図6において、図2と同一の符号は、図2と同一または共通する要素を示す。本実施形態では、厚部40は、電極A10の塗布層の両面に設けられている。ただし、厚部40は、塗布層の一方の面ではZ軸方向の一端の端部領域のみに設けられ、塗布層の他方の面ではZ軸方向の他端の端部領域のみに設けられている。即ち、電極A10の塗布層において、一方の面のZ軸方向の一端の端部領域に、塗布層の厚さを他の部分(Z軸方向の中央部)よりも厚くして厚部を設け、他方の面のZ軸方向の他端の端部領域に、塗布層の厚さを他の部分(Z軸方向の中央部)よりも厚くして厚部を設ける。また、S端部において数式1の関係を満たし、T端部において数式2の関係を満たすようにして厚部を形成する。このようにすると、本実施形態でも、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【実施例4】
【0056】
本発明は、塗布型電極の塗布層の端部領域に厚部を設けて電極群の相対位置を規定することによって、塗布型電極群を用いた電池の構造健全性を向上する効果を得るものである。したがって、円筒形捲回式電極群を用いる円筒形電池に限らず、扁平形捲回式電極群を用いる角形電池でも、本発明の効果を得ることができる。
【0057】
図7は、本実施形態おける、扁平形捲回式電極群を用いた角形電池の構造模式図である。扁平形捲回式電極群500は、帯状の正極電極板と帯状の負極電極板と帯状のセパレータを扁平形状に巻き取ることで構成される。正極電極板の正極集電リードは、接続部615を介して正極集電板610と接続され、負極電極板の負極集電リードは、接続部635を介して負極集電板630と接続される。扁平形捲回式電極群500と正極集電板610と負極集電板630は、絶縁シート710を介して、電池外装缶700に収納される。本実施形態では、扁平形捲回式電極群500は、捲回軸を横方向(図7の左右方向)に向けた状態で電池外装缶700に収納される。
【0058】
本実施形態でも、捲回軸方向をZ軸方向とする。また、扁平形捲回式電極群500の厚さ方向(扁平形捲回式電極群500の捲回軸に垂直な断面の短辺方向)をD軸とし、Z軸とD軸に垂直な方向(扁平形捲回式電極群500の捲回軸に垂直な断面の長辺方向)をH軸とする。
【0059】
電池外装缶700には、扁平形捲回式電極群500と正極集電板610と負極集電板630が収納された後、非水電解液が注入され、電池上蓋750により密閉される。電池上蓋750は、正極ターミナル620と負極ターミナル640と注液栓770と圧力開放弁760を備える。正極ターミナル620と負極ターミナル640は、それぞれ正極集電板610と負極集電板630に接続されている。非水電解液は、注液栓770から電池外装缶700に注入する。圧力開放弁760は、電池外装缶700の内部の圧力が上昇したときに、内部の圧力を開放するために用いる。
【0060】
図8は、本実施形態おける扁平形捲回式電極群を用いた角形電池の、正極集電リードと正極集電板の接続部615と負極集電リードと負極集電板の接続部635を横断する平面(D−Z平面)における断面の模式図である。上述したように、扁平形捲回式電極群500と正極集電板610と負極集電板630は、絶縁シート710を介して、電池外装缶700に収納されている。
【0061】
扁平形捲回式電極群500は、扁平形状の軸芯510を巻き軸として、帯状の正極電極板120と帯状の負極電極板130と帯状のセパレータ140(図8の部分拡大図を参照)が、扁平形状になるように巻き取られて形成される。正極電極板120から正極集電リード612がZ軸方向の一方(−Z方向)へ突出し、負極電極板130から負極集電リード632がZ軸方向の他方(+Z方向)へ突出しており、それぞれ正極と負極の集電リード群を構成している。正極集電リード612は、接続部615を介して正極接続板610に接続され、負極集電リード632は、接続部635を介して負極接続板630に接続される。
【0062】
図8の部分拡大図に示したように、正極電極板120は、正極集電体126と、正極集電体126の両面に形成された正極活物質塗工層(塗布層)125を有する。負極電極板130は、負極集電体136と、負極集電体136の両面に形成された負極活物質塗工層(塗布層)135を有する。
【0063】
以上説明したように、扁平形捲回式電極群の基本構造は、実施例1〜3で説明した円筒形の捲回式電極群の構造と同じである。したがって、扁平形捲回式電極群においても、正極電極と負極電極のいずれか一方の電極(電極A)について、捲回軸方向(Z軸方向)の塗布層の長さを、他方の電極(電極B)のZ軸方向の塗布層の長さよりも長くし、電極Aの塗布層のZ軸方向の両端の端部領域の少なくとも一部に厚部を設け、電極Bを電極AのZ軸方向の一端の厚部と他端の厚部との間に配置することができる。
