説明

塗膜の形成方法、塗膜及び塗装物

【課題】装飾性に優れつつ有効に下地への光を有効に抑制することができる塗膜を形成することができる塗膜の形成方法、該形成方法によって形成される塗膜及び前記形成方法によって塗膜が形成された塗装物を提供する。
【解決手段】形成しようとする塗膜内にて下地へ向かう特定の波長帯域の光の強度(I4)と、塗膜の表面から入射する光の強度(I1)との光強度比(I4/I1)が、塗膜に含有される顔料によって異なる吸収係数K及び散乱係数S、膜厚X、並びに下地の反射率Rg から算出されることを用い、当該光強度比が所定の比率未満となる塗膜、即ち下地へ向かう光強度I4が低い塗膜となるように、顔料、顔料の配合量、及び膜厚を選定し、選定した顔料、配合量及び膜厚に基づいて塗料を設計し、塗膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜の形成方法に関する。特に、塗膜内に含まれる顔料の粒子等による光の散乱又は吸収、並びに塗膜の界面での反射を考慮し、測定が不可能な下地上の塗膜内における光強度を精度良く推定し、装飾性に優れつつ下地への光を有効に抑制することができる塗膜を形成することができる塗膜の形成方法、該形成方法によって形成される塗膜及び前記形成方法によって塗膜が形成された塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の素材の被塗物へ塗料を塗ることによって塗膜を形成する場合、一般的にはまず、被塗物の基材の表面に化成処理等を施し、錆防止等を目的とする下塗り塗装を施す。そして下塗り塗装の上に、下塗りの隠蔽、耐チッピング、耐候性等を目的とする中塗りを施し、更に装飾性を目的として所望の色に上塗り塗装を行なうことによって複層の塗膜を形成する。
【0003】
近年では、中塗り塗膜が省略される場合もある。その目的は省資源、又は塗装した結果得られる塗装物の軽量化などである。場合によっては、下塗り塗膜さえも省略され、被塗物に直接的に上塗り塗膜が形成される場合がある。
【0004】
そこで上塗り塗膜は、装飾性の目的のみならず、従来は中塗りによって目的が達成されていた下塗りの隠蔽、耐チッピング、耐候性等の機能をも求められる。特に、日射による高温、風雨による多湿等の環境、即ち屋外で利用される自動車の塗装技術では、高い耐候性と装飾性との両者が求められる。従来の自動車の塗装技術では基本的に、車体の内外の表面に化成処理等を施した上で、錆防止を目的とする電着塗装(下塗り)を施す。更に耐チッピングを目的とする中塗りを施して基準色に塗装した下地の上に、所望の色で装飾性を目的とする上塗り塗装を施す。
【0005】
耐候性の面では、下地の表面に光、特に紫外光を含む波長帯域の光が少なからず長時間にわたって入射することにより、分子間の解離に影響を与えるなど下地に化学変化が起こり、上塗り塗膜と下地との間で耐候性剥離を起こすことが問題となる。また、装飾性の面では、下地へ少なからず環境光が入射することによって下地が透け、所望の発色が得られないなど装飾性が低くなる。
【0006】
このように、塗膜の耐候性剥離及び下地の透けなどの問題ではいずれも、塗膜内で下地へ向かう光の強度が強く影響する。そこで、これらの問題に影響されない塗膜を形成するために、下地へ入射しようとする光の強度が低い塗膜となるように、塗料に含まれる顔料、顔料の配合量、塗膜自体の膜厚などを選定すべきである。
【0007】
そこで、下地へ到達する光強度が低い塗膜とするために、上塗り塗膜の光線透過率が所定値以下となるように、塗料に含む顔料の配合の調整が行なわれている。紫外光からの影響が強い塗膜の耐候性剥離に対しては特に、塗料に紫外線吸収剤を混合するなどの工夫がなされている。更に可視光については、特許文献1及び2に開示されているように、中塗りを省略してコストを抑えると共に、下塗り塗膜(下地)の上に形成する上塗り塗膜の光線透過率が5%となるような塗料を用いるなどの方法が為されている。当該方法により、装飾性及び耐候性が高められる。しかしながら、塗膜の光線透過率は塗膜に含まれる顔料とその配合量で決まり、光線透過率を所定値(5%)以下とするための顔料の選択及び配合量の決定には、熟練した技術者の高度な技量が必要となる。
【0008】
これに対し特許文献3では、塗膜に含まれる顔料による光の吸収又は散乱の理論を用いて塗膜の光線透過率を推定算出する方法が開示されている。これにより、高度な技量に頼ることなしに、下地の色を十分に隠蔽し、且つ下地へ入射する光強度を弱めることができる塗膜を形成する顔料及び配合を設計することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第96/33814号パンフレット
【特許文献2】特許第2503513号公報
【特許文献3】特開2007−316829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
紫外光に対しては上述のように、塗料に紫外線吸収剤を混合するなどして対処がされている場合がある。ところが、可視領域近傍の紫外光については、良好に吸収する吸収剤を用いるとしても、特定の波長帯域の光のみを吸収することはできず、発色へ影響する可能性がある。つまり、所望の発色が得られなくなる可能性があるから、可視光に影響するような波長帯域の光を対象とする吸収剤を利用することは装飾性の面で問題となる。更に、紫外線吸収剤を用いる場合、吸収剤自体が時間を経て分解することにより、塗膜の光特性が変化する問題がある。
【0011】
特許文献1乃至3に開示されている技術により、下地へ到達する光強度が低いと推定される塗膜を形成することはできる。しかしながら、特許文献1乃至3に開示されている技術で利用される光線透過率は、剥離されたフィルム状の上塗り塗膜、即ち下地がない状態での塗膜の表面に入射する光の強度と、塗膜を通り抜けて裏面から外部へ射出した光の強度との比である。このとき、塗膜の面に入射する光の強度、及び外部へ射出した光の強度はいずれも測定可能である。
【0012】
耐候性剥離及び下地の透けを抑制するためには、剥離された状態のフィルム状の塗膜でなく、実際に塗膜を下地の上に形成した場合に、塗膜内で下地へ向かう光の強度を精度良く求めることが非常に重要である。つまり、下地から反射して再度塗膜に入射した塗膜内での光の存在が反映された光の強度が必要である。しかしながら、下地の上に塗膜を実際に形成した状態で塗膜内での光の強度を直接的に測定することはできない。
【0013】
したがって、技術者の技量に頼ることなしに、耐候性剥離及び下地の透けを抑制する塗膜を実現するためには、下地の上に形成した塗膜内における光強度を精度良く推定できる方法を用いることが望ましい。また、塗膜内における光強度を異なる波長について精度良く推定することにより、発色をも考慮して効果的に下地へ向かう光がより少ない塗膜を形成することが可能となる。
【0014】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、塗膜内に含まれる顔料の粒子による光の吸収又は散乱のモデルを適用して異なる波長毎に精度良く推定算出することが可能な塗膜内における光の強度に基づいて、含有させる顔料、顔料の配合量、及び膜厚を選定して塗膜を形成することにより、目的に見合った特定の波長帯域の光が下地へ到達することを有効に抑制できる塗膜を形成することができる塗膜の形成方法、該形成方法によって形成される塗膜及び前記形成方法によって塗膜が形成された塗装物を提供することを目的とする。
【0015】
本発明の他の目的は、含有させる候補の顔料毎に、顔料が含有された塗膜が下地の上に形成された状態で実測される物理量を用いて求められる吸収係数及び散乱係数を用いて精度良く算出される塗膜内で下地へ向かう光の強度に基づいて、顔料、顔料の配合量及び膜厚を選定する方法にて塗膜を形成することにより、有効に耐候性剥離及び下地の透けを抑制することができる塗膜を形成することができる塗膜の形成方法、塗膜及び塗装物を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、バインダー樹脂と共に含有されて実際に塗膜として形成された場合に吸収係数が所定値よりも大きい顔料が選定されるようにすることにより、特定の波長帯域の光が下地へ到達することを有効に抑制し、装飾性に優れた塗膜の形成を可能とする顔料を効率よく絞りこむことができる塗膜の形成方法、塗膜及び塗装物を提供することにある。
【0017】
本発明の他の目的は、バインダー樹脂と共に含有されて実際に塗膜として形成された場合に散乱係数が所定値よりも大きい顔料が選定されるようにすることにより、特定の波長帯域の光が下地へ到達することを有効に抑制し、装飾性に優れた塗膜の形成を可能とする顔料を効率よく絞りこむことができる塗膜の形成方法、塗膜及び塗装物を提供することにある。
【0018】
本発明の他の目的は、顔料の配合量又は塗膜の膜厚が、所定の範囲内で選定されるようにすることにより、特定の波長帯域の光が下地へ到達することを有効に抑制し、装飾性に優れた塗膜を現実的に、且つ、軽量化などを考慮して形成することができる塗膜の形成方法、塗膜及び塗装物を提供することにある。
【0019】
本発明の他の目的は、塗膜に含有させる顔料が所定の種類の顔料から選定されるようにすることにより、特定の波長帯域の光が下地へ到達することを有効に抑制し、装飾性に優れた塗膜を現実的に形成することができる塗膜の形成方法、塗膜及び塗装物を提供することにある。
【0020】
本発明の他の目的は、塗膜内における特定の波長帯域の光の強度に基づいて選定した顔料、配合量及び膜厚を用いて形成した塗膜の上にクリヤ塗膜を形成することにより、艶及び光沢を向上させて装飾性が優れた塗装物とすることができる塗膜の形成方法、塗膜及び塗装物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
第1発明に係る塗膜の形成方法は、下地の上に1又は複数の顔料を含有させた塗膜を形成する方法において、前記塗膜における特定の波長帯域の光の吸収係数及び散乱係数並びに膜厚を用いて算出され、前記塗膜を下地の上に形成した場合に前記塗膜の表面へ入射する前記特定の波長帯域の光の強度と、前記塗膜内における下地との界面にて下地へ向かう前記特定の波長帯域の光の強度との光強度比が、所定の比率未満となるように塗膜に含有させる1又は複数の顔料、該顔料の配合量、及び膜厚を選定し、選定した顔料、配合量及び膜厚に基づき、前記顔料を前記配合量で含む塗料を用いて塗膜を形成することを特徴とする。
【0022】
第2発明に係る塗膜の形成方法は、含有させる候補となる候補顔料毎に、該候補顔料が含有されて下地の上に形成された場合の塗膜について光の吸収係数及び散乱係数を異なる複数の波長の光について予め求めておき、求めておいた候補顔料毎及び波長毎の塗膜の吸収係数及び散乱係数並びに膜厚を用いて算出され、1又は複数の顔料を含む塗膜を下地の上に形成した場合に前記塗膜の表面へ入射する特定の波長帯域の光の強度と、前記塗膜内における下地との界面にて下地へ向かう前記特定の波長帯域の光の強度との光強度比が所定の比率未満となるように1又は複数の顔料、該顔料の配合量及び膜厚を選定することを特徴とする。
【0023】
第3発明に係る塗膜の形成方法は、前記塗料は、バインダー樹脂と、単位配合量だけ塗膜に含めた場合に、前記塗膜の光の前記特定の波長帯域における吸収係数が所定値よりも大きい顔料とを含むことを特徴とする。
【0024】
第4発明に係る塗膜の形成方法は、前記塗料は、バインダー樹脂と、単位配合量だけ塗膜に含めた場合に、前記塗膜の光の前記特定の波長帯域における散乱係数が所定値よりも大きい顔料とを含むことを特徴とする。
【0025】
第5発明に係る塗膜の形成方法は、選定される顔料の配合量は、合計顔料濃度2〜50質量%の範囲内であることを特徴とする。
【0026】
第6発明に係る塗膜の形成方法は、選定される膜厚は、7〜40μmの範囲内であることを特徴とする。
【0027】
第7発明に係る塗膜の形成方法は、選定される顔料は、染料、有機顔料、無機顔料、体質顔料、及び光輝材に分類される顔料群の内の1又は複数の顔料であることを特徴とする。
【0028】
第8発明に係る塗膜の形成方法は、選定される顔料は、着色顔料、又は金属製鱗片状光輝材に分類される顔料群の内の1又は複数の顔料であることを特徴とする。
【0029】
第9発明に係る塗膜の形成方法は、前記塗料を用いて塗膜を形成した後に、更に前記塗膜の上に乾燥膜厚が10〜80μmとなるようにクリヤ塗膜を形成することを特徴とする。
【0030】
第10発明に係る塗膜は、第1乃至第9発明のいずれかの塗膜の形成方法を用いて形成されることを特徴とする。
【0031】
第11発明に係る塗装物は、第1乃至第9発明のいずれかの塗膜の形成方法を用いて塗膜が形成されたことを特徴とする。
【0032】
第1発明では、下地の上に形成された塗膜の表面へ入射する特定の波長帯域の光の強度と、塗膜内における下地との界面へ向かう前記特定の波長帯域の光の強度との光強度比が所定の比率未満となるように選定される1又は複数の顔料、該顔料の配合量及び膜厚に基づく塗料を用いて塗膜が形成される。
【0033】
これにより、塗膜内で特定の波長帯域の光が下地へ到達することを有効に抑制する塗膜が形成される。
【0034】
図1は、本発明に係る塗膜の形成方法にて、塗膜を特定する光特性である光強度比が重要なパラメータであることを説明する説明図である。図1の説明図は、下地の上に塗料が塗られることによって形成された塗膜を表わす模式的断面図である。図1の説明図には、下地及び塗膜が積層されている様子が示され、塗膜の上層は空気である。図1の説明図における下地は下塗り塗膜であり中塗りは省略されている。塗膜は下地の上に上塗りされることによって形成される上塗り塗膜である。なお、図1では下塗り塗膜の下層の基材、即ち被塗物の図示を省略している。被塗物の素材の例としては例えば、金属材、ガラス材、プラスチック材、又はセメント系材料等が挙げられる。
【0035】
下地は、表面に形成される塗膜よりも下層に形成される塗膜及び被塗物を含むものである。下地は、図1の説明図に示すように下塗り塗膜以外、被塗物自体であってもよい。この場合、塗膜は上塗りではなく被塗物に直接的に形成される。また、中塗り塗膜が形成される場合は、下地は中塗り塗膜である。
【0036】
図1の説明図に示すように、塗膜の表面から入射される光(入射光)の強度がI1である場合、入射光の一部は空気と塗膜との界面にて空気側に反射する。反射されずに塗膜内に入射した残りの光は、塗膜に含まれる顔料又は顔料のバインダーである樹脂等の分子によって吸収又は散乱される。散乱される光の一部は空気との界面にて反射されて塗膜内に戻り、更に吸収又は散乱される。空気と塗膜との界面にて空気側に射出する光の強度をI2とし、塗膜の表面にて塗膜内へ入射する光の強度をI3とする。このとき、光の強度I2には、強度I1の入射光の内、空気と塗膜との界面にて空気側に反射した光の強度のみならず、塗膜内での散乱によって表面から空気中へ射出される光の強度が影響する。また、塗膜の表面にて下地へ向かう光の強度I3には、強度I1の入射光の内、反射されずに塗膜内に入射する光の強度のみならず、塗膜内で散乱されて空気との界面にて反射され、塗膜内に戻る光の強度が影響する。
【0037】
このように塗膜内で散乱される光、及び空気との界面で反射される光の一部が、塗膜内で下地との界面へ向かう。このとき、塗膜内で下地との界面にて下地へ向かう光の強度がI4であるとする。更にこのとき、塗膜内で下地との界面にて下地へ向かう光の強度I4には、下地との界面から塗膜内へ向かう光の強度I5が影響する。塗膜内で下地側から表面側へ向かう光の一部が塗膜内で散乱されて再度下地との界面へ向かうからである。光の強度I5は、塗膜内で下地まで到達した光の内、下地から反射されて塗膜内に再度戻る光と、下地内に一旦入射した光が散乱により射出する光とを含む。下地が下塗り塗膜である場合は特に、下地内に一旦入射した光が散乱により射出する光が主体となるものと考えられる。
【0038】
このように、下地から反射される光が反映された、塗膜内で下地との界面へ向かう光の強度I4こそが、実際に下地に入射しようとする光の強度である。当該光の強度I4こそが、下地の透け及び塗膜の耐候性剥離に直接的に関係する重要な値である。
【0039】
ここで比較のため、従来の技術で塗膜の下地の透け及び耐候性剥離を抑制するための指標値として用いられてきた塗膜の光線透過率の算出方法について概要を説明する。図2は、塗膜の光線透過率を算出する方法の概要を示す説明図である。図2の説明図は、任意の板状材に塗料を塗って形成された塗膜を剥離した剥離塗膜を表わす模式的断面図である。図2に示す塗膜は剥離されたフィルム状であるので、塗膜の表裏面はいずれも空気に接している。
【0040】
光線透過率は、剥離塗膜の一方の表面から入射される光(入射光)の強度がI1である場合に、他方の表面から射出される光の強度I6の強度I1に対する比率である。この場合の光の強度I6は、他方の空中に光センサを設置するなどして実測することが可能であるが、塗膜内における光強度を直接的に示す値ではない。更に、この場合に求められる光線透過率(I6/I1)は、空気に接している場合の空気からの散乱の影響を受ける光の強度I6の比率であって、厳密には、下地の上に形成される場合とは異なる。下地からの反射が反映されないからである。
【0041】
これに対し、第1発明に係る塗膜の形成方法では、図1に示したように、塗膜の表面から入射される光の強度I1に対する塗膜内で下地へ向かう光の強度I4の強度比(I4/I1)が用いられ、当該強度比(I4/I1)が所定の比率未満である塗膜となるように選定される顔料、顔料の配合量及び膜厚に基づいて塗膜が形成される。上述にて説明したように、塗膜内で下地へ向かう特定の波長帯域の光の強度I4を異なる波長毎に推定し、塗膜の耐候性剥離及び下地の透けの抑制などの目的に見合った特定の波長帯域の光の強度I4が低い塗膜を形成することが有効である。
【0042】
なお、特定の波長帯域としては300〜420nmの波長帯域とすることが好ましい。塗膜に含まれる樹脂が光劣化することを考慮した場合、最も樹脂の光劣化に大きく関与する波長帯域であるからである。
【0043】
光量子仮説による場合、光子が持つエネルギーは、光の波長が短いほど大きい。そして光が化学物質、即ち樹脂を含む塗膜に照射されたとき、樹脂の化学結合エネルギーと等しいエネルギーを持つ光子が吸収され、場合によっては化学結合が切断されることは物質の光分解として良く知られている。ここで、光子のエネルギーEは、以下の式(A)により表わされる。
【0044】
E=hν
=h・(C/λ)
=h・C/λ …(A)
h:プランク定数
ν:振動数
C:光速(m/秒)
λ:波長(m)
【0045】
化学物質の化学結合エネルギーは、例えばメタノールのC−H結合の場合は393KJ/mol、ダイヤモンドのC−C結合の場合は353.2kJ/mol、H2N−CH3結合の場合は329KJ/molという値が知られている。これらの化学結合エネルギーの値を夫々式(A)により光の波長λに換算した場合、305nm、339nm、439nmである。
【0046】
塗膜を形成する樹脂高分子でも、原子間の結合エネルギーに応じて特定の波長帯域の光を吸収し、上述の単一物質における光分解と同様に原子間の結合解離による光劣化が起こる。ただし、樹脂高分子は単一物質ではなく構造が複雑であるので結合解離を起こすエネルギーは一定ではない。そこで、樹脂高分子の光劣化を抑制するためには、樹脂高分子の構成に応じて決まる特定のエネルギー以上に対応する波長の光に極力暴露されないようにすることが重要である。例えば、光劣化し易いとされるエポキシーウレタン系の樹脂に対しては、波長が420nmの光に対応するエネルギー以上の大きさのエネルギーを持つ光が光劣化に大きく関与していることが知られている。したがって、樹脂高分子を含む塗膜では、波長が420nm以下である光の光強度I4を考慮することが重要である。
【0047】
一方、日射光は例えば、JISの「塗膜の日射反射率の求め方」(JIS K5602)にて表1に示されている基準太陽光の重価係数から分かるように、波長が300nm以下の光の量は無視される程に小さい。したがって、屋外で利用される塗装物に関する塗膜では、日射光の波長分布を考慮すれば、波長が300nm以上の光の光強度I4を考慮すればよいことがわかる。
【0048】
このように、屋外で利用される塗装物の塗膜に対しては、波長が300〜420nmの光強度I4が下地の光劣化を惹起し、耐候性剥離を起こし易いということができる。したがって、特定の波長帯域として300〜420nmの光の光強度比(I4/I1)が所定の比率未満となるように塗膜を形成する。
【0049】
また第2発明では、形成しようとする塗膜の光強度比は、含有させる候補顔料毎に予め求められてある光の吸収係数及び散乱係数の顔料の配合に応じた組み合わせ、及び形成しようとする塗膜の膜厚から算出される。
【0050】
図1に示したような光強度比(I4/I1)を求める場合、強度I4は上述のように実測し得ない物理量である。そこで理論的に、塗膜内における光の単位配合量当たりの吸収係数及び散乱係数、並びに膜厚に基づいて求められる。塗膜の吸収係数及び散乱係数は、塗膜に含まれる顔料に影響され、更に波長毎に異なるが、実際に顔料を種々のパターンで組み合わせ、更に配合量の比率などを変えて全てのパターンを実際に求めておくことは非現実的である。そこで、顔料を単独で含有する塗膜を候補の顔料毎に形成し、当該塗膜に対して異なる波長の光に対する実測できる分光反射率に基づき、顔料毎の吸収係数及び散乱係数を求めておく。そして、これらを用いて求められる塗膜の特定の波長帯域についての光強度比(I4/I1)が所定の比率未満となるように顔料の組み合わせ、配合量、膜厚などを選定する。これにより、理論的に求められる光強度比が実測値に基づき精度よく求められ、結果得られる塗膜にて、有効に塗膜の耐候性剥離及び下地の透けなどを抑制することが可能となる。
【0051】
なお、第1及び第2発明において形成しようとする塗膜の光特性を特定するための光強度比(I4/I1)に対する所定の比率は0.02が好ましい。0.02という数値は、塗装の技術分野で使用されている種々の顔料を用いた塗膜について、具体的に求めた特定の波長帯域における光強度比(I4/I1)の傾向と、各塗膜の実際の光特性の評価とに基づいて特定される数値である。
【0052】
第3発明では、塗膜を形成するためにバインダー樹脂と共に塗料に含める顔料として、単独で単位配合量だけ塗膜に含有された場合に、その塗膜の特定の波長帯域の光の吸収係数が所定値よりも大きくなる顔料が選定される。このときの光の吸収係数に対する所定値は具体的に、例えば0.04とする。0.04という数値は、塗装の技術分野で使用されている種々の顔料を用いた塗膜について具体的に求めた光強度比(I4/I1)の傾向と、前記顔料を単独に含有した各塗膜について求められる光の吸収係数に対する評価とに基づいて特定される数値である。単独で単位配合量含有された場合の塗膜の吸収係数が0.04よりも大きい顔料を含有させれば、複数の顔料を配合して塗膜を形成する場合に、現実的な配合量及び膜厚で光強度比(I4/I1)が0.02未満となるという知見が得られた。
【0053】
このように、塗膜の光強度比が所定の比率未満となるように、光強度比を求めるために用いられる顔料の吸収係数に条件を設けることによって、形成しようとする塗膜に含有させる候補の顔料に絞り込みがされる。
【0054】
第4発明では、塗膜を形成するためにバインダー樹脂と共に塗料に含める顔料として、単独で単位配合量だけ塗膜に含有された場合に、その塗膜の特定の波長帯域の光の散乱係数が所定値よりも大きい顔料が選定される。このときの光の散乱係数に対する所定値は具体的に0.01とする。0.01という数値は、塗装の技術分野で使用されている種々の顔料を用いた塗膜について具体的に求めた光強度比(I4/I1)の傾向と、前記顔料を単独に含有した各塗膜について求められる光の散乱係数に対する評価に基づいて特定される数値である。単独で単位配合量含有された場合の塗膜の吸収係数が0.01よりも大きい顔料を含有させれば、複数の顔料を配合して塗膜を形成する場合に、現実的な配合量及び膜厚の条件下で光強度比(I4/I1)が0.02未満となるという知見が得られた。
【0055】
このように、塗膜の光強度比(I4/I1)が所定の比率未満となるように、光強度比を求めるために用いられる顔料の散乱係数に条件を設けることによって、形成しようとする塗膜に含有させる候補の顔料に絞り込みがされる。
【0056】
第5発明では、選定される顔料の配合量は、合計顔料濃度が2〜50質量%の範囲内で選定される。下限を下回る場合、下地へ向かう光の強度を抑制できない虞がある。上限を超えた場合、塗膜の外観が低下する虞があるからである。なお、当該合計顔料濃度の範囲は、塗膜を形成するに際して現実的に好ましい配合量の範囲である。
【0057】
第6発明では、第1乃至第5発明にて選定される膜厚は7〜40μmの範囲内で選定される。上限を超えた場合、塗装時にムラ、ピンホール又はタレなどの不具合が起こることがあるからである。また、下限を下回る場合、下地を隠蔽できず膜切れが発生する虞がある。なお、当該膜厚の範囲は、塗膜を形成するに際して現実的に好ましい範囲である。
【0058】
第7発明では、選定される顔料は、染料、有機顔料、無機顔料、体質顔料、及び光輝材に分類される顔料群の内の1又は複数の顔料である。当該顔料の候補が塗膜を形成するに際して現実的である。
【0059】
第8発明では、選定される顔料は、着色顔料、又は金属製鱗片状光輝材に分類される顔料群の内の1又は複数の顔料である。これらに分類される顔料を用いることにより、高鮮明で装飾性が優れた塗膜を形成することを可能とする。
【0060】
第9発明では、選定された顔料、配合量及び膜厚に基づいて形成された塗膜の上に、好ましくは乾燥膜厚が10〜80μmとなるクリヤ塗膜が形成される。クリヤ塗膜の膜厚の下限10μmを下回る場合、塗装物全体で鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、ピンホールなどの不具合が起こることがあるからである。また、クリヤ塗膜の膜厚の上限80μmを上回る場合、タレが発生する虞がある。
【0061】
第10及び第11発明では、上述のいずれかの塗膜の形成方法にて塗膜が形成される。これにより、結果として得られる塗膜及び塗装物では、形成される塗膜の下地への光の強度が、精度良く効果的に抑制される。
【発明の効果】
【0062】
第1発明による場合、形成して得られる塗膜について推定される光強度比(I4/I1)は所定の比率未満であるから、塗膜内において下地へ向かう光の強度は有効に抑制される。塗膜内における光強度を特定の波長帯域の光について波長毎に精度良く推定し、且つ当該光強度が低い塗膜を設計できるので、耐候性剥離又は下地の透けの抑制、所望の色の発色などの目的に見合った特定の波長帯域の光に対して効果的な塗膜を形成することができる。
【0063】
第2発明による場合、実測に基づいて得られる種々の顔料についての光の吸収係数及び散乱係数を用いて、塗膜内における光強度比(I4/I1)を精度良く推定算出することができるので、光強度比が低い塗膜となる顔料、配合量及び膜厚を選定できる。したがって、有効に耐候性剥離及び下地の透けを抑制することができる塗膜を形成することができる。
【0064】
第3発明による場合、顔料の選定の際に、当該顔料について求められる吸収係数に基づいて、塗膜の光強度比が所定の比率未満となるように絞り込みがされるから、光が下地へ到達することを有効に抑制し、装飾性に優れた塗膜の形成を可能とする顔料を効率よく選定することができる。
【0065】
第4発明による場合、顔料の選定の際に、当該顔料について求められる散乱係数に基づいて、塗膜の光強度比が所定の比率未満となるように絞り込みがされるから、光が下地へ到達することを有効に抑制し、装飾性に優れた塗膜の形成を可能とする顔料を効率よく選定することができる。
【0066】
第5発明による場合、現実的に好ましい範囲での顔料の配合量が選定されて、当該配合量に基づき塗膜が形成される。顔料の量が多いほどに塗膜の光強度比(I4/I1)は効果的に小さい比率となる。しかしながら、過剰に顔料が配合される場合には、耐候性剥離及び装飾性の面でも問題であるが、軽量化にも反する。本発明により、耐候性剥離及び装飾性のみならず塗装物の軽量化をも考慮した塗膜を形成することができる。
【0067】
第6発明による場合、現実的に好ましい範囲での膜厚が選定されて、当該膜厚に基づき塗膜が形成される。膜厚を大きくするほどに塗膜の光強度比(I4/I1)は効果的に小さい比率となる。しかしながら、過剰に厚く形成することは耐候性剥離及び装飾性のみならず、軽量化に反する。本発明により、耐候性剥離及び装飾性のみならず塗装物の軽量化をも考慮して形成することができる。
【0068】
第7発明又は第8発明による場合、現実的な顔料候補から顔料が選定されるので、特定の波長帯域の光が下地へ到達することを有効に抑制し、装飾性に優れた塗膜を現実的に形成することができる。
【0069】
第9発明による場合、特定の波長帯域の光が下地へ到達することが有効に抑制され、且つクリヤ塗膜により艶、光沢が向上されて装飾性が優れた塗装物を得ることができる。
【0070】
第10発明又は第11発明による場合、特定の波長帯域の光が下地へ到達することが有効に抑制されて耐候性剥離に強く、且つ装飾性が優れた塗装物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る塗膜の形成方法にて、塗膜を特定する光特性である光強度比が重要なパラメータであることを説明する説明図である。
【図2】塗膜の光線透過率を算出する方法の概要を示す説明図である。
【図3】クベルカ−ムンク理論のモデルを示す説明図である。
【図4】本実施の形態における反射率R´g 及びR´の測定システムの例を示す略示断面図である。
【図5】本実施の形態における候補顔料を夫々単独に含有する顔料ペーストの成分を示す説明図である。
【図6】本実施の形態にて、顔料毎及び波長毎の単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Siを求めるための顔料ペーストを用いた塗料の配合例を示す説明図である。
【図7】本実施の形態にて水性塗料のバインダーとして用いられるアクリルエマルション樹脂の配合例を示す説明図である。
【図8】求められた配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si の波長分布の例を示すグラフである。
【図9】本実施の形態にて各塗装試料に基づき、各顔料について算出された吸収係数Ki 及び散乱係数Si を示す説明図である。
【図10】塗膜の光強度比(I4/I1)の波長分布を示すグラフである。
【図11】本実施の形態にて実施例の塗膜を形成するために調製した塗料の配合量を示す説明図である。
【図12】作成した各塗装板についての塗膜に含有される顔料、顔料の配合量、及び膜厚、並びに光強度比(I4/I1)を含む塗装板の特性を示す説明図である。
【図13】塗膜の光強度比(I4/I1)と、吸収係数Kmix及び散乱係数Smix夫々に膜厚Xを乗じた値との関係を示すグラフである。
【図14】実施例の各塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smix夫々に膜厚Xを乗じた値をプロットしたグラフである。
【図15】光強度比算出装置の構成例を示すブロック図である。
【図16】光強度算出装置のCPUにより実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図17】光強度算出装置のCPUにより実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
なお、以下に示す項目について順次説明する。
【0073】
1.塗膜の設計
1−1.光強度比の算出式
1−2.算出式中の吸収係数K及び散乱係数S、反射率Rg
1−3.設計手順の概要
2.下地の反射率Rg
3.顔料毎の吸収係数Ki 及び散乱係数Si の算出
3−1.吸収係数Ki 及び散乱係数Si の算出
3−2.候補顔料を含有する塗膜の塗装試料の作成
3−3.各塗装試料に対する反射率の実測
3−4.算出例
4.顔料、配合量及び膜厚の選定
4−1.各色の塗膜
4−2.吸収係数Ki 及び散乱係数Si による顔料の選定
4−3.塗膜の光強度比の波長依存性
5.実施例及び促進耐候試験
5−1.実施例
5−2.光強度比(I4/I1)の推定
5−3.促進耐候試験
6.考察
7.光強度比算出装置の利用
【0074】
<1.塗膜の設計>
本発明に係る塗膜の形成方法では、塗膜の表面から入射される光の強度I1に対する塗膜内で下地へ向かう光の強度I4の光強度比(I4/I1、図1参照)が所定の比率未満となるような塗膜を設計して形成する。
【0075】
本実施の形態では、塗膜が形成される被塗装物としては自動車の車体を考慮し、日射による高温、風雨による多湿等の環境に晒される塗膜の光劣化、耐候性剥離、及び装飾面において下地の透けに大きく関与する300〜420nmの波長帯域の光の光強度比を基準とする。そして以下の説明では、特に耐候性剥離に大きく関与する波長帯域の光の代表として380nmの光の光強度比(I4/I1)を例に挙げて説明する。
【0076】
なお、被塗装物は自動車の車体に限らないことは言うまでもない。金属、プラスチック、発泡体などでもよい。
【0077】
<1−1.光強度比の算出式>
まず、塗膜の光強度比を求めるには、以下に示す式(1)を用いる。
【0078】
【数1】

