説明

塗布量制御装置

【課題】揺動しながら進行する線材等の長尺材の表面に塗着物を均一に塗布することができる塗布量制御装置を提供する。
【解決手段】表面に液体潤滑剤が付着した線材7が揺動しながら進行してダイス8の貫通孔を通過すると、ダイス8を支持している支持体15が弾性体17及び18により線材7の進行方向と直交するいずれの方向にも移動自在に懸架されているので、ダイス8の貫通孔の周縁部が線材7の表面に接触することによりダイス8は支持体15と共に移動して線材7の揺動に追従し、ダイス8と一体に支持体15に支持された一対のエアノズル9及び10も線材7の揺動に追従する。これらのエアノズル9及び10からエアを噴出することにより、線材7の表面に付着した余剰の液体潤滑剤が吹き飛ばされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塗布量制御装置に係り、特にワイヤ状や板状の長尺材に液体あるいは粉体からなる塗着物を塗布する際の塗布量を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製線材の伸線工程においては、通常、ダイスを用いて線材を引き抜き加工するが、ダイスと線材との間の摩擦を低減する目的で線材に潤滑剤が塗布される。この潤滑材の塗布方法としては、ポンプを使用して潤滑剤を直接塗布する方法や特許文献1に記載されているような潤滑剤の貯留槽に線材を通過させて塗布する方法がある。
【0003】
【特許文献1】特開2004−66271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの方法で潤滑剤を塗布する際に線材に付着する潤滑剤の塗布量を制御するために、例えばエアノズルから線材の表面に向けて加圧エアを噴出することにより余剰の潤滑剤を吹き飛ばす方法が採られている。
しかしながら、線材の引き抜き加工においては線材の揺動を余儀なくされ、揺動しながら進行する線材とエアノズルとの距離が刻々変動するために塗布量を均一化することが困難であった。
【0005】
この発明はこのような問題点を解消するためになされたもので、揺動しながら進行する線材等の長尺材の表面に塗着物を均一に塗布することができる塗布量制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る塗布量制御装置は、揺動しながら長手方向に進行する長尺材の表面への塗着物の塗布量を制御する装置であって、塗着物が塗布された長尺材の表面に接触する当接部材と、長尺材の表面に向かってエアを噴出するためのエアノズルと、当接部材とエアノズルとを一体に支持する支持体と、支持体を長尺材の進行方向と直交するいずれの方向にも移動自在に保持する保持手段とを備え、当接部材が長尺材の表面に接触することにより支持体が長尺材の進行に伴う揺動に追従して長尺材の進行方向と直交するいずれの方向にも移動すると共にエアノズルから噴出されるエアにより長尺材の表面に付着した余剰の塗着物を吹き飛ばすものである。
【0007】
なお、保持手段として、支持体を懸架する複数の弾性体を用いることができる。
また、円形の断面形状を有する線材を長尺材として塗布対象物とする場合には、当接部材に長尺材が挿通される貫通孔を形成し、この貫通孔の内径を長尺材の外径より0.01mm〜5mm大きい値とし、貫通孔の周縁部が長尺材の進行方向に対して円弧状の断面形状を有することが好ましい。さらに、当接部材として、分割型のダイスを用いることができる。
エアノズルを長尺材の進行方向に対して当接部材の下流側に配置し、上流方向に向けてエアを噴出させることができる。
また、支持体が、複数のエアノズルを当接部材と一体に支持するように構成してもよい。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、当接部材が長尺材の表面に接触することで当接部材とエアノズルとを一体に支持する支持体が長尺材の揺動に追従して長尺材の進行方向と直交するいずれの方向にも移動するため、長尺材が揺動しても長尺材とエアノズルとの距離が一定に保持される。したがって、エアノズルからエアを噴出して長尺材の表面に付着した余剰の塗着物を吹き飛ばすことにより、長尺材への塗着物の塗布量を均一に制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に実施の形態に係る塗布量制御装置を備えた塗布装置の構成を示す。塗布槽1に液切槽2が隣接して配置されている。塗布槽1内には液体潤滑剤3が収容された液槽4が配設され、塗布槽1と液切槽2との間を仕切る壁部5には実施の形態に係る塗布量制御装置6が取り付けられている。ほぼ円形の断面形状を有する線材7が塗布槽1の液槽4内を通過すると共に塗布量制御装置6を通り、液切槽2を抜けて矢印Aの方向に引き抜かれる。
