説明

塗布方法および被膜付き基材

【課題】基材の大きさ、形状によらず、液歩留まりよく、塗膜を、特に膜厚の厚い場合においても透視歪み等のない均一な膜厚に形成することが可能な塗布方法およびその方法により得られる、膜厚が厚い場合にも均一な膜厚分布を有する被膜付き基材を提供する。
【解決手段】傾斜をつけた基材塗布面に供給された塗布液が重力によって塗布面上を流下することで塗布が行われるフローコート法を応用した塗布の方法であって、基材塗布面に供給された塗布液が重力により流下するように基材に傾斜を設け、その傾斜の方向が連続的に、または断続的に変化するように基材を揺動させることで、塗布液の塗布面上での流下方向を変化させて、基材塗布面全体に塗布液を塗布する塗布方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に被膜を形成させるための塗布液の塗布方法およびその塗布方法を用いて得られる被膜付き基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガラスや樹脂等の基材を高機能化するために、基材の表面に各種機能性の被膜を形成させることが行われている。これら機能性被膜を基材上に形成させる方法としてスピンコート法、フローコート法などが広く用いられている。
【0003】
近年、被膜付き基材の使用用途は広がり、用途により塗布液の性質や基材の大きさや形状、求められる性能は多様化しており、それに対応して機能性塗布液の基材への塗布は難易度が高くなっている。例えば、車両用ガラスの防曇被膜形成においては、基材の大きさや形状に対応しつつ、膜厚の厚い被膜を均一に透視歪みなく形成させるという高度な塗布技術が要求されている。
【0004】
このような要求特性を満たす塗布技術として、特許文献1にはスピン成膜による塗布方法が記載されているが、この方法では高品質な塗膜を得るためには塗布液を塗膜形成に必要な量以上に過剰に供給しなければならず、いわゆる液歩留まりが悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−212859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、基材の大きさ、形状によらず、液歩留まりよく、塗膜を、特に膜厚の厚い場合においても透視歪み等のない均一な膜厚に形成することが可能な塗布方法およびその方法により得られる、膜厚が厚い場合にも均一な膜厚分布を有する被膜付き基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の塗布方法の第1の態様は、被膜形成用の塗布液を基材表面に塗布する方法であって、重力方向に直交する基準面に、前記基材を、塗布面を上にして一致させ、所定量の塗布液を基材の塗布面中央部に供給する工程と、前記基材の塗布面を、基準面に対して所定の角度傾斜させる工程と、前記基材の傾斜面に沿って前記塗布液を流動させつつ、前記基材の傾斜の方向を、前記基材の塗布面中央部を軸として順次移動させて、前記塗布液を基材の塗布面全面に塗り広げる工程とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明の塗布方法の第2の態様は、被膜形成用の塗布液を基材表面に塗布する方法であって、重力方向に直交する基準面に、前記基材を、塗布面を上にして一致させ、所定量の塗布液を基材の塗布面中央部に供給する工程と、前記基材の塗布面を、基準面に対して所定の角度傾斜させる工程と、前記基材の傾斜面に沿って前記塗布液を流動させ、前記塗布液が前記傾斜面に沿って所定の距離だけ流動したところで、前記基材の塗布面中央部を軸として前記基材の傾斜の方向を所定の角度移動させる工程と、前記基材の傾斜の方向を所定の角度移動させる工程を順次繰り返して、前記塗布液を基材の塗布面全面に塗り広げる工程とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の塗布方法の第3の態様は、被膜形成用の塗布液を基材表面に塗布する方法であって、下記(1)および(2)の工程を有する塗布方法である。
(1)重力方向に直交する基準面に、前記基材を、塗布面を上にして一致させ、所定量の塗布液を基材の塗布面中央部に供給する工程、
(2)前記(1)工程後、下記(A)〜(D)で示す前記基準面に対する前記基材塗布面の傾斜状態が(A)、(B)、(C)、(D)、(A)の順に連続的に繋がるように基材を揺動させる操作を1サイクルとして、または、前記1サイクルを複数回に区切った所定の傾斜状態で中断して一定時間保持する操作を繋げて前記1サイクルとして、前記サイクルを前記塗布液が基材塗布面を被覆し終わるまで繰り返し行う工程。
(A)基材塗布面の中心を通る基準面に水平な一方向をX方向とし、X方向に直交する方向をY方向とし、X方向における基材の一端をX1、他端をX2とし、Y方向における基材の一端をY1、他端をY2とした場合、
前記X方向についてX1が基準面に対して高く、前記サイクル中最高の位置となるように傾斜しており、前記Y方向について傾斜がない、
(B)前記X方向については傾斜がなく、前記Y方向についてY1が基準面に対して高く、前記サイクル中最高の位置となるように傾斜している、
(C)前記X方向についてX2が基準面に対して高く、前記サイクル中最高の位置となるように傾斜しており、前記Y方向について傾斜がない、
(D)前記X方向については傾斜がなく、前記Y方向についてY2が基準面に対して高く、前記サイクル中最高の位置となるように傾斜している。
【0010】
本発明の塗布方法の第4の態様は、被膜形成用の塗布液を基材表面に塗布する方法であって、前記基材を塗布面を上にして前記塗布面が重力方向に直交する基準面に対して一定の傾斜角度をなすように設置し、塗布液を塗布面上の上側中央部に供給した後、前記一定の傾斜角度を保持しながら基材の塗布面中心で塗布面に直交する線を軸として基材を回転させることを特徴とする塗布液の塗布方法である。
【0011】
また、本発明は、上記本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様または第4の態様の塗布方法を用いて得られた被膜付き基材であって、前記基材の塗布面を縦横10cm毎に区切った各交点における被膜の膜厚について、全膜厚の標準偏差値が平均値の5〜20%であり、各膜厚と全膜厚の平均値との差の最大値が前記平均値の40%以下である被膜付き基材を提供する。
【0012】
本発明の塗布方法は、傾斜をつけた基材塗布面に供給された塗布液が重力によって塗布面上を流下することで塗布が行われるフローコート法を応用した塗布の方法であって、基材塗布面に供給された塗布液が重力により流下するように基材に傾斜を設け、その傾斜の方向が連続的に、または断続的に変化するように基材を揺動させることで、塗布液の塗布面上での流下方向を変化させて、基材塗布面全体に塗布液を塗布する塗布方法である。
本発明の第1〜第3の態様の塗布方法によれば、基材の傾斜方向を連続的に変えることで、基材中央部に供給された塗布液の流下する方向が塗布面の中心から外側に向かって渦巻き状に変わり、最終的に塗布面全体に塗布される。第4の態様では基材塗布面の傾斜方向は変化しないものの、基材自体が回転することにより、第1の態様同様に基材塗布面に供給された塗布液の流下する方向が塗布面の中心から外側に向かって渦巻き状に変わり、最終的に塗布面全体に塗布される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塗布方法によれば、基材の大きさ、形状によらず、液歩留まりよく、塗膜を、特に膜厚の厚い場合においても透視歪み等のない均一な膜厚に形成することが可能である。また、本発明の方法により得られる被膜付き基材の被膜は、膜厚が厚い場合にも均一な膜厚分布を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第3の態様の塗布方法を模式的に示す図である。
【図2】本発明の第4の態様の塗布方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
<本発明の第1〜3の態様の塗布方法>
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様において、重力方向に直交する基準面に、前記基材を、塗布面を上にして一致させ、所定量の塗布液を基材の塗布面中央部に供給する工程と、前記基材の塗布面を、基準面に対して所定の角度傾斜させる工程と、は同様である。
【0016】
本発明の第1の態様においては、その後、前記基材の傾斜面に沿って前記塗布液を流動させつつ、前記基材の傾斜の方向を、前記基材の塗布面中央部を軸として順次移動させて、前記塗布液を基材の塗布面全面に塗り広げる工程を有し、本発明の第2の態様においては、前記基材の傾斜面に沿って前記塗布液を流動させ、前記塗布液が前記傾斜面に沿って所定の距離だけ流動したところで、前記基材の塗布面中央部を軸として前記基材の傾斜の方向を所定の角度移動させる工程と、前記基材の傾斜の方向を所定の角度移動させる工程を順次繰り返して、前記塗布液を基材の塗布面全面に塗り広げる工程とを有する。
