説明

塗布方法

【課題】50m/minを越える高速時においても安定的に膜厚精度の高い間欠形状を実現する塗布方法を見出すこと。
【解決手段】バックアップロールに巻きつけて搬送される金属箔からなる基材にダイヘッドの先端を近接させ、乾燥膜厚が100μm以上、塗工速度が50m/min以上で間欠状に電極用活物質層を形成する間欠塗工において、ダイヘッドをコーティングロールの重力方向最下部とコーティングロール中心とを結ぶ半径とダイヘッド先端の近接点とロール中心を結ぶ半径のなす角度を0°以上で15°以内の位置に設置することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池部材である活物質の塗布方法に関し、特に高速時にも、高膜厚で、精度の高い間欠塗工形状を実現する為の塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年リチウムイオン電池などの二次電池は需要の伸びが急激であり、製造コストを削減する為に、生産性向上を目指した塗布速度の高速化が期待されている。従来、リチウムイオン電池の活物質は間欠塗工と呼ばれる、塗液の送液のON,OFFを繰り返し、塗液を決められた形状に間欠的に塗工する塗布装置により形成されるが、ただベタ塗工するのとは異なり技術的に難度の高いものとなっている。
【0003】
その間欠形状は安全性や電池特性に直結する為、厳しい精度が要求されている。よってこれまで、その実現の為様々な工夫がなされてきた。例えば間欠形状は基本的に塗液の送液を断続的に行なうことで形成されるが、高い要求精度を実現するために、系内に設置したバルブを開閉させ、バルブの形状を工夫してバルブ開閉時の動圧による膜厚ムラを防ぐ間欠供給用バルブ、間欠塗布装置が開示されている(特許文献1)。
【0004】
一方では、ダイヘッド1自体を首振りさせることにより間欠形状を実現する塗工装置も開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】登録特許第3399881号公報
【特許文献2】登録特許第2997637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、バルブの形状の工夫やダイヘッドの首振り等の既知の対策だけでは高速時に対応できないことが分かった。そこで本願発明では電極用活物質層として必要な乾燥膜厚100μm以上という高い膜厚で、しかも50m/minを越える高速時においても安定的に膜厚精度の高い間欠形状を実現する塗布方法を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、バックアップロールに巻きつけて搬送される金属箔からなる基材にダイヘッドの先端を近接させ、乾燥膜厚が100μm以上、塗工速度が50m/min以上で間欠状に電極用活物質層を形成する間欠塗布方法において、ダイヘッドをコーティングロールの重力方向最下部とコーティングロール中心とを結ぶ半径と、ダイヘッド先端の近接点とロール中心を結ぶ半径とのなす角度を重力方向最下部から進行方向下流側に向けて0°以上で15°以内の位置に設置することを特徴とする塗布方法である。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、前記ダイヘッドの先端が少なくともタングステンカーバイドを主成分とした超硬材料で構成されていることを特徴とする請求項1記載の塗布方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗布方法は以上のような構成であるので、金属からなる基材上に乾燥膜厚が100μm以上で、50m/minを超える塗工高速で、安定的に膜厚精度の高い間欠塗工形状を塗布することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のダイヘッド設置位置を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ダイヘッド1は図1に示すようにコーティングロール2に巻かれるように搬送される金属箔からなる基材3に対して、対向する位置に設置されている。ダイヘッド1を用いる塗布方法は塗液の材質・形状によらず本発明は有効であるが、塗液となる電極活物質は一般的に無機物質のスラリー形状をしている為、通常のステンレス素材では磨耗が激しい。そこで特に塗液と接する部分についてはタングステンカーバイトを主成分とする超硬材料を使用して構成していることが望ましい。
【0012】
ダイヘッド1は二つのブロックを組み合わせて締結ボルトで締結する形で組み立てられている。その構成として送液されてくる塗液が一時的に溜められるマニホールド部と細い間隙を吐出させるためのスリット部から構成される。塗布幅方向の膜厚分布などの最適化のためにこれらの要素は設計されるが、本発明の効果はこれらの要素に依存せずに有効である。
【0013】
コーティングロール2に対向するダイヘッド1の付帯設備としてダイヘッド1先端に形成されるビード部の圧力を制御する図示しない減圧装置を設けることもある。本発明は間欠形状をいかに正確に形成できるかが目的である為、これらの付帯設備に本発明の効果が影響されることはない。
【0014】
ダイヘッド1の設置位置であるが、コーティングロール2の円周上の重力方向最下部の位置を基準として、コーティングロール中心とを結ぶ半径を基準半径4とする。一方でダイヘッド先端のコーティングロール2と近接する部分とコーティングロール中心を結ぶ塗布点に対する半径5が基準半径4となす角度で定義し、これをダイヘッド設置位置角度6とする。
