説明

塗料用組成物、塗料、塗料用キットおよび塗装物品

【課題】 ラッカーや油性インキなどによる汚染の除去性に優れた塗膜を形成できる塗料用組成物を提供する。
【解決手段】水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーおよびフッ素樹脂を含有することを特徴とする塗料用組成物。前記フッ素樹脂の水酸基価は90〜280mgKOH/gが好ましく、前記フッ素樹脂の100質量部(固形分)に対し、前記水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマー(固形分)の含有量が0.1〜10質量部であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料用組成物、該組成物を用いた塗料および塗料用キット、ならびに塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
建築、土木分野での建造物や、車両、公共設備などの様々な構造物における落書きは美観を損ない、除去するには多大な労力が必要とされる。
【0003】
その対策として、たとえば下記特許文献1では、フルオロアルキル基と、ポリシロキサン鎖と、架橋性の官能基とを有する重合体と、架橋性の官能基を有する他の重合体とを混合してなる塗料用組成物を用いた落書き防止用塗料が提案されている。
また下記特許文献2では、被塗面に、下塗り塗料を用いて凹凸状塗膜を形成した後、その上に湿気硬化形ポリシロキサン樹脂をビヒクル成分として含有するクリヤー塗料を用いて上塗塗膜を形成する汚染防止方法が提案されている。
また下記特許文献3では、片末端にヒドロキシ基を2個以上有するアクリル系重合体、その他のポリオール、およびポリイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンポリオールおよび硬化剤からなる耐汚染性被覆組成物が提案されている。
【特許文献1】特開平10−195373号公報
【特許文献2】特開平10−216619号公報
【特許文献3】特開平11−323251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの組成物からなる塗膜では、落書きに用いられるラッカーや油性インキなどに含まれる有機溶剤に対する耐性が充分ではなく、塗膜の表層内部に染みこんだ汚染を除去するには不充分であった。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、ラッカーや油性インキなどによる汚染の除去性に優れた塗膜を形成できる塗料用組成物、該組成物を用いた塗料および塗料用キット、ならびに該塗料用組成物を用いて塗装された塗装物品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の塗料用組成物は、水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーおよびフッ素樹脂を含有することを特徴とする。
本発明は、本発明の塗料用組成物と、硬化剤とを含有する塗料を提供する。
本発明は、本発明の塗料用組成物と、硬化剤を備える塗料用キットを提供する。
本発明は、最表面層が、本発明の塗料を用いて形成された塗膜からなる塗装物品を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の塗料用組成物を用いて形成された塗膜は、ラッカーや油性インキなどによる汚染の除去性に優れている。
本発明の塗料は、これを用いてラッカーや油性インキなどによる汚染の除去性に優れた塗膜を形成できる。
本発明の塗料用キットは、これを用いてラッカーや油性インキなどによる汚染の除去性に優れた塗膜を形成できる。
本発明の塗装物品は、最表面層が、本発明の塗料を用いて形成された塗膜からなっており、ラッカーや油性インキなどによる汚染の除去性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
[塗料用組成物]
本発明の塗料用組成物は、水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーおよびフッ素樹脂を含有する。
<フッ素樹脂>
本発明におけるフッ素樹脂は、フルオロオレフィンと他の共重合性単量体との共重合体(以下、フルオロオレフィン系共重合体という。)である。
フルオロオレフィン系共重合体中のフルオロオレフィンに基づく重合単位の割合は、塗膜に充分な耐候性を与えるために、30モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましい。一方、溶剤への溶解性の点からは70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましい。
