説明

塗膜の補修方法および補修塗料

【課題】無色透明塗装物の外観を損なうことなく補修が可能で、かつ混合液の着色により、主剤と硬化剤の混合忘れ防止、混合状態の可視化をを行うことが可能な塗料を提供する。
【解決手段】本発明では少なくとも、無色透明な塗膜を部分的に補修する方法であって、前記塗膜の破損部位に補修塗料を塗布する工程を含む方法を提供する。前記補修塗料はA液とB液とから構成される二液混合タイプのもので、A液およびB液の混合液と、A液との色差ΔEが1以上10以下であるようにB液に染料が含まれることを特徴とする。なお色差ΔEは、内側が縦31mm、横31mm、厚さが1.2mmの樹脂製容器に3mlの液剤を注入し、JIS K5600−4−4、JIS K5600−4−5、JIS K5600−4−6で規定される原理、測定、計算によって求められる値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無色透明塗膜の補修方法を対象にしている。
【背景技術】
【0002】
物品の最表面に、基材保護、機能性付与、意匠性付与等の目的をもって塗装仕上げを施すことは一般に良く用いられており、物品が最終形態の状態で塗装仕上げを行う場合と、物品が最終形態となる以前の部品としての状態で、塗装仕上げを施しておく場合がある。後者の場合、塗装仕上げ後に組み立て等、最終形態への工程を経るため、工程中に加わる外力等により物品の最表面に傷を付けることがあり、そのような傷等を補修する塗料が必要となる。具体的な例として、住宅外壁材へ用いられるサイディング材とその補修用塗料が挙げられる。
【0003】
補修用の塗料には、硬化形態や保管安定性の観点から一液型と二液型がある。二液型塗料は、一般に主剤と硬化剤等に分けられており、これらを混合することによって樹脂成分の硬化が開始したり、レベリング性が付与される等、設計された性能を発揮することが可能となる。
【0004】
従来の無色透明塗膜用の二液型の補修用塗料としては、二液ともに透明なものが用いられている(例えば特許文献1参照。)。しかしこの場合、二液とも透明なため、二液混合前と混合後で見た目の外観が変化せず、二液の混合を忘れたり、混合が不充分な状態で使用されるといった問題があった。
【0005】
また、二液の一方の液にカーボン等の着色剤を混入させた塗料(例えば、特許文献2参照)も開示されている。この場合、カーボンの強い着色力によって製膜後の塗膜に色が残ってしまい、基材模様や下地塗装の意匠を生かすために無色透明塗膜が施されている物品の補修には用いることができないという問題があった。
【0006】
さらに、透明な塗料に染料を添加して着色しておき、基材へ塗装直後は着色状態が残ることによって塗装忘れを防止し、塗膜形成後には消色することによって外観の維持も可能な塗料も開示されている(例えば特許文献3参照)。しかしこの場合も、色を消すためには光触媒活性が必要で、光触媒作用を持たない塗膜には適用できないといった問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2005−350892号公報
【特許文献2】特開2000−63741号公報
【特許文献3】特許第3598274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、無色透明塗膜を施した物品の外観を損なうことなく補修が可能で、かつ混合液の着色により、二液の混合忘れ防止、充分な混合状態の確認を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明では、基材表面に形成された無色透明な塗膜の破損した部分を補修するための補修塗料であって、前記補修塗料はA液と、染料を含んでなるB液とから構成される二液混合タイプのもので、A液およびB液の混合液と、A液との色差ΔEが1以上10以下であるようにB液に染料が含まれることを特徴とする補修塗料を提供する。また、本発明では、基材表面に形成された無色透明な塗膜の破損した部分に前記補修塗料を適用して当該部分を補修する方法を提供する。
