説明

塗料組成物

【課題】触媒能を有する成形体の製造用として適している塗料組成物と、前記塗料組成物を用いたフィルム状触媒の提供。
【解決手段】触媒活性物質前駆体、触媒活性物質、無機担体、触媒活性物質前駆体が担持された無機担体、触媒活性物質が担持された無機担体から選ばれる1又は2以上の無機粉末、メチルイソブチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、フェノール、メタノール、エタノール、ブタノールから選ばれる1又は2以上の水可溶性の溶剤、フェノール樹脂及び水を含有しており、水の含有量が、無機粉末100質量部に対して5〜40質量部であり、水が無機粉末に吸着している塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒能を有する成形体の製造用として適している塗料組成物と、前記塗料組成物を用いたフィルム状触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
基材に触媒を坦持させた触媒体は、合成反応や分解反応等の各種用途に提供されている。
【0003】
固定床方式で用いられる触媒の形態としては、従来からペレット状、ヌードル状、あるいはタブレット状といった成形触媒がよく知られている。触媒活性をもつ粉末状の物質を上記形態に圧縮もしくは押出し等の方法により成形加工することで、得られた成形体は中に無数の細孔を有する構造となり、バルク形態と高い表面積とを両立させたものである。例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
固定床方式で用いられる触媒の他の形態としては、さらにモノリス状の触媒が知られている。例えば、特許文献2には、モノリスの表面上に触媒金属を付着させた反応器が開示されている。
【0005】
上記モノリス、さらにハニカム状の触媒技術として、近年特に光触媒の分野で、塗工によって支持体上に触媒活物質を担持させる数多くの検討がなされている。例えば特許文献3には、酸化チタン粒子を水分散あるいはバインダー溶液で分散したものを支持体に塗布し乾燥させた後、さらにバインダー溶液をこの触媒層に塗布し乾燥させる光触媒粒子の担持方法が開示されている。
【0006】
また触媒の塗工前の段階の塗料組成を制御することで細孔を形成させる技術も開示されている。例えば、特許文献4、5では、塗料をエマルション化することで塗工時の触媒表面露出を実現させている。
特許文献4には、光触媒とバインダを含む水相と、樹脂と溶剤を含む油相とを混合したエマルションを基材に塗布した後、油分と水分を蒸発させる、光触媒効果を有する多孔質膜の製造方法の発明が開示されている。
特許文献5には、光半導体性粉末を含有する水相と、樹脂、溶剤を含有する油相からなる油中水滴型エマルションを基材上に塗布し、溶剤除去して、光触媒性能を有する機能材料の製造方法の発明が開示されている。
【0007】
触媒の塗工前の段階の塗料組成により細孔を制御する技術も開示されている。例えば、特許文献6、7では、塗料中の溶剤種の選択によりフィルム型触媒の細孔構造をコントロールする発明が開示されている。
【0008】
また特許文献8には、粉末状光触媒と結着剤としての金属酸化物ゾルとの混合物を用い、40〜100℃の熱水中に浸漬するか、100〜200℃の水蒸気に接触させることで、空孔を持った光触媒体を製造する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−211754号公報
【特許文献2】特開2003−176255号公報
【特許文献3】特開平9−271676号公報
【特許文献4】特開2005−296830号公報
【特許文献5】特開平10−128124号公報
【特許文献6】WO2005/035122号広報
【特許文献7】特開平2008−110340号公報
【特許文献8】特許第3496299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
触媒体及びその製造方法には、触媒活性が高いこと、基材上の触媒層が脱落し難く、耐久性が高いこと、製造方法が簡単であることが望まれている。しかし、上記した特許文献1〜8の発明では、全ての要望を満たすことはできない。
【0011】