【0017】
両者の相違は基材の傾斜の方向を変える時期が順次であるか、断続的であるかであり、基材の傾斜の方向を変える具体的な方法としては、本発明の第3の態様の(2)の工程による方法がある。
【0018】
つまり、上記本発明の塗布方法の第1の態様および第2の態様をより具体的に示すのが本発明の第3の態様の塗布方法といえる。以下に本発明の第3の態様の塗布方法について具体的に説明するが、これは本発明の第1の態様、第2の態様の塗布方法の説明を包含するものである。なお、本発明の塗布方法が、これに限定されるものではない。
【0019】
本発明の第3の態様の塗布方法は、(1)基材の塗布面中央部に塗布液を供給する工程と(2)前記塗布液が基材塗布面を被覆し終わるまで、基材の傾斜方向が連続的にまたは断続的に変わるように基材を揺動させる操作を繰り返す工程を有する。本発明の第3の態様の塗布方法を図1によって説明する。
【0020】
図1の(S1)は、本発明の第3の態様の塗布方法における(1)の工程、すなわち、重力方向に直交する面を基準面として、基材1を、塗布面2を上にして前記基準面に一致させ、所定量の塗布液を基材の塗布面中央部に供給する工程の外観図(塗布液は図示せず)であり、(S2)は、これを上から見た図であり、基材1の塗布面2中央部に供給された塗布液3が図示されている。
【0021】
(1)工程において塗布液が供給される際の基材1の位置は、塗布面2を重力方向Gに対して垂直となるように設定した位置である。
【0022】
図1において基材1は、塗布面2が正方形の一定厚を有する基材であるが、本発明の塗布方法が適用される基材の大きさや形状は特に限定されるものではなく、各種大きさや形状の基材が適用可能である。基材表面は、平滑であることが好ましい。
【0023】
本発明の塗布方法が適用される塗布液の種類や性質については特に限定されない。また、塗布液の供給方法についても特に限定されない。塗布液は、通常は、塗布面の面積と塗膜に求められる厚さから算出される塗布液の量より若干多い量、具体的には、塗布面の面積と所望の塗膜厚から算出される塗布液の量の約1.05〜1.7倍の量の塗布液を1回で供給する。本発明の塗布方法において、塗膜の厚さの調整は、基材の傾斜の角度や、基材の傾斜を連続的に変化させる速さ等を調整することでも行われるが、塗布液の粘性率を調整することで行うことも可能である。
【0024】
塗布液の粘性率は、塗布液に含まれる構成成分にもよるが、おおよそ10mPa・sec以下が好ましく、0.5〜8mPa・secが特に好ましく、1〜5mPa・secがとりわけ好ましい。また、塗布液の表面張力は、基材表面と塗布液の親和の状態にもよるが、20〜35mN/m程度に調整することが好ましく、20〜30mN/m程度に調整することがより好ましい。
本発明の塗布方法によれば、用いる塗布液の粘性率が高い場合にも1回の簡便な操作で膜厚の厚い塗膜を、基材塗布面の全面にわたって均一な膜厚となるように形成することができる。塗布直後の膜厚は20〜60μm程度であることが好ましい。
なお、用いる塗布液の材料によって塗布液の粘性率の調整が困難な場合は、本発明の方法による塗布を数回繰り返すことで、所望の膜厚にすることも可能である。
【0025】
本発明の第3の態様の塗布方法においては、上記(1)の工程後、以下に説明する(2)の工程を行う。
【0026】
(2)の工程は、下記(A)〜(D)で示す前記基準面に対する前記基材塗布面の傾斜状態、具体的には、図1の(A1)〜(D1)の模式的な外観図で示されるような傾斜状態が、(A)、(B)、(C)、(D)、(A)の順に連続的に繋がるように基材を揺動させる操作を1サイクルとして、または、前記1サイクルを複数回に区切った所定の傾斜状態で中断して一定時間保持する操作を繋げて前記1サイクルとして、前記サイクルを前記塗布液が基材塗布面を被覆し終わるまで繰り返し行う工程である。
【0027】
ここで、上記基材の傾斜状態が(A)→(B)→(C)→(D)→(A)の順に連続的に繋がるように基材を揺動させる1サイクル(360度)の操作を、複数回に区切った所定の傾斜状態で中断して一定時間保持する操作を繋げて前記1サイクル(360度)とするとは、例えば、90度ごとに区切った場合には、(A)、(B)、(C)、(D)の各傾斜状態で、基材を揺動する操作を中断して一定時間保持し、(A)から(B)へ、(B)から(C)へ、(C)から(D)へ、(D)から(A)への傾斜状態の変化は上記連続的に繋がるように基材を揺動させる操作と同様に行うことを意味する。
【0028】
1サイクル(360度)を複数回に区切る位置としては、上記のように等間隔に区切ってもよいし、間隔を徐々に大きくするまたは小さくする等の区切り方でもよい。また、中断状態で保持する時間も必ずしも中断した各位置において同じでなくてもよい。実際の操作は、コンピュータ制御されたロボット等により行われるので、上記中断する間隔や中断時間の設定はより効果が上がる方向であれば自由に設定可能である。
【0029】
本発明の塗布方法においては、1サイクル(360度)を複数回に区切る場合には、好ましくは、1サイクル(360度)を等間隔に区切る、具体的には、360度の公約数で区切る方法が用いられる。より好ましくは、30度〜120度の間の公約数で区切る、特に好ましくは90度で区切る方法が採用される。なお、以下で説明する「断続的」な基材の揺動操作については、特に断りのない限り、最初の状態を(A)の傾斜状態としてその状態を一定時間保持し、その後、90度毎に区切った(B)、(C)、(D)の傾斜状態の位置で一定時間その傾斜状態を保持する操作を説明しているが、本発明の塗布方法におけるは、「断続的」な基材の揺動操作は、これに限定されず、上記様々な条件で断続的に行われる基材の揺動操作を含むものである。
【0030】
基材塗布面の中心を通る基準面に水平な一方向をX方向とし、X方向に直交する方向をY方向とし、X方向における基材の一端をX1、他端をX2とし、Y方向における基材の一端をY1、他端をY2とした場合、
(A)の状態は、前記X方向についてX1が基準面に対して高く、前記サイクル中最高の位置となるように傾斜しており、前記Y方向について傾斜がない基材の傾斜状態である。図1の(A1)に(A)の傾斜状態の外観図を示す。なお、図1(A1)には、基準面の代わりに(S1)の状態の基材、すなわち、基材1の塗布面2を上した状態で塗布面2を重力方向に直交する基準面に一致させた状態の基材を点線で示し、(A1)の状態の基材塗布面の基準面からのズレを示した。
【0031】
本発明の第3の態様の塗布方法において基材の傾斜状態が(A)の状態である場合の基準面からのX1の高さを+x1とするとX方向にX1と相対するX2の位置は−x1で示される。Y1、Y2はともに基準面と等しく0で示される。ここで、本明細書における、各点の「高さ」とは、基準面を0とした時に基準面から重力と反対の方向への距離を正の値で、また基準面から重力方向への距離を負の値で示すものであり、ある傾斜状態における基材の基準面からのズレを表す指標である。図1の(A2)は、(A1)を上から見た図であり、X1、X2、Y1、Y2の記号に続く括弧内の記載は、各点の基材に対する高さを示している。図1(A2)は、基材1の塗布面2中央部に供給された塗布液3が重力により中央からX方向に基材の端X2に向かって流下する状態を示している。
【0032】
なお、本発明の第3の態様の塗布方法において基材の揺動のサイクルは、(A)の状態から以下に説明する(B)、(C)、(D)の基材の傾斜状態を経て(A)の状態に戻るまでを1サイクルとするが、(A)の状態におけるX1の高さ+x1は、この1サイクルのうちで最も大きい値である。X1の高さは基材の状態が(A)→(B)→(C)→(D)→(A)の状態に連続的にまたは断続的に変化するに従って、+x1→0→−x2→0→+x1のように連続的にまたは断続的に変化する。
【0033】
(A)の傾斜状態は、用いる基材の材質、形状、表面状態等や塗布液の種類、粘性率、塗布量等にもよるが、具体的には、傾斜角度で前記基準面に対する(A)状態の基材塗布面の傾斜角度が0度を超え15度以下となるような傾斜状態であることが好ましく、より好ましくは0.5度〜10度となるような傾斜状態である。
【0034】
(B)の状態は、前記X方向については傾斜がなく、前記Y方向についてY1が基準面に対して高く、前記サイクル中最高の位置となるように傾斜している基材の傾斜状態である。図1の(B1)に(B)の傾斜状態の外観図を示す。なお、図1(B1)には、基準面の代わりに(S1)の状態の基材を点線で示し、(B)状態における基準面とX1、Y1、X2、Y2の各点との位置関係がわかるようにした。
【0035】
