説明

塗料組成物、塗装仕上げ方法及び塗装物品

【課題】耐洗車傷性、耐酸性、耐候性に優れた塗膜を形成する塗料組成物、塗装仕上げ方法及び塗装物品を提供する。
【解決手段】
水酸基価が80〜220mgKOH/g、ガラス転移温度が−50℃以上、かつ0℃未満であって、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに由来する単位を25〜55質量%含有する水酸基含有樹脂(A)、水酸基価が80〜220mgKOH/g、ガラス転移温度が0〜50℃である水酸基含有樹脂(B)、及びポリイソシアネート化合物から成る架橋剤(C)とを必須成分とする塗料組成物であって、水酸基含有樹脂(A)と水酸基含有樹脂(B)との含有割合が、樹脂固形分質量比で95/5〜50/50であり、水酸基含有樹脂(A)および水酸基含有樹脂(B)の合計の水酸基に対する架橋剤(C)の官能基であるイソシアネート基の含有割合がNCO/OHのモル比で0.5〜1.5である塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、新規な塗料組成物、塗装仕上げ方法及び塗装物品に関する。さらに詳しく言えば、特に自動車塗装分野において、耐酸性、耐候性に優れ、特に耐洗車傷性に優れた塗膜が得られる塗料組成物、その塗料組成物を塗布する塗装仕上げ方法、およびその塗装仕上げ方法により得られる塗装物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐酸性雨性、耐擦り傷性などに優れた塗料組成物として、ラクトン化合物を用いた(A)重量平均分子量が1000以下、かつ水酸基価が200〜800の水酸基含有ラクトン変性オリゴマーを5〜30重量%、(B)重量平均分子量が1000〜6000、かつ水酸基価が50〜200の水酸基含有樹脂を5〜50重量%、(C)ポリイソシアネート化合物を30〜70重量%及び(D)メラミン樹脂を3〜30重量%の比率で含有する塗料組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この塗料組成物は、低分子量の水酸基含有ラクトンオリゴマーを用いるので、塗膜のガラス転移点(Tg)が低下してしまい、耐汚染性や耐候性が低下するという欠点があった。
【0003】
また、耐酸性、耐擦り傷性、耐久性に優れた熱硬化性塗料組成物として、ブロックイソシアネート化合物を用いた(A)水酸基価が20〜200mgKOH/g、酸価が5〜50mgKOH/gの水酸基とカルボキシル基を有するビニル共重合体と、(B)(b1)1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する脂肪族系ポリイソシアネート化合物と、(b2)1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する芳香族系及び/または脂環族系ポリイソシアネート化合物からなり、固形分の質量比が20/80〜80/20であるイソシアネート化合物を、(b3)複素環式化合物と(b4)活性メチレン化合物からなり、モル比が50/50〜90/10であるブロック剤でブロックしたブロックイソシアネート化合物を含有し、(A)成分の水酸基と(B)成分のブロックされたイソシアネート基のモル比を1/2〜2/1にするという技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この塗料組成物では、3,5−ジメチルピラゾールあるいは1,2,4−トリアゾールから選ばれる複素環式化合物の脱ブロック反応が、活性メチレン化合物とのエステル交換反応より遅いため、低温での硬化性が低下するという欠点があった。
【0004】
また、耐酸性、耐引っ掻き傷性に優れたクリヤーコートとして、ガラス転移温度の異なる樹脂を組合せた−100℃〜−10℃のガラス転移温度(Tg)を有する柔軟性アクリル樹脂および20℃〜70℃のガラス転移温度(Tg)を有する硬質アクリル樹脂から選択される1以上の水酸基含有アクリル樹脂、および1以上のジ(アルコキシ)アルキルジカルボン酸エステルエンドキャップ化ポリイソシアネート架橋剤を含むコーティング組成物が知られている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、ジ(アルコキシ)アルキルジカルボン酸エステルエンドキャップ化ポリイソシアネート架橋剤を用いるため、塗膜の硬化性や耐薬品性が十分でないという欠点があった。
【0005】
また、耐擦り傷性と耐酸性に優れたクリヤー塗料用樹脂組成物として、炭素数4〜9のヒドロキシアルキル基を含有するアクリル樹脂と多官能イソシアネート化合物を必須成分とし、ソフトセグメントが、樹脂固形分全量に対して25〜50質量%であって、かつ、水酸基含有アクリル樹脂及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対するラクトン含有モノマー由来のソフトセグメント部の割合が8質量%以下となるように調製されている硬化性樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら、樹脂Tgの低いアクリル樹脂を用いるため、塗膜の硬度や耐薬品性が低下するという欠点があった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−105397号公報
