説明

塗装ブースの空調装置

【課題】 点検が容易な場所に設置した最少数の温度センサによる温度検出により、塗装ブースへの給排気の風量を制御して塗装ブースへの熱風の流入と冷気の流出とを防止することができる塗装ブースの空調装置を提供する。
【解決手段】 空気の給気を行う給気ファン5と排気を行う排気ファン6との給排気手段を備え、塗装用の乾燥炉3とセッティング室2を介して連通する塗装ブース1内の空調を行う空調装置において、塗装ブース1内の雰囲気温度を検出する塗装ブース温度センサ9とセッティング室2の雰囲気温度を検出するセッティング室温度センサ10とにより各々検出された温度の温度差に応じて給気ファン5による給気量を制御することで塗装ブース1への熱風の流入と冷気の流出とを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出された温度差に応じて塗装ブース内への給排気量を調節する塗装ブースの空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンベアシステムにより送られる被塗装物の塗装、例えば自動車ボディの中塗り・上塗り塗装においては、連続生産に好適でありかつ塗装の品質向上のため、塗装ブースと焼き付け乾燥を行う乾燥炉とがセッティング室を間に介し連通して設けられている。
【0003】
この塗装ブースには、塗装に適した湿度・温度に空調された清浄な空気を塗装ブースに供給するための給気ファンと、自動車ボディに付着しなかった余剰の塗料ミストを含んだ空気を排出するための排気ファンとが設けられており、これらの給排気のバランスをとることによって外部から侵入する粉塵等が塗膜に付着すること等を防止している。
【0004】
塗装ブースで塗装された自動車ボディはコンベアによりセッティング室へ送られ、塗膜から有機溶剤等を常温下で自然蒸発させることで、その塗膜が整えられる。そして塗膜の焼付け乾燥のためコンベアで乾燥炉へと送られる。
【0005】
焼付け乾燥炉の炉内では、例えば熱風発生装置から循環供給される120〜200℃の高温の熱風により自動車ボディ表面に形成された塗膜の焼付けを行っている。この高温下で行われる焼付けでは有機溶剤や硬化剤が多量に蒸発するため、これらの炉外への流出防止と、炉外からの冷えた空気の流入によって生じる乾燥不良とを防止すべく炉内の熱風を強制循環させている。
【0006】
しかしながら、コンベアによる連続生産のため塗装ブースは乾燥炉とセッティング室を間に介して連通しているため、例えばファンの機能変動やフィルタの目詰まり等による塗装ブースの給排気バランスの変化が生じ、乾燥炉の熱風がセッティング室を介して塗装ブースに流入して塗装品質不良を生じたり、また逆に塗装ブースの18〜20℃程度の低温空気が乾燥炉に流入して塗膜の焼付け不良を生じるおそれがある。
【0007】
これらの流入空気に対しては、例えば塗装ブースとセッティング室との間に風向確認用のテープを垂下させて看視し、手動により給排気量の調整が行われていたが、目視確認のばらつきが生じその実効が上がらず、さらに看視の煩わしさがあった。
【0008】
そのため、セッティング室の上方に可変速ファンにより強制排気する排気フードを設け、乾燥炉内の入口と出口における検出温度の温度差とセッティング室の検出温度とにより排気フードからの排気風量を制御し、塗装用乾燥炉からの熱風漏れ防止と塗装ブースからの低温空気の流出防止とを図っている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
【特許文献1】特開平9−150098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1によると、セッティング室側である乾燥炉の入口とその反対側である出口の温度差が一定値以内のときは排気フードの可変速ファンの風量を予め設定された標準風量に維持し、出口の検出温度が入口温度より一定値を超えて高くなったときは出口からの熱風漏れすなわち塗装ブースから乾燥炉入口への冷気流入であるとして可変速ファンの風量を増大させて流入防止をし、逆に低くなったときは乾燥炉入口からセッティング室側への熱風漏れとしてその風量を減少させて漏れを防止し、またセッティング室の検出温度が一定値以上のときは乾燥炉の入口出口の温度差にかかわらずセッティング室側への過大な熱風漏れを防止すべく可変速ファンの風量を増大させる等して、乾燥炉からの熱風漏れや塗装ブースからの冷気漏れ等を防止している。
【0011】
しかしながら、セッティング室に別途可変速ファンによる強制排気用フードを設け、しかも3台設置した温度センサの各検出温度によりそれぞれ可変速ファンによる風量を制御するなど複雑な制御、設定になっている。また温度センサを高温下の乾燥炉に設けることはその耐熱性が要求され、さらに日常の点検が容易でないという問題もある。
【0012】