【0010】
図2及び3に示されるように、塗布量制御装置6は、線材7が挿通される当接部材としてのダイス8と、線材7の表面に向かってエアを噴出するための一対のエアノズル9及び10を有している。ダイス8は、ダイスホルダ11によってダイスセットプレート12上に固定されている。一対のエアノズル9及び10は、線材7の進行方向に対してダイス8の下流側に配置され、線材7を間に挟むように水平方向で且つ線材7に対して左右対称にノズルセットプレート13上に固定されている。また、これらエアノズル9及び10は、それぞれ線材7の上流方向に向けてエアを噴出するような向きに配置されている。ダイスセットプレート12とノズルセットプレート13は、線材7と平行に延びる一対の金属製連結棒14により連結され、ダイス8とエアノズル9及び10を一体に支持する支持体15を形成している。
【0011】
また、塗布量制御装置6は、塗布槽1と液切槽2との間を仕切る壁部5に固定され且つそれぞれ線材7と平行に延びる4本の金属製支持棒16を有し、各金属製支持棒16の一端にそれぞれステンレス製弾性体(スプリング)17を介してダイスセットプレート12が連結されている。同様に、図4に示されるように、各金属製支持棒16の他端にそれぞれステンレス製弾性体(スプリング)18を介してノズルセットプレート13が連結されている。4本の弾性体17と4本の弾性体18は、鉛直上方を0度として、それぞれ鉛直面内で45度、135度、225度及び315度の角度に配置されており、これらの弾性体17及び18により、支持体15が線材7の進行方向と直交するいずれの方向にも移動自在に懸架されている。
【0012】
なお、壁部5には、線材7及び一対の金属製連結棒14を通すための開口部19が形成され、この開口部19を覆うように仕切りプレート20が壁部5に固定されている。仕切りプレート20には、線材7を挿通させる内径30〜60mm程度の液回収管21が形成されると共に一対の金属製連結棒14を通すための一対の開口部22が形成されている。
また、ダイスセットプレート12及びノズルセットプレート13には、線材7を通すための開口部23及び24が形成されている。
【0013】
図5(a)に示されるように、ダイス8は超硬質金属材料からなり、線材7の外径より0.01mm〜5mm大きい内径の貫通孔25を有しており、図5(b)に示されるように、貫通孔25の周縁部が線材7の進行方向に対して円弧状の滑らかな断面形状を有している。また、ダイス8は、図5(a)の分割線26で一対の半割ダイスに2分割される構造を有している。
【0014】
次に、この実施の形態に係る塗布量制御装置6の作用について説明する。まず、線材7を塗布槽1の液槽4内を通過させると共に、塗布量制御装置6のダイスセットプレート12の開口部23、ダイス8の貫通孔25、液回収管21、ノズルセットプレート13の開口部24をそれぞれ通し、この状態で図1の矢印Aの方向に引き抜き加工を行う。塗布槽1の液槽4内を通過することにより表面に液体潤滑剤3が付着した線材7は、揺動しながら矢印Aの方向へ進行し、ダイス8の貫通孔25を通過する。
【0015】
ここで、ダイス8を支持している支持体15は弾性体17及び18により線材7の進行方向と直交するいずれの方向にも移動自在に懸架されているので、ダイス8の貫通孔25の周縁部が線材7の表面に接触することによりダイス8は支持体15と共に移動して線材7の揺動に追従する。このとき、支持体15には一対のエアノズル9及び10がダイス8と一体に支持されているため、これら一対のエアノズル9及び10も支持体15と共に移動して線材7の揺動に追従することとなる。従って、線材7が揺動しても線材7と一対のエアノズル9及び10との距離が常に一定に保持される。そこで、これらのエアノズル9及び10からエアを噴出することにより、線材7の表面に付着した余剰の液体潤滑剤3が吹き飛ばされる。このようにして、線材7への液体潤滑剤3の塗布量が均一となる。