本発明の第3の態様の塗布方法において基材の傾斜状態が(B)の状態である場合の基準面からのY1の高さ、すなわち基準面から重力と反対の方向への距離を+y1とするとY方向にY1と相対するY2の位置は−y1で示される。X1、X2はともに基準面と等しく0で示される。図1の(B2)は、(B1)を上から見た図であり、X1、X2、Y1、Y2の記号に続く括弧内の記載は、上記(A1)と同様に各点の基材に対する高さを示している。
【0036】
図1(B2)は、基材1の塗布面2中央部に供給された塗布液3が、(A2)では重力により中央からX方向に基材の端X2に向かって流下していたのが、基材の状態が(A)から(B)の傾斜状態へと連続的に変化するのに伴い、次第に流下の方向を変えて、(B)の傾斜状態となった時には、Y方向に基材のY2がある辺に向かって流下する状態を示している。または、基材の状態が(A)から(B)の傾斜状態に連続的に変化するのではなく、(A)の状態を一定時間保持した後、(B)の傾斜状態に切り替えて(B)の状態を一定時間保持するというように基材の傾きが断続的に変化するように基材を操作した場合には、図1(B2)は、基材1の塗布面2中央部に供給された塗布液3が、(A2)では重力により中央からX方向に基材の端X2に向かって流下していたのが、基材の状態が(A)から(B)の傾斜状態へと切り替わると、流下の方向をY方向であって基材のY2がある辺に向かう方向に変えて、流下する状態を示している。
【0037】
本発明の第3の態様の塗布方法における基材の揺動のサイクルのうち(B)の状態におけるY1の高さ+y1は、このサイクルのうちで最も大きい値である。Y1の高さは基材の状態が(A)→(B)→(C)→(D)→(A)の状態に連続的にまたは断続的に変化するに従って、0→+y1→0→−y2→0のように連続的にまたは断続的に変化する。
【0038】
(B)の傾斜状態は、(A)の傾斜状態同様、用いる基材の材質、形状、表面状態等や塗布液の種類、粘性率、塗布量等にもよるが、具体的には、傾斜角度で前記基準面に対する(B)状態の基材塗布面の傾斜角度が0度を超え15度以下となるような傾斜状態であることが好ましく、より好ましくは0.5度〜10度となるような傾斜状態である。
【0039】
(C)の状態は、前記X方向についてX2が基準面に対して高く、前記サイクル中最高の位置となるように傾斜しており、前記Y方向について傾斜がない基材の傾斜状態である。図1の(C1)に(C)の傾斜状態の外観図を示す。なお、図1(C1)には、基準面の代わりに(S1)の状態の基材を点線で示し、(C)状態における基準面とX1、Y1、X2、Y2の各点との位置関係がわかるようにした。
【0040】
本発明の第3の態様の塗布方法において基材の傾斜状態が(C)の状態である場合の基準面からのX2の高さ、すなわち基準面から重力と反対の方向への距離を+x2とするとX方向にX2と相対するX1の位置は−x2で示される。Y1、Y2はともに基準面と等しく0で示される。図1の(C2)は、(C1)を上から見た図であり、X1、X2、Y1、Y2の記号に続く括弧内の記載は、上記(A1)と同様に各点の基材に対する高さを示している。
【0041】
図1(C2)は、基材1の塗布面2中央部に供給された塗布液3が、(A2)では重力により中央からX方向に基材の端X2に向かって流下し、基材の状態が(A)から(B)の傾斜状態へと連続的に変化するのに伴い、次第に流下の方向を変えて、(B)の傾斜状態となった時には、Y方向に基材のY2がある辺に向かって流下し、さらに基材の状態が(B)から(C)の傾斜状態へと連続的に変化するのに伴い、次第に流下の方向を変えて、(C)の傾斜状態となった時には、X方向に基材のX1がある辺に向かって流下する状態を示している。
【0042】
または、基材の状態が(A)から(B)、(B)から(C)の傾斜状態に連続的に変化するのではなく、(A)の状態を一定時間保持した後、(B)の傾斜状態に切り替えて(B)の状態を一定時間保持し、その後(C)の傾斜状態に切り替えて(C)の状態を一定時間保持するというように基材の傾きが断続的に変化するように基材を操作した場合には、図1(B2)は、基材1の塗布面2中央部に供給された塗布液3が、(A2)では重力により中央からX方向に基材の端X2に向かって流下し、基材の状態が(A)から(B)の傾斜状態へと切り替わると、流下の方向をY方向であって基材のY2がある辺に向かう方向に変えて流下していたのが、基材の状態が(B)から(C)の傾斜状態へと切り替わると、流下の方向をX方向であって基材のX1がある辺に向かう方向に変えて流下する状態を示している。
【0043】
本発明の第3の態様の塗布方法における基材の揺動のサイクルのうち(C)の状態におけるX2の高さ+x2は、このサイクルのうちで最も大きい値である。X2の高さは基材の状態が(A)→(B)→(C)→(D)→(A)の状態に連続的にまたは断続的に変化するに従って、−x1→0→+x2→0→−x1のように連続的にまたは断続的に変化する。
【0044】
(C)の傾斜状態は、(A)の傾斜状態同様、用いる基材の材質、形状、表面状態等や塗布液の種類、粘性率、塗布量等にもよるが、具体的には、傾斜角度で前記基準面に対する(C)状態の基材塗布面の傾斜角度が0度を超え15度以下となるような傾斜状態であることが好ましく、より好ましくは0.5度〜10度となるような傾斜状態である。
【0045】
(D)の状態は、前記X方向については傾斜がなく、前記Y方向についてY2が基準面に対して高く、前記サイクル中最高の位置となるように傾斜している基材の傾斜状態である。図1の(D1)に(D)の傾斜状態の外観図を示す。なお、図1(D1)には、基準面の代わりに(S1)の状態の基材を点線で示し、(D)状態における基準面とX1、Y1、X2、Y2の各点との位置関係がわかるようにした。
【0046】
本発明の第3の態様の塗布方法において基材の傾斜状態が(D)の状態である場合の基準面からのY2の高さ、すなわち基準面から重力と反対の方向への距離を+y2とするとY方向にY2と相対するY1の位置は−y2で示される。X1、X2はともに基準面と等しく0で示される。図1の(D2)は、(D1)を上から見た図であり、X1、X2、Y1、Y2の記号に続く括弧内の記載は、上記(A1)と同様に各点の基材に対する高さを示している。
【0047】
図1(D2)は、基材1の塗布面2中央部に供給された塗布液3が、(A2)では重力により中央からX方向に基材の端X2に向かって流下し、基材の状態が(A)から(B)の傾斜状態へと連続的に変化するのに伴い、次第に流下の方向を変えて、(B)の傾斜状態となった時には、Y方向に基材のY2がある辺に向かって流下し、さらに基材の状態が(B)から(C)の傾斜状態へと連続的に変化するのに伴い、次第に流下の方向を変えて、(C)の傾斜状態となった時には、X方向に基材のX1がある辺に向かって流下し、さらに基材の状態が(C)から(D)の傾斜状態へと連続的に変化するのに伴い、次第に流下の方向を変えて、(D)の傾斜状態となった時には、Y方向に基材のY1がある辺に向かって流下する状態を示している。
【0048】
または、基材の状態が(A)から(B)、(B)から(C)、(C)から(D)の傾斜状態に連続的に変化するのではなく、(A)の状態を一定時間保持した後、(B)の傾斜状態に切り替えて(B)の状態を一定時間保持し、その後(C)の傾斜状態に切り替えて(C)の状態を一定時間保持し、その後さらに(D)の傾斜状態に切り替えて(D)の状態を一定時間保持するというように基材の傾きが断続的に変化するように基材を操作した場合には、図1(B2)は、基材1の塗布面2中央部に供給された塗布液3が、(A2)では重力により中央からX方向に基材の端X2に向かって流下し、基材の状態が(A)から(B)の傾斜状態へと切り替わると、流下の方向をY方向であって基材のY2がある辺に向かう方向に変えて流下し、基材の状態が(B)から(C)の傾斜状態へと切り替わると、流下の方向をX方向であって基材のX1がある辺に向かう方向に変えて流下していたのが、今度は基材の状態が(C)から(D)の傾斜状態へと切り替わると、流下の方向をY方向であって基材のY1がある辺に向かう方向に変えて流下する状態を示している。
【0049】
本発明の第3の態様の塗布方法における基材の揺動のサイクルのうち(D)の状態におけるY2の高さ+y2は、このサイクルのうちで最も大きい値である。Y2の高さは基材の状態が(A)→(B)→(C)→(D)→(A)の状態に連続的にまたは断続的に変化するに従って、0→−y1→0→+y2→0のように連続的にまたは断続的に変化する。
【0050】
(D)の傾斜状態は、(A)の傾斜状態同様、用いる基材の材質、形状、表面状態等や塗布液の種類、粘性率、塗布量等にもよるが、具体的には、傾斜角度で前記基準面に対する(D)状態の基材塗布面の傾斜角度が0度を超え15度以下となるような傾斜状態であることが好ましく、より好ましくは0.5度〜10度となるような傾斜状態である。
【0051】
