説明

塗布液の塗布方法および塗布液塗布基板

【課題】簡便な方法でかつ短時間で均一な厚みの機能性被膜が形成できる手段、特に、機能性被膜が吸水性を有するウレタン樹脂でなる場合の成膜方法の提供を課題とする。
【解決手段】平坦な基板にノズルを用いて塗布液を供給し、ノズルから塗布液を基板上に流出させて塗布する塗膜方法において、塗布液が水平に保持された基板上に、ノズルの移動あるいは基板の移動により、平行線状に塗布され、塗布液の塗布開始から塗布液の乾燥処理までの間に、基板を微振動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目視的な観察下におかれやすい窓用又は鏡用若しくは間仕切り用基板上に機能性被膜を均一な厚みで効率的に成膜する技術に関し、特に、塗布液を基板に塗布して得られるウレタン樹脂よりなる被膜を有する吸水性物品の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス等の基板に機能を付与する手段の一つとして、基板上に機能性被膜が形成される。目視的な観察下におかれやすい窓用又は鏡用若しくは間仕切り用基板では、透視像歪や反射像歪が大きくならないように被膜を形成する必要がある。
【0003】
機能性被膜を形成する塗布液の塗布方法としては、ディップ法、スピン法、手塗り、スプレーコーティング等が挙げられる。塗布液の塗布工程において、塗布液の状態や塗布方法の影響により、塗布液が基板全面に塗り広げられなかった液切れ欠陥や被膜の表層部に目視的に観察されうる膜ムラ欠陥(凹凸状の膜ムラ)が生じることがある。これら液切れ欠陥や膜ムラ欠陥は、目視的な観察下におかれやすい窓用又は鏡用若しくは間仕切り用基板では、回避されるべき塗布欠陥として扱われる。
【0004】
基板に塗布液を塗布し、乾燥工程等を得て基板上にウレタン樹脂よりなる吸水性を有する機能性被膜を形成させてなる吸水性物品が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。
【0005】
特許文献1での吸水性物品は、被膜の形成がなければ物品が曇る環境であったとしても、被膜の吸水性を活用することで物品の曇りを抑制し、物品の透視性を確保せしめる。
【0006】
従来から、平板状の基板への塗布方法として、ノズルから塗布液を供給することで、基板に塗布液を塗布する方法が提案されている。特許文献3及び4は、2個以上並んだノズルの開口部から、1〜1000Pa・sの高粘度塗布液を水平に搬送された基板に供給して塗布する方法を開示している。また、特許文献5は、回転するディスク状基板上に複数のノズルから塗布液を基板に供給することで、基板に単位面積当たり均一な量の塗布液を塗布し、次いで基板上に塗布された塗布液をレベリング作用によって平坦化させて被膜を得る方法を開示している。
【特許文献1】特表昭63−500590号公報
【特許文献2】特開2007−76999号公報
【特許文献3】特開2001−137760号公報
【特許文献4】特開2001―137761号公報
【特許文献5】特開2004−73969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
機能性被膜の形成が、塗布液を基板にノズルを用いて供給してなる場合、機能性被膜を厚く形成しようとすると、塗布液中の固形分濃度を高くする必要があり、これに伴って塗布液の粘度が増大し、被膜が平坦化しにくくなるため、均一な膜厚の機能性被膜の形成が困難となる。
【0008】
機能性被膜が吸水性を有するウレタン樹脂を得る場合に、塗布液を基板にノズルを用いて供給して、例えば、5〜100μmの厚い被膜を得ようとすると、塗布液の固形分濃度は5〜40重量%に調製する必要があり、塗布液に用いる溶媒の種類にもよるが、粘度は例えば、4mPa・s程度となる。平坦な基板にノズルを用いて塗布液を供給し、ノズルから塗布液を基板上に流出させて塗布する塗膜方法において、塗布液の粘度が4mPa・s程度になると基板上での塗布液の塗れ広がり性が悪く、平滑化する前に塗布液が乾燥して、塗布液が基材全面に十分に濡れ広がらなかったことによる液切れ欠陥や膜表面が凹凸状の歪む膜ムラ欠陥が起こる。
【0009】