【0015】
本発明は設置位置の違いによって、同じバルブ開閉に対しても達成できる間欠形状の精度が影響されるため、設置確度を規定するものである。好ましくは15°以内の位置である。15°を超えた位置に設置すると塗布開始時の厚塗りが発生しやすいことが分かった。また基材の進行方向上流側に移動させた場合は一旦コーティングロールの最下部を通過する為に、厚塗り部の液ダレが発生しやすい傾向にある。よって上記範囲内でダイヘッドの先端部をコーティングロール2に近接させる必要がある。
【0016】
リチウムイオン電池の活物質は正極と負極と存在するが、本発明の効果は塗液の性状には依存しない為、どちらの塗液でも有効である。また基材もそれぞれの極によって使用される金属箔が異なるが、特にそれらには依存しない。
【0017】
金属箔としては負極の集電体として銅箔が、正極の集電体としてアルミ箔が使用されるが、本発明はいかなる金属箔で、いかなる製法で製造されたものでも有効である。
【0018】
塗布速度について本発明は低速時も高速時も遍く有効であるが、特に高速時は求められる精度に対する達成せねばならない難易度が上がるために、より本発明が有効であると言える。そのしきい値は50m/min以上の高速時により明確になる。
【0019】
使用される用途に応じて電極シートに塗布される活物質の膜厚は様々であるが、本発明はいかなる厚みに対しても有効である。特に厚膜の場合は厚塗りが発生し、乾燥膜厚10
0μmを閾値として急激に厚塗りが発生してしまうが、本発明により、厚塗りの発生が抑えられる。
【0020】
ダイヘッドに塗液を送り込む部位には図示しない間欠形状を成立させる為のバルブユニットが設置してある。基本的には送液を止めるストップバルブと、一瞬塗液の逆流を引き起こし送液の停止を確実にするためのサックバックバルブが必須である。
【0021】
また送液の再開時の系内圧力の安定性を高める為にリリーフバルブを設置することもよくあり、前述のストップバルブ、サックバックバルブ、リリーフバルブ等のバルブをいくつか構成したものをバルブユニットと呼んでいる。
【0022】
これらのバルブユニット単体では十分な効果が得られなかった為、本発明に至っている。しかしこのバルブユニットに対して工夫を施し、本発明と組み合わせることを限定するものではない。
【0023】
バルブユニットの上流には塗液を送り込むポンプが存在している。ポンプは脈動を減らして一定流量送るものであれば何でも良い。
【実施例】
【0024】
幅500mmの厚み25μmの銅箔を基材とし、幅490mmのエクストルージョン型のダイヘッドを用いて、リチウムイオン電池用負極の活物質であるカーボンを分散材を使用して水中に分散した塗液を乾燥膜厚100μmになるように塗工した。その時塗工部の基材進行方向の長さを20cm、未塗工部の長さを1cmとした。このときダイヘッドの設置位置は図1に示す定義に従いその中心角を変化させて実施した。その塗工したサンプルの基材の走行方向の膜厚分布を接触型膜厚計で測定して、一番厚い部分の100μmに対する割合で厚塗り率を求めた。
【0025】
結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
設置角度を15°以内にしたものは低速から目標とする50m/min以上である実施例1の60m/minや実施例2の80m/minでも厚塗り率が125%であった。一方、設置角度を15°大きくすると膜厚が厚くなり、比較例として示した設置角度15°以上においては、目標速度より遅い40m/minの低速でも厚塗り率が130%となってしまい、目標とする50m/min以上である60m/min実施例5で厚塗り率が150%となってしまい、さらに80m/minでは厚塗り率が170%となってしまう。設置角度を15°より小さくすとすることにより、厚塗り率を抑えることができた。
【0028】
高速時において厚塗り率が極端に悪化することがわかり、それを防ぐ為にダイヘッドの設置位置を0°より大きく、15°より小さくすることが効果的であることが示された。
【符号の説明】
【0029】
1・・・ダイヘッド
2・・・コーティングロール
3・・・金属箔からなる基材
4・・・基準半径
5・・・塗工点に対する半径
6・・・ダイヘッド設置位置角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックアップロールに巻きつけて搬送される金属箔からなる基材にダイヘッドの先端を近接させ、乾燥膜厚が100μm以上、塗工速度が50m/min以上で間欠状に電極用活物質層を形成する間欠塗布方法において、ダイヘッドをコーティングロールの重力方向最下部とコーティングロール中心とを結ぶ半径と、ダイヘッド先端の近接点とロール中心を結ぶ半径とのなす角度を重力方向最下部から進行方向下流側に向けて0°以上で15°以内の位置に設置することを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
前記ダイヘッドの先端が少なくともタングステンカーバイドを主成分とした超硬材料で構成されていることを特徴とする請求項1記載の塗布方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−156490(P2011−156490A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21053(P2010−21053)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】