説明

塗膜の形成方法

【課題】塗料の溶媒が極性溶媒であってその塗料の粘度が低い場合であっても、塗膜の縁部分が盛り上がった状態にならないようにする。
【解決手段】開口11及びその縁を有するマスク10を塗布対象物1の表面2から離して、マスク10を塗布対象物1の表面2に対向させた状態で、溶媒が極性溶媒である塗料99を、塗布対象物1の表面2に対して垂直な向きに塗布対象物1の表面2に噴霧して、その塗料99を塗布対象物1の表面2に吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料の噴霧によって塗膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードコート、反射防止膜、位相差膜といった光学機能材料膜を成膜する方法として、塗料を塗布対象物に向けて吹き付けるスプレーコート法がある。所定の範囲に塗料が付着しないように、その所定の範囲にマスキングテープを貼り付けた状態で、塗料の噴霧を行う。塗料の乾燥後に、マスキングテープを剥離すると、マスキングテープを貼っていない箇所に塗膜が残留する。
【0003】
図8に従来の手法を示す。図8に示した通り、スプレーノズル100によって噴霧した塗料101が塗布対象物102の表面103のみならず、マスキングテープ104の表面105にも堆積するため、形成された塗膜106が塗布対象物102の表面103とマスキングテープ104の表面105との間で途切れていない。塗布対象物102の表面103とマスキングテープ104の表面105との間には段差が存在するから、マスキングテープ104を剥離すると、図9に示すように、塗布対象物102の表面103に残留した塗膜106の縁部分にバリ107が形成される。つまり、残留した塗膜106の縁部分が盛り上がった状態になっており、残留した塗膜106の厚さが均一にならない。光学機能材料膜の光学特性は膜厚の均一性に依存するため、不均一な膜厚は大きな問題となる。
図10に実際に塗布実験を行った時の断面測定結果を示す。図10中、縦軸が塗膜の厚さを表し、横軸が位置を表す。F部はマスキングテープを剥離した後の塗布対象物の表面を表し、H部は塗膜であり、G部は塗膜の縁を表す。塗膜の膜厚が約5ミクロンであるのに対し、G部では7倍の約35ミクロンの突起となり、膜厚の均一性が損なわれていることがわかる。
【0004】
また、特許文献1に記載の技術では、マスクキングテープの一定幅部分を塗布対象物の表面から傾斜させて浮かせた状態としつつ、スプレーによって塗料をマスキングテープの斜め上から吹き付ける。スプレーから吹き出された塗料は、マスキングテープの浮いた部分で遮断されつつ、マスキングテープと塗布対象物の表面との間の隙間に進入する。そのため、塗膜の縁部分にボカシが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−100199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術では、塗料の溶媒が極性溶媒であってその塗料の粘度が低いと、塗料がマスキングテープと塗布対象物の表面との間の隙間の奥まで進入してしまう。そのため、その隙間の奥まで進入した塗料がマスキングテープの裏面と塗布対象物の表面との間に挟まれた状態となるから、塗膜の縁部分が盛り上がった状態となってしまう。また、特許文献1に記載の技術では、特殊なマスキングテープの製造が必要となり、コストアップの要因にもなる。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、塗料の溶媒が極性溶媒であって、その塗料の粘度が低い場合であっても、塗膜の縁部分が盛り上がった状態にならないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、本発明に係る塗膜の形成方法は、縁を有するマスクを塗布対象物の表面から離して前記マスクを前記塗布対象物の表面に対向させた状態で、溶媒が極性溶媒である塗料を、前記塗布対象物の表面に対して垂直な向きに前記塗布対象物の表面に噴霧して、その塗料を前記塗布対象物の表面に吹き付けることとした。
【0008】
好ましくは、縁を有する粘着テープを前記塗布対象物の表面に貼り付けて、縁を有するスペーサを前記マスクと前記粘着テープとの間に挟むとともに、前記粘着テープの縁を前記スペーサの縁からはみ出させ、且つ、前記マスクの縁を前記スペーサの縁及び前記粘着テープの縁からはみ出させた状態で、前記塗料の噴霧を行うこととした。