また、固形分濃度が高い塗布液は、塗布液の経時変化が進行し易く、短時間で塗布液の粘度上昇が起こり易く、液切れ欠陥や膜ムラ欠陥の発生に繋がる。このような欠陥は、生産歩留まりの低下はもちろんのこと、膜欠陥の発生を回避して所期の品質を得るためには、例えば、数時間毎に塗布液の調合が必要になるなど、生産管理が極めて煩雑なものとなる。
【0010】
本発明は、これらの問題を鑑み、簡便な方法でかつ短時間で均一な厚みの機能性被膜が形成できる手段の提供を課題とし、特に、機能性被膜が吸水性を有するウレタン樹脂でなる場合の成膜方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、塗布液の塗布開始から塗布液の乾燥処理までの間に基板に対して、超音波などによって与えられる微振動によって塗布液の塗り広がり性(レベリング性)を強制的に促進させ、液切れ欠陥や膜ムラ欠陥の抑制を図るものである。
すなわち、本発明の塗布液の塗布方法は、平坦な基板にノズルを用いて塗布液を供給し、ノズルから塗布液を基板上に流出させて塗布する塗膜方法において、塗布液が水平に保持された基板上に、ノズルの移動あるいは基板の移動により、平行線状に塗布され、塗布液の塗布開始から塗布液の乾燥処理までの間に、基板を微振動させることを特徴とする塗布液の塗布方法である。
【0012】
また、本発明の塗布液の塗布方法は、前記塗布液の塗布方法において、塗布液がポリイソシアネートと、エチレンオキサイドを有するポリオール及び疎水性ポリオールとが混合されてなる固形分と溶媒とを有し、塗布液の粘度を1〜5mPa・sとなるように調整されてなることを特徴とする塗布液の塗布方法である。
【0013】
また、本発明の塗布液の塗布方法は、前記塗布液の塗布方法において、前記溶媒がメチルエチルケトンを有し、溶媒中のメチルエチルケトンの含有量が80質量%以上有することを特徴とする塗布液の塗布方法である。
【0014】
また、本発明の塗布液の塗布方法は、前記塗布液の塗布方法において、塗布液中の固形分濃度を5〜35質量%とすることを特徴とする塗布液の塗布方法である。
【0015】
また、本発明の塗布液の塗布方法は、前記塗布液の塗布方法において、ノズル内の塗布液の水分量を1000ppm以下に調整することを特徴とする塗布液の塗布方法である。
【0016】
また、本発明の塗布液の塗布方法は、前記塗布液の塗布方法において、塗布液が界面活性剤を有し、該界面活性剤が固形分に対して0.007〜0.0001倍量であることを特徴とする塗布液の塗布方法である。
【0017】
また、本発明の塗布液塗布基板は、前記塗布液の塗布方法によってガラスに塗布液が塗布されてなることを特徴とする塗布液塗布基板である。
【0018】
また、本発明の塗布液塗布基板は、前記塗布液塗布基板において、塗布液塗布基板が吸水性物品として用いられることを特徴とする塗布液塗布基板である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の塗布液の塗布方法は、厚い機能性被膜を形成する方法を提供することを可能にし、特に、機能性被膜を吸水性のウレタン樹脂とすることによって、高性能の吸水性物品の提供を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の塗布液の塗布方法は、基板に液状の塗布液をノズルから滴下し、膜厚の厚いと膜を得るための塗布方法であり、特に、吸水性を有するウレタン樹脂よりなる被膜を有する吸水性物品が、効率的に得られる塗布方法を提供する。
【0021】
本発明の基板への塗布液の塗布方法は、基板の洗浄工程、塗布液の基板への塗布工程、塗布液が塗布された基板の乾燥工程からなる塗布液塗布基板の作製の中の、塗布液の塗布工程に係る発明である。
【0022】
図1、2に示すように、液体でなる塗布液3は、ノズル6を用いて基板4に滴下される。
【0023】
基板4は塗布面が水平となるように支持され、基板4を水平に移動して、塗布の開始と終了を電磁弁2で制御して行うことが好ましい。
【0024】