【特許文献2】特開2005−126649号公報
【特許文献3】特開2005−179662号公報
【特許文献4】特開2006−176632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐洗車傷性、耐酸性、耐候性に優れた塗膜を形成することができる塗料組成物、この塗料組成物を用いた塗装仕上げ方法、およびこの塗装仕上げ方法により得られる塗装物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、特定の水酸基価を有し、ガラス転移温度の異なる2種類の水酸基を含有する樹脂を特定割合で含有させ、水酸基と反応するポリイソシアネート化合物系架橋剤とを含有させた塗料組成物にすることにより、その目的を達し得ることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、水酸基価が80〜220mgKOH/gであり、ガラス転移温度が−50℃以上、かつ0℃未満であって、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに由来する単位を25〜55質量%含有する水酸基含有樹脂(A)、水酸基価が80〜220mgKOH/gであって、ガラス転移温度が0〜50℃である水酸基含有樹脂(B)、及びポリイソシアネート化合物から成る架橋剤(C)とを必須成分とする塗料組成物であって、水酸基含有樹脂(A)と水酸基含有樹脂(B)との含有割合が、樹脂固形分質量比で、95/5〜50/50であり、かつ、水酸基含有樹脂(A)および水酸基含有樹脂(B)の合計の水酸基に対する架橋剤(C)の官能基であるイソシアネート基の含有割合が、NCO/OHのモル比で0.5〜1.5であることを特徴とする塗料組成物を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、上記塗料組成物において、水酸基含有樹脂(A)および水酸基含有樹脂(B)が、重量平均分子量1,000〜30,000であるアクリル樹脂である塗料組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記塗料組成物において、水酸基含有樹脂(A)の水酸基が全て1級の水酸基である塗料組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記塗料組成物において、架橋剤(C)が脂肪族ポリイソシアネート化合物である塗料組成物を提供するものである。
さらに、本発明は、上記の塗料組成物を被塗物に塗装することを特徴とする塗装仕上げ方法を提供し、また、上記塗装仕上げ方法により塗装された塗装物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、耐酸性、耐候性に優れ、特に耐洗車傷性に優れた塗膜を与えることができる。また、本発明の塗料組成物を用いた塗装仕上げ法は、塗膜に優れた外観性を与えることができ、さらに、本発明の塗装仕上げ方法により得られる塗装物品は、前記塗膜性能に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の塗料組成物には、水酸基含有樹脂(A)と水酸基含有樹脂(B)の2種類の水酸基含有樹脂が含有されている。
水酸基含有樹脂(A)は、水酸基価が80〜220mgKOH/gで、ガラス転移温度が−50℃以上、かつ0℃未満であり、樹脂中に4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに由来する単位を25〜55質量%含有する樹脂である。
本発明において、この水酸基含有樹脂(A)は、十分な架橋密度を塗膜に持たせることができ、また、塗膜に耐洗車傷性を付与できる。
【0012】
水酸基含有樹脂(A)の水酸基価は、80〜220mgKOH/gであるが、好ましくは100〜200mgKOH/gであり、特に好ましくは120〜200mgKOH/gである。水酸基価が80mgKOH/g未満の場合には、塗膜の架橋密度が不十分であるため耐汚染性の低下や塗膜硬度が得られない。また、水酸基価が220mgKOH/gを超えた場合には硬化剤との相溶性が得られないため塗膜の外観不良が起きる。
また、水酸基含有樹脂(A)は、樹脂中に4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに由来する単位を25〜55質量%含有するが、特に好ましくは30〜55質量%である。水酸基含有樹脂(A)の含有する4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが55質量%を超えると、硬化剤との相溶性が得られないため塗膜の外観不良が起きる。ここで、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートは、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレートのいずれであってもよいことを意味する。
【0013】
水酸基含有樹脂(A)のガラス転移温度は、−50℃以上、かつ0℃未満であり、好ましくは−40〜−10℃である。ガラス転移温度が−50℃より低い場合には、十分な塗膜硬度が得られず、逆に0℃以上の場合には、塗膜が脆弱化し機械的強度が低下する。