【0079】
図1に示した塗膜の光強度比(I4/I1)を求めるための式(1)は、クベルカ−ムンク理論からの応用に基づき、以下に示す塗膜内における光の吸収及び散乱の理論により導き出される。
【0080】
物質内における光の吸収及び散乱を定量的に解析するために、クベルカ−ムンク(Kubelka-Munk)理論が広く用いられている(P.Kubelka,F.Munk,Z.tech.Phys.,12,593(1931))。「クベルカ−ムンク理論」は、光を二つの逆向きの光束として扱い、均質な塗膜層内をある一の向きで通過する光の強度は、同一の向きの光束の吸収及び散乱による減少と、逆向き成分の光束の散乱による増加とによって変化するとして分析する。
【0081】
以下、クベルカ−ムンク理論について説明する。なお、以下に示すクベルカ−ムンク理論の説明、及びクベルカ−ムンク理論からの展開は参考文献1を参照して導かれるものである。
(参考文献1;イシマル アキラ(Akira Ishimaru)著、「任意媒体における波動の伝播及び散乱解析(Wave Propagation and Scattering in Random Media)」、(米国)、アイトリプルイープレス(IEEE Press-Oxford University Press Classic Reissue)、1997年1月、p.191〜p.196)
【0082】
図3は、クベルカ−ムンク理論のモデルを示す説明図である。クベルカ−ムンク理論は、膜厚がXである塗膜内において、表面からの法線距離がzである微小厚さdzの層に逆方向から来る光束F+及びF-を考え、光の吸収及び散乱を考慮した塗膜の反射率を求めるものである。
【0083】
図3に示す塗膜内の上部から下部へ向かう光束F+の厚さdzの層における変化量dF +は、厚さdzの層内での吸収及び散乱によって減少し、光束F-の散乱により増加するので以下に示す式(2)のように求められる。
【0084】
【数2】

【0085】
ここで、式(2)における吸収効率K´及び散乱効率S´と、単位厚み当たりの吸収係数K及び散乱係数Sとの関係は、式(3)で示される。
【0086】
【数3】

【0087】
したがって、式(2)は以下式(4)に変形できる。
【0088】
【数4】

【0089】
同様にして図3に示す塗膜内の下部から上部へ向かう光束F-の厚さdzの層における変化量dF-は、厚さdzの層内での吸収及び散乱によって減少し、光束F+の散乱により増加するので以下に示す式(5)のように求められる。
【0090】
【数5】

【0091】
式(4)及び式(5)のように得られる式を、夫々微小厚みdzで微分した場合、式(6)に示す2つの式を得ることができる。
【0092】
【数6】

【0093】
式(6)における光束F+及びF-が指数関数的に変化するとの仮定に基づき光束F-及びF+を求めるために、d/dzをαに置き換えて変形すると以下式(7)が得られる。
【0094】
【数7】

【0095】
式(7)において、ゼロとならない光束F+及びF-の解を求めるには、式(7)における光束F+及びF-の係数の行列式が、式(8)に示すようにゼロを満たすことが必要である。
【0096】
【数8】

【0097】
式(8)を満たすαとして以下式(9)に示す2つの値が求められる。
【0098】
【数9】

【0099】
αが式(9)に示される夫々2つの値である場合の光束F+及びF-の比率は、式(7)の2つの式夫々により、以下式(10)のように求められる。
【0100】
【数10】

【0101】
これまでの式(7)〜(10)に基づき光束F+及びF-を指数関数により表わすと、式(11)のように表わされる。
【0102】
【数11】

【0103】
式(11)における光束F+及びF-を解くための境界条件の一つの例として、最も単純な例は、塗膜の表面(z=0)に入射する光束F+の強度がF0 である状態である。また、塗膜の下地との界面(z=X)では、下地が十分に厚いために下地から入射する光束F-の強度がゼロである状態である。つまり、式(11)は式(12)を満たすという境界条件が与えられた場合、式(11)における係数C1 ,C2 は、以下の式(13)のように求められる。
【0104】
【数12】

【0105】
しかしながら、塗膜内、下地及び界面での反射を考慮すべきである。そこで、他の境界条件の一つの例として塗膜、下地の界面での反射率を用い、式(14)のような境界条件が与えられた場合、式(11)における係数C1 ,C2 は、以下の式(15)のように求められる。
【0106】
【数13】

【0107】
式(11)及び式(15)に基づき、塗膜の表面、即ちz=0での反射を考慮した下地の反射率R´は、式(16)により表わされる。塗膜の表面に光束F0 が入射した場合、界面でk1 の反射率でフレネル反射する分に、塗膜内から表面へ向かう光束F-の内の界面で反射されずに射出する分が足し合わされると考えられるからである。なお、クベルカ−ムンク理論の中で塗膜表面における反射率として定義されている反射率Rは、R=F -(0)/F+(0)で求められる。
【0108】
【数14】

【0109】
塗膜の下地との界面、即ちz=Xでの反射を考慮した透過率T´は、式(17)により表わされる。下地との界面内側にて下地へ向かう光束F+の内、下地から反射されずに射出する分が透過する光である。
【0110】
【数15】

【0111】
式(16)に示した反射率R´を求める式中の、表面における光束F-(0)を、式(8)を用いて書き換え、式(15)を用いて係数C1 ,C2 を消去するように変形すると、式(18)のように書き換えられる。
【0112】
【数16】

【0113】
同様に、式(17)の透過率T´は、式(19)のように書き換えられる。
【0114】
【数17】

【0115】
ここで、クベルカ−ムンク理論は、塗膜内において塗膜の表面から入射してきた光の強度I1に対し、塗膜内で下地へ向かう光の強度I4の比を求めるために用いた。式(19)に注目した場合、塗膜の表面から入射してきた光は光束F0 であり、塗膜内で下地へ向かう光は、光束F+(X)で表わされている。つまり、求められるべき塗膜内で下地へ向かう光の入射光に対する光強度比(I4/I1)は、光束F0 /F+(X)である。したがって塗膜における光強度比(I4/I1)は式(1)により求めることが可能である。
【0116】
<1−2.算出式中の吸収係数K及び散乱係数S、反射率Rg
なお、式(1)により塗膜の光強度比(I4/I1)を算出するためには上述のように、塗膜の吸収係数K及び散乱係数S、塗膜の膜厚X、下地の光の反射率Rg 、その他、既知の塗膜の界面での反射率k1 ,k2 等の各種係数が必要である。反射率k1 ,k2 は塗料を構成する樹脂の屈折率から論理的に推定されて定められた反射率である。Xは膜厚であるので、設計の際に自由にに設定できる。下地の反射率Rg については、予め使用する各下地について求めておく。
【0117】
下地の反射率Rg は、上塗り塗膜が形成されている場合の下地からの反射率であり、界面での反射のみならず下地から散乱によって下地表面から射出される光の分も含まれる。上塗り塗膜が形成されている状態での反射率であるから測定できない。しかしながら、上塗り塗膜が形成される前の状態での反射率R´g (分光反射率)は実測が可能であり、反射率Rg は、実測可能な反射率R´g により式(20)で求める。このとき、塗膜の界面での反射率k3 ,k4 は既知のものを用いる。
【0118】
【数18】

【0119】
塗膜の設計では、上述のように求めておいた下地の反射率Rg を用い、形成しようとする塗膜の吸収係数K、散乱係数S、及び膜厚Xとして種々の値を代入しながら、他の既知の各種係数をも用いて式(1)により光強度比(I4/I1)を求め、当該光強度比(I4/I1)が所定の比率未満となるように吸収係数K、散乱係数S、及び膜厚Xを探索する。
【0120】
ここで、塗膜の吸収係数K及び散乱係数Sは、塗膜に含有させる顔料と、その配合量に応じて変わる値である。1又は複数の顔料を含有する塗膜の吸収係数K及び散乱係数Sは、以下に示すダンカンの混合式(21)により求められる。なお、1又は複数の顔料を含有する塗膜の吸収係数K及び散乱係数Sは、式(21)を含む以下の説明では、夫々吸収係数Kmix及び散乱係数Smixと示す。
【0121】
【数19】

【0122】
式(21)により求められる吸収係数Kmix及び散乱係数Smixを、式(1)におけるK及びSとして用い、光強度比(I4/I1)が所定の比率未満となるように、顔料とその配合量とを選定する。ここで式(21)では配合量は設計段階で自由に設定できる値であるが、顔料毎の単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si は予め求めておくことが必要となる。
【0123】
<1−3.設計手順の概要>
以上をまとめると、塗膜の設計は以下の手順で行なう。
1.上塗り塗膜が形成されていない状態での下地の反射率R´g を測定し、式(20)により、上塗り塗膜が形成されている状態での下地の反射率Rg を求めておく。
2.顔料毎の単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si を予め求めておく。
3.顔料、配合量を仮に決定して、式(21)により、形成しようとする塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smixを算出する。
4.算出した塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smix、並びに求めておいた下地の反射率Rg 、並びに仮に決定される膜厚Xに基づいて塗膜の光強度比(I4/I1)を式(1)により求める。
5.顔料、顔料の配合量、膜厚Xを変えながら、3.及び4.を繰り返し、光強度比(I4/I1)が所定の比率未満となる顔料、顔料の配合量、及び膜厚Xの条件を探索する。
【0124】
そして、探索した顔料、顔料の配合量、及び膜厚Xの条件から、顔料、顔料の配合量、及び膜厚Xを選定し、光強度比(I4/I1)が所定の比率未満となる所望の塗膜を設計することができる。
【0125】
<2.下地の反射率Rg
「1.塗膜の設計」にて説明したように、式(1)にて光強度比(I4/I1)を算出するためにはまず、使用する下地の反射率Rg 、即ち上塗り塗膜が形成された状態での下地の反射率Rg を求めておく必要がある(手順1)。下地の反射率Rg は、式(20)により求められるから、使用する下地について、上塗り塗膜が形成されていない状態での下地の反射率R´g を分光光度計を用いて測定しておく。
【0126】
本実施の形態では下地として、被塗物の基材の表面に化成処理等を施した上で、錆防止を目的とするカチオン電着塗装(下塗り)を施したものを使用することを想定する。本実施の形態では被塗装物として自動車の車体を考慮するからである。したがって具体的には、冷間圧延鋼板(JIS G 3141 SPCC-SD)の上に、リン酸亜鉛処理をし、乾燥膜厚が20μmとなるようにカチオン電着塗装を施したものを使用する。
【0127】
図4は、本実施の形態における反射率R´g 及びR´の測定システムの例を示す略示断面図である。測定システムは、積分球10と、光検出器11とを含んで構成される。積分球10は内面が高反射率の素材で構成され、入射光を導入するための開口部12と、該開口部12と逆側に設けられた開口部13と、側面の光検出器に反射光を入射するための開口部14とが設けられている。上塗り塗膜が形成されていない下地の状態の塗装物15を設置して光検出器11により分光反射率R´g を測定する。
【0128】
結果的に、本実施の形態にて使用する下地の380nmの光に対する反射率Rg は、以下のように求められる。
カチオン電着塗膜塗装板の反射率Rg =0.18
なお、このときの波長380nmでの下地の分光反射率R´g の測定値は以下であった。
カチオン電着塗膜塗装板の分光反射率R´g =0.116
【0129】
<3.顔料毎の吸収係数Ki 及び散乱係数Si の算出>
<3−1.吸収係数Ki 及び散乱係数Si の算出>
次に、顔料毎に、該顔料を含有させた塗膜を形成した場合の単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si を算出しておく。吸収係数Ki 及び散乱係数Si は実測できる値ではなく、クベルカ−ムンク理論に基づき、以下のように算出される値である。
【0130】
クベルカ−ムンク理論は、塗膜の吸収係数K及び散乱係数S(いずれも実際の配合量を加味した場合の値)と、塗膜の膜厚が無限大のときの反射率Rとの関係を表わす式(22)を導き出す。
【0131】
【数20】