【0016】
なお、エアノズル9及び10からのエア圧力を調整することにより、液体潤滑剤3の塗布量を制御することができる。
また、エアの噴出により吹き飛ばされた液体潤滑剤3は、仕切りプレート20に形成された液回収管21内を通って塗布槽1に回収され、図示しないポンプにより液槽4に送られて再度線材7の表面への付着に供される。
【0017】
この実施の形態においては、鉛直面内で45度、135度、225度及び315度の角度に配置された弾性体17及び18により、支持体15を線材7の進行方向と直交するいずれの方向にも移動自在に懸架したので、線材7がいずれの方向に揺動してもダイス8は線材7の揺動に追従し、一対のエアノズル9及び10も線材7の揺動に追従するため、線材7の中心と一対のエアノズル9及び10の噴出口の中心とが常に同じ位置関係を維持することとなり、安定して線材7への液体潤滑剤3の塗布量の均一化をなすことができる。
【0018】
ダイス8は、線材7の揺動に追従するだけでなく、同時に線材7の表面に付着した余剰の液体潤滑剤3の除去を促進する効果も有している。すなわち、進行する線材7の表面にダイス8の貫通孔25の周縁部が接触することにより余剰の液体潤滑剤3が除去され、さらにエアノズル9及び10から線材7の上流方向に噴出されたエアがダイス8の貫通孔25に流入することによっても余剰の液体潤滑剤3が吹き飛ばされる。
【0019】
また、例えば線材7の太さが変わる際には、新たな線材7の太さに適合した内径の貫通孔を有するダイスに交換する必要があるが、この実施の形態では、2分割型のダイス8を用いたので、容易にダイスの交換を行うことができる。すなわち、線材7の端部を新たなダイスの貫通孔に挿通させる必要がなく、線材7の中間部においてダイスの取り外し及び取り付けが可能となる。
ただし、2分割型のダイスの代わりに、一体型のダイスを用いても構わない。また、ダイスの代わりに、一対のロールを当接部材として使用することもできる。
【0020】
一対のエアノズル9及び10は、それぞれ線材7に対して30度〜75度の角度をなすように配置することが好ましい。すなわち、一対のエアノズル9及び10を互いに60度〜150度の角度をなすと共に線材7を中心として対称に配置し、所望の塗布量に合わせて噴出するエアの圧力を調整すればよい。エアの圧力を高めるほど、吹き飛ばされる液体潤滑剤3の量が増加し、線材7の表面への塗布量は低減される。逆に、エアの圧力を低めるほど、線材7の表面への塗布量が増加される。
【0021】
図6に示されるように、底部を炭素鋼等で構成したノズルホルダ27にエアノズル9及び10を保持させると共にノズルセットプレート13上に永久磁石28を固定し、この永久磁石28にノズルホルダ27の底部を吸着させることにより一対のエアノズル9及び10をノズルセットプレート13上に設置するようにしてもよい。このようにすれば、容易にノズルセットプレート13からエアノズル9及び10を取り外して清掃することができる。エアノズル9及び10は、液体潤滑剤3が付着した後にその液体潤滑剤3が固化してエアの噴出口を閉塞させるおそれがあるため、エアノズル9及び10を容易に脱着させる構造は、清掃管理の上で極めて有効なものとなる。
【0022】
なお、エアノズル9及び10とエア供給配管との接続にステンレス製の超柔軟フレキシブルチューブを使用すれば、線材7の揺動への支持体15の追従を阻害することなく、また樹脂性チューブのように熱により強度低下及び脆化を引き起こすことなく、エアを供給してエアノズル9及び10から噴出させることができる。
【0023】
上記の実施の形態においては、塗着物として液体潤滑剤3を用いたが、これに限るものではなく、液体塗料、油等の他、粉体塗料等の固体物を塗着物として用いる場合にもこの発明を適用することができる。
また、被塗着物として円形の断面形状を有する線材7を例にとって説明したが、これに限るものではなく、円形以外の多角形等の断面形状を有する線材や、板状の長尺材に対しても、同様にしてこの発明を適用することが可能である。
【実施例】
【0024】
実施例1
