説明

塗料およびそれを用いる塗装系

【課題】空調費用の低減に顕著な効果を期待し得る、優れた吸放熱性を有するとともに、同時に意図する美観を獲得するのに必要な色彩や色相をも有する吸放熱塗料およびそれを用いた塗装系を提供する。
【解決手段】上塗、中塗、下塗の全塗装系の全てを、又は、上塗、中塗、下塗の全塗装系の一部を、顔料と樹脂と吸放熱材(PCM:fhase change material)を含有する組成物で、規定した温度以上で吸熱し規定した温度以下で放熱する吸放熱塗料で塗装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等建築物の屋内や外板、コンテナ、乗用車、冷凍車等の運搬車両の屋根や外壁、船舶、プラント、物置、畜舎等の屋根や外壁等に適用することにより、日光照射、内部発熱に起因する内部温度の上昇を制御し、しかもデザインや美観を損なわない吸放熱塗料およびそれを用いる塗装系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物や建造物の屋根や外板、内壁は、美観を向上させるために、塗料による塗装が行われているが、住宅等の建屋は、直射日光にさらされ、又、OA機器の普及で室内温度が上昇している。一般の塗装では居住性向上のために内部温度上昇を抑える作用が無いため、温度調整のためのエアコン等の冷房費用が増加し、ひいてはCO2排出、地球温暖化にも影響を与えている。
【0003】
吸放熱を有する技術は近年研究されており、例えば、スポーツウエアなどに応用されている。例えば、下記文献では高度な温度規制をCiba専門化学製品から作り出す織物処置が紹介されている。
【非特許文献1】インターネットウエブサイトhttp://www.ciba.com/ja/2004_ciba_ehs-report_ja.pdf#search='CIBA ENCAPSULENCE'
【0004】
これによれば、Ciba ENCAPSULENCE PC140(織物とファブリックの使用のためのマイクロカプセルに入れられた段階変化材料)の紹介がなされ、Ciba ENCAPSULENCE PC140は、伝統的な罠にかけられた空気絶縁から急進的なシフトを意味すること、Ciba Specialty ChemicalsのWaterとPaper Treatment Segmentはミクロ粒子の形で段階変化材料を開発したこと、そして、織物とファブリックの範囲内で利用されるとき、これらのカプセルは着用者の体でインタラクティブに動き、この製品は、したがって、熱を保存することができて、体をより暖かくてより極端な環境および温度状況でより長く快適にしておくことができることが記載されている。
【0005】
「固体および液体の形の間で、段階変化材料は、熱を吸収するか、保存するか、放つ。熱は冷却に関して解放されることができて、暖房上で吸収されることができる。身体活動の間、着用者の過度の体熱は増加して、カプセル化された段階変化材料に集中する。活動が終わって、本体は冷却し、そして、マイクロカプセルは保存された熱を着用者に返す」「Ciba ENCAPSULENCE PC140のミクロ粒子は、多種多様なアプリケーションに応用でき、繊維、ファブリック、冷凍、自動車、建物、熱交換器、電子機器、床カバー、エネルギー保管所有物が標準的使用に置かれることができる」とある。
【0006】
前記吸放熱を有する技術による吸放熱材は、繊維に練りこむ等で体温との関係に限定されている、又、壁材等に混合されて使用されている例も有るが、混合量が多くなる為経済的ではない。
【0007】
吸放熱材の問題点は柔らかいマイクロゲルの中にワックスを入れ、ワックスの種類で吸放熱温度を決定している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記吸放熱を有する技術による吸放熱材は、繊維に練りこむ等で体温との関係に限定されている、又、壁材等に混合されて使用されている例も有るが、混合量が多くなる為経済的ではない。
【0009】
吸放熱材の問題点は柔らかいマイクロゲルの中にワックスを入れ、ワックスの種類で吸放熱温度を決定している。
【0010】
前記吸放熱材は、繊維に使用するため柔らかい吸放熱材が主である。そのため、塗装用としては適用しうるものではなかった。
【0011】
本発明は、樹脂の種類を選別することで補強し、塗装に適した吸放熱塗料を提供することを可能にとするものである。
【0012】
本発明の目的は、優れた吸放熱を有するとともに、同時に意図する美観を獲得するのに必要な色彩や色相をも有する吸放熱塗料を塗装することで、進入熱量、室内温度を制御できる吸放熱塗料およびそれを用いる塗装系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため、本発明の塗料は、第1に、顔料と樹脂を主成分とし、吸放熱材を含有する組成物であって、規定した温度以上で吸熱し、規定した温度以下で放熱する吸放熱材料を含有すること、第2に、吸放熱材料は、設定温度1種又は複数の設定温度を持つ吸放熱材料を混合して含有すること、第3に、吸放熱材料の添加量は、全配合の100重量部中、20〜90重量部を含有することを要旨とするものである。
【0014】
また、塗装系としては、第1に、上塗、下塗の全塗装系の全てを、又は、上塗、下塗の全塗装系の一部を、又は、上塗、中塗、下塗の全塗装系の全てを、又は、上塗、中塗、下塗の全塗装系の一部を、顔料と樹脂と規定した温度以上で吸熱し規定した温度以下で放熱する吸放熱材を含有する組成物で形成した吸放熱塗料で塗装すること、第2に、吸放熱塗料の塗装膜厚は50mμから1cmで塗装すること、第3に、JIS A5759に定義される日射反射率30%以上の塗料を最上層に塗装することを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の塗料およびそれを用いる塗装系は、空調費用の低減に顕著な効果を期待し得る、優れた吸放熱性を有するとともに、同時に意図する美観を獲得するのに必要な色彩や色相をも有するもので、これを塗装することで進入熱量、室内温度を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は、吸放熱材を全配合の100重量部中、20〜90重量%含有するものであることを特徴とする吸放熱塗料である。