本発明の第3の態様の塗布方法においては、このようにして、上記(2)の工程で基材の傾斜状態を(A)→(B)→(C)→(D)→(A)の順に連続的に変化させるように基材を揺動する操作を1サイクルとして、このサイクルを繰り返すことにより、(1)の工程で基材中央に供給された塗布液が中央から流下の方向を連続的に渦巻き状に変化させながら塗布面全面に塗布される。この塗布液が流下の方向を連続的に渦巻き状に変化させる状態とは、具体的には、上記において基材を上から見た図1(A2)、(B2)、(C2)、(D2)における塗布液の状態をその順に連続的に繋いだ状態で示される。
【0052】
本発明の第3の態様の塗布方法においては、(2)の工程で上記のように連続的に基材を揺動するのではなく、基材塗布面の傾斜状態が順に断続的に(A)、(B)、(C)、(D)となるように基材を揺動させて、かつ(A)、(B)、(C)、(D)の状態で一定時間その状態を保持することで、(1)の工程で基材中央に供給された塗布液が、中央から流下の方向を、基材を上から見た図1(A2)→(B2)→(C2)→(D2)までに示すように断続的に変化させる操作を1サイクルとして、前記塗布液が基材塗布面を被覆するまでこの操作を繰り返し行うことも可能である。
【0053】
塗布面全面に塗布液が塗布されるまでに要するサイクル数は、基材の大きさや、基材の揺動の傾斜角度、速さ、塗布液の種類、粘性率、塗布量等による。基材の揺動の傾斜角度の好ましい値については、上述の通りである。基材の揺動の速さについては、基材を連続的に揺動させる場合には、基材の傾斜角度、塗布液の粘性率等にもよるが、上記サイクルを10〜120秒/サイクルの速さで行うことが好ましく、20〜60秒/サイクルの速さで行うことがより好ましい。また、基材の傾斜状態(A)、(B)、(C)、(D)の状態が断続的に現れるように基材を揺動させる場合には、上記のように各状態について一定の保持時間を設けるが、その時間としては、各状態毎に2〜30秒(好ましくは2〜20秒)とすることができる。ここで各状態の保持時間は同一であっても異なってもよい。本明細書においては、各状態の保持時間の合計を1サイクルに要する時間として表す。なお、本発明の第3の態様の(2)工程において、基材の傾斜状態(A)、(B)、(C)、(D)の状態が断続的に現れるように基材を揺動させる場合には、上記サイクルを10〜120秒/サイクルの速さで行うことが好ましく、20〜60秒/サイクルの速さで行うことがより好ましい。
【0054】
本発明の第3の態様の塗布方法において、上記(2)の工程は、具体的には、基材を揺動可能なロボット等を用い、上記(A)、(B)、(C)、(D)の各傾斜状態をX1、Y1、X2、Y2の位置で設定し、これらの位置関係を連続的に繋ぐ揺動操作を、設定した速度で行うように操作することで行うことが可能である。また、基材の傾斜状態を(A)、(B)、(C)、(D)の状態に断続的に変化させ、各状態で一定時間保持する操作も同様にロボット等を用いて行うことが可能である。
【0055】
<本発明の第4の態様の塗布方法>
本発明の第4の態様は被膜形成用の塗布液を基材表面に塗布する方法であって、前記基材を塗布面を上にして前記塗布面が重力方向に直交する基準面に対して一定の傾斜角度をなすように設置し、塗布液を塗布面上の上側中央部に供給した後、前記一定の傾斜角度を保持しながら基材の塗布面中心で塗布面に直交する線を軸として基材を回転させることを特徴とする塗布液の塗布方法である。上記第1〜3の態様による塗布方法が基材の回転を伴わないのに比して第4の態様による塗布方法は基材の回転を伴うことを特徴とする。本発明の第4の態様の塗布方法を図2によって説明する。
【0056】
図2は、本発明の第4の態様の塗布方法において、基材が回転するのに伴い、供給された塗布液が重力による流下により塗布面積を増加させる様子を、回転の角度を90度ごとに区切って、具体的には、(E):0度、(F):90度、(G):180度、(H)270度の位置で説明するものである。(E1)〜(H1)は、基材1と基材中央の回転の支点を支持する支持材2の外観図を示し、(E2)〜(H2)は基材1と基材中央の回転の支点を支持する支持材2の一定方向からの断面図を示す。
【0057】
図2においても、図1と同様、基材の位置が明確となるよう、基材塗布面の中心を通る一方向をX方向とし、X方向に直交する方向をY方向とし、X方向における基材の一端をX1、他端をX2とし、Y方向における基材の一端をY1、他端をY2として、図中に示した。図2には図示していないが、重力方向に直交する面を基準面として設定した場合、(E)で示す基材の傾斜状態は、本発明の第3の態様の(A)の状態と同様であり、前記X方向についてX1が基準面に対して最も高い位置にX2が最も低い位置にあり、前記Y方向について、Y1およびY2は基準面と同じ位置にある。
【0058】
本発明の第4の態様において塗布液は、この状態の基材塗布面上の上側中央部に供給される。塗布液が供給された直後の状態の基材を示す図が、図2(E1)である。用いられる塗布液として好ましいものについては、上記第3の態様で説明したのと同様である。また、基材についても第3の態様と同様である。
【0059】
ここで、本発明の第4の態様の塗布方法において基材の状態が(E)で示す状態の場合の基準面からのX1の高さを+hとするとX方向にX1と相対するX2の高さは−hで示される。Y1、Y2はともに基準面と等しく0で示される。各点の「高さ」とは、上記本発明の第3の態様で説明した通り、基準面を0とした時に基準面から重力と反対の方向への距離を正の値で、また基準面から重力方向への距離を負の値で示すものである。
【0060】
本発明の第4の態様の塗布方法において基材の傾斜角度、つまり図2(E2)においてθで示される角度は、基材が1回転する間、以下に説明する図2(F2)、(G2)、(H2)の各点においても一定である。この基材の傾斜角度(θ)は、用いる基材の材質、形状、表面状態等や塗布液の種類、粘性率、塗布量等にもよるが、具体的には、0度を超え5度以下の範囲にあることが好ましく、0.5度〜3度の範囲にあることがより好ましい。
【0061】
本発明の第4の態様の塗布方法においては、このような一定の角度を保持しながら基材の塗布面中心を塗布面に対して垂直に貫通する線を軸として基材を回転させる。図2(F1)は、上記(E)の状態から90度回転した状態(F)の基材1と塗布液3の状態を示す外観図である。図2(F1)の外観図で示す基材の状態は、前記Y方向についてY1が基準面に対して最も高い位置(+h)にY2が最も低い位置(−h)にあり、前記X方向について、X1およびX2は基準面と同じ位置(0)にある。
【0062】
図2(G1)は、上記(E)の状態から180度回転した状態(G)の基材1と塗布液3の状態を示す外観図である。図2(G1)の外観図で示す基材の状態は、前記X方向についてX2が基準面に対して最も高い位置(+h)にX1が最も低い位置(−h)にあり、前記Y方向について、Y1およびY2は基準面と同じ位置(0)にある。さらに、図2(H1)は、上記(E)の状態から270度回転した状態(H)の基材1と塗布液3の状態を示す外観図である。図2(H1)の外観図で示す基材の状態は、前記Y方向についてY2が基準面に対して最も高い位置(+h)にY1が最も低い位置(−h)にあり、前記X方向について、X1およびX2は基準面と同じ位置(0)にある。
【0063】
本発明の第4の態様の塗布方法において基材は、(E)の回転0度の状態から、(F):90度回転した状態、(G):180度回転した状態、(H)270度回転した状態を経て(E):360度(0度)回転して元に戻って1回転したことになるが、(E)の状態におけるX1の高さ+hは、この1回転のうちに(E)→(F)→(G)→(H)→(E)に対応して+h→0→−h→0→+hのように変化する。また、X1に相対するX2の高さは、この1回転のうちに(E)→(F)→(G)→(H)→(E)に対応して−h→0→+h→0→−hのように変化する。同様に(E)→(F)→(G)→(H)→(E)と基材が1回転する際の、Y1とY2の高さの変化をいえば、Y1は0→+h→0→−h→0のように変化し、Y2は、0→−h→0→+h→0のように変化する。
【0064】
塗布液3は、(E)→(F)→(G)→(H)と基材が回転するに伴い、重力による流下の方向を変化させながら図2(E1)〜(H1)に示すように徐々に塗布面積を増大させる。
【0065】
塗布面全面に塗布液が塗布されるまでに要する回転数は、基材の大きさや、基材の傾斜角度、塗布液の種類、粘性率、塗布量等による。基材の傾斜角度の好ましい値については、上述の通りである。基材の回転速度については、基材の傾斜角度、塗布液の粘性率等にもよるが、1〜10秒/回であることが好ましく、2〜5秒/回であることがより好ましい。
【0066】