より具体的には、特許文献2の発明では、揮発部の孔が大きく膜としてもろいと考えられ、特許文献3の発明では、図より、揮発部の孔は1μm程度あることが推察され、孔径が大きく膜としてもろいと考えられる。
さらに特許文献4の発明では、触媒粉末上に水を塗布し触媒粉末細孔へ吸着させ、その後バインダとなる樹脂層を塗布している。こうすることで水の層の上にバインダ層(樹脂層)が形成されていると考えられ、膜の強度としては弱いと考えられる。特許文献6、7の発明では、溶剤種の組み合わせ、添加量については明記されていない。特許文献8の発明は、作製方法が簡便でない。
【0012】
本発明は、簡単な製造工程により、触媒活性が高く、耐久性も高い触媒体を製造することができる塗料組成物を提供することを一つの課題とする。
【0013】
さらに本発明は、前記塗料組成物を用いたフィルム状触媒を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、課題の解決手段として、
触媒活性物質前駆体、触媒活性物質、無機担体、触媒活性物質前駆体が担持された無機担体、触媒活性物質が担持された無機担体から選ばれる1又は2以上の無機粉末、メチルイソブチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、フェノール、メタノール、エタノール、ブタノールから選ばれる1又は2以上の水可溶性の溶剤、フェノール樹脂及び水を含有しており、
水の含有量が、無機粉末100質量部に対して5〜40質量部であり、水が無機粉末に吸着している塗料組成物を提供する。
【0015】
さらに本発明は、他の課題の解決手段として、
支持体上に請求項1記載の塗料組成物からなる触媒層を有するフィルム状触媒であって、
前記触媒層が多数の細孔を有しているものであり、前記細孔径が3〜100nmの範囲であり、細孔容量が0.03〜0.07ml/gである、フィルム状触媒を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の塗料組成物は、所定量範囲の水を含有しており、水が触媒へ吸着していることで、フィルム状触媒等の触媒体を製造したとき、小さい細孔径領域で細孔容量を高くすることができるため、高い触媒活性を得ることができる。また、投入した水のうち全量が触媒へ吸着する必要はなく、一部の吸着で効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<塗料組成物>
〔無機粉末〕
無機粉末(無機粉末触媒)は、触媒活性物質前駆体、触媒活性物質、無機担体、触媒活性物質前駆体が担持された無機担体、触媒活性物質が担持された無機担体から選ばれる1又は2以上のものである。
【0018】
触媒活性物質前駆体としては、酸化銀、または酸化銅、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化コバルト、酸化鉄、酸化クロム等の第4周期遷移金属元素の酸化物、Pt、Pd、Ru等の白金族元素等の酸化物、周期律表の3A族元素の酸化物、アルカリ金属類の酸化物、アルカリ土類金属の酸化物が挙げられる。
【0019】
触媒活性物質としては、Ag、Au、またはCu、Ni、Zn、Co、Fe、Cr等の第4周期遷移金属元素、Pt、Pd、Ru等の白金族元素、周期律表の3A族元素、アルカリ金属類、アルカリ土類金属が挙げられる。
【0020】
無機担体としては、活性炭、アルミナ、シリカ、チタニア、シリカ−アルミナ、ジルコニア、珪藻土等が挙げられる。
【0021】
触媒活性物質前駆体が担持された無機担体は、上記した無機担体に上記した触媒活性物質前駆体が担持されたものである。
【0022】
触媒活性物質が担持された無機担体は、上記した無機担体に上記した触媒活性物質が担持されたものである。
【0023】
無機担体に触媒活性物質前駆体又は触媒活性物質を担持させる方法としては、通常の含浸法、共含浸法、共沈法、イオン交換法等の公知の方法が適用できる。
【0024】
無機粉末(無機粉末触媒)は、平均粒径で0.01〜500μmのものが好ましく、より好ましくは0.5〜150μm、さらに好ましくは1〜50μmの粒子径を有するもので、その分布がシャープなものが好ましい。さらにBET法による比表面積が1〜500m2/gのものが好ましく、より好ましくは5〜200m2/g、さらに好ましくは10〜100m2/gのものである。
【0025】
〔フェノール樹脂〕