【0064】
このような構成をとることにより、本実施形態による扁平形捲回式電極群を用いた電池でも、捲回式電極群の巻きずれ(正極電極と負極電極とセパレータの相対的な位置ずれ)を抑制して、正負電極やセパレータの位置関係を保つことができ、捲回式電極の構造健全性を向上することができる。
【実施例5】
【0065】
実施例4では、捲回式の扁平形電極群を用いた角形電池について説明したが、本発明は、積層式電極群を用いる角形電池にも適用可能である。本発明は、塗布型電極の塗布層の端部領域に厚部を設けて電極群の相対位置を規定することによって、塗布型電極群を用いた電池の構造健全性を向上する効果を得るものである。したがって、積層式電極群を用いる電池でも、捲回式電極群を用いる電池と同様の効果を得ることができる。
【0066】
図10A〜図10Eには、本発明による積層式電極群の構成の例を示す。なお、図10A〜図10Eでは、電極A10と電極B20の間に存在するセパレータ30を省略し、図示していない。
【0067】
図10A〜図10Cにおいて、電極A10には、塗布層のZ軸方向の端部領域に厚部40が設けられており、電極B20は、電極A10のZ軸方向の一端の厚部40と他端の厚部40との間に配置される。図10Aでは、電極A10の集電リード15と電極Bの集電リード25は、電極A10のZ軸方向の両端から突出している。図10Bでは、電極A10の集電リード15と電極Bの集電リード25は、電極A10のW軸方向の両端から突出している。W軸方向とは、電極A10の面内において、Z軸方向に垂直な方向である。また、図10Cに示すように、電極A10の集電リード15と電極Bの集電リード25を同一の方向(図10Cの例では+Z方向)に突出させる構成にすることも可能である。当該構成においては、Z軸方向において本発明の効果を得ることができる。
【0068】
図10Dは、Z軸を定める方向が異なる、2種類の電極A10を組み合わせて用いる場合の積層式電極群の構成を示す。図10Dにおいて、上から1番目と3番目の電極A10には、塗布層のZ’軸方向の端部領域に厚部40が設けられており、上から2番目と4番目の電極A10には、塗布層のZ’’軸方向の端部領域に厚部40が設けられている。なお、図10Dでは、Z’軸方向とZ’’軸方向は直交する。
【0069】
図10Eでは、電極A10の厚部40は、方向の異なる2種類のZ軸、即ちZ’軸およびZ’’軸に沿って、塗布層の端部領域に設けられている。図10Eに示した例では、Z’軸方向とZ’’軸方向は直交している。したがって、厚部40は、電極A10の塗布層の外縁領域に、塗布層の外周に沿って連続的に形成されている。図10Eに示すように、電極B20は、塗布層の外縁領域に厚部40を設けた電極A10で挟まれるように配置されている。このため、Z’軸方向およびZ’’軸方向はもちろん、Z’軸とZ’’軸を含む面内の方向において、本発明の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0070】
10…電極A、11…電極Aの塗布層、15…電極Aの集電リード、20…電極B、25…電極Bの集電リード、30…セパレータ、40、40a、40b、40c、40d…厚部、100…円筒形の捲回式電極群、110…軸芯、120…正極電極板、125…正極活物質塗工層、126…正極集電体、130…負極電極板、135…負極活物質塗工層、136…負極集電体、140…セパレータ、210…正極集電リード、215…正極集電リング、216…正極接続板、220…負極集電リード、225…負極集電リング、226…負極接続板、300…電池外装缶、310…正極ターミナルキャップ、320…ガスケット、500…扁平形捲回式電極群、510…扁平形状の軸芯、610…正極集電板、612…正極集電リード、615…正極集電リードと正極集電板の接続部、620…正極ターミナル、630…負極集電板、632…負極集電リード、635…負極集電リードと負極集電板の接続部、640…負極ターミナル、700…電池外装缶、710…絶縁シート、750……電池上蓋、760…圧力開放弁、770…注液栓。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている正極電極と、負極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている負極電極と、前記正極電極と前記負極電極を電気的に隔離するセパレータとを備える塗布型電極群を用いた電池において、