本発明の塗布方法は、被膜形成用の塗布液を基材表面に塗布する方法であるが、基材に塗布液が塗布された後は、必要に応じて、乾燥工程、加熱工程等を経て、被膜、具体的には、各種機能を有する機能性被膜が形成される。塗布液が、反応硬化性の成分、例えば、イソシアネート基含有化合物とポリオール化合物(特開2006−169440等を参照)、エポキシ基含有化合物とポリアミン化合物、エポキシ基本含有化合物とポリカルボン酸系化合物(ポリカルボン酸無水物を含む)化合物等の2成分系の反応硬化性成分(国際公開2007/052710パンフレット等を参照)、アクリル酸およびその誘導体(アクリル酸エステル、アクリル酸アミド等)、メタクリル酸およびその誘導体(メタクリル酸エステル、メタクリル酸アミド等)から適宜選択されるアクリル系単量体の混合物等の反応硬化性成分(特開2000−192020等を参照)、またはこれらの硬化反応物を有する場合、溶媒を揮発させる乾燥工程、硬化反応を促進させ機能性被膜を形成させるための加熱工程を経て、機能性被膜が形成される。
【0067】
次に、上記本発明の第3の態様の塗布方法および第4の態様の塗布方法が適用される基材および塗布液について以下に説明する。
<基材>
本発明の塗布方法が適用可能な基材としては、通常表面に塗布液を塗布し、機能性被膜を形成させて各種用途に用いるような基材であれば特に制限されないが、たとえば、ガラス、プラスチック、金属、セラミックス、またはこれらの組み合わせ(複合材料、積層材料等)からなる基材が挙げられる。これらのうちでも、ガラスもしくはプラスチックからなる透明基体、または鏡である基材がより好ましい。ガラスとしては、クリアガラス、グリーンやブロンズ等の各種着色ガラス、UVまたはIRカットガラス等の機能性ガラス、強化ガラス、合わせガラス等の安全ガラス等が挙げられるが、ソーダライムガラスが特に好ましい。ガラス基材の用途としては、主に自動車用窓ガラスであるウィンドシ−ルド、バックウィンド、サイドウィンド、フロントベンチ、リアクォーター等、建築用窓ガラスである単層ガラス、複層ガラス等が挙げられる。また、プラスチックとしては、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などの基材が挙げられる。
【0068】
基材の形状は平板でもよく、全面または一部が曲率を有していてもよい。曲率半径はおおよそ、500R〜10000R程度である。基材の厚さはその用途により適宜選択できるが、一般的には1〜10mmであることが好ましい。
【0069】
また、基材には必要に応じて、塗布液との親和性、塗布液から最終的に得られる機能性被膜との密着性等を考慮して、表面処理が施されていてもよい。用いる塗布液によっては、基材は、表面に反応性基を有していてもよい。基材表面に親水性が要求される場合には、反応性基として親水性基を有することが好ましく、親水性基としては水酸基が好ましい。また、基体に酸素プラズマ処理、コロナ放電処理、オゾン処理等を施し、表面に付着した有機物を分解除去したり、表面に微細な凹凸構造を形成させたりすることにより、基材表面を親水性としてもよい。なお、ガラスや金属酸化物は通常、表面に水酸基を有している。
【0070】
また、基材は塗布液から最終的に得られる機能性被膜との密着性を高める目的で、ガラス等の表面にシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物薄膜や有機基含有金属酸化物薄膜が設けられたものでもよい。
【0071】
金属酸化物薄膜は、加水分解性基を有する金属化合物を用い、ゾルゲル法で形成できる。金属化合物としては、テトラアルコキシシラン、テトライソシアネートシラン、またそのオリゴマー等が好ましい。
【0072】
有機基含有金属酸化物薄膜は、有機金属系カップリング剤で基材表面を処理することにより得られる。有機金属系カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が使用でき、シラン系カップリング剤を用いるのが好ましい。
【0073】
<塗布液>
本発明の塗布方法が適用される塗布液としては、上記基材に通常塗布され、必要に応じて乾燥、加熱等の処理を経て被膜、具体的には機能性被膜として用いられる塗布液が特に制限なく挙げられる。このような塗布液として、具体的には、得られる被膜が、防曇膜、断熱膜、撥水膜、反射防止膜である塗布液等が挙げられる。これらのうちでも本発明の塗布方法が好適に用いられる被膜として、断熱膜、防曇膜等が挙げられる。以下に、防曇膜の例を説明する。
【0074】
防曇膜は、通常、吸水性の架橋性樹脂膜で構成される。架橋性樹脂膜が防曇膜として機能するためには、飽和吸湿量は、20mg/cm以上であるのが好ましく、45mg/cm以上であるのがより好ましい。この様な飽和吸湿量とするための架橋性樹脂としては、例えば、以下の架橋性成分と硬化剤を反応させた架橋性樹脂が挙げられる。
【0075】
架橋性成分は、架橋性基を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーであって、後述する硬化剤の存在下に反応して架橋性樹脂となるものであれば特に限定されない。架橋性基としては、たとえば、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロ基、チオール基、スルフィド基、水酸基、カルボキシ基、および酸無水物基が挙げられる。なかでも、カルボキシ基、エポキシ基、および水酸基が好ましく、エポキシ基がより好ましい。架橋性成分が有する架橋性基の数は、必要とされる防曇性能および耐久性を満足する限り何個であってもよい。また、架橋性成分は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
架橋性成分が架橋性基を有するモノマーまたはオリゴマーである場合は、1分子中に含まれる架橋性基の数は2個以上であるのが好ましく、2〜10個であるのがより好ましい。場合によっては、架橋性基を1個だけ有する成分を含んでいてもよいが、その場合には、架橋性成分における1分子当たりの平均の架橋性基の数が1.5以上となるようにするのが好ましい。
【0077】
架橋性成分がモノマーまたはオリゴマーである場合、架橋性成分はポリエポキシド類であることが好ましい。ポリエポキシド類とは、架橋性基としてエポキシ基を有し、硬化剤との反応により架橋性樹脂となる成分である。ポリエポキシド類の平均エポキシ基数は2以上であり、2〜10であることが好ましい。
【0078】
ポリエポキシド類としては、たとえば、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、およびグリシジルアミン化合物等のグリシジル化合物が挙げられる。なかでもグリシジルエーテル化合物が好ましく、脂肪族グリシジルエーテル化合物がより好ましい。グリシジルエーテル化合物としては、2官能以上のアルコールのグリシジルエーテルであることが好ましく、耐久性および防曇性能が良好になることから3官能以上のアルコールのグリシジルエーテルであることがより好ましい。また、これらのアルコールは、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、または糖アルコールであることが好ましい。
【0079】
これらのうちでも、特に防曇性能の良好な架橋性樹脂が得られることから、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等の、3個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル(1分子当たり平均のグリシジル基が2を超えるもの)が好ましい。
【0080】
その他の架橋性成分としては、ポリオキシアルキレンポリオールが挙げられ、より具体的にはオキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖を有するポリオールが好ましい。また、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物の少くとも1種を共重合された共重合体(具体的には特開2007−237728を参照)等を挙げることもできる。
CH=CR−COO−(CH−N ……(1)
CH=CR−COOR ……(2)
CH=CR−COOH ……(3)
(一般式中のR、R、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を、R、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアルキル基を、Rは炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜8のアルコキシアルキル基、アリール基、またはアリールアルキル基を、Xは1価アニオンを、mは1〜10の整数をそれぞれ表す。)
【0081】
上記架橋性成分の架橋反応は、3次元網目構造の架橋性樹脂を形成できればよく、ラジカル重合、イオン重合、重縮合反応、重付加反応等が挙げられる。架橋性成分としてポリエポキシド類を使用する場合は、イオン重合または重付加反応であるのが好ましい。それぞれの反応に適した硬化剤を使用することにより、基材の表面に強固な吸湿性架橋樹脂膜からなる防曇膜を形成できる。
【0082】
硬化剤としては、架橋性成分が有する架橋性基と反応し得る反応性基を有する化合物であり、架橋性成分と反応して3次元網目構造の架橋性樹脂を形成する化合物が挙げられる。