【0009】
好ましくは、前記マスクの縁が前記スペーサの縁からはみ出た長さと、前記粘着テープの縁が前記スペーサの縁からはみ出た長さとの差を、前記スペーサと前記粘着テープの総厚で除して得られた比が、2.0以上であることとした。
【0010】
好ましくは、前記マスクの縁が前記スペーサの縁からはみ出た長さが、4〜6mmであり、前記粘着テープの縁が前記スペーサの縁からはみ出た長さが、0.5〜1.5mmであることとした。
【0011】
好ましくは、縁を有するスペーサを前記マスクと前記塗布対象物の表面との間に挟むとともに、前記マスクの縁を前記スペーサの縁からはみ出させた状態で、前記塗料の噴霧を行うこととした。
【0012】
好ましくは、前記マスクの縁が前記スペーサの縁からはみ出た長さを前記スペーサの厚さで除して得られた比が、2.0以上であることとした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マスクを塗布対象物の表面から離した状態で、そのマスクを塗布対象物の表面に対向させたので、塗布対象物の表面に形成された塗膜は、マスクの表面に堆積した塗料から途切れている。そのため、マスクを塗布対象物から外しても、塗膜の縁部分にバリが形成されない。従って、塗膜の膜厚を均一にすることができる。
また、塗料を塗布対象物の表面に吹き付けるに際して、塗料を吹き付ける向きを塗布対象物の表面に対して垂直にしたから、塗料の粘度が低くても、塗料がマスクと塗布対象物の表面との間の奥まで進入しない。そのため、塗膜の縁部分が盛り上がった状態にならない。
また、特殊なマスキングテープを用いていないので、製造コストの増大を招かない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態において、塗布対象物にスペーサ及びマスクを重ねた状態を示した平面図である。
【図2】図1に示されたII−IIに沿った面の断面図である。
【図3】塗膜が形成される過程を示した断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態において、塗布対象物に粘着テープ、スペーサ及びマスクを重ねた状態を示した平面図である。
【図5】図4に示されたV−Vに沿った面の断面図である。
【図6】本発明の実施例に係る方法によって形成された塗膜の厚さを示した図である。
【図7】本発明の実施例に係る方法によって形成された塗膜の厚さを示した図である。
【図8】従来のスプレーコーティング法を示した図である。
【図9】図9に続く工程を示した図である。
【図10】従来のスプレーコーティング法によって形成された塗膜の厚さを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0016】
〔第1の実施の形態〕
図1、図2を参照して、塗膜の形成方法について説明する。図1は平面図であり、図2はII−II断面図である。
【0017】
1.塗膜の種類
この方法によって形成する塗膜は薄膜であって、光学機能材料膜(例えば、ハードコート、反射防止膜、位相差膜、塗布型位相差膜、配向膜、水平配向膜、垂直配向膜)、絶縁膜又はレジストとして用いられる。なお、形成する塗膜は、光学機能材料膜、絶縁膜、レジストに限るものではない。
【0018】
2.塗布対象物
塗布対象物1は、平板状のガラス板である。塗布対象物1の表面2が被塗装面であり、その表面2上に塗膜を成膜することになる。
塗膜の形成後は、この塗布対象物1を個片化してもよい。個片化したものは、例えば液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、有機ELディスプレイパネル等に用いられる。
塗膜を形成する範囲3は正方形又は長方形の領域であり、これらの領域がマトリクス状に配列されている。この塗布対象物1を個片化したものがディスプレイパネルとして用いられる場合、塗膜を形成する範囲3は表示領域となる。
なお、塗布対象物1が平板状のガラス板でなく、レンズ、プリズム等の光学部品であってもよい。また、塗布対象物1が窓ガラス、自動車用ガラス等のガラス製品であってもよい。塗布対象物1が光学部品やガラス製品である場合には、塗膜を形成する表面2が平面でなく、曲面であってもよい。
【0019】
3.準備するもの
塗布に際しては、マスク10及びスペーサ20を用いる。
マスク10は、格子板である。つまり、マスク10には複数の開口11が形成されており、これら開口11が格子状に配列されている。スペーサ20も格子板であり、複数の開口21がスペーサ20に形成されている。マスク10及びスペーサ20は、例えばガラスからなる。