基板4は、図1、2のように、ロールコンベアで搬送されることが好ましいが、ベルトコンベアを使用してもよい。基板4の搬送速度は、0.2〜1.4m/s、好ましくは0.2〜0.8m/sとすることが好ましい。0.2m/s未満では、生産タクトが遅くなりコスト高となりやすく、1.4m/s超では、塗膜部近傍での空気の巻き込みにより、膜品質に悪影響(例えば、膜ムラになり平坦度が損なわれる)を及ぼす場合がある。
【0025】
ノズル6からの塗布液5の流量はノズル1本あたりに0.5〜5g/秒、好ましくは1〜3g/秒、より好ましくは、1.5〜2.5g/秒とすることが好ましい。
【0026】
ノズル6からの塗布液の流量調整のために、ノズル6の先端の開口部(ニードル径)は、0.5〜3mm、好ましくは0.8〜2.5mmのものとすることが好ましい。0.5mm未満では、流量が小さくなりすぎるため、目標の流量が得にくくなる。また、3mm超では、流量が大きくなりすぎ給液停止時の液止まりが悪くなりやすい。
【0027】
また、ノズル6の先端と基板4との距離は、5〜150mm、好ましくは10〜60mmとすることが好ましい。5mm未満では、基板が搬送機構により搬送される際にノズルと接触して膜品質を低下する恐れがあり、150mm超では、基板に塗布液をフローした際に液の飛び散りの原因となりやすい。ノズル6、及び電磁弁5は、市中から入手できるものを使用してよく、ノズル6は、汎用的に使用されているSUS304製、SUS316製のもの等を使用してもよい。
【0028】
さらにノズル6間の距離は、一定間隔とすることが好ましく、各ノズル6の軸間が5〜100mm、好ましくは10〜60mm、より好ましくは15〜35mmとすることが好ましい。
【0029】
ノズルへの塗布液の供給は、塗布液供給管1と圧力ポンプ(図示せず)とを用いて行うことが好ましく、塗布液の流量調整のために、塗布液3のノズル6からの給液時の吐出圧力を0.005〜0.3MPa、好ましくは0.01〜0.2MPa、より好ましくは0.02〜0.1MPaに調整することが好ましい。
【0030】
基板4に塗布された塗布液5は、図3に示すような形状の変化が生じ、図3の(A)のように、塗布後の塗布液が離れている状態から、図3(B)のように、塗布液が自然に基板上に広がって隣同士の塗布液が重なり、塗布液を塗布した基板を乾燥工程で処理する前に、図3(C)のような、塗布液の厚みが均一化した状態になっていることが望ましい。
【0031】
塗布液の厚みは、乾燥工程で処理される前に、均一な厚みになっていないと、基板に形成される塗布膜の機能に、厚みの不均一に拠るバラツキが生じたり、またガラス板などのような透明性を有する基板に透明な塗布膜を形成する場合には、透視像が歪むなどの欠陥となってしまう。
【0032】
吸水性の機能を有する膜のように、できるだけ厚い塗布膜の厚みを要求するような場合、塗布液の固形分濃度を高くすると、一度の塗布で所定の厚みの塗布膜が形成できるようになるので、塗布液の固形分濃度をできるだけ高くすることが望ましい。
【0033】
しかしながら、塗布液の固形分濃度を高くすると、粘度の上昇によって塗布膜が完全に平滑化しなかったり、また、塗布された塗布液の厚みが図3の(C)のような均一の厚みとなる状態になるのに長時間を要し、生産性が悪くなる。
【0034】
このため、本発明の塗布方法では、微振動を基板に与えることによって、塗布液の平坦化に要する時間を短縮することができるので、生産性が向上すると共に濃度の高い塗布液に対しても平坦化が充分になされることが可能となる。
【0035】
塗布液を塗布する工程において、基板に振動を与え、塗布液の厚みが均一になる図3の(A)から(C)への変化を促進させることが望ましい。
【0036】
塗布液が塗布される基板は、図4に示すように、振動板8の上に基板4を載置して、基板の裏側から基板の面と垂直な方向に振動を与える方法が好ましい。また、基板に対して少なくとも一つの側面から基板の面と平行な方向に振動を付与してもよい。
【0037】
振動板8は、振動板8に取り付けられた、図示しない振動子によって、振動させるものであり、振動子としては、超音波振動子やコーン型スピーカなどの音波領域の振動源を用いることができる。30HZ以下の低周波では、十分な振動が得られず、濃度の高い塗布液に対する平坦化が十分に得られないので好ましくない。より好ましい態様としては、塗布液が乾燥して流動性を失う前に速やかに振動させることが望ましいため、高速で微小な振動を与えることができる周波数が20KHz以上の超音波振動子を用いて、できるだけ短時間に十分な振動を与えて平坦化させることが好ましい。