【0083】
硬化剤の反応性基は、硬化剤と組み合わせる架橋性成分の架橋性基の種類に応じ、該架橋性基と反応できる反応性基から選択される。硬化剤の反応性基としては、たとえば、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、水酸基、カルボキシ基、酸無水物基が挙げられる。架橋性成分の架橋性基がカルボキシ基の場合には、硬化剤の反応性基はアミノ基が好ましく、エポキシ基がより好ましい。架橋性成分の架橋性基が水酸基の場合には、硬化剤の反応性基はエポキシ基やイソシアネート基が好ましい。また、架橋性成分の架橋性基がエポキシ基の場合には、硬化剤の反応性基はカルボキシ基、アミノ基、酸無水物基、水酸基が好ましい。また、硬化剤1分子が有する反応性基の数は平均1.5個以上であり、高吸湿性架橋樹脂層4の形成には、2〜8個であることが好ましい。硬化剤の反応性基の数がこの範囲であれば、防曇性能と耐摩耗性とのバランスに優れた吸湿性架橋樹脂が得られる。
【0084】
上記硬化剤として、具体的には、ポリアミン系化合物、ポリカルボン酸系化合物(ポリカルボン酸無水物を含む)、ポリオール系化合物、ポリイソシアネート系化合物、ポリエポキシ系化合物が挙げられる。これら硬化剤は架橋性成分の架橋性基に応じて選択される。エポキシ基を有する架橋性成分の架橋に使用する硬化剤としては、前記化合物のなかでもポリアミン系化合物が好ましい。また、ポリアミン系化合物の第1の硬化剤と共に、第2の硬化剤としてポリオール系化合物やポリカルボン酸無水物等を併用することも好ましい。
【0085】
ポリアミン系化合物としては、脂肪族ポリアミン系化合物、脂環式ポリアミン系化合物が好ましい。具体的には、たとえば、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン、メタフェニレンジアミン、ポリプロピレングリコールポリアミン、ポリエチレングリコールポリアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンが挙げられる。
【0086】
ポリカルボン酸系化合物としては、たとえば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸が挙げられる。
【0087】
ポリオール系化合物としては、たとえば、多価アルコール−エチレンオキシド付加物、多価アルコール−プロピレンオキシド付加物、ポリエステルポリオール挙げられる。
【0088】
ポリイソシアネート系化合物としてはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが挙げられる。
【0089】
ポリエポキシ系化合物としては、たとえば、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、およびグリシジルアミン化合物等のグリシジル化合物が挙げられる。なかでもグリシジルエーテル化合物が好ましく、脂肪族グリシジルエーテル化合物がより好ましい。グリシジルエーテル化合物としては、2官能以上のアルコールのグリシジルエーテルであることが好ましく、耐久性および防曇性能が良好になることから3官能以上のアルコールのグリシジルエーテルであることがより好ましい。また、これらのアルコールは、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、または糖アルコールであることが好ましい。
【0090】
具体的には、たとえば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルが挙げられる。また、ここで「ポリ」とは平均して2を超えるものであることを示す。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0091】
架橋性成分に対する硬化剤の割合は、架橋性基と反応性基の数がほぼ等しくなる割合が適当であり、架橋性基に対する反応性基の当量比が0.8〜1.2程度になるのが好ましい。ただし、第2の硬化剤や、架橋性成分や硬化剤以外の、架橋反応系に共存する反応性化合物(例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤)が存在する場合は、それらを含めた相互に反応する反応性基の架橋性基に対する当量比を0.8〜1.2程度とするのが適当である。また、たとえ架橋性樹脂中に残存しても差し支えない架橋性基や反応性基であれば、該反応性基の、他の反応性基に対する割合はさらに多くてもよい。
【0092】
防曇膜を構成する架橋性樹脂膜は基本的には上記架橋性成分と硬化剤の反応物からなるが、任意成分としてカップリング剤、フィラー、レべリング剤等を含んでいてもよい。カップリング剤は基材と吸湿性架橋樹脂膜との密着性向上させる役割を果たす。カップリング剤としては、たとえば、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤が挙げられ、シラン系カップリング剤が好ましい。フィラーは形成される架橋性樹脂膜の機械的強度、耐熱性を高めることができ、また架橋反応時の樹脂の硬化収縮を低減できる。フィラーとしては、金属酸化物からなるフィラーが好ましい。金属酸化物としては、たとえば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアが挙げられ、なかでもシリカが好ましい。このようなフィラーとしては、スノーテックスIPA−ST(日産化学工業社製)等が挙げられる。また、レベリング剤は塗膜の厚さを均一にするために用いられる。レベリング剤としては、たとえば、シリコーン系レベリング剤、フッ素系レベリング剤、界面活性剤が挙げられ、なかでもシリコーン系レベリング剤が好ましい。
【0093】
基材表面への架橋性樹脂膜(防曇膜)の形成は、上記各成分を適宜溶剤を用いて希釈し得られた架橋性樹脂膜形成用の塗布液を基材表面に塗布し、必要に応じて乾燥を行った後、架橋性成分と硬化剤を反応硬化させることで行われる。本発明の塗布方法は、この架橋性樹脂膜形成用の塗布液を基材表面に塗布する工程に好適に用いられる方法である。
【0094】
上記架橋性樹脂膜形成用の塗布液作製に用いる溶剤としては、架橋性成分や硬化剤等の成分の溶解性が良好な溶剤であり、かつこれらの成分に対して不活性な溶剤であれば特に限定されない。具体的には、たとえば、アルコール類、酢酸エステル類、エーテル類、ケトン類、水が挙げられる。
【0095】
架橋性成分としてポリエポキシド類を使用する場合は、溶剤としてプロトン性溶剤を用いると、種類によっては溶剤とポリエポキシド類とが反応して架橋性樹脂が形成されにくい場合がある。したがって、プロトン性溶剤を使用する場合は、ポリエポキシド類と反応し難い溶剤を選択することが好ましい。使用可能なプロトン性溶剤としてはエタノールイソプロピルアルコールが挙げられる。また、溶剤としては、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、プロピレンカーボネート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジアセトンアルコール、ジオキサン、およびN−メチルピロリドンが好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0096】
なお、本発明の塗布方法による効果、すなわち、基材の大きさ、形状によらず、液歩留まりよく、塗膜を、特に膜厚の厚い場合においても透視歪み等のない均一な膜厚に形成することが可能であるという効果を、より大きく発揮させるためには、上記架橋性樹脂膜形成用の塗布液に用いる上記溶剤から、表面張力、蒸気圧、沸点等の物性を指標にしてより好ましいものを選択することが好ましい。
【0097】
例えば、架橋性成分としてポリエポキシド類を、硬化剤としてポリアミン系化合物を用いて、硬化後の最終膜厚が25μm以上の防曇膜を形成させる場合には、本発明の塗布方法における基材の傾斜角度や、回転速度等の条件等にもよるが、用いる溶剤の表面張力は、塗布性が良好であり、塗膜表面のムラを抑制できる観点から30〜45mN/mであることが好ましく、具体的には、35〜42mN/m程度とすることが好ましい。また、沸点および蒸気圧は、溶剤が塗布工程中に塗布液から適度に蒸発し、膜圧の均一性を保つことを可能とする範囲、具体的には、沸点が100〜200℃、蒸気圧が4〜30mmHg程度とすることが好ましい。
【0098】
このような溶剤として具体的には、ジオキサン、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジアセトンアルコール等から選ばれる1種または2種以上からなる溶剤であって、表面張力、蒸気圧、沸点等の物性が上記範囲にある溶剤が挙げられる。
【0099】