【0132】
クベルカ−ムンク理論はまた、膜厚がXである塗膜が下地の上に形成された場合の塗膜の光の分光反射率Rは、以下に示す式(23)で表わされることも示している(特許文献3;特開2007−31689号公報)。なお、式(23)におけるRは、クベルカ−ムンク理論における界面反射が無い場合の塗膜の光の反射率である。Rg は、クベルカ−ムンク理論における界面反射が無い場合の下地の光の反射率である。Rは、クベルカ−ムンク理論における界面反射が無い場合の膜厚が十分に厚い塗膜の光の反射率である。
【0133】
【数21】

【0134】
式(23)をSについてまとめた場合、以下に示す式(24)が得られる。
【0135】
【数22】

【0136】
式(24)において膜厚Xは既知のデータである。同一の塗膜を、反射率R´g が異なる下地の上に形成した場合でも、塗膜の散乱係数S及び塗膜が無限厚のときの反射率Rは同一の値であるはずである。したがって、クベルカ−ムンクの反射率Rg 及びRの値が相互に十分異なるような複数の塗装物(異なる反射率の下地の上に同一の塗膜を形成し、そのものの反射率が異なるように構成したもの)を用い、散乱係数Sが同一であることに基づいて、無限厚のときの塗膜の反射率Rを求めることができる。無限厚のときの塗膜の反射率Rが得られれば、式(24)に基づき散乱係数Sを求めることができる。
【0137】
そして、吸収係数Kは、K/Sが上述の式(22)を満たすことを用いて、上述の式(24)により求められた散乱係数Sから求めることができる。
【0138】
ところで、クベルカ−ムンク理論における界面反射がない場合の反射率R及びRg の値は、界面での反射の影響が考慮されていないため、実測される塗膜の反射率R´又は下地の反射率R´g とは異なる。しかしながら、実測される塗膜の反射率R´及び下地の反射率R´g は、以下に示す式(25)及び上述の式(20)によって界面での反射の影響を補正することにより、クベルカ−ムンクの反射率R及びRg に変換することが可能である。式(25)は、サンダーソンの補正式として古くから知られている。したがって、実測に基づき得られる反射率R´及び反射率R´g を用い、式(20)及び(25)のサンダーソン補正によってクベルカ−ムンクの反射率R、反射率Rg を求める。そして、クベルカ−ムンクの反射率R、反射率Rg に基づき、式(23)から導かれる式(27)を用いてクベルカ−ムンクの無限厚における反射率Rを求める。これにより、散乱係数Sが式(24)により求められ、更に吸収係数Kが式(22)により求められる。
【0139】
【数23】

【0140】
具体的には、反射率R´g が異なる下地として例えば、高反射率R´g の下地として白色の下塗り塗膜を形成したものと、低反射率R´g の下地として黒色の下塗りを形成したものを用いる。白色の下塗り塗膜が高反射率R´g の下地として機能しない紫外光領域の波長の光については、例えばアルミニウム板(JIS A3003P)を高反射率R´g の下地として用いる。白色及び黒色のみでもよい。白色の下地は、例えばブリキ版(JIS G3003)に酸化チタンを含有する油性系塗料を塗装したものを用いる。黒色の下地は、例えば白色の下地にカーボンブラックの顔料を含有する油性系塗料を塗装したものを用いる。そして、白色の下地、黒色の下地、及びアルミニウム板の反射率R´g を夫々実測する。以下、白色の下地の反射率R´gをR´g1 とし、黒色の下地の反射率R´g をR´g2 とし、アルミニウム板の反射率R´gをR´g3 として説明する。
【0141】
そして、白色の下地と黒色の下地との組み合わせ、又はアルミニウム板と黒色の下地との組み合わせの内のいずれかに、同一の塗料を塗装して塗膜を形成した塗装物について、複数の異なる波長の光についての反射率R´を実測する。以下、白色の下地の上に上塗り塗膜を形成した場合の反射率R´をR´1 とし、黒色の下地の上に上塗り塗膜を形成した場合の反射率R´をR´2 とし、アルミニウム板の下地の上に上塗り塗膜を形成した場合の反射率R´をR´3 として説明する。
【0142】
なお、各反射率R´g 及び反射率R´の測定は、図4に示した測定システムにより測定する。
【0143】
このように実測された異なる波長毎の光の反射率R´g1 、R´g2 、R´1 、R´2 を、上述の式(20)及び式(25)によりクベルカ−ムンクの反射率Rg1 、Rg2 、R1 、R2 に変換し、式(24)に代入すると、式(26)が得られる(R´g3 、R´3 については省略)。
【0144】
【数24】

【0145】
式(26)において、白色の下地の塗装物から得られる散乱係数Sも、黒色の下地の塗装物から得られる散乱係数Sも同値であることから、第2辺及び第3辺から無限厚のときの反射率Rが以下の式(27)のように求められる。
【0146】
【数25】