【0038】
また、塗布液が塗布される基板は、塗布液の塗布開始から乾燥工程で処理されるまでの時間内で、適当に選択した時間で、振動させ、好ましい態様としては、塗布液を基板に塗布した直後に、10秒〜30秒程度の短時間で処理する。また、振動板8に載置した基板4を移動しながら、固定されているノズルより塗布液を基板に適下すれば、振動中の基板に塗布することができる。また、振動板8の上に水平に載置された基板4を水平に保持し、塗布液を適下するノズルを移動して、塗布液を基板に塗布してもよい。また、塗布液を適下した基板4を、振動板8の上に載置して水平に保ち、基板4を振動させてもよい。
【0039】
基板4は、好適には、ガラスによる基板とすることが好ましく、ソーダ石灰ケイ酸塩ガラスや、無アルカリガラス、硼ケイ酸塩ガラス等からなるものを使用でき、自動車用、建築用、及び産業用ガラス等に通常用いられている板ガラスで、フロート法、デュープレックス法、ロールアウト法等に製造されるものを使用することが特に好ましい。ガラス種としては、クリアガラス、グリーンガラス、ブロンズガラス等の各種着色ガラスやUV、IRカットガラス、電磁遮蔽ガラス等の各種機能性ガラス、網入りガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス等防火ガラスに供し得るガラス、風冷強化ガラス、化学強化ガラス、合わせガラス等を使用できる。
【0040】
基板4としてガラスを使用する場合、基板面にシランカップリング剤からなるプライマー層を形成させてもよい。好ましいシランカップリング剤としてはアミノシラン、メルカプトシラン及びエポキシシランが挙げられる。好ましいのはγ−グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等である。
【0041】
また、ガラスによる基板以外には、アクリルやポリカーボネート等のプラスチック製の基板としてもよい。基板4の板厚は特に制限されないが、0.1mm以上10mm以下が好ましく、特には0.2mm以上5.0mm以下が好ましい。
【0042】
前記塗布方法は、塗布液を用いて、厚い塗布膜を基板に形成するのに適した塗布方法であり、このような塗布方法によって塗布される液としては、例えば、ポリイソシアネートと、エチレンオキサイドを有するポリオール及び疎水性ポリオールとが混合されてなる固形分と溶媒とを有する塗布液の塗布に、好適に用いることができる。
【0043】
前記塗布液中の固形分は、厚い膜厚の被膜(例えば、5〜100μm、好ましくは5〜60μm、より好ましくは10〜50μm)を効率良く得ようとする場合には、好ましくは10〜35質量%、より好ましくは15〜30質量%とするとよい。
【0044】
水平に搬送される基板(好ましくは平板状基板、より好ましくは矩形状の平板状基板)面の上方に配置されたノズルから連続的に塗布液が適下される塗布液の粘度を1〜5mPa・s、好ましく1〜3mPa・sと調整し、ノズル間隔をノズルの軸間距離を100mm以内で調整することで、基板上の塗布された塗布液が、図3のような塗布液の平坦化に奏功する。
【0045】
塗布液の粘度は、厚い膜厚の被膜表面の平坦度を良くすることに主として作用する。5mPa・s超では、塗布液を基板上に塗布して、基板に微振動を加えた際に、塗布液のレベリング作用が低くなる傾向があり、結果、被膜表面の平坦度を低下させることに繋がりやすい。他方、1mPa・s未満では、基板に塗布された塗布液が基板の裏側に廻り込みやすく物品の外観品質の低下に繋がりやすく好ましくない。
【0046】
上記した塗布液の粘度は、周囲の温度環境によっても調整されえる。塗布液の粘度を1〜5mPa・sに調整しやすくするためにも、周囲の温度は、20〜30℃、好ましくは、21〜27℃、さらに好ましくは、23〜25℃とし、塗布液及び塗布液が塗布される基板の温度を一定条件に調整しておくことが好ましい。
【0047】
