説明

塗料飛沫飛散防止装置システム

【課題】 従来は複雑な形状を有するがために養生が困難であった大型構造物であっても、構造物全体を覆うことなく効果的な養生を短時間で施すことができ、塗料飛沫の捕集率を向上させ、塗装作業場の周囲の環境保全に努めること。
【解決手段】 風の吹く上流側に設置して塗装作業場内の風速を弱めるための網目状ネットが張られた防風装置と、風の吹く下流側に設置して塗料飛沫を捕集するための網目状ネットが張られた捕集装置と、塗装作業場内の風向と風速を測定して防風装置と捕集装置の最適な設置場所を決定するための支援、及び塗装作業の実行と中断の支援を行う風向・風速計と、更に風向・風速計が計測した風向データと風速データを記憶して解析するためのコンピュータからなることを特徴とする塗料飛沫飛散防止する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外で構造物に噴霧式塗装、又は噴霧式静電塗装を施工する際に用いる塗料飛沫飛散防止装置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屋外で構造物を塗装するには、組み上がった足場の上に作業員が上り、又はゴンドラ等に作業員が乗り、刷毛、又はローラ、又は噴霧式塗装機、又は噴霧式静電塗装機等を用いて塗装を行っていた。中でも、塗装作業効率の良さと仕上がりの美しさから、噴霧式塗装機、又は噴霧式静電塗装機を用いた塗装方法が多く用いられてきた。
【0003】
噴霧式塗装、又は噴霧式静電塗装は、塗装機側の塗料が噴出する部分にあたるガン先から構造物に塗料飛沫が到達するまでの間を、噴出圧力によって塗料飛沫を飛ばすという機構上の問題から、構造物に塗料飛沫が塗着するまでの間に風によって塗料飛沫が遠くへ飛散する、又は構造物から外れて塗着しなかった塗料飛沫が風によって遠くへ飛散することがあり、塗装作業場の周囲の環境に影響を及ぼすという問題がある。
【0004】
塗料飛沫の飛散を防止するために、箱型建築物の様に単純形状のものについては構造物の周囲に足場を組んで網目状ネット等でほぼむら無く養生することが可能であるが、船舶のように複雑形状をしたものについては、短時間のうちに足場を組んでむらの無い養生を施すことは困難である。
【0005】
複雑形状をした構造物に対する塗料飛沫飛散防止方法として、種々の発明がなされている。例えば、スプレーミスト飛散防止方法の発明(特開49−100137)によれば、噴霧式塗装による塗装作業場の風下側に網目状のネットを張設することにより、塗装作業の際に発生する塗料飛沫を網目状ネットに付着させて捕集し得るので、塗料飛沫の飛散を防止し、塗料飛沫の飛散に伴う種々の弊害を未然に阻止することができるとされている。事実、造船所の塗装作業場では、塗装を施す船舶の甲板等に設けられているハンドレール等と地面等の間に網目状ネットを張設し、噴霧式塗装による船舶外板等の塗装作業が行われる場合が多い。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、船舶等の大型構造物の噴霧式塗装、又は噴霧式静電塗装は屋外で実施されることから、飛散した塗料飛沫が網目状ネットに効率よく捕集し得るのは、張設した網目状ネットが塗装作業者から見て風下方向となる風向の場合のみであり、その他の風向に対しては塗料飛沫が網目状ネットに向かうことなく遠くへ飛散してしまう。更に、例え網目状ネットが風下方向となる風向であっても、風速が大きい場合には、塗料飛沫は網目状ネットを通過し、又は網目状ネットから外れ、効率よく捕集されることなく遠くへ飛散してしまう。飛散した塗料飛沫は塗装作業場の周囲の環境に影響を及すことから、塗料飛沫の飛散は早急に解決しなければならない重要な課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みて、本発明者らは屋外で構造物に噴霧式塗装、又は噴霧式静電塗装を施す際に用いる塗料飛沫飛散防止装置システムについて鋭意研究を重ねた結果、次のような塗料飛沫飛散防止装置システムを今回新たに発明した。発明した塗料飛沫飛散防止装置システムは、風の上流側に設置して塗装作業場内の風速を弱めるための網目状ネットが張られた防風装置と、風の下流側に設置して塗料飛沫を捕集するための網目状ネットが張られた捕集装置と、塗装作業場内の風向と風速を測定して防風装置と捕集装置の最適な設置場所を決定するための支援、及び塗装作業の実行と中断の支援を行う風向・風速計からなることを特徴とする。このような塗料飛沫飛散防止装置システムによって、上記課題を解決しようとするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