従って、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、点検が容易な場所に設置した最少数の温度センサによる温度検出により、塗装ブースへの給排気の風量を制御して塗装ブースへの熱風の流入と冷気の流出とを防止することができる塗装ブースの空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する請求項1に記載の塗装ブースの空調装置の発明は、塗装ブース、セッティング室、乾燥炉が順に連通し、塗装ブースに対する空気の給気と排気とを行う給排気手段を備えた、塗装ブース内の空調を行う空調装置において、上記塗装ブース内の雰囲気温度を検出する第1の温度検出手段と、上記セッティング室の雰囲気温度を検出する第2の温度検出手段と、上記第1の温度検出手段と上記第2の温度検出手段とにより各々検出された温度の温度差に応じて上記給排気手段による給排気量を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1の塗装ブースの空調装置において、上記制御手段は、上記温度差が所定値を超える場合は上記給排気手段による給気量を増大させ、上記温度差が所定値以下の場合は上記給排気手段による給気量を減少させることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1の塗装ブースの空調装置において、上記制御手段は、上記温度差が所定値を超える場合は上記給排気手段による排気量を減少させ、上記温度差が所定値以下の場合は上記給排気手段による排気量を増大させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によると、第1の温度検出手段により検出された塗装ブース内の雰囲気温度と第2の温度検出手段により検出されたセッティング室の雰囲気温度とから求められる温度差に応じて塗装ブース内の給排気を制御し塗装ブース内の気圧を変動させることで、乾燥炉から塗装ブースへの熱風の流入や、逆に塗装ブースから乾燥炉への冷気の流出を防止することができる。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1の給気量の制御を具体的に限定するもので、温度差が所定値を超える場合、すなわち乾燥炉から塗装ブースへ漏れ出す熱風量が許容量以上のときは塗装ブースへの給気量を増加させ、塗装ブース内の気圧を高めて乾燥炉から塗装ブースへの熱風の流入を防止するものである。また温度差が所定値以下の場合は塗装ブース内への給気量を減少させて塗装ブース内の気圧を低くして低温空気の乾燥炉への流出を防止することができる。そしてこの制御を繰り返すことで給排気のバランスをとることができる。
【0018】
請求項3の発明は、乾燥炉から塗装ブースへ漏れ出す熱風量が許容量以上で温度差が所定値を超える場合には、塗装ブースからの排気量を減少させて塗装ブース内の気圧を高めて乾燥炉から塗装ブースへの熱風の流入が防止し、また温度差が所定値以下の場合は塗装ブース内からの排気量を増加させて塗装ブース内の気圧を低くして塗装ブースから乾燥炉への冷気流出が防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る塗装ブースの空調装置の実施の形態を図1を参照して説明する。
【0020】
塗装ブース1、セッティング室2及び乾燥炉である焼付け熱風炉3が順次と連通している。塗装ブース1は、コンベアで搬入された被塗装物である自動車ボディ4を塗装する空間であり、良好な塗装外観を得ると共に、良好な作業者の作業環境を確保するためにその内部空間を浄化をすべく清浄な空気の供給を行う給気ファン5と、排気を行う排気ファン6とが設けられている。これら給気ファン5と排気ファン6とにより給排気手段を構成している。外気より取り入れられた空気は空調室7で塗装に適した温度及び湿度の空気に調整されて所定の風量が給気ファン5により塗装ブース1内に供給される。塗装に際し自動車ボディ4に付着しなかった余剰の塗料ミストは塗料ブース1の下方に貯留された循環水上に落下する。一方、自動車ボディ4に付着しなかった塗料ミストを含んだ空気は、塗装ブース1内の浄化を図るため、図示しない排気洗浄室で塗料ミストと分離され、排気ファン6により屋外へ排出される。塗装ブース1内の循環水上に落下した塗料ミストは、循環水と共に塗装ブース1外へ排出している。
【0021】
塗装ブース1に連通して設けられているセッティング室2は、塗装ブース1で塗装された自動車ボディ4の塗膜を常温放置してその塗膜中の有機溶剤を適度に蒸発させるために設けられた空間である。常温での適度な蒸発を行うことで、その後の焼付け乾燥による急激な蒸発による気泡の発生を防止することができる。
【0022】
セッティング室2に連通して設けられている乾燥炉である焼付け熱風炉3は、塗装ブース1及びセッティング室2よりも高い位置に設けられており、全体として頂点が平らな山形に形成されている。このよう焼付け熱風炉3が高所となる山形に形成することで焼付け熱風炉3の炉内が乾燥に必要な高温空気で完全に満たされ、炉内の雰囲気の乾燥不十分で生じる塗膜性能の劣化や、塗膜はがれを防止すると共に焼付け熱風炉3における消費エネルギを抑制している。そして焼付け熱風炉3内では図示しない熱風発生装置によって生成された高温空気を循環させる循環ファン8が天井面に設置されている。
【0023】
塗装ブース1の天井部分には第1の温度検出手段である塗装ブース温度センサ9が、塗装ブース1に連通して続くセッティング室2の天井部分には第2の温度検出手段であるセッティング室温度センサ10とがそれぞれ設置されており、制御手段である制御装置11において塗装ブース温度センサ9、セッティング室温度センサ10で検出された各々の検出温度からその温度差が算出され、この温度差と予め定められた所定値との対比で給気ファン5の風量を制御する。
【0024】