また、塗布液の粘度を1〜5mPa・sに調整しやすくする方法として、前記溶媒がメチルエチルケトンを有し、溶媒中のメチルエチルケトンの含有量が80質量%以上有するものとすることが好ましい。メチルエチルケトンは、粘度が0.4mPa・s(20℃)と低く、これを主として含むものを溶媒とすると、固形分を多く含んだ塗布液の粘度を1〜5mPa・sに調整しやすく好ましい。
【0048】
液体物質は、粘度が低い物質ほど揮発しやすい傾向がある。揮発しやすい物質を溶媒として使用すると、塗布液を基材に塗布した後に溶媒が基材上に保持される時間が短くなり、塗布された塗布液がレベリングされるのに十分な時間が得にくくなる。また、経時による塗布液の固形分濃度の変動が起こりやすく、塗布液の管理も煩雑なものとなりやすい。また、揮発されにくいという条件だけで、溶媒を選定すると、塗布液の粘度を増大させることにつながるので、塗布液を基材に塗布したときに塗布液が塗り広がりにくくなり、表面が平坦な塗膜を得ることが難しくなる。メチルエチルケトンは、粘度が比較的低いにもかかわらず、大気圧下で沸点が80℃と比較的高いので、他の粘度の低い液体物質と比べて、塗布液の固形分濃度の変動が起こりにくい。また、塗布液が基材に塗布された後の溶媒の蒸発が、例えば、塗布環境が20〜30℃の場合でも達成される。これは、塗布液がレベリングされるのに十分な時間を確保しながらであるので、吸水性物品を効率的に生産せしめるためには、溶媒中のメチルエチルケトンの含有量が80質量%以上有するものとすることが好ましい。
【0049】
さらに、本発明の吸水性物品の製法においては、ノズル内の塗布液の水分量を1000ppm以下、好ましくは900ppm、より好ましく800ppm以下に調整することが好ましい。水分量の下限は、特には限定されないが、生産コストを考慮し、100ppm以上、より好ましくは200ppmとしても良い。
【0050】
水分量の調整は、塗布液中のポリイソシアネートと水とが反応して、樹脂化しない不純物を少なくして、より外観品質の優れる吸水性物品を得るために実施した方が好ましいものである。さらに、樹脂化しない不純物を少なくすることは、原料の無駄を少なくするとの観点から好ましいものでもある。
【0051】
塗布液の水分量を調整する方法としては、基板に塗布液を塗布する環境の相対湿度を60〜10%RH、好ましくは55〜30%RH、より好ましくは50〜35%RHに調湿することが好ましい。
【0052】
またさらには、塗布液が界面活性剤を有し、該界面活性剤が固形分に対して、質量比で0.007〜0.0001倍量、好ましくは0.005〜0.001倍量とすることが好ましい。界面活性剤を添加することで、塗布液の厚みが均一化しやすくなり好ましい。界面活性剤の含有量を多くすると得られる被膜の品質が、界面活性剤によって影響され、吸水性物品本来の特性が発揮し難くなることがある。他方、界面活性剤の含有量が少ない場合、塗布液の厚みを均一化する効果が小さいので、得られる被膜の品質が界面活性剤によって影響されるかもしれないことを考慮すると、前記した範囲に調整することが好ましい。
【0053】
ウレタン樹脂よりなる吸水性を有する被膜は、ポリオキシアルキレン鎖を含んだウレタン樹脂を有する被膜が使用されることが好ましい。ウレタン樹脂は、ウレタン特有の弾性を有しているので、他の樹脂と比べて、耐磨耗性に優れているからである。経済性を考慮すると被膜は、樹脂単独とすることが好ましい。
【0054】
また、物品の曇りを抑制し、物品の透視性を確保せしめるために、被膜の吸水率を20〜40質量%としたときには、5〜100μm程度の比較的厚い膜厚の被膜とすることが好ましい。
【0055】
ウレタン樹脂は、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られ、ポリオールを適宜選択することで被膜の機能を設定でき、ポリイソシアネート、ポリオール、及びその他の化学種、及び/又はそれらの反応物を有する塗布液を基板に塗布し、硬化させることで被膜が得られる。
【0056】