【0017】
顔料に用いられるものとしては、下記の顔料等を挙げることができる。白色顔料としては、酸化チタンであるチタンCR97(石原チタン工業社製)等を挙げることができる。
【0018】
黒色顔料としては、Fastogen Super Black MX(DIC社製)、パリオゲン Schwarz S0084(BASF社製)、パリオトールブラック L0080(BASF社製)カーボンブラック(三菱社製)等を挙げることができ、更に、Symuler Fast Yellow 4192(DIC社製)と、ファーストゲンレッド7100Y(DIC社製)と、リオノールブルー FG7908(大日精化工業社製)とを混合したもの等を挙げることができる。
【0019】
青色顔料としては、Fastogen Blue 5485(DIC社製)、Fastogen Blue RS(DIC社製)、シアニンブルー5240KB(大日精化工業社製)等を挙げることができる。
【0020】
赤色顔料としては、Fastogen Super Magenta RH(DIC社製)、Fastogen Red 7100Y(DIC社製)、ルビクロンレッド400RG(DIC社製)等を挙げることができる。
【0021】
黄色顔料としては、Symuler Fast Yellow 4192(DIC社製)、シコパールイエロー L−1110(BASF社製)等を挙げることができる。
【0022】
緑色顔料としては、ファーストゲングリーン2YK(DIC社製)、リオノールグリーン6YKP−N(東洋インキ製造社製)等を挙げることができる。
【0023】
樹脂としては、通常、塗料として用いられる樹脂を使用することができ、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル酸系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は、単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
本発明が含有する吸放熱材の粒子径は2〜7μmであることが好ましい。粒子径が10μmを超えると、顔料と樹脂とを含有する組成物の製造時の作業性が悪化し、また、得られる塗膜の外観や物性に劣る場合があり、1μm未満では、吸放熱が充分に得られない。前記吸放熱の粒子径は、より好ましくは2〜7μmであり、更に好ましくは3〜5μmである。吸放熱材はマイクロゲルの中に入れるワックス種で設定温度が決まり、用途、環境によって設定は自由である。
【0025】
前記吸放熱材としては、前記の特性を有するものであれば特に限定されず、例えば、BASF・Dupon・チバガイギを挙げることができる。本発明の吸放熱材料が上記吸放熱材を含有する場合には、吸放熱材料の10〜90重量%であることが好ましい。
【0026】
前記含有量が、10重量%未満の添加では充分に吸放熱得られず、90重量%を超えると流動性が悪化する。より好ましくは15〜90重量%であり、更に好ましくは20〜90重量%である。
【0027】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
1.アクリルエマルション樹脂(高分子化学製)40重量部に、白色顔料:タイペークCR−97(石原産業製)20重量部、吸放熱材(CIBA ENCAPSULENCE PC200)35重量部、5重量部の分散剤と造膜材を加えディスパー分散し組成物1を得た。
2.アクリルエマルション樹脂(高分子化学製)35重量部に、白色顔料:タイペークCR−97(石原産業製)10重量部、吸放熱材(CIBA ENCAPSULENCE PC200)50重量部、5重量部の分散剤と造膜材を加えディスパー分散し組成物2を得た。
3.アクリルエマルション樹脂(高分子化学製)40重量部に、白色顔料:タイペークCR−97(石原産業製)20重量部、吸放熱材(CIBA ENCAPSULENCE PC210)35重量部、5重量部の分散剤と造膜材を加えディスパー分散し組成物1を得た。
4.アクリルエマルション樹脂(高分子化学製)35重量部に、白色顔料:タイペークCR−97(石原産業製)10重量部、吸放熱材(CIBA ENCAPSULENCE PC210)50重量部、5重量部の分散剤と造膜材を加えディスパー分散し組成物2を得た。
5.アクリルエマルション樹脂(高分子化学製)35重量部に、白色顔料:タイペークCR−97(石原産業製)10重量部、吸放熱材(CIBA ENCAPSULENCE PC200:PC210=25:25)50重量部、5重量部の分散剤と造膜材を加えディスパー分散し組成物2を得た。
今回実験に供した吸放熱材の設定温度は、PC200の26℃とPC210の32℃の2種類で検証した。吸放熱材には、アクリルエマルション型、粉体型が有り何れを使用しても良い。
【実施例2】
【0029】
比較に使用した従来品は、アクリルエマルション樹脂(高分子化学製)45重量部に、白色顔料:タイペークCR−97(石原産業製)50重量部、5重量部の分散剤と造膜材を加えディスパー分散し組成物の従来品を得た。
【0030】
(吸放熱の測定)
以上のようにして得た組成物のそれぞれについて、吸放熱効果を測定した。各組成物を刷毛にて鋼板に表1、表2に記した塗膜に塗装し測定した。結果を表1に示した。測定時間は各30分とし、箱内温度を測定した。
【0031】
吸放熱材含有塗料のみで塗り重ねる、表面温度は同じでも裏面温度、箱内温度に効果が発現する。これは表面温度が上昇した一部を吸放熱材含有塗膜が吸熱し、熱を一時的に蓄えているからである。蓄えられた熱は、吸放熱材の設定温度以下に箱内がなれば放熱される。
【表1】