【0147】
このように式(27)で求められる反射率R、並びに実測した反射率(R´g1 、R´1 )の組、(R´g2 、R´2 )の組、又は(R´g3 、R´3 )の組に基づき、式(20)、式(25)、及び式(24)を用いて、異なる波長毎に塗膜の散乱係数Sを求めることができる。吸収係数Kについては、求めた散乱係数Sと、式(27)で求めた反射率Rを用いて式(22)により求められる。以上のことは、「湊の方法」として知られている(湊、千葉大学工学部研究報告19、No.36、203(1968))。
【0148】
吸収係数K、及び散乱係数Sの値は、上述の式(22)〜(27)の一連の式によって表わされるR´と、他のK,S,X,R´g との関係が満たされるように、逆計算によって求めてもよい。
【0149】
更に、求めた吸収係数K及び散乱係数Sを夫々、塗膜に含有させた顔料の配合量で除算した値が、異なる波長毎の単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Siとして求められる。
【0150】
このように、顔料毎及び異なる波長毎に吸収係数Ki 及び散乱係数Si を算出するには、異なる反射率R´g の下地を作成して夫々における異なる波長の光の反射率R´g1 、R´g2 、又はR´g3 を実測する。そして実際に候補の顔料を夫々単独に含有させた塗膜を異なる反射率R´g の下地夫々に形成し、夫々における異なる波長の光の反射率R´1 、R´2 、又はR´3 を実測しておく必要がある。
【0151】
<3−2.候補顔料を含有する塗膜の塗装試料の作成>
実際に候補となる顔料を夫々単独で含有する塗料を作成し、作成した塗料を候補の下地の上に塗装して乾燥させた塗装試料を製作する。なお、以下の説明において、単位としての「部」は特に断わりのない限り「質量部」を意味する。
【0152】
本実施の形態では、塗膜に含有させる候補顔料としては、以下の7つを用いた。なお、候補顔料は以下の7つに限定されないことは勿論であって、他に各種染料、有機顔料、無機顔料などを候補顔料してもよい。着色顔料についても以下の7つに用いられている色以外の無色顔料、又は着色顔料を用いてもよいことは勿論である。
【0153】
・顔料1 RAVEN(登録商標) 5000 ULTRA III(商品名、COLUMBIAN CHEMICALS COMPANY製、カーボンブラック顔料)
・顔料2 IRGAZIN(登録商標) YELLOW 2RLT(商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、イエロー顔料)
・顔料3 TIPAQUE(登録商標) CR-97(商品名、石原産業株式会社製、白顔料)
・顔料4 FASTOGEN(登録商標) GREEN SF(商品名、DIC株式会社製、緑顔料)
・顔料5 アルペースト(登録商標)97−0510(商品名、東洋アルミニウム株式会社製、アルミペースト(メタリック))
・顔料6 IRGAZIN DPP RED BO(商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、赤顔料1)
・顔料7 IRGAZIN DPP RUBINE TR(商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、赤顔料2)
【0154】
顔料1は、黒色顔料に分類される顔料の1つであり、塗膜の明度を暗くする。顔料3は、白色顔料に分類される顔料の1つであり、塗膜の明度を明るくする。顔料2、4、6、7は、有機着色顔料に分類される顔料であって各色に発色して高鮮明で装飾性が優れた塗膜を形成することを可能とする。
【0155】
顔料5は、金属製鱗片状光輝材に分類される顔料の1つであり、光輝感に優れた塗膜を形成することができる。なお、金属製鱗片状光輝材に分類される顔料としては他に、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウム等の金属又は合金等の無着色あるいは着色された顔料が挙げられる。
【0156】
このような分類の顔料1〜4、6、7を夫々単独に含有する製造例1〜6の顔料ペーストを製造した。図5は、本実施の形態における候補顔料を夫々単独に含有する顔料ペーストの成分を示す説明図である。夫々の顔料ペーストの製造工程について以下説明する。
【0157】
製造例1では、顔料1を含有する顔料ペーストを製造した。具体的には、顔料1を10部、分散のための水溶性アクリル樹脂(日本ペイント社製、不揮発分30%、酸価70、水酸基価30、分子量10000)を53部、イオン交換水を36部、及び水性用の消泡材としてBYK(登録商標)−011(商品名、ビックケミー社)を1部、予備混合した後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で粒度5μm以下となるまで混合分散し、水性のブラックペーストを得た。
【0158】
製造例2〜5では、製造例1と同様の手順で、図5に夫々示す配合により顔料分散し、水性のイエローペースト、ホワイトペースト、グリーンペースト、及びレッド1ペーストを得た。
【0159】
製造例6では、顔料7を含有する顔料ペーストを製造した。具体的には、顔料7を10部、分散のための溶剤型アクリル樹脂(日本ペイント社製、不揮発分65%、酸価10、水酸基価80、分子量4500)を44部、キシレンを46部、予備混合した後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で粒度5μm以下となるまで混合分散し、溶剤型のレッド2ペーストを得た。
【0160】
更に、シルバー系の色の顔料ペーストとして、顔料5のアルミフレークのペースト(以下、アルミペーストという)であるアルペースト(登録商標)Al97-0510(商品名、東洋アルミニウム社製、アルミ箔、不揮発分60%)を用いた。
【0161】
次に、製造例1〜6のように製造した顔料ペースト(ブラックペースト、イエローペースト、ホワイトペースト、グリーンペースト、レッド1ペースト、及びレッド2ペースト)、並びに上述のアルミペーストを、バインダー、溶剤、乳化剤、硬化剤などと混合して顔料を夫々単独で含有する塗装可能な塗料を調製し、各塗料を下地の上に塗装し、塗装試料を作成した。
【0162】
図6は、本実施の形態にて、顔料毎及び波長毎の単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Siを求めるための顔料ペーストを用いた塗料の配合例を示す説明図である。なお、顔料毎の吸収係数Ki 及び散乱係数Siを求めるための塗装試料に用いる異なる反射率R´g の下地としては、上述「3−1.吸収係数Ki 及び散乱係数Si の算出」における説明で示したように白色の下地、黒色の下地及びアルミニウム板を用いた。なお具体的には、白色の塗料を塗装したブリキ板の半分の面にカーボンブラックの塗料を塗装したものと、アルミニウム板(JIS A3003P)とである。
【0163】
図6に示すような配合により、製造例1〜6の顔料ペースト、及び上述のアルミペースト(顔料5)を夫々単独に含有する7つの塗料(ブラック、イエロー、ホワイト、グリーン、シルバー、レッド1、及びレッド2)を得た。
【0164】
ブラックの塗料は、具体的には、以下のように調製した。図5に示したように製造された製造例1の水性のブラックペースト38.0部に、主たるバインダーとしてアクリルエマルション樹脂を100.0部、硬化剤のメラミン樹脂であるサイメル327(商品名、サイテック社製、不揮発分90%)を16.7部、そして溶剤であるブチルセロソルブを25.0部を混合した後、粘性剤(増粘剤)としてアデカノールUH−814N(商品名、株式会社ADEKA製、ウレタン会合型増粘剤、不揮発分30%)を1.0部、混合し攪拌した。そして、イオン交換水を150.0部加え、顔料1の吸収係数Ki 及び散乱係数Siを求めるためのブラック塗料(不揮発分23%、PWC(Pigment Weight Content)=5%)を得た。
【0165】
このように得られたブラック塗料を、上述の白色の面と黒色の面を形成されたブリキ板にエアースプレーにて乾燥膜厚が10μmとなるように塗装し、80℃で5分間のプレヒート工程を実施した後、140℃で20分間加熱することにより、塗装試料1を得た。
【0166】
ここで、バインダーの主体として配合されたアクリルエマルション樹脂は、以下のように製造されたものを用いた。
【0167】
図7は、本実施の形態にて水性塗料のバインダーとして用いられるアクリルエマルション樹脂の配合例を示す説明図である。アクリルエマルション樹脂は、反応容器に、脱イオン水を35.75部加え、窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温させた。そして、α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物として、スチレン10.00部、メタクリル酸メチル24.02部、アクリル酸ブチル28.94部、アクリル酸エチル20.11部、アクリル酸−4ヒドロキシブチル15.40部、メタクリル酸1.53部と、アクアロン(登録商標)HS−10(商品名、第一工業製薬社製、アニオン系分散剤、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニスエーテル硫酸エステル)3.00部、アデカリアソープ(登録商標)NE−20(商品名、株式会社ADEKA製、ノニオン系分散剤)0.50部、及び脱イオン水50.00部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.30部、及び脱イオン水15.00部からなる開始剤溶液を2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、同じ温度(80℃)のまま2時間熟成させた。次いで、40℃まで冷却させた後に400メッシュフィルターで濾過し、粒径200nm、不揮発分50%、酸価10mgKOH/g、水酸基価60のアクリルエマルション樹脂を得た。
【0168】
なお、アクリルエマルション樹脂は、上述のような構成のもののみならず、種々のものを用いることができることは勿論である。また、バインダーとしては他の樹脂を用いてもよい。
【0169】
そして、水性のイエロー、ホワイト、グリーン、レッド1の各塗料は夫々、製造例2〜5の顔料ペーストと、バインダーであるアクリルエマルション樹脂などを夫々、図6に示す配合にてブラック塗料と同様の手順により得た。そして、各塗料を上述の白色の面と黒色の面を形成されたブリキ板に塗装し、夫々塗装試料2〜5として得た。
【0170】
シルバーの塗料は、具体的には、以下のように調製した。アルミペースト5.7部、ジオクチルリン酸エステル1.0部、バインダーであるアクリルエマルション樹脂を100.0部混合し、更に、硬化剤のメラミン樹脂であるサイメル327を16.7部、ブチルセロソルブを25.0部混合した後、粘性剤のアデカノールUH−814Nを2.0部、混合攪拌した。その後、イオン交換水を250.0部加えて、水性アルミフレーク塗料(不揮発分27.1%、PWC=5%)を得た。得られた水性アルミフレーク塗料を、上述の白色の面と黒色の面を形成されたブリキ板にエアースプレーにて乾燥膜厚が10μmとなるように塗装し、80℃で5分間のプレヒート工程を実施した後、140℃で20分間加熱することにより、塗装試料6を得た。
【0171】
レッド2の塗料は、図6に示すように、製造例6のレッド2ペーストを40.0部、主たるバインダーである溶剤型アクリル樹脂を76.9部、ユーバン20SD(商品名、三井東圧化学株式会社製、ブチル化メラミン樹脂)を30.0部、キシレンを150.0部配合して溶剤型の塗料を得た。そして、レッド2の塗料を上述の白色の面と黒色の面を形成されたブリキ板に乾燥膜厚が10μmとなるように塗装して、塗装試料7を作成した。
【0172】
アルミニウム板を下地として各塗料を塗装した塗装試料も作成した。図6に示した各塗料の内、ホワイトとレッド1の塗料を、白色の面と黒色の面を形成されたブリキ板の上に塗装した方法と同様の方法にて、アルミニウム板(JIS A3003P)にもエアスプレーにて乾燥膜厚が10μmとなるように塗装し、塗装試料8、9を得た。
【0173】
<3−3.各塗装試料に対する反射率の実測>
図6に示した各塗料を塗装した塗装試料1〜9夫々について、白色の面の上における塗膜、黒色の面の上における塗膜、反射性のアルミニウム板の下地の上における塗膜について、360〜400nmの波長帯域の光の分光反射率R´1 、R´2 、R´3 を実測した。アルミニウム板及び黒色の下地の上に、ホワイト及びレッド1の塗料を夫々塗装した塗装試料については、300〜420nmの波長帯域の光の分光反射率R´2 、R´3 を実測した。なお、分光反射率の計測は、図4に示した測定システムを利用して測定する。
【0174】
各塗装試料1〜9の下地として利用した白色の面と黒色の面を形成されたブリキ板、及びアルミニウム板についても同様に、塗膜を形成する前に図4に示した測定システムにより光の反射率R´g1 、R´g2 、R´g3 を実測し、以下のような値が得られた。なお以下の値は、代表値として波長が380nmの光の反射率を示している。
白色下地の反射率 R´g1 =21.6(%)
黒色下地の反射率 R´g2 = 5.2(%)
アルミニウム板の反射率R´g3 =51.7(%)
【0175】
そして、各塗装試料1〜9夫々についての白色下地の上に形成された場合における反射率R´1 、黒色下地の上に形成された場合におけるR´2 、又はアルミニウム板の上に形成された場合におけるR´3 、そして上述の塗膜が形成されていない状態における白色下地の反射率R´g1 及び黒色下地の反射率R´g2 、又はアルミニウム板の反射率R´g3 を用い、上述の「3−1.吸収係数Ki 及び散乱係数Si の算出」にて説明したように、各塗装試料1〜9に使用された顔料夫々についての吸収係数Ki 及び散乱係数Si を算出した。即ち、異なる波長毎に実測した反射率R´g1 、R´1 、R´g2 、R´2 、R´g3 、R´3 に基づいて式(20)、式(25)及び式(27)を用いてRを求め、更にそのRと、反射率(R´g1 、R´1 )の組、(R´g2 、R´2 )の組、又は(R´g3 、R´3 )の組に基づいて式(24)、式(20)、式(25)により塗膜の散乱係数Sを求め、求めた散乱係数SとRを用いて式(22)により吸収係数Kを求めた。そして、求めた吸収係数K及び散乱係数Sを実際の顔料の配合量で除算し、配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si として求めた。
【0176】
図8は、求められた配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si の波長分布の例を示すグラフである。図8のグラフでは、黒色下地及びアルミニウム板を下地として水性のレッド1の塗料を塗装した塗装試料にて実測された反射率に基づき求められた配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si の波長分布を示している。横軸に300〜420nmの範囲の波長を示し、縦軸に吸収係数Ki 及び散乱係数Si の大きさを示している。
【0177】
<3−4.算出例>
実測された反射率に基づく顔料1〜7の単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si の算出例を示す。
【0178】
顔料1(ブラック)の吸収係数Ki 及び散乱係数Si を求めるにはまず、式(20)、式(25)及び式(27)を用いてRを求める。このとき、式(25)における塗膜のフレネル反射率としては、k1 =0.03、k2 =0.55を用い、式(20)における下地のフレネル反射率としては、いずれの下地についてもk3 =0.03、k4 =0.55を用いた。
【0179】
これにより、顔料1(ブラック)について求められた単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si は、例えば380nmの波長の光に対してはKi =0.27、Si =0.022である。
【0180】
同様に、顔料2〜7夫々について求めた配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si を算出により得た。図9は、本実施の形態にて各塗装試料に基づき、各顔料1〜7について算出された吸収係数Ki 及び散乱係数Si を示す説明図である。なお、図9に示す各顔料についての吸収係数Ki 及び散乱係数Si の例は、波長が380nmの光に対する吸収係数Ki 及び散乱係数Si を代表値として示している。いずれの場合でも、算出の際に用いたフレネル反射率k1 、k2 、k3 、k4 は、顔料1について用いた値と同様である。なお、アルミニウム板が下地の場合は、k3 =0.4、k4 =0.9を用いた。
【0181】
このようにして得られた候補顔料毎の配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si を用い、設計段階における塗膜の顔料の配合量に基づき式(21)により、塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smixを算出し、これらを式(1)におけるK及びSとして用いることができるようになる。
【0182】