前記ポリイソシアネートには、ジイソシアネート、好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネートを出発原料としたビウレット及び/又はイソシアヌレート構造を有する3官能のポリイソシアネートを使用できる。当該物質は、耐候性、耐薬品性、耐熱性があり、特に耐候性に対して有効である。又、当該物質以外にも、ジイソフォロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ビス(メチルシクロヘキシル)ジイソシアネート及びトルエンジイソシアネート等も使用することができる。
【0057】
前記ポリイソシアネートのイソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数は、ポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、1倍量〜3倍量、より好ましくは1.2倍量〜2.5倍量となるように調整することが好ましい。1倍量未満の場合は、塗布剤の硬化性が悪化するとともに、形成された膜は軟らかく、耐候性、耐溶剤性、耐薬品性等の耐久性が低下する。一方、3倍量を超える場合は、過剰硬化により、被膜の製造が困難になりやすい。
【0058】
ポリオキシアルキレン鎖を含んだウレタン樹脂とするためのポリオールとして使用されるポリオキシアルキレン系ポリオールのような吸水性ポリオールは、分子内の水酸基がイソシアネートプレポリマーのイソシアネート基と反応してウレタン結合を生じ、ウレタン樹脂に吸水性の性状を導入することができる。
【0059】
吸水飽和時の被膜の吸水率が、好適には15質量%以上となるように、吸水性ポリオールの使用量を調整し、被膜中の吸水性ポリオール由来の吸水成分量を調整する。該吸水性成分は、オキシアルキレン系のポリオール由来のものを使用でき、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖等を有することが好ましく、吸水性に優れるオキシエチレン鎖を有するポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0060】
ポリエチレングリコールを使用する場合は、吸水性と得られる被膜の強度を考慮し、数平均分子量を400〜2000とすることが好ましい。
【0061】
また、疎水性ポリオールは、被膜の耐水性及び耐摩耗性を向上させることができ、さらに被膜内の網目構造を確保し、水を吸収したオキシエチレン鎖から水を放出するときの水の経路が明確になり、被膜への吸水と脱水がスムーズすることができる。前記疎水性ポリオールにはアクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオールであることが好ましい。
【0062】
アクリルポリオールの場合、可撓性と耐擦傷性の両方を併せ持ち、被膜の吸水性の機能を低下させにくく、結果、被膜の耐水性及び耐摩耗性を向上させることができる。これに加え、アクリルポリオールは、被膜を形成するための塗布液を基板に塗布した際の膜厚偏差を均一化するレベリング工程を短縮化させるやすい。従って、平坦な膜表面を得るためにはこのアクリルポリオールを使用することが好ましい。
【0063】
前記ポリオキシアルキレン系ポリオール及び前記疎水性ポリオールとの比は、被膜は吸水率が10〜40質量%となるように調整される。例えば、ポリエチレングリコールとアクリルポリオールの場合、質量比で「ポリエチレングリコール:アクリルポリオール=50:50〜70:30」となる成分比とすることが好ましい。
【0064】
疎水性ポリオール由来の疎水成分は、被膜の吸水率が上記した範囲となるように導入し、好ましくは、「JIS K5600(1999年)」に準拠して得られる被膜の鉛筆硬度が被膜の吸水飽和時において、HB乃至Hとなるように導入することが好ましい。これは、被膜の硬度が低いと、被膜の清掃等のための払拭作業性が難しくなるためである。
【0065】
また、前記した清掃等の払拭作業性を考慮すると、両側末端にイソシアネート基と反応可能な官能基を有する直鎖状ポリジメチルシロキサンを被膜中に導入することができる。被膜中に好適に導入される直鎖状ポリジメチルシロキサンは、被膜を形成する樹脂中の架橋単位として導入することができる。
【0066】