なお前記色差ΔEは、内側が縦31mm、横31mm、厚さが1.2mmのの無色透明な容器に、A液およびB液の混合液、またはA液を3ml注入し、JIS K5600−4−4、JIS K5600−4−5、JIS K5600−4−6で規定される原理、測定、計算によって求められる値である。このようにして、二液の混合忘れ防止、充分な混合状態の確認を行うことを可能とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、無色透明塗膜を施した物品の外観を損なうことなく補修が可能で、かつ混合液の着色により、二液の混合忘れ防止、充分な混合状態の確認を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
〔基材〕
本発明において、基材とは建築物の外壁材であり、例えば、鉄筋コンクリート、PC、GRC、押し出し成形セメント板、ALC、コンクリートブロック、窯業系サイディング、金属系サイディング、亜鉛メッキ板、鉄板、ステンレス板、アルミ板などが挙げられる。
本発明の補修塗料は、基材表面の塗装構造において、最表層に無色透明な塗膜を具えたものに適用する。
塗装構造は、単独または複数層の塗膜層で構成される。塗膜層を形成する塗料には、無機塗料および有機塗料があり、何れも使用できる。一液型および二液型の塗料があり、何れも使用できる。
塗装構造の最内層には、通常、外装下地材などの外壁面を構成する材料に強固に接合したり、外壁面に有する微細な凹凸を埋めて表面を平滑にしたりするためのシーラー塗膜層が設けられる。塗装構造の外観意匠性を高める着色塗膜層も設けられる。シーラー塗膜層と着色塗膜層を、一つの塗膜層で兼用することもできる。シーラー塗膜層や着色塗膜層は、それぞれの機能を果たすのに適した各種の塗料を塗工することによって形成できる。無機塗料および有機塗料の何れもが使用できるが、通常は、着色性や意匠性に優れた有機塗料が用いられる。より具体的には、アクリル系有機塗料やアクリルウレタン系有機塗料、ウレタン系有機塗料、アクリルシリコン系塗料などが挙げられる。
【0012】
〔塗膜〕
前記塗装構造の最外層に、無色透明な塗膜の層が形成される。この最外層は、防水性あるいは耐水性に優れ、透明性や耐候性、耐汚染性、機械的強度にも優れている。該層を形成するための塗料としては、通常の建築用途あるいは外壁塗装用途に使用されている塗料と同様の材料や配合からなるものが使用できる。例えば、アクリル塗料、ウレタン塗料、アクリルシリコン塗料、フッ素塗料、金属アルコキシド系無機塗料、無機・有機ハイブリッド系塗料、光触媒含有塗料などが挙げられる。
【0013】
〔部分補修〕
本発明において部分補修とは、塗装面全体、例えば住宅外壁の一面全部を塗り替えるような補修とは異なり、塗装面に発生した最大で直径1cm程度の傷を、又は、特に範囲を限定するものではないが、10cm程度の長さの引っかき跡のような傷を修復する行為を指す。例えば、塗装仕上げを施したサイディング材等の外装材を組み立てる工程で発生した傷を修復する行為を指す。
【0014】
〔補修塗料〕
本発明の補修塗料は、形成される塗膜が透明であり、第一液と第二液のように使用前には二液に分かれているものを指す。第一液と第二液の関係は、適宜選択可能で、例えば、主剤と硬化剤、主剤とレベリング剤等の添加剤といった形態がある。
【0015】
〔着色の制限〕
第一液、第二液が共に無色透明もしくは不透明な塗料の場合、どちらを染料にて着色してもよい。しかし、第一液が不透明で第二液が透明のように一方が透明で他方が不透明な塗料の場合は、透明な方を着色しなければならない。不透明な方を着色し、透明な方が透明なままであると、混合前と混合後で色差の変化が見られないからである。なお本発明においては、染料により着色したほうをB液とし、他方の染料を添加しないほうをA液とする。
【0016】
〔構成成分〕
主剤に用いる成分としては、特に限定はなく、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、などから選択される被膜形成成分が挙げられる。主剤の形態は溶液であってもエマルジョンであってもよい。
【0017】
添加剤としては、例えば、界面活性剤、顔料分散剤、親水性付与剤、撥水性付与剤、沈降防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、活性酸素補足剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、粘性調整剤、艶調整剤、レベリング剤、消泡剤、造膜助剤が挙げられる。
【0018】