【0008】
フルオロオレフィンの例としては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン等の炭素数2〜3のフルオロオレフィンが好ましく挙げられる。
【0009】
共重合性単量体としては、ビニル系モノマー、すなわち、炭素−炭素二重結合を有する化合物が好ましい。
ビニル系モノマーとしては、たとえばビニルエーテル、アリルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、カルボン酸アリルエステル、イソプロペニルエーテル、カルボン酸イソプロペニルエステル、メタリルエーテル、カルボン酸メタリルエステル、α−オレフィン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等が好ましく挙げられる。
【0010】
ビニルエーテルとしては、シクロヘキシルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテル;ノニルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、フルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等のアルキルビニルエーテルが挙げられる。
アリルエーテルとしてはエチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル等のアルキルアリルエーテル等が挙げられる。
カルボン酸アリルエステルとしては、プロピオン酸アリル、酢酸アリルなどの脂肪酸アリルエステル等が挙げられる。
カルボン酸ビニルエステルとしては分岐状のアルキル基を有するベオバ−10(シェル化学社製、商品名)、酪酸ビニル、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステル等が挙げられる。
イソプロペニルエーテルとしてはメチルイソプロペニルエーテルなどのアルキルイソプロペニルエーテル等が挙げられる。
α−オレフィンとしてはエチレン、プロピレン、イソブチレン等が挙げられる。
【0011】
上記共重合性単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記共重合性単量体のうちで、ビニルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、アリルエーテル、カルボン酸アリルエステルがフルオロオレフィンとの共重合性に優れる点から好ましい。
さらに、炭素原子数1〜10の直鎖状または脂環状のアルキル基を有するアルキルビニルエーテル、脂肪酸ビニルエステル、アルキルアリルエーテル、脂肪酸アリルエステルがより好ましい。
【0012】
また、フルオロオレフィン系共重合体は硬化反応性部位を与える官能基を有することが好ましい。これにより塗膜の強度が向上する。該官能基は硬化剤と反応して架橋結合を形成するものであればよい。
この官能基としては、イソシアネート系硬化剤やアミノプラスト系硬化剤などと反応し得る活性水素含有基、エポキシ基、ハロゲン、二重結合などが好ましく、硬化剤との組み合わせにより適宜選択できる。たとえば水酸基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基などが挙げられる。好ましくは、活性水素含有基であり、特に好ましくは水酸基である。
【0013】
該官能基の導入方法としては、官能基を有する単量体、たとえば、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルアリルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ウンデセン酸、グリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテルなどを共重合せしめる方法がある。
また、共重合体を変性せしめることにより官能基を導入する方法、たとえば、水酸基またはエポキシ基に、無水コハク酸等の多塩基酸無水物を反応せしめてカルボキシル基を導入する方法、イソシアネートアルキルメタクリレートなどを反応せしめて二重結合を導入する方法がある。
前記官能基を有する共重合単位は、フルオロオレフィン系共重合体中5〜20モル%であることが好ましい。
【0014】
また、前記硬化反応性部位を与える官能基は、重合後の後反応によっても導入できる。この方法としては、たとえばカルボン酸ビニルエステルを共重合した重合体をケン化することにより水酸基を導入する方法、水酸基を有する重合体に多価カルボン酸またはその無水物を反応させてカルボキシル基を導入する方法、水酸基を有する重合体にイソシアネートアルキルアルコキシシランを反応させて加水分解性シリル基を導入する方法、水酸基を有する重合体に多価イソシアネート化合物を反応させてイソシアネート基を導入する方法等が挙げられる。