該イソシアネート基と反応可能な官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、スルフィノ基、スルホ基等の電気陰性度の大きな酸素、窒素、硫黄に結合した活性水素を含む官能基を使用することができる。この中で、取扱いの容易さ、塗布剤としたときのポットライフ、得られる被膜の耐久性を考慮すると、イソシアネート基と反応可能な官能基としてはヒドロキシ基を使用することが好ましい。
【0067】
また、塗布液のレベリング性を向上させるために導入される界面活性剤は、シリコーン系界面活性剤、アクリル系界面活性剤等を使用することが好ましい。
【0068】
尚、本発明での述べてきた被膜の吸水率は、次の方法によって測定されたものとして定義される。『相対湿度50%RH、温度55℃の環境で12時間保持後、同湿度にて温度25℃の環境で12時間保持したときの被膜が形成された物品の質量(a)を測定し、被膜に43℃飽和水蒸気を5分間接触させ、その後、すぐに被膜表面の水膜を払拭後に物品の質量(b)を測定し、[b−a]/[a−(ガラス板の質量)]×100(%)の計算式で得られた値を吸水飽和時の吸水率とした。即ち、吸水率は被膜の質量に対する吸水可能な水分量を質量百分率で表したものである。尚、ここでの(a)値は、被膜が吸水していない状態のものに相当する。』
【実施例】
【0069】
実施例1
1.塗布装置の準備
要部が図1及び図2の構造を有する塗布装置1を用意した。ノズル6は、ニードル径が1.4mmのものであり、ノズル6(SUS316製)の軸間の距離を25mmの一定としてノズル6を39個配置した。(ノズル6は、25mm間隔で配置される)また、3mm厚さの基板4がノズル6の下方に来たときに、ノズル6との距離が25mmとなるようにノズル位置を調整した。また、塗布装置1の周囲環境が温度25℃、相対湿度45%RHとなるように調整した。
2.塗布液3の準備
イソシアネート基を有するイソシアネートとして、ヘキサメチレンジイソシアネートのビューレットタイプポリイソシアネート(商品名「N3200」住友バイエルウレタン製)を塗布剤Aとした。
【0070】
数平均分子量1000のポリエチレングリコール、及び数平均分子量3000で水酸基価33mgKOH/gのアクリルポリオールを50質量%有する溶液(「デスモフェンA450BA」;住化バイエルウレタン社製)を準備し、ポリエチレングリコールとアクリルポリオールの質量比が「ポリエチレングリコール:アクリルポリオール=60:40」となるように混合し、これを塗布剤Bとした。
【0071】
塗布剤Aのイソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数を、塗布剤B中のポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、1.8倍量となるように、100g質量部の塗布剤Bに対し、33g質量部の塗布剤Aを添加混合し、ウレタン成分総量が30質量%となるように塗布剤A及び塗布剤Bの混合物に希釈溶媒としてメチルエチルケトンを添加混合した。次いで、界面活性剤(SILWET L-7001、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)を固形分に対して0.002倍量を添加して被膜を形成するための塗布剤を調製した。
【0072】
こうして得られた塗布液の溶媒は、メチルエチルケトンと酢酸ノルマルブチルからなるものであり、メチルエチルケトンが94質量%、酢酸ノルマルブチルが6質量%となっている。また、本塗布液は、25℃での粘度が2.5mPa・sであった。
3.基板4の準備
γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(LS−3150、信越シリコーン社製)を、90重量%のエタノールと10重量%のイソプロピルアルコールからなる変性アルコール(エキネンF−1、キシダ化学社製)で1重量%となるように溶液を調製した。次に該溶液を吸収したセルロース繊維からなるワイパー(商品名「ベンコット」、型式M−1、50mm×50mm、小津産業製)で、1000mm×1000mm×3mm(厚さ)の矩形状のフロート法で得られたソーダ石灰珪酸塩ガラスよりなるガラス板の表面を払拭することで該溶液を塗布し、室温状態にて乾燥後、水道水を用いてワイパーで膜表面を水洗することで、基板4を準備した。