溶媒または分散媒に特に限定はなく、適宜、溶剤、水を用いることができる。
【0019】
硬化剤に用いる成分は、主剤の樹脂成分に応じて適宜選択可能で、例えば、アミン、有機スズ、シラン化合物、イソシアネートを用いることができる。
【0020】
本発明において、染料とは、繊維その他の素材に親和力を有し、水その他の媒体から吸収されて染着する能力を有するものである。
【0021】
〔染料〕
この発明の部分補修用塗料に用いる染料としては、例えば、ニトロソ染料、ニトロ染料、アゾ染料、スチルベン染料、ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、トリアリールメタン染料、ザンセン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン染料、ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン染料、インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン染料、オキシケトン染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0022】
染料の添加量は、二液混合時に混合前との色の差が目視で明確であり、かつ、塗装後の塗膜が目視で着色していないと認識される程度の量に調整する必要がある。具体的には、A液およびB液の混合液と、A液との色差ΔEが1以上10以下、好ましくは1.5<ΔE<6であるようにB液に添加する染料の量を調整する。その際の染料の濃度は、染料の種類にもよるが、30〜2000ppmの範囲である。ΔEが1未満の場合、混合忘れ防止効果が低くなり、ΔEが10を越える場合は、本発明の補修塗料を塗布した部位とそうでない部位とで色調の差異が目視で明瞭となるため、好ましくない。なお本発明の補修塗料を塗布した部位とそうでない部位との塗膜の色差:ΔE(f)の上限値は1.0である。塗膜の色差:ΔE(f)が1.0以下であれば、外観不良のない補修が可能である。
ここで、ΔE(f)は、塗装表面について、JIS K5600−4−4、JIS K5600−4−5、JIS K5600−4−6で規定される原理、測定、計算によって求められる値である。
【0023】
〔補修方法〕
本発明において補修方法とは、幅がおよそ10mm以下の筆や、フェルト、ガーゼ、スポンジのような、液体を吸収して保持できる材料などを用い、それらの材料にて塗料を塗布して行うもので、物品の組み立て現場、具体的には住宅の建築現場で行われる傷の補修方法である。塗布量は、おおよそ20〜80g/m2の範囲で、乾燥条件は常温乾燥(5〜35℃)である。
【実施例】
【0024】
以下に実施例をあげて、本発明をより具体的に説明する。
【0025】
本実施例の塗料は、乳白色の主剤(A液)と着色された硬化剤(B液)から構成されており、二液を混合することによって主剤の色が乳白色から着色された状態となり、主剤と硬化剤の混合液が、混合前か混合後か、混合が充分であるかを容易に判断可能である。
【0026】
このような塗料は、染料の添加量を制御することにより、基材上へ塗布した後も目視で透明な被膜を形成し、下地基材等の意匠性を維持する作用を発揮する。
【0027】
次いで、塗料の好ましい製造方法について、実験結果をもとに説明する。
【0028】
〔A液材料〕
・シリコーン変性アクリル樹脂エマルジョン(固形分濃度40質量%、ポリシロキサン含有量30質量%(対固形分):大日本インキ化学工業製)
・造膜助剤
・劣化防止剤
・粘性調整材
・表面改質剤
・防藻剤
〔B液材料〕
・エポキシシラン
・モノアゾ含金属系染料(オリエント化学、VALIFAST RED3306)
・フタロシアニン系染料(オリエント化学、VALIFAST BLUE 2606)
・アンスラキノン系染料1(日本化薬、Kayaset Blue N)
・アンスラキノン系染料2(日本化薬、Kayaset Blue 714)
【0029】
〔塗料の調製〕
表1に示す配合にしたがってA液とB液を調製した。
【0030】
【表1】

【0031】
〔塗布条件〕
塗料の塗布条件を以下に示す。
基材:表面に意匠層と透明塗膜が施された住宅用サイディング材(50mm×50mm×16mm)。なお透明塗膜は、染料を添加しない以外は実施例1と同じ組成の塗料を塗布後、室温1週間乾燥することにより形成した。