ここで、ガラス転移温度とは下記に示した式から計算された数値である。
1/Tg=Σ(mi/Tgi)
Tg:共重合体のガラス転移温度
mi:モノマーi成分のモル分率
Tgi:モノマーi成分のホモポリマーのガラス転移温度(K)
【0014】
水酸基含有樹脂(B)は、水酸基価が80〜220mgKOH/gで、ガラス転移温度が0〜50℃である樹脂である。
本発明において、この水酸基含有樹脂(B)は、十分な架橋密度を塗膜に持たせることができ、また、十分な塗膜硬度を付与できる。
水酸基含有樹脂(B)の水酸基価は、80〜220mgKOH/gであるが、好ましくは、100〜200mgKOH/であり、特に好ましくは、120〜200mgKOH/gである。水酸基価が80mgKOH/g未満の場合には、充分な塗膜硬度が得られず、耐汚染性が低下し、水酸基価が220mgKOH/gを超える場合には硬化剤との相溶性が得られないため塗膜の外観不良が起きる。
【0015】
水酸基含有樹脂(B)のガラス転移温度は、0〜50℃であり、好ましくは10〜50℃である。ガラス転移温度が0℃未満の場合には、十分な塗膜硬度が得られず、逆に50℃を超える場合には、塗膜が脆弱化し機械的強度が低下する。
また、水酸基含有樹脂(A)及び水酸基含有樹脂(B)の重量平均分子量は、1,000〜30,000が好ましいが、2,000〜20,000がより好ましく、3,000〜15,000が特に好ましい。重量平均分子量が、1,000未満の場合には、十分な塗膜硬度が得られず、ウエットオンウエット塗装時における外観不良が起こり、重量平均分子量が、30,000を超える場合には、硬化剤との相溶性の低下により塗膜の外観不良が起きる。
【0016】
また、水酸基含有樹脂(A)及び水酸基含有樹脂(B)は、アクリル樹脂であることが好ましい。
アクリル樹脂としては、アクリル系単量体に由来する単位を50質量%以上含有する樹脂が好ましく、70質量%以上含有する樹脂がより好ましく、80質量%以上含有する樹脂が特に好ましい。
また、水酸基含有樹脂(A)が含有する全ての水酸基が、1級の水酸基であることが好ましい。
水酸基含有樹脂(A)が含有する水酸基において、2級および/または3級の水酸基で、構成される場合には、低温での塗膜の硬化不良により耐酸性の低下が起こることがあるので好ましくない。
【0017】
また、水酸基含有樹脂(A)においては、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに由来する単位の他に、1級の水酸基を有するラジカル重合性単量体に由来する単位を含有したものであってもよい。
これら水酸基を有するラジカル重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、アリルアルコール、;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、又はメタクリル酸4−ヒドロキシブチルのエチレンオキサイド及び/またはプロピレンオキサイド付加物などが挙げられる。
水酸基含有樹脂(B)は、好ましくは1級の水酸基を有するラジカル重合性単量体に由来する単位を含有するものである。
【0018】
水酸基含有樹脂(A)および水酸基含有樹脂(B)には、その他のラジカル重合性単量体に由来する単位を含有していてもよい。
その他のラジカル重合性単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミドなどが挙げられ、1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0019】
水酸基含有樹脂(A)および水酸基含有樹脂(B)は、上記ラジカル重合性単量体をラジカル重合することにより製造することができる。
ラジカル重合をおこなう場合、ラジカル重合開始剤を配合してもよい。ラジカル重合開始剤としては、例えば2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、2.2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、4、4’−アソビス−4−シアノ吉草酸、1−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2、2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物、メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、3,5,5−トリメチルヘキサノンパーオキシド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、t−ブチルヒドロパーオキンド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、イソブチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンソエート、t−ブチルパーオキシソプロピルカーボネート等の有機過酸化物が挙げられる。ラジカル重合開始剤は1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ラジカル重合開始剤の配合量は、特に制限ないが、ラジカル重合性単量体の全量に対して0.01〜20質量%にすることが好ましい。