【0015】
前記硬化反応性部位を与える官能基を有するフルオロオレフィン系共重合体としては、たとえば商品名ルミフロン(旭硝子)、セフラルコート(セントラル硝子)、ザフロン(東亜合成)、ゼッフル(ダイキン工業)、フルオネート(大日本インキ工業)、フローレン(日本合成ゴム)など市販されているものを使用できる。
【0016】
本発明で用いられるフッ素樹脂の質量平均分子量(M)は1,000以上50,000以下が好ましく、3,000以上30,000以下がより好ましい。
該質量平均分子量を上記範囲の下限値以上とすると、耐候性に優れ、汚染除去性に優れ、該質量平均分子量を上記範囲の上限値以下とすると、有機溶剤への溶解性に優れ、硬化剤との相溶性に優れ、レベリング性に優れる。
本発明で用いられるフッ素樹脂の水酸基価は、塗膜密度が充分に高くて耐溶剤性に優れた塗膜を形成できるようにするうえで、90mgKOH/g以上であることが好ましく、100mgKOH/g以上がより好ましい。フッ素樹脂の水酸基価の上限は、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等からなる溶剤への溶解性の点で200mgKOH/g以下が好ましく、160mgKOH/g以下がより好ましい。
本発明において、フッ素樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
<水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマー>
本発明で用いられる、水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマー(以下、単にシリコン変性アクリルポリマーという)は、ポリシロキサンを主鎖とし、側鎖としてアクリル系重合体が結合しており、該アクリル系重合体の少なくとも末端に水酸基を有するグラフト共重合体である。
かかる構造のシリコン変性アクリルポリマーにあっては、ポリシロキサンから誘導される構造を有するために塗膜の撥水撥油性を向上させて汚染除去性の向上に寄与し、アクリル系重合体から誘導される構造を有するためにフッ素樹脂との相溶性が良好となり汚染除去性の持続性に寄与し、かつアクリル系重合体の末端に水酸基を有することにより、硬化剤を介してフッ素樹脂と架橋反応を生じて耐溶剤性の向上に寄与すると考えられる。
【0018】
前記シリコン変性アクリルポリマーの水酸基価は、硬化剤と充分に反応して、耐溶剤性に優れた塗膜を形成するうえで60mgKOH/g以上が好ましく、100mgKOH/g以上がより好ましい。また、該水酸基価の上限は、有機溶剤への溶解性、フッ素樹脂または硬化剤との相溶性に優れる点から、240mgKOH/g以下が好ましく、180mgKOH/g以下がより好ましい。
【0019】
本発明におけるシリコン変性アクリルポリマーの質量平均分子量(M)は1,000
以上30,000以下が好ましく、5,000以上20,000以下がより好ましい。
該質量平均分子量を上記範囲の下限値以上とすると汚染除去性に優れ、該質量平均分子量を上記範囲の上限値以下とすると、フッ素樹脂または硬化剤との相溶性に優れる。
またシリコン変性アクリルポリマーのガラス転移温度(T)は、30℃以上150℃以下が好ましく、50℃以上100℃以下がより好ましい。
該Tを上記範囲の下限値以上とすると汚染除去性に優れ、該Tを上記範囲の上限値以下とすると、塗膜の柔軟性に優れ、ひび割れ等を防止できる。
【0020】
これらの条件を満たすシリコン変性アクリルポリマーは市販品から入手可能であり、例えばBYK−Silclean3700(ビックケミージャパン社製、固形分25%、水酸基価120mgKOH/g、M:9,000、T:70〜80℃)を用いることができる。
【0021】
シリコン変性アクリルポリマーの使用量は、固形分換算で、フッ素樹脂の100質量部に対し、0.1〜10質量部の範囲が好ましく、0.4〜8.0質量部の範囲がより好ましい。水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーの使用量を上記範囲の下限値以上とすることにより、付着汚染物の除去性が良好な塗膜を形成でき、上限値以下とすることによりレベリング不良、泡立ち等による塗装時の不具合を良好に防止できる。
【0022】
<その他の成分>
本発明の塗料用組成物には、上記成分の他に、必要に応じて硬化触媒、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、つや消し剤、界面活性剤、タレ防止剤または塗膜の付着性向上のためのシランカップリング剤などが含まれていてもよい。