<4.顔料、配合量及び膜厚の選定>
次に、実際に形成しようとする塗膜について、式(1)により算出される特定の波長帯域の光の光強度比(I4/I1)を求め、光強度比(I4/I1)が所定の比率未満となるように顔料、配合量及び膜厚Xを選定する。
【0183】
そのためにまず、図9のように求めた特定の波長帯域における顔料毎の単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si を用い、顔料及びその配合量を仮に決定して式(21)により、形成しようとする塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smixを算出する。膜厚Xについても仮に決定し、それらの値を用いて式(1)により計算される光強度比(I4/I1)を得、膜厚X、配合量、さらに顔料を変えながら、光強度比(I4/I1)が所定の比率未満となるような顔料、配合量、膜厚Xを選定する。
【0184】
以下、形成しようとする塗膜について色別に、顔料、配合量、膜厚Xの選定の過程を説明する。なお、本実施の形態では、特定の波長帯域の代表として波長が380nmの光における光強度比(I4/I1)を算出し、所定の比率は0.02とする。
【0185】
<4−1.各色の塗膜>
(1)ブラックの塗膜
ブラックの塗膜を形成するためには、本実施の形態における候補顔料からは顔料1(ブラック)が選定される。そこで、顔料1を単独に含有し、且つ、光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を設計する。ただし、顔料1を含有する塗料として、バインダーであるアクリルエマルション樹脂、硬化剤、溶剤、粘性剤、及びイオン交換水などの配合量は、図6に示したものが実用的なものとして考える。そこで、顔料ペーストの配合量以外のバインダーなどの配合量は以下、各塗料に応じて図6に示したものを採用する。
【0186】
膜厚Xについては、でき得る限り薄くし、薄くした場合でも下地へ到達する光の強度を抑制することができるような塗膜を設計するために、実用的な範囲として7〜40μmの範囲内で選定する。初期的には、実用的な範囲内で最も薄い7μmに仮に決定する。
【0187】
このように、含有させる顔料は顔料1、膜厚Xを7μmと仮に決定した上で、当該顔料1を含有し、且つ光強度比(I4/I1)が0.02以下となるように、配合量を選定する。
【0188】
例えば、製造例1にて製造したブラックペーストを10.0部を、図6に示したような配合量にてバインダー樹脂等と混合して塗料を調製し、塗膜を形成するとした場合、計算により顔料1の固形分の配合量(PWC)は約1.5質量%となる。
【0189】
以下、各配合量(PWC)は小数点以下1桁にて、吸収係数Ki 及び散乱係数Si 、並びに光強度比の値は有効数字2桁にて示す。
【0190】
配合量10.0×重量比10%/不揮発成分(NV)総重量68.0×100
=1.5
【0191】
顔料1の単位配合量当たりの380nmの光の吸収係数Ki 及び散乱係数Si は夫々、Ki =0.27、Si =0.022である。この場合、380nmの光の塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smixは、ダンカンの式(20)により以下のように算出される。
吸収係数Kmix=1.5×0.27
散乱係数Smix=1.5×0.022
【0192】
算出された吸収係数Kmix及び散乱係数Smixを式(1)におけるK及びSとして用い、膜厚Xに7μmを用い、カチオン電着塗膜塗装板の反射率Rg =0.18(@380nm)、塗膜のフレネル反射率としてk1 =0.03、k2 =0.55を用いて式(1)を計算した場合、380nmの光の光強度比(I4/I1)として0.047が得られる。この場合、得られた光強度比(I4/I1)は所定の比率0.02未満とならない。したがって、顔料1の配合量は増加させるべきである。
【0193】
そこで例えば、製造例1にて製造したブラックペーストを20.0部混合させた塗料により塗膜を形成するとする。このとき、計算により顔料1の固形分の配合量(PWC)は、約2.8質量%となる。
【0194】
配合量20.0×重量比10%/不揮発成分(NV)総重量70.7×100
=2.8
【0195】
この場合、塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smixは、ダンカンの式(21)により以下のように算出される。
吸収係数Kmix=2.8×0.27
散乱係数Smix=2.8×0.022
【0196】
同様にして式(1)を計算した場合、380nmの光の光強度比(I4/I1)として0.0033が得られる。この場合、得られた光強度比(I4/I1)は所定の比率0.02未満である。したがって、顔料1を含むブラックペーストを20.0部混合した塗料を調製して用いることにより、膜厚7μmと比較的薄膜であっても光強度比(I4/I1)が低い塗膜を形成することができる。
【0197】
つまり、この顔料1を含有するブラックペーストの配合量を10.0部として調製した塗料を用いて光強度比(I4/I1)が0.02未満である塗膜とするためには、膜厚Xは7μmよりも厚くしなければならず、膜厚Xを7μmとすべき場合は、ブラックペーストの配合量を20.0部としなければならない。
【0198】
このように、ブラックの塗膜を形成する場合には、含有させる顔料として顔料1を選定し、顔料1について求めてある吸収係数Ki =0.27及び散乱係数Si =0.022、種々の配合量、膜厚Xを用いて塗膜の光強度比(I4/I1)を算出し、光強度比が0.02未満となる配合量及び膜厚Xを探索すればよい。
【0199】
本実施の形態では、色がブラックであって波長380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を形成するために、顔料1を選定し、顔料1の配合量として2.8質量%、膜厚Xとして7μmを選定した。
【0200】
(2)イエローの塗膜
イエローの塗膜を形成するためには、本実施の形態における候補顔料からは顔料2(イエロー)が選定される。そこで顔料2を単独に含有し、且つ波長が380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を設計する。イエローの塗膜の設計においても膜厚Xは初期的に7μmとして配合量を選定する。
【0201】
顔料2の単位配合量当たりの380nmの光の吸収係数Ki 及び散乱係数Si は夫々、Ki =0.050、Si =0.0040である。これと膜厚X=7μmを用いた式(1)の計算により、顔料2の配合量が12.8質量%となるように製造例2のイエローペーストを55.0部混合させた塗料を調製して塗装する場合に、塗膜の380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.0080となることが得られる。このとき光強度比(I4/I1)の値は所定の比率0.02未満となる。
【0202】
これに対し、例えば、顔料2の配合量が5.5質量%となるように製造例2のイエローペーストを20.0部混合させた塗料を用いて塗装する塗膜では、380nmの光の光強度比(I4/I1)の値として0.13が得られる。このとき光強度比(I4/I1)の値は所定の比率0.02未満とならない。
【0203】
そして本実施の形態では、色がイエローであって波長が380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を形成するために、顔料2の配合量として12.8質量%、膜厚Xとして7μmを選定した。
【0204】
(3)ホワイトの塗膜
ホワイトの塗膜を形成するためには、本実施の形態における候補顔料からは顔料3(ホワイト)が選定される。そこで、顔料3を単独に含有し、且つ波長が380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を設計する。ホワイトの塗膜の設計においても膜厚Xは初期的に7μmとする。
【0205】
顔料3の単位配合量当たりの380nmの光の吸収係数Ki 及び散乱係数Si は夫々、Ki =0.016、Si =0.011である。これと膜厚X=7μmを用いた式(1)の計算により、顔料3の配合量が45.5質量%となるように、製造例3のホワイトペーストを160.0部混合させた塗料を調製して塗装する場合に、塗膜の380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.00042となることが得られる。このとき光強度比(I4/I1)の値は所定の比率0.02未満となる。
【0206】
なおこのとき、選定される顔料の配合量の範囲は、実用的な範囲として2〜50質量%の範囲内で選定する。当該範囲外の配合量にて顔料を配合することは現実的でない。ただし、適切な範囲は顔料によって異なる。
【0207】
上述のように、配合量が45.5質量%となるようにホワイトペーストを160.0部混合させた場合、光強度比(I4/I1)は所定の比率0.02よりも十分に小さい値となった。これにより、膜厚Xを更に薄くするか、又は配合量をより少なくしてもよいことがわかる。
【0208】
一方、膜厚Xを7μmとしたまま、配合量が20.3質量%と、製造例3のホワイトペーストを40.0部混合させる場合、式(1)の計算により、光強度比(I4/I1)の値は0.031となり、所定の比率0.02未満とならない。
【0209】
本実施の形態では、色がホワイトであって波長が380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を形成するために、顔料3を選定し、顔料3の配合量として45.5質量%、膜厚Xとして7μmを選定した。
【0210】
(4)シルバーの塗膜
シルバーの塗膜を形成するためには、本実施の形態における候補顔料からは顔料5が選定される。顔料5を単独に含有し、且つ波長が380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を設計する。シルバーの塗膜の設計においても膜厚Xは初期的に7μmとする。
【0211】
顔料5のアルミペーストにおける固形分の単位配合量当たりの380nmの光の吸収係数Ki 及び散乱係数Si は夫々、Ki =0.025、Si =0.010である。これと膜厚X=7μmを用いた式(1)の計算により、顔料5の固形分の配合量が18.6質量%となるように、アルミペーストを25.0部混合させた塗料を調製して塗装する場合に、塗膜の380nmの光の光強度比(I4/I1)は0.013となることが得られる。このとき光強度比(I4/I1)の値は所定の比率0.02未満ではあるが、光強度比をより小さくすることができることが推測される。
【0212】
そこで、塗膜の光強度比(I4/I1)をより小さい値とするためには、塗料における顔料5の固形分の配合量を増やすか若しくは膜厚Xを厚くするか、又は、固形分の配合量も増やし、膜厚Xも厚くする必要がある。例えば、膜厚Xを7μmから10μmとする場合、式(1)の計算により、380nmの光の光強度比(I4/I1)の値は0.0021となり、所定の比率0.02未満の十分に小さい値となり、好ましい。
【0213】
本実施の形態では、色がシルバーであって波長380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を形成するために、顔料5を選定し、顔料5の配合量として18.6質量%、膜厚Xとして10μmを選定した。
【0214】
(5)シルバーイエローの塗膜
メタリックなイエロー、つまりシルバーイエローの塗膜を形成するためには、本実施の形態における候補顔料からは顔料2(イエロー)及び顔料5が選定される。顔料2及び顔料5を含有し、且つ波長が380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を設計する。シルバーイエローの塗膜の設計においても膜厚Xは初期的に7μmとする。
【0215】
顔料2の単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si は夫々、Ki =0.050、Si =0.0040である。顔料5のアルミペーストの単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si は夫々、Ki =0.025、Si =0.010である。
【0216】
ここで仮に、顔料2を含有する製造例2のイエローペーストを20.0部、顔料5のアルミペーストを20.0部混合して塗料を調製し、塗膜を形成するとした場合、計算により顔料2及び顔料5の固形分の配合量は夫々、約4.7質量%、約14.1質量%となる。
【0217】
配合量20.0×重量比20%/不揮発成分(NV)総重量85.0×100
=4.7
配合量20.0×重量比60%/不揮発成分(NV)総重量85.0×100
=14.1
【0218】
この場合、2つの顔料を混合した場合の塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smixはダンカンの式(20)により算出できる。
吸収係数Kmix=C1 1 +C2 2
=4.7×0.050 +14.1×0.025
散乱係数Smix=C1 1 +C2 2
=4.7×0.0040+14.1×0.010
【0219】
算出された吸収係数Kmix及び散乱係数Smixを式(1)におけるK及びSとし、膜厚Xに7μmを用いた式(1)の計算により、光強度比(I4/I1)として0.0063が得られる。この場合、光強度比(I4/I1)は所定の比率0.02未満となる。
【0220】
これに対して仮に、顔料2を含有するイエローペーストを10.0部、顔料5のアルミペーストを10.0部混合して塗料を調製し、塗膜を形成するとした場合、上述のようにして求められる光強度比(I4/I1)は0.060が得られ、所定の比率0.02未満とならない。
【0221】
本実施の形態では、色がシルバーイエローであって波長380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を形成するために、顔料2及び顔料5を選定し、顔料2及び顔料5の固形分の配合量を夫々4.7質量%、14.1質量%、膜厚Xとして7μmを選定した。
【0222】
(6)溶剤型レッドの塗膜
レッドの塗膜、特に溶剤型のレッドの塗膜を形成するためには、本実施の形態における候補顔料からは顔料7(レッド2)が選定される。顔料7を単独に含有し、且つ光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を設計する。溶剤型のレッドの塗膜の設計においても膜厚Xは初期的に7μmとする。
【0223】
顔料7の単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si は、Ki =0.041、Si =0.0036である。これと膜厚X=7μmを用いた式(1)の計算により、顔料7の配合量が7.6質量%となるように、製造例6のレッド2ペーストを70.0部混合させた溶剤型の塗料を調製して塗装する場合、塗膜の380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.094となることが得られる。このとき光強度比(I4/I1)の値は所定の比率0.02未満でない。
【0224】
この場合も、塗膜の光強度比(I4/I1)を0.02未満とするためには、塗料における顔料7の配合量を増やすか若しくは膜厚Xを厚くするか、又は、配合量も増やし、膜厚Xも増やす必要がある。例えば、配合量はそのままで膜厚Xを7μmから15μmとする場合、式(1)の計算により、380nmの光の光強度比(I4/I1)の値は0.0063となり、所定の比率0.02未満となる。
【0225】
本実施の形態では、色がレッドの溶剤型の塗膜であって波長380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を形成するために、顔料7を選定し、顔料7の配合量として7.6質量%、膜厚Xとして15μmを選定した。
【0226】
(7)ピンクの塗膜
ピンクの塗膜、特に水性のピンクの塗膜を形成するためには、本実施の形態における候補顔料からは、顔料3(ホワイト)及び顔料6(レッド1)が選定される。顔料3及び顔料6を含有し、且つ波長が380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を設計する。ピンクの塗膜の設計においても膜厚Xは初期的に7μmとする。
【0227】
顔料3の単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si は夫々、Ki =0.016、Si =0.011である。顔料6の単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si は夫々、Ki =0.013、Si =0.0014である。
【0228】
ここで仮に、顔料3を含有する製造例3のホワイトペーストを25.0部、顔料6を含有する製造例5のレッド1ペーストを25.0部混合して塗料を調製し、塗膜を形成するとした場合、計算により顔料3及び顔料6の固形分の配合量は夫々、約14.5質量%、約8.3質量%となる。
【0229】
配合量25.0×重量比45%/不揮発成分(NV)総重量88.4×100
=14.5