これらのラジカル重合開始剤の系においては必要に応じてジメチルアニリン、硫酸第1鉄、塩化第1鉄、酢酸第1鉄等の第1鉄塩、酸性亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット等の還元剤を組み合わせても差し支えないが、重合温度が低くなりすぎないように留意して選択する必要がある。
【0021】
水酸基含有樹脂(A)及び水酸基含有樹脂(B)の製造において用いられる有機溶剤の適当な例としては、例えばシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、芳香族ナフサ等の芳香族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸3−メトキシブチル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)等のエステル系溶剤、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン等のエーテル系溶剤、アセトニトリル、バレロニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等の含窒素系溶剤が挙げられる。有機溶剤は、1種単独であっても、あるいは2種以上の複数種類の混合溶剤であっても差し支えない。この際、水酸基含有樹脂の固形分濃度は樹脂の分散安定性を損なわない範囲において任意に選ぶことができるが、通常固形分濃度で10〜70質量%である。
【0022】
水酸基含有樹脂(A)及び水酸基含有樹脂(B)の製造に際して、有機溶剤及びラジカル重合開始剤の添加方法は任意であるが、重合熱、反応熱をコントロールする目的で、有機溶剤溶液を反応槽に仕込み攪拌しなから、滴下槽よりラジカル重合性単量体あるいはその有機溶剤溶液を滴下する方法が好ましい。
上記重合反応の重合温度はラジカル重合開始剤の種類、併用する還元剤の有無によって異なるが、50〜200℃の条件で行うことが好ましく、80〜160℃の条件で行うことがさらに好ましい。重合温度が50℃以下の場合には、ラジカル重合性単量体と水酸基含有樹脂とが相分離し易くなることがある。一方、200℃を越える場合には予期せぬ解重合等の副反応が起こることがある。
【0023】
本発明の塗料組成物中の水酸基含有樹脂(A)と水酸基含有樹脂(B)との含有割合は、樹脂固形分質量比で、95/5〜50/50の範囲であり、90/10〜60/40の範囲がより好ましい。水酸基含有樹脂(B)成分が5質量%未満では、得られる塗膜の耐薬品性が低下し、また50質量%を超えた場合は、耐洗車傷性が低下する。
【0024】
本発明の塗料組成物に用いられるポリイソシアネート化合物から成る架橋剤(C)としては、水酸基と反応するイソシアネート基を1分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上有するイソシアネート化合物が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種類以上を組合せて用いても良い。
【0025】
1分子当たりイソシアネート基2個以上を有するポリイソシアネート化合物としては、例えば、p−フェニレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネート、メチレンビス(フェニルイソシアネート)、リジンメチルエステルジイソシアネート、ビス(イソシアネートエチル)フマレート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2−イソシアネートエチル−2,6−ジイソシアネートヘキサノエート及びこれらのビュレット体、イソシアヌレート体などを挙げることができる。
【0026】
水酸基含有樹脂(A)および水酸基含有樹脂(B)の合計の水酸基に対する架橋剤(C)のイソシアネート基の含有割合は、NCO/OHのモル比で0.5〜1.5であるが、好ましくは0.8〜1.2である。NCO/OHのモル比で0.5未満の場合では、十分な架橋密度が得られないため、耐酸性や塗膜硬度が低下する。また、NCO/OHのモル比で1.5を超えた場合には、耐候性の低下が起きる。
【0027】
本発明の塗料組成物は、そのままで、あるいは必要に応じて、有機溶剤、各種添加剤、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、界面活性剤、表面調整剤、硬化反応触媒、帯電防止剤、香料、脱水剤、さらにはポリエチレンワックス、ポリアマイドワックス、内部架橋型樹脂微粒子等のレオロジー調整剤などの1種以上を添加して使用することができる。
本発明の塗料組成物は、クリヤー塗料として用いてもよいし、染料、顔料などの着色剤を配合して着色塗料として用いてもよい。
【0028】
また、本発明の塗料組成物は、上塗り塗料組成物として使用することが好ましい。