また落書き等の除去性に支障ない範囲で、かつ後述する塗膜の好ましい接触角を満たす範囲で、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等の、塗料用樹脂として公知の他の樹脂を配合してもよい。
【0023】
本発明の塗料用組成物は、フッ素樹脂、シリコン変性アクリルポリマー、および必要に応じたその他の成分を溶剤に溶解または分散させることによって得られる。
溶剤は、特に限定されず、一般的にフッ素樹脂系塗料の溶剤として使用される有機溶剤を用いることができる。具体例としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類、キシレン、トルエン等の芳香族系溶剤、さらには、脂肪族系溶剤、エーテル系溶剤、石油系溶剤等が挙げられる。これらの溶媒は2種以上併用してもよい
【0024】
[塗料]
本発明の塗料用組成物および硬化剤を混合することにより本発明の塗料が得られる。
<硬化剤>
硬化剤としては、本発明におけるフッ素樹脂およびシリコン変性アクリルポリマーを架橋し得るものが使用できる。具体例としては、イソシアネート系硬化剤、アミノプラスト系硬化剤、多塩基酸系硬化剤、多価アミン系硬化剤などが挙げられる。
【0025】
本発明において好適に使用される硬化剤としては、耐薬品性、耐候性が良好であり、かつ焼付の工程を経ない場合でも硬化できるイソシアネート系硬化剤が挙げられる。
イソシアネート系硬化剤の例としては、多価イソシアネート化合物や、該多価イソシアネート化合物を常温で架橋しないようにブロック剤で保護したブロック化物が挙げられる。多価イソシアネート化合物は、2以上のイソシアネート基を有する化合物であり、その変性体や多量体からなる2以上のイソシアネート基を有する化合物であってもよい。
多価イソシアネート化合物の例としては、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレントリイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族多価イソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン等の脂環族多価イソシアネート化合物;およびm−キシレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート等の無黄変性芳香族イソシアネート化合物等が挙げられる。
また、多価イソシアネート化合物の変性体や多量体の例としては、ウレタン変性体、ウレア変性体、イソシアヌレート変性体、ビューレット変性体、アロファネート変性体、カルボジイミド変性体等がある。特に3量体であるイソシアヌレート変性体やトリメチロールプロパン等の多価アルコールとの反応生成物であるウレタン変性体等が好ましい。
特に、好ましい多価イソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの無黄変性イソシアネート類や、これらのブロック化物、多量化物などが挙げられる。
ブロック化されていない多価イソシアナート化合物を用いた場合は、常温でフッ素樹脂を架橋できるため現場施工が容易であるとともに、補修塗装をする場合に有利である。多価イソシアネート化合物を使用した場合、ジブチル錫ジラウレートなどの公知の触媒の添加によって架橋反応を促進することもできる。
【0026】
アミノプラスト系硬化剤としては、メチロールメラミン類、メチロールグアナミン類、メチロール尿素類等が挙げられる。
メチロールメラミン類としては、ブチル化メチロールメラミン、メチル化メチロールメラミン等の低級アルコールによりエーテル化されたメチロールメラミン、エポキシ変性メチロールメラミン等が挙げられる。
メチロール尿素類としては、メチル化メチロール尿素、エチル化メチロール尿素等のアルキル化メチロール尿素等が挙げられる。
アミノプラスト系硬化剤を使用した場合、酸性触媒の添加によって架橋反応を促進することもできる。
多塩基酸としては、長鎖脂肪族ジカルボン酸類、芳香族多価カルボン酸類、その酸無水物が挙げられる。
【0027】
硬化剤の使用量は、「硬化剤の架橋点総数/フッ素樹脂の架橋点総数と水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーの架橋点総数の合計」で表される架橋点総数比の値が0.7以上であることが好ましく、0.9以上がより好ましい。イソシアネート系硬化剤を用いた場合、該架橋点総数比は、塗料用組成物中における、フッ素樹脂の水酸基と、シリコン変性アクリルポリマーの水酸基との合計1モルに対する、イソシアネート系硬化剤のイソシアネート基のモル数の比で表される。