前記正極電極と前記負極電極のうち一方の電極の塗布層は、
予め定めた1辺方向の長さが、他方の電極の塗布層の前記1辺方向の長さよりも長く、
前記1辺方向の両端の端部領域の少なくとも一部に、厚さが前記1辺方向の中央部より厚くなっている厚部が設けられ、
前記他方の電極は、前記一方の電極の塗布層の前記1辺方向の一端に設けられた前記厚部と他端に設けられた前記厚部との間に位置する、
ことを特徴とする塗布型電極群を用いた電池。
【請求項2】
正極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている正極電極と、負極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている負極電極と、前記正極電極と前記負極電極を電気的に隔離するセパレータとを備える塗布型電極群を用いた電池において、
前記塗布型電極群は、前記正極電極と前記負極電極が前記セパレータを介して予め定めた1辺方向を捲回軸として捲回されて形成され、
前記正極電極と前記負極電極のうち一方の電極の塗布層は、
前記1辺方向の長さが、他方の電極の塗布層の前記1辺方向の長さよりも長く、
前記1辺方向の両端の端部領域の少なくとも一部に、厚さが前記1辺方向の中央部より厚くなっている厚部が設けられ、
前記他方の電極は、前記一方の電極の塗布層の前記1辺方向の一端に設けられた前記厚部と他端に設けられた前記厚部との間に位置する、
ことを特徴とする塗布型電極群を用いた電池。
【請求項3】
正極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている正極電極と、負極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている負極電極と、前記正極電極と前記負極電極を電気的に隔離するセパレータとを備える塗布型電極群を用いた電池において、
前記塗布型電極群は、前記正極電極と前記負極電極が前記セパレータを介して複数積層されて形成され、
前記正極電極と前記負極電極のうち一方の電極の塗布層は、
予め定めた1辺方向の長さが、他方の電極の塗布層の前記1辺方向の長さよりも長く、
前記1辺方向の両端の端部領域の少なくとも一部に、厚さが前記1辺方向の中央部より厚くなっている厚部が設けられ、
前記他方の電極は、前記一方の電極の塗布層の前記1辺方向の一端に設けられた前記厚部と他端に設けられた前記厚部との間に位置する、
ことを特徴とする塗布型電極群を用いた電池。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の塗布型電極群を用いた電池において、
前記他方の電極からは、前記集電体のうち塗布層が形成されていない部分が集電リードとして、前記1辺方向の一方へ突出し、
前記他方の電極の前記集電リードが突出している一端では、前記厚部を設けていない部分における前記一方の電極間の距離S1と、前記厚部における前記一方の電極間の距離S2と、前記他方の電極の厚さS3と、前記他方の電極の集電体の厚さS4が、下記の数式1を満たす塗布型電極群を用いた電池。
S1−S2≦S3−S4 ・・・(数式1)
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項記載の塗布型電極群を用いた電池において、
前記一方の電極からは、前記集電体のうち塗布層が形成されていない部分が集電リードとして、前記1辺方向の一方へ突出し、
前記一方の電極の前記集電リードが突出している一端では、前記厚部を設けていない部分における前記一方の電極間の距離T1と、前記厚部における前記一方の電極間の距離T2と、前記他方の電極の厚さT3が、下記の数式2を満たす塗布型電極群を用いた電池。
T1−T2≦T3 ・・・(数式2)
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項記載の塗布型電極群を用いた電池において、
前記厚部は、前記一方の電極の片面または両面に設けられている塗布型電極群を用いた電池。
【請求項1】
正極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている正極電極と、負極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている負極電極と、前記正極電極と前記負極電極を電気的に隔離するセパレータとを備える塗布型電極群を用いた電池において、