図1〜5の実施の形態で説明した塗布量制御装置を使用し、エア圧力0.20MPaで日本パーカライジング株式会社製の液体潤滑剤FL−E740C(濃度100%)を線径11mmの線材SDG400に塗布した。この場合の、線材の進行速度、エア圧力及び線材表面に形成された皮膜の質量の関係を以下の表1に示す。試料S1〜S3はダイスを用いずに塗布を行い、試料S4〜S6は半割2分割構造のダイスを使用して塗布を行った。
【0025】
【表1】

【0026】
線材の進行速度がほぼ等しい試料S1〜S3と試料S4〜S6を比較すると、ダイスの使用により余剰に付着した液体潤滑剤をより低減させる効果が確認された。
【0027】
実施例2
図1〜5の実施の形態で説明した塗布量制御装置を使用し、エア圧力0.20MPa、線材の進行速度66.5m/分で日本パーカライジング株式会社製の液体潤滑剤FL−E740C(濃度100%)を線径11mmの線材SDG400に塗布し、乾燥後の線材表面を金属顕微鏡で観察し、液体潤滑剤の膜厚を測定した。この場合の、各方位における液体潤滑剤の膜厚を以下の表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
いずれの方位においても膜厚5〜7μmの皮膜が形成されていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の実施の形態に係る塗布量制御装置を備えた塗布装置の構成を示す側面断面図である。
【図2】実施の形態に係る塗布量制御装置を示す側面断面図である。
【図3】実施の形態に係る塗布量制御装置を示す平面断面図である。
【図4】実施の形態に係る塗布量制御装置を示す正面図である。
【図5】実施の形態で用いられたダイスを示し、(a)は正面図、(b)は側面断面図である。
【図6】他の実施の形態の要部を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 塗布槽、2 液切槽、3 液体潤滑剤、4 液槽、5 壁部、6 塗布量制御装置、7 線材、8 ダイス、9,10 エアノズル、11 ダイスホルダ、12 ダイスセットプレート、13 ノズルセットプレート、14 金属製連結棒、15 支持体、16 金属製支持棒、17,18 弾性体、19,22,23,24 開口部、20 仕切りプレート、21 液回収管、25 貫通孔、26 分割線、27 ノズルホルダ、28 永久磁石。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動しながら長手方向に進行する長尺材の表面への塗着物の塗布量を制御する装置であって、
塗着物が塗布された前記長尺材の表面に接触する当接部材と、
前記長尺材の表面に向かってエアを噴出するためのエアノズルと、
前記当接部材と前記エアノズルとを一体に支持する支持体と、
前記支持体を前記長尺材の進行方向と直交するいずれの方向にも移動自在に保持する保持手段と
を備え、前記当接部材が前記長尺材の表面に接触することにより前記支持体が前記長尺材の進行に伴う揺動に追従して前記長尺材の進行方向と直交するいずれの方向にも移動すると共に前記エアノズルから噴出されるエアにより前記長尺材の表面に付着した余剰の塗着物を吹き飛ばすことを特徴とする塗布量制御装置。
【請求項2】
前記保持手段は、前記支持体を懸架する複数の弾性体からなる請求項1に記載の塗布量制御装置。
【請求項3】
前記長尺材は、円形の断面形状を有する線材であり、
前記当接部材は、前記長尺材が挿通されると共に前記長尺材の外径より0.01mm〜5mm大きい内径を有する貫通孔を備え、貫通孔の周縁部は前記長尺材の進行方向に対して円弧状の断面形状を有する請求項1または2に記載の塗布量制御装置。
【請求項4】
前記当接部材は、分割型のダイスである請求項3に記載の塗布量制御装置。
【請求項5】
前記エアノズルは、前記長尺材の進行方向に対して前記当接部材の下流側に配置されると共に上流方向に向けてエアを噴出する請求項1〜4のいずれか一項に記載の塗布量制御装置。
【請求項6】
前記支持体は、複数のエアノズルを前記当接部材と一体に支持する請求項1〜5のいずれか一項に記載の塗布量制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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