開口11,21の形状は、正方形又は長方形である。開口11の面積は、塗膜を形成する範囲3の面積よりも小さい。開口21の面積は、塗膜を形成する範囲3の面積よりも大きい。なお、開口11,21の形状は、他の形状(例えば、多角形、円形、楕円形)であってもよい。また、開口11,21の数は1つであってもよいし、複数であってもよい。
なお、塗布対象物1の表面2が曲面である場合、マスク10及びスペーサ20がその表面2の曲面形状に沿って湾曲していることが好ましい。
【0020】
4.塗布装置
塗料99の塗布は、スプレーコーターによって行う。スプレーコーターは、スプレーノズル51及びステージ52等を有する。スプレーノズル51は、ステージ52の上方に配置されている。スプレーノズル51は、下方のステージ52に向けて塗料99を噴霧する。スプレーノズル51は、移動装置によって、ステージ52の上面53に対して平行な面に沿って移動させられる。なお、ステージ52が、上面53に沿って平行移動するXY移動ステージであってもよい。
【0021】
5.塗料
スプレーノズル51によって噴霧される塗料99は、粘性の低い溶液である。塗料99の粘度は、60〜150cpsであることが好ましい。
塗料99の溶媒は、極性溶媒である。例えば、成膜する塗膜が配向膜である場合には、塗料99の溶質がポリアミック酸であり、塗料99の溶媒がN-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン若しくはジプロピレングリコールモノメチルエーテル又はこれらのうち2種以上の混合物である。また、例えば、成膜する塗膜が絶縁膜である場合には、塗料99の溶質がポリチタノシロキサンであり、塗料99の溶媒がヘキシレングリコール若しくはプロピレングリコールモノブチルエーテル又はこれらの混合物である。
【0022】
6.手順
まず、塗布対象物1を水洗することによって、塗布対象物1の表面2を親水性にする。
次に、塗布対象物1をステージ52の上面53に載置して、塗布対象物1の表面2を上方のスプレーノズル51に向ける。
【0023】
次に、マスク10を塗布対象物1の表面2から上方に離した状態で、マスク10を塗布対象物1の表面2に対向配置させる。具体的には、塗布対象物1の表面2上にスペーサ20を載置し、スペーサ20上にマスク10を載置する。このようにすると、スペーサ20の厚みによってマスク10が塗布対象物1の表面2から離れた状態になる。スペーサ20及びマスク10を塗布対象物1の上に載置するだけであるから、マスク10及びスペーサ20のセッティングが容易である。
マスク10及びスペーサ20を塗布対象物1にセッティングする際には、これらの位置合わせを行う。具体的には、マスク10の開口11をスペーサ20の開口21に重ね合わせて、上から平面視して開口11を開口21の内側に配置し、マスク10の内縁(開口11の縁)をスペーサ20の内縁(開口21の縁)から内側にはみ出させる。更に、塗膜を形成する範囲3の内側に開口11を配置し、塗膜を形成する範囲3を開口21の内側に配置する。
マスク10の内縁(開口11の縁)がスペーサ20の内縁(開口21の縁)からはみ出た長さをfとし、スペーサ20の厚さ(塗布対象物1の表面2からマスク10までの距離)をtとすると、f/t≧2.0にする。
なお、スペーサ20と塗布対象物1の表面2との間に両面粘着シート又は粘着材を挟んで、スペーサ20を塗布対象物1の表面2に貼着してもよい。同様に、スペーサ20とマスク10を両面粘着シート又は粘着材によって貼着してもよい。また、スペーサ20とマスク10が別体であるが、これらが一体形成されていてもよい。
【0024】
次に、スプレーノズル51によって塗料99を霧状に塗布対象物1の表面2に吹き付けながら、塗布対象物1の表面2に対して平行な面に沿ってスプレーノズル51を移動させる。この際、スプレーノズル51によって塗料99を吹き付ける向きを塗布対象物1の表面2に対して垂直にする。そのため、スプレーノズル51から吹き出た塗料99の粘度が低くても、その塗料99がマスク10と塗布対象物1の表面2との間の奥(開口21の縁)まで進入しない。そのため、塗膜の縁部分が盛り上がった状態にならない。
【0025】