フェノール樹脂はバインダとなる成分であり、塗料としての調製のしやすさの観点から、フェノール樹脂と溶剤との混合物の状態で用いることもできる。この場合の溶剤は、塗料組成物の一成分として用いる水可溶性の溶剤と同じものを用いることができる。
【0026】
塗料組成物中のフェノール樹脂の含有量は無機粉末(無機粉末触媒)100質量部に対して、10〜70質量部が好ましく、15〜70質量部がより好ましく、15〜50質量部がさらに好ましい。
【0027】
〔水可溶性の溶剤〕
水可溶性の溶剤は、メチルイソブチルケトン(MIBK)〔MIBK100mlに対する水の溶解度(以下「水の溶解度」という)1.8ml〕、アセトン(水の溶解度∞)、シクロヘキサノン(水の溶解度8ml)、フェノール(水の溶解度8.4ml)、メタノール(水の溶解度∞)、エタノール(水の溶解度∞)、ブタノール(水の溶解度20.1ml)から選ばれるものである。これらのうち、MIBK、シクロヘキサノン、ブタノールが溶解度が低く特に好ましい。またベンゼン(水の溶解度0.06ml)、シクロヘキサン(水の溶解度0.01ml)、トルエン(水の溶解度0.05ml)、n-ヘプタン(水の溶解度0.06ml)、エチルベンゼン(水の溶解度0.05ml)なども溶解度が低く同様に用いることができる。
【0028】
塗料組成物中、水可溶性の溶剤の含有量は無機粉末100質量部に対して10〜120質量部が好ましく、20〜120質量部がより好ましく、20〜100質量部がさらに好ましい。
【0029】
なお、水可溶性成分と非水可溶性成分を混合する場合は、エマルジョンでの使用が可能であるが、エマルジョン以外での使用も可能である。
【0030】
〔水〕
水は、積極的に添加するものに加えて、無機粉末に吸着・坦持されている水、フェノール樹脂に吸湿された水も含まれる。
【0031】
塗料組成物中の水の含有量は、無機粉末100質量部に対して5〜40質量部であり、10〜40質量部が好ましく、10〜30質量部がより好ましい。5質量部以上であると、フィルム状触媒を製造したときの細孔容量を高くすることができ、40質量部以下であると、フィルム状触媒を製造するときの触媒層の形成が容易になる。
【0032】
塗料組成物の調製は、各成分を均一に混合できる方法であれば特に制限されないが、本発明においてはメディア型ミルやペントシェーカーを用いて調製することが好ましい。
【0033】
メディア型ミルとしては、ボールミル、アトライター、ADミル、ツインADミル、バスケットミル、ツインバスケットミル、ハンディミル、グレンミル、ダイノミル、アペックスミル、スターミル、ビスコミル、サンドグラインダー、ビーズを用いたペイントシェーカー等を挙げることができ、その他のものとして、ディゾルバータイプの混合分散機も用いることもできる。
【0034】
塗料組成物中の固形分は、塗布層からの水可溶性の溶剤や水が脱離する時に細孔構造が制御され、細孔構造の形成に影響を与えるため、10〜80質量%が好ましく、より好ましくは20〜70質量%、さらに好ましくは25〜65質量%である。また塗料組成物の粘度は、塗布方式によって好ましい範囲で選択されるもので、例えば5〜10,000mPas、好ましく20〜5,000mPas、より好ましく50〜1,000mPasである。
【0035】
塗料組成物中には、無機粉末、バインダとなるフェノール樹脂、水可溶性の溶剤、水が存在しており、フェノール樹脂と水が無機粉末へ吸着した状態で存在している。このとき、溶剤に対する水の溶解度により、溶剤へ溶解する水と無機粉末へ吸着する水の存在割合が決定される。水の溶解度が低い溶剤ほど、溶剤中に水が存在し難くなり、その分、無機粉末表面へ吸着される水の量が多くなる。これにより、塗料組成物中の残りの成分である、フェノール樹脂が無機粉末へ吸着できる箇所は少なくなる。
【0036】
<フィルム状触媒>
本発明のフィルム状触媒は、支持体上に上記の塗料組成物を乾燥及び硬化した触媒層を有するもので、前記触媒層が多数の細孔を有しているものである。前記細孔径は3〜100nmの範囲であり、細孔容量が0.03〜0.07ml/gである。
【0037】