ここで、塗装に適した温度の空気が供給される塗装ブースの雰囲気温度は、焼付け熱風炉3に隣接するセッティング室2の雰囲気温度より常に低温となっており、この焼付け熱風炉3よりセッティング室2の雰囲気温度より低温に維持される状態は焼付け熱風炉3からセッティング室2及び塗装ブース1側に熱風が漏れ出したときでも、あるいは塗装ブース1からセッティング室2及び焼き付け熱風炉3側に冷気が流入したときでも変わらない。変化するのは温度差、すなわち塗装ブース1内の雰囲気温度とセッティング室2内の雰囲気温度との差である。
【0025】
焼付け熱風炉3から熱風がセッティング室側に流出したときは、セッティング室2の雰囲気温度が先に上昇することから、塗装ブース温度センサ9、セッティング室温度センサ10により検出される温度差も拡大する。そして塗装品質を維持するための許容範囲を超える焼付け熱風炉3から塗装ブース1への熱風漏れを生じたときの温度差を予め求めておき、このときの温度差を所定値として検出により求めた温度差と比較することで許容範囲を超える熱風漏れを感知できる。そして算出された温度差が所定値を超えたとき、制御装置11により給気ファン5の給気量を増加するように制御する。給気ファン5により増加給気された空気が塗装ブース1内の気圧を上昇させるため漏れた熱風の塗装ブース1への流入を防止できる。この所定値及び給気の増減量は予め実験及びシミュレーション等により容易に確認及び設定できる。
【0026】
次に温度検出により算出された温度差が所定値以下であるときは、焼付け熱風炉3側から塗装ブース1への許容量を超える熱風漏れがない状態、すなわち許容範囲内の熱風漏れや逆に塗装ブース1から冷気が流出する状態である。この温度差が所定値以下であるときは、制御装置11により給気ファン5による給気量を減少させ塗装ブース1内の気圧を下げることで、塗装ブース1からの冷気流出は防止できる。なお、この許容範囲内の熱風漏れの場合に給気量を減少させると熱風漏れ量の増大を招くことになるが、この場合温度差が所定値を超えることとなり再度給気量を増加させる制御がなされるので許容範囲を超える熱風が塗装ブース1に流入することは防止できる。塗装ブース温度センサ9、セッティング室温度センサ10による温度検出とこれらの温度差の算出による給気量の制御を行う最適な時間間隔は、同じく予め実験及びシミュレーション等により容易に確認及び設定できる。
【0027】
すなわち塗装ブース温度センサ9及びセッティング室温度センサ10からの温度検出はタイマー機能の時限制御により所定間隔で行われ、検出された各々の温度から求められた温度差が所定値を超えるか否かに応じて給気ベーンを動作させるシーケンス処理を制御装置11で行い、塗装ブース1内への給気量を増減調整する。
【0028】
このように本実施形態によると、別途セッティング室2に排気装置を設けることなく塗装ブース1の給気ファン5を制御することで、しかも雰囲気温度が高温となることがなく作業者による点検が容易な塗装ブース1及びセッティング室2に僅か2個の温度センサを設けその温度差に応じて給気ファン5による給気量の増減を制御することで、塗装ブース1内への熱風の流入及び塗装ブース1からの冷気流出を防止することができる。
【0029】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、本実施形態は給気量の制御で塗装ブース1内の気圧を変動調整して熱風の流入や冷気の流出を防止したが、排気ファン6による排気量の制御でも同じく塗装ブース1内の気圧調整は可能であり、これにより同じく塗装ブース1内への熱風の流入及び冷気の流出を防止することができる。この場合、温度差が所定値を超える場合は排気ファン6による排気量を減少させ、温度差が所定値以下の場合は排気ファン6による排気量を増大させる。
また給気ファン5及び排気ファン6の双方を制御することで塗装ブース1内の気圧を変動させても同じく塗装ブース1内への熱風の流入及び冷気の流出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る塗装ブースの空調装置の実施の形態の概要を示す概念図である。
【符号の説明】
【0031】
1 塗装ブース
2 セッティング室
3 焼付け熱風炉(乾燥室)
5 給気ファン(給排気手段)
6 排気ファン(給排気手段)
9 塗装ブース温度センサ(第1の温度検出手段)
10 セッティング室温度センサ(第2の温度検出手段)
11 制御装置(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ブース、セッティング室、乾燥炉が順に連通し、塗装ブースに対する空気の給気と排気とを行う給排気手段を備えた、塗装ブース内の空調を行う空調装置において、
上記塗装ブース内の雰囲気温度を検出する第1の温度検出手段と、
上記セッティング室の雰囲気温度を検出する第2の温度検出手段と、
上記第1の温度検出手段と上記第2の温度検出手段とにより各々検出された温度の温度差に応じて上記給排気手段による給排気量を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする塗装ブースの空調装置。
【請求項2】
上記制御手段は、上記温度差が所定値を超える場合は上記給排気手段による給気量を増大させ、上記温度差が所定値以下の場合は上記給排気手段による給気量を減少させることを特徴とする請求項1記載の塗装用ブースの空調装置。
【請求項3】
上記制御手段は、上記温度差が所定値を超える場合は上記給排気手段による排気量を減少させ、上記温度差が所定値以下の場合は上記給排気手段による排気量を増大させることを特徴とする請求項1記載の塗装用ブースの空調装置。

【図1】
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