図3は、塗料99の噴霧によって塗膜98が形成される過程を(a)から(d)の順に示したものである。塗料99の噴霧を継続すると、開口11の内側では塗料99が塗布対象物1の表面2に堆積して乾燥し、塗膜98が成長する。また、塗料99の粘度が低いから、塗布対象物1の表面2に付着した塗料99が噴霧の圧力によって舞い上がる。開口11の周辺部分12が塗布対象物1の表面2から離れているから、舞い上がった塗料99が開口11の周辺部分12の下に回り込む。そのため、開口11の周辺部分12の下でも塗料が塗布対象物1の表面2上に堆積して乾燥し、塗膜98が開口11よりも拡がって成長する。
成膜された塗膜98の縁近傍の厚さは、縁に寄るにつれて徐々に薄くなっている。これは、開口11の周辺部分12が塗布対象物1の表面2から離れているためである。
ここで、上述のようにf/t≧2.0にすると、塗布した塗料99がスペーサ20の内縁(開口21の縁)に接触せず、塗膜98がスペーサ20の内縁から離れて形成される。そのため、塗布した塗料99がスペーサ20と塗布対象物1の表面2との間の僅かな隙間に毛細管現象により浸入することを防止することができる。
【0026】
塗料99の噴霧が終了したら、マスク10及びスペーサ20を塗布対象物1から外す。マスク10の上に堆積した塗料99と塗膜98が途切れているから、マスク10を外す際に塗膜98が塗布対象物1から剥がれない。
マスク10及びスペーサ20を外すと、残留した塗膜98が、塗布対象物1の表面2上で格子状に配列されている。
必要に応じて、塗布対象物1を塗膜98の外側で塗膜98の外縁に沿って切断し、塗布対象物1を塗膜98ごとに個片化する。塗膜98が形成されていない部分で塗布対象物1を切断するので、切断時に塗膜98の剥離が発生しない。
【0027】
本発明の実施形態によれば、開口11の周辺部分12が塗布対象物1の表面2から離れているので、塗膜98はマスク10の上に堆積した塗料99から途切れて形成される。そのため、マスク10を塗布対象物1から外しても、塗膜98の縁部分にバリが発生しない。従って、塗膜98の縁部分が盛り上がった状態にならず、塗膜98の膜厚を均一にすることができる。
また、特殊なマスキングテープを用いていないので、コストアップを招かない。
【0028】
なお、上記の実施形態では、スペーサ20をマスク10と塗布対象物1との間に挟んだが、スペーサ20を用いなくてもよい。例えば、マスク10の周縁部を保持具などで保持して、マスク10を塗布対象物1の表面2から上方に離した状態としてもよい。
また、形成した塗膜98の上に更に別の塗膜を形成する場合にも、上述のようにマスク10及びスペーサ20を用いて塗料の噴霧を行ってもよい。
【0029】
〔第2の実施の形態〕
図4、図5を参照して、塗膜の形成方法について説明する。図4は平面図であり、図5はV−V断面図である。
【0030】
第1実施形態に係る方法では、マスク10及びスペーサ20を用いたのに対し、第2実施形態に係る方法では、マスク10及びスペーサ20に加えて片面粘着テープ30を用いる。
【0031】
片面粘着テープ30は、シート状の基材(例えば、ポリイミドフィルム)の一方の面に粘着材(例えば、シリコーン系粘着材)が形成されたマスキングテープである。片面粘着テープ30には複数の開口31が形成されており、これら開口31が格子状に配列されている。開口31の形状は、正方形又は長方形である。開口31の面積は、マスク10の開口11の面積よりも大きく、スペーサ20の開口21の面積よりも小さい。更に、開口31の面積は、塗膜を形成する範囲3の面積よりも大きい。
【0032】
片面粘着テープ30、スペーサ20及びマスク10のセッティングは、以下のように行う。まず、塗膜を形成する範囲3を片面粘着テープ30の開口31の内側に配置して、片面粘着テープ30の粘着面を塗布対象物1の表面2に貼着する。片面粘着テープ30の開口31の縁は、塗膜を形成する範囲3よりも0.5〜2mm程度外側に離すことが好ましい。次に、片面粘着テープ30上にスペーサ20を載置して、スペーサ20の開口21を片面粘着テープ30の開口31に重ね合わせ、開口21の内側に開口31を配置する。次に、マスク10をスペーサ20上に載置して、マスク10の開口11をスペーサ20及び片面粘着テープ30の開口21,31に重ね合わせ、開口31の内側に開口11を配置する。このようにすると、マスク10は、片面粘着テープ30及びスペーサ20の厚みによって塗布対象物1の表面2から離れた状態になる。また、マスク10の内縁(開口11の縁)は、スペーサ20の内縁(開口21の縁)及び片面粘着テープ30の内縁(開口31の縁)から内側にはみ出た状態になる。
【0033】