本発明のフィルム状触媒とは、従来型の数mm程度の大きさを持つ不規則充填物タイプとは異なり、厚さ1mm以下の薄いフィルム状の形態の触媒を指す。反応物及び生成物が触媒体内部を移動する過程は拡散支配であり、その距離(厚さ)を1mm以下まで短くする事で、触媒体外部との間での物質移動を促進し、触媒体内部まで有効に活用できると共に、触媒体内部での中間反応物の過反応を抑制する事ができる。特に100μm以下の厚さである事が、触媒重量当りの反応活性が顕著に高くなって好ましく、50μm以下である事がより好ましい。厚さの下限は、触媒層の強度確保及び強度面の耐久性を得るために0.01μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。
【0038】
フィルム状触媒の構造としては、反応器形状に応じて種々の形態のものが挙げられる。例えば、管内壁面上に形成された触媒コーティング層や、管内を複数の軸方向流通路に間仕切る薄板状に成形した触媒等が挙げられ、管状の流通式反応器に好適に用いることができる。また、槽内部に設置された開放型フィン状平板の表面に形成された触媒コーティング層等でもよく、槽型反応器の場合に好適に用いることができる。いずれの場合においても、触媒体に対する反応物の供給と触媒体からの生成物の回収が容易に起こり得る構造をとることが好ましい。また反応物の供給及び生成物の回収が起こる触媒体表面をできるだけ広く設ける事が、反応を効率よく進行させる上で望ましい。上記要件を達成するために、内径数mm〜数十mmの管を束ねた集合体や、セル密度が1平方インチ当り数十〜数百セルのハニカム構造体に対して、その内壁面上にフィルム状触媒を設けたもの等が、好適に用いられる。
【0039】
フィルム状触媒を上記種々の構造にするためには、例えば触媒活物質そのものを成形してハニカム状の構造体とする方法があるが、薄い触媒層と高い機械的強度を両立する観点からは、フィルム状触媒を支持体表面に固定化する事が好ましい。例えば上述のように、金属その他剛性を有する管状、平板状あるいはハニカム状等の支持体表面に、触媒活物質を含むコーティング層を形成してフィルム状触媒とする方法が挙げられる。この時のコーティング方法としては、従来公知の方法を用いる事ができ、溶液系からの含浸法の他に、バインダを使ったブレード、スプレイ、ディップ、スピン、グラビア、ダイコーティング等、各種塗工法が挙げられる。
【0040】
以下、上記のフィルム状触媒の製造方法を詳細に説明する。
最初の工程にて、支持体上に上記の塗料組成物からなる触媒層を形成する。
【0041】
支持体の材質は、銅箔、ステンレス箔、アルミ箔等を挙げることができ、好ましくは加工性及び耐食性から銅箔、ステンレス箔を用いることができる。
【0042】
さらに前記支持体の表面は、触媒層との密着性を向上させる観点から、粗面化処理またはカップリング処理されていることが望ましい。カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤及びアルミネート系カップリング剤として一般に知られたものが使用でき、複数のカップリング剤を組み合わせて配合してよく、濃度調整のために相溶性のある有機溶媒で希釈して用いてもよい。
【0043】
塗料組成物からなる触媒層の塗布方法としは、従来公知の方法を用いることができ、ブレード、ロール、ナイフ、バー、スプレイ、ディップ、スピン、コンマ、キス、グラビア、ダイコーティング等、各種塗布法を挙げることができる。
【0044】
次の工程にて、支持体上に形成された触媒層を乾燥して、溶剤及び水を除去する。
【0045】
乾燥および硬化工程は、支持体上に塗料組成物を塗布・製膜後、塗料組成物に含まれている溶媒や未反応のモノマー等を除去することを目的とするものであるが、乾燥時に乾燥に付随して硬化反応が進行する場合のほか、塗料組成物の組成に応じて加熱温度や加熱時間を調整することによって、乾燥と並行して、部分的に硬化反応を進行させることもできる。
【0046】
乾燥および硬化工程は、空気、水蒸気または窒素、アルゴン等の不活性ガス等を加熱した雰囲気中で行うか、またはこれら熱媒体を吹き付ける方法が好ましく用いられ、その他、赤外線や遠赤外線等輻射熱を利用する方法、電磁波による誘導電流を用いた加熱方式等種々の手段を用いることができ、これらを組み合わせた方法あるいは、常温における自然乾燥(風乾)による方法も用いることができる。この工程において脱離する成分としては、溶媒を主とする揮発成分および硬化反応生成物である。溶媒以外の揮発性分としては未反応のモノマー成分等が含まれる。
【0047】