塗料:A液にB液を添加し、十分に攪拌、混合した。
筆:名神製筆(毛丈5mm、毛幅5mm)
塗布方法:1回塗り
乾燥条件:常温(23℃)乾燥24時間
【0032】
〔評価方法〕
評価は混合液目視判定、塗膜目視判定、混合液色差測定、塗膜色差測定にて行った。
【0033】
〔混合液目視判定〕
本発明の混合液の目視判定は、JIS K5600−4−3で規定される色の目視比較による条件にて観察を行い、混合後の液の着色状態について判定を行った。
○:B液添加前のA液と比較して、着色が識別できる
×:B液添加前のA液と比較して、着色が不明瞭である
【0034】
〔塗膜目視判定〕
本発明の塗膜の目視判定は、JIS K5600−4−3で規定される色の目視比較による条件にて観察を行い、塗膜の着色状態について判定を行った。対照は基材を用いた。
○:着色を識別できない
×:着色を識別できる
【0035】
〔混合液色差〕
本発明の混合液色差の測定には、日本電色(株)製の色差計ND−300Aを用いた。測定は、和歌山CIC研究所製クリーンパッククラス100(0.5μm)容器(内側が縦31mm、横31mm、厚さが1.2mmの無色透明な樹脂製容器)に、試料を3ml計り取り測定位置に設置した後、零点補正用カバーをかけて行った。A液と、A液とB液との混合液との色差ΔE(l)は、JIS K5600−4−4、JIS K5600−4−5、JIS K5600−4−6で規定される原理、測定、計算によって測定し、得られた値L*、a*、b*から算出した。
【0036】
〔塗膜色差〕
本発明の塗膜色差の測定には、日本電色(株)製の色差計NR−3000を用いた。色差ΔE(f)は、上記基材に各混合液を塗布した試験板と、対照として上記基材とをそれぞれ、JIS K5600−4−4、JIS K5600−4−5、JIS K5600−4−6で規定される原理、測定、計算によって測定し、得られた値L*、a*、b*から算出した。
結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
実施例1〜4においては、上記色差ΔE(l)を1以上10以下となるように、染料を配合しているため、混合液の目視判定、塗膜の目視判定および塗膜の色差ともに良好な結果が得られた。一方、比較例1および比較例3は混合液色差が大きいため、塗膜が基材と比較して着色していることが目視で識別できた。また、比較例2は、混合液の色差が小さく、目視では、主剤と硬化剤との混合液と混合前の主剤との区別がつかなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に形成された無色透明な塗膜の破損した部分に補修塗料を適用して当該部分を補修する方法であって、
前記補修塗料は、A液とB液とから構成される二液混合タイプであって、B液は染料を少なくとも含んでなり、A液およびB液の混合液とA液との色差ΔEが1以上10以下であるようにB液に染料が含まれることを特徴とする、方法。
なお色差ΔEは、内側が縦31mm、横31mm、厚さが1.2mmの無色透明な容器に、A液およびB液の混合液、またはA液を3ml注入し、JIS K5600−4−4、JIS K5600−4−5、JIS K5600−4−6で規定される原理、測定、計算によって求められる値である。
【請求項2】
基材表面に形成された無色透明な塗膜の破損した部分を補修するための補修塗料であって、前記補修塗料は、A液とB液とから構成される二液混合タイプであって、B液は染料を少なくとも含んでなり、A液およびB液の混合液とA液との色差ΔEが1以上10以下であるように、B液に染料が含まれることを特徴とする補修塗料。
なお色差ΔEは、内側が縦31mm、横31mm、厚さが1.2mmの無色透明な樹脂製容器にA液およびB液の混合液、またはA液を3ml注入し、JIS K5600−4−4、JIS K5600−4−5、JIS K5600−4−6で規定される原理、測定、計算によって求められる値である。

【公開番号】特開2008−259951(P2008−259951A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103978(P2007−103978)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】