ここで、マスク10の内縁(開口11の縁)がスペーサ20の内縁(開口21の縁)からはみ出た長さをdとし、片面粘着テープ30の内縁(開口31の縁)がスペーサ20の内縁(開口21の縁)からはみ出た長さをeとし、スペーサ20及び片面粘着テープ30の総厚(塗布対象物1の表面2からマスク10までの距離)をTとすると、(d−e)/T≧2.0にする。また、長さdは、4〜6mmであることが好ましい。長さeは、0.5〜1.5mmであることが好ましい。
【0034】
片面粘着テープ30、スペーサ20及びマスク10のセッティング後は、スプレーノズル51によって、塗布対象物1の表面2と垂直な向きに塗料99を塗布対象物1の表面2に噴霧しながら、スプレーノズル51を移動させる。これにより、塗料99が塗布対象物1の表面2に堆積して、塗膜が形成される。
片面粘着テープ30が塗布対象物1の表面2に貼り付けられているから、塗料99が片面粘着テープ30と塗布対象物1の表面2との間に浸入しない。そのため、塗膜は、片面粘着テープ30の開口31よりも広く形成されることはない。
【0035】
塗料99の噴霧が終了したら、マスク10及びスペーサ20を除去するとともに、片面粘着テープ30を塗布対象物1から剥離する。
その後、塗布対象物1を塗膜ごとに個片化する。その際、塗膜が形成されていない部分で塗布対象物1を切断するので、切断時に塗膜の剥離が発生しない。
【0036】
塗布対象物1の個片化について具体的に説明する。
塗膜の外側で塗膜の外縁に沿ったスクライブラインをダイヤモンドホイール等によって塗布対象物1の表面2に形成する。塗料99が片面粘着テープ30の開口31の外側に付着していないから、ダイヤモンドホイールによってスムーズにスクライビングをすることができ、スクライブラインの途切れの発生を防止することができる。
その後、スクライブラインに荷重をかけて、塗布対象物1をスクライブラインに沿って切断する。スクライブラインが途切れていないので、塗布対象物1を確実に切断することができる。
【0037】
第2の実施の形態によれば、形成した塗膜の縁部分が盛り上がった状態にならず、塗膜の膜厚を均一にすることができる。
【実施例1】
【0038】
(1)
図1、図2に示すようにスペーサ20及びマスク10をセッティングし、スペーサ20の厚さtを1.4mmとし、マスク10の内縁がスペーサ20の内縁からはみ出た長さfを2.5mmとした。f/tは約1.79である。その後、スプレーノズル51によって塗料を噴霧して、塗膜を形成した。この際、塗布した塗料がスペーサ20の内縁(開口21の縁)に接触したことを観察により確認した。
【0039】
(2)
図1、図2に示すように、スペーサ20の厚さtを1.4mmとし、マスク10の内縁がスペーサ20の内縁からはみ出た長さtを3.0mmとした。f/tは約2.14である。そして、スプレーノズル51によって塗料を噴霧して、塗膜を形成した。この際、塗布した塗料がスペーサ20の内縁(開口21の縁)に接触しなかったことを観察により確認した。
【0040】
(3)
図1、図2に示すように、スペーサ20の厚さtを1.4mmとし、マスク10の内縁がスペーサ20の内縁からはみ出た長さtを8.0mmとした。f/tは約5.71である。そして、スプレーノズル51によって塗料99を噴霧して、塗膜を形成した。この際、塗布した塗料99がスペーサ20の内縁(開口21の縁)に接触しなかったことを観察により確認した。
また、塗膜の膜厚を測定し、その結果を図6に示す。図6中、縦軸が塗膜の厚さを表し、横軸が位置を表す。図6に示すA部が塗膜の縁である。また、塗膜の縁の僅かに外側の部分Bに、堆積した塗料による突起が形成されていることがわかる。
この突起の高さは、図6中のA部よりも右側の光学材料機能膜に必要な膜厚(約4μm)よりも低く、約3μmである。そのため、塗布対象物を製品として仕上げた場合、突起が大きな問題とはならない。
【0041】
(4)
図4、図5に示す片面粘着テープ30としてアズワン製ポリイミドテープ(厚さ:0.055mm、基材:ポリイミドフィルム、粘着材:シリコーン系)を用いた。スペーサ20は、厚さ1.4mmのガラス板を用い、マスク10は、厚さ0.7mmのガラス板を用いた。図4、図5に示すように片面粘着テープ30、スペーサ20及びマスク10をセッティングした。片面粘着テープ30の開口31の縁は、塗膜を形成する範囲3よりも約1mmだけ外側に離した。また、マスク10の開口11の縁がスペーサ20の開口21の縁からはみ出た長さdを約5mmとし、片面粘着テープ30の開口31の縁がスペーサ20の開口21の縁からはみ出た長さeを約1mmとした。(d−e)/Tは約2.75である。