配合量25.0×重量比20%/不揮発成分(NV)総重量88.4×100
=8.3
【0230】
これにより、2つの顔料を混合した場合の塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smixは夫々、Kmix=0.27、Smix=0.15として得られる。算出された吸収係数Kmix及び散乱係数Smixを式(1)におけるK及びSとし、膜厚Xに7μmを用いた式(1)の計算により、光強度比(I4/I1)として0.069が得られる。この場合、得られた光強度比(I4/I1)は所定の比率0.02未満とならない。したがって、顔料3及び顔料6の配合量は増加させるべきである。
【0231】
そこで、顔料3を含有する製造例3のホワイトペーストを54.0部、顔料6を含有する製造例5のレッド1ペーストを37.0部混合して塗料を調製し、塗膜を形成するとした場合、計算により顔料3及び顔料6の固形分の配合量は夫々、約22.3質量%、約6.8質量%となる。
【0232】
配合量54.0×重量比45%/不揮発成分(NV)総重量109.1×100
=22.3
配合量37.0×重量比20%/不揮発成分(NV)総重量109.1×100
=6.8
【0233】
これにより、2つの顔料を混合した場合の塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smixは夫々、Kmix=0.45、Smix=0.25として得られる。算出された吸収係数Kmix及び散乱係数Smixを式(1)におけるK及びSとし、膜厚Xに7μmを用いた式(1)の計算により、光強度比(I4/I1)として0.011が得られる。この場合、得られた光強度比(I4/I1)は所定の比率0.02未満となる。
【0234】
本実施の形態では、色がピンクであって波長が380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を形成するために、顔料3及び顔料6を選定し、顔料3及び顔料6の配合量を夫々22.3質量%、6.8質量%、膜厚Xとして7μmを選定した。
【0235】
(8)水性レッドの塗膜
レッドの塗膜、特に水性のレッドの塗膜を形成するためには、本実施の形態における候補顔料からは顔料6(レッド1)が選定される。顔料6を単独に含有し、且つ波長が380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を設計する。水性レッドの塗膜の設計においても、膜厚Xは初期的に7μmとして配合量を選定する。
【0236】
顔料6の単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si は夫々、Ki =0.012、Si =0.0013である。これと膜厚X=7μmを用いた式(1)の計算により、顔料6の配合量が6.8質量%となるように、製造例5のレッド1ペーストを25.0部混合させた塗料を調製して塗装する場合、塗膜の光強度比(I4/I1)は0.52となることが得られる。光強度比(I4/I1)の値は所定の比率0.02未満でない。
【0237】
そこで、塗膜の光強度比(I4/I1)を0.02未満とするためには、顔料6の配合量を増やすか若しくは膜厚Xを厚くするか、又は、配合量も増やし、膜厚Xも厚くする必要がある。例えば、配合量が6.8質量%の上述と同一の塗料を、膜厚Xが45μmとなるように塗装するとして、式(1)の計算により光強度比(I4/I1)の値は0.013となり、所定の比率0.02未満となる。
【0238】
上述のように水性のレッドの塗膜であって波長380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を形成するためには、顔料6を選定し、顔料6の配合量として例えば6.8質量%、膜厚Xとして45μmが選定される。しかしながら、本実施の形態では、膜厚Xを45μmと厚くすることは、塗装物によっては実用的でないことから、選定された条件での塗膜の形成は、後述の実施例からは除かれる。
【0239】
(9)グリーンの塗膜
グリーンの塗膜を形成するためには、本実施の形態における候補顔料からは顔料4(グリーン)が選定される。顔料4を単独に含有し、且つ波長が380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を設計する。グリーンの塗膜の設計においても、膜厚Xは初期的に7μmとして配合量を選定する。
【0240】
顔料4の単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si は夫々、Ki =0.023、Si =0.0019である。これと膜厚X=7μmを用いた式(1)の計算により、顔料4の配合量が4.0質量%となるように、製造例4のグリーンペーストを14.0部混合させた塗料を調製して塗装する場合、塗膜の380nmの光の光強度比(I4/I1)は0.51となることが得られる。光強度比(I4/I1)の値は所定の比率0.02未満でない。
【0241】
そこで、塗膜の光強度比(I4/I1)を0.02未満とするためには、顔料4の固形分の配合量を増やすか若しくは膜厚Xを厚くするか、又は、配合量も増やし、膜厚Xも厚くする必要がある。例えば、固形分の配合量が25.5質量%となるようにグリーンペーストを140.0部混合させた塗料を用い、膜厚Xを8μmとする場合は式(1)の計算により光強度比(I4/I1)の値は0.0060となり、所定の比率0.02未満となる。
【0242】
このように、色がグリーンであって波長が380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となる塗膜を形成するために、顔料4を選定し、顔料4の配合量として例えば25.5質量%、膜厚Xとして8μmが選定される。しかしながら、本実施の形態では、グリーンの顔料を25.5質量%含有させることは実用的でないことから、選定された条件での塗膜の形成は、以下の実施例からは除かれる。なお、顔料毎に適切な配合量は異なる。
【0243】
<4−2.吸収係数Ki 及び散乱係数Si による顔料の選定>
上述の例では、顔料4(グリーン)及び顔料6(レッド1)を夫々単独で含有する塗料では光強度比(I4/I1)が0.02未満となるように塗膜を形成することは困難であった。つまり、波長が380nmの光の光強度比(I4/I1)が0.02未満となるような塗膜を形成するためには、顔料4及び顔料6以外の顔料が好ましいことが設計により得られた。このことから、波長の光強度比(I4/I1)が所定の比率0.02未満となる塗膜を形成するための顔料の選定基準を特定することが可能である。
【0244】
そこで、波長が380nmの光については、吸収係数Ki が0.04以上であるか、又は散乱係数Si が0.01以上である顔料が選定されるべきであるという基準を設定する。どちらの基準も満たさない顔料4及び顔料6が候補顔料から除外されることがわかる。
【0245】
これにより、他の顔料を更に候補顔料として加える場合に、当該顔料の波長毎の吸収係数Ki 及び散乱係数Si を求めた段階で、特定の波長帯域の光に対しては塗膜に含有させる顔料として好ましいか否かを判断することができる。
【0246】
このように、吸収係数Ki 及び散乱係数Si の夫々に所定の値を基準を設定することにより、光強度比(I4/I1)が所定の比率未満となり得る候補顔料が絞りこまれる。これにより、効率的に顔料の選定を行なうことが可能である。選定する対象は、顔料自体、その配合量、更に膜厚Xであるから、その組み合わせは多数ある。したがって、いずれか1つだけでも絞り込まれれば、光強度比(I4/I1)が0.02未満となる条件を探索するに際し、条件が発散せず効率的である。
【0247】
なお、光の吸収係数Ki 及び散乱係数Si は顔料毎にそして波長毎に異なる。したがって、光の波長毎に、光強度比(I4/I1)が所定の比率未満となる吸収係数Ki 及び散乱係数Si の値、又はいずれか一方の値に基準を設け、当該基準により、顔料を選定することが可能である。
【0248】
<4−3.塗膜の光強度比の波長依存性>
光強度比(I4/I1)は上述したように波長に対して依存性を有する。ここまでは380nmを代表値として説明したが、他の波長の光の光強度比(I4/I1)も、目的に応じて塗膜の光特性を特定する重要な値となる。ただし、光劣化に大きく関与する300nm〜420nmの範囲内とする。
【0249】
図10は、塗膜の光強度比(I4/I1)の波長分布を示すグラフである。横軸に波長を示し、縦軸に光強度比を示している。図10のグラフには、レッド1の顔料を含む塗膜の光強度比(I4/I1)を示す。特に、設計に基づき、波長が380nmの光の光強度比(I4/I1)が所定の比率0.02未満となる塗膜として得られたピンクの塗膜と、光強度比(I4/I1)が所定の比率0.02未満とすることが困難な塗膜として得られた水性のレッド1の塗膜とを比較して示している。
【0250】
図10中の太線にて示す曲線は、ピンクの塗膜について算出される光強度比(I4/I1)の波長分布である。この場合のピンクの塗膜における顔料、配合量、及び膜厚は、上述の設計により選定されたものである。つまり、顔料は顔料3及び顔料6、配合量は夫々22.3質量%及び6.8質量%、そして膜厚Xは7μmである。そして、図10中の他方の実線にて示す曲線は、比較として水性のレッドの塗膜について算出される光強度比(I4/I1)の波長分布である。この場合のレッドの塗膜における顔料、配合量、及び膜厚は、上述の設計時に仮に決定したものである。つまり、顔料は顔料6、配合量は6.8質量%、膜厚Xは7μmである。
【0251】
図10に示すように、ピンクの塗膜の光強度比(I4/I1)は、380nm以下の波長ではいずれも0.02未満となるものの、同様に顔料6を含み配合量も膜厚も同じである水性のレッドの塗膜の光強度比(I4/I1)はいずれの波長についても0.1以上である。ただし、水性のレッドの塗膜でも波長が300〜330nmの範囲では、光強度比が0.1強である。膜厚Xを厚くすることにより、光強度比が0.02未満となる塗膜を形成することも可能であると考えられる。したがって、300〜330nmの範囲の波長帯域の光の塗膜内での光強度を考慮すべき塗膜を設計する場合は、水性のレッドの塗膜も実現でき得る。
【0252】
このように、目的に応じた波長の光強度比(I4/I1)に対して所定の比率を設定し、選定の基準にすることが可能である。なお、図10に示すように、同じ顔料を同じ配合量含有しているとしても他の顔料の有無で塗膜における光強度比(I4/I1)の値は大きく変わるから、顔料の選定により所望の塗膜を設計することができる。
【0253】
<5.実施例及び促進耐候試験>
<5−1.実施例>
次に、「4.顔料、配合量及び膜厚の選定」の章にて各色の塗膜の設計により選定された顔料、各顔料の配合量、及び膜厚に基づいて実際に塗膜を形成した実施例について説明する。
【0254】
図11は、本実施の形態にて実施例の塗膜を形成するために調製した塗料の配合量を示す説明図である。図11に示すように、予め単位配合量当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si が求めてある顔料1〜7を用いたペースト(製造例1〜6、及びアルミペースト)を用い、選定された顔料、配合量にて配合した塗料A〜Iを調製した。
【0255】
塗料Aは、ブラックの塗膜を形成するための塗料である。塗料Aは、顔料1の配合量が選定された2.8質量%となるように製造例1のブラックペーストを20.0部用いて調整した。塗料Aは、当該ブラックペーストに、主たるバインダーとしてアクリルエマルション樹脂を100.0部、サイメル327を16.7部、ブチルセロソルブを25.0部混合した後、粘性剤(増粘剤)としてアデカノールUH−814Nを1.0部混合して攪拌し、イオン交換水を150.0部加えて得た。
【0256】
塗料Bは、イエローの塗膜を形成するための塗料である。塗料Bは、顔料2の配合量が選定された12.8質量%となるように製造例2のイエローペーストを55.0部用いて調製した。他の成分の配合量は塗料Aと同様であり、調製の工程も塗料Aと同様である。
【0257】
塗料Cは、ホワイトの塗膜を形成するための塗料である。塗料Cは、顔料3の配合量が選定された45.5質量%となるように製造例3のホワイトペーストを160.0部用いて調製した。他の成分の配合量は塗料Aと同様であり、調製の工程も塗料Aと同様である。
【0258】
塗料Dはシルバーの塗膜を形成するための塗料である。塗料Dは、顔料5の固形分の配合量が選定された18.6質量%となるようにアルミペーストを25.0部用いて調製される。塗料Dは以下のように調製される。当該アルミペーストに、ジオクチルリン酸エステル1.0部、バインダーであるアクリルエマルション樹脂を100.0部混合し、更に、硬化剤のメラミン樹脂であるサイメル327を16.7部、ブチルセロソルブを25.0部混合した後、粘性剤のアデカノールUH−814Nを2.0部、混合攪拌した。その後、イオン交換水を250.0部加えて、水性のアルミ塗料D(不揮発部19.2%、PWC=18.8%)を得た。
【0259】
塗料Eは、シルバーイエローの塗膜を形成するための塗料である。塗料Eは選定された顔料5の固形分の配合量が14.1質量%、顔料2の配合量が選定された4.7質量%となるようにアルミペーストを20.0部、製造例2のイエローペーストを20.0部用いて調製される。塗料Eは以下のように調製される。まず、当該アルミペーストに、ジオクチルリン酸エステル0.8部、アクリルエマルション樹脂を100.0部加え、更に、製造例2のイエローペーストを20.0部、サイメル327を16.7部、ブチルセロソルブを25.0部混合した後、アデカノールUH−814Nを2.0部、混合攪拌した。その後、イオン交換水を200.0部加えて、水性のシルバーイエローの塗料Gを得た。
【0260】
塗料Fは、溶剤型のレッドの塗膜を形成するための塗料である。塗料Fは、顔料7の配合量が選定された7.6質量%を実現するために、製造例5のレッド2ペーストを70.0部用意し、当該レッド2ペーストに、主たるバインダーである溶剤型アクリル樹脂を76.9部、ブチル化メラミン樹脂のユーバン20SDを30.0部、キシレンを150.0部配合して得た。
【0261】
塗料Gは、ピンクの塗膜を形成するための塗料である。塗料Gは、顔料3の配合量が選定された22.3質量%、及び顔料6の配合量が選定された6.8%となるように製造例3のホワイトペーストを54.0部、製造例6のレッド1ペーストを37.0部用いて調製する。他の成分の配合量は塗料Eと同量であり、調製の工程は塗料Aと同様である。
【0262】
塗料Hは、比較例として水性のレッドの塗膜を形成するための塗料である。塗料Hは、顔料3の配合量が6.8質量%となるように製造例5のレッド1ペーストを25.0部用いて調製する。調製の工程は塗料Aと同様である。
【0263】
塗料Iは、比較例としてグリーンの塗膜を形成するための塗料である。塗料Iは、顔料4の配合量が4.0質量%となるように製造例4のグリーンペーストを14.0部用いて調製する。調製の工程は塗料Aと同様である。
【0264】
<5−2.光強度比(I4/I1)の推定>
図11に示した各塗料A〜Iを夫々、使用する下地であるカチオン電着塗膜塗装板に、乾燥膜厚が選定された膜厚Xとなるように塗装し、塗装板を作成した。
【0265】
図12は、作成した各塗装板についての塗膜に含有される顔料、顔料の配合量、及び膜厚、並びに光強度比(I4/I1)を含む塗装板の特性を示す説明図である。図12には、各塗装板における塗膜に含有される顔料とその配合量、顔料及び配合量から求められる吸収係数Kmix及び散乱係数Smixが示されている。また、求められた吸収係数Kmix及び散乱係数Smix夫々に膜厚Xを吸収性能Kmix・X、及び散乱性能Smix・Xも示されている。そして、夫々の塗膜について特性として求められた波長が380nmの光の光強度比(I4/I1)が示されている。
【0266】
塗装板1は、ブラックの塗膜の設計通りに、顔料1の配合量が2.8質量%の塗膜となる塗料Aをカチオン電着塗膜塗装板に塗装して乾燥膜厚が7μmとなるように塗膜を形成し、更にその上にクリヤ塗膜を乾燥膜厚が30μmとなるように形成したものである。式(1)の計算により光強度比(I4/I1)として0.0033が推定算出されることは設計の説明にて示した。
【0267】
クリヤ塗膜を形成するのは、艶、光沢が向上されて優れた装飾性を持つ塗装物とすることができるためである。耐候性に対しての効果は少ないが、実用時には概ねクリヤ塗膜が形成されるから、後述する促進耐候試験をするためにも実際にクリヤ塗膜を形成したものを作成する。なお、クリヤ塗膜の膜厚は、鮮映性の低下、ムラ、ピンホール又はタレなどを抑止するために、乾燥膜厚で10〜80μmが好ましく、20〜60μmがより好ましい。
【0268】
塗装板2は、イエローの塗膜の設計通りに、顔料2の配合量が12.8質量%の塗膜となる塗料Bをカチオン電着塗膜塗装板に塗装して膜厚Xが7μmとなるように塗膜を形成し、更に塗装板1と同様に乾燥膜厚が30μmとなるクリヤ塗膜を形成したものである。光強度比(I4/I1)として0.0080が推定算出されることは既に示した。
【0269】
塗装板3は、ホワイトの塗膜の設計通りに、顔料3の配合量が45.5質量%の塗膜となる塗料Cをカチオン電着塗膜塗装板に塗装して膜厚Xが7μmとなるように塗膜を形成し、更に塗装板1と同様に乾燥膜厚が30μmとなるクリヤ塗膜を形成したものである。光強度比(I4/I1)として0.00042が推定算出されることは既に示した。