このようにして、本発明の塗布方法を基材上への防曇膜の作製に適用すれば、基材の大きさ、形状によらず、液歩留まりよく、塗膜を、特に膜厚の厚い場合においても透視歪み等のない均一な膜厚に形成することが可能である。
【0100】
なお、防曇膜を例として本発明の塗布方法について説明したが、本発明の塗布方法は防曇膜に限らず、同様に基材上への各種機能性膜の作製において、上記同様の効果を示すものである。
【0101】
<本発明の被膜付き基材>
本発明の被膜付き基材は、本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様または第4の態様による塗布方法を用いて得られる被膜付き基材であって、前記基材の塗布面を縦横
10cm毎に区切った各交点における被膜の膜厚について、全膜厚の標準偏差値が平均値の5〜20%であり、各膜厚と全膜厚の平均値との差の最大値が前記平均値の40%以下であることを特徴とする。
【0102】
上記本発明の塗布方法を用いて基材上に形成された被膜は、目視による透視歪みは抑えられているが、基材上に形成された被膜全体の膜厚を測定すると、汎用されるコート法であるスピンコート法やフローコート法とは傾向が異なるランダムな膜厚分布(ランダムに小山が存在する)が観測される。この膜厚分布の特徴を、上記基材の塗布面を縦横10cm毎に区切った各交点における被膜の膜厚について、全膜厚の標準偏差値の平均値に対する割合(百分率)および、各膜厚と全膜厚の平均値との差の最大値の前記平均値に対する割合(百分率)を指標として評価すると、上記範囲となる。
【0103】
本発明の塗布方法の利点は、実施例で具体的に示されるように、ある程度の膜厚分布がついていながらも透視歪みが発生しづらく、面内における機能(防曇性能等)を一定以上にできる点である。よって、この利点が発揮できる限りにおいては、上記基材の塗布面を縦横10cm毎に区切った各交点における被膜の膜厚について全膜厚の標準偏差値が、必ずしも平均値の5%以上でない場合が発生しうる。しかし、本発明の塗布方法を採用すれば、通常は5%以上になる。
一方、上記基材の塗布面を縦横10cm毎に区切った各交点における被膜の膜厚について全膜厚の標準偏差値が平均値の20%を越えると、透視歪みが目立ったり、防曇性能などの種々の機能の面内での均一性が損なわれるおそれがある。なお、この標準偏差値は好ましくは平均値の5〜16%であり、特に好ましくは10〜16%である。
また、前記と同様の理由によって、本発明においては各膜厚と全膜厚の平均値との差の最大値が前記平均値とほぼ同等の値を取りうる場合がある。一方、各膜厚と全膜厚の平均値との差の最大値が前記平均値の40%を越えると、透視歪みが目立ったり、防曇性能などの種々の機能の面内での均一性が損なわれるおそれがある。なお、この各膜厚と全膜厚の平均値との差の最大値が前記平均値の30%以下であることが好ましい。
【0104】
また、本発明の被膜付き基材における被膜の膜厚平均値としては、5〜60μmであることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。
このような、被膜厚の分布特徴を有する本発明の被膜付き基材は、均一な膜厚を有する、特に膜厚の厚い場合においても透視歪み等のない均一な膜厚を有する被膜付き基材である。
【実施例】
【0105】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。例1〜6において種々の防曇膜付き基材を作製し、以下の評価項目によって評価した。例1、例2、例4、例5は実施例であり、例3、例6は比較例である。なお、これらの例において、基材としては、300mm×300mmのソーダライムガラス板(旭硝子社製、通称クリアー)を用いた。
【0106】
[防曇膜付き基材の評価項目]
以下に、防曇膜付き基材の評価項目について記載する。
【0107】
1.膜厚
防曇膜付き基材を室温、相対湿度50%の環境下に1時間放置した後、触針式表面形状測定器(アルバック社製、商品名:DEKTAK3030)を用いて、膜厚段差を測定した。膜厚の測定は、基材上の防曇膜を縦横10cm毎に区切った各交点において行った。全測定数の平均値と標準偏差を求め、標準偏差の平均値に対する百分率(%)を算出し評価に用いた。また、各測定値と平均値の差を求め、その最大値の平均値に対する百分率(%)を算出し評価に用いた。
【0108】
2.防曇性能
300mm×300mmのガラス基板を用い、以下の例に従い得られた防曇膜付き基材を室温、相対湿度50%の環境下に1時間放置した。ついで、防曇膜付き基材の架橋性樹脂層表面を、40℃の温水浴上に翳し、曇りや水膜による歪みが認められるまでの防曇時間(分)を測定した。300mm×300mmのガラス基板を100mm×100mmの小区画に9分割し、それぞれの区画について1点ずつ防曇性能を測定し、平均値と最小値と最大値とによって評価した。なお、通常のガラス板は0.01〜0.08分で曇りを生じた。
【0109】
3.透視歪み
JIS R 3212(車内側)の透視歪み/二重像の評価方法に準拠して行った。
【0110】
[例1]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、ポリオキシアルキレントリアミン(三井化学ファイン社製、商品名:ジェファーミンT403)(15.98g)およびオルガノシリカゾル(日産化学社製、商品番号:NBAC−ST)(2.36g)を仕込み、10分間撹拌した。ついで、これにメチルエチルケトン(38.37g)を加え、1分間撹拌した後、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名:デナコールEX−313)(16.27g)と脂肪族ポリエポキシド(ナガセケムテックス社製、商品名:デナコールEX−1610)(19.59g)を加え、1時間撹拌した。その後、さらにN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業社製、商品番号:KBM602)(7.36g)を添加して1時間撹拌した。次に、これにポリオキシアルキレンアミノ変性ジメチルポリシロキサンコポリマー(日本ユニカー社製、商品番号:FZ−3789)(0.07g)を加えて20分間撹拌した。最後に、テトラヒドロフランとジオキサンとの混合溶剤(混合比テトラヒドロフラン:ジオキサン=1:9、容量比)(100g)を加え、10分間撹拌し、防曇剤組成物1を得た。なお、デナコールEX−1610のエポキシ官能基数は2以上である。
【0111】
研磨洗浄された清浄なガラス基板を水平面に対する角度が3度になるようにセッティングした。ついで、図2に示すようにガラス基板の上部中央の位置に防曇剤組成物1(30g)を滴下した後、ガラス基板を0.5回/秒で30秒間回転させてガラス基板表面に防曇剤組成物1を塗布し、110℃で1時間、乾燥、硬化させることによって、平均膜厚32μmの架橋樹脂層を有する防曇膜付き基材1を得た。この防曇膜付き基材1において上記方法で測定した全膜厚の標準偏差値は平均値の13.6%であり、各膜厚と全膜厚の平均値との差の最大値が前記平均値の30.5%であった。防曇膜付き基材1の防曇時間は、最小で2.8分、最大で4.3分、平均で3.0分、と優れた防曇性能を有していた。また、透視歪みと二重像を評価した結果、良好であることを確認した。防曇剤組成物の液歩留りは76質量%であった。なお、液歩留りとは、塗布に供した防曇剤組成物のうち、どれだけの量がガラス基板の塗布に利用されたかを表し、この値が大きいほど防曇剤組成物のロスが少ないことを意味する。
【0112】
[例2]
研磨洗浄された清浄なガラス基板を水平にセッティングし、例1と同様の防曇剤組成物1(30g)をガラス基板の中央部分に滴下した。ついで、このガラス基板を図1に示す(A1)の傾斜状態、(B1)の傾斜状態、(C1)の傾斜状態、(D1)の傾斜状態において傾斜角度をそれぞれ2度、2度、7度、10度ずつ、30秒間順番に傾けることによって、防曇剤組成物1をガラス基板の表面に塗り広げた。ついで、乾燥、硬化させることによって、平均膜厚28μmの架橋樹脂層を有する防曇膜付き基材2を得た。この防曇膜付き基材2において、上記方法で測定した全膜厚の標準偏差値は平均値の15.3%であり、各膜厚と全膜厚の平均値との差の最大値が前記平均値の38.6%であった。防曇膜付き基材2の防曇時間は、最小で2.4分、最大で4.0分、平均で2.7分、と優れた防曇性能を有していた。また、透視歪みと二重像を評価した結果、良好であることを確認した。防曇剤組成物の液歩留りは81質量%であった。
【0113】
[例3](スピンコート法)
研磨洗浄された清浄なガラス基板を水平にセッティングし、例1と同様の防曇剤組成物1(30g)をガラス基板の上側中央部に滴下した後、スピンコートで50rpmで20秒間基板を回転させながら塗布し、乾燥、硬化させることによって、平均膜厚22μmの架橋樹脂層を有する防曇膜付き基材3を得た。この防曇膜付き基材3において、上記方法で測定した全膜厚の標準偏差値は平均値の1.7%であり、各膜厚と全膜厚の平均値との差の最大値が前記平均値の4.2%であった。防曇膜付き基材3の防曇時間は、最小で1.8分、最大で2.5分、平均で2.1分、と優れた防曇性能を有していた。また、透視歪みと二重像を評価した結果、良好であることを確認した。防曇剤組成物の液歩留りは8質量%であった。