上記架橋点総数比を0.7以上とすることにより、塗料用組成物が良好に硬化し耐溶剤性に優れた塗膜が得られる。該架橋点総数比の上限は特に限定されないが、塗膜中に未反応のイソシアネート基等の反応性基が残存することによる耐候性その他の性能への影響を考慮して、2.0以下が好ましく、1.3以下がより好ましい。
【0028】
[塗料用キット]
本発明の塗料用組成物は、これと前記硬化剤とを備えた塗料用キットとして、流通、販売等することができる。
該塗料用キットは、塗装を行う現場で、塗料用組成物と硬化剤とを混合して塗料を調製するのに好適である。
【0029】
[塗装物品]
本発明の塗装物品は、被塗物の最表面層として、本発明の塗料用組成物を用いて形成された塗膜を有する。
本発明における被塗物の材質は特に限定されない。たとえば、コンクリート、モルタル、石綿スレート等のセメント系基材;鋼材、アルミニウム、ステンレス等の金属類;ガラス;木材;プラスチック類;タイル等のあらゆる材質に適用できる。
被塗物によっては、被塗物と塗膜との接着力または防錆機能等を考慮して、エポキシ系塗料、アクリルウレタン系塗料、シランカップリング剤等の下塗り、中塗り等を適宜選択して使用することが好ましい。
また、塗装方法による意匠性の効果をねらった、複層仕上げ塗り材、セメント系基材の濡れ肌色を防止したクリヤー塗装仕上げ、メタリックやパール調仕上げを行ってもよく、いずれの場合も最表面層に本発明の塗料用組成物を用いた塗膜を形成することにより、本発明の効果が得られる。
落書き作業を行い難くし、また落書きの除去性を向上させる目的で、たとえばガラスビーズ、樹脂ビーズ、シリカ粒子、珪砂等を使用して、下地、下層塗膜または本発明の塗料用組成物を用いた塗膜に凹凸模様が形成されていてもよい。
本発明の塗料用組成物は、被塗物上に新規の塗装を行う場合に用いられるほか、旧塗膜の塗り替えを目的とした塗装を行う場合にも適用できる。
【0030】
本発明の塗装物品は、被塗物の表面に本発明の塗料を塗布し、乾燥させて塗膜を形成することによって得られる。
塗装方法は、種々の方法で行うことができる。たとえば刷毛塗り、スプレー塗装、浸漬法による塗装、ロールコーターやフローコーターによる塗装等が適用できる。
塗膜の厚みは、特に制限はなく、2〜200μmが好ましく、5〜50μmの範囲がより好ましい。
乾燥方法は、特に制限されず、たとえば自然乾燥で行うことができる。
【0031】
本発明の塗料用組成物を用いて形成された塗膜は、撥水撥油性に優れる。例えば水に対する接触角が93度以上、かつ流動パラフィンに対する接触角が40度以上を容易に達成することができる。該塗膜の接触角は、落書き防止および汚染除去性の点からは、より高い方が好ましい。
本明細書における上記接触角の値は、FACE接触角計 CA−A型(協和界面化学社製)を使用して、イオン交換水または流動パラフィン(関東化学社製、鹿1級、比重(測定温度15℃):0.870〜0.890)の液滴を0.005ミリリットルに調整して測定した値である。
【0032】
本発明の塗料用組成物を用いて形成された塗膜は、ラッカーや油性インキなどによる汚染の除去性に優れる。
本発明の塗料用組成物を用いて形成された塗膜に落書き等により付着した汚染物を除去する際には、たとえば、布またはスポンジ等により乾拭きまたは水拭きを行う方法、または粘着テープを用いて汚染物を引き剥がす方法等の簡単な方法で除去できる。また、被塗物の形状や汚染量の状況によっては、界面活性剤、有機溶剤、ストリッパブルペイント(剥ぎ取り塗料)を使用することによって作業効率を向上できる。
【0033】
汚染除去に用いられる有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、酢酸エチル、酢酸nブチル、メチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
また、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のアルコール溶媒にリモネンを混合することにより、さらに除去性を高めることができる。たとえばリモネン・アルコール系の市販品として「消すぞーくん(商品名)」(シントーファミリー社製)が市販されている。
ストリッパブルペイントとしては市販のものが使用でき、一例としては塩化ビニルまたは酢酸ビニル系の樹脂を有機溶剤に溶解させたものが使用できる。これを塗膜上に付着した汚染物の上から塗布し、乾燥後に引き剥がすことによって汚染物を除去できる。また汚染除去作業の効率を上げるため、さらに仕上げに高圧水洗浄機等を組み合わせて使用することも有効である。
【0034】