本発明の上塗り塗料の塗装仕上げ方法は、例えば、基材上に着色ベースコートを塗装し、未架橋のまま上塗り塗料とし本発明の塗料組成物を塗装する2コート1ベーク塗装仕上げ方法、基材上に着色ベースコートを塗装し、未硬化のまま、上塗り塗料を塗装し、同時に焼付けた後に、オーバーコート塗料として、本発明の塗料組成物を塗装し、焼き付けるオーバーコート塗装仕上げ方法、及び上記オーバーコート塗装仕上げ方法において、下地コートとの密着性確保のために、プライマー塗料を塗装し、未架橋のまま本発明の塗料組成物をオーバーコート塗料として塗装する塗装仕上げ方法等が挙げられる。
【0029】
前記着色ベースコート塗料、上塗り塗料、オーバーコート塗料、及びプライマー塗料は、必要に応じて加温したり、有機溶剤又は反応性希釈剤を添加することにより所望の粘度に調整した後、エアースプレー、静電エアースプレー、ロールコーター、フローコーター、ディッピング形式による塗装機等の通常使用される塗装機、又は刷毛、バーコーター、アプリケーターなどを用いて塗装が行われる。これらのうちスプレー塗装が好ましい。
本発明の塗料組成物を塗布して得られる塗膜の厚みは、特に制限ないが、通常乾燥後の膜厚が10〜150μmが好ましく、10〜100μmがより好ましい。
また、本発明の塗料組成物を塗装する基材としては、木、ガラス、金属、布、プラスチック、発泡体、弾性体、紙、セラミック、コンクリート、石膏ボード等の有機素材及び無機素材などが挙げられる。これらの基材は、予め表面処理されたものでもよいし、予め表面に塗膜が形成されたものでもよい。
これまで具体例を示したが、本発明の塗料組成物の塗装仕上げ方法は、これらにより何ら制限されるものではない。
【0030】
本発明の塗料組成物により得られる塗装物品としては、例えば、構造物、木製品、金属製品、プラスチック製品、ゴム製品、加工紙、セラミック製品、ガラス製品などが挙げられる。より具体的には、自動車、自動車用部品(例えば、ボディー、バンパー、スポイラー、ミラー、ホイール、内装材等の部品であって、各種材質のもの)、鋼板等の金属板、二輪車、二輪車用部品、道路用資材(例えば、ガードレール、交通標識、防音壁等)、トンネル用資材(例えば、側壁板等)、船舶、鉄道車両、航空機、家具、楽器、家電製品、建築材料、容器、事務用品、スポーツ用品、玩具などが挙げられる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。なお、実施例及び比較例中、部とは質量部を意味し、%とは質量%を意味する。
本発明の塗料組成物により得られる塗膜の性能は次のようにして求めた。
(1)外観性
塗膜を目視観察により、次の基準に従い評価した。
○:塗膜に蛍光灯を映すと、蛍光灯が鮮明に映る。
△:塗膜に蛍光灯を映すと、蛍光灯の周囲(輪郭)がややぼやける。
×:塗膜に蛍光灯を映すと、蛍光灯の周囲(輪郭)が著しくぼやける。
【0032】
(2)硬度
塗膜を指触により、次の基準に従い評価した。
○:塗膜にタック感がない。
△:塗膜にわずかにタック感がある。
×:塗膜に著しいタック感がある。
(3)耐洗車傷性
試験板上に泥水(JIS Z−8901−84 8種ダスト/水/中性洗剤=10/99/1重量比で混合したもの)をハケで塗布後、自動車用洗車機にて洗車ブラシを150rpmで10秒間回転させ、試験板を流水にて洗浄する。以上の操作を10回繰り返した後、試験板表面の擦り傷の程度を色彩色差計(商品名「CR−331」、ミノルタカメラ(株)製)によりL*値を測定した。数値が低いほど良好である。
【0033】
(4)耐酸性
耐酸性:40%硫酸水溶液0.2mlを試験板にスポット状に乗せた後60℃で15分間加熱し、その後水洗いしてシミ跡の発生度合いを目視観察した。
○:塗膜にほとんど変化が見られない。
△:塗膜にわずかに水シミ跡が見られる。
×:塗膜に著しい水シミ跡が見られる。
(5)耐候性
サンシャインカーボンアーク灯式促進耐候性試験機(JIS K−5400(1990)9.8.1)を用いて3000時間曝露後、塗膜の状態を目視判定した。
【0034】
<製造例1>
水酸基含有樹脂溶液 A−1の製造
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた4つ口フラスコにキシレンを33.9部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら加熱し140℃を保った。次に、140℃の温度で、スチレン12部、シクロヘキシルメタクリレート24部、4−ヒドロキシブチルアクリレート24部のラジカル重合性と、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート5部との均一に混合した滴下成分を2時間かけて滴下ロートより等速滴下した。滴下終了後、140℃の温度を1時間保った後、反応温度を110℃に下げた。その後、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.1部をキシレン1部に溶解させた重合開始剤溶液を追加触媒として添加し、さらに110℃の温度を2時間保ったところで反応を終了し、水酸基含有樹脂溶液A−1を得た。
<製造例2〜7>
表1に記載した原料の仕込み量に変えた以外は、A−1と同様にして、水酸基含有樹脂溶液A−2〜7を得た。表1及び表2に示す各成分の仕込み量の単位は、質量部である。
【0035】
【表1】

【0036】
<製造例8〜14>
水酸基含有樹脂溶液 B−1〜7の製造