続いて、請求項1に記載の塗料飛沫飛散防止装置システムの一実施形態を図1に基づいて説明する。図1において、1は塗装を施工する船舶、2は噴霧式塗装機、又は噴霧式静電塗装機を行う作業者であり、塗装作業場内の風速を弱めるための防風装置3を風の上流側に設置し、塗料飛沫を捕集するための捕集装置4を風の下流側に設置する。屋外では時々刻々と風向きが変化し、そのために防風装置3と捕集装置4の最適な設置場所が変わることから、防風装置3と捕集装置4には容易に移動可能なように車輪が設けられている。防風装置3と捕集装置4の最適な設置場所は、塗装作業場内に設置された風向・風速計5により塗装作業場内の風向と風速を逐次測定することで、決定される。また、風向・風速計5は防風装置3と捕集装置4に挟まれた空間内で塗装作業の実行と中断を決定するための作用も兼ね備えている。更に、この塗料飛沫飛散防止装置システムにコンピュータ6を加えることで、風向・風速計5が計測した風向データや風速データを記憶することができ、これにより、過去の履歴を調査することが可能となる。また、コンピュータ6の演算機能を利用してデータを解析することができ、将来の予測等の有益な知見を得ることが可能となる。
【0009】
請求項1に記載の塗料飛沫飛散防止装置システムの一実施形態の20分の1スケールの模型を用い、風洞試験により得られたシステム周辺の風の強さと流れをベクトルで模式的に表現したものを図2に示す。上流側に設置した防風装置3は、塗装作業場を包み込む空気流を形成し、この気流によって塗料飛沫の拡散を防ぎ、さらに気流を下流側の捕集装置4へと導くことで塗料飛沫の捕集率の向上を図ることが可能となる。
【0010】
続いて、請求項2に記載の塗料飛沫飛散防止装置システムの一実施形態を図3に基づいて説明する。尚、図1で説明した部分は、同一の番号を付けて説明を省略し、請求項2の発明に関する部分について説明する。図3において、塗料飛沫を捕集するための捕集装置7の網目状ネット部分には、網目の大きさの異なるネットが二重に張られていることを特徴とする。ネットが二重に張られた防風装置7を通った風の速度は、ネットが一枚のみの防風装置4を通った風の速度と比較して小さくなり、より一層の塗料飛沫の捕集率の向上を図ることができる。
【0011】
続いて、請求項3に記載の塗料飛沫飛散防止装置システムの一実施形態を図4に基づいて説明する。尚、図3で説明した部分は、同一の番号を付けて説明を省略し、請求項3の発明に関する部分について説明する。図5において、塗料飛沫を捕集するための捕集装置8には人工的な強制排気を目的とする排風機9が取り付けられていることを特徴とする。捕集装置8の網目の粗いネットに接近した風は、排風機9の吸引力によって捕集装置8を構成する2枚の網目状ネットの間へと取り込まれ、より一層の塗料飛沫の捕集率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、屋外で構造物に噴霧式塗装、又は噴霧式静電塗装を施す際に用いる塗料飛沫飛散防止装置システムについて鋭意研究を重ねた結果、請求項で述べた塗料飛沫飛散防止装置システムを発明するに至った。本発明によれば、従来は複雑な形状を有するがために養生が困難であった大型構造物であっても、風の上流側に防風装置、下流側に捕集装置を設置することで、構造物全体を覆うことなく効果的な養生を短時間で施すことができ、塗料飛沫の捕集率を向上させ、塗装作業場の周囲の環境保全に努めるという課題を解決することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項1に記載の塗料飛沫飛散防止装置システムの一実施形態を示す図である。
【図2】縮小率1/20の模型を用いた風洞試験結果から得られた請求項1に記載の塗料飛沫飛散防止装置システム周辺の風の強さと流れを示す図である。
【図3】請求項2に記載の塗料飛沫飛散防止装置システムの一実施形態を示す図である。
【図4】請求項3に記載の塗料飛沫飛散防止装置システムの一実施形態を示す図である。
【符号の説明】
1…構造物(船舶)、2…噴霧式塗装機、又は噴霧式静電塗装機を行う作業者、3…防風装置、4…捕集装置、5…風向・風速計、6…コンピュータ、7…捕集装置、8…捕集装置、9…排風機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外で構造物に噴霧式塗装、又は噴霧式静電塗装を施工する際、風の上流側に設置して塗装作業場内の風速を弱めるための網目状ネットが張られた防風装置と、風の下流側に設置して塗料飛沫を捕集するための網目状ネットが張られた捕集装置と、塗装作業場内の風向と風速を測定して防風装置と捕集装置の最適な設置場所を決定するための支援、及び塗装作業の実行と中断の支援を行うための風向・風速計からなることを特徴とする塗料飛沫飛散防止装置システム。
【請求項2】
上記塗料飛沫飛散防止装置システム中の上記捕集装置において、網目状ネット部分が二重に張られていることを特徴とする請求項1記載の塗料飛沫飛散防止装置システム。
【請求項3】
上記塗料飛沫飛散防止装置システム中の上記捕集装置において、人工的な強制排気を目的とする排風機が取り付けられていることを特徴とする請求項2記載の塗料飛沫飛散防止装置システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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