乾燥および硬化処理は、本発明に用いられる粉末状触媒が本来持っている触媒活性に悪影響を与えない乾燥方法および乾燥条件を採用する事ができる。
【0048】
本発明においては、目的とするフィルム状触媒を得るための代表的な乾燥および硬化条件としては、60〜400℃、好ましくは70〜250℃、より好ましくは80〜150℃の温度で、好ましくは1秒以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは30分以上であることが望ましい。
【0049】
以上の工程を経て、本発明のフィルム状触媒を得ることができる。本発明のフィルム状触媒は、触媒層が多数の細孔を有しているものであり、前記細孔径は3〜100nmの範囲であり、細孔容量が0.03−0.07 ml/gのものである。
【0050】
本発明のフィルム状触媒は、前記触媒の種類により用途は異なるが、有機合成反応用の触媒として使用することができ、また状態として、気相、液相、液反応系に適用することができ、例えば、オレフィンの酸化、アルコールの酸化、オレフィンの異性化、芳香族類の異性化、カルボニル化、エステルの水素化、好ましくは脱水素反応、水素付加反応に用いることができる。特に、銅−ニッケル−ルテニウム3元系の粉末状触媒を用いたものは、脱水素反応、水素付加反応をも伴うアルコールと1級アミン又は2級アミンから3級アミンを製造する反応等に適している。
【0051】
フィルム状触媒の製造に使用する塗料組成物は、上記したとおり、含有される溶剤に対する水の溶解度により、溶剤へ溶解する水と無機粉末へ吸着する水の存在割合が決定される。よって、フィルム状触媒の製造に際して、無機粉末に水とフェノール樹脂が吸着した塗料組成物を塗工したとき、水は乾燥により除去され、水の吸着箇所は最終的には細孔となるので、水への溶解度が低い溶剤を用いた場合ほど、より細孔容量を大きくすることができることになる。
【0052】
そして、本発明では、無機粉末に対する水の含有量を所定範囲量に設定することにより、上記したとおりの所定範囲の細孔容量を有する触媒層が形成されたフィルム状触媒を得ることができるものである。
【実施例】
【0053】
実施例1〜6、比較例1、2
<塗料組成物の製造>
表1に示すフェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製 スミライトレジンPR9480(固形分57%))、溶剤、無機粉末、水の順に、250mlの広口ポリエチレン製ビンに入れた。さらに分散メディアとして、直径1mmのガラスビーズ(見かけ容積65ml)を広口ポリエチレン製ビンに入れた。
【0054】
広口ポリエチレン製ビンをペイントシェーカーにセットし、30分間混合分散処理を行い、塗料組成物を得た。
【0055】
<フィルム状触媒の製造>
銅箔(厚さ40μm、秤量310g/m2)を支持体とし、前記塗料組成物を銅箔の両面にバーコーターにより塗布し、その後130℃の電気乾燥機中へ90分保持した。フィルム状触媒を得た。触媒層の厚さは片面50μmずつ製膜し、銅箔と併せた総厚で140μmであった。また触媒層は、片面あたり63g/m2の担持量であり、無機粉末の担持量は片面あたり47g/m2であった。
【0056】
(塗料中の触媒への吸着水、吸着樹脂の測定方法)
触媒、フェノール樹脂、溶剤、水からなる触媒塗料において、触媒に吸着しているフェノール樹脂、水それぞれの割合の測定を行った。まず吸着フェノール樹脂・吸着水と、未吸着フェノール樹脂・未吸着水の分離の目的で遠心分離機(超遠心分離機85β,日立工機(株)))を用いた。所定の条件で作成した触媒塗料を容器に入れ、遠心分離機にセットし、30,000rpmで、3h遠心分離させた。この分離溶液の上澄み液に、未吸着フェノール樹脂と未吸着水と溶剤が存在していると考え、この液中に存在する水分率、固形分比率の測定を行った。
【0057】
水分率の測定についてはカールフィッシャ(平沼微量水分測定装置AQ7)を用いた。測定には発生液としてクーロマットAK(林純薬工業(株))、対極液としてクーロマットCGK(林純薬工業(株))を用いた。カールフィッシャー装置の発生液内に遠心分離上澄み液を滴下した。滴下した上澄み溶液中に含まれる水分量の質量割合を測定し、b’とした。
【0058】