その後、スプレーノズル51によって塗料99(ここでは、粘度60〜150cpsの光学機能材料)を1.6mLだけ噴霧し、塗膜を形成した。そして、塗膜の膜厚を測定し、その結果を図7に示す。図7中、縦軸が塗膜の厚さを表し、横軸が位置を表す。
図7に示すように、成膜された塗膜の縁近傍(D部とE部との間)の厚さは、縁に寄るにつれて徐々に薄くなっている。
塗膜の縁(D部)よりも外側(C部とD部との間)には、ごく微量の塗料99が堆積して、約0.2μmの薄膜が形成されていることがわかる。これは、噴霧の圧力によって舞い上がった塗料99がマスク10の下に回り込んだものである。
また、C部よりも外側の部分には、塗料99が付着していないことがわかる。これは、片面粘着テープ30が塗布対象物1の表面2に貼り付けられていたためである。C部とD部との間の薄膜が非常に薄いので、片面粘着テープ30を剥離しても、片面粘着テープ30の開口31の縁近傍にバリが形成されない。
また、C部の外側の部分には、図6のB部に示すような突起が形成されていないことがわかる。そのため、C部に沿ってダイヤモンドホイールによってスクライブラインを形成しても、ダイヤモンドホイールが突起によって跳ね上がってしまうことを防止することができる。ゆえに、形成したスクライブラインが途切れず、塗布対象物1をスクライブラインに沿って容易に切断することができる。C部に沿って塗布対象物1を切断した場合、C部とD部との間の部分は、個片化した塗布対象物(基板)1を保持するための額縁部分となる。
また、C部とD部との間にスクライブラインを形成してもよい。C部とD部との間に形成された膜が非常に薄いから、その膜のみならず塗布対象物1にもスクライブラインを形成することができる。このように、限度いっぱいの位置(D部)にスクライブラインを形成することができる。そのため、ほぼ均一な厚さの塗膜の部分のみを残して分断することができる。これは、ディスプレイパネルの表示領域を囲む額縁領域を狭小化するのに貢献する。
【符号の説明】
【0042】
1 塗布対象物
2 表面
10 マスク
11 開口
20 スペーサ
21 開口
30 片面粘着テープ
31 開口
98 塗膜
99 塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縁を有するマスクを塗布対象物の表面から離して前記マスクを前記塗布対象物の表面に対向させた状態で、
溶媒が極性溶媒である塗料を、前記塗布対象物の表面に対して垂直な向きに前記塗布対象物の表面に噴霧して、その塗料を前記塗布対象物の表面に吹き付けることを特徴とする塗膜の形成方法。
【請求項2】
縁を有する粘着テープを前記塗布対象物の表面に貼り付けて、縁を有するスペーサを前記マスクと前記粘着テープとの間に挟むとともに、前記粘着テープの縁を前記スペーサの縁からはみ出させ、且つ、前記マスクの縁を前記スペーサの縁及び前記粘着テープの縁からはみ出させた状態で、前記塗料の噴霧を行うことを特徴とする請求項1に記載の塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記マスクの縁が前記スペーサの縁からはみ出た長さと、前記粘着テープの縁が前記スペーサの縁からはみ出た長さとの差を、前記スペーサと前記粘着テープの総厚で除して得られた比が、2.0以上であることを特徴とする請求項2に記載の塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記マスクの縁が前記スペーサの縁からはみ出た長さが、4〜6mmであり、
前記粘着テープの縁が前記スペーサの縁からはみ出た長さが、0.5〜1.5mmであることを特徴とする請求項2又は3に記載の塗膜の形成方法。
【請求項5】
縁を有するスペーサを前記マスクと前記塗布対象物の表面との間に挟むとともに、前記マスクの縁を前記スペーサの縁からはみ出させた状態で、前記塗料の噴霧を行うことを特徴とする請求項1に記載の塗膜の形成方法。
【請求項6】
前記マスクの縁が前記スペーサの縁からはみ出た長さを前記スペーサの厚さで除して得られた比が、2.0以上であることを特徴とする請求項5に記載の塗膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−240300(P2011−240300A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116929(P2010−116929)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】