本発明の塗料用組成物によれば、表面の撥水撥油性が良好で、ラッカーや油性インキなどによる汚染の除去性に優れた塗膜が形成できる。該塗膜は耐久性に優れ、耐候性に優れ、耐溶剤性が良好であり、有機溶剤を用いた汚染除去を繰り返し行っても塗膜の良好な表面状態が保たれる。したがって、長期にわたって塗装物品の美観が保護され、かつ汚染除去性能の持続性に優れる。
これは、フッ素樹脂と、特定の構造を有するシリコン変性アクリルポリマーと、硬化剤を組み合わせて塗膜を形成することによって、フッ素樹脂による耐久性および耐候性が損なわれずに、シリコン変性アクリルポリマーによる撥水撥油性の向上が得られるとともに、フッ素樹脂と、シリコン変性アクリルポリマーと、硬化剤との架橋反応により膜密度が向上して優れた耐溶剤性が発現され、かつフッ素樹脂とシリコン変性アクリルポリマーとの相乗効果により汚染除去性の持続性が良好となるためと考えられる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。以下において、「%」および「部」は特に断りがない限り質量基準である。
【0036】
下記の実施例および比較例における評価は以下の方法で行った。
〔接触角測定〕
FACE接触角計 CA−A型(協和界面化学社製)を使用して、イオン交換水および流動パラフィン(関東化学社製、鹿1級、比重15/15℃ 0.870〜0.890)の液滴をそれぞれ0.005ミリリットルに調整して、接触角を測定した。
【0037】
〔油性インキの除去性〕
塗膜上に赤色および黒色の油性インキによる落書きをそれぞれ行い、3日間室温で保持した後、拭き取り布としてBEMCOT(商品名、小津産業社製)を使用して乾拭きした。
さらに赤色油性インキについては、リモネン・アルコール系の除去剤(シントーファミリー社製、商品名:消すぞーくん)を用いて拭き取る試験も行った。
油性インキの落ち具合は、完全に除去できたものを「○」、殆ど除去できないものを「×」、その中間を「△」として表記した。
【0038】
〔ラッカースプレーの除去性〕
赤色および黒色のアクリルラッカーであるスーパーラッカースプレー(アサヒペン社製)を試験体に吹き付け、3日間室温で保持した後、BEMCOT(上記と同じ)を使用して乾拭きした。またガムテープを貼り付けて引き剥がす試験も行った。
ラッカー塗膜の落ち具合は、完全に除去できたものを「○」、殆ど除去できないものを「×」、その中間を「△」として表記した。
【0039】
〔促進耐候性〕
サンシャインウェザーメーターにて4000時間照射した時点での試験体の外観について、殆ど変化が認められないものを「○」、明らかに色艶の変化が認められるものを「×」、その中間を「△」として表記した。
また、サンシャインウェザーメーターにて1000時間照射した塗膜に赤色および黒色の油性インキによる落書きを行い3日間室温で保持した後、BEMCOT(上記と同じ)を使用して乾拭きした。油性インキの落ち具合は、完全に除去できたものを「○」、殆ど除去できないものを「×」、その中間を「○△」「△」として表記した。「○△」は、「○」より劣るが「△」よりも良いことを示す。
【0040】
[実施例1]
下記表1の配合で塗料を調製した。
フッ素樹脂として、固形分の水酸基価が123[mgKOH/g]、固形分が65%のルミフロンLF−976N(商品名、旭硝子社製、M:7,000)を50部用いた。水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーとして、BYK−Silclean3700(商品名、ビックケミージャパン社製、固形分25%、水酸基価120mgKOH/g、M:約9,000、T:70〜80℃)を5部用いた。これらをキシレンの30部およびジブチル錫ジラウリレートの0.0007質量部と混合して塗料用組成物を調製した。
得られた塗料用組成物と、硬化剤としての多価イソシアネート化合物(日本ポリウレタン社製、商品名:コロネート−HX、固形分100%、NCO含量21.3質量%)の14.6部を混合して塗料を調製した。
表1中の架橋点総数比は、「硬化剤の架橋点総数/フッ素樹脂および水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーの架橋点総数」を計算した値を示す。
得られた塗料をアルミ板上に、エアスプレーを使用して乾燥膜厚が18μmになるように塗装し、20℃の雰囲気中で7日間静置して塗膜を形成し、試験体を得た。
得られた試験体について、接触角、油性インキ除去性、ラッカー除去性、および耐候性の評価を上記の方法で行った。評価結果を下記表1に示す。
【0041】
〔実施例2〕
フッ素樹脂、多価イソシアネート化合物および水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーの配合量を表1に示す通りに変更した他は実施例1と同様にして塗料を調製し、該塗料を用いて試験体を作製した。