表2に記載した原料の仕込み量に変えた以外は、A−1と同様にして、水酸基含有樹脂溶液B−1〜7を得た。
【0037】
【表2】

【0038】
<実施例1〜10、比較例1〜15>
表3、表4及び表5に記載した原料を順次混合して均一になるように撹拌し、クリヤー塗料CC−1〜CC−25を作成した。表3〜表5に示す各成分の配合量の単位は、質量部である。また、Tgの単位は℃である。
【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】

【表5】

【0042】
≪表の注記≫
1)デスモジュールN3300:商品名、住化バイエルウレタン(株)製、液状HDIのヌレートタイプ樹脂(不揮発分100質量%、NCO含有率23質量%)
2)紫外線吸収剤溶液:チヌビン900、商品名、チバスペシャルティケミカルス社製の20質量%キシレン溶液
3)光安定剤溶液:チヌビン292、商品名、チバスペシャルティケミカルス社製の20質量%キシレン溶液
4)表面調整剤溶液:BYK−300、商品名、ビックケミー社製の10質量%キシレン溶液
5)ソルベッソ100:商品名、エッソ社製、芳香族石油ナフサ
【0043】
試験片の作成及び塗膜性能の検討
リン酸亜鉛処理軟鋼板にカチオン電着塗料アクアNo.4200(商品名、BASFコーティングスジャパン(株)製)を乾燥膜厚20μmとなるよう電着塗装して175℃で25分間焼き付け、さらに中塗り塗料HS−H300(商品名、BASFコーティングスジャパン(株)製)を乾燥膜厚30μmとなるようエアスプレー塗装し、140℃で30分間焼き付けた。次に、溶剤系ベースコート塗料であるベルコートNo.6000黒(商品名、BASFコーティングスジャパン(株)製、塗色:黒)を乾燥膜厚15μmとなるようエアスプレー塗装し20℃で3分間セット後、クリヤー塗料CC−1〜20をソルベッソ100(商品名、エッソ社製、芳香族石油ナフサ)で塗装粘度(フォードカップNo.4、20℃で25秒)に希釈したものをウェット・オン・ウェット方式でそれぞれ乾燥膜厚40μmとなるようエアスプレー塗装し、140℃で30分間焼き付けて試験片を作成した。
ただし、実施例1〜7のいずれの場合も耐汚染性の試験板のみは、ベースコート塗料をベルコートNo.6000白(商品名、BASFコーティングスジャパン(株)製、塗色:白)に替えて用いた。
塗膜性能試験結果を表6、表7、表8に示した。表6〜表8に示すTgの単位は℃である。
【0044】
【表6】

【0045】
【表7】

【0046】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基価が80〜220mgKOH/gであり、ガラス転移温度が−50℃以上、かつ0℃未満であって、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに由来する単位を25〜55質量%含有する水酸基含有樹脂(A)、水酸基価が80〜220mgKOH/gであって、ガラス転移温度が0〜50℃である水酸基含有樹脂(B)、及びポリイソシアネート化合物から成る架橋剤(C)とを必須成分とする塗料組成物であって、水酸基含有樹脂(A)と水酸基含有樹脂(B)との含有割合が、樹脂固形分質量比で、95/5〜50/50であり、かつ、水酸基含有樹脂(A)および水酸基含有樹脂(B)の合計の水酸基に対する架橋剤(C)の官能基であるイソシアネート基の含有割合が、NCO/OHのモル比で0.5〜1.5であることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
水酸基含有樹脂(A)および水酸基含有樹脂(B)が、重量平均分子量1,000〜30,000のアクリル樹脂である請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
水酸基含有樹脂(A)の水酸基が全て1級の水酸基である請求項1または2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
架橋剤(C)が脂肪族ポリイソシアネート化合物である請求項1記載の塗料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の塗料組成物を被塗物に塗装することを特徴とする塗装仕上げ方法。
【請求項6】
請求項5の塗装仕上げ方法により塗装されたものであることを特徴とする塗装物品。

【公開番号】特開2009−46642(P2009−46642A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216439(P2007−216439)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(599076424)BASFコーティングスジャパン株式会社 (59)
【出願人】(390008981)ビーエーエスエフ コーティングス アクチェンゲゼルシャフト (155)
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings AG
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D−48165 Muenster,Germany
【Fターム(参考)】