【0114】
[例4]
溶剤をNMP(N−メチルピロリドン)とした以外は、例1と同様にして防曇剤組成物6を得た。研磨洗浄された清浄なガラス基板に、防曇剤組成物6を例1と同様の方法で30秒間で塗布し、乾燥、硬化させることによって、平均膜厚32μmの架橋樹脂層を有する防曇膜付き基材6を得た。この防曇膜付き基材6において、上記方法で測定した全膜厚の標準偏差値は平均値の18.6%であり、各膜厚と全膜厚の平均値との差の最大値が前記平均値の36.5%であった。防曇膜付き基材6の防曇時間は、最小で1.5分、最大で3.9分、平均で2.8分、と優れた防曇性能を有していた。また、透視歪みと二重像を評価した結果、良好であることを確認した。防曇剤組成物の液歩留りは71質量%であった。
【0115】
[例5]
溶剤をDAA(ジアセトンアルコール)とした以外は、例1と同様にして防曇剤組成物7を得た。研磨洗浄された清浄なガラス基板に、防曇剤組成物7を例1と同様の方法で30秒間で塗布し、乾燥、硬化させることによって、平均膜厚30μmの架橋樹脂層を有する防曇膜付き基材7を得た。この防曇膜付き基材7において、上記方法で測定した全膜厚の標準偏差値は平均値の16.7%であり、各膜厚と全膜厚の平均値との差の最大値が前記平均値の32.4%であった。防曇膜付き基材7の防曇時間は、最小で1.9分、最大で3.6分、平均で2.7分と、優れた防曇性能を有していた。また、透視歪みと二重像を評価した結果、良好であることを確認した。防曇剤組成物の液歩留りは73質量%であった。
【0116】
[例6]
研磨洗浄された清浄なガラス基板を水平にセッティングし、防曇剤組成物1(80g)含ませた無埃クロスを用いて防曇剤組成物8を基板に塗布し、乾燥、焼成することによって、平均膜厚18μmの架橋樹脂層を有する防曇膜付き基材8を得た。この防曇膜付き基材8において、上記方法で測定した全膜厚の標準偏差値は平均値の32%であり、各膜厚と全膜厚の平均値との差の最大値が前記平均値の45%であった。防曇膜付き基材8の防曇時間は平均で1.8分であった。一方、最小の防曇時間は0.5分で、最大の防曇時間は2.8分であり、防曇性能が不均一であった。また、透視歪みと二重像を評価した結果、膜厚分布が不均一であることに起因する歪みがあり、視認性に問題があることを確認した。防曇剤組成物の液歩留りは58質量%であった。
【0117】
結果を表1に示した。また、上記方法で測定した全膜厚の標準偏差値の平均値に対する百分率(%、表では「STDEV/AVE(%)」で示す)および、各膜厚と全膜厚の平均値との差の最大値の前記平均値に対する百分率(%、表では「差の最大値(%)」で示す)をあわせて表1に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
この結果から、本発明の塗布方法で得られる防曇膜付き基材は、ある程度の膜厚分布がついていながらも透視ひずみが発生しづらい。ある程度の膜厚分布がついていながらも、最小防曇時間と平均防曇時間との差が小さく一定以上の防曇性能を発揮できることがわかる。また、防曇剤組成物の液歩留りが良好であり、防曇剤組成物を無駄なく利用できるため、製造工程の効率化にも寄与する。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の塗布方法によれば基材の大きさ、形状によらず、液歩留まりよく、塗膜を、特に膜厚の厚い場合においても透視歪み等のない均一な膜厚に形成することが可能であり、車両用ガラスや建築用ガラスへの防曇膜、断熱膜等の各種高機能被膜形成において有効である。
【符号の説明】
【0121】
1…基材、2…塗布面、3…塗布液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜形成用の塗布液を基材表面に塗布する方法であって、
重力方向に直交する基準面に、前記基材を、塗布面を上にして一致させ、所定量の塗布液を基材の塗布面中央部に供給する工程と、
前記基材の塗布面を、基準面に対して所定の角度傾斜させる工程と、
前記基材の傾斜面に沿って前記塗布液を流動させつつ、前記基材の傾斜の方向を、前記基材の塗布面中央部を軸として順次移動させて、前記塗布液を基材の塗布面全面に塗り広げる工程と
を有することを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
被膜形成用の塗布液を基材表面に塗布する方法であって、
重力方向に直交する基準面に、前記基材を、塗布面を上にして一致させ、所定量の塗布液を基材の塗布面中央部に供給する工程と、
前記基材の塗布面を、基準面に対して所定の角度傾斜させる工程と、
前記基材の傾斜面に沿って前記塗布液を流動させ、前記塗布液が前記傾斜面に沿って所定の距離だけ流動したところで、前記基材の塗布面中央部を軸として前記基材の傾斜の方向を所定の角度移動させる工程と、
前記基材の傾斜の方向を所定の角度移動させる工程を順次繰り返して、前記塗布液を基材の塗布面全面に塗り広げる工程と
を有することを特徴とする塗布方法。
【請求項3】
被膜形成用の塗布液を基材表面に塗布する方法であって、下記(1)および(2)の工程を有する塗布方法。
(1)重力方向に直交する基準面に、前記基材を、塗布面を上にして一致させ、所定量の塗布液を基材の塗布面中央部に供給する工程、
(2)前記(1)工程後、下記(A)〜(D)で示す前記基準面に対する前記基材塗布面の傾斜状態が(A)、(B)、(C)、(D)、(A)の順に連続的に繋がるように基材を揺動させる操作を1サイクルとして、または、前記1サイクルを複数回に区切った所定の傾斜状態で中断して一定時間保持する操作を繋げて前記1サイクルとして、前記サイクルを前記塗布液が基材塗布面を被覆し終わるまで繰り返し行う工程。
(A)基材塗布面の中心を通る基準面に水平な一方向をX方向とし、X方向に直交する方向をY方向とし、X方向における基材の一端をX1、他端をX2とし、Y方向における基材の一端をY1、他端をY2とした場合、
前記X方向についてX1が基準面に対して高く、前記サイクル中最高の位置となるように傾斜しており、前記Y方向について傾斜がない、
(B)前記X方向については傾斜がなく、前記Y方向についてY1が基準面に対して高く、前記サイクル中最高の位置となるように傾斜している、
(C)前記X方向についてX2が基準面に対して高く、前記サイクル中最高の位置となるように傾斜しており、前記Y方向について傾斜がない、
(D)前記X方向については傾斜がなく、前記Y方向についてY2が基準面に対して高く、前記サイクル中最高の位置となるように傾斜している。
【請求項4】
前記(A)点、(B)点、(C)点、および(D)点における前記基準面に対する基材塗布面の傾斜角度が、それぞれ独立して0°を超え15°以下である請求項3に記載の塗布方法。
【請求項5】
前記サイクルを10〜120秒/サイクルの速さで行う請求項3または4に記載の塗布方法。
【請求項6】
被膜形成用の塗布液を基材表面に塗布する方法であって、前記基材を塗布面を上にして前記塗布面が重力方向に直交する基準面に対して一定の傾斜角度をなすように設置し、塗布液を塗布面上の上側中央部に供給した後、前記一定の傾斜角度を保持しながら基材の塗布面中心で塗布面に直交する線を軸として基材を回転させることを特徴とする塗布液の塗布方法。
【請求項7】
前記一定の傾斜角度が0°を超え5°以下である請求項6に記載の塗布方法。
【請求項8】
前記基材の回転速度が1〜10秒/回である請求項6または7に記載の塗布方法。
【請求項9】
前記塗布液の表面張力が20〜35mN/mであり、塗布直後の塗膜の厚さが20〜60μmである請求項1〜8のいずれか1項に記載の塗布方法。
【請求項10】
前記被膜が防曇膜である請求項1〜9のいずれか1項に記載の塗布方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の塗布方法を用いて得られた被膜付き基材であって、前記基材の塗布面を縦横10cm毎に区切った各交点における被膜の膜厚について、全膜厚の標準偏差値が平均値の5〜20%であり、各膜厚と全膜厚の平均値との差の最大値が前記平均値の40%以下である被膜付き基材。
【請求項12】
前記被膜の膜厚平均値が5〜60μmである請求項11記載の被膜付き基材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−88082(P2011−88082A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244027(P2009−244027)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】