【0270】
塗装板4は、シルバーの塗膜の設計通りに、顔料5の配合量が18.6質量%の塗膜となる塗料Dをカチオン電着塗膜塗装板に塗装して膜厚Xが10μmとなるように塗膜を形成し、更に塗装板1と同様に乾燥膜厚が30μmとなるクリヤ塗膜を形成したものである。光強度比(I4/I1)として0.0021が推定算出されることは既に示した。
【0271】
塗装板5は、シルバーイエローの塗膜の設計通りに、顔料2及び顔料5の配合量が夫々4.7質量%、14.1質量%となる塗料Eをカチオン電着塗膜塗装板に塗装して膜厚Xが7μmとなるように塗膜を形成し、更に塗装板1と同様に乾燥膜厚が30μmとなるクリヤ塗膜を形成したものである。光強度比(I4/I1)として0.0063が推定算出されることは既に示した。
【0272】
塗装板6は、溶剤型のレッドの塗膜の設計通りに、顔料7の配合量が7.6質量%となる塗料Fをカチオン電着塗膜塗装板に塗装して膜厚Xが15μmとなるように塗膜を形成し、更に塗装板1と同様に乾燥膜厚が30μmとなるクリヤ塗膜を形成したものである。光強度比(I4/I1)として0.0063が推定算出されることは既に示した。
【0273】
塗装板7は、ピンクの塗膜の設計通りに、顔料3及び顔料6の配合量が夫々22.3質量%、6.8質量%の塗膜となる塗料Gをカチオン電着塗膜塗装板に塗装して膜厚Xが7μmとなるように塗膜を形成し、更に塗装板1と同様に乾燥膜厚が30μmとなるクリヤ塗膜を形成したものである。光強度比(I4/I1)として0.011が推定算出されることは既に示した。
【0274】
上述の塗装板1〜7との比較のために塗装板cf1、cf2を作成した。塗装板cf1は、比較例として水性のレッドの塗膜を形成するために顔料6の配合量が6.8質量%となる塗料Hをカチオン電着塗膜塗装板に塗装して膜厚Xが7μmとなるように塗膜を形成し、更に塗装板1と同様に乾燥膜厚が30μmとなるクリヤ塗膜を形成したものである。この場合に光強度比(I4/I1)として0.52が推定算出されることは水性のレッドの塗膜の設計の説明にて既に示した。
【0275】
塗装板cf2は、比較例としてグリーンの塗膜を形成するために顔料4の配合量が4.0質量%となる塗料Jをカチオン電着塗膜塗装板に塗装して膜厚Xが7μmとなるように塗膜を形成し、更に塗装板1と同様に乾燥膜厚が30μmとなるクリヤ塗膜を形成したものである。この場合に光強度比(I4/I1)として0.51が推定されることはグリーンの塗膜の設計の説明にて既に示した。
【0276】
<5−3.塗膜の光強度比と吸収係数Kmix及び散乱係数Smixとの関係>
図13は、塗膜の光強度比(I4/I1)と、吸収係数Kmix及び散乱係数Smix夫々に膜厚Xを乗じた値との関係を示すグラフである。図13のグラフは横軸にKmix・Xの値、縦軸にSmix・Xの値を示し、高さ軸に光強度比(I4/I1)をとった3Dグラフである。種々のKmix・X及びSmix・Xの値に対し、式(1)により光強度比(I4/I1)を求めたものを示している。なお、Kmix・X及びSmix・Xについては対数表示で示している。式(1)に基づく光強度比(I4/I1)の算出の際、反射率Rg についてはRg =0とした。本実施の形態では、カチオン電着塗膜塗装板を用いており、波長が380nmの光に対する反射率Rg は0.18と求められているが、反射率Rg が0.18の場合であっても、高さ軸の値が変わるのみで3Dグラフの形状は同一である。
【0277】
図13のグラフに示すように、光強度比(I4/I1)は、Kmix・X及びSmix・Xの値の増減に対して単調に変化している。Kmix・X及びSmix・Xがいずれも小さい値であるほど光強度比(I4/I1)の値は大きく、Kmix・X及びSmix・Xが増大するにしたがって光強度比(I4/I1)は減少している。図13のグラフを参照した場合、光強度比(I4/I1)が所定の比率0.02となるKmix・X及びSmix・Xの値は、Kmix・X、Smix・X座標に投影した場合、単調な曲線となることが容易に推察できる。
【0278】
実施例の各塗装板1〜7、cf1、2における塗膜の光強度比(I4/I1)と、各塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smixとの関係は、以下の図14のグラフのように示される。
【0279】
図14は、実施例の各塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smix夫々に膜厚Xを乗じた値をプロットしたグラフである。そして図14中の曲線は、図13のグラフにおいて光強度比(I4/I1)が0.02となるKmix・X−Smix・X座標上の等高線を示す。なお、任意の塗膜のKmix・X、Smix・Xのプロット点が、曲線に対して大きい側となる領域、即ち図14における曲線よりも右上の領域に存在した場合、光強度比(I4/I1)が0.02未満である。
【0280】
図14に示すように、実施例の各塗装板1〜7のプロット点はいずれも、光強度比(I4/I1)=0.02の等高線よりも右上に位置し、比較例の塗装板cf1、2はいずれも等高線よりも左下に位置する。なお、塗装板cf1及びcf2のプロット点はほぼ重なっている。
【0281】
<5−4.促進耐候試験>
図12のように示した各実施例の塗膜について、促進耐候試験を実施した。図12には、各実施例の塗装板についての促進耐候試験の結果も併せて示している。
【0282】
促進耐候試験は以下の要領で実施した。塗装板1〜7及び塗装板cf1、cf2を試験片として、促進耐候性試験機(スーパーキセノンウェザーメーター、型式:SX75、スガ試験機株式会社製)に取り付け、擬似太陽光を照度180W/m2 にて2000時間の促進暴露を実施した。次に、各試験片を評価40℃の温水に10日間浸漬させた。その後、基盤目テープ剥離の方法(JIS K-5600)によって評価し、残存碁盤目の数を計数した。図12に示した促進耐候試験の結果は、10×10の碁盤目100個中の残存碁盤目の数を示している。
【0283】
図12に示したように、促進耐候試験の結果、比較例の塗装板cf1及びcf2以外では、100個の碁盤目は全て残存した。このように、目的に見合った特定の波長帯域の光の光強度比(I4/I1)が所定の比率未満となるように設計した塗膜において、いずれも良好な結果を得ることができた。
【0284】
<6.考察>
このように、塗膜内における特定の波長帯域の光の光強度I4を推定し、当該光強度I4が低い塗膜となるように顔料、顔料の配合量、及び膜厚を選定することにより、耐候性剥離を起こす可能性が非常に低く、且つ比較的薄い塗膜を形成することができる。光強度I4が低い塗膜とすることができるから、下地の透けも抑制でき、種々の顔料を選択して所望の発色を得ることができる。これにより、自動車の塗装のように被塗物全体の軽量化が望まれており、形成される塗膜ができ得る限り薄いことが好ましい場合でも、耐候性及び装飾性の面で優れた塗膜を形成することができる。
【0285】
さらに、顔料の合計濃度、膜厚に制限を持たせて選定することにより、光強度比(I4/I1)の値が低い塗膜を効率的に設計することができると共に、塗膜の外観の良好さを低下させること、又は塗装時の不具合を回避することもできる。
【0286】
<7.光強度比算出装置の利用>
なお、上述に説明した塗膜の形成過程において、顔料の配合量の選定時における塗膜の吸収係数Kmix、散乱係数Smixの算出、式(1)などの計算は机上で行なってもよいが、パーソナルコンピュータなどにより簡単に算出できるようにしておくことが好ましい。例えば、表計算ソフトウェアプログラムなどを利用し、候補顔料を表示させて設計者に選択させ、設計者が顔料を選択して配合量と膜厚Xとを入力した場合に自動的に光強度比(I4/I1)が算出されて出力されることにより、塗膜の設計を効率化することができる。
【0287】
そこで、以下に説明するように、塗膜の光強度比を算出して顔料、配合量及び膜厚を選定するための装置としてパーソナルコンピュータを利用する。
【0288】
図15は、光強度比算出装置2の構成例を示すブロック図である。光強度算出装置2は、CPU20と、各種情報を記憶するハードディスク(HD)21と、CPU20の処理に利用されるメモリ22と、可搬型記録媒体3からデータを読み出すドライブ23と、ディスプレイ25、キーボード26、マウス27等の入出力装置とCPU20との間を中継するインタフェース(I/F)24とを備える。
【0289】
HD21には、コンピュータを光強度比算出装置2として動作させるための制御プログラム2Pが記憶されている。即ち、式(1)、(21)などによる計算を実現するプログラムが記憶されている。CPU20は、HD21から制御プログラム2Pをメモリ22に読み出して実行する。これにより、吸収係数Kmix及び散乱係数Smixを求める処理、式(1)に基づき光強度比(I4/I1)を算出する処理など、光強度比算出装置2としての動作が実現される。
【0290】
HD21には、予め実測した各種下地の光の反射率R´g 及び当該反射率R´g から求められる反射率Rg 、各反射率k1 、k2 、k3 、k4 、並びに、顔料毎及び波長毎に求めた吸収係数Ki 及び散乱係数Si などが記憶される。CPU20は、HD21を参照し、各種下地の光の反射率Rg、各反射率k1 、k2 、k3 、k4 、顔料毎の吸収係数Ki 及び散乱係数Si を取得することが可能である。
【0291】
メモリ22は、SRAM、DRAM等を利用し、CPU20の処理によって発生する各種情報が一時的に記憶される。
【0292】
ドライブ23は、DVD、CD−ROM、フレキシブルディスク、リムーバブルディスク等の可搬型記録媒体3からデータを読み出すことが可能である。可搬型記録媒体3には、コンピュータ装置を光強度比算出装置2として動作させるための制御プログラム3Pが記録されている。HD21に記憶されている制御プログラム2Pは、CPU20がドライブ23によって可搬型記録媒体3から読み出した制御プログラム3Pを複製したものであってもよい。
【0293】
I/F24は、CPU20によって出力される画像情報などをディスプレイ25へ出力する処理、キーボード26により入力される情報を検知してCPU20へ通知する処理、マウス27により入力される情報を検知してCPU20へ通知する処理等を行なう。光特性算出装置2を操作するオペレータ(技術者)は、キーボード26及びマウス27を利用し、配合量の数値等の各種情報を入力することが可能である。
【0294】
図16及び図17は、光強度算出装置2のCPU20により実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、CPU20の処理により、オペレータが、使用する下地の種類と、目的に応じた特定の光の波長と、当該波長に対する所定の比率とを入力することが可能な状態とされる。オペレータが、使用する下地の種類と、光の波長と、所定の比率とを入力すると、以下に示す処理が行なわれる。
【0295】
CPU20は、入力された下地の種類、波長、及び塗膜の光強度比(I4/I1)に対する所定の比率の入力をI/F24により受け付け(ステップS1)、受け付けた波長の光における各候補顔料の吸収係数Ki 及び散乱係数Si 、並びに、受け付けた種類の下地の反射率Rg 、各反射率k1 、k2 、k3 、k4 等をHD21から読み出して取得する(ステップS2)。
【0296】
次にCPU20は、候補顔料の内、吸収係数Ki が、ステップS1で受け付けた比率に対応する所定値以上であるか、又は散乱係数Si が前記比率に対応する所定値以上である顔料を抽出する(ステップS3)。当該処理は、上述の「4−2.吸収係数Ki 及び散乱係数Si による顔料の選定」にて説明した顔料の選定基準に基づいて行なう。CPU20は、抽出した1又は複数の顔料を、ディスプレイ25に選択可能に出力する(ステップS4)。ステップS3は省略されてもよい。
【0297】
CPU20は、ステップS4にて出力した各候補顔料の選択をI/F24を介して受け付ける(ステップS5)。以後、CPU20は、選択された各顔料の吸収係数Ki 及び散乱係数Si を用いる。更に、初期値として用いる下限の配合量と、膜厚Xとを受け付ける(ステップS6)。なおここで、配合量の下限としては、2質量%以上を受け付け、膜厚Xとしては7μm以上を受け付ける。これら未満の数値が入力された場合、エラーを通知してもよい。以後、CPU20は、ステップS6で受け付けた配合量及び膜厚Xを、初期値として仮決定し、以下の処理を行なう。
【0298】
次にCPU20は、ステップS6にて受け付けて決定した配合量を用いてダンカンの式(20)により塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smixを算出する(ステップS7)。次にCPU20は、算出された吸収係数Kmix及び散乱係数Smixと、決定した膜厚Xとを用いて式(1)により光強度比(I4/I1)を算出する(ステップS8)。
【0299】
CPU20は、ステップS8にて算出した光強度比(I4/I1)がステップS1にて受け付けた所定の比率未満であるか否かを判断する(ステップS9)。CPU20は、ステップS9にて所定の比率未満でないと判断した場合(S9:NO)、配合量を適宜の量増加させ(ステップS10)、増加後の配合量が、設定されてある適切な配合量の範囲、例えば2〜50質量%の範囲内であるか否かを判断し(ステップS11)、適切な範囲内であると判断した場合(S11:YES)、処理をステップS7へ戻し、光強度比(I4/I1)を算出し直す(S7、S8)。なお、ステップS11において、選択された顔料に応じて適切な配合量の範囲は異なるので、当該適切な配合量の範囲は、CPU20が参照することができるように顔料毎にHD21等に記憶されていることが望ましい。
【0300】
このときCPU20が次のステップS9にて、所定の比率未満であると判断した場合(S9:YES)、仮に決定されている膜厚X及び配合量を、ステップS8にて算出した光強度比(I4/I1)の値と共にディスプレイ25に出力し(ステップS12)、処理を終了する。これにより、初期的に決定された膜厚Xが7μmである条件下で、適切な配合量の範囲内で所定の比率未満となる配合量が選定される。
【0301】
CPU20はステップS11にて、適切な範囲内でないと判断した場合(S11:NO)、配合量を初期的な値に戻し(ステップS13)、膜厚Xを適宜、例えば1μmずつ増加させ(ステップS14)、増加後の膜厚Xが、設定されてある適切な膜厚の範囲、例えば7〜40μmの範囲であるか否かを判断し(ステップS15)、適切な範囲であると判断した場合(S15:YES)、処理をステップS7へ戻し、光強度比(I4/I1)を算出し直す(S7、S8)。
【0302】
このときCPU20が次のステップS9にて、所定の比率未満であると判断した場合(S9:YES)、決定された膜厚X及び配合量を、ステップS8にて算出した光強度比(I4/I1)の値と共にディスプレイ25に出力し(ステップS12)、処理を終了する。これにより、段階的に増加された膜厚Xで、適切な配合量の範囲内で所定の比率未満となる配合量が選定される。
【0303】
CPU20は、ステップS15にて、適切な範囲内でないと判断した場合(S15:NO)、選択された顔料では、光強度比(I4/I1)がステップS1で受け付けた所定の比率未満とならない旨を示すメッセージをディスプレイ25に出力させ(ステップS16)、処理を終了する。
【0304】
このように、光強度比算出装置2を利用して、目的に見合った波長の光の光強度比(I4/I1)が所定の比率未満となる塗膜とするための顔料、顔料の配合量、及び膜厚Xが選定され、設計の工程を効率化することができる。
【0305】
なお、上述のフローチャートでは、光強度算出装置2のCPU20は、ステップS5にて各候補顔料の選択をI/F24を介して受け付けた場合に、自動的に配合量及び膜厚Xを仮に決定して、式(1)により算出される光強度比(I4/I1)が所定の比率未満となる配合量及び膜厚Xを選定する構成とした。しかしながら、CPU20の処理により、オペレータが各顔料の配合量と、膜厚Xとを入力することが可能な状態とされるようにしてもよい。
【0306】
この場合、オペレータが配合量と膜厚Xとを入力した場合に次のような処理が行なわれる。CPU20は、配合量及び膜厚XをI/F24により受け付け、選択された各顔料の吸収係数Ki 及び散乱係数Si 、並びに受け付けた各顔料の配合量を用いてダンカンの式(21)により塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smixを算出する。そして、CPU20は、吸収係数Kmix及び散乱係数Smixと、受け付けた膜厚Xとを用いて式(1)により光強度比(I4/I1)を算出し、ディスプレイ25に出力する。このとき、CPU20は、算出した光強度比(I4/I1)がステップS1にて受け付けた所定の比率未満であるか否かを判断し、光強度比(I4/I1)の値と共に判断結果を出力してもよい。
【0307】
これにより、オペレータは配合量及び膜厚Xとして種々の値を入力しながら、夫々の場合における光強度比(I4/I1)の値の算出結果を認識することができる。
【0308】
なお、開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0309】
2 光強度比算出装置
20 CPU
21 HD