得られた試験体について、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を下記表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
〔比較例1〕
上記実施例1において、水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーを配合せず、かつ多価イソシアネート化合物の配合量を14.1部に変更した他は、実施例1と同様にして塗料を調製し、該塗料を用いて試験体を作製した。
塗料の配合を下記表2に示す。表2中の架橋点総数比は、「硬化剤の架橋点総数/フッ素樹脂の架橋点総数」を計算した値を示す(以下、同様)。
得られた試験体について、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を下記表2に示す。
【0044】
〔比較例2〕
上記実施例1において水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーの代わりに、パーフルオロアルキル含有アクリル共重合体であるAG−5690(商品名、旭硝子社製、固形分10質量%)の5部を配合した。また多価イソシアネート化合物の配合量を14.1部に変更した。これらの他は実施例1と同様にして塗料を調製し、該塗料を用いて試験体を作製した。
得られた試験体について、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を下記表2に示す。
【0045】
〔比較例3〕
上記実施例1において、水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーの代わりに、シリカ濃度が56%であるメチルシリケート56(商品名、三菱化学社製)の3.5部を配合した。また多価イソシアネート化合物の配合量を14.1部に変更した。これらの他は実施例1と同様にして塗料を調製し、該塗料を用いて試験体を作製した。
得られた試験体について、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を下記表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表1および表2の結果より、本発明にかかる実施例では、塗膜表面の撥水撥油性が良好であり、油性インキおよびラッカーの除去性も良好であった。耐候性については、外観はシリコン変性アクリルポリマーを配合しなかった比較例1と同等に優れており、汚染除去性の持続性は比較例1よりも格段に向上した。
これに対して、水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーを配合しなかった比較例1では撥水撥油性が不充分であり、汚染除去性に劣っていた。
また、水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーに代えて、パーフルオロアルキル含有アクリル共重合体を用いた比較例2では、撥水撥油性および耐候性が良好であったが、汚染除去性が劣っていた。
また、水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーに代えて、メチルシリケートを用いた比較例3では、撥水性が低く、汚染除去性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーおよびフッ素樹脂を含有することを特徴とする塗料用組成物。
【請求項2】
前記フッ素樹脂の水酸基価が90〜280mgKOH/gである請求項1に記載の塗料用組成物。
【請求項3】
固形分換算で、前記フッ素樹脂の100質量部に対し、前記水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーの含有量が0.1〜10質量部である請求項1または2に記載の塗料用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗料用組成物と、硬化剤とを含有する塗料。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗料用組成物と、硬化剤を備える塗料用キット。
【請求項6】
最表面層が、請求項4に記載の塗料を用いて形成された塗膜からなる塗装物品。


【公開番号】特開2007−112893(P2007−112893A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305405(P2005−305405)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000116954)旭硝子コートアンドレジン株式会社 (24)
【Fターム(参考)】