【0032】
上塗塗料に日射反射率の高い塗料を適用すると、表面温度が下がり、裏面、箱内温度に吸放熱材含有塗膜の効果が更に発現する事が分かる。
【表2】

【0033】
試験板は、500mm×500mm×1mmの鋼板に刷毛にて(50mμ、100mμ削除下さい)塗装し、これを6枚使用して図1の箱を作り効果の測定を実施した。図中1は電源、2は白熱灯、3、4はテスト板、5は温度センサー、6は計器である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】塗膜の吸放熱を評価するための装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0035】
1 電源
2 白熱灯
3 テスト板
4 テスト板
5 温度センサー
6 計器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と樹脂を主成分とし、吸放熱材を含有する組成物であって、規定した温度以上で吸熱し、規定した温度以下で放熱する吸放熱材料を含有することを特徴とした塗料。
【請求項2】
吸放熱材料は、設定温度1種又は複数の設定温度を持つ吸放熱材料を混合して含有する請求項1記載の塗料。
【請求項3】
吸放熱材料の添加量は、全配合の100重量部中、20〜90重量部を含有する請求項1または請求項2記載の塗料。
【請求項4】
上塗、下塗の全塗装系の全てを、又は、上塗、下塗の全塗装系の一部を、又は、上塗、中塗、下塗の全塗装系の全てを、又は、上塗、中塗、下塗の全塗装系の一部を、顔料と樹脂と規定した温度以上で吸熱し規定した温度以下で放熱する吸放熱材を含有する組成物で形成した吸放熱塗料で塗装することを特徴とした塗装系。
【請求項5】
吸放熱塗料の塗装膜厚は50mμから1cmで塗装する請求項4に記載の塗装系。
【請求項6】
JIS A5759に定義される日射反射率30%以上の塗料を最上層に塗装する請求項4または請求項5記載の塗装系。

【図1】
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【公開番号】特開2009−280663(P2009−280663A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132694(P2008−132694)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(399006881)
【Fターム(参考)】