さらに遠心分離させ採取した上澄み溶液中の樹脂固形分の測定を、ハロゲン水分率計(メトラートレド製HR−83-P)を用い、150℃の雰囲気に30分置き溶剤成分を揮発させることで測定しこの値をa’とした。これらの値(a’、b’)から吸着樹脂量(j)、吸着水量(w)の値は以下のようにして求めた。
【数1】

【0059】
(細孔容量の測定方法)
細孔容量の測定は、“物質の機能性(第4版実験化学講座12、日本化学会編、丸善株式会社発行、486頁)”等に記載の測定方法(水銀圧入法)に従う。具体的には、島津製作所製の水銀圧入式細孔分布測定装置(ポアサイザー9320)等の専用測定機を用いることにより、行った。
【0060】
フィルム状触媒は、予め坪量、塗布前の銅箔坪量、面積、触媒層における触媒と樹脂バインダの割合を測定し、フィルム触媒層における触媒質量を計測しておき、水銀圧入法により触媒層単位質量あたりの細孔容量を測定した。
触媒層における触媒と樹脂バインダの割合は、TGを用いて計測した。TG測定は、基材銅箔から触媒とフェノール樹脂バインダの複合物を剥ぎ取り、あらかじめ質量を測定したプラチナ製容器にセットし、サンプル入りの容器の質量を再度測定し、サンプルの質量を計算した。これを酸素下で1000℃まで、10℃/minの条件で昇温させてフェノール樹脂を燃焼させた。燃焼により、フェノール樹脂分の質量は減少する、最終的なサンプルの質量を測定しフィルム触媒中における触媒質量の割合を求めた。水銀圧入法による孔径の測定は、下記の式を使って計算した。
【0061】
D=−4γCOSθ/P
但し、式中、D:孔径、γ:水銀の表面張力、θ:接触角、P:圧力を示す。水銀の表面張力は482.536dyn/cmとし、使用接触角は130°とし、水銀圧力0〜60000psiaにて測定した。
【0062】
細孔容量は、上記の原理を利用して、水銀に加える圧力を徐々に変化させ、その時に孔内に侵入した水銀の体積、即ち細孔容量(積算量)を測定し、上記式に従って換算した孔径Dと細孔容量(積算量)との関係を描いた。細孔容量は、孔径3nm〜10000nmの範囲について測定した。なお、本件において細孔容量は、触媒表面露出と関係が深いと考えている、孔径3-100nmの値を用いている。
【表1】

無機粉末:合成ゼオライトに担持させた銅・ニッケル・ルテニウム3元系の触媒活物質よりなる粉末状触媒を、以下のように調製した。
容量1Lのフラスコに合成ゼオライトを仕込み、次いで硝酸銅、硝酸ニッケルおよび塩化ルテニウムを、各金属原子のモル比でCu:Ni:Ru=4:1:0.01となるように水に溶かしたものを入れ、攪拌しながら昇温した。90℃で10質量%炭酸ナトリウム水溶液をpH9〜10にコントロールしながら徐々に滴下した。1時間の熟成後、沈殿物を濾過・水洗後80℃で10時間乾燥し、600℃で3時間焼成して、粉末状触媒を得た。得られた粉末状触媒における、金属酸化物の割合は50質量%、合成ゼオライトの割合は50質量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のフィルム状触媒の製造方法は、各種有機合成反応用の触媒として使用するフィルム状触媒の製造方法として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒活性物質前駆体、触媒活性物質、無機担体、触媒活性物質前駆体が担持された無機担体、触媒活性物質が担持された無機担体から選ばれる1又は2以上の無機粉末、メチルイソブチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、フェノール、メタノール、エタノール、ブタノールから選ばれる1又は2以上の水可溶性の溶剤、フェノール樹脂及び水を含有しており、
水の含有量が、無機粉末100質量部に対して5〜40質量部であり、水が無機粉末に吸着している塗料組成物。
【請求項2】
支持体上に請求項1記載の塗料組成物を乾燥及び硬化した触媒層を有するフィルム状触媒であって、前記触媒層が多数の細孔を有しているものであり、前記細孔径が3〜100nmの範囲であり、細孔容量が0.03〜0.07ml/gである、フィルム状触媒。

【公開番号】特開2011−127057(P2011−127057A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288861(P2009−288861)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】