前記正極電極と前記負極電極のうち一方の電極の塗布層は、
予め定めた1辺方向の長さが、他方の電極の塗布層の前記1辺方向の長さよりも長く、
前記1辺方向の両端の端部領域の少なくとも一部に、厚さが前記1辺方向の中央部より厚くなっている厚部が設けられ、
前記他方の電極は、前記一方の電極の塗布層の前記1辺方向の一端に設けられた前記厚部と他端に設けられた前記厚部との間に位置する、
ことを特徴とする塗布型電極群を用いた電池。
【請求項2】
正極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている正極電極と、負極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている負極電極と、前記正極電極と前記負極電極を電気的に隔離するセパレータとを備える塗布型電極群を用いた電池において、
前記塗布型電極群は、前記正極電極と前記負極電極が前記セパレータを介して予め定めた1辺方向を捲回軸として捲回されて形成され、
前記正極電極と前記負極電極のうち一方の電極の塗布層は、
前記1辺方向の長さが、他方の電極の塗布層の前記1辺方向の長さよりも長く、
前記1辺方向の両端の端部領域の少なくとも一部に、厚さが前記1辺方向の中央部より厚くなっている厚部が設けられ、
前記他方の電極は、前記一方の電極の塗布層の前記1辺方向の一端に設けられた前記厚部と他端に設けられた前記厚部との間に位置する、
ことを特徴とする塗布型電極群を用いた電池。
【請求項3】
正極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている正極電極と、負極活物質を含む塗布層が集電体上に形成されている負極電極と、前記正極電極と前記負極電極を電気的に隔離するセパレータとを備える塗布型電極群を用いた電池において、
前記塗布型電極群は、前記正極電極と前記負極電極が前記セパレータを介して複数積層されて形成され、
前記正極電極と前記負極電極のうち一方の電極の塗布層は、
予め定めた1辺方向の長さが、他方の電極の塗布層の前記1辺方向の長さよりも長く、
前記1辺方向の両端の端部領域の少なくとも一部に、厚さが前記1辺方向の中央部より厚くなっている厚部が設けられ、
前記他方の電極は、前記一方の電極の塗布層の前記1辺方向の一端に設けられた前記厚部と他端に設けられた前記厚部との間に位置する、
ことを特徴とする塗布型電極群を用いた電池。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の塗布型電極群を用いた電池において、
前記他方の電極からは、前記集電体のうち塗布層が形成されていない部分が集電リードとして、前記1辺方向の一方へ突出し、
前記他方の電極の前記集電リードが突出している一端では、前記厚部を設けていない部分における前記一方の電極間の距離S1と、前記厚部における前記一方の電極間の距離S2と、前記他方の電極の厚さS3と、前記他方の電極の集電体の厚さS4が、下記の数式1を満たす塗布型電極群を用いた電池。
S1−S2≦S3−S4 ・・・(数式1)
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項記載の塗布型電極群を用いた電池において、
前記一方の電極からは、前記集電体のうち塗布層が形成されていない部分が集電リードとして、前記1辺方向の一方へ突出し、
前記一方の電極の前記集電リードが突出している一端では、前記厚部を設けていない部分における前記一方の電極間の距離T1と、前記厚部における前記一方の電極間の距離T2と、前記他方の電極の厚さT3が、下記の数式2を満たす塗布型電極群を用いた電池。
T1−T2≦T3 ・・・(数式2)
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項記載の塗布型電極群を用いた電池において、
前記厚部は、前記一方の電極の片面または両面に設けられている塗布型電極群を用いた電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【公開番号】特開2012−181922(P2012−181922A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41969(P2011−41969)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】
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