4.塗布液3の基板4への塗布及び被膜の形成
基板4を、図5に示す塗膜形成装置に投入し、吸水性物品の作製をした。基板4は、ノズル6が配列された箇所で塗布液を塗布し、塗布液を塗布した基板41を振動板8の上に載置し、塗布液の平坦化を促進した。また、振動板の振動源として超音波振動子を用いた。
【0073】
塗布液を塗布するときの基板4の搬送速度は0.4m/sとした。吐出圧力を0.025〜0.05MPaの範囲で調節して流量2.2g/秒となるように塗布液の給液を行った。 塗布液が平坦化された基板42を乾燥装置10で加熱乾燥させ、吸水性物品を得た。本実施例で得られた各吸水性物品は、呼気を吹きかけても曇らず、また、各物品とも外観に異常がなく、成膜面内の被膜の膜厚も54±3μmであった。
【0074】
振動板8で塗布膜の平坦化を促進したことにより、塗布後から加熱乾燥までの時間が短縮でき、生産性が向上した。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】基板に塗布液を塗布しているところを示す概略側面図である。
【図2】基板に塗布液を塗布しているところを示す概略平面図である。
【図3】図2のa−a´断面について、基板に塗布された塗布液が、ノズルから塗布された直後(A)から、厚みが一定となる経過を示す概略断面図である。
【図4】塗布液が塗布された基板を振動支持盤に載置した状態を示す概略側面図である。
【図5】塗膜形成装置の概略図である。
【符号の説明】
【0076】
1 塗布液供給管
2 電磁弁
3 電磁弁支持部材
4 基板
5 塗布液
6 ノズル
7 搬送ロール
8 振動板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な基板にノズルを用いて塗布液を供給し、ノズルから塗布液を基板上に流出させて塗布する塗膜方法において、塗布液が水平に保持された基板上に、ノズルの移動あるいは基板の移動により、平行線状に塗布され、塗布液の塗布開始から塗布液の乾燥処理までの間に、基板を微振動させることを特徴とする塗布液の塗布方法。
【請求項2】
塗布液がポリイソシアネートと、エチレンオキサイドを有するポリオール及び疎水性ポリオールとが混合されてなる固形分と溶媒とを有し、塗布液の粘度を1〜5mPa・sとなるように調整されてなることを特徴とする請求項1に記載の塗布液の塗布方法。
【請求項3】
前記溶媒がメチルエチルケトンを有し、溶媒中のメチルエチルケトンの含有量が80質量%以上有することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の塗布液の塗布方法。
【請求項4】
塗布液中の固形分濃度を5〜35質量%とすることを特徴とする請求項1又は請求項3のいずれかに記載の塗布液の塗布方法。
【請求項5】
ノズル内の塗布液の水分量を1000ppm以下に調整することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の塗布液の塗布方法。
【請求項6】
塗布液が界面活性剤を有し、該界面活性剤が固形分に対して0.007〜0.0001倍量であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の塗布液の塗布方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6に記載の塗布液の塗布方法によってガラスに塗布液が塗布されてなることを特徴とする塗布液塗布基板。
【請求項8】
塗布液塗布基板が吸水性物品として用いられることを特徴とする請求項7に記載の塗布液塗布基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−254996(P2009−254996A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109004(P2008−109004)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】