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地の上に1又は複数の顔料を含有させた塗膜を形成する方法において、
前記塗膜における特定の波長帯域の光の吸収係数及び散乱係数並びに膜厚を用いて算出され、前記塗膜を下地の上に形成した場合に前記塗膜の表面へ入射する前記特定の波長帯域の光の強度と、前記塗膜内における下地との界面にて下地へ向かう前記特定の波長帯域の光の強度との光強度比が、所定の比率未満となるように塗膜に含有させる1又は複数の顔料、該顔料の配合量、及び膜厚を選定し、
選定した顔料、配合量及び膜厚に基づき、前記顔料を前記配合量で含む塗料を用いて塗膜を形成する
ことを特徴とする塗膜の形成方法。
【請求項2】
含有させる候補となる候補顔料毎に、該候補顔料が含有されて下地の上に形成された場合の塗膜について光の吸収係数及び散乱係数を異なる複数の波長の光について予め求めておき、
求めておいた候補顔料毎及び波長毎の塗膜の吸収係数及び散乱係数並びに膜厚を用いて算出され、1又は複数の顔料を含む塗膜を下地の上に形成した場合に前記塗膜の表面へ入射する特定の波長帯域の光の強度と、前記塗膜内における下地との界面にて下地へ向かう前記特定の波長帯域の光の強度との光強度比が所定の比率未満となるように1又は複数の顔料、該顔料の配合量及び膜厚を選定する
ことを特徴とする請求項1に記載の塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記塗料は、
バインダー樹脂と、
単位配合量だけ塗膜に含めた場合に、前記塗膜の光の前記特定の波長帯域における吸収係数が所定値よりも大きい顔料とを含むこと
を特徴とする請求項1又は2に記載の塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記塗料は、
バインダー樹脂と、
単位配合量だけ塗膜に含めた場合に、前記塗膜の光の前記特定の波長帯域における散乱係数が所定値よりも大きい顔料とを含むこと
を特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の塗膜の形成方法。
【請求項5】
選定される顔料の配合量は、合計顔料濃度2〜50質量%の範囲内であること
を特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の塗膜の形成方法。
【請求項6】
選定される膜厚は、7〜40μmの範囲内であること
を特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の塗膜の形成方法。
【請求項7】
選定される顔料は、染料、有機顔料、無機顔料、体質顔料、及び光輝材に分類される顔料群の内の1又は複数の顔料であること
を特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の塗膜の形成方法。
【請求項8】
選定される顔料は、着色顔料、又は金属製鱗片状光輝材に分類される顔料群の内の1又は複数の顔料であること
を特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の塗膜の形成方法。
【請求項9】
前記塗料を用いて塗膜を形成した後に、更に前記塗膜の上に乾燥膜厚が10〜80μmとなるようにクリヤ塗膜を形成する
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の塗膜の形成方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の塗膜の形成方法を用いて形成される塗膜。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかに記載の塗膜の形成方法を用いて塗膜が形成された塗装物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−214288(P2010−214288A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